さぁ行こう。今すぐ行こう。
さぁ逝こう。今すぐ逝こう。
輪廻は巡る。因果は巡る。
断ち切れない巡り合わせの輪の中に飛び込もう。


君のチカラが必要になるのは今、この瞬間だ。





仮面ライダー武【Re:Changed】
                              終焉の鮪



Scene.3"Re:Cord"






『変身!!』
 大空に高らかに響き渡る声。
 金色の光を身に纏い、三人の闘士が戦場に姿を現した。
「…… 一つ聞いても良いかしら、武?」
「何だ?」
「これもどこが『変身』なワケ? 外見的変化は少ない訳だし、むしろこれは『装着』……」
「ふっ…… わかっとらんなぁつぐみ!! 外見的変化のみを『変身』と捉えるは具の骨頂!! 外見では内面、肉体的な変化ではなく精神的な変化を踏まえた上で俺はdなっちゃあぁぁぁっ!!?」
 突然の登場による緊張感が解けたのか。
 グダグダと下らない教鞭をたれる武に嫌気がさしたのか。
 それまで沈黙を保っていた【未確認生命体】がその豪腕を武に振るってきた。
 殺気を感じて素早く後ずさった武の前髪が、風圧でチリチリと焦げる。
「…… っと、危ねぇじゃねぇかコラァッ!! 人が正しいヒーローのあり方を説明している時に攻撃してくるなんて!!」
「…… あいつらは【人】じゃないわよ。それに…… あっちにとってはむしろ私達が『悪』なんですもの」
 春香菜はそういってバイザーにカードを滑らせる。
『【KNIFE】』
「だったら悪は悪らしく、全員一斉攻撃と洒落込もうじゃないの」
「同感」
「私も、正義を語るつもりは無いしね……」
『【SHOOT】』
『【FIST】』
「あ? ちょ、お前等……」
 春香菜がナイフを、涼権が銃を、つぐみが手甲を【装着】。
 何か言おうとする武を軽やかに無視して【未確認生命体】に飛びかかる。
「…… 俺の理想のヒーロー像が…… 浪漫を理解しない奴等め……」
 ぐちぐちと文句を垂れながら、武も後を追うようにカードをスラッシュした。


 目を開けると、目の前は青空だった。
「…… あ?」
 ゆっくりと体を起こす。体中に小さなゴミがついているが、気にせず立ち上がる。
 体調に異変は無いように思えた。周囲を軽く見回す。
 何の変哲も無い、ただの住宅街。
 その道のど真ん中でぶっ倒れてたようだ。理由は判らないが醜態を晒していた事に不愉快さがこみ上げてくる。
「ちっ……」
 ふと、手元に妙な感触。見てみればそれは【仕事】のブツをくるんだ布。
 ずっしりとした重みが妙に腹立たしい。
 その時。
 いつもなら決して思わない考えに思い立った。
「…………」
 布を解いて中身を露呈させる。
 無骨な鋼鉄が、陽光を反射して無駄に眩しい。
 自然と体が動き、成すべき事を成していく。
「…… ケッ」
 最後に一瞬我を示して、俺の意識は光に呑まれた。


『【SWORD】』
 光が収縮し、武の右手に一振りの両刃剣が顕現する。
そのまま袈裟斬りに振り下ろすが、その一撃は虚しく空を裂き、大地に突き刺さる。
「武っ!!」
 隙だらけの頭部へ一撃、強烈なカウンターを打ち込まれる寸前で涼権の弾丸がフォローに入った。
 テンプルに衝撃を受けた【未確認生命体】は派手に転がってから、何事も無かったかのように起き上がる。
「おいおい…… 全然堪えてるようには見えないんだが?」
「今のは殺傷目的じゃなかったからな…… 殺すなら、もっと数を打ち込むよ」
「…… それにしても大した再生能力ね。もう弾痕が薄れてるわ」
「くっちゃべってないのアンタたちは! この期を逃すと長引くわよ!!」
 一閃。
 白刃が柔肉を引き裂き、鮮血が迸る。
 それでも【未確認生命体】はひるまずに豪腕を繰り出してくる。
「…… 全く、消耗戦ね…… もっとテンポ良くいけないものなの?」
「無茶言わないで!! これでも効果はある方なんだからね!!」
「キュレイを殺すにはキュレイを用いるしかない。奴等に有効という事を逆にとれば、俺達にも奴等の攻撃は深手になるって事、さ!!」
 べらべらと喋りながら各々が一体ずつ相手をしている。
 そんな姿を後ろで眺めながら、武はある違和に捕らわれていた。


「…… 暑いな」
「目が覚めて第一声がそれとは、やはり先輩は面白い方ですね」
 のっそりと上体を引き起こす。全身に熱気を感じ、羽織っていたコートを脱ぎすてる。
「…… 一体、何の異常気象だ?」
「別に、異常ではありませんよ?こちらの季節が夏である・・・・・・・・・・・という事なだけですから」
「何を訳の分からない……」
「えぇ、今はそれで良いと思いますよ。今は、ね……」
 相も変わらず心の底が読めない奴だ、と心の中で毒づき、俺は手の中にあるモノに目をやる。
「ところであたら、これは一体何なんだ?」
「『ここは何処だ』ではなく、そっちが先ですか。つくづく良い意味で予想を裏切ってくれますね、先輩は」
「しらばっくれるな…… 聞きたい事なら限らず多くある。全部、吐いてもらうぞ」
「分かってますよ…… 僕も、知りうる限りの全てをお教えします」
 崇はふっ、と微笑んだ。
 底冷えするような冷たい微笑だった。


「おぉぉぉあっ!!!」
 涼権の強烈な回し蹴りが【未確認生命体】を派手に吹き飛ばす。
 然るべき場で鍛錬を積んだ涼権の一撃は、武のそれとは比較にはならない威力を秘めている。
 両者の間合いが離れた時を狙って、武は涼権に駆け寄った。
「涼権、幾つか聞きたい事があるんだが?」
「んな呑気な…… 後にしてくれ、武」
「大事な質問だ。もしかしたら…… この状況を打破できるかも知れない」
「…… 何だ?」
 前方に意識を集中させつつ、武に背を向け涼権が促す。
「まず第一。奴等にはキュレイが組み込まれてるんだよな? なら何でこの夏の日差しの下で平然としてやがんだ?」
「優曰く『それもキュレイの持ち得る可能性の力』なんだとさ。生物学すら超越しちまうとなると、理論でどうこう説明なんか出来ないんだと」
「それじゃ第二。俺達が使っているカードは奴等の細胞を使用してる訳だよな? なら元は奴等の力な訳だ。しかし、肉弾戦しか駆使してこないのは何故だ?」
「それはさっきも説明したはずだが…… 奴等は可能性の『種』を持っている。俺達は奴等のその『種』に手を加えて、望む能力をカードに得る」
「そうか…… なら、最後に唐突な質問だ」
 武は一呼吸おいて、もったいぶるような前振りを仕込んでから、
「どうして、一枚ずつしかカードをスラッシュしないんだ?」


「…… ここ、は?」
「さぁ?」
「さぁ? って、そんなにあっけらかんと言わないで下さいよぉ……」
「まぁまぁ、そんなに泣きそうな顔しないの優夏ちゃん。ここがどこがだなんて、少し歩けば分かる事。それに……」
 蒼いショートヘアを風になびかせながら、彼女は、
「少なくとも、ここが日本である事は確かね」
 ふふっ、と微笑んだ。
 太陽の日差しのように温かい微笑だった。


「…… 何だって?」
「スラッシュするカードの枚数。どうして複数枚同時に使用しないのかって」
「…… 適合の問題らしい。後は、良く分からない」
「分からないって…… ったっ!!」
 のんびりと会話を交わしているうちに復活してきた【未確認生命体】の蹴りが眼前を通り抜けていった。
 風を薙ぎ払う轟音が耳に響き、次の一瞬が無音になる。
「…………し!! ……ぐみの方へ!!」
 衰えた聴力でも何とか涼権の指示を聞いた武は前方一回転、続けざまに振るわれたフックを避けてつぐみの元へと駆け寄った。
 つぐみはつぐみで、相手と真っ向勝負の殴り合いを展開していた。
 両者のスピードはほぼ同一だが、知略を用いている分つぐみの方が優性であるように見える。
 手先の多さで襲い来る【未確認生命体】の攻撃の隙間を見つけ、カウンタージャブをこまめに打ち込む姿はボクサーのそれに類似している。
 割り込む必要も加勢も不要とみた武は、先程の言葉を反芻する。
「(『適合の問題』と言ってたな…… 適合? どういう……)」
 ふと、今自分が戦っている、戦える原因ともいうべき点に気づく。
「【ARMAMENTS】……」
 装着者の肉体を保護し、身体能力を驚異的に引き上げるカード。
 このカードには【未確認生命体】の肉片・細胞が使われているというのは聞き知らされた。
 ではそこに存在する【未確認生命体】は実質『何体』なのだろうか?
「…… 一体。個である存在」
 ゆえに何の問題もなくその力を発揮できる。個である以上、他を気にする必要性もないから。
 では、ここで問う。
『他を気にする事が出来るならば、複数との適合は可能なのか?』
 答えてくれる者は居ない。
 

 ならば導こう。
 

 己自身を。
 

 己の手で。


「…… 武っ!?」
 つぐみの声と【未確認生命体】が武に突貫してくるのはほぼ同時。


 しかしそれより早く、武の手は動いていた。


 ふっ、と視界が明るくなった。
 電柱に寄り掛かるような格好で眠ってしまっていたのか。
 まだ覚醒しきらない瞼を擦ろうとして、手に付着した赤い液体が目に入った。
「…… また、やっちゃったみたいね」
 こんな言い方は無いか。
 あくまでもやったのは自分自身なのだから。
 一人ごちてからとりあえずそれを洗い流そうと、運良く近くにあった公園の蛇口で手を洗おうと腰を上げて。
 ようやく太股にのしかかっていた重みと存在に気づく。
 鋼鉄製のベルトと、同じく鋼鉄製の良く分からないカードケースみたいなもの。
 それにも血の指痕がわずかに残っていたので持ち上げる。
 見た目ほど重くは感じなかった。


『【FLAME】』
 猛き怒りは煉獄の業火。
 災いを嘗め尽くす自然の鉄槌。
『【BURST】』
 空気の壁を打ち破る、暴虐にして非情なる超熱量。
 噴き出す力は、音速を超える韋駄天の脚。
『【KICK】』
 精神込めし一撃は、岩盤をも砕く魂の咆哮。
 ヒトの力にしてヒトならざる威力を与え得る昇滅の王。


『【BURNING CRASH】』
 その手綱纏めし勇気在る者へ送られる、無限にして絶対なる破壊の業。


「おぉぉぉぉおぉぉぉあぁっ!!!!!!」
まさに一瞬の出来事だった。
 迸る紅蓮が武の周囲を巡り、右脚に凝縮。
 打ち放たれた蹴りは【未確認生命体】の腹部に炸裂・鋭い爆裂音を周囲に響き渡らせた。
 絶叫は聞こえない。
 声帯を著しく損傷したのか、はたまた息絶えてしまったのか。
 ぐらりと、上体がかしいだ。
 そのまま支えも無く【未確認生命体】は地面に倒れ伏す。
「…… !! た、武!!」
 つぐみが何か言い終わる前に、武は【虚空の封印ブランクカード】をバイザーから引き抜き、投擲していた。
【未確認生命体】の胸部に音も無く突き刺さり、その体を光の粒子に変え、吸収していく。
 光が途絶え、カードはまるで意思を持つかのような動きで武の手元へ戻ってくる。
 陽光を受け【SPEAR】の文字が燦爛と煌いた。


「倉成ーっ、つぐみーっ!!」
 春香菜と涼権が駆け足で2人の元へとやってきた。
 所々かすり傷が伺えるが大事には至らないだろう。治療さえすれば明日には治っていそうというレベルの傷。
「…… 優、残りの2体は?」
「逃げられたわ。というか、逃げた、って感じね。さっきの倉成を見て」
 つぐみの問いかけにやれやれ、といった風に首を振る春香菜。
 戦いの緊張から解かれたからか、うっすらと笑みすら浮かんでいる。
「それにしても、さっきのは一体何だったんだ、たけ」
 

 涼権の言葉は続かない。
 

 先程まで。
 

 つい先程まで。
 

 猛き戦神の如き勢いを見せていた武が。
 



 力無く地面に倒れ伏すのを見てしまったから。




「武ーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
 声は青空に吸い込まれて、響く事は無かった。


 俺は誰だ?
 そんな簡単な問いにも、即答できない自分がいる。
 そもそも『自分』とは本当に『自分』なのだろうか?
 そしかしたら『自分』は『自分』が知っている『自分』では無いのかも知れない。


 …… 何馬鹿な事を考えている?
 しっかりしろ。お前はお前だろう?
 他の何者でも無いたった一人の『自分』だろう?
 迷うな。
 前を見ろ。
 現実を見据えろ。
 声を出せ。
 名前を。
 『自分』の名前を。
「俺は…………」




「優希堂、悟」
 目を開いた。




        さぁ行こう。今すぐ行こう。
        さぁ逝こう。今すぐ逝こう。
        世界は巡る。運命は巡る。
        断ち切れない悠久の時の輪の中に飛び込もう。




        君のチカラが必要になるのは、その次の瞬間だ。



 To be continued……



あとがき

終わりが見えません>挨拶


最近は自宅で書く事が半月に10分くらいのイキオイになってます(ぇ)
貴重な学校の休み時間つぎこんでやってますよ、ヒャッホゥ!!(アホ)
家にいるとどーしてもネットサーフとお絵描きに時間使っちゃうので(爆)
とりあえず来年始まる(であろう)新仮面ライダーが最終回を迎える頃には書き終わりたいです(ぇぇぇぇぇ)


ではでは!!

口ずさみソング『Rebith〜どんなに遠く離れていても〜(新谷良子)』


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