運命に抗うには。
運命に抗うには。
一体何を成すべきなのだろう?
一体何を成すべきなのだろう?
迷ったときにはこうしよう。




何もしない。
それが君を救う事だって、無いことでは無いのだから。





仮面ライダー武Re:changed
                              終焉の鮪



Scene4."Re:cover"






「お父さん!!」
「パパ!!」
『大丈夫!?』
 病室に無駄にシンクロ率の高い声が響き渡る。
 言うまでもなく沙羅とホクトである。
 武が倒れたあの後、つぐみから連絡を受けた2人は高校に事情を説明(父親が倒れたとしか聞かされなかったが)して抜け出してきたのだった。
「…… 沙羅、ホクト…………」
 そこに居たのはつぐみではなく春香菜であった。
 彼女は、2人を見るなりすっと視線を逸らした。
「田中先生……?」
 言葉は続かなかった。
 春香菜の視線の先に、ベッドで眠る武の姿を見つけたから。
「……っ!! 先生、お父さんは…… お父さんは!!?」
 ホクトの脳裏に、先程受けたつぐみの泣き出しそうな連絡の声がリフレインする。
「倉成…… 倉成、は…………」
 2人から顔を背け俯くその様に、一気に顔から血の気が引いてい
「別に何ともないわ」
『…… はぃ?』
「一時的な肉体疲労よ。目が覚めたらすぐにでも退院できるわ。というか、させる」
 アッサリと悲観的な思いを打ち砕いて下さった春香菜は、簡略にそう説明した。
「な、何だぁ……」
「あまり驚かさないで下さいよぉ……」
「つぐみにも問題はあったわね。思いっきり取り乱してて、ようやく落ち着かせたと思ったら貴方達に連絡してまた泣きそうになるし……」
「…… 心配だったのよ。悪い事じゃないでしょ?」
 病室の戸に寄りかかるようにしてつぐみが立っていた。数本のジュースを抱えて、ベッド脇の小さな机に落ち着かせる。
「まぁね。私もユウが似たような状況に陥ったら、こうも冷静じゃいられないかもしれないしね」
 苦笑してさらっとフォローを入れるあたり、人付き合いというか扱いというかが慣れているのは流石というべきか。
 とにもかくにもすっかり落ち着きを取り戻した沙羅とホクトは、まぁ順当であろう質問を繰り出してきた。
「ねぇ、そもそもどうしてお父さんは倒れたんですか?」
「さっき言わなかった? 疲労が過ぎたのよ。何か疑問でも?」
「大有りでゴザルな。ママの過ぎたる暴虐の嵐を受けてもなお即座に復帰するパパが、たかが仕事の疲労ごときで倒れるなんて……」
「何て言うか、ひどい言われようだけど…… 実際、そうなんだから仕方が無いでしょう?」
「むぅ……」
「沙羅、武だっていつも元気なわけじゃないのよ。時には栄養不足でしおれた花のようにショボい感じにだってなるわ」
「お母さんも随分エグいよね……」
「…… さて、それじゃ私は失礼するわね。倉成が目覚めたらすぐ退院できるように準備してこなくちゃ」
 誰にともなくそう言うと、春香菜は病室から出ていった。
「…… ふぅ。とにかく大事には至らなかったんだね?」
「超心配してたでゴザルよ〜」
 つぐみが買ってきてくれたジュースを一息に飲み干して、2人はため息混じりにそう呟いた。
 傍目にも良く分かる安堵しきった表情に、つぐみの頬も思わず緩む。
「ごめんなさいね、私が変に不安がらせたから……」
「それは無いよ。少なくともお母さんが連絡をくれなかったら、家で2人の帰りを寂しく待ってたかも知れないし」
「晩御飯は店屋物だったかもしれないでゴザルしなぁ〜」
「沙羅……」
「冗談でゴザルよ兄上〜、だからその蔑むような視線は止めてぇ〜」
 いつもの2人の様子を見ながら、つぐみも自身で買ってきたジュースに口をつける。
 温まっていたが甘くて美味しかった。


 程なくして目を覚ました武に抱き着こうとする双子を制しながら、つぐみは帰り支度を始める。
 ベルトが2本入った鞄が振動でガチャガチャとやかましい。
「? お母さん、一体何が入ってるの?」
「優から貰った食器類よ。貰えるものはしっかり頂いておかないとね」
 口から出任せが自然に毀れる事に複雑な気持ちを抱きながら、つぐみは鞄をしっかりと持ち直す。
 中身が昨今巷を賑わせている【未確認生命体】に対抗する平気だなんて万が一にも気づかれてはいけない。
 春香菜達に釘を刺されずともそんな事は分かっていた。
「(また『秘密』か…… LeMUの時よりは苦しくないものだけれどね)」
 隠し事は正直、好きではなかった。
 そんな事を考えているうちに、病院の出入り口が見えてきた。
 ガラス扉の向こう、涼権が車体に寄りかかっているの姿もまた。




 口座から金を引き落とす事が出来て、まずは一安心といった感じだった。
 カードが使えて自分の口座が存在するという事はつまり、ここは異国では無い。
 食い扶持があるなら生きるのに悩む必要は当分無い。
 それよりもっと問題にすべきなのは、
「コイツか……」
 下ろした金で買ったバッグに仕舞われた、今回の取引物。
 謎のベルト。
 厄介な内容だとは覚悟してきていたが、今回のは今までとは一線を画していている。


 意識的には金を下ろす、少し前。
 意識も体も、全て吸い寄せられるようにベルトを装着した後、
 再び意識を取り戻した時は愕然とした。
 自分の周囲に存在していた住宅街の壁や電柱に破滅的な傷痕が刻み付けられていた。
 そして己が四肢にかすかに残る心地よい痺れ。
『俺が…… やったのか?』
 サツに捕まると面倒なので逃げるようにその場を後にした。
 背後で瓦礫が崩れる音がしたが振り返らなかった。
 体が、やけに軽かった。


「とっととコイツを欲してるヤツに渡しちまうか……」
 ズボンのポケットから紙片を取り出し、右手だけで無造作に開いていく。
 聞いた事も無い住所と番地に続き、その名前が目に入る。
「…… トム・フェイブリン、か」


「…… どうなってるんですか!?」
「さぁ?」
「『さぁ?』じゃなくて! この状況は一体何なんですか!?」
「私に聞かれてもねぇ……」
 激しい口調とそれを受け止めるおっとりした口調。
 夕方の商店街に響くには十分すぎる音量が周囲の人々を振り向かせる。
「でも、お金は一応引き下ろせるみたいだし、今すぐにどうこうってわけじゃないようだから……」
「何で通帳を持ち歩いてるのかはこのさい言及しませんけど…… そうでなくてもこの状況は異常ですよ!!」
「まぁまぁ。きっと優夏ちゃんはお腹が空いてるから気が立ってるのよ。まずはお食事にしましょう♪」
「私は獣ですか……」
 喚き散らす様はそれと変わらない優夏をひきずって、いづみは近くの食事処に入っていく。
『鳩鳴軒』の暖簾が風になびいていた。


 風に揺れる銀髪はまさに、彼の美貌と相俟って振り向く女性は多かった。
 その彼の傍らにいる少年もまた美形ではあるが、どこか苛立ちを含む今の表情はあまりよろしくなかった。
「…… 何処へ向かっているんだ」
「当てはありませんよ。とりあえずゆっくり出来る場所を探してます」
「…………」
「知りたいんでしょう? 聞きたいのでしょう? 今のこの状況を。何がどうなっているのかを」
「当然だ」
「では行きましょう。そうですね…… あそこなんてどうです?」
「勝手にしろ」
 つれないですねぇ、と崇は苦笑交じりに受けると目に入った飲食店に入っていく。
『鳩鳴軒』の暖簾が風になびいていた。


「…… お腹空いたなぁ」
 ぶらぶらと歩き回っているうちに腹の虫が不機嫌になってきたようだ。
 少女は辺りに目を向けると、とある店に目標を定めた。
 所持金は、はっきりいって、
 多い。
 ここに来る前に記憶にある、彼から拝借したものだ・・・・・・・・・・
 今の空腹を満たすくらいなら、造作も無いだろう。
『鳩鳴軒』の暖簾をくぐって中に入った。


 意識を取り戻して、すぐに先程の惨状を思い出して吐いた。
 吐いた後、すぐに空腹感が襲い掛かってきたのは、何とも表現しがたい微妙な心境だった。
 懐を探り財布を探し当て中身を確認する。
 それなりに入っていた。これなら食事するに問題は無いだろう。
 ふと目に付いた料理店から漂う香りに誘われるように、勝手にその足が向かっていく。
『鳩鳴軒』の暖簾をくぐって中に入った。


 鳩鳴軒の中は時間帯が時間帯だからか、客の数自体はそう多くはなかった。
 銀髪の聡明そうな女性がお冷の入ったコップを持ってきて、注文を尋ねてくる。
『遥に似た声だな』と思いつつ、
「ええっと、涙の手打ち蕎麦と和風わっふぅ〜夢見る黒き旅人スープ、デザートに杏仁豆腐で」
「私は近接昇華調理法カルボナーラに脳内麻薬覚醒フルーツスープ、海鮮たっぷり手作りピザで食後にまったりとろとろチョコムースケーキに弾ける日本ブレイクオレンジシャーベットを」
 畏まりました、と女性は一礼して歩き去っていった。


「あそこの2人組、随分多く頼んでいらっしゃいましたねぇ」
「そんなのは関係無い。それより崇、俺の質問に答えろ」
「あ、すみません。オーダーお願いします」
 はい、と妙なアクセントで答えた少年が2人の座る席に駆け寄ってくる。
「何だか先輩に雰囲気が似てますね、彼」
「崇……」
「良いじゃないですか、少しゆっくりしましょうよ。落ち着かないといくら説明したって意味がありませんし」
 それに、と崇は小さく付け加えた。
「どうせもうすぐ、ゆっくり出来なくなるみたいですしね」
 その呟きはか細く、誰の耳にも届く事は無かった。


 暖簾を潜った途端に、良い匂いが鼻孔をついた。
 次いで蘇る空腹音。
 店員の誘導を待たずに勝手に席につく。
 少しあわてた様子でお水を持ってきてくれた店員さんにメニューを示し、
「ここから…… ここまで、全部」
 前から一度やってみたかった『メニューの名前を言わずに大量注文』を実行すると、少々面食らった顔をしながらも、次の瞬間には笑顔で畏まりました、と歩み去っていった。
 床にベルトを仕舞い込んだバッグを置く。さっき購入したばかりの新品で、有名なんだろうメーカーのロゴが縫いつけられていた。
 食事が来るまでさてどうしようかと、辺りをぐるっと見回した時だった。
「あ」
 見覚えのある後ろ姿を認めて、私は小走りに駆け寄った。


「悟〜!!」
 ふと、俺の名を呼ぶ声が聞こえて後ろを振り向く
「やっほ〜♪」
 抱きつかれて、目の前が暗くなり息苦しくなる。
 位置が、位置が……!!
「…… っはぁ! …… ど、どうしてお前がここにいるんだ?」
 何とか自力で脱出すると目の前の人物 ―― 涼蔭穂鳥に語りかける。
「それはこっちのセリフ。悟こそどうしたのよ。SPHIAにいるんじゃないの?」
「分からないんだ…… 気がついたら、ここにいた」
 まさか刺殺体を目の前にして気を失ったらここに来ていた、なんて言える筈がない。
 ましてやそれが自分の所行かもしれぬというのに ――
「私はねぇ…… また誰か殺しちゃったみたい」
「!!」
 よくもまぁ飲食店内でそんな発言ができるものだ、とやけに冷静な一角をもつ自分を覚える。
「でもさ、それは正当防衛だよ? 根拠はないけど」
「根拠がないのに正当防衛だなんて良く言えるな?」
「私はあそこで下手な事したくなかったんだもの。余計な恨み買いたくなかったし」
「それは」
 内海さんの事か、と言おうとして目の前に麺の丼が置かれた。
 眼鏡をかけた大人しそうな女性で、エプロンに『鳩鳴軒店長』の名札がしてあった。
 お客様、同じお席にご移動なさいますか? と聞かれた穂鳥ははい、とこれまた清々しくかえした。
 何の因果か状況も良く把握できぬまま、俺達は相席で食事をする羽目になった。


「うまっ!」
 と思わず声に出してしまった自分を恥じながら、川島優夏は蕎麦を啜る。
 しつこくない山車の味わいと弾力ある蕎麦の歯ごたえと風味が絶妙な味わいを醸しだし、箸が止まらない。
 あっという間に平らげて、額に浮かぶ汗をぬぐって飲み干す水が、また美味い。
 はふぅと息一つ吐いて気持ちを落ち着かせて隣のいづみさんを見やる。
 何やら真剣極まりない表情で味を吟味していた。
「成る程、生クリームにそういう仕掛けを…… フルーツスープも、多種のフルーツを使用していながらこの調和…… 酸味がききすぎてなくそれでいてすっきりとしたこの甘味は……」
 いづみさんは放っておいて、私はスープに口をつける。
 真っ黒な色をしているのにあっさりとした口当たりの醤油スープはこれまた美味しかった。


「美味しいですねぇ」
 味を感じてる余裕なんて無い。
 俺は注文したコーヒーを一息に流すと、目の前でのほほんとタコスをつまむ崇を見据えた。
「呑気な素振りしやがって…… 良いから、さっさと答えろ」
「その焦りが良くないんですよ。それじゃせっかくの説明も頭から否定されてしまう」
「こんな状況にいるんだ。否定なんかするかよ」
「これから殺し合いが始まる、と言ってもですか?」
 目が細まり、それに見つめられただけで神経が萎えていく。
 負けてはいけない。
 ここで煙に巻かれてはそれこそ意味が無い。
「…… 流石に、この状況でそんな事は起きないだろう」
 夕暮れの飲食店内には俺達以外に4人しか客がいない。
 そのうち3人は女性で、食事に舌鼓を打っている。
 残る1人の男性は、隣で美味そうに食事をする女性を怪訝そうな視線で見ていた。
 丁度崇に対する今の俺のように。
「分かりませんよ? 一瞬先の未来も、人には分からないものです」
「じゃあお前は人じゃないから分かるっていうのか?」
「あはは、冗談ですよ。ただ何となく言ってみただけです」
 ただ何となく言ってみた言葉に、あれだけ鋭い視線は加わるものなのだろうか?
 そして会話の重点をそらされている事に気づく。全く油断ならない。
「…… それで、だ。一体これは何なんだ?」
 鞄を卓の上に置き、中身を取り出す。
 先程まで着込んでいたコートにくるんでいるベルトを取り出そうとして
「桐丘先輩」
 手を掴まれた。
 笑みが消えた崇の表情は、男の俺でも何か惹かれるものがある。
「お話はします。ですが、それをここで出すのは止めて下さい」
「あ、あぁ……」
 言われるがままにコートごとベルトを仕舞いこむ。
 崇はその様子を油断無くじっと見詰めていた。


「はい悟、あ〜ん♪」
「…… 自分で食う」
「んもぅ、ノリが悪いなぁ。一口くらい良いじゃない?」
「他にも客がいるだろう。変な真似はよせ」
 鬱陶しさをアピールするように大仰そうに手を振り、自分の食事に手をつける。
 隣で食事を摂る穂鳥が気にかかってロクに味を感じられない。
 穂鳥は俺に構うのを止め、注文したカレービーフンを箸に巻きつけながら行儀悪く食べていた。
「もう少し綺麗に食事できないのか?」
「悟が拭ってくれるからいいの♪」
「言ってろ」
 一口放り込んだ炒飯はやはり、味を感じる事は無かった。


「あー…… 激しく心配だ」
「何が?」
 帰りの車中、すっかり体力を取り戻した武のぼやきをホクトが拾う。
「鳩鳴軒。つぐみ共々今日は店空けちまったからな……」
「それなら大丈夫。『外苑宮』が臨時の手伝いを寄越してくれたらしい」
「そか」
「あれ? 今日はお父さん仕事じゃなかったの? その途中で倒れたんじゃ……」
「今日は優の手伝いをしてもらってたんだ。サボりが祟ってさ、俺と空も合わせて5人がかりの大作業だったよ」
 さらりと涼権が嘘のフォローを入れる。
『繰り返すが、決して他言無用の世界に足を踏み入れているのを忘れちゃいけない』
 涼権の目はそう語っていた。
「そんなに気になるなら寄っていくか? 少しくらいなら構わないだろう」
「そんじゃ頼むわ。良いよな?」
 黙って首を縦に振る3人を認めて、涼権は強くアクセルを踏み込んだ。


 目の前には地獄が広がっていた。
 崩れ落ち、燃え上がる店舗。
 その前で呆然と立ち尽くす、3人の正従業員。
 その全身には所々裂傷と血痕が浮かんでいて。
「何が……」
 震える声を体を押さえて、武は尋ねる。
「何が、この店に起きたんだ……?」




運命に抗うには。
運命に抗うには。
一体何を成すべきなのだろう?
一体何を成すべきなのだろう?
迷ったときにはどうしよう。




何も出来ない。
それがセカイの真理だって、あり得ないことでは無いのだから。


 To be continued……





あとがき

ようやく神が降りてきました(1泊2日で)>挨拶

幕間、というわけじゃありませんが今回はエバセブキャラ影薄いですね(爆)
さらりとオリ要素も混ぜちゃって、今後どうするよ自分って感じは否めません(ぉぉぉ)
そして結局『奴』の名前を明かすことが今回も叶いませんでした(殴打)
というかこのままで作品に絡めるのか?(滅)
そこのところは今後、アドリブで何とかしていきます(昇華)


ではでは!!

口ずさみソング『Reason(玉置成実)』


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