隠し事の味は甘美たるものだ。 幼ければ幼いほど、その味の虜になりやすいという。 例えそれが、強烈な副作用を持つものだとしても。 |
仮面ライダー武Re:changed 終焉の鮪 |
燃え上がる店舗を前にして、俺は無力だった。 呆然と立ち尽くす従業員達の背中をしばし見つめていると不意に、全身に電流が走ったような感覚を受け、声を出す。 「……っ! ま、まずは消防隊を呼ばねぇと……」 「今連絡した。大至急、こちらに向かうそうだ」 PDAをしまいこみながら涼権が冷静に応えた。こういう時に冷静でいられる奴がいるってのは本当にありがたい。 再び視線を戻せば、つぐみが従業員に肩を貸しながらこちらへと歩み寄ってくる。 「怪我は?」 「炎上した時の影響でしょうね、真篠と笹広に軽い火傷と擦り傷があるわ。理宇佳は……自己修復範囲内みたいね」 「話は出来そうか? 救急隊が来るまでで良い、事情を聞こう」 大丈夫です、と鳩鳴軒店長・七瀬 真篠はうなずく。 落ち着ける位置に真篠を休ませ、俺達は応急処置を施しながら言葉を聞く―― 「大丈夫? 笹広」 「まぁ、それなりにな…… 見た目通りって感じか」 「十分に痛そうでゴザルが……」 つぐみに遅れる事数十歩後ろ、ホクトと沙羅が鳩鳴軒店員・塔野 笹広を両脇から支えながら歩く。 もう一人の従業員・阿師津 理宇佳は笹広が休めるスペースを作るべく先に向かっていった。 「流石に、レプリスの身体機能はこういう時に都合が良いでゴザルなぁ」 「クソ親父がキュレイと似てるて以前言ってたからなぁ……武さん達も、いざっちゅう時は頼りになるわ」 「笹広……」 「……スマンな、ホクト、沙羅ちゃん。オレのクソ親父の所為で色々と……」 「ササは悪くないよ。それに、あんな過去の事はもう忘却の彼方だしね」 「……ありがとぅ」 笹広の父親・塔野 将行はライプリヒ製薬会社・生物学研究組織課長 ― 即ち、キュレイその他に関する動物実験の監督者にして日本ライプリヒ支社を束ねる『五大頭目』の一人だった。 その事に関連してか、笹広も武達の体やホクト達の境遇も少なからず(春香菜から聞いた分の含めて)知っているのだ。 「せや、そういやさっき、こんなモン拾ったんや」 「え、何?」 火傷している右手をズボンのポケットに入れると、するっと取り出されたものは、 「カード?」 真篠の話を要約するとこういう事になる。 今から十分程前、ラッシュも引き臨時の手伝いも帰った後の営業中に、数組の客が入ってきた。 女性と男性が半々くらいで、顔はよく覚えていないらしい(無理もないが)。 注文の品を作り上げて、さぁデザートを作ろうかと思ったその時。 『いきなり化け物が店を襲撃してきたんです』 間違い無く【未確認生命体】だろう。俺と武とつぐみは視線でそう意思を疎通する。 そしてその後、その客の中の一人が。 『変なベルトを取り出してそれで…… その化け物を……』 心臓が跳ね上がった。 その時の戦闘でガスに引火したのが今回の事故の原因らしい。 その場にいた他の客の手助けもあり、真篠達は軽微な怪我で済んだとの事だ。 「それで、その連中は?」 「分かりません…… 化け物を倒した後、気づいたら誰も……」 「そうか……」 と、その時ようやく救急隊と消防隊が到着した。 少し離れた位置で話をしている沙羅達を呼び寄せ、真篠と笹広を救急車に運ぶ。 後はプロに任せた方が良いだろうと思い、理宇佳のみを付き添わせると、涼権の優への連絡を待ってから帰宅の途についた。 「ここか……」 記されていた場所は特に変哲の無い港の倉庫だった。 ありがちだが、だからこそかえって分かりやすい。 潮風に晒され半ば錆付いた扉を引き開けて中に入る。 窓が無く夕日も入らない薄暗い中で、蝋燭を光源としてソイツは座っていた。 「アンタが、依頼主のトム・フェイブリンか?」 小柄な男 ―― 否、それは十分な程に『少年』であった ―― はにっこりと、親しい友人に微笑みかけるような表情を浮かべた。 「うん、そうだよ。ご苦労様 ―― ヒダ・トビラ」 「…… 一体、どういう事だ?」 「その問いかけはあの怪物に対してですか? あの女の子の事ですか? それとも、何故こんな事になったのか、ですか?」 「全部だ…… ただでさえ訳の分からない状況だってのに、くそっ……」 「すいませんでした、先輩。ですが、あのような状況にでもならなければ幾ら僕が説明しても先輩は全てを否定していたかも知れませんでしたから」 「…… という事は、さっきの『アレ』は、俺に何か関係しているんだな?」 「えぇ、そうです…… 先輩が知りたがっていた事、その解決を授ける鍵になり得るでしょうね」 そうして崇は口を開く。 涼やかな声で、歌うように。 「―― あれ?」 一枚足りない。 何度か数え直してみるが、やはり一枚足りないようだった。 「あ〜ぁ、サイアク……」 さっきの騒動のせいで悟とも離れてしまった。非常に面白くないといった表情で穂鳥はふてくされた。 利点を挙げるならご飯が美味しかった事と、 「あの怪物とこの力、かな?」 ベルトを外して手に取る。カードの仕込まれたバイザーはそのまま霧散していくように消え去った。 「意外と便利で楽しいもんだね」 先程封印した【未確認生命体】のカードをひらひらと指でつまんで振る。 【CANCEL】の文字が刻み込まれていた。 「…… 事情は簡単に桑古木から聞いてるわ。ありがとうね」 「人として当然の事をしただけよ。それより優、話って言うのはやっぱり……」 「えぇ、そうよ。その鳩鳴軒に現れたという【未確認生命体】と謎の【ベルト持ち】について」 沙羅とホクトを家に帰し、そのままの身格好で武達は春香菜の研究室へと舞い戻っていた。 最初、武の身なりを見た空があたふたしたが今は落ち着いて皆に紅茶を振舞っていた。 「真篠の話から察するに、間違い無く俺達と同じ【力】の保持者である事は疑いようが無い」 神妙な顔つきで涼権が言う。さらりと流した風ではあるが、かなり重要な事実である事は疑いようが無い。 「優、私達以外にも助力を頼んだ人がいるのかしら?」 「いいえ、私は知らない…… そもそも、私の作ったベルトは全部で4本。つまり今この場にあるものしかないわ」 「となると…… 別の方面からも、この兵器を開発した連中がいるって事か。頼もしいな?」 「それは早合点だぜ、武。敵対する勢力を倒すからといって仲間とは限らない」 「利害が一致している間ならまだしとしても、結局危険なモノを扱っているという事には変わり無いしね」 「気を抜くな、って事ね」 「その方達に関しては私の方で調査しますので、ご心配は要りませんよ」 「すまないな、空」 「それが仕事でもありますから」 そう言って笑う表情は人間と違いは見当たらなかった。 「………………」 「何なんだろうね、これは……」 家に帰ってから速攻、沙羅とホクトは沙羅の部屋で笹広から渡されたカードをじっくりと見調べていた。 「優に画像データを送ってみたけどまだ返答はないし…… 古代の遺品なんかだったりしたら分かりやすいんだけど」 「それにしては作りが真新しいよ。それに加工技術一つとってみても、ここ最近とは言わなくても……」 「数年前?」 「十数年…… もしかしたらそれよりちょっと後くらいかな? 近年見ない形のモノではあるけど」 相当真剣なのだろう、沙羅の口調に忍者言葉が入っていない。 そのまま眺め回すようにカードをチェックしていた沙羅が、不意に脇に設置してあるPCの電源を点ける。 「沙羅?」 「外見から調査が出来ないなら、内面を調べるまでだよ」 天才ハッカーの名に恥じぬ巧みな指使いで目的のソフトを手早く起動させると、本体とディスプレイの隙間から数本のコードを引っ張り出す。 「?」 「あ、これはハッキング同好会の部屋から拝借、もとい借り受けてきたものだよ」 「まぁ…… 今は沙羅が部長みたいだし、良いか……」 深くは聞かず、ホクトは沙羅の操作をじっと見やる。 と、その時懐に振動を感じて、見れば秋香菜からの返信メールがきていた。 「…………『わからない』だってさ」 「無理もないよ。何か分かったら明日の昼休みにでもどこかで落ち合って話しておくから」 「よろしく」 ホクトは労いのメールを送ると再び画面に集中する。 沙羅がカードにコードを繋ぎ、忙しなく指をキーボードに叩きつける。 アセンブラだかCだか良く分からない文字の羅列が画面を下から上へと流れていく。 沙羅が一発叩く度に羅列は2行3行と勢い良く流れていく。 目で追うのに限界を感じたホクトが眉間をマッサージしていると、不意にキーを叩く音が途絶えた。 「んー、無理」 「ぇ?」 「調べてみたけど、セキュリティっていうか何て言うか、このPCのスペックじゃ処理できない量の【何か】があるよ、このカード」 「こんなカード1枚に?」 「今はチップサイズの10GBSDもあるんだから不思議じゃないけど、流石にこれは……」 「どうするの?」 「ハ同の部室に、もっと大きくて高性能のPCがあるから、そっちで調べようと思う」 「そっか。それじゃ、そのカードは沙羅が持っててよ」 「うぃ〜♪」 丁度そのタイミングで、玄関の戸が開く音がした。 「あ、お父さん達帰ってきたみたいだね」 「早く晩御飯食べたいでござるよ〜」 定期入れにカードを仕舞い込みながら、沙羅が腑抜けた声を出す。 天才ハッキング少女の面影は、今はそこに見るもなかった。 「ほらよ、依頼の品だ」 布に包んだベルトをトム少年に放る。 おっとと、とおどけるように空中で弄んでからトムは胸中にベルトを抱え込んだ。 「ぞんざいな扱いだね。らしくないよ?」 「…… お前に、俺の何が分かる」 「分かるよ。君の事なら、君以上にね」 「けっ……」 踵を返した扉に、小柄な何かがぶつかってきた。 「ぅきゅっ」 「…… あ?」 「はは、ちゃんと前に注意しないとダメじゃないか」 「うん、そだね。シッパイシッパイ」 てへへ、と赤い下をちろっと出して笑う、少女。 「お帰り、ジュリア」 トム少年はそう言って微笑んだ。 翌日。 沙羅は全身から覇気を迸らせながら世界史の授業を受けていた。 といってもそのノートに記述されているものは、 『カードを構成する物質について』 とか、 『その使用及び制作方法について』 などといった、授業には一欠片も関係しない事柄なのだが。 教卓から離れた位置に座を有する沙羅の行動は、教師にとっては板書転写以外の行為には到底見えない為、お咎めを受ける事は無かった。 「…… ん〜……」 しかしやはりというか、昨日晩御飯の後も調べてみたものの、家のPCではあれ以上の事実は判明しなかった。 早い所お昼休みになって秋香菜に報告したらハ同の部屋で少しでも新事実を知りたいところだ。 しかし、どうにも腑に落ちない点もある。 「何で私、こんなに真剣になってるんだろ……?」 知り合いが被害に遭い、その現場に落ちていた物的証拠だ。 真剣にならないというわけではないがしかし、たかだかカード一枚にここまで翻弄されている自分に気づく瞬間がある。 「まるで……」 何かに操られているみたい、と考えてその思いをすばやく振り切る。 「…… 冗談じゃないよ」 ライプリヒの呪縛はもう解いた筈だ。 もうこれ以上、あんな奴等の策略なんかに嵌ってたまるか。 その場の感情に任せて、沙羅はカードを破り捨てようと懐から取り出し、 低い音が響いた。 「……えっ!?」 金管楽器で低音を出した時のような、陰鬱で重々しい音が耳に伝わり、脳を刺激する。 「っ!!」 たまらず頭を抱えるが、音はそれでも強烈に響いてくる。 「? どうした、倉成?」 「え?! ちょ、ちょっと沙羅、大丈夫!?」 「……ま、さか……」 他の皆には、この音は聞こえていないのだろうか。 答えはYESに間違い無いだろう。 音は、徐々に熾烈を増して沙羅を苛む。 耐え難い苦痛に叫び出したくなった瞬間。 窓ガラスをぶち破って『それ』は姿を現した。 一瞬の静寂。 続く悲鳴と慌ただしい足音を聞きながら、沙羅は眼前に現れた恐怖の具現から視線を逸らせないでいた。 「…… っぁ、な、ぁぁ……」 声は言葉にはならない。 今、彼女へ向かって歩み寄ってくる『それ』は、姿を見た事が無くとも最近のニュースを耳にしていれば嫌でも想像がつくものだった。 【未確認生命体】が沙羅に歩み寄ってきていた。 「……ぃや……っ!!! やだ、やだやだやだぁっ!! 来ないでぇっ!!」 やっとの事で声を絞り出すと、沙羅はじりじりと這う様にして逃げ出す。 無理もない話だが、腰が抜けてしまって走ったり歩ける状態ではなかったからだ。 そんな沙羅を嘲るように【未確認生命体】は一歩、また一歩とその距離を縮めていく。 「――――――」 気が触れるか、失神するかの瀬戸際で【未確認生命体】の腕が沙羅の胸元へと伸びて 先ず、像がぶれた。 その後、窓ガラスの割れる音。 次いで、何かが地面に接した音。 叩きつけられる音。 黒くて長い髪。 (ママ……?) 違う。つぐみよりも短い。 飛び込んできた勢い、髪がなびいて、重力に従って垂れる。 「あ〜……」 沙羅と大して歳の変わらない、少女の声がした。 「やっと、見つけた」 沙羅を見つめて少女 ―― 涼蔭 穂鳥はふっと微笑んだ。 隠し事の味は甘美たるものだ。 幼ければ幼いほど、その味の虜になりやすいという。 例えそれが、後戻りの出来ないものだとしても。 To be continued…… |
多分あとがき 自分の身に起きた異変に気がつかないでいます>挨拶 先の見えない長編でも、地道に少しずつ書いていけば結構進むものだと今更気づきました(遅) 『学校で8割書く』→『自宅で2割+小ネタ』というやり方をしてるので、3月一杯でこのペースは尽きそうですけどね(自嘲) 3月前に力尽きる気も目一杯しますが。KSとかKSとか社会の荒波とか(爆) でもやはり胸には『まったりまったり♪』を抱き続ける所存であります!! サー!!(誰) ではでは!! 口ずさみソング『rebirth(橘朔夜【天野浩成】)』 |
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