エバセブ闘牌伝 
ー代打ち集団LeMU−

                              鳴きの虎


第8章 休息その2


−最後の対局は武、つぐみが制しこれで第2回戦が全て終了した。
 この2回戦で西側のメンバーは全員が敗退し、準決勝には武&つぐみ、空&沙羅、ホクト&秋香奈、
 そして天&ひろゆきが進出となった。−

 原田:「・・・これで、今日の対局は終了だ。
     準決勝に関しては、明日の午後1時にこの場所で説明を行う。
     それまでは各自、自由行動とする・・・。
     それから今夜は消灯時間を2時まで延長する。
     では、各自解散してくれ・・・。」

−黒服達と引き上げていく原田−

春香奈:「それじゃ私達も、お風呂に入ってそろそろ寝ようかしら。」

  空:「そうですね、今日は少々疲れましたし・・・。」

 沙羅:「う〜ん、拙者は目が冴えてしまってまだ眠れそうに無いでござる。」

秋香奈:「マヨもそうなの?じゃあもう少し遊んでく?」

−自分の部屋の前に戻った僧我−

 僧我:「今日はもうええ・・・。
     お前ら、下がってええで・・・。」

 黒服:「はい・・・。」

−部屋の中でソファーに腰掛ける僧我−

 僧我:「ふう・・・。
     まさか西が全員負けるとはの・・・。
     今回は単なる遊びと思っとったが、あの東の連中、なかなか面白い・・・。
     明日も楽しませてもらうか・・・ぐっ!?」

−胸を押さえる僧我−

 僧我:「ぐぐ・・・。また発作か・・・。
     いかん・・・早よ薬を・・・。ぬうっ!?」

−懐を探り、驚愕する僧我・・・!−

 僧我:「な、無い!?薬が・・・。
     し、しまった、どこで落としてもうたんや・・・!
     ぐうう・・・!ゴホッ!ゴホッ!
     あ、あかん、意識が・・・」

−意識が朦朧とし、声をあげることもままならない僧我・・・。−

 僧我:「・・・こ、こんな所で死んでたまるかい・・・。
     あいつが生きとる以上、まだ勝負は終わっとらんのや・・・!
     その時まで、わしも・・・ううっ!」

???:「・・・ちゃん・・・。」

 僧我:「ん・・・?」

???:「おじいちゃん、これ、おじいちゃんのだよね?」

−僧我が顔を挙げると、銀のケースを手にしたココが立っている−

 僧我:「あ、ああ・・・。」

 ココ:「待っててね。すぐ、お水もってきてあげる。」

−数分後、落ち着きを取り戻した僧我−

 僧我:「ふう・・・。何とか落ち着いたわい・・・。」

 ココ:「おじいちゃん、大丈夫?
     ココが背中さすってあげようか?」

 僧我:「ええよ・・・。もう大分楽になったからな・・・。」

 ココ:「遠慮しなくてもいいよ。おじいちゃん、まだちょっと苦しそうだから。」

 僧我:「ハハ・・・。そうか・・・。
     じゃあ、お願いするで、お嬢ちゃん・・・。」



 僧我:「本当にありがとうな、お嬢ちゃん・・・。
     お嬢ちゃんは、命の恩人やな・・・。」

 ココ:「えへへ、ココ照れちゃうな。
     でもおじいちゃん、ホントに大丈夫?病気なの?」

 僧我:「ハハ・・・。心配せんでもええ・・・。
     おじいちゃんぐらいの年になるとな、自然と身体にガタが来るもんなんや・・・。
     こればっかりは、どんなに頑張っても仕方の無いことや・・・。
     お嬢ちゃんが何も心配することはあらへんよ・・・。
     それにしても、不思議やな・・・。
     何でわしが、苦しんでることがお嬢ちゃんには分かったんや?」

 ココ:「えへへ、実はね、ココ、ちょーのーりょくしゃなんだ。
     だから、何でもココには分かるし、みえちゃうんだよ。」

 僧我:「ちょ、超能力?」

 ココ:「できるんだもーん。できちゃうんだもーん。」

 僧我:「・・・(苦笑)」



 僧我:「もうわしは大丈夫や・・・。
     今日はもう遅いし、お嬢ちゃんはもう部屋に戻って休みや・・・。」

 ココ:「うん。おじいちゃんもゆっくり休んでね。
     あんまり無理したらダメだよ。」

−ココの後姿を見守る僧我−

 僧我:「フフ・・・。
     それにしても不思議な子やったな、あのお嬢ちゃん・・・。
     裏の世界で恐れられたこのわしが、まるで形無しや・・・。
     あの子の前では、わしも単なる、“おじいちゃん”か・・・。」

−改めてソファーに腰掛ける僧我−

 僧我:「赤木よ・・・。
     お前が今生きとるのは、ひょっとしたらあの子たちのお陰かもしれんなあ・・・。
     お前が説得などされるような男でないことは、わしが一番よう知っとるが・・・。
     まあ、今となってはそんな理由などどうでもええ・・・。
     お前が生きてる・・・。わしにとってはそれだけで十分や・・・。
     願わくば、わしとお前が生きていられる間に、もう一度だけ、勝負がしてみたい・・・。
     お前という男がいるからこそ、わしの少ない命の残り火も、まだ赤々と燃えていられるんや・・・。」

−入浴を済ませ、庭園の見える縁側を歩いていく武−

  武:「ふう・・・、本当にここの温泉は入り心地がいいな。
     さてと、そろそろ部屋に戻って・・・ん?」

−武、縁側に腰掛けている赤木を見つける−

  武:「赤木・・・。」

 赤木:「ん・・・?倉成か」

−手酌でビールを飲んでいる赤木。周りには、高級な懐石料理が並べられている−

  武:「赤木、まだ眠らないのか?」

 赤木:「・・・まあな。一杯飲ってからだ。」

  武:「これは?」

 赤木:「作らせた。もうすぐふぐさしも来る。」

  武:「・・・・・。」

−こんな夜遅くに叩き起こされて料理を作らされた板前を哀れにおもう武・・・。−

 赤木:「どうだ?倉成も一杯飲るか・・・?」

  武:「あ?ああ・・・。それじゃあ・・・。」

−コップの中のビールを飲み干し、夜空を見上げる武と赤木−

  武:「綺麗な月だな。」

 赤木:「・・・そうだな。」

  武:「それにしても赤木、こうして会うのは久しぶりだよな。
     最近は仕事が忙しくて連絡を取る暇も無かったけど、あんたとはもう一度ゆっくりと話がしたかったんだ・・・。」

 赤木:「ククク・・・。俺みたいな変人と話して、何が楽しいんだ?」

  武:「おいおい・・・。」

−影から秋香奈、沙羅、ホクトが二人の様子を覗いている・・・−

 沙羅:「う〜ん。さすがパパと赤木殿。
     こうして男前二人が並んでいるのを見ると、中々絵になるでござる。」

ホクト:「お母さんと一緒にいるのとでは、また違った意味で似合ってるよね。」

秋香奈:「ホクトがあの二人の境地にたどり着くには、まだまだ修行が必要かもね。」

ホクト:「・・・・・。」

 黒服:「あの・・・すみませんが、どいてもらえますか?」

秋香奈:「あ、ごめん。通るの邪魔だよね。
     ところで、その皿は何なの?」

 黒服:「ええ・・・。赤木さんから頼まれまして・・・。」

−目の前を通り過ぎていく黒服−

ホクト:「優、今の人の運んでいったのは何?」

秋香奈:「どうやら、ふぐさしみたいね・・・。
     酒の肴に赤木が頼んだみたいよ。」
      
 沙羅:「健康には良くないでござるが、拙者達も夜食が欲しいでござるな。」

秋香奈:「それもそうね・・・。
     あ、そうだ、マヨ、ちょっとこっちへ来てくれる?」

 沙羅:「?」

−何か沙羅に耳打ちする秋香奈−

秋香奈:「いい?任せたわよ。」

 沙羅:「御意でござる。」

ホクト:「???」

−一方、会話中の赤木と武−

 黒服:「すみません、お持ちしました・・・。」

 赤木:「悪いな・・・。そこに置いといてくれ。」

−ふぐさしを盛った皿を置き、その場を去る黒服−

 赤木:「で、どうなんだ?
     あれからカミさんや子供とは上手くやってるのか?
     まあ、さっきの様子を見る限り、愚問だろうがな・・・。」

  武:「ああ・・・。上手く行き過ぎてるくらいだ。
     大変なことはあるけど、毎日が凄く充実してる。
     これもつぐみや沙羅、ホクト、それから優たちのおかげだ。」

 赤木:「フフ、だろうな・・・。
     相変らずお前からは輝きを感じる・・・。
     その様子なら、これから先何の心配もいらねえだろう・・・。」

  武:「そういえば、赤木はどうなんだ?
     一度、病気で死にかけたって聞いたんだけど。」

 赤木:「・・・アルツハイマーのことか?
     まあ、ほぼ治ってるようだ・・・。
     少なくとも、この1年は特に何ともない・・・。」

  武:「そのことで優から話を聞いたんだが、あんた一度、命を絶とうとしたそうだな。
     BWが説得しに来なかったら、もう少しで死ぬところだったんだろ?
     まったく、無茶苦茶だぜ・・・。」

 赤木:「ククク・・・。
     俺は別に、説得なんかされちゃいねえよ・・・。」

  武:「え!?」

 赤木:「あいつに話しかけられた時、何故かはわからねえが失われた脳細胞が生き返ってくる
     実感があったのさ・・・。
     少なくとも、まだ俺は俺でいられる・・・。
     そう思ったから、俺は生きることを選んだだけのことだ・・・。」

  武:「おい・・・。
     じゃああんた、BWが幾ら説得してもアルツハイマーが
     止まらないままだったとしたら・・・。」

 赤木:「ククク・・・。
     その時はその時・・・。
     ただ、死ぬまでさ・・・。」
      
  武:「全く・・・、あんたも昔から変わらないな。
     赤木に口で勝てないのは分かってるけど、あんまり自分を粗末にするなよ。」

 赤木:「別に粗末になんかしてるつもりは無いぜ・・・。
     俺は、俺を精一杯大事にしてるさ・・・。
     俺が望むのは、俺が俺で在り続けることだけだ・・・。
     もっとも、お前の台詞そっくりそのまま返すことになるが、
     お前も人のことは言えないんじゃねえのか?
     ククク・・・。惚れた女の為とはいえ、てめえの命張ったクチだろうが・・・。」

  武:「うっ・・・。」

 赤木:「フフ・・・。まあいい・・・。
     俺はお前のそういうところは嫌いじゃねえ・・・。
     だが、もうカミさんを泣かせる真似はするなよ・・・。
     お前無しじゃ、あの娘はもう生きていけない・・・。
     それは、お前が一番よく知ってるはずだ・・・。」
     
  武:「ああ、分かってる・・・。
     つぐみが俺を必要としてくれてる以上に、俺にとってはつぐみが必要なんだ。
     だから、もう二度と離れない、離さない・・・。
     だから、生きている限り、俺は生きて、つぐみを幸せにする。
     そして、みんなと共に、幸せになってみせる・・・。
     赤木、あんたと再会した時に、誓ったことだ。」

 赤木:「そうだ・・・。それでいい・・・。
     それでこそお前、倉成武だ・・・。」

  武:「ところで赤木、ずっと気になってたんだが、あんた17年前、あの状況から一体どうやって脱出したんだよ?
     それに、TBにも感染してたわけだし・・・。」

 赤木:「ククク・・・。
     野暮なこと聞くんじゃねえ・・・。
     博打を打って、いい目が出た・・・。
     ただ、それだけのことだ・・・。」

−物凄い説得力を感じる武・・・−

 赤木:「まあ、そんなことはどうでもいい・・・。
     それより倉成、皿を取ってくれ・・・。
     良かったら、お前も食うか?」

  武:「ああ、それじゃあ・・・。
     え?え?無い?皿が無い?
     確かにさっきまで、ここにあったはずなんだが・・・。」

−一方、縁側の角にて・・・−

秋香奈:「うーん、美味美味♪
     さすが最高級のふぐさしね。
     沙羅、よくやったわね。」

 沙羅:「ふっふっふ。
     あの赤木殿にも気付かれずに、ふぐさしを奪取する。
     まさに忍者の真骨頂でござる、ニンニン。」

ホクト:「ま、まずいよ沙羅〜。
     それ、赤木さんが注文したやつでしょ?
     勝手に食べたりしたら、怒られちゃうよ。」

 沙羅:「心配ご無用。
     赤木殿は、このようなことで怒るような、心の狭い方ではないでござるよ。」

ホクト:「そ、そういう問題じゃないでしょ?」

秋香奈:「ホクト、あ〜ん♪」

 沙羅:「お兄ちゃん、あ〜ん♪」

ホクト:「え?(パクッ)」

秋香奈:「ふっふっふ。
     ホクト、これであなたも共犯よ♪」

 沙羅:「これで三人とも一蓮托生でござる♪」

ホクト:「あーーーーーっ!
     ずるいよ二人とも〜〜〜。」

  武:「くおらぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!!
     イタズラッ子どもーーーー!!!
     お前等さっさと風呂に入って寝ろーーーーー!!!!」

秋香奈:「きゃーーーっ♪」

 沙羅:「戦術的撤退でござる!」

ホクト:「うわ〜ん、お父さんごめんなさ〜い!」

 赤木:「・・・・・・・。
     おい、もう一皿追加で頼む。」

 黒服:「は、はあ・・・。」

  武:「まったく、あいつら・・・。(ハアハア)」

 赤木:「それから、ふぐちりも頼むぜ・・・。」

 黒服:「わ、分かりました・・・。
     (正直勘弁してくださいよ・・・。)」

−入浴を済ませた空、ホテルのロビーにて−

  空:「少し体が火照っているみたいですね・・・。
     夜風にでも当たろうかしら。」

−空、つぐみと出くわす−

  空:「あら、小町さん。」

つぐみ:「空、どうしたの?まだ部屋に戻らないの?」

  空:「ええ、少し夜風に当たろうかと。」

つぐみ:「奇遇ね。実は私もそのつもりだったの。
     丁度いいわ。一緒に行く?」

  空:「ええ、そうですね。ご一緒させていただきます。」

−二人とも外へ−

  空:「そういえば小町さん、倉成さんはどうしたんですか?」

つぐみ:「多分赤木さんと、漢(おとこ)同士の会話してるわ。」

  空:「くすくす・・・。
     ちょっと寂しい夜になっちゃいますね。」

つぐみ:「もう・・・。」

  空:「冗談はいいとして、いよいよ明日は準決勝ですね。」

つぐみ:「で、私達は誰と当たるの?」

  空:「組み合わせは明日発表されますので、今はまだ分かりません。」

つぐみ:「つまり、明日いきなりあなたと沙羅のコンビと当たる可能性もあるということね?」

  空:「そういうことになりますね。
     ところで小町さん、もし当たることになりましたら、今回私と小町さんで、何か賭けて勝負しませんか?」

つぐみ:「・・・どうせ武絡みのことでしょ?
     で?一体どうするのよ?」

   空:「ええ、もし私が小町さんに勝ちましたら、倉成さんと1日だけデートさせて下さい。」

 つぐみ:「ええ、いいわよ。あなたが勝ったらの約束だけどね。
      私は当然負けるつもりは無いけど。」

   空:「本当ですか?ありがとうございます!」
     (随分あっさりと了承してくれましたね・・・。小町さん。)」

 つぐみ:「ただし、条件を幾つか提示しておくわ。。
      一つ、門限は6時。
      二つ、外食は昼食のみで、夕食は私の家でとること。
      三つ、当日の二人の行動はすべて人工衛星によって監視、記録されるものとする。
      四つ、武への必要以上の接触を禁じるプログラムを当日あなたに組み込む。
      以上、4つの条件が飲めると言うなら今回武とのデートを賭けの対象とすることを認めてあげる。」

  空:「・・・やっぱりそう来ましたね。」

つぐみ:「当然でしょ。いざとなったら何が起こるか分からないもの。
     で、私が勝ったら、あなたはどうするの?」

  空:「それは、小町さんがお決めになって下さい。」

つぐみ:「そういわれても・・・。特に何も思いつかないわね。」

  空:「ならば、私が小町さんに負けた場合、一週間倉成さんの家のメイドを勤めるというのはどうですか?」

つぐみ:「そちらの方が、武にとっては危険な話じゃないの・・・?却下よ。」

  空:「そうですか・・・。(せっかく倉成さんに迫るいい機会だと思ったのに・・・。)
     ならば、一週間私が倉成さんの家の晩御飯を担当するというのはどうです?」

つぐみ:「それも何だか、あなたにとっては都合のいい話だと思うんだけど・・・。
     まあいいわ。別にあなたが全部やらなくてもいいから、夕方の買出しでも行ってきて。」

  空:「あ、なるほど。
     小町さんは、紫外線の影響で夕方によく買い物に行かれるんですよね?」

つぐみ:「別にそれは、私に限った話じゃないと思うけどね・・・。」

  空:「分かりました。私が勝ったら倉成さんと1日デート。小町さんが勝ったら夕飯のお手伝いということで
     よろしいですか?」

つぐみ:「まあ、そんなところかしら?」

  空:「では、対戦が決まりましたら全力でお相手します。」

つぐみ:「望むところよ。
     それにしてもあなた、今回は大変ね。司会とコンパニオンと優の助手まで勤めてるんでしょ?」

  空:「その点に関しては心配ありません。
     もとより、私は疲れを知らない身体ですから。」

つぐみ:「そうだったわね・・・。」

  空:「そういえば小町さんこそ大丈夫ですか?
     夜は意外と冷えますから、そろそろ戻らないと、湯冷めしますよ。」

つぐみ:「そうね・・・。そろそろ涼しくなってきたわね。
     空、良かったらもう一度温泉に入る?」

  空:「それもいいかもしれませんね。
     今回女性の方は少ないですから、今は貸切ですよ。きっと。」


−ホクト、温泉にて−

ホクト:「他の人たちはもうお風呂は終わったのかな・・・。
     桑古木さんとは入れ違いになったし。
     この分だと、暫く僕の貸切かな。
     でも、一人はやっぱりつまらないな。
     もしお父さんが入ってたら、背中流そうと思ってたのに・・・。」

−数分後、扉が開いて誰かが入ってくる−

ホクト:「(あれ、誰か入ってくる・・・。
      もしかしてお父さん?
      あれ、違う・・・。)」

−入ってきた男は原田克美−

ホクト:「(は、原田さんか・・・。
      うう、ちょっと気まずいな・・・。
      昔、田中先生の計画を援助してくれたというのは知ってるけど、
      この人、職業が職業だし・・・。)」

−無言で温泉に浸かる原田。気まずいまま沈黙を続けるホクト・・・。−

ホクト:「(ど、どうしよう・・・。
      何か言おうかな・・・。
      でも、この人と何を話したらいいのか分からないし・・・。
      いきなり出て行くのも、何だか失礼だし・・・。
      何でこんな時に、他の誰も入ってこないんだよ・・・。
      誰でもいいから、早く来て・・・。)」

 原田:「おい、坊主・・・」

ホクト:「は、はいっ!?」

 原田:「何をそんなにビクついてる・・・?みっともねえ・・・。
     俺が何だろうが、お前には関係のねえことだろうが・・・。
     お前みたいな小僧を、取って食うような真似なんかするか・・・。
     男なら堂々と構えてろ・・・。    
     見てて逆にこっちが疲れてくる・・・。」

ホクト:「は、はい・・・。」

−気まずい沈黙を終えて数分後−

ホクト:「(ええと、そろそろ出ようかな・・・。)」

 原田:「坊主・・・。」

ホクト:「え?何ですか?」

 原田:「まあ、折角居合わせたんだ。
     これも何かの縁だ・・・。背中ぐらい流せ・・・。」

ホクト:「え?ええ、分かりました・・・。」

−早速、原田の背中を流すホクト−

 原田:「ふう・・・。坊主、お前中々上手だな。」

ホクト:「え?あ、どうも・・・。」

 原田:「それにしても坊主、今日はなかなか楽しませてもらったぜ・・・。」

ホクト:「え?」

 原田:「牌詰まりの後のお前の打ち筋のことだ・・・。
     それまではつくづく話にならねえと思ってたが、あの後のお前は
     妙に気合が入っていた・・・。
     大方、あいつに入れ知恵でもされたのか?」

ホクト:「あいつって、赤木さんのことですか?」

 原田:「そうだ・・・。」

ホクト:「別に入れ知恵、というほどのものではないですけど・・・。
     ただ、“自分を見失わずに、あっさり行け”と・・・。
     言われたのはそれだけです。」

 原田:「ククク・・・。やはりそうか・・・。
     赤木の野郎、昔と同じで、余計な真似をしやがる・・・。
     これじゃあ、昔の繰り返しじゃねえか・・・。
     お前を見てると、10年前のひろゆきを思い出すぜ・・・。」

ホクト:「ひろゆきさん・・・ですか?」

 原田:「そうだ・・・。
     最初はお前と同じで、つくづく話にならねえ・・・、この場に居合わせるような奴じゃねえと思っていた・・・。
     だが、あいつはそれでも、決勝まで進んできやがった・・・。
     その後もどこな垢抜けねえ所はあったがな・・・。
     対局の合間に、赤木が色々とあいつに言っていたのはよく覚えている・・・。
     昔も今も、あいつはひろゆきやお前のような若造を通じて、俺の邪魔をしてくるわけだ・・・。
     まったく、とんだお笑い種だな・・・。」

ホクト:「10年前って、昔も今回のような大会があったんですか?」

 原田:「ふん・・・。あの時に比べれば、今回はただの遊びだ。
     だが、大方決勝は天と烏丸、尾神辺りがぶつかると思っていたが、
     お前らのお陰で、いろいろややこしくなってきたぜ・・・。
     まあ、お前等のような奴等がこんな場所に顔を出すのは今回こっきりだろうが、
     俺は最後まで楽しませてもらう・・・。
     まあ、せいぜい頑張るんだな。」

ホクト:「は、はい・・・。」

 原田:「さてと、俺はそろそろ上がる・・・。
     坊主、そろそろ消灯時間も近い・・・。
     早く部屋に戻って休むんだな・・・。
     それから、お前に一つ言っておくことがある・・・。」

ホクト:「何ですか?」

 原田:「もう夜にドタバタ騒ぐのは勘弁しろよ・・・。
     昨夜はうるさくてミーティングが進まなかったからな・・・。」

ホクト:「ご、ごめんなさい・・・。
    (やっぱり聞こえてたんだ・・・。)」

−一方、天とひろゆきは・・・−

  天:「さあさあ、桑古木さん、グッとやってくれ。」

桑古木:「おっ、それじゃ遠慮なく・・・。」

ひろゆき:「ちょっと天さん、もうすぐ消灯時間ですよ!
      僕達はまだ明日があるんですから、そろそろ休まないと・・・。」

  天:「堅いこと言うなって。
     今夜は久しぶりに熱くさせてもらったからな。
     サシウマの100万は、今夜でパーッとやっちまおう。」

桑古木:「こんなビールぐらいじゃあ、まだまだ100万には届かないな。
     よし、上等なやつを頼むとするか。」

  天:「そうこなくちゃな。
     麻雀の次は、飲み比べで勝負といこうか。
     ひろ、お前も折角だから付き合えよ。」

ひろゆき:「遠慮しますよ・・・。
      天さんのペースに巻き込まれると、明日二日酔いになりそうだし・・・。」

  天:「なんだ、つまんねえな・・・。
     じゃあ桑古木さん、俺たちだけでも盛り上がるとするか!
     いやあ、それにしても、あんたの最後の流し満貫、最高に痺れたぜ。
     ラスト前のツモで中が来なければ、負けるとこだったからな。」

桑古木:「よせよ・・・。
     勝負の過程で何があろうと、負けたらお終いだ・・・。
     あそこであんたが中をツモったのは、あんたの実力以外の何でもない。
     それに、俺はあんたに本気で喧嘩売ってたのに、ラストまでほとんど相手にされてなかったからな。
     実力の差を思い知らされたよ。」

  天:「そんなことはねえよ・・・。
     ただ、ラストまで俺は流れを掴めず、黙って耐えるしかなかっただけだ・・・。」

桑古木:「本当にそうかな・・・?
     俺は、ただ上手くあしらわれただけの気がするんだけどな。」

  天:「まあまあ、そう謙遜するなって!
     兎にも角にも、あんたは凄い男だ!
     つーわけで、今夜はとことん付き合うぜ!」

−消灯後、桑古木の部屋を訪れる春香奈−

春香奈:「全く・・・。
     あんたたちが騒いでるせいで、眠れなかったじゃない。
     あーあ、こんなに散らかして・・・。
     おまけにだらしない顔して寝てるんだから・・・。
     天はひろゆきが何とか部屋に運んでくれたみたいだけど。
     桑古木、何も掛けずに寝てたら風邪ひくわよ・・・。
     ただでさえ今回は色々忙しいのに、こんなことで世話焼かさないでよね・・・。」

−ソファーに横たわる桑古木に、掛け布団を掛けてやる優−

春香奈:「じゃあね、お休み。」





あとがき

休息の話は闘牌シーンと違って、気楽に書けるので書いてて楽しいです。
息詰る展開もいいですが、毎回だと疲れるんですよね・・・。
でも、次はまた闘牌なので、気を引き締めないと。
次はかなり濃い内容になりそうな予感・・・。
時間に追われながら書くことになりそうですが、頑張ります。

あと、今回は自分のオリジナルの要素(僧我とか)がちょっと入っているので、「天」のファンの方には
違和感を感じるところがあるかもしれませんが、どうかご了承ください。(ぺこり


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