知らないマジワリ-前編-

私たちが自由になってから明日で三ヶ月。
これといった変化は無いけど明日は日向市のお祭りがあって、それを皆で行くつもり。
あと私は一ヶ月くらい前に、部活を始めました。最初は入る気なんてなかったのだけど、誘われちゃった。
でもその顧問が―――――

「ねぇ、沙羅ーっ！入ろうよー！！」
明るい言葉で詰め寄るのはさくら。彼女は私の手をブンブンと振りながら言った。
「んー、ゴメン。私は部活は・・・・」
「見るだけ！！今日だけ！！」
私は意外と（強がる時はあっても）とても頼まれることに弱い。なっきゅ先輩の時もそう。だから、
「わかったわよ。・・・・ちょっとよ？」
行ってしまった。私って将来セールスとか勧誘とか断われなさそうだな、としみじみ思う

「わぁ・・・・・・・」
数十名をくだらない生徒が何台もあるマシンへ向かって活動している。
右手の鞄の中には私専用の私的オリジナルサブマシンがある。それはそこらの市販のマシンなどとは比べ物にならないほどのスペックを有している。
「すごいっしょ！ここにいる人たちで全部じゃないけど、それぞれ上級者から初心者まで。プログラム組んだりとか、絵を描いたりとか、やることは自由。休みたければ休めばいいし、来たかったら来たらいいし。私もバイトと音楽の時は勝手に休んでいるしね」
「そ、そんなのでいいの？・・・・ってか顧問は？」
さくらはいーのいーのと気楽に手を引きながら、奥にある部屋へと私をつれてった。
「顧問は――――――この人だよ」
がちゃり
「うあ・・・・・」
私が驚いたのは、すこし狭いけど快適そうなこの部屋にではない。そこにらくらくと座ってものすごい（私には敵わないけど）タッチでキーボードを叩いている先生、神楽　彩先生にだった。
「彩、沙羅だよー」
さくらは気楽そうに彼の肩を叩く。
「あ？・・・・・ああ、さくらか。アリスなら・・・」
「違う違う。沙羅、つれてきたよ」
「む、沙羅ちゃんか。・・・・・入らない？」
彩先生はこめかみあたりをぐりぐりとほぐしながら言う。私は首を横に振って答えた。
「いえ、今日は見に来ただけなので・・・」
「そう・・・・。じゃあしょうがないな」
意外とあっさりしていた。チョット私は拍子抜けした。でも彩先生は言葉を続けて、
「勝負だ、沙羅ちゃん。キミが負けたら部に入るってのは？」
「・・・私に何のメリットがあるって言うんですか？」
「じゃあ、キミが勝ったら来るべき不得意な水泳授業の免除っての―――ぐわっ！！」
私は彩先生の胸倉を掴んで、
「やります！やらせて下さい！！」
そう、答えた。

「ルールは簡単。マシンにハッキングプログラムが到達したら勝ち。自分達は防壁作ったりトラップしかけたり攻撃したり。相手のハッキングプログラムを破壊しても勝ちだから、攻撃の方がいいけど。・・・いい？」
「良いでござるよ！」
私は自分のサブマシンを、といっても一瞬だが立ち上げる。彩先生は無謀にも生徒が使っていたマシンを使おうとしている。
「・・・良いんですか？それで」
「ああ、十分だよ」
ムカッ！！こうなったらギャミ～と言わせてやる！！
「さて、始めようか」
「しょーぶ」
さくらの声が隣から聞こえて、
「開始！！」
始まった。

「ウソ・・・・、負けた？」
私は、負けた。彩先生は私のかけたトラップを見抜き、私が向こうのマシンに侵入しようとしたとき、侵入された。
確かに彩先生は要領の少ないマシンの為に負担がかからないような動きをしていた。プログラムにはほとんど攻撃をしてないし、防壁は一度もなかった。
ただ三枚のトラップややこしかっただけなのに。確実に相手のプログラムを蝕んでいた攻撃も、相手を破壊するには至っていなかった。ただのマシンに破られた・・。
「沙羅ちゃんは頭がいいね。でもこのトラップじゃ熟練者には見破られてしまうよ？」
熟練者って、HIMMELの時もこれの応用だったのに。ってことは先生、HIMMEL以上？私は、
「くやしい！」
挑戦状を叩きつけるように入部届けを出し、私は二日に一回は彩先生に再戦を申し込んでいる。結果は、言えない。

知らないマジワリ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　七桃　りお

-前編-

沙羅は自分の部屋でプログラムを組んでいた。
「今度はトラップに掛かったら・・・・」
一人でぶつぶつと集中していた。手元にあるのはホットコーヒー。優秋に感化されてかホクトもよくコーヒーを飲むようになった。
少し手を止めてみる。はぁ、とため息をつき、
「なっきゅ先輩・・・か」
浸る。しかし沙羅はぶんぶんと頭を振る。ぱんっと顔を叩き気合を入れる。
「ダメダメ。私は諦めたんだから」
沙羅は兄への感情を、家族愛へと変えようとしていた。しかしまだ途中なので今のように弱気になる時があった。
気を紛らわすため、プログラミングを終了しネットを開く。適当にサイトを巡った。
「・・・・・」
無言のままでいると、スピーカーから雑音が流れてきた。
「ピ――――――ガ―――ザ――――ピ――――」
それは法則性の無い、ラジオの雑音のようだった。しかし沙羅の部屋ではラジオなど無い。
「？」
沙羅が首を傾げると、ディスプレイに新たなページが追加された。
それはよくあるポップアップ広告。いつもは何気なく消しているこの広告が、先ほどの雑音とともに現れたのである。いつの間にか雑音は消え、ポップアップ広告が不気味に残っていた。
そこには真っ白な背景に、浅葱色で文字が書かれていた。
「・・・探して・・・下さい？」
そのように書かれていた。そして不審に思った沙羅がページを閉じようとすると、
「何・・これ・・・・」
浅葱色の文字が、背景を侵食していた。もう原型がとどまっておらず、元が文字だと分かりもしない。
それは白い背景を暗い、ドロドロとポップアップ広告を染める。
埋め尽くすと浅葱色はディスプレイをも飲み込もうとした。
「わ！」
ディスプレイを埋め尽くし、ソレは画面を飛び出し部屋を、沙羅を飲み込もうとして―――――

目が覚めた。沙羅は椅子から転げ落ち、床で頭を打ったようだ。
「あ・・あう・・・」
沙羅はそして思い出す。あの浅葱色が・・・・
「うーん・・・・夢？」
頭を打ったときに気絶でもしたのだろう、と沙羅は解釈する。
現に部屋に異常は無いし、彼女のマシンは静かに機械音を立てながら正常に動いている。
ただ変わった事と言えば―――――
「きゃっ」
浅葱色の鍵が白い紐で首に掛かっていたことだった。それを視界に入れると、
「痛ぅ・・・」
突然に異常な頭痛を沙羅が襲った。その頭痛は何かを訴えるようであり、
「あっ」
フラッシュバックが起こった。

―――――探してください
真っ白な人物がこちらを見ていた。それはまだ小学生ほどの少女だった。
白い髪の両側に浅葱色のメッシュが入っている。瞳は浅葱、服は白。爪も浅葱で肌も白い。
浅葱と白で彩られた彼女はこちらに一つの物を渡してきた。
―――――探してください、三つの
それは白い紐に浅葱色の鍵がかかったモノだった。それを受け取らされる。
―――――三つの鍵を。そうすれば
そこでフラッシュバックは途切れた。

「・・・・・」
もう頭痛は無く、状態も安定していた。沙羅は立ち上がる。
「さーらー、ご飯よー」
そのとき一階からつぐみの声が聞こえた。夕食が出来たのだろう。
夕食を作ったのは武だが。
「はーい」
急いで沙羅は部屋を出る。浅葱色の鍵はまだ首に架かったままだった。

次の日、学校からの帰り道。沙羅はとぼとぼとした足取りで歩いていた。
学校でどうしても鍵の事が気になったのである。学校で鍵を首に架けっぱなしはさすがにマズイと思い、鞄の中に沙羅は入れた。
しかし昼にポケットに異物感を感じ、探ってみると鞄の中にあるはずの鍵’’’’’’’’’’が入っていたのである。また気味が悪くなった沙羅は、先ほど川へ鍵を投げ捨てた。
ただ、沙羅が心配しているのは、もう一度鍵が戻ってくる事である。
もう一度戻ってくるともう否定は出来ない。
鍵が独りで戻ってきた事を受け入れなければならない。
それが、沙羅は心配だった。
「ただいまー」
考えているうちに家についた。「おかえり」と言うつぐみに笑みを返し、二階に上がる。扉を開けると眩しかった。何かが窓から漏れる光を沙羅へ向けて反射させている。恐る恐る沙羅は近寄り、机の上にあるソレを掴む。
ソレは、
「ひぁ・・・・」
綺麗とは言いがたい水の滴る浅葱色の鍵’’’’’’’’’’’’’’’’’’だった・・・。
沙羅はその場に座り込む。膝を抱いて顔を埋める。
すると喉から声が漏れた。それは、悲鳴だった。
「いやああああああ!！」

悲鳴を聞き、つぐみは二階へと急いだ。荒々しくドアを開けるとそこにはグッタリとした沙羅がいた。
手には浅葱色の鍵が強く握り締められていた。

病院では、疲労と診断された。
疲労が溜まり、何かの拍子で溜まっていた疲労が溢れ、その際に気絶したらしい。
自宅での数日の安静を言い渡されたが、沙羅は安静にしていなかった。
目が覚めた直後に優春を呼び、鍵の事を聞いた。この手の情報に最も詳しい人物だからである。
「田中先生、何か鍵の噂ってありますか？」
「・・・どうしたの？」
「これ・・・」
鍵を優春に見せる。眉間にしわを寄せて彼女は言った。
「・・・最近、ネットでこんな噂が流れているの」

白い背景に浅葱色の文字。そのポップアップ広告を見たものには鍵が送られる。
鍵は三つあり、三人の人物に送られる。
三つの鍵はそれぞれ引き合い、それを助力するようにメールが送られる。
それを全て集める事が出来ると、ポップアップを配信した、
『全ての情報を有するモノ』
を手に入れることが出来る。

「でも、その『全ての情報を有するモノ』が何なのかは分からないの・・」
優春は役に立てなかったことを悔やむ。しかし沙羅は「そんなことないです」といった。
そして優春が去った後、沙羅は家から抜け出した。

沙羅は白いブラウスに赤いスカートという何の変哲も無い格好で中央公園へ来ていた。
この場所は近くに大規模な商店街があり、人が最も多く集まる場所の一つである。
病院から抜け出したのが何故なのかは分からない。
何となく抜け出してしまったのだ。
最初は優秋の所へ行こうとしていたが、病院へ戻されるに決まっている。
それを沙羅はなぜか拒んだ。
「はぁ～・・・」
当ても無く彷徨い、辿り着いたのがここだ。
沙羅は大きな噴水に腰を掛け、大きなため息をついた。
病院からともに逃げ出した相棒、沙羅のマシンは手元のバックの中にある。
しかしそれはバッテリー切れ。武のＰＤＡのような静電充電機能は無いため使い物にならない。急いでいたためだと思うが迂闊だった。
「でも、確かに充電バッチリだったんだけどな・・・」
小さな疑問を浮かべ、辺りを見渡す。
周りに人、人、人・・・。沙羅はこの公園にひとりで来た事は無かった。
一度だけつぐみとの買い物帰りに寄っただけだった。
ただつぐみがいないだけ、知り合いがいないだけ寂しさを感じる。
それはかつての拘束生活を思い浮かべてしまい、
「・・・ぅ・・・」
喉から声が漏れた。自分しか聞こえないような大きさだった。
しかしその声が聞こえた人物がいた。
「あれ、沙羅ちゃん？」
こんなに熱いのに、黒いスーツを着込んだ神楽　彩が目の前に立っていた。

場所は学校。しかし休日である今日は生徒は居なく、教員も何故だか少ない。
何処かで会議があり、そっちに人手を取られていたらしい。
そのため彩は暑い中、スーツで学校へ帰る途中だった。そこで、会ったのだ。
「・・・熱い熱い」
そう言いながらクーラーの付いている職員室へ駆け込む。
少しスーツの上着を脱ぎ、ソファーに腰掛ける。
「・・・で、先生はどうして私をここへ？」
「んー、何となく」
「何となくですか・・・」
沙羅もソファーに腰掛け、バッテリー充電のための電源を探す。
もちろん充電は彩が了承した。
「何となく、病院から抜け出した生徒を叱りに・・・」
「はうっ！！」
沙羅は充電を開始した所で奇声を上げ、静止した。首だけで彩へと向く。
「何故にその事を・・・」
「いや、担当教師だし。ま、それは冗談として、どうして脱走？」
脱走といわれると感じが悪いが正しいので沙羅は反論しなかった。
「・・・えと、ちょっといろんな事が」
「・・・・・『鍵』の事かい？」
「！」
ガタンと音を立て、ソファーから立ち上がる沙羅。
それを笑い、彩は胸元のポケットから浅葱色の鍵を取り出した。
「っ！」
焦り、沙羅はポケットを確かめる。しかしそこには鍵がある。それはすなわち、
「二つ目の鍵だよ、沙羅ちゃん」

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