Eternity 17 -the ring of infinity-　生存：新たな人物

Time　１６：２４

「LeMUの施設、３０％が冠水・浸水済みとなっています」
その宣告を、空はしぶしぶ言った。全員ともずぶ濡れ。あの瞬間からまだ３０分しか経っていない。
あの時つぐみは水の中に飛び込み、流されかけた。しかし前方にホクト達を見つけ、必死の思いでここ、中央整備室へ辿り着いた。
空は当然のようにパネルを操作し、情報を引き出した。
「エルストボーデン、完全浸水。ツヴァイトシュトック、ドリットシュトックともに第三区画のみ完全浸水。浸水を食い止めるために緊急防水扉が作動しました」
言葉はまだ続く。
「ブルーメトレッペのガラスが水圧に耐え切れず、浸水事故発生。隔壁によってエルストボーデンへの通行は不可、となっています」
そこで空の言葉は終わった。すると薄暗い中央制御室の中で、一人立ち上がった。
「どういうこと？」
つぐみだ。しかしその眼は以前の時、完全な警戒が窺える。
「水圧に耐え切れず・・・・ってじゃあLeMUの中は―――――」
その言葉は空が続けた。
「一気圧まで低下しています」
息を呑んだ。その中で優秋が絞り出すような声で、言った。
「じゃあ、誰かが気密扉を開いた’’’’’’’’’’ってこと？」
そう、その通りなのだ。
水圧に耐え切れないということは、LeMU内の気圧が海中の気圧より小さくなったと言う事である。そのためにはLeMUと外部を結ぶ気密扉を開放、混合ガスの放出をしなければならない。
「だとすると、パニックに陥った客が気密扉を開けっ放しにしたと考えられるわ。それともう一つは・・・」
言葉を切り、全員を見渡すつぐみ。そして、言った。

「人為的に、気密扉が開かれた・・・か」

●

「舞台は用意できている。削除デリートを行おう」
男は両手を挙げ、眼下の海底を見つめる。その後ろには幾つかの影。その中から、女性のものが動いた。男の近くにより、耳打ちする。
「―――――――」
空気の轟音によって言葉は他の者には聞こえなかった。聞こえたのは、男のみ。
「そうか・・・」
そう言って男は振り返り、影達に言う。
「我々が怨むは、分かるな？ならば『善悪二元論』を浮かべよ。我らは・・・何だ？」
影は声を揃えてこう言った。

『永劫回帰にして。我ら、善の神となり悪を行おう―――――ツァラトゥストラの名において』

Eternity 17 -the ring of infinity-
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　七桃　りお

生存：新たな人物

Time　１６：４５

「いいのか？」
武はインゼル・ヌルにある真新しいホテル、コスモスデッケの一室でそう言った。武達が確認できる範囲ではもうここには人は居なかった。
先ほどまでは居たのだ。海を見ると大型の船まで見える。しかしそれはすでに陸へ向かっていた。
なぜ武達がそれに乗らなかったかというと、
「俺は残る」
そう武が言ったからだ。しかしそれは無意味な事だった。何故なら、ここに居る者全員、下に閉じ込められている者を無視できなかったからだ。
優春は船に乗るよう言った関係者にこう言った。
「私達はいいから、早く救護と救助の用意と手配をしなさい。物資は陸から持ってくればいいでしょう」
何故だか指揮を取っている優春によって、ここに居続けることが出来たのである。
「それって愚問よ」
「・・・だな」
優春はベットに横になりながら言う。ココと桑古木はここには居ない。外に居るようだ。
「しっかし・・・やる事ねぇなぁ」
その通りである。今回は救護が来れば片付くのは簡単だろうし、下の皆を助けられるような手立ては今だ無い。
「はぁ・・・」
ため息ばかりである。何を呑気な。

●

Time　１７：４９

その頃、空以外のつぐみ達はまだ閉じ込められている人を探した。空は通信手段と、事故解明のために中央制御室へ残ってもらった。
コレだけのメンツより、前々回の事故、前回の事件の関係者以外の人物がいたほうが、何故だか安心できるような気がしたからだ。
しかし、見つからない。まるで自分達だけが閉じ込められているような―――――

「つぐみ！・・・子供よ！」

優秋の声だ。つぐみは踵を返して走り出した。これが事故である事を願って。
声の方向、ドリットシュトックのレムリアニッシュ・ルイーネへと急いだ。その入り口に優秋・沙羅・ホクトが揃っていた。
「最初に見つけたの、ホクトなんだ」
その生存者は優秋と沙羅に抱えられていた。その子供は１５歳程度だった。まだ幼い顔立ちに、つぐみは少年を思い浮かべていた。
しかし格好も、髪型も、全く違う。疑いすぎだな、とつぐみは感傷の笑みを浮かべる。しかしこの場に居る全員がそう思ったのか、誰も動こうとしなかった。
彼は、気を失っている。
「・・・とりあえず、救護室へ行こうか」
ホクトの言葉で、皆やっと動き出した。

●

Time　１８：２８

救護室へ運び込み、彼をベットに乗せた。それから数分たち、うめき声がした。
「う・・・・・ぅうん・・・」
彼である。つぐみは咄嗟に動き、彼に声をかける。
「大丈夫？」
それに気づいたのか、ホクト達も駆け寄る。そして、
「う・・・ここ、何処？」
彼が目覚めた。寝ぼけ眼で上半身を起き上がらせ、眼を擦りながら辺りを見渡す。そこに見知らぬ顔があったため、彼は驚いていた。
「良かった。ここは・・・」
つぐみは彼に今までの経緯を話し始めた。その喋り方は以前のような堅苦しさは無く、やんわりとした母親という存在がそこにあった。
「そうなんだ・・・」
そしてつぐみはいきなり確信に迫った。

「キミの名前は？」

そう、彼が記憶喪失でないかという事。彼がそうならば、誰かが呼ぼうとしているのだ’’’’’’’’’’’’’『彼』を。
彼は数分考えた後、
「ボクの名前は―――――」
息を呑む。

「―――――ナタ」

それだけ。
「へ？」
沙羅が拍子抜けしていた。
「苗字は？」
「え、えーっと・・・」
そこで彼は言葉に詰まった。しかしつぐみは、
「記憶喪失ってワケじゃなさそうね・・・」
「うん、そんなことはないと思う。でも、ちょっと混乱してるんだ」
彼、ナタは頭を押さえ言う。何か思い出そうとしているらしい。しかしその顔には苦痛の色は無く、物忘れをして思い出そうとしている人のようだった。
恐らくナタは突然の事故により混乱しているだけ、とつぐみは判断した。
「もしかしたら、ナが苗字でタが名前なのかもよ？」
沙羅が突然そんなことを言う。
「そんな人いないよ」
「でも、ぺ・ヨ○ジュンなんて苗字ペだよ？」
「えー、でもナタは明らかに日本人だよ？」
「そっか・・・」
「その前に今、２０３４年よ？何で沙羅が三十年前のネタ引っ張り出してるのよ」
「・・・その前にペ・ヨ○ジュンが理解できる優も凄いと思うけど・・・」
沙羅・ホクト・優秋が何か電波な会話をしている。そこにつぐみが、
「結局全員理解できてるんじゃない。私は理解できて当然だけど・・・歳いくつよ、あなた達」

●

Time　１９：１３

そんなことを話しているうちに、空から中央制御室へ来るよう指示があった。何か見つかったのだろう。
空にナタの事を説明し、状況を聞いた。
「ケーブル通信、電波通信、ネットワーク接続の機能は、物理的遮断や施設の浸水で使用付加となっています。回復の見込みはありません。しかし」
そこで空はパネルに振れ、一つの通信を繋ぐ。
「インゼル・ヌルにある通信施設へと繋ぐことが出来ました」
「！」
皆、驚いた。恐らく全ての通信は遮断されていると思ったからである。しかしこれは事故なのであった。
「その通信施設は・・・レミの足元にも及びませんが、館内全ての通信を担っています。まず私達が出来るのは、インゼル・ヌルへとアクセスし、誰かと交信することです。ここからでは上にしか通信できないのです」
「じゃあ大丈夫ね。上には武達が居るはずだから」
「はい」
つぐみの言葉に対するその空の言葉には、喜びが窺えた。
「後は、どうやって脱出するかね・・・」

●

Time　２１：３５

数時間の時は早々と過ぎ、武達はインゼル・ヌルの通信施設へと来ていた。それは陸へ行った船と交信するためだった。しかし、
「え、どういうこと？」
優春はその乗組員と思われる人物と話していた。
「どうしたんだ？」
思わず武が話しかける。すると優春は眉間にシワを寄せて言った。
「LeMUへの海路が突然運航停止になったらしいの。急遽原因解明に急いでるらしいんだけど、こればっかりは強行手段に出るわけには行かないって」
確かにそうだろう。運航停止ということは少なからずとも政府の息がかかっているということだ。しかしその出所が分からないらしい。こういうことなら私が行っておくんだった、と優春は言い唇をかみ締めた。
「どういうことだよ！」
桑古木が優春を押しのけ怒鳴り散らす。しかし桑古木の服の端をココが引っ張る。
「少ちゃん・・・今は仕方がないよ」
ココに押されてか、桑古木の顔から怒りがすっと引いていった。そこへ別の通信機器が音を出した。それは、空の声だった。
「―――誰か、誰いませ―か？」
少しノイズが入っているが、聞き取れないほどではない。それに武が答える。
「おい、空！大丈夫か？」
「倉成―ん。こちらは大丈夫―す。一人生存――見つかったぐらいです。それ―り、外部はど―なっていますか？」
「外からの救助が遅れてるんだ。だからもう少しかかると思うが・・・大丈夫だろう。今回はただの事故だろうし」
「はい。ではま―通信しま―ので」
「ああ。・・・あ、生存者ってのは？」
「それは―――――」
突然、空との通信が切れた。そして、先ほどまで空と通信していた所にいきなり男が現れた。
「初めまして、と言おうか」
「誰だ・・・お前」
武達は突然の出来事に反応できなかった。
「後ろの彼女に聞いてみるといい」
男はクイ、と顎で武の後ろ、優春を指した。優春は一歩前に出て、言った。

「独逸ライプリヒ製薬派遣日本社監査並びに日本ライプリヒ製薬全部長、神威・シュヴェーアト」

「っ！」
驚く武。そこにナイフと様に眼を研ぎ澄ました桑古木が前に出る。
「即ち、この目の前に映っている男は独逸本社から日本社の監視と全権限を持っていた。・・・・そうだろう？」
桑古木の問に男、神威は頷いた。
「全く、大変だったよ」
「何故お前がここに居る！」
声を張り上げたのは優春だった普段からは想像も出来ないほどの剣幕で迫る。そして武にいった。
「日本で行ってきた実験など、全てにおいて奴は関わっているの。それも独断でね・・・」
そういえば独逸ライプリヒ製薬が大々的に捕まった、と言う情報は出回っていない。恐らく強行捜査ぐらいはあったのだろうが、外国のことなのでよく分からない。
「・・・『何故お前がここに居る』か。月並みなセリフだな。しかし気づかなかったのか？私が日本の警察に捕まっているかなど」
「っく！・・・何故、捕まっていないんだ」
桑古木は拳をパネルに叩き込む。しかし神威は平然と笑い、言葉を続けた。
「そんなものは簡単だ。私は戒めの災竜ザッハークの加護を受けているから、かな？」
「ふざけるな・・・」
ぎり、と桑古木の口元から音がする。されど神威は笑い、
「まあいい、最早キミ達には用はない。月並みだがな、消えてもらおう。・・・本来はそれが目的だがな」
そこで男との通信が途切れた。数瞬の間隔が開く。そして、

突如として生まれた閃光が、武達を照らした―――――。

●

突然の振動に皆パニックに陥りかける。空はパネルの前で突っ立ったままである。
「空、状況は？・・・空！」
意識がないかのように呆然としていた空は突然振り向いた。
「皆さん！只今、第二次浸水が始まりました！LeMUの半分が水没します。通信、切断！」
次々と言葉が流れていく。最後に、
「緊急警報発令！圧壊開始。完全圧壊まで・・・・残り、概算一一九時間！圧壊原因―――――

―――――インゼル・ヌルの通信施設の爆破ですっ！！！」

あとがき

さて、またまた長編開始です！・・・もとい長編しか能がありません（泣
この長編は、今までの謎をバスバスと解いていきます。といっても謎なんてほとんどありませんけどね。
書き溜めて～というのがあまり出来ない性分なので、また完結まで少しかかると思います。
バトルも取り入れ、ライプリヒズ（命名豆腐さん・笑）との決着。海中からの脱出！
少しずつのペースで書き入れたいと思います。
七桃は学生なのに暇人なのでなんとか書ける思います（馬鹿
十七作目記念・・・。何か意味があるのだろうか

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