Eternity 17 -the ring of infinity-　妨害：情報の操作

「・・・うん」
男はずっと考え込んでいたかと思えば、突然そんな事を言った。
「アレでは死んでいないだろうからな。皆、頼む」
その言葉とともに影が動き出す。すると機械音とともに扉が開く。青い空が目の前に広がる。
「さて、もうこれは・・・・・不要だな」
男が手に持つのは一冊の本。聖典アヴェスタと書かれたそれを、空へ向けて放った。
紙は引きちぎれ、ぐちゃぐちゃになりながら海面へと落ちていく。
「我々は、日々更新する。今、一つの物語が消えた。ならば新たな物語を受け入れよ」
幾つもの影は扉の前に立ち、
「物語は、生命の樹セフィロトだ。アルファ＝オメガは無限ループの表れだ」

影は青空に飛び立つ。真下には、海と、人工島。
「―――――私は天の車メルカバに堕ちて見守ろう。・・・灯は残しておけよ？」
一直線に影は未だ煙の上がる人工島へ落ちていった。

●

Time　２１：３７

「どういうこと！？空、貴女さっきまで話していたでしょう！武達はまだあそこに居たのよ！？」
つぐみは突然叫んだ。それは先ほどの空の発言に対してだろう。一気に空に詰め寄る。
急いでホクトがつぐみを押さえるが、それさえも振り切った。その拍子にホクトが椅子とともに倒れこむ。
「ほ、ホクト・・・。ごめんね、取り乱してしまったわ」
ホクトの手を引き、立たせる。しかしその顔からは焦りは消えていない。
「現状は？」
「はい、インゼル・ヌルの通信施設が人為的に爆破されました。ツヴァイトシュトック第六区画、資材置き場から第二次浸水が始まっていたのですがその衝撃で被害拡大。先ほど第二次浸水終了、LeMUの約半分が浸水しました」
「では、始まっていた浸水が爆破によって拡大したってことでござるか？」
「はい、そうなります」
沙羅の問に空は答える。そこに優秋が入ってきた。
「それで、武達は大丈夫なの？」
その問には答えられなかった。空はパネルをいじる。
「・・・分かりません。しかし、大丈夫でしょう」
突然の発言に皆、反応に困る。そしてつぐみが、
「それは・・・貴女の推測？」
空はそれに胸を張ってこう言った。

「はい、推測です」
「だったら大丈夫。言い方は悪いけど―――――人工知能の推測は、確実よ」

Eternity 17 -the ring of infinity-
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　七桃　りお

妨害：情報の操作

Time　２１：４８

目の前は炎で埋め尽くされていた。砕けたコンクリートがそこらに散らばっている。爆発の衝撃で武は吹っ飛ばされたらしい。
「・・・皆は―――ぐっ」
右足に痛みが走る。左肩も上がらない。安静にしていればキュレイである武ならばすぐに治るだろう。しかし、
「こんな所でぐずぐずしている暇、無ぇんだよ・・・」
木々を支えに立ち上がる。ふと、視界に白衣が止まった。
「優！」
足を引きずりながら地面に倒れこんでる優春に駆け寄る。それに気づいた優春も立ち上がる。武よりは比較的怪我が軽いようだ。武より爆心地となったマシンに近くにいたのに、侮れない。
「私は大丈夫。それより桑古木とココは・・・」
「こ・・ここだ・・」
瓦礫の下から桑古木の声がする。急いでそれを退けると、ココの上に覆いかぶさった桑古木が見つかった。
「何襲い掛かってるのよ」
ゲシゲシと桑古木を蹴る優春。ぐえ、と声を上げながらココの上から引く桑古木。
「おいおい。俺は身を挺してまでココを庇ったんだぞ？・・・フラグぐらい立たないのか？」
「そんなこと期待してるから甘いのよ」
ゲシゲシ。
「少ちゃん計算ぶか～い」
それにココも加わる。
「それでいいのか桑古木涼権３３歳」
「う、うるさーい！」

●

Time　２２：３４

全員急遽救護室へ向かう事になった。それは減圧症予防のためだ。一般人のナタも居る事で、命の危険もあるのでそうなったのだ。
「どうして皆そんなに手際がいいの？」
そうナタにたずねられた時は困った。まさか三回目だとは言えない。なので、
「えっと、皆サバイバーなのよ。沙羅は忍者みたいだけど」
ありえない。しかしそれで納得したのかナタは尊敬するような眼で皆を見るようになった。・・・気がする。
「へぇーサバイバーかぁ・・・」
子供を騙すのには気が引けるな、と思いつつも救護室へ到着。
「相変わらず狭いでござる。しかし・・・・・」
「ってわー！沙羅、何処触ってるの！？」
「止めなさーい！沙羅アンタねぇ・・・ってわ、ホクト！」
「僕じゃないって！ナタだよ、ナタ！」
「ボボボ、ボク！？あわわわわ」
全く騒がしい事この上ない。つぐみと空はため息をつきながらホログラムパネルを見渡す。
「圧壊まで一一八時間・・・か。私達には関係あるのかしら」
「あの爆発も気になりますし・・・それはやはり人為的なものなのでしょうか」
「分からないわ・・・」
「・・・つぐみ’’’さん、睡眠は必要ですよ？」
突然の呼び名につぐみは恐る恐る聞く。
「空・・・。小町って呼ばないの？」
すると空は微笑を浮かべる。
「ふふ、おかしなことを言いますね。つぐみさんは倉成さんと籍を入れていらっしゃいます。ですが、倉成さんが二人だと分けにくいじゃありませんか。私は倉成さん一家でも沙羅さんと言いますし、ホクトさんとも言います」
「・・・そう」
ようやく減圧室も静かになった所でつぐみは眠りに尽いた。

●

Time　９：４２

「かなり寝過ごしたわね・・・」
本来ならば一時には起きて行動していたはずだ。それなのにかなり寝てしまった。それではまるで休日ではないか。
しかし全員頭はスッキリしていた。しかし辺りは薄暗い。
「どうして電気がついていないんだろう」
ナタが手探りで前に進もうとする。段差でこけそうになった所を沙羅が受け止めた。
「あわわ、危ないよ」
「・・・電気が止まったのね」
「発電室だね」
「マグロでござる」
「終○の？」
「それは限りなく危険で無許可な気がしますが・・・○焉の鮪ではなくイルカとマグロの区別の難しいマグロです」
「・・・悪かったわね。でもなんで空が知ってるのよ、その時停電じゃなかったっけ」
「奇跡です」
さっそく発電室へ向かうことにした。

●

Time　１０：２９

傷は癒えた。朝になり、朝食も済ませた武達はコスモスデッケのホールに集まっていた。
「早速なんだけど・・・」
召集をかけた張本人である優春が、白衣の内側からＰＤＡを取り出した。しかし、圏外。
「どういうことだ？ここはLeMUの中ってワケでもないのに・・・」
武も自分のＰＤＡを取り出す。しかしそれも圏外。
「それが、妨害電波ジャミングがかけられてるの」
聞きなれない単語に眉間にシワを寄せる武。そんな彼にため息をつく優春。
「何故妨害されてると思う？」
桑古木が言った。ジャミングと言い切るなら何か訳がある筈だ、と。
「上空数百メートルに、巨大なヘリが止まってるの。そこから妨害電波が出ているはずよ。さっき屋上の展望台でヘリの存在を確認したわ」
「そこに乗っているのはアイツか？」
「ええ、神威よ」

●

Time　１２：３２

ホクトは重い工具を一人でもつことになった。本来なら武または桑古木が居るのだが。赤外線視力はこの時、とても便利に感じられた。
熱で触る事の出来ないハンドルを冷却するために、バルブを閉めにつぐみ、ホクトは隣の部屋へ向かった。
「どうして皆こんなに動作が速いのか、不思議だな」
ナタは水が溜まっているのにも構わず、通路へ座り込んだ。
「どうして？」
沙羅は不安そうにしているナタに話しかけた。するとナタは眉尻を下げ、言った。
「なぜだかボクだけ話について聞けないというか、仲間ハズレみたいというか・・・」
そう言うと、優秋はナタの頭に手を載せくしゃくしゃと撫でた。
「この状況下でなにが仲間ハズレよ。ただ、私達は前に同じような事があっただけなの」
「そうそう、何も気にする事はないでござるよ」
二人は笑みをナタに送る。するとナタ自身も少しずつではあるが困惑の色が晴れているようだった。そしてバルブが閉められ、ハンドルが冷えるのを待ち、
「ポチッとな」
十七秒後、発電室は稼動を始める。ツヴァイトシュトックに戻るために薄暗い廊下を歩いていると、突然こんな音が鳴った。

ぐぎゅるるるるるぅぅぅ・・・

早速食事にすることにした。

●

Time　１２：４７

コスモスデッケのレストランへ武達は強襲した。火事場ドロボウ的だが食べなくては死んでしまうので訴えられる事はないだろう。なので武はその料理の腕を存分に披露した。
もとより料理が上手かった訳ではない。倉成家では武が食事担当となり、いつの間にかその腕も上がっていったのだ。そしてこの高級レストランの設備があれば、そこらの料理人には武は引けを取らない腕前となっていた。
そして食事を終え、またまた召集された。と、言っても他にすることがないので面倒ではない。
「外部へは通信不能だけど、パソコンは辛うじて使えるみたいなの。電波の状況で完全とはいえないけど」
そういうと、本来コスモスデッケの一室、倉成家女性陣の部屋にあるはずのものがあった。沙羅の巨大な鞄だ。
「よいしょ」
鞄を開け、おもむろに沙羅のマシンを取り出す。それは以前見たときより小さく軽い。ＰＤＡよりも一回り大きいだけのマシンだった。そして鞄の中からあるものを取り出す。
それは白い服を着た浅葱色の瞳の少女だった。・・・・・って、
「まてまてまて！どうして女の子が鞄の中に！？」
「はぁ、武・・・これはパソコン。といっても処理用データーバンクだけど」
世界はここまで進んでしまったのか、そう武が嘆いていると優春は少女の腰を漁り始めた。
「えーっと・・・あったあった」
優春が探り当てたのはコンセントに差し込むケーブルだった。それは少女の腰の辺りから伸び、壁に繋ぐ。
「（あれ、コンセントって古くないか？）」
２０３４年。未だコンセントがあるのかどうかは不明である。そして少女の瞳に光が灯る。少女が左手を胸の前で開くと、そこにホログラフディスプレイが現れた。
「こりゃすごい」
桑古木が感嘆の声を漏らす。それに気にせず優春は少女の耳からコードを引っ張り出す。そしてそれをマシンに繋いだ。
「アサギ、起動っと」
小型のマシンは素早く起動し、その後も迅速に行動した。
「・・・アサギと直結させる事によってこんなチンケなマシンでも、最新型以上のスペックを引き出す事が出来るの。・・・・・えっ！？」
自信満々の声は一転、疑問に変わった。
「どうした？」
「・・・それが、LeMUで事故が起きた事になってるんだけど・・・」
それはネットでの記事だった。しかし肝心な部分がおかしかった。それは、

「全員救助された事になっている？」

安全云々という記事が延々と続いているが、そこには全員救助という文字が幾つもあった。
「どういうことだ？」
「多分、私達が残ってるって知ってるのは私達が話した少しの乗組員しか知らないと思うの。だからそこまで神威の手が回っているとしたら・・・」
もはや優春は断言した。この事件は神威が仕組んだものだと。
「・・・誰か一人、向こうに行っていたら良かったんだけどな」
「ああ」
「あっ、少ちゃんたけぴょんなっきゅ！これ」
ココが指差したのは記事の一部だった。そこには、

「事故解明中にLeMU圧壊の恐れがあるため、事故解明は断念。圧壊後に調査を開始する・・・」

●

Time　１３：０３

今回は武がいない為、誰が作るのかに苦労した。しかしなんとタツタサンド以外にもメニューが増えていたため、材料も豊富だった。
まず、全員で適当にサンドを作ってもらって、一番おいしかった人物が料理担当である。

まず、一番手はつぐみ。
こんがり焦げたパンズにしおれた野菜。タツタは硬く、ケチャップの海と化している。
『・・・無理』
誰も食べる事は出来なかった。つぐみを除いては。
「美味しいのに」
味覚がアレなのだろう。
二番手は沙羅。
綺麗に焼かれたパンズに綺麗なレタス。タツタも適度にこんがり、アレンジにチーズがある。
『美味しそう』
そして全員が口に入れた。その瞬間、
『か、辛―――――！！』
世界が赤に染まった。
「え？そんなことないでござるよ？レタスに塩二回チーズは実はペッパー練りこんであるだけだよ？」
チーズにペッパーを練りこむ技術なんてどこで覚えたんだろう。
三番手、優秋。
少々コゲのあるパンズにレタス・トマト・チーズ・ピクルス・タツタ・・・さまざまな食材が無作為に積み重ねられている。
『長っ！』
これは用意には食べられないため、却下された。
「これぐらい食べられるでしょうが・・・もう」
優秋はこの長いサンドもとい未確認料理をいとも簡単に食べきった。
結局、まともなサンドを作ったのはナタとホクトだった。彼らはほとんど面倒役を押し付けられた事にショックを受けていた。すると沙羅が言った。
「そんなに嫌ならワザと不味く作れば良かったのに」
さらにショックを受けた。

●

Time　１３：２４

「どういうことだよ」
武は瓦礫の壁に拳を叩きこんだ。痛い。しかしそれ以上に苦痛がある。それは、圧壊まで助けがこない事。
ふらふらと武と桑古木は通信施設跡へ来ていた。炎はもはや鎮火している。瓦礫に座り込み、今後の対策を考える。
「はぁ、色々大変だな・・・」
「ああ、大変だな」
そんな他愛もない会話も、絶望によって流される。苦笑を浮かべ、どうにか誤魔化そうとするもできない。
「全く、無意味な時間を過ごしてるな」
ポツリと桑古木が言う。すると、

「だったら死ぬか？」

聞きなれない声がした。それは声が低く、成人男性のようだった。声の方向へ体を向けると、そこには予想通り男が立っていた。手にはしっかりと刃渡り二十センチほどの小刀が握られている。
「・・・全く」
桑古木は瓦礫から降りる。武も指を鳴らし、
「次から次へと・・・」
一気に二人は男へと飛び掛った。

あとがき

桑古木の誕生日は六月十四日で２０３４年５月時に３２歳だから今は３３歳ということで（何
ナタは一般人と書かれているが・・・やはり優秋は一般人ではないと。
・・・ごめんなさい鮪さん（笑
そしてあの浅葱色の少女の名前発表。アサギです。まんまです。まあつぐみの娘の沙羅がつけたってことですからｗ
ちなみに彼女はちょ○っツでもありませんよー（核爆

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