雪狐 鳴海 |
ワープ LEMUの深海で永い眠りから目覚めた俺にとって、現代社会はまさに未知の宇宙文明と言っても過言ではない程、文字通りに目覚ましい変化と進歩を遂げていた。17年前はまだ実験段階であり、大規模な照射装置を必要とした3Dテレビは一般家庭に普及しており、その規模とコストは革命的に縮小。もはや携帯可能な段階にまで達していた。 他にも核融合による原子力発電所の存在や、人類の火星到達、落下衝撃を吸収する弾む道路など、特筆すべき物は山ほどあるが、中でも土肝を抜かれたのはどらえもんが実在していると言う事だった。 17年前は実体の無いRSDに過ぎなかった茜ヶ崎空がほぼ完全な実体を手に入れた事からも察するに、ロボット工学は発展の一途を辿り、ついには人類の夢、家庭用猫型ロボットの開発に成功したのである。 極度の胴長、短足をした一見アンバランス極まりないボディーは、人類を超越したポテンシャルを有しており、世界最高峰の技術の粋を集めて作り上げられた高次のAIは凄まじい情報処理だけでなく、深層心理まで存在している。 当然の如く人権、市民権が認められている彼は、誕生の一年後ハーバード大学に入学。最年少記録保持者としてギネスに登録されている。現在は日本の芸能界で所属しており、常に第一線で活躍しているそうだ。 俺はここに目を付けた。 社会適応もままならず就職難に陥っていた俺は、優美清春香奈の計らいもあり、どらえもんに取り入る事に成功した。十七年間ハイバネーションで眠りについていた経歴は彼の目に留まった。 『とどのつまり君は事実上のタイムワープを果たしたわけだね?』 『はい。アインシュタインが言うところの錯覚ですが』 こうして俺はどらえもんのマネージャーとなった。 武と言う本名から、ジャイアンと言うニックネームで呼んでくれる事を期待したが、どうも彼の周囲にはのび太やしずかなど同名の関係者が後を絶たないらしい。当然、「たけし」なんて掃いて捨てるほどいる。彼は俺の事を倉成くんと呼んだ。 カメラの前では常に道化を演じスタジオを湧かせる彼だが、自室や控え室では口数も少なく、思索に耽っている様子が目立つ。きっとライバルであるアトムや、将来的な自分の量産型一般発売による自身の人気低下の恐れ。他にも国民的アイドルとしての気疲れなど、思うところが多々あるのだろう。 そんな時俺は脇に控えて、彼が何か言うのを待つ。 「倉成くん、倉成くん」 「はい」 俺はさっと彼の側へ移動し、用件を聞く。 「明日のスケジュールを確認してくれ」 「はい」 彼の思考回路には一万年先の予想スケジュールがインプットされている筈だが、俺は素直にポケットからメモ用紙を取り出した。 「明日は八時起床で自宅で朝食、九時から名古屋で一時間の講演があり、その後大阪でちびっ子と握手会。十一時からは今春のドラマで競演する織田雄三氏と昼食会が………」 「倉成くん、倉成くん」 「はい、なんでしょう」 「移動時間が抜けてるようだが?」 「えっ!?」 俺は心底驚いたように声を張った。 「ワープは出来ないんですか!?」 俺がそう言うと彼は手を叩いて喜んだ。このネタを使うのは三度目だが彼が望むならそれも仕方ない。 なんてったてそれが俺の仕事なのだから。 携帯電話 ある昼下がりの事。商店街の隅で二人の女性が激しい口論を繰り広げていた。と言っても叫んでいるのはショートヘアーの女の子、ただ一人。ロングの女性はただ黙って、静かに少女を見据えていた。その姿は一見には堪え忍んでいるとも、落ち着き払っているともとれた。 「ちょっとお母さん、一体どういう事なのよ!」 ショートヘアーの少女は怒りの表情で女性に詰め寄った。 「私に断りもなしに人の携帯勝手に使って!別に三十越えた女が見て喜ぶようなもんなんて何一つないわよ!その上ホクトにイタズラメール送ったでしょう!?わかってるんだからね!よくも私名義である事無い事書いてくれたわね?『私の恋人になりたい?それなら銀座の中心で全裸になって愛を叫んでよ』ですって?どこの誰かが自分の恋人を性犯罪者にしたいのよ!確認の電話が来たのよ?『そこで見ていてくれ。君への愛を証明するから』…もう靴下脱いでたわよ! 他にもあるわ…、私の友達に『ユウ、ハハキトク、スグカエレ』なんてメールが私名義で届いてたわ。あれお母さんでしょ?分かってるんだからね!あとサークルの男友達にも!『ユウ、イケメンカレシアリ、カカワルナ』……これはホクトかもね。 出会い系サイトに勝手に登録してくれたわね!『女子大で〜す!最近体が寂しくてないてるの…暖めてくれる人大募集』……ふざけるな〜! とにかく!もうこれ以上お母さんのイタズラに付き合うのはごめんだわ!顔も見たくない!暫く旅行に出させてもらいます!お母さんの通帳から幾らか下ろさせてもらったわ。いいわよね?人の携帯は勝手に使うんだから、当然よね! じゃあね、さようなら。精々お肌の手入れにはお気をつけて!」 一気にまくし立てた後、少女は大きく息を吐いた。その場に小さな沈黙が降りる。女性はその場から動こうとせず、少女も又、走り去る事なく女性を見据えていた。 やがて女性はぽつりと呟いた。 「いきましょうよ、秋香奈さん」 「ええ…」 秋香奈と呼ばれた少女は頷き、女性と並んで歩き出した。 「ごめんね、空。なんだかまるであなたに怒ってるみたい」 「いいんですよ。私はただの、携帯電話。…カンジョウナドナイ」 天国への扉 ねえねえ、ココのコメッチョ聞きたい?聞きたい?気になるでしょ?教えてほしいでしょ?オーケー、じゃあ教えよう。 ある女の子が初めてお母さんと一緒にお風呂に入った時の事です。 「ねえお母さん、これはなあに?」 女の子はお母さんのお腹の下を指さして聞きました。 お母さんは答えました。 「これはね、天国への扉よ」 またある日、女の子は初めてお父さんと一緒にお風呂に入り、似たよう事を訊ねました。 「ねえお父さん、これはなあに?」 お父さんは答えました。 「これはね、天国への鍵だよ」 「扉を開けられるのはお父さんだけなの?」 「もちろんだよ」 女の子は少し考えたあと、お父さんにそっと耳打ちをしました。 「隣のおじさんは合い鍵を持っているようよ…」 きゃはははははははははははは♪ 哀戦士-或いは二次元人間- ある日僕に二次元人間が降り立った。そして僕は全てを悟った。 前々から思っていたが、夏場にズボンは不要なのではないだろうか?パンツ一つ履いていれば最低の羞恥心を護られるし、いくら足を動かしても股下が汗疹になる心配はない。その事によって機動性が落ちるわけでもないし、逆に通気性、軽量性ともに格段に上昇する。 「お兄ちゃん、お兄ちゃん」 妹が呼んでいる。僕は扉の前で振り返った。 「なんだい沙羅?」 「ズボン忘れてるでござるよ〜」 沙羅は顔を赤らめ、僕の下半身を指さす。僕はああ、と微笑んだ。 「大丈夫、ズボンなんて不要だよ。偉い人にはそれが分からないんだ」 コンピューター ねえねえ、ココのコメッチョ聞きたい?聞きたい?気になるでしょ?教えてほしいでしょ?オーケー、じゃあ教えよう。 ある日世界で一番頭のいい超〜高性能のコンピューターが発明されました。その祝賀会に出席したアメリカ大統領はコンピューターにこう訊ねました。 「あんたが本当に世界一高性能のコンピューターだったら、試しに我がアメリカの有人ロケットが火星に到達するのは何年先か、予想してみてくれないかね」 「はいはい、お安いご用です」 コンピューターは直ぐさま数字を弾き出しました。 「今より80年後です」 するとアメリカ大統領は泣き出しました。 「その頃には私は大統領でもなければ、生きてさえいない。ああ…合衆国栄光の瞬間に立ち会えなくてくやしい!」 今度はロシアの大統領が訊ねました。 「それならロシアの有人ロケットが火星に到達するのはいつになるかね」 「100年後です」 するとロシア大統領は泣き出しました。 「アメリカの二度土を踏むとはなんともくやしい!」 今度はアフリカの大統領が訊ねました。 「じゃあアフリカの国で、有人ロケットが火星に到達する日は?」 するとコンピューターは泣き出しました。 「その頃には私は動いていない。ああくやしい!」 きゃはははははははははははは♪ めぐりあい宇宙-或いは二次元人間- ある日僕に二次元人間が降り立った。そして僕は全てを悟った。 優はデートに遅れるだけですぐに怒る。 「ちょっと遅すぎるわよホクト!」 そう言って優は鬼のような形相で僕に迫った。でもそれは君がそれだけ真剣だと言う事だ。そんな君が愛しいよ…。僕は優を優しく抱きしめた。 「僕には君は唐突過ぎたんだ。…でも人の出会いって、みんなそう言うものなのかもしれないね」 優は僕をひっぱ叩き、ずこずこと大股で歩き去っていった。 やれやれ、まったく。 「ホクトか?」 後ろから声を掛けられ振り向くと、そこにはお父さんが立っていた。 「お父さん」 「どうしたんだ、その顔…?」 お父さんはそう言って頬を指さした。 ああ…、心配ないよお父さん。こいつは男の勲章です。 「少し擦り剥いてるぞ。ちょっと待て、絆創膏くらいなら確か…」 そう言ってお父さんは鞄から「絆創膏」なる物を取り出した。僕はそれを見てゆっくりと後ずさりした。 「あ、あ、あ、あっ……」 (こいつをガンダムに取り付けろアムロ。運動性が段違いにアップするぞ) そんな旧式の物を…。お父さんは深海で酸欠乏症になってしまったんだ…。 「どうした?ホクト…」 「うわああああああああん」 雪狐 静かな夜の話。崩れ去った廃墟の上で少女と青年が二人、身を寄せ合って月を眺めている。 「ねえ武」 小さな声で、少女が青年を呼んだ。 「なにか話をして?」 「ああ、いいぜ」 青年は頷き、少女の体を引き寄せた。耳朶に吐息が触れ、少女は擽ったいように目を細める。 「これは俺が幼い頃の話」 そう言って青年は小さな物語を語り始めた。 「冬が近づくと、吐く息は白く濁る。それがとても不思議だった。冷たい夜の空にいくら息を吐いても、その靄は風に流され、あっと言う間に消えて見えなくなる。いくら考えても分からなかった。 どうして白くなるの?どうしてすぐに消えちゃうの?消えた白い息はどこにいっちゃったの? ある日、こんな事を考えついた。もしかしたら白い息は別の世界へ消えたんじゃないだろうか?或いはあの雲の上に…。雲の上には雪狐がいて、送られてきた息を使って雲を耕している。 その事を母親に話すと彼女は微笑んで、 『そうよ』、と答えた。 俺は疑問が解けた事に大喜びし、庭に飛び出した。 『いっぱい、いっぱい白い息を作ったら、明日は雪が降るかな?』 俺は目一杯の空気を吸い込み、何度も空へと吹いた。 そんな事をしているから、俺はその日はお腹を壊した」 青年が話を終えても、少女はじっと青年に耳を傾けていた。 「終わり…?」 「ああ」 「雪は?」 「降らなかった」 青年がそう答えると、少女は呆れてため息をついた。 「つまりあなたは今も昔もバカなのね」 ああ、なるほど。 |
あとかぎ はじめまして、許してください、死にたいです。 ココのコメッチョですが、紹介した二つのジョークの元ネタは実在します。それが米なのか英なのか仏なのかは忘れましたが…。と言うのも世界ジョーク・エスプリ辞書なる物が存在するのですよ。僕は少し前に図書館でそれを読みましたが、二つ目のコンピューターはかなりツボでした。体を反り返して吹き出すのを必死で堪えてると、隣の席の人が舌打ちをしてくれました。こういう何気ない他人の行動が人を我へと帰してくれるんですね。二次元人間を書いている時、僕の隣には誰もいませんでした。 |
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