日は昇り、月は沈む。
その果てしない繰り返しのなかで、この星は今日まで変化を続けてきた。

沈み行く月をいつまでも追おうとしても、
日はまたのぼる。

今、月が沈み、
新たな日々が始まろうとしていた。

Ever17ぴぐまりおん
                              ニーソ 



第4話 時の生まれる場所で


今、ホクトの体を暖かく照らす光は、太陽ではなかった。

彼女の声、奥深く黒い瞳、滑らかで長い黒髪が、
今のホクトの温もりであり、光であった。

今日一日中ホクトを縛り付けていたあの予感めいたものは、ホクトの内からとっくに消え去っていた。

黒が、自分を洗っていくのがわかった。

夜のように、そして夢のように、無限の広がりを感じさせる、透き通った黒。

決して穢れることなき、真実の色。

彼女の瞳も、髪も、そしてこの林も、すべてがこの世の美を象徴しているかのようだった。

彼女の、優華のそばに座って、
優華と一緒に、熱った両足を天の川の流れの中で癒しながら、

ホクトの思い出話は、ついに完結した。


「めでたしめでたし、と。」
「オォーーーーー!」

パチパチパチ…

静かで、それでいて深く心に響いてくるような拍手と歓声のなか、一週間ばりの長編話劇は、大盛況のうちに幕を閉じた。

優華は、驚きやら切なさやらを一緒くたにしたような感動で、胸が躍っていた。
ホクトの心は、涼やかな夏の夜風のなかで、雲ひとつ無く晴れ渡っていった。

優華は、しばらくの間ずっと感嘆の声を上げていた。

「すっごいトリックだなぁ〜。へぇ〜。ふ〜ん。少年の両親って、下手なドラマよりもすごい歴史を歩んできたわけだ。」
「うん、まあね。」
ホクトはなんだか、誇らしい気分になった。
「それにしても、兄弟にしか見えない親子って・・・・・・・・・・逆サザエさん一家ってやつ?」
「その点については・・・・・・否定できない。」
「あはは・・・・・・仲いいんだろうね。」
「うん。ぼくら家族だけじゃなくて、みんな、すごく仲いいよ。」

彼らは、今は居場所こそ離れてはいるが、確かに見えない線でつながっていた。
あの日、同じ空の下で出会い、同じ空の下で別れた彼ら。
今、彼らがどうしているかはわからない。
だが、ホクトの胸にも宿っている、この一本の糸。
『記憶』という名の線。
この線は、決して切れることはないだろう。
これから先も、ずっと・・・・・・・・・・

少し感傷に耽っていたホクトは、優華の声に我に返る。
「ところでさ、質問があるんですけど・・・・・・・・・・」
「何?」
「さっきの、“第3視点発現計画”のこと。」
「・・・・・・・・・・」
「その計画、なんかおかしくない?」
「え?」

優華は、あの計画に対する疑問点について指摘し始めた。

「点Dが2次元存在になったってことはさ、その平面は元の空間から独立した別の世界ってことになるよね?」
ホクトは少し思案して、
「・・・・・・・・・・そう、なるね。」
「てことはさ、その平面内には『点Dが2次元存在になるような新たな軸』が完成したわけだ。」
「そう、なの?」
「そうだよ!だって、もとの軸のままってことは、元の世界のままってことじゃん。点Dが平面から浮いてるような、ね。数学的にいえば、点Dがz座標をもつような。でも、新しい平面の世界では、点Dはその平面に張り付いちゃってるわけでしょ?つまり、これまた数学的に言えば、点Dにz座標を与えないような世界ってわけだ。」
「それで、何か問題でも?」
「おおありだよ!だってその平面内では、点ABCは自分達の作った直線から抜け出せないわけでしょ?ってことはぁ・・・・・・・・・・」

ホクトは、そこから続くであろう優華の言葉を推して言った。

「1次元存在だ・・・・・・・・・・」
「そう。その、点Dが2次元になって平面に張り付いちゃうような新しい世界の中では、点ABCはy座標を与えられないわけ。」

確かに、その通りだった。何故今まで気付かなかったのか?

「でも、それで構わないんじゃないかな?計画の目的は、平面を共有することなんだから。」
「じゃあなんで共有しようとしたの?」
「関係を持つためだよ。平面存在である自分達と、彼とを関係づけるために」
「元の世界でも関係はあったでしょ?点ABCがいる元のxy平面は、点Dのいる空間内の平面だったんだから。『視るもの視られるもの』の関係は、計画の前後で何も変わってないじゃない。」

徐々に、春香菜の計画が崩されていくのがわかった。

「でも、直線上に並んだところで、2次元は2次元だよ。ぼくらが決して2次元存在になれないようにね。」
「それなら、3次元は3次元、つまり点Dはその平面上においては何も変わってないわけだ?」
「いや!点Dは錯覚を起こして、自分だけ1次元落ちちゃったんだよ、きっと!」
「点Dが自分を2次元だって錯覚できたのも、自分が平面に取り込まれちゃうような軸の存在を感じたからでしょ?つまり、その世界の中にいた、と。そして、その世界で点Dは自分を2次元だと勘違いして平面内を自由に動き回ったとしても、でも点ABCは動けないわけじゃない。自分達が実際には2次元だと知ってようが知っていまいが関係ない。その平面内では動けない、というのは事実でしょ?」
「う〜ん・・・・・・・・・・もしかして、次元を揃える必要は無かったんじゃないかな。」

それなら、あの計画の目的はなんだったのか。
反論にもなっていないとわかっていたが、ホクトは半ば直感的にそう言った。

ホクトの直感――――

それは、次元を整えるとかそういうのではなく、

2034年の世界を、2017年の世界に見せかけること。
それ自体が、あの計画の目的だったのでは・・・・・・・・

そんなバカげた発言にも、優華は律儀に答えていった。

「じゃあ、そもそもあの計画の目的はなんだったのってことになるでしょ。それに、次元が違うままでいられるはずない。少年は“彼”と一緒に動いてたんでしょ?“彼”は、『断面が空間』という奇怪なサムシングなんだよ?3次元の君に乗り移って一緒に行動するなんて無理!」
「でも、“彼”は視点、つまり概念だったわけで・・・・・・・・・・」
「概念だろうが物体だろうが、カタチがあろうがあるまいが、関係ない。」
「・・・・・・・・・・」

そこで、ホクトは弾切れになった。

「でも、“彼”が降臨したのは事実なわけで・・・・・・・・・・」
「そうだよねぇ。だから私も不思議なんだけど・・・・・・・・・・でも、少なくともその計画は間違ってると思う。他に原因があるんだよ。」

他の原因―――――

ホクトと優華は思案し始めた。

その間の二人には、天の川のせせらぎは聞こえてこなかった。

二人の脳内にはいくつもの直線や曲線、平面や空間が、現れては消えていった。
ホクトはもう一度、あの事件について思い返してみる。

すると、あるひとつの言葉がホクトの思考を支配し始めた。

まるで独り言のように、そっと呟いた。

「第三の眼・・・・・・・・・・」
「第三の、眼?」

超人の証、最高の叡智。

優華がたずねる。
「それって、ムカシトカゲがもってる・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・いや」
「じゃあ、神様が持ってる、あれ?」
「そう。透視、望遠視、スーパービジョン、浄化の光を放つのもいる。」
「それが、どうかした?」
「第三の眼の能力には、未来視や過去視もある。」

そこで、優華は話がつながったと見え、あぁ〜〜〜、と唸ってみる。

ホクトは話を続ける。

「それがどう関係してるのかわからないけど、それがあれば次元の違いは問題にならないんじゃないかな。」
「話に出てきた、ココって子みたいに、3次元存在であっても時を越えられる・・・・・・・・・・」

つまりは、3次元が4次元のように行動できる・・・・・・・・・

「第3視点とは、『他人と5感を共有する』能力で、それでぼくらは互いにシンクロできたのかもしれない。」
「・・・・・・・・・・そもそも4次元と3次元に共有するものがあるってのが納得いかないし、せっかくいい話なのにそこだけ『第3の眼だからいいじゃん』ってうやむやにしちゃうのも嫌だけど、でも・・・・・・・・・・」

でも―――――

その神眼が、あの奇跡を生んだ・・・・・・・・・・

もしそれが答えなら、もうひとつの可能性が生まれる。

優華は、いたずらっぽい笑みを浮かべてホクトを見つめながら、言った。
「それじゃあ、少年にも第三の眼があるんだ・・・・・・・・・・」
「うん・・・・・・・・・・きっと、そうだと思う。」

不思議なことに、その可能性は自分の中ですんなりと受け入れられた。

また少し晴れてきた頭に、天の川のせせらぎが戻ってくる。

「もしそうなら、ロマンチックだね・・・・・・・・・・」

天の川のせせらぎと共に、
夜の世界の、二人の時間が戻ってくる。

ホクトは、上体を草の上に投げ出した。
頭上には、虫食いのような月夜の青白い空が見える。

優華も寝転んだ。

お互いの顔を見やり、微笑みあう。

ゆっくりと、手を地面に這わせていく。

ホクトの右手と、優華の左手は触れ合い、お互いの手を優しく包み込んでいく。

もう一度、視線を戻した。

ホクトは、右手越しに優華の体温を感じながら、
優華は、左手越しにホクトの体温を感じながら、

ほんの少しだけ垣間見える、青い夜空を眺めていた。

両足は、ひんやりとした天の川の流れに揉み解されていく。
風は、二人の体を軽く撫でてはすぎていく。
草木が、波の音を奏でる。

伸ばした手のひらから、お互いの体温を感じる。

ホクトは思った。

今このときが、永遠に続いてくれたら・・・・・・・・・・

時間の流れに抗って、ずっといつまでも、二人の時間をすごせたなら・・・・・・・・・・

これ以上の望みは、無い。

しかし、そんな望みもむなしく、ホクトは時計の存在を感じ続けていた。
ひどく緩慢な動きで、上体を起こす。
続いて優華も起き上がった。

両足が入っているところで歪んだ黒が、天の川が流れていることを教えてくれるのを見ながら、

二人は、まだ手をつないだままだった。
この手は、どうしても離しがたかった。
こうしてつながっていることで、二人は、夜の世界を、二人だけの時間を、より一層強く感じていることができた。

ふいに、優華が話しかけてきた。

「ねぇ、七夕伝説って・・・・・・・・・・・・知ってる?」
「名前だけなら。」
優華の声に溺れながら、ホクトは答えた。
「話、聞かせてくれたから、そのお礼に聞かせたげる。」
はにかみながら笑う彼女に、ホクトはますます陶酔していった。

優華は、ゆっくりと話し始めた。

「夜空に輝く天の川のほとりに、天帝の娘で織女と呼ばれる、それは美しい天女が住んでいました。」

織女は、天を支配している父・天帝の言いつけをよく守り、毎日機織に精をだしていた。
織女の織る布はそれは見事で、五色に光り輝き、季節の移り変わりと共に色取りを変える、不思議な錦だった。
天帝は娘の働きぶりに感心していたが、年頃の娘なのに化粧ひとつせず、恋をする暇もない娘を不憫に思い、天の川の西に住んでいる、働き者の牽牛という牛飼いの青年と結婚させることにした。
こうして織女と牽牛の二人は、新しい生活を始めた。

しかし、結婚してからの織女は、牽牛との暮らしに夢中で毎日はしゃぎまわってばかりで、機織をすっかり止めてしまったのだった。

天帝も、始めはこんな二人を新婚だからと大目に見ていたが、
いつまでもそんな有様が続くと、さすがに眉をひそめざるを得ない。
天帝はすっかり腹を立ててしまい、二人のところへ出向くと、

『織女よ、はたを織ることが天職であることを忘れてしまったのか。心得違いをいつもでも放って置くわけにはいかない。再び天の川の岸辺に戻って、機織に精を出しなさい。』

更に付け加えて、

『心を入れ替えて一生懸命仕事をするなら、年に一度、七月七日の夜に牽牛と会うことを許してやろう。』

と申し渡した。

織女は牽牛と離れて暮らすのがとても辛く、涙にくれるばかりだったが、父・天帝に背くこともできず、
牽牛に別れを告げると、うな垂れて天の川の東に帰っていった。

それ以来、自分の行いを反省した織女は、年に一度の牽牛との再会を励みに、以前のように機織に精を出すようになった。
牽牛も勿論思いは同じ、働いて働いて・・・・・・

七月七日の夜を待った。

ところが、二人が待ち焦がれた七月七日に雨が降ると、天の川の水かさが増して、織女は向こう岸に渡ることができなくなってしまう。
川上に上弦の月がかかっていても、つれない月の舟人は、織女を渡してはくれない。
二人は天の川の東と西にたたずみ、
お互いに切ない思いを交わしながら、川面を眺めて涙を流すのだった。

しかし、そんな二人を見かね、どこからともなくかささぎの群れが飛んできて、
天の川に翼と翼を広げて橋となり、織女を牽牛のもとへ渡す手助けをしてくれるのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

話し終わって、優華は一息ついた。

足元で漆黒に沈む天の川を、二人で見つめる。

優華の話を聞いているとき、ホクトは不思議な感覚にとらわれていた。


遠く、遥かに遠く、にじんだ色彩だけが見える記憶のなかに引き込まれていって、

静かな波の音と、

暖かに包み込んでいく風の感触と、

それから、誰かの声が聞こえた。

それは、母に抱かれているときのような、

全てを預けてしまってもいい不思議な安心感と温もりを、ホクトに与えていた。

すぐ脇で、優華の声が聞こえる。

奥深い記憶の琴線に、直接触れてくるような声が・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・年、少年!」
「あ、え、何?」
一瞬、呆けていた自分に気付くホクト。
「だ、大丈夫?」
あんな話をしたせいだろうか、優華の様子も少し固かった。
「うん、別に大丈夫。優華の話し方が上手くて引き込まれちゃった。」

その一言に、優華の額から首筋までが一気にその輝きを増す。
気恥ずかしさにうつむく優華。握った左手を生き物のように動かし始める。

ややどもりながら、言葉をつないでいく。

「あ、の、あのさ、話に、子守、唄・・・・・・子守唄、でてきたよね。」
「うん。」
「それ、唄ってくれないかな・・・・・・」
「あ、ああ・・・・・・。うん・・・・・・」

『月と海の子守唄』
話の中では、ホクトはその唄を単調に話しただけだった。
うたうのは、あまり自信が無かったからだ。

でも、今は・・・・・・・・・・・・

「うん。いいよ。」

ホクトはまだ、遥か遠くの記憶の国にいた。

唄いだす。
あの日々の記憶に直結している、思い出の子守唄を――――

頭上で、月夜の空が広がる。

波の音が聞こえてくる。

足元に、水の心地よい流れを感じる。




波の音が聞こえる。

暖かな風に包まれていく。

頭上の夜空が、どこまでも終わりなく広がっている。

傍らに、黒髪の少女が座っている。

緑濃い草原の上で、

二人は小さな膝を抱え、海の彼方の地平線を眺めていた。

今はまだ、空も海も、黒く、

しかし、黒く透き通っていた。

『私の口からは言えません―――――』
『・・・・・・・・って言ったら信じる?―――――』
『可能性はあります―――――』
『ふふっ、あなた・・・・・・・・本当に優秀みたいね―――――』

白い無機質な部屋の中央

二人の思索が交じり合い、一つの高度な知識の塔を築きあげる。

『ぼくが・・・・・・・・を守る――――』

誰かの声

決意と怒りが炎となって、閃く。

『あなたは、全人類の夢。そして、かけがえの無い私の娘―――――』

誰かの姿

長い黒髪と、深い黒の瞳。

『一緒に消えよう――――』

誰かの感触

やさしく、胸に染み込んでいく。


姫――――




「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

どれだけの間、そうしていただろう。

二人は、ずっと黙り込んでいた。

『七夕伝説』
『月と海の子守唄』

もうとっくになじんでいたはずの夜の世界に、今また別世界が現れたかのようだった。

その世界は、まるで遠く離れた故郷のように、二人の心にセピア色に染み込んでいった。

記憶の屋根裏の奥深くに、眠りについていた『何か』。
ほこりまみれの『それ』は、確かな重量感をもって、意識に語りかけてくる。

その感触を味わうかのように、二人は肩を並べて、

手を握り合って、

無言でたたずんでいた。

沈黙を破ったのは、ホクトだった。

手を離して、両足を拭いていく。
靴を履いて、立ち上がった。

「もう、寝なきゃ。」

そういって、タオルを差し出す。

「・・・・・・うん。」

優華はタオルを受け取り、両足を拭いていく。
靴を履いて、立ち上がった。

高い位置で、二人の視線が交わる。

ホクトは、どこまでも底深い、黒い瞳をみつめていた。

優華もまた、ホクトの美しい金色の瞳に見入っていた。

はるか下方に、天の川の流れる音を感じながら、

二人は、ずっとそうしていた。

話し始めたのは、優華のほうだった。

「・・・・・・ありがとう・・・・・・」
「え・・・・・・?」

突然の優華の言葉に、驚くホクト。

「・・・・・・・・・・・・」
「ど、どうしたの・・・・・・?」

少しうつむいて、黙り込む優華。

やがて、

「だめだね・・・・・・私、弱いから・・・・・・やっぱり、甘えちゃう、な・・・・・・」

優華はうつむいたままだった。
その表情はうかがえない。

やがて、唾を飲み込む音がして、

それからゆっくりと、話し始めた。

「昼間はいつだって、どこかで誰かが見てた・・・・・・。私の声も聞かれてた。だから、いままで誰とも、本当の話ができなかった。」
「・・・・・・・・・・・・」

突然の優華の話に、硬直してしまうホクト。

「でも、夜の間だけは、その『目』から逃れられた。」

優華は、毎晩のようにここへ来た。

「でも、夜はみんな眠ってるから・・・・・・」

優華は一人、小川のほとりに佇んでいた。

「さみし、かった・・・・・・」

聞こえてくるのは、川のせせらぎと、波の音だけだった。

「だから、こんなに楽しいのは、久しぶりだった。・・・ううん、初めてかもしれない。」

この一週間、救われていたのは、ホクトだけではなかった。

「ありがと・・・・・・」

言葉と共に、1つ、また1つ、うつむいた優華の黒い瞳から、大粒の涙が零れ落ちていく。

ホクトは、いまだに言葉を失ったまま、優華の告白を必死に飲み込もうとしていた。

突然何を言い出すのか。

ついに言葉の意味はわからなかったが、

わからなかったが、それでも

(自分に、何ができるだろう?)

暗い林の中で、必死に言葉を探しても、ただただ空しさが募るばかりだった。

頭は、もうわけがわからずに、今にも混乱しそうだった。

しかし、目の前に、涙を流す少女がいて・・・・・・

今の自分に、できること・・・・・・

「優・・・・・・・・・・・・」

またも、自分の中で何の抵抗もなく受け入れられていた。

それはまるで、以前にも一度経験したことがあるかのように、

躊躇無く、一歩一歩、歩を進めていく。

震える優華の肩を、両手でそっと包み込む。

優華は、ホクトの胸にその身を預けてきた。

黒く滑らかな髪を、優しく撫で続ける。

慎重に、壊さぬように・・・・・・

「なんで・・・・・・なんで優は、監視されてるの・・・・・・?」

素朴な疑問をぶつける。

「・・・・・・・・・・・・」

優華は答えない。

「逃げよう。」

それは、幼いホクトの中に生まれた、素直な気持ちだった。

「理由は、ぼくにはわからないけど・・・・・・でも、優が、そのせいで辛い思いをしてるなら・・・・・・」
「だめだよ・・・・・・」

いまにも消えてしまいそうなか細い声で、話す。

「私の体の中に、発信機が埋め込まれてる・・・・・・だからどこにも、逃げられないの・・・・・・」
「発信機・・・・・・?」

体のなかに・・・・・・?

一体なぜ、そこまで・・・・・・

わからない。

何もわからない。

自分には、何もできないなら・・・・・・

「優・・・・・・」

ホクトは、ほんの少しだけ、優華を抱く腕に力をこめる。

優華は、しゃくりあげながら、ホクトの胸の中で話し始めた。

「ずっと、あえる、よね?明日も、明後日も、ずっと、ずっと、あえるよね?」

「うん・・・・・・。大丈夫だよ。ぼくは、いつでもここにいるから・・・・・・」

華奢な優華の肩を、もう一度、より一層大事に、やさしくつつみこんで、

少しだけ、その肩を離す。

優華の瞳が、すぐそばにある。

涙で濡れたその黒い瞳は、さらに一層美しく見えた。

ホクトと優華は、どちらからともなく近づいていった。

今度は、少し恥ずかしくもなった。




ひんやりとした、月の青白く遠慮気味な光を感じながら、

二人は、軽く、ほんのわずか、唇を交わし合った――――






(第4話 終)


あとがき

というわけで、『第4話 時の生まれる場所で』でした。
どうもです。ニーソです。

というわけで、第1話以来のあとがき〜

はてさて、ホクトと優華の恋物語です。
この恋の展開の早さには、もちろん『裏』がありますので、ぜひぜひご期待をば…(宣伝

それから優華の指摘についてですが、これは今後の展開の布石…みたいなもんなので、あんま気にしないであげて下さい。
イヂられると泣いちゃいますから・゜・(/Д`)・゜・ウワアアン

とりあえず、SSというよりも、
『Ever17にこんな裏があっても面白いよな』という、いわばもう一つのシナリオ、もう一つの『Ever17』とでも思っていただけると助かります。

ところで、「Je nach」とか「Heilmittel」を目覚ましにすると、
すごい気分よく目覚められるですよ!

何つーかこう…やさしく起こされるっつーか…

……関係ないけどな(´Д`)y-┛~~

今回で物語的にキリがいいのと他所用ありまして、第5話は少し間をおかせていただきます。

それでは〜


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