カタ、カタカタカタカタカタ…………
真夏の夜、世間一般は夏休みと呼ぶ期間…
一軒家二階建てである倉成家に、キーボードを打つ音が響く。
「えーっと…………のデータが………になって………だから………」
少しだけだが、沙羅の部屋から声が漏れて聞こえてくる。
カタカタカタカタカタ…………
「………よし!一通り出来た…後は走らせてのお楽しみ…」
キーボードを打つ音がやんだ。
「お願い…動いて!」
カチ!
キュイィィィィィィィィィィィィィン……………
沙羅がエンターキーを押したと同時に、軽いモーターの駆動音が聞こえ始める。
しかしすぐに駆動音はなくなり、代わりに元気な女の子の声が聞こえた。



「おはようございますっ、マスター!」






『人間ではないもの』
                              チョコシュー

前編







チュン、チュチュン…
すずめの鳴き声が、朝を告げる。
「んぁ……」
そして、すずめの鳴き声とともに倉成武が目を覚ました。
隣に妻である倉成つぐみのいるベッドから出て、背伸びをする武。
「んーっ。今日もいい天気だなぁ…ん?」
しかし、今日の朝は武にとって異常だった。
すぐにそれが分かる。
「…なんだ…?この匂いは…」
倉成家に、何かの匂いが充満しているのだ。
しかし、悪臭とは程遠く、むしろいい匂いだ。
どうやら、朝食の匂いのようだ。
「つぐみ…な、わけないし。ホクト…は、部活の朝連でもう居ないし……沙羅か…?」
つぐみは、隣で寝ている。息子である倉成ホクトは、バスケット部のエースとして活躍し、
今日も朝の部活練習ですでに家を出ている。
しかし、娘である倉成沙羅はつぐみに似て料理は殺人的と言っても過言ではないはずなのだ。
「このうまそうな匂いも……」
きっと、味自体はとんでもなくまずいに違いない。
そう思った武は、すぐさま着替えて下に降りて行った。
しかし…

「おはよう…パパ…」

思わぬところで想定していなかった人物に挨拶された。
「さ、沙羅…どうしてお前がここに…?」
武は思わず聞く。
「どうしてって起きたから顔洗ってただけだけど…」
「じ、じゃあ、台所で料理しているやつは…だれだ?」
「さぁ…?」
パジャマ姿の沙羅は、寝ぼけ眼で言う。
武はわけが分からずとりあえず台所に向かった。
しかし、この時後ろで沙羅が
ニヤソ…
と、効果音がついてもおかしくない笑みを浮かべた。
「……………」
息を殺して、台所を武が覗くと…

「フンフン〜♪フンフッフフーン〜♪」

鼻歌を歌いながら、料理している
身長…約153p、髪は金髪のツインテール。
耳に妙なアンテナが立ち、メイド服の格好をした見るからにイタイ女の子が台所にいた。
「な、なんだありゃ…」
不法侵入者だと思った武は、口をあんぐりと開け怒りを通り越してあきれている。
「フフフ、パパ。あれが一体何なのか知りたいでござるか?」
「…何通りかの予想はつくんだが…あんなのやってくるの俺の周りにいっぱいいるから…」
「あ〜ん、パパ〜聞いてほしいでござるよ〜」
「…じゃ沙羅、アレハイッタイナンナンダ?」
もう、お前しかいないよ。
そう思いながらも律儀に、聞いてあげる武。棒読みだが。
「フフフ、よく聞いてくれました!あれは私の技術の全てを結集した、メイドさんアンドロイド「アプリル」なのです!!」
沙羅が、何かをコトコトに煮込んでお玉でかき混ぜているイタイ女の子を指差す。
「…………頭痛い…………」
頭を抱えてしゃがみこむ武。
「パパ…それは一体どういう意味でござるか?」
自分の作品(?)をけなされたとあって、実の父親に本気でつぐみ顔負けの殺意を向ける沙羅。
「いや…深い意味はない…」
ツッコミどころ満載で、もう武の芸人根性がツッコまずにはいられないが、命のために必死に胸の内にしまう。
「あれ実は自由研究なんだよね」
「はぁ?!」
いきなり驚愕の事実を知らされた武は、思わずすっとんきょうな声を出す。
「自由研究って、あれでか?!」
武がアプリルを指差す。その先でアプリルは、手が見えないほどの高速で野菜を全て均等に切っている。
「…どうやって作った…?」
「あ、もちろんボディーは田中先生が作ったよ?私にあそこまでのスキルはないし。
私がやったのは、プログラミング。空のデータを元にして、行動パターンから人間がする微妙なしぐさ、
はたまた言葉使いまでプログラムしたんだよー!ねぇ、ほめてほめて!!」
沙羅が笑って武に近寄るが、武の顔は暗くなっていく。
「…沙羅…お前、何をしたか自分で分かって言ってるんだよな?」
真顔になる武。
彼は今、仲間であり、友人であり、自分の事を好いてくれている茜ヶ崎空のことを思っているのだろう。
「うん、自分が何をしたのか分かっているつもりだよ。」
武の雰囲気に気づき、真面目に受け答えする沙羅。
「大丈夫、ちゃんと大事にするよ。人間として、なにより友達としてね」
「そうか…」
武は自分の手を沙羅の頭の上に乗せる。
「さすがは俺の娘だ!!」
そして、高速で頭をなでた。
「いたたたた!嬉しいけど、痛いよお父さん!」
武が沙羅の頭をなでていると、
「あ、おはようございます!武さん!マスター!」
アプリルが気づいて元気よく挨拶してきた。しかし外見通りに言葉も痛かった。
「…マスターって誰?」
あきれた表情で、沙羅に聞く。
「あー、本当は皆名前で呼んでもらうはずだったんだけど…
プログラムのバグか入力データのミスか知らないけど、私だけマスターって呼ばれてるんだよね…」
沙羅も、どうしよう という顔で言う。
「俺の名前を知ってるのは?」
「ああ、それはもちろん入力したから。皆の名前も知ってるよ」
「じゃあ、お前を呼ぶ時のイタイセリフは何とかならないのか?」
「うーん、複雑すぎるプログラムになっちゃったから…下手にいじるとあぶなそうだし…
構造が自分じゃ分からない部分があるから、プログラムを走らせちゃった以上もう手は出しようもないし出したくないんだよね…」
「…あ、そう…」
わけがわからなすぎて、目を回す武。
「あのー、お二人ともどうかなさいましたか?」
二人の深刻そうな顔に、心配を覚えたアプリルが顔を覗きこむ。
「「いや、気にしないで…」」
声をそろえて二人は答える。
「??? あ、お食事の用意が出来ましたが…すぐに食べますか?」
気づけば先ほどよりおいしそうな匂いが、倉成家を包んでいた。
「だ、大丈夫なのか…?」という顔をしながら沙羅を見れば、
胸をはってふんぞり返っている沙羅がいるので味は大丈夫そうだ。
「あ、ああ。すぐに食べる。今つぐみも起こしてくるから、用意してくれ」
「わかりました!」
元気よく返事をしたアプリルは、すぐに台所に戻りお皿に料理を盛り付け始める。
「じゃ、つぐみ起こしてくる」
「いってらっしゃーい…」
なぜか、沙羅は怯えていた。


「つぐみー、飯だぞー」
「Zzzzz…」
武がつぐみの体をゆすって起こそうとするが、つぐみは気持ちよさそうに寝ている。
「つぐみー!飯だぞー!!」
「Zzzzz…むにゃむにゃ…」
大声を出しても起きないらしい。
しかも
「むー…うるしゃいぃ…」

シュ…

「ぐはぁ!!」

ドゴン!

喰らった後に音が鳴るボディーブローを、武はみぞおちに喰らっていた。
「やっぱり…こうなると思ったでござるよ…」
ドアの向こうから沙羅が顔を出す。
「く、くそ…つぐみめ…」
腹を抱えながら、武が方膝をつきながら立ち上がる。
「パパ…ちょっと怖い思いするかもしれないけど起こす方法があるよ?」
「ほう…どんな方法だ?」
「クローゼットに隠れて見てて…」
そういうと沙羅は、つぐみの近くにより武がクローゼットに隠れ終わったのを見ると

「あー!パパが女の人を連れ込んでるー!!」

武にとって、とんでもない事を大声で言ってくれた。
「なんですってぇぇぇぇ!!!!!」
ガバ!
つぐみが人間としてありえない速度で体を起こす。
「たーけーしぃぃぃぃ!!」
と、吼えながら武を探そうとするつぐみを
「冗談だよママ。パパにそんな度胸ないって」
と、聞き捨てならないこと言って、即行でつぐみをなだめる沙羅。
「…そういえばそうよね」
そこ、納得してるんじゃない…
と、武は心の中で思った。
決して口にはださない。
「それで、武はどこ?」
つぐみはあたりを見渡しながら、沙羅に聞いた。
「そこ。クローゼットの中」
沙羅が言うと同時に、武はクローゼットの中から出て来る。
「…なんで、そんなところに?」
「…お前を起こすためにだよ…」
「??」
あえて本当の理由を言わない武。
誰でも自分の身は可愛いものだ。
「そんなことより飯、できたぞ」
「うん。楽しみだな、武のご飯はおいしいもんね」
「……………」
武は何も言わない。
「…?武?」
「まぁまぁ、いいから早く下に行こうよママ」
沙羅がつぐみの手を引っ張りながらせかす。
「え、ええ。そうね」
つぐみと沙羅は寝室から出て行く。
出る間際、沙羅は武の顔を見て
ありがとう、パパ。
と、言う顔をしてウインクをした。
武はそれに答えて
グッジョブ。
と、言いたそうに親指を突き出した。
つぐみは、もちろん二人のやり取りに気づかなかった。

下に下りたつぐみは、リビングのテーブルに並べられた料理を見て絶句する。
「………」
口をあんぐりと開けたつぐみの目には、朝から食べきれるわけがない量の料理が所狭しと並べられていた。
「す、凄い量…」
沙羅も一緒に口を開けている。
「…食えねぇよ、こんな量…」
武も料理の多さに、また怒りを通り越してあきれている。
そして
「あ、おはようございます。つぐみさん!」
新たな料理を持ってきたアプリルが台所から現れた。
「…………(ギロ!!!)」
つぐみの目が熊ですら逃げて行きそうな殺気を放って、
0.01秒の早業で武の胸倉をつかんだ。
「マ、ママ?!」
「ち、ちがう!つぐみ、誤解だ!!」
つぐみの手が武の胸倉をちぎりとるかのように、更なる力がこもる。
「何がどう誤解なのか、ゆっくりと話し合いましょう…?」
「さ、沙羅!は、早く説明してやってくれ!!」
「あ…あー、ママ。大丈夫、パパは何もしてないよ」
「…どういうこと?」
つぐみは武の胸倉をつかみながら、首だけを沙羅に向けた。
「あれは、田中先生に頼んで作成してもらったボディに、私がプログラムしたAIを搭載したメイドアンドロイドだよ」
「…………優が作った体?」
沙羅にも武に向けられた殺気の10分の1がほど向けられた。
「だ、大丈夫だよ。ちゃんと何か小細工がないか、空と桑古木さんにチェックしてもらったから…」
「…………」
つぐみは武の体を床に下ろす。
「ごめんなさい、武。私の勘違いだったみたい」
「い、いや。別にいいんだ」
「むー、ママをパパのように驚かそうと思ったのに…」
「…そう思うんだったら、女性型ではなく男性型にすべきだマイドーター…」
…気づけよ…
と思いながらつっこみをする武。
「あー、女性型しか用意出来ないって田中先生が…本当は男性型で、お兄ちゃんに似せようと思ったのに…(ボソ」
「…謀ったな、優…」
沙羅の危ない一言を無視して、超極悪マッドサイエンティスト、田中優美清春香菜のあくどく笑う顔を思い浮かべる武。
「超極悪」は言いすぎかもしれないが。
ガス!!
「いてぇ!」
武は何故かのけぞる。
辺りを見回すが、つぐみも沙羅もすでに席に座っている。
「???」
「どうしたの、武?」
「い、いや…なんでもない」
一瞬、田中優美清春香菜が次元の壁を越えて殴ってきたような感覚があった。
が、そんな感覚があっただけで真相はどうかは誰も分からなかった。
おかしいと思いつつも、武も席に座る。
目の前のテーブルには、丁寧に盛り付けされた料理が置いてあった。
「それでは、どうぞ召し上がれ!」
「いただきます!」
それぞれ、箸を伸ばして食事を始める。
口に入れて、料理の味を感じた瞬間全員が固まった。
「??」
アプリルは、不思議そうに全員の顔を見る。
「お…」
「ど、どうかなさいましたか?!も、もしかして料理がまずかったとかですか!?あわわわわわわ、ど、どど、どうしましょう!」
あわてるアプリルをよそに、沙羅とつぐみの言った事はアプリルの予想に反していた。
「お、おいしい…」
「はい?」
アプリルは、混乱した。
「いや、だからおいしいよ?下手すると、お父さんやお兄ちゃんより」
沙羅が、混乱したアプリルに理由を言う。
「ほ、本当ですか?!ありがとうございますマスター!」
アプリルが、恐ろしい速度で頭を下げる。沙羅はわずかに残っていた、キュレイ種の驚異的な反応速度で
殺人的なヘットバットから、何とか避けていた。
「…?武?」
つぐみが、先ほどから黙ったままだった武の方を向く。
「………………!!」
武がいきなり泣き出した。
「ど、どうしたの、武?!」
つぐみが心配そうに、武をみる。
「…久しぶりに、女性の手作りのご飯を食べた…」
「は?」
武は嗚咽をもらしながら、言った。
「久しぶりに、女性の手作りのご飯を食べた…懐かしい味がする…」
「…どういう事?」
わけが分からなそうな、顔をするつぐみと沙羅。
「もう、ご飯を作らなくてすむんだぁぁぁぁ!!」
いきなり涙を流しながら、絶叫しだした武。
「「………………」」
つぐみと沙羅は、黙りこんでしまった。
今日の朝は、ニコニコしながら皆が食べているのをじっと見ているアプリルと、
涙を流しながら「おいしい、おいしいよぉ!」と子供のように食べまくる武と、
暗い顔し、黙りながらひたすら食べ続けるつぐみと沙羅。
妙な4人が、妙な空間を作り出していた朝だった。



つづく



戯言か戯言で戯言なあとがき

どうも、チョコシューです。
メイドアンドロイドは微妙に男のロマンだと思っている馬鹿な男です。
笑ってやってください。ええ、それはもう高らかに!
でも、女性の方々。(なぜか女性限定
美少年が、「ご主人様」と呼んで自分を起こしてくれたり、
自分のためだけに食事を用意してくれたり、
自分のためだけに!尽くしてくれたりしてくれたらどう思いますか?!!
自分のためだけに…!!
自分のためだけにですよ?!!!
ちなみに、「美少年だったらメイドじゃないだろ」とお思いでしょうが、
その考えは即刻無視してくださいw(オイ
コ、コホン。
ま、まぁ馬鹿の戯言ですのであまりお気になさらずに…
ええ、馬鹿の戯言ですから…

それでは、ご意見、ご感想お待ちしております。
失礼します。


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