※「Ever17」と「ジョジョの奇妙な冒険」のミックスものです。
Stand by me!
                              豆腐
 けたたましいサイレンの音に、優美清春香菜は顔をあげた。
 しかし、見えるのは白い壁と、白い天井。発光板の明るすぎる光が部屋全体を照らしているが、そこには人っ子一人いなかった。
(なにか……あったのかしら)
 サイレンは鳴りつづけている。
 部屋の外からは人の悲鳴と足音が響いてきたが、しかし、だからといってここを離れるわけにもいかない。
 第一に、ここが救護室で、今、自分は患者を任されていたから。
 第二に、これはもしかしたら、またとないチャンスになるかもしれないから……。
 左の胸を撫でながら、優美清春香菜は視線を戻した。ベッドの上、熱中症だかなんだかで気を失っている少年に。
 ――しかし。
「え?」
 思わず漏れた素っ頓狂な声。
 ベッドの上には誰もいない。薄い毛布だけが乱暴に放り出されている。触れてみると、確かに温もりが残っていた。さすがに幻覚を見ていたという事はないようだ。
(つまり、サイレンの音で目を離した隙に……?)
 そんなもの、数秒あるかないかの間である。いったいどんな動きを……いや、それ以前に、なぜそんな真似をするのか?
 と。
「ムッ!」
 ソレに気づき、優美清春香菜は慌てて飛び退いた。
 ベッドの中央あたり。小さな染みができている。それは今まさに、上から垂れた水滴によって生まれたものだった。
 雨漏り、というのは冗談にもならない。
 顔をあげる。そして、見た――。
 苦しそうな、いや、どうしようもない状況でそれでも猛烈に怒っている、という表情で、先程までベッドの上で寝ていたはずの少年が、天井に張り付いていた。
 そう、まさに文字通りでありその通り。その少年は天井に張り付いている。
 両手両膝を天井に貼り付けさせるという非常識な四つん這いの体勢でこちらを睨んでいるその姿を見、しかし優美清春香菜の眼球が捉えるのはそれだけではない。
 少年の肩の辺り。黒い赤ん坊のようなイメェジがぼんやりと……、
「お前ぇっ!」
 初めて聞いた。少年の肉声。下のベッドに垂らすまでに、歯の隙間からジュブジュブと涎を吹き出しながらのその声は、汚く乱れていたが、それでもどこか聞き取りやすかった。
「お前もおぉぉ、僕の邪魔をするのかぁああっ!?」
「…………」
 注意深くその少年を睨みつけながら、優美清春香菜はじりじりと後退する。
「動くなあっ! うっかりブチ殺しちまうかもしれねえだろうがぁ!」
「――――。……さっきから、きゃんきゃんと……。自分が圧倒的優位に立ってるとでも思ってるの? 逆立ちしている分際で」
「ああぁあ? わけわかんねえ事を言うんじゃねえ! 僕にも分かるようにクレバーな会話をしやがれぇ!」
 もとより逃げおおせるなどとは思っていない。指を伸ばし、手近な所に置かれていたハサミを握り込む。
「ンンンまあ〜〜! そんな良く切れる清潔そうなハサミで僕を殺そうってのかあああ!?」
 先程まで少年を寝かせていたベッドに足をかけ、一息に飛び上がる。その勢いのままにハサミを突き出すが、
「っ」
 少年の肩にまとわりついていた黒い赤ん坊が、何気ない動作で手を伸ばし、あっさりと得物を奪っていった。さして驚く事もなく、優美清春香菜は床に着地。上は見ずに横に飛ぶと、一瞬前まで彼女がいた空間を鋭い切っ先が上下に過ぎった。
 奪ったハサミを、そのまま投げ下ろしてきたのだ。
 上を見る。少年が怒りの度合いを深めている。
「生身でどうにかなるかヨォォォォ! これ以上僕を煩わせるんじゃねええEEEEE! 不安で不安でたまらねええEEEEEんだよおおおおお! カ・モォゥン! 出せよお前の秘密を! 世間の目が気になるそいつをよおお!」
(……こいつ)
 どういうわけか、知っている。感づいている。
 こちらもまた、持っている事を。
「……いいわ」
「ンンン〜〜」
 必殺のタイミングで出し、一撃で終わらせようと思っていたのだが。
 相手が気づいていて、警戒しているのではそんな作戦は無駄に危険なだけだ。
 襲われた。だから、反逆する。激突する理由はそれで充分。
 力を込める。
 パワーを持つイメージが、すぐ近くで発現していくのを感じる。

 ――それは。
 形ある超能力。幽波紋。立ち向かうもの。

スタンド



 そしてそれを使う、
「スタンド使いは引かれ合う! どういう偶然か、わたしとあんたは出会うべくして出会ったようね!」
 優美清春香菜の隣り。拘束服で両腕を封ぜられ、漆黒の布で両目を禁じられ、ただただ赤くて真っ赤な口紅の塗られた口元だけをニィと歪ませたイメェジ。
 右手でそれを指し示しながら、優美清春香菜は叫んだ。
「私のスタンド、その名も素敵な”ガンパレード・ガール”! 幼い頃のトラウマと、特殊な二重螺旋構造から生まれたこのスタンド! 蹂躙されたくなければ大ニュートン先生に盲従して床に這いつくばりなさい、額を床に押し当てて謝罪の言葉を吐きなさい!」
「RYYYYYYYYY!!!」
 頭を掻き毟り、少年が優美清春香菜に充血した瞳を向ける。
 されど。
 その瞳には、先程とは違う色が――確かな悦びの色が窺えた。両膝で天井に張り付いたまま、両手を優美清春香菜の方に向け、何事かを叫ぼうと、口を開く――されど!
 その数瞬前に優美清春香菜は右手をザッと伸ばす。突きつけるように少年に指先を向け、彼女は叫んだ。
「謳えよガンパレード・ガール! WHHHOOOOOOOOOOHHHHHH!!!」
 優美清春香菜のスタンド能力、ガンパレード・ガールがその真っ赤に彩られた唇を上下に裂いた。瞬時。
「ぐげばあぁ!!」
 天井に張り付いたまま、少年が180度身を捻るように身悶える。耳鼻目と、それぞれからブシュッと血が噴出す。
「音響兵器ガンパレード・ガール! ガンパレード・ガールから発せられる超音波は、人体に有害! 悪影響! 気分が悪くなる! 数秒あればあんたの脳漿をぶちまけてやれるわ!」
「こ、こ、こおぉ……!」
 左手で左耳を押さえたまま、少年が犬歯を剥き出しにする。右手は優美清春香菜に向け、だがやはり、彼が何事かをしようとする前に、
「――遅い。謳えよ、――ヌっ!?」
 ぬるりとした感触。肌が粟立つのを感じながら、視線は下に向く。
「――――二体だとゥゥ!?」
 上半身だけを後ろにそらし、手首を直角に曲げ指先で足元の黒い赤ん坊を――少年の肩にいるスタンドと同型のスタンドを指差す。こちらの足首を掴み、にたりと笑みを浮かべるそいつは、ベッドの下にでも隠れていたという事かー!
「――まずいっ」
 呟く声はすでに遅い。優美清春香菜が再び上げた視線の先。少年と、その肩の黒い赤ん坊が同じようににたりという下卑た笑みを浮かべている。
「素敵なガンパレード・ガール、素晴らしいィィ! だが僕のベィビィ・ドールも愛くるしい! とてもとてもキューティクルゥゥ!」
 ぐんっ!、と引っ張られる感触。何が起こったのかと思う次の瞬間には、天井近く、少年の肩に憑く赤ん坊――ベィビィ・ドールAの右手に頭を掴まれていた。
(こ、こいつの能力は――!)
 天井に張り付く能力……何かにへばり付く能力であろうと思っていた。
 ――しかし!
「左様っ! 僕の愛らしいベィビィ・ドールの能力は物を吸い寄せる能力! 僕以外の全てを僕に従わせる能力ゥッ!
「こんな能力、頭の悪そうなあんたに御似合いだわっ!」
 こちらをにやにやしながら見ている少年の顔面に、拳を叩き込もうと――、ぐんっ!
「なぁっ!?」
 今度は更に後ろへと引かれる。眼前にあった少年の笑みが遠ざかる。
 視線を背後に向けると、もう一体のスタンド――ベィビィ・ドールBがにやりと笑んでいた。つまり、今度はそちら側に向かって引っ張られている
(確かに厄介な能力…! 面倒な超能力…!)
 が。
 ある程度、冷静に保たれていた優美清春香菜の思考は、次の瞬間真っ白になる。
 ベィビィ・ドールBが、ゆっくりともといた場所に……ベッドの下に身を隠した。Bに向かって引かれている自分は、つまり――
「ぬああぁっ!?」
 慌てて防御の姿勢をとろうとするが――動けない。
「くぅっ!」
 両手と両足、それぞれはAによって引かれているらしい。微妙な力加減によって、落下の速度はまったく減じずにこちらの動きだけを封じている!
「見誤った! こいつは熟練のスタンド使いだった! わたしのガンパレード・ガールが素敵過ぎるが故に違えたアァァッ!!」
 衝撃が、顔面から爪先までを突き抜けた――――。

   ●

「……やったぞ……」
 ベッドの上で手足を投げ出し動かない優美清春香菜を見下ろし、少年はニッと笑む。
「ようやく邪魔者を排除できたぞぉぉ……!」
 優美清春香菜が黙して倒れているベッドの下から、愛くるしい眼のベィビィ・ドールBが姿を現す。少年が手を振ると、ニニィと微笑んで小さな手を振り返してきた。
「クソ忌々しいタヌキに邪魔され……目を覚ましたらスタンド使いに遭遇し……ぼ、僕は切り抜けたぞォォォっ! これで任務を遂行できる! 末弟という理由だけで虐げられてきた僕が這い上がれるかもしれない! クソ兄やアホ兄やバカ兄どもを差し置いて! 僕が父様の跡を継げるかもしれないいいぃぃぃ!!」
 キキキキキキキ――、と口から漏れる声は歓喜のもの。どうしようもない喜び。頬を掻き毟り、側頭部を掻き毟り、喉元を掻き毟る。肩のベィビィ・ドールAも、床のBも、本体である少年の動きをトレースして楽しそうに同様の動きをする。
 そんなだったから、割り込んできた声によって動きを止めた彼らの表情は、呆、というものであった。
「――成る程。その任務とやらを遂行する為にこんな場所に来たわけね」
 音も無く。ベッドの上の優美清春香菜が、顔をあげた。
 傷一つ無い、綺麗な顔……。
「……如何して……」
「わたしの素敵なガンパレード・ガール。その射程は実にショート。わたしの叫びがない限り発動しないという点で極めてスロゥリィ。ガンパレード・ガールは極めて使い勝手が悪い……」
「そんなド低脳なスタンドでえぇえ! どうやって僕の野望を打ち砕くううう!」
「ガンパレード・ガールの拘束服はわたしを守る鎧となる! 私はスタンドによる攻撃以外を受け付けない堅固なボディを手に入れる!」
「なななななんだって――――!?」
「そしてぇっ!」
 ブレイク・ダンスのような動きで、優美清春香菜がベッドの上に立ち上がる。その隣りには、もちろん拘束服で両手を封ぜられ、黒布で両目を禁じられ、ただただ真っ赤な唇をニィと歪ませるガンパレード・ガール。
 優美清春香菜もまた。そのスタンドと同様、ニィと唇を歪める。
 少年は咄嗟に、まずい……ッ!、と思った。慌ててベィビィ・ドールBをベッドの下に移す。ベッドの上に立つ優美清春香菜、その下に潜むB――この陣形であれば――、
 ぐっ!、という感触を優美清春香菜は感じる。下方に引き寄せられている。
「これでぇっ! 動けまいいぃぃぃぃ!」
 スタンドの攻撃しか受け付けない体になるというのなら、いいだろう、望みどおりにしてやるだけだ。
 ずいぶんと長い間、天井に張り付いていた少年は、フッとその力を解くと、宙で一度だけ身をひねってリノリウム張りの床に着地した。優美清春香菜の真正面。距離にして五メートルもない。
「なぶり殺すしかねえみてえええだからなあああぁぁぁっ!」
 肩の上、ベィビィ・ドールAが顔をあげる。
「ひたすら地味にボコボコ殴れ! ベィビィィィィィィィィ!!」
 ひたすら地味にのっそりと移動を開始するベィビィ・ドールAを見下ろす位置で。
 優美清春香菜は、フ、と笑ってみせた。
「――甘い」
「なななななにが滑稽いいいいぃっ!?」
「この程度の重力ビームで私を停められると思うのが、甘いっ!」
 ボッ――、と燃える音がした。
「わたしとあなたのスタンド、非常に似ている。複数を併せ持つという点で非常に似ている! 類似する!」
 燃え上がったのは、ガンパレード・ガールを封ずる拘束服だった。その中から、真っ黒な両腕が抜き出される。
 恐怖に表情を歪ませる少年に対し、ガンパレード・ガールは拳を構える。
「これがガンパレード・ガール! その第二の姿!」
「ぬううううううううう!? い、いかんッッッ!」
 危険を感じ、判断は一瞬。Bの能力を解き、呼び寄せる。ベッドの下から這い出てきたBは、眼前に移動してきていたAに向かって手を伸ばした。Bの手と、Aのそれとが合わさり、溢れるのは輝き。
「むぅっ!?」
 優美清春香菜が眼をむいた。予想外の展開に隙を消してベッドの上で右の一歩を引く。
 両腕を掲げ、少年は咆哮をあげる。
「おいでませ! BAAAAAAABYYYYYYYYY!!!」
 光の中、姿を見せたのはおかっぱ頭の童女だった。紫の着物、赤の帯。やや吊り上がった丸い瞳が不敵な笑みを浮かべる。
「2人合わせて18歳! これが僕の真のスタンドォッ! ベィビィ・ドールの花嫁衣装! お前のスタンド、確かに似ている類似する! 僕のスタンドも第二の姿を持っている! その能力はあああああああ!!」
「合体スタンド・ベィビィ・ドール!? よくも隠し技なんて使ってくれたわ!」
 ガンパレード・ガールが地を蹴った。
 ベィビィ・ドールがゆるく宙に浮き、両手を構えた。
「ガンパレード・ガール! 突撃行軍歌! 全軍抜刀・全軍突撃! 容赦はしない油断もしない! ここから始まるのは蹂躙よ! WHHHHHHHHHHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!
「ベィビィ・ドール! 魔法の力を見せてやれ! あらゆる全てをぶっ壊せ! 見せつけろベィビィィィィ! 無ー駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ROOOOOORYYYYYYYYYEEEEEEEEEEEEEE!!!
 ガンパレード・ガールの猛烈な拳撃とベィビィ・ドール見えない衝撃波とがぶつかり合う。数度、数十度、数百度と爆ぜ合い、巻き起こった旋風が救護室の中を舐め尽くす。
 熾烈な攻防、申し合わせたかのように、最後は正面胸への一撃。撃砕し合う攻撃力をそこに置き、二人二体は同時に飛び退いた。
 中央、ベッドを挟み、優美清春香菜&ガンパレード・ガールは拳を引いた正拳突きの姿勢、対する少年とベィビィ・ドールは両手を胸の前で組みクロスを作る魔術の姿勢。
 静寂の一瞬が訪れ、動いたのは優美清春香菜だ。
 ガンパレード・ガールの視界を覆う黒い布が燃え上がる。下から現れたのは――黒のヴェールに隠されし、優しき母の眼差し。
「ガンパレード・ガール、第三の姿。これが最後の隠し玉よ」
 少年の顔が苦しげに歪む。しかし、同時の瞬間。
 ベィビィ・ドールが輝きを生む。光が晴れて現れたのは――背が伸び胸と尻が出た少年の理想の少女像。そのB/W/Hは奇跡の黄金比。
「ぼ、僕のかわいいベィビィ・ドール! 僕のピンチに奇跡を起こした! このスタンドは戦いの中で成長する!?」
 驚く顔は、即ち初見を表す。あるいはそのスタンド、本当に奇跡を起こすのか。
 優美清春香菜はフフと笑って必殺の為の一歩を踏み出す。
 少年が両腕を突き出し歯を見せる。
「僕の父様はギャング・スター! あてつけのように僕に変な名前を与えた! 名に意味があると信じ、僕は僕のスタンドをこう呼ぶ! ノット・ベィビィ・ドール! ソフ倫なんて恐くない! 乳呑児ではなくなった君にこの名を――スウィート・レイディー!」
「最後に言っておいてあげるわ。ずっと気になっていた。キューティクルは表皮とか甘皮の意味よ! オウチに帰って一家一丸で勉強しなさい! さあ、いざいざ――NOW!」
 音速を超える必殺の一撃拳が走る。
 爆音を響かせ熱衝撃波が走る。
 二つが溶け合い混じり合い、音も無く対決は決着を迎え、

   ――そして。

 …。
 ……。
 ………。

「ん……」
「目が覚めた?」
 少年が眼を開けると、そこには少女の顔があった。
「……え、っと」
「なに、しおらしくしちゃってるのよ。……なんかさ、私、久しぶりだったんだよねえ。こんなに暴れたのって。だからもう、いいわよね。忘れてたけど外の方で何かあったみたいだし、丁度、私が勝ったところだし」
「……勝った?」
「そ。なに、忘れちゃったの?――って、気絶しちゃってたんだっけ」
「……えっと」
「ん?」
「……あなたは、誰ですか?」
「…………名乗ってはいなかったけど……その反応から察するに、訊きたいのはそういう事じゃない、わよねえ……?」
「…………」
「…………」
 二人の間に沈黙が降りる。少女は頬を掻き、天井を仰ぎ――
 ま、いいかと呟いた。
「私は優。田中、優――。本当はもっと長い名前なんだけどね」


  続きはゲーム本編でお楽しみ下さい。(嘘)
 あとがき

◎ガンパレード・ガールの恐るべき特性!◎
ガンパレード・ガールは3つの形態(能力)を併せ持つ!

第一の能力:人体に有害な音波を発する! 拘束服は本体を守る!
第二の能力:ひたすら殴る! 殴る! 殴るゥッ! WHHOOOH!
第三の能力:必殺必中の音速拳! 関節を色々同時に動かすのがコツだ!

TOP / BBS /  








SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送