ここは、ライプリヒ製薬応接室前。
ちょうど今、正社員採用面接が行われていた。
そこに、一人の女性がいた。

「512番。」
「はい。」

コンコン!

「…入りたまえ。」
「失礼します。」

簡素な机と椅子。そこに、一人の男が居た。
男というより、青年に近いだろう。
遠くてよく見えないがそう歳ではなさそうだ。

「名前を述べたまえ。」
「私の名前は・・・茜ヶ崎 空です。」


無限ループは終わらない〜The endress of infinity〜
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第4.5話:空の空(カラノソラ)



青年は反応した。
その名前に。
反応せざるをえなかった。
この女性こそが、自分たちを補佐してくれる「最重要人物」なのだと知っていたからだ。

「…あ、あの…」
「…ああ。…かけたまえ。」

面接は無事終了し、筆記のほうも無事に終わった。

「それでは結果のほうは明後日に伝えるので・・以上。」

試験監督者が言う。
皆が帰り始める。
そしてその女性、茜ヶ崎空も帰ろうとした。
が、
ガシッ!!

「き、君。ちょっと待ってくれ。」
「…何でしょう・・・?」
「・・俺だよ、俺。…覚えてない?」

誰だっただろう?
今日こんな人と知り合った記憶は無い。
第一、今日は男性と話した覚えがないのだから。

「・・・どなたですか?」
「だーーっ!覚えてないのか?ほら、さっき面接のとき…」
「私、誰とも話していませんが…人違いでは?」

そう、この人は人違いをしてるんだ。
私に用があるはずが無いし、第一私はこの人を知らない。
きっと、きっとそうだ。

「違う違う。・・・面接官だよ。俺。」
「・・・・・えっ?」
「茜ヶ崎君・・だろ?」
「あ・・。」

そういえば、この声には聞き覚えがある。
ついさっきの事の上に、緊張して覚えきれていなかったのだ。

「すすす、すみません。とんだご無礼を・・・」
「あ、いいからいいから。気にすんなよ。・・あーいう堅苦しいの、俺好きじゃないんだ。」
「は、はあ。」
「じゃあ今から社長室に行くから、着いてきて。」
「しゃ、社長室、ですか?」
「ああ。」

社長室にこんなにも簡単に向かっていくこの人は、一体何者だろう。
秘書の類かもしれない。
それに、なぜかこの人とは話しやすかった。

「・・・ここだ。」
「・・・・。」

色々な思いがめぐってくる。・・だめだ、とてもじゃないがさっきの面接の比じゃない。緊張で体が動かない。

「・・社長、入りますよ。」

ガチャッ!
そこには社長というには若すぎる、20代前半の女性が一人、机に座っていた。
ゾクリと、寒気がした。
孤独の中に生きる美女。氷のように冷たく、透き通っていて、繊細で、しかしどこか寂しげで。
万物を自らの手中に入れてしまったかのような孤独感。それがいっそう寒気を引き出し、そしてこの圧力。
退治するものを完璧に圧倒する力。
まさしく、完璧だった。
こんな人がこの世に存在する世界は、やはり広かった。
そして、こちらを向く
・・・と、剣がとれたように温和な印象になった。

「あなたが、茜ヶ崎 空さんね。」
「は、はい。」
「私は、小町日真理。ライプリヒ製薬社長をしているわ。よろしくね。」
「よろしく、お願いします。」
「あなたには少し特別な仕事が用意してあるわ。履歴も読ませてもらったし。あなたの有能ぶりを買って、こいつの補佐・・・そうね、
大方、秘書みたいな仕事になるわね。それを頼みたいの。」
「秘書、ですか…えと、すみませんが、「こいつ」とは、どなたでしょうか…?」
「俺だよ俺。」
「そう。こいつのこと。」
「え?秘書の方に秘書をつけるのですか?…。」

いきなり静まり返る室内。
何か、まずい事でも言ってしまったのだろうか?

「…ぷっ!」
「っ、く、くく、くくく‥あっ、あっははははは!!!」
「…笑うなよ…。」
「‥だって、あなたのこと「秘書」だって・・・クスッ」
「・・・??」
「・・・。おっほん!いいかね、茜ヶ崎君。俺は、「秘書」じゃなくて、「副社長」なの。ふ・く・しゃ・ちょ・う!!」
「・・・え?・・・え、ええっ!!し、失礼しました!」

世の中は広い。
まさか副社長が面接官をやっているとは思いもしなかった。

「・・・似たようなものなんだけどね。」
「そこ!うるさいよ。」
「すみませんすみませんすみませんすみませんすみません・・・。」
「茜ヶ崎君もそんなに平謝りしなくていいって。分かればいいんだから。
・・そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は小町陸斗。このライプリヒ製薬の副社長で、今は社長代行だ。」
「え?・・・小町、さん・・・?」
「日真理は俺の妻なんだよ。」
「あ・・・。」
「今、私は育児休暇ってことで、この人に社長を代行してもらってるわけ。」

驚いた。
見た目は20代前後なのにもう子供もいるなんて・・・。
いくら結婚が晩年化してきているからといっても、まあ、それもおかしくはないか。

「・・・分かりました。引き受けます。その仕事。」
「ありがとう。私たちも助かるわ。」
「ああ。特に俺は大助かりだ。」
「だけどあなた、仕事サボっちゃだめよ?」
「・・・分かってるよ。」

そんなわけで、茜ヶ崎空は他の社員とは少し違った入社方法をとる事になった。

「それでは、茜ヶ崎君。君の最初の仕事は・・・。」

・・・・ゴクリ。

「これをもって、この紙に書いてある場所で会議があるから、俺の代わりに出席してくれ。」
「・・・え?」
「俺はやることがあってな。話を聞いて、この文書を相手側に提出してくれればいい。」
「は、はあ。」
「あ。話は簡単に記録しておいてくれ。それじゃあ。」
「ちょっ、副社長?!」

彼は何処と無く姿を消してしまった。
こんな感じの日常が始まった。
空が出席しているにもかかわらず、文句どころかお礼までいただく日々。
どんなに悪条件な契約でも成立してしまうこの文書。
・・・いったい、どんな手品を使えばこんなに契約がうまくいくのだろうか?
彼について、いくつか調べてみることにした。

小町陸斗。1969年4月1日生まれ。血液型B型。
ドイツ出身。それ以後の詳細はすべて抹消済み。

一日で、これだけしか調べられなかった。出身はドイツ。だからこの会社もドイツと日本の二つに本社がある。
そういえば、彼はいったいどこに行っているのだろう?

そのとき、彼女は気づいてしまった。
「彼女は小町陸斗のことばかり考えている」ということを。

そう。

彼女もまた、恋に落ちていた。






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