ここは、ライプリヒ製薬応接室前。 ちょうど今、正社員採用面接が行われていた。 そこに、一人の女性がいた。 「512番。」 「はい。」 コンコン! 「…入りたまえ。」 「失礼します。」 簡素な机と椅子。そこに、一人の男が居た。 男というより、青年に近いだろう。 遠くてよく見えないがそう歳ではなさそうだ。 「名前を述べたまえ。」 「私の名前は・・・茜ヶ崎 空です。」 |
無限ループは終わらない〜The endress of infinity〜 横右 |
青年は反応した。 その名前に。 反応せざるをえなかった。 この女性こそが、自分たちを補佐してくれる「最重要人物」なのだと知っていたからだ。 「…あ、あの…」 「…ああ。…かけたまえ。」 面接は無事終了し、筆記のほうも無事に終わった。 「それでは結果のほうは明後日に伝えるので・・以上。」 試験監督者が言う。 皆が帰り始める。 そしてその女性、茜ヶ崎空も帰ろうとした。 が、 ガシッ!! 「き、君。ちょっと待ってくれ。」 「…何でしょう・・・?」 「・・俺だよ、俺。…覚えてない?」 誰だっただろう? 今日こんな人と知り合った記憶は無い。 第一、今日は男性と話した覚えがないのだから。 「・・・どなたですか?」 「だーーっ!覚えてないのか?ほら、さっき面接のとき…」 「私、誰とも話していませんが…人違いでは?」 そう、この人は人違いをしてるんだ。 私に用があるはずが無いし、第一私はこの人を知らない。 きっと、きっとそうだ。 「違う違う。・・・面接官だよ。俺。」 「・・・・・えっ?」 「茜ヶ崎君・・だろ?」 「あ・・。」 そういえば、この声には聞き覚えがある。 ついさっきの事の上に、緊張して覚えきれていなかったのだ。 「すすす、すみません。とんだご無礼を・・・」 「あ、いいからいいから。気にすんなよ。・・あーいう堅苦しいの、俺好きじゃないんだ。」 「は、はあ。」 「じゃあ今から社長室に行くから、着いてきて。」 「しゃ、社長室、ですか?」 「ああ。」 社長室にこんなにも簡単に向かっていくこの人は、一体何者だろう。 秘書の類かもしれない。 それに、なぜかこの人とは話しやすかった。 「・・・ここだ。」 「・・・・。」 色々な思いがめぐってくる。・・だめだ、とてもじゃないがさっきの面接の比じゃない。緊張で体が動かない。 「・・社長、入りますよ。」 ガチャッ! そこには社長というには若すぎる、20代前半の女性が一人、机に座っていた。 ゾクリと、寒気がした。 孤独の中に生きる美女。氷のように冷たく、透き通っていて、繊細で、しかしどこか寂しげで。 万物を自らの手中に入れてしまったかのような孤独感。それがいっそう寒気を引き出し、そしてこの圧力。 退治するものを完璧に圧倒する力。 まさしく、完璧だった。 こんな人がこの世に存在する世界は、やはり広かった。 そして、こちらを向く ・・・と、剣がとれたように温和な印象になった。 「あなたが、茜ヶ崎 空さんね。」 「は、はい。」 「私は、小町日真理。ライプリヒ製薬社長をしているわ。よろしくね。」 「よろしく、お願いします。」 「あなたには少し特別な仕事が用意してあるわ。履歴も読ませてもらったし。あなたの有能ぶりを買って、こいつの補佐・・・そうね、 大方、秘書みたいな仕事になるわね。それを頼みたいの。」 「秘書、ですか…えと、すみませんが、「こいつ」とは、どなたでしょうか…?」 「俺だよ俺。」 「そう。こいつのこと。」 「え?秘書の方に秘書をつけるのですか?…。」 いきなり静まり返る室内。 何か、まずい事でも言ってしまったのだろうか? 「…ぷっ!」 「っ、く、くく、くくく‥あっ、あっははははは!!!」 「…笑うなよ…。」 「‥だって、あなたのこと「秘書」だって・・・クスッ」 「・・・??」 「・・・。おっほん!いいかね、茜ヶ崎君。俺は、「秘書」じゃなくて、「副社長」なの。ふ・く・しゃ・ちょ・う!!」 「・・・え?・・・え、ええっ!!し、失礼しました!」 世の中は広い。 まさか副社長が面接官をやっているとは思いもしなかった。 「・・・似たようなものなんだけどね。」 「そこ!うるさいよ。」 「すみませんすみませんすみませんすみませんすみません・・・。」 「茜ヶ崎君もそんなに平謝りしなくていいって。分かればいいんだから。 ・・そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は小町陸斗。このライプリヒ製薬の副社長で、今は社長代行だ。」 「え?・・・小町、さん・・・?」 「日真理は俺の妻なんだよ。」 「あ・・・。」 「今、私は育児休暇ってことで、この人に社長を代行してもらってるわけ。」 驚いた。 見た目は20代前後なのにもう子供もいるなんて・・・。 いくら結婚が晩年化してきているからといっても、まあ、それもおかしくはないか。 「・・・分かりました。引き受けます。その仕事。」 「ありがとう。私たちも助かるわ。」 「ああ。特に俺は大助かりだ。」 「だけどあなた、仕事サボっちゃだめよ?」 「・・・分かってるよ。」 そんなわけで、茜ヶ崎空は他の社員とは少し違った入社方法をとる事になった。 「それでは、茜ヶ崎君。君の最初の仕事は・・・。」 ・・・・ゴクリ。 「これをもって、この紙に書いてある場所で会議があるから、俺の代わりに出席してくれ。」 「・・・え?」 「俺はやることがあってな。話を聞いて、この文書を相手側に提出してくれればいい。」 「は、はあ。」 「あ。話は簡単に記録しておいてくれ。それじゃあ。」 「ちょっ、副社長?!」 彼は何処と無く姿を消してしまった。 こんな感じの日常が始まった。 空が出席しているにもかかわらず、文句どころかお礼までいただく日々。 どんなに悪条件な契約でも成立してしまうこの文書。 ・・・いったい、どんな手品を使えばこんなに契約がうまくいくのだろうか? 彼について、いくつか調べてみることにした。 小町陸斗。1969年4月1日生まれ。血液型B型。 ドイツ出身。それ以後の詳細はすべて抹消済み。 一日で、これだけしか調べられなかった。出身はドイツ。だからこの会社もドイツと日本の二つに本社がある。 そういえば、彼はいったいどこに行っているのだろう? そのとき、彼女は気づいてしまった。 「彼女は小町陸斗のことばかり考えている」ということを。 そう。 彼女もまた、恋に落ちていた。 |
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