午前10時17分 田中研究所3F 所長室 「おはよーさん」 「おはようございます」 「おはようでござるよ」 「…おはよう」 …各々ばらばらな挨拶と共に入ってくる一家四人。どれが誰の挨拶かは、語るまでもなかろう。 「く〜ら〜な〜り〜お〜そ〜い〜っ!!17分の遅刻。何やってたのよ!!」 「休日に呼びつけて、何様だっつーの!」 「ほう、上司に向かっていい度胸ね」 「こういうときにそれを持ち出すのは卑怯じゃねえか?」 「まあまあ、先生も、お父さんも落ち着いてよ。今日は喧嘩しに来た訳じゃないでしょう?」 真っ先に暗黒領域に飛び込む苦労人ホクト。…つくづく学ばない人種である。 そんな簡単に止められるなら、だれも苦労しないのである。 「ああ、ホクトはいい子だわ♪…倉成も見習いなさい」 「あんだとう!」 ほら。いわんこっちゃn― 「やめなさい」 あ、止まった。漆黒の王氣(オーラと読む)を纏う、倉成家の女王の前にあっけなく。 ホクト。まだまだ道は遠い。精進あるのみ。まあ、一生この領域には達しないだろうけど。 「と、まあそのことは置いといて。つぐみ、例のUV遮断クリーム、どう?」 あからさまに、話題を変える優。 「すごいわね、これ。まったく痛みを感じなかった。たぶん、完全に紫外線を遮断してると思う」 よっぽど嬉しかったのか、突っ込む事無くつぐみが応じる。 基本的に、つぐみは昼間外出できない。さすがに着ぐるみを日常生活で着るわけにもいかず、外出は常に日没 後か雨の時に限られた。 そんな彼女に、優は「現在研究中の完全UV遮断型のクリーム」の継続モニターリングを頼んだのだ。どうや ら、今回の品の結果は非常に良かったようである。まあ、これまで結構失敗作にも当たってもいるのだが。 「よかった。これ、結構応用利くのよ。つぐみでOK出たから、特許取る。うふふ、公開特許にして特許使用料が、 ええっと、○○億円位かしら。研究費考えてもお釣がくるわ…うふふ、うふふふふふっ…」 「………」 「………」 「………」 ああ、年月が優を変えてしまった。あのころの優は…などと思ってしまう2017年メンバーであった。 |
未来へ続く夢の道 −本編4 キュレイウィルス@− あんくん |
「さて、本題に入りましょうか」 優が表情を改める。 「『小町法』の成立に伴って、私たちキュレイは多くの権利を得た。だけど、それには義務も生じる。 キュレイウィルスに対する情報を一部公開しなければならなくなったわ。もちろん、ウィルスの性格上全部を公 開するのは危険ということで、重要な部分は伏せていいことになっている。だけど、」 「私は、基本的に分かっていること全てを公開することにした」 「ちょっと待て!いいのか、それで?」 たまらず、口を挟む武。 「俺と、所長が考え抜いて出した結論だ。武に、口を挟む権利は無い」 「桑古木。お前…」 「俺たちには17年のアドバンテージがある。キュレイの事、世界情勢、その他全てに関して。だから、すまない が所長の指示に従ってくれ。――頼む」 「…わかった」 「…話をもどすわ。これから話す内容は、キュレイウィルスに関する全て。公開する以上、あなた達にも知って いてもらわないといけない。公開内容とあなた達の発言が食い違えば、それだけで内容に疑惑を持たれるから。 ただし、時が来るまで他言無用でお願い。いいかしら?」 「分かった」 「うん、わかった」 「いいでござるよ」 「それでいいわ」 …キュレイウィルス。現在の呼称はヒト17番染色体p53遺伝子変異誘導型レトロウィルス・キュレイ株。略号表記 はCure Virus Human-17 p53(Cvh17p53)。通称はCvp53。 一本鎖RNA2本からなるRNA領域約68KDaのレトロウィルス。これに宿主由来とされる逆転写酵素、プライマー(※1) 及びエンベローブ(※2)が付属している。 「だけど、この2本は完全に相補関係(※3)なの。だから、研究者によっては二本鎖のRNAウイルスと考えている 人もいる。後で説明するけど、逆転写の特殊性からこの考え方が案外正しいのかもしれない」 基本的にサピエンス種の全ての細胞に感染可能。特に、造血幹細胞及び神経幹細胞(※4)に対して感染誘導性 (=好んで感染する)を有する。 感染後、他のレトロウィルスと同様に逆転写により宿主DNAに自身を転写する。2本のCvp53のRNAはそれぞれ別の DNAのp53遺伝子領域の全て及びその両端の一部を書き換える。 「ちょっと待ってくれ。レトロウィルスって、基本的に+型だろ。相補関係にあるRNAがそのまま逆転写できるのか?(※5)」 「ふふん、倉成にしちゃ鋭いじゃない。そこが特殊なのよ」 Cvp53のRNAはそれぞれCvp53+、Cvp53-と略称される。Cpv53+は通常の逆転写により転写される。特殊なのはCpv53- の逆転写である。-型のRNAウイルスは一度+型のmRNAに翻訳されて初めて活性を得るが、Cvp53-は、そのままでmRNA の活性を有する。その結果、DNAに転写された内容は、その環の反対側の内容とほぼ等しくなる(-環に入るはずの 内容が、+環に入ってしまうため)。反対側の塩基列は、遺伝子修復機能によりCvp53-に対応する塩基対に自動的に 書き換えられる。 「つまり、本来のp53の配置と比較して、繋がっているDNAの環が逆になるの。普通、こういうことって考えられな いんだけど」 こうしてキュレイウィルスによって書き換えられたp53はそれぞれの由来RNAによりCp53+,Cp53-と通称される。 この2本が、キュレイ種の特徴である「制御された不死化」を制御すると考えられている。 「ここから、ちょっと怖い話になるんだけど」 Cvp53の受容性には大きな個人差が存在する。受容性を有しない宿主細胞の場合、感染後、ウィルス増殖を除く 全ての代謝が急速に低下する。さらに17時間後、ウィルス増殖も停止し、細胞は一種の仮死状態になる。そのま ま放置しておくと、外的要因による細胞の劣化が起こり、確実に細胞はネクロトーシス(事故死)を引き起こす。 「造血幹細胞に感染誘導性をもっているから、最初にCvp53は骨髄の造血幹細胞に感染する。ということは」 「造血幹細胞って、血液を造る細胞、でござるよな」 「そうよ、沙羅」 「その造血幹細胞ってのが、死んじゃうんだよね」 「ええ、ホクト」 「となると、血液を作ることができなくなって」 「…骨髄性の再生不良性貧血を発症。ほぼ確実に死ぬわね」 「そういうこと。私たち、幸運だったってことね」 青ざめる武。そりゃそうだろう。運が悪ければ生還後すぐに死んでしまっていただろう、と宣言されたのだから。 「まあ、適合したんだからいいじゃない。そう思わない?『茜ヶ崎さん』」 「そうですね『所長』」 「!」「!」「!」「!」「!」 室内の空気が『変わった』 結構際どい話をしていたにもかかわらずへらへら笑っていた桑古木の顔から笑みが消え、 空の顔がLemu中央制御室で見せたそれになり、 優の顔が「田中先生」のそれに変わった。 「―――システム変更終了。所長室を『デフコン5』モードに変更。局地防衛機構及び防諜システムをインタセプ ト、リミッタ全解除。空システムの直轄に切り替えます。監視システムに完全同期クラッキング実行。虚偽映像 及びデータを転送中。最大欺瞞可能時間は連続時間で77分間と推定。最大誤差は±17分です」 「ありがとう、空。…手っ取り早く説明するわ」 もはや、誰も声ひとつ立てない。優を見たまま身じろぎ一つできないでいる。 「さっきまでのが公式な『キュレイウィルスの情報』。ここから先は『絶対に漏らしてはいけない最高機密』。 そのつもりで聞きなさい」 そして、語りだす。驚愕の、そして信じがたい真実を。 「さっき言った、Cvp53の不適合の話なんだけど…」 Cvp53に感染した細胞は全て仮死状態になる。この状態は「キュレイ化待機状態」と仮称される。 結論として、Cvp53のみの感染では、キュレイ種は誕生し得ない。 「それじゃ、なんで俺たちはキュレイになったんだ?」 「武。考えて。誰がキュレイウィルスは1種類だけって言った?」 「…まさか!そ、そんな、ありえない」 「まあ、ウィルス性疾患って原因ウィルスの種類こそ違え一種類ののウィルスが起こすものだから。発症に複数 のウィルスが必要なんて普通考えもしないもの。だけど、つぐみの言うとおり。キュレイウィルスは2つで一組の 夫婦ウィルスなの」 キュレイウィルス Cure Virus human-17 p17(Cvh17p17)公式名称は存在しない。知っている者は極小数。 ライプリヒ時代の研究者でさえ、数人を除いて知らされなかった極秘事項。通称Cvp17。 「コードネームは『ロック・スミス』」 「えっと、日本語で『錠前師』ですよね。鍵開けしたり、錠前を作ったりする人」 「なんでまたそんな名前を」 「これしか、対応する言葉が見つからなかったの。だって、このウィルスって」 「て?」 「冗談と不条理と非常識が輪になってダンスしているような存在。はっきり言って、学会なんかにそのまんま話 したら変人と言われそうなシロモノ。私だって、この事知ったときここは夢の中じゃないかって疑ったもの」 「なんじゃそりゃ?」 「と、に、か、く!そのつもりで聞きなさい。冗談としか思えないかもしれないけど、有り得ないって思うかも しれないけど、これは事実なの」 Cvp17の名称は、その一本鎖RNAのRNA領域分子量が17KDaであることに由来する。17塩基片が14組、周期的に接 続した単純な構造。それに逆転写酵素及びプライマー、エンベローブが付属している。RNAウィルスとしてはかな り小さい部類に入る。 Cvp53に感染した細胞に強い感染誘導性を有し、ほぼ99%以上の確率でキュレイ化待機状態の細胞に感染する。 このCvp17は逆転写により17番染色体後腕に存在するジャンク遺伝子領域(2005年発表の研究によりジャンク領 域の大部分がncRNAにかかわる遺伝子と分かったため、以降再度ヒト遺伝子の特定がなされた。(※6)しかし、 当該領域はその結果においてもジャンク(無意味)とされた)に転写されるのだが… 「転写位置、転写数、転写される環、全てまるっきりデタラメ。現在のサンプルで確認された転写された箇所の 存在する領域は片環の分子量で1.7MDaに及び、転写された数も最低1箇所から最大5箇所。同じDNAなら、同じ位 置・同じ箇所に転写されるんだけど、DNAが違うとまるっきり法則性ゼロ。接続する置き換わる端っこの塩基対に も法則はなし。時たま、本来の接続法則を無視した接続も確認されているわ。普通、こんなことになったら遺伝子 異常による障害が無秩序に発生するか、逆に何も起きないかのどちらかなんだけど…」 Cvp17によって書き換えられた領域(Cp1700と仮称されている)は遺伝子としての活性を示す。しかも、無秩序 に書き換えられているにもかかわらず、遺伝子としての機能はほぼ同一である。 この遺伝子の活性化により、細胞は完全にキュレイ化する。特徴は非常に多彩で、各終末細胞(※7)毎に異なる。 一言で言えば「暗号体系が切り替わった」と表現できるか。 神経伝達系・内分泌系(※8)に代表される、身体の制御機構のメカニズムが完全に切り替わる。同時に既存の 神経伝達・内分泌系も一部温存され、しばらくの間は両方のメカニズムが共存して生命維持を行うことがわかっている。 この変化は終末細胞にも及ぶ。Cp53+、Cp53-、Cp1700の三つしか遺伝子変化していないにもかかわらず、産生 する蛋白質、RNAはその種類・構成とも大幅にサピエンス種と異なる。 これらは、RNAを複製するときに参照するDNAの位置が大幅に変化している為と考えられている。 キュレイ細胞の分裂を高度に制御しているのも、この新しい内分泌・自律神経系のメカニズム及び終末細胞の 変化した代謝系であると考えられている。 その他に重大な特徴として、 @ 自在に終末細胞・体性幹細胞(※9)に相互変化でき、その特徴は元来細胞分裂を行わない心筋細胞等にも現 れる。その結果、本来再生できないはずの部位まで、幹細胞分裂によって再生・修復が可能になる。 体細胞に占める幹細胞の比率は、神経細胞で約5%、末端細胞で約1%程度である。ただし心臓等、本来細胞分裂 を行わない種類の幹細胞の終末細胞に対する比率は変動が激しい。これは、損傷部位の修復を幹細胞のみが担っ ている為におきていると推定される。最大分裂能は部位によって異なるが、大体幹細胞で30分間で1分裂、終末 細胞で3時間に1分裂である。細胞成熟にかかわる時間は平均で最速3時間。ただし、幹細胞への未分化逆行及び 幹細胞分裂の場合、最速30分で成熟幹細胞になる。 この場合、ある組織の98%を失い、残った細胞の内1%を全て細胞分裂による増殖再生に当てたら、逆行無分 化による幹細胞増殖を行わなかったと仮定しても約31時間で喪失した細胞を全て再生できる計算になる。 当然、消耗するエネルギーも莫大であるから、緊急時以外はこのような分裂は行われない。通常時はサピエン ス種と同等のスピードで分裂している。 A 造血幹細胞を除くと、ほぼ全ての細胞が短時間(約17時間)にキュレイウィルスを生産しなくなる。これは、 キュレイウィルスの遺伝子にウィルス産生の時間制限を行う因子が存在する為と考えられている。 また、キュレイウィルスの増殖自体ゆっくりであり、宿主細胞がウィルス増殖のため衰弱死することはほとん どない。 B Cp53+及びCp53-を鋳型とするRNAから合成される蛋白質の一種Cp53-p1が周辺の非キュレイ化細胞の分裂を高 度に抑制することが分かっている。また、Cp53-p1にはCvp53の感染誘導性が確認されており、Cp53-p1の細胞内量 が多いほどCvp53に感染しやすい。キュレイ化の促進にかかわっていると考えられている。 C テロメラーゼの発現。ほぼ全細胞にテロメラーゼ活性が生じる。 「確かに、冗談としか思えないわね」 「こんなのを認めたら現在の遺伝子学は崩壊するな」 「…難しくてよく解かんない」 「拙者も」 倉成一家はこんらんしている! 「―――とまあ、簡単に説明するとこんな感じ」 「って、これで簡単なのでござるか!」 「まだ難しいのがあるの?」 「まあ、沙羅やホクトには難しかったかもね。まあ、今すぐじゃなくてもいいから、少しづつ理解して頂戴」 「うう、自信無いでござるよ」 「うん、がんばるよ」 …性格がでてるなあ。 「さてと」 気を取り直した優が続ける。 「ここからは、Cp1700の役割についての仮説。はっきり言って荒唐無稽な内容だから。最後まで聞いてからなら、 笑ってもいいわよ」 「笑わない。私達の存在そのものが似たようなものだから」 「うん。ありがとう」 「…ねえ、アナグラムって知ってるわよね」 「あの『俳句』の事だね」 「正解。アナグラムって言うのは、文字列を並べ替え、別の意味をもたせる、または本来の意味を隠すこと。古 典的な暗号で『転置式暗号』って呼ばれるの。 で、同じ古典的な暗号の種類で『換字式暗号』てあるんだけど、知ってる?」 「たとえば、AをZで書くとか言うやつだろ」 「ほう、倉成もやるじゃない。基本的にはそういうこと。高度な『換字式暗号』の作成者は、表面上の意味を崩 さずに暗号を仕込むことができるの」 「それとキュレイとどういう関係があるのかしら」 「まあ、落ち着いて。 最新の暗号は、『鍵方式』って言って、『転置式暗号』の配置順や『換字式暗号』の文字の置換方法をアルゴ リズムで自由自在に変えているの。そのアルゴリズムが錠前で、一定の『鍵』を使う事によって暗号を解くの」 「もしかして、Cp1700がその『鍵』なのか?」 「まさか、まさか、倉成に正解を言われるとは!私、自信失くしそう―――」 「なにおう!」 「脱線はいい加減になさい!続きを」 「うう、つぐみが怖いよお。 倉成が正解。Cp1700はね、そのDNAにとっての『キュレイ種のアルゴリズムの鍵』なんだと思う。錠前であるア ルゴリズムは元が一緒でも自由自在に変えられる。多分、他の遺伝子の中に、そのアルゴリズムが存在するんじゃ ないかな。 Cp1700が発現して、DNAの中に暗号として仕込まれていたキュレイ種の遺伝情報・種族特性が表に出たんだと私 は考えている。だから、DNAがRNAを作るときの転写箇所が変わったりRNAスプライシング(※10)の形式が変わっ て、全くサピエンス種の細胞と異なる代謝をする『キュレイ細胞』が生まれる」 「だけど、遺伝情報ってのはね、『過去に経験しないと書き込めない』のよ。キュレイ種の遺伝情報が存在するっ てことは、サピエンス種―――いや、キュレイ化できた私達の先祖の中に確かに『キュレイ種』という人間種が 居たってことになる。サピエンス種との間に遺伝子的先天異常もなく、外見もほとんど変わらなく育つ子供が生 まれるんだから、生物種としてはかなり近い、ね。 たしかにサピエンス種の要素がかなり混じっているから私達は純粋な『原キュレイ種』じゃないだろうけど。 それでも、サピエンス種の進化の系統図の中に確かに『キュレイ種』はいる。そう考えないとつじつまがあわない」 「………」 「………」 「………」 「………そして優は言いたいんだな。それは『レムリア人』である可能性があると」 「そうよ。笑ってもらって結構。だけど世界のどこにもキュレイ種の種族痕跡が残ってないのなら、可能性はそ こしかない。地上から失われた大陸。そこにかつて生きていた存在。そう考えるしかない。 こんな話、どこの誰にも話せない。学会で話したところで変人呼ばわりされるのがオチよ。 これがCvp17の情報を隠す最大の理由。 私達キュレイ種が、それこそ『人にあらざる者』『狂った存在』であるというイメージを絶対に植えつけるわ けにいかないの。つぐみのおかげで私達は『人間』って認められた。それだけは、なにがあっても譲れない」 沈黙。 武、つぐみ、ホクト、沙羅、桑古木、空。 皆、言葉を失っていた。 ― To Be Continue ― (生化学用語の解説) (※1)プライマー … DNAやRNAを転写・複製する時の基点となる塩基群。転写の度に一定量が失われる。 細胞分裂の際DNAが複製されるが、そのときのプライマーがテロメアである。 (※2)エンベローブ… ウィルスがまとう外套のような膜。感染や免疫抵抗に大きな役割を持っている。キュレ イウィルスのそれは、非常に多彩で強力な能力を有していると推測される。 (※3)相補関係 … 鍵と鍵穴のような関係。RNAの場合、変化することなく結合して2本鎖になれるような組 み合わせを指す。 (※4)神経幹細胞 … 神経細胞を生み出せる細胞。成人には存在しないと考えられていたが脳の一部に存在す ることが最近分かった。 (※5)相補関係にあるRNAがそのまま逆転写できるのか? … 相補的なRNA対は、普通、一方しかmRNAとして機能しない。機能する方を+型、しないほう を-型という。-型は+型を作るための鋳型として作られる。現在知られているレトロウィル スのRNAは全て+型である。 基本的にmRNAのみが逆転写酵素によりDNAに翻訳・転写されうる。武が指摘しているのはそ の事。 (※6)2005年の研究… 日本の理化学研究所の最新研究結果。Ever17発売当時は存在していなかった研究事実で ある。これにより、ヒトゲノム研究及び遺伝子の特定は根本から大幅見直しを迫られている。 ncRNAとは、蛋白質を合成しないRNAのこと。この研究により一躍脚光を浴びている。 おかげで現在のヒトの遺伝子地図におけるジャンク遺伝子は、本当にジャンクか分からない。 もしかしたら片環1.7MDaのジャンク領域なんて17番染色体後腕にないかもしれない。 …どうしよう? (※7)終末細胞 … 作者の造語。ここでは、体細胞の内、機能分化(細胞の果たす役割)が決まり、これ以上 変化できない細胞のことを指している。幹細胞の対義語。正常だとテロメラーゼを持っていない。 また、幹細胞になることもできない。癌の場合、未分化になることもあるが、細胞として の機能は失われている。 (※8)内分泌系 … ホルモンを分泌し、身体の調整を行う器官及びその制御神経系の総称。広義ではホルモン そのものも指す。 キュレイ種が遺伝的にサピエンス種と異なる種ならば、内分泌系も当然異なると作者は考えている。 (※9)体性幹細胞 … 神経幹細胞・造血幹細胞以外の幹細胞の総称。テロメラーゼ活性を有し、幹細胞分裂に より終末細胞を生み出すことが出来る。 (※10)RNAスプライシング…RNAがDNAから複製される時行われる。実は複製されたRNAはDNAと同じではなく、さ まざまな加工が施される。RNAスプライシングとはDNAから複写されたRNA塩基列の一部 を取り除く作業で、ほとんど全てのRNA合成で行われる。全く同じDNAから複製された RNAでも、RNAスプライシングが異なれば当然塩基配列は完全には一致しない。 |
いきなり生物学の講義になってしまいました。ごめんなさい。 「キュレイウィルスが2種類で一組の夫婦ウィルス」という設定のSSは、恐らく初めて眼にされるんじゃないか と思います。 元々は勘違い(レトロウィルスはRNAが一本しかないと思い込んでいたんです(恥))から始まったんですが、 実際に書いてみるといろいろと都合がいいので、そのままこの設定を使うことにしました。 他に、キュレイ種の遺伝チャートとか、キュレイ周辺種にキュレイウィルスが感染しない理由とかの考察も進 めていますが、この長編の中に出てくるのはかなり先になります。(実は、ウィルスの設定に一番制限をかけて いるのがキュレイ種の遺伝チャートだったりします。生化学的にまじめに考えれば考えるほど『ありえなーい』 になっちゃうんです(涙)) ここから、しばらく(3話ほど)は幕間話。今度こそ、ほのぼのを! といいながら書くうちにシリアスになるんですが。 初心者なので、至らないことが多数あると思いますが。今後とも宜しくお付き合いくださいませ。 最後に、ここまで読んで下さり誠に有難うございました。 2006年3月18日 あんくん |
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