「まあ、すぐ報告する訳じゃないの。肝心の報告先『新国連キュレイ種保護委員会(New United Nations Cure
Protection Community  略称NUNCPC)』も正式には発足していないからね。でも、そう遠い未来でもないから
覚悟だけはしておいて」
 優の一言で、その場はお流れになった。



 つぐみは研究所に残った。優や桑古木とキュレイについて話し合いをするそうだ。
 どうやら、わざわざ空に細工してもらってまで所長室で話をしたのは、最悪の場合(つまり、盗聴等がなされ
ている場合)こちらにとって都合のいい事実のみ漏れるようにとの配慮らしい。実際には強力な防諜措置の施さ
れた部屋は別にいくつもあるらしく、その部屋で細かい話をすると言っていた。
 俺も残ると言ったんだが、
「ごめんなさい、これは私の超えないといけない壁。必要な時は、武を頼るから。だから、今は―――お願い」
と言われては、引き下がらざるを得なかった。



 ホクトと沙羅は、
「食事券とミュージカルのチケットもらったの♪ し、か、も、3人分! で、チケットの指定日が今日の午後4
時からだから、ホクトとマヨと一緒にいこうかな〜って、ダメ?」
「ミュージカルって、もしかして…」
「そうなのよー。あの、劇団○季の超話題作、発売即完売は当たり前ってアレなのよ!!!すっごく観たかった
んだけど、今までどーやってもチケット手に入らなかったのよこれが。全く日ごろの行いがいいと、こういう幸
運が舞い込んでくるものなのね〜〜♪♪♪」
「行くっ、行くでござる!お願いするでござるよ♪」
「うん、行く!ありがとうユウ♪」
「こお〜ら〜、抱きつかないのっ、照れるじゃない…ホクトならオッケーだけど」
「むむっ、沙羅はダメとおっしゃるか。ああ、ご無体でござるよ、なっきゅ殿…」
 ユウに引っ張られて出かけてしまった。



 多分、優の配慮なんだろう。
 今回の話、子供達には正直言って重過ぎる。今はいまいち実感が無いようだが。
 だから、とりあえず気分転換を兼ねてユウに二人を連れ出してもらうと。
 そういう細かい配慮が出来るのは、優のいいところだよな。





 それに比べて、俺は…
 新国連の件といい、今回の件といい、


 つぐみに、子供達に、どれだけのことをしてやれただろう―――



 思考の迷路に迷い込み、その後どう行動したのか覚えていない。
 気が付いた時、俺は公園のベンチに居た。




    
未来へ続く夢の道
−幕間1 幼子の心 賢者の智恵−

                              あんくん





 2035年10月7日 午後0時17分  


「あーっ、もうおひるの時間だー」
「あーん、もっと遊びたかったのに〜。でも帰らないとおこられるよー」
 目の前には、はしゃぐ子供達と、
「じゃーあ、とりあえず、バイバイだね?」
「うんっ♪ おねえちゃん、また遊ぼうね!ばいばーい」
「おねえちゃん、またひよこごっこしよーね♪ばいばーい」
 その中にあって全く違和感の無い『永遠のお子様』八神ココの姿があった。
「えっとね、えっとね、これからどうしよっかなー、って…!」

 思わず目が合ってしまった。

「あーーーーーーーーっ、たけぴょんだーーーーーー!!!! たけぴょんたけぴょーん!」
 とてとてとてーーーーっという表現が似合いそうな感じでココがこちらに駆けてくる。
 表現と駆けてくるスピードが釣り合わないのが難点だ。って、
「どわーっ、こら、飛びついて来るな、抱きつくなー!」
 ベンチに座っている俺に向かってココがフライングボディプレスをかましてくれた。痛い、これは痛い!
 実際体験しないと分からんと思うぞ、この痛み。
「わーい♪たけぴょんおひさしぶりー。たけぴょんはー、ココに会えてうれしいっしょ、うれしいっしょ?」
「うれしい、うれしいから離れろっ!だから、手を離せ、息が、で、き、ん」
 結局ココが離れてくれたのは、窒息する5秒前であった。



「で、なんでここにいるんだ?」
「えっとねー、空さんと待ち合わせしてたんだー。『今日はお昼までお仕事だから、お昼御飯はお外で食べまし
ょう』って」


 ココの両親は既に他界している。父親は2017年のIBFで。母親はその後ライプリヒの主催したIBF関連者の慰霊
祭でLemuを訪れ、その際にティーフブラウに感染して亡くなった。今更ながらにライプリヒの非道に怒りを覚え
る。あんな連中、滅びて当然だ。
 身寄りのなくなったココを最初に引き取ったのは優だった。が、程なく空が優の家から引っ越すことになった時に
『子供の一人くらい面倒見れて初めて一人前の女よ、空』
 という一言と共に、ココは茜ヶ崎家の一員となったのである。
…その時に『ウチに置いといたらいつ涼権がココを襲うかわかったもんじゃないし』と優がぼそっと呟いたのは
内緒だ。いや、俺は聞かなかった、うん。
 だが、結果として空とココの関係はとてもうまくいっているようだ。善哉善哉。


「なるほどな。って、すまん!」
「ほえ?どうしたの、たけぴょん?」
「多分、空は少し遅くなると思う」
 恐らくつぐみや優に付き合ってるんだろう。空はそういうお人よしなところがあるから。
「うーん、そっかー。お仕事じゃしょうがないね。それじゃーさー」
「うん?」
「空さん来るまで、たけぴょんとひよk―」
「だめ」
「えーっ、たけぴょん冷たいよー」
「だめったらだめ」
「しょーがないなー。それじゃー、お話じゃ、だめ?」
「まあ、それくらいなら」
 どうせ帰ったところですることは何も無いし、気晴らしになるかもしれないから。そう思って軽くOKした俺
であったが、



「たけぴょん、今、悩んでるでしょ?」



 真っ直ぐなココの瞳。
 見透かすような光をたたえたその瞳の前に、俺は身動き一つできなかった。



「ココね、すぐ分かったんだ。たけぴょんがいつもと違うなーって」
「―――どうして、分かるんだ?」
「分かんない。だけど、分かるの。ココはね、たけぴょんの事なら何でも分かるんだよ」
「………」
「つぐみんやホクたんやマヨちゃんのこと、なんだよね。たけぴょんってみんなの事しか考えてないもん」
「………ああ、そうだ」

 自分でも驚くような暗い声。想像以上に俺は参っているのかもしれない。

「うーん、そっかー。たけぴょんはねえ―――悔しいんだよ」
「!!!」
「顔にかいてあるの。たけぴょん、悔しいって。なんにもできなくて、悔しいって」
「そ、っか………」


 ここまで的確に言い当てられるとは。
 俺は言葉を失い、硬直する。
 ぐるぐる回る思考。
 そんな俺にココは―――






「でもね、たけぴょんは悔しがる必要なんて、ないの」



 『にぱっ』と笑って、そう言った。





 それこそ一番予想もしなかった言葉。ココの目をじっと見る。澄んだ無垢の瞳。優しさを湛えた、瞳。          
「ねえ、たけぴょん。たけぴょんは、たけぴょんだよね?」
「あ、ああ。そうだな」
「つぐみんは、つぐみんだよね?」
「???…まあ、そうだよな」
「うん、たけぴょんはたけぴょんでー、つぐみんはつぐみんなの。でもね」
「うん?」
「たけぴょんがたけぴょんだから、つぐみんはつぐみんなの。これって、わかるかな?」
「はあ?どういうことだ?」
「うーん。難しかったかなー。つまりね、たけぴょんが今のたけぴょんだから、つぐみんは今のつぐみんなんだよ。
たけぴょんは、なっきゅでも空さんでも、つぐみんでもないの。たけぴょんがね、なっきゅや空さんやつぐみん
になっちゃったら、たけぴょんはたけぴょんでなくなっちゃうんだよ?」
「あ…」
「そうなっちゃうと、つぐみんも、つぐみんでいられなくなっちゃうの。つぐみんは、つぐみんのままでいたい
んだって、ココは思うんだー。
 だからね、たけぴょんは、なっきゅや空さんやつぐみんになれないからって、悔しくならなくていいの。
たけぴょんはね、ずーっとたけぴょんでいなきゃ駄目なんだよ。たけぴょんがたけぴょんのままだったら、どん
なに変わったっていいの。でも、たけぴょんがたけぴょんじゃなくなるのは、絶対、駄目なんだよ。他の人にな
ったら、駄目なんだよ?」



 ココの言葉が心に染みる。 
 つかみどころのない、曖昧な言葉。でもココの言いたいことは、心で分かった。




 
 俺が、俺であること。
 俺が、家族にしてやれること。
 俺しか、家族にしてやれないこと。
 優しか出来ない事がある様に。空しか出来ない事がある様に。つぐみしか出来ない事がある様に。
 俺は、俺しか出来ない事をしなければならない。俺が、俺である故に出来ることを。



 心の霧が晴れていく。
 未だ、形にはなってはいないけど。少なくとも進みべき道は見えたような気がした。



「ありがとう、ココ。俺は大切な何かを忘れかけていたみたいだ」
「うん、たけぴょん分かったみたいだね。ココうれしいな〜。ご褒美に今からいもむー…」
「それは勘弁してくれ」
「ぶーぶー、ずるいっしょ、ずるいっしょ」
「今度ひよこごっこならしてやるから、それで許してくれ」
「うーん、しょうがないなー。約束だよ? ゆびきりだよ?」
「ああ、約束だ」

 ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます、

「指切った!」

 思わずお互い目が合って。

「わははははははははーーーーーーーー」
「うひゃひゃひゃひゃーーーーーーーー」

 思い切り笑った。秋の昼下がりの太陽の下で。




 視界の端に、向こうから駆けてくる空の姿が見えた。



                                   ―To be continue ―
 えっと、この幕間は、ほのぼの微シリアスの予定…だったんですが。
 これってほのぼの微シリアスとは―――言えないよねやっぱり。

 「シリアスクラッシャー」「全てが電波になる」問題電波少女、八神ココがメインの回です。
 ココ編のココは、『電波受信機』と『真実を見通す賢者』の両方を併せ持つ不思議なキャラクター。
 今回は電波状態をベースにして、その中で賢者部分を織り込もうとして書いたんですが………


 電波系壊れにならないように注意して書いたら、こんなシリアスなモノが出来上がってしまいました。
 後半、半分禅問答と化していますし。
 書くのが難しいキャラクターです、八神ココ。初心者にはココは荷が重いのか?

 
 …さて、気を取り直してっと。


 次と、その次まで、幕間、ほのぼの話。今度こそ、ほのぼのにするんだ!と決意だけする。


 最後に、このような駄文を読んでくださり誠に有難うございました。

                                         
 2006年3月18日   あんくん


TOP / BBS /  








SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送