2051年8月某日 午前11時50分 倉成家リビングルーム



「という訳。わかったかしら?」
 私は、話を締めくくる。
「「「ぱちぱちぱちー!!!」」」
 いつの間にか、聴衆は三人に増えていた。





未来へ続く夢の道−本編7 ファーストエピロ-グ セカンドプロローグ−
                              あんくん





「でもおばあちゃん、わたしたちのお母さんとお父さん、でばん少ないです…」
「ふーちゃんはまだいいよ。私のパパさんは、出番すらないじゃない」
「ねーねー、もっとお話、して?」


 我が三人の孫娘に詰め寄られる。
(こまったわね…まだ、この子たちには早いと思うんだけど)
 正直、この子達に真実を告げるつもりはまだ無い。
 卑怯と知りつつ、私はごまかすことにした。


「ところで、なっちゃん?」
「ほえ?」
 母親譲りのお揃いのショートカットの内、高い位置にある顔がこっちを向く。
「おばあちゃん、一年生に公民の宿題を出す小学校って知らないんだけど」
 
 ぎくっつ
 
 僅かに顔が強張る。母親と一緒で根は正直者なのよね。
 ひねくれ者の私にとって、正直羨ましい。
「えっと、おばあちゃん?」
「まあ、いいわ」
 露骨にほっとした表情。ふふっ、甘いわよ。
「叱るのは他の人にお願いするから…そうよね、秋香菜?」

 びくびくびくっ!!

脅えながら、恐る恐る振り向く我が孫娘。 
そこには、

「夏香菜、ちょっとこっちにいらっしゃい?」
 表面上は微笑みを湛えた(口元が引きつってはいるが)、彼女の母親の姿があった。
「ええっと、これはですね〜」
 無謀にも口答えしようとする夏香菜。
「夏香菜?」
 全く表情を動かさない嫁。
「あうーっ…」
 敗残者の歩調で、とぼとぼと母親の方へ歩み寄る。

「最初からそうしなさい、夏香菜。それと…」
 鋭い目線がこちらへ。
「とぼけるのは止めなさい、沙夜ちゃん」
「ええっと、なんの事ですか?秋香菜叔母さん?」
 あーあ、一気に二つも間違いを犯すなんて…もう知らないわ。

「うちの猪突猛進娘にこんな絡め手思いつく筈無いもの。黒幕はあなたでしょう、沙夜?」
「はうーっ、ごめんなさいーーー」
 むんずと衿首を掴まれ、引っ立てられていく沙夜。
 この年代に「おばさん」は禁句だってこと失念してたわね。まだまだ甘いわよ?
 こうして、孫娘二人はリビングより退場したのだった。


「えうえう、おねえちゃん、ごめんなさい…」
 すっかりしょげ返る、残された孫娘。
「冬香菜。お姉ちゃん達が大好きなのは分かるけど、あんまり言いなりになっちゃだめよ?」
 そんな彼女の、納まりの悪いショートカットの髪をなでてやる。
「だけどー」
 納得できない。そんな顔で、大きな目をこちらに向ける。
「とりあえず、お昼を頂きましょう。その内、お姉ちゃん達も戻ってくるでしょうし」
 ゆっくりと、横になっていたソファーから起き上がる。
「ああっ、おばあちゃん、むりしたらだめだよ〜!」
 大慌てで私の横に寄ってくる冬香菜。本当に、いい子。
「ふふっ、大丈夫。初めてじゃないから。それじゃ、行きましょう?」
 私は孫娘に手を引かれ、リビングを後にした。





2051年8月某日 午後1時00分 倉成家ダイニングルーム





「「「ご馳走様でしたー!」」」
 孫娘三人の声が重なる。

 結局、昼食が始まったのはあれから30分ほど後だった。
 既に用意自体は出来ていたのだが、
「おねえちゃんたちといっしょがいい!」
 と冬香菜が頑として譲らず、母親にこってりと絞られた姉貴分二人が戻ってくるのを待っていた為である。
(本当にお姉ちゃん子なんだから…)
 私と秋香奈は、苦笑するしかなかった。
 
 
「ねえねえ、おねえちゃん、あそぼ?」
 早速じゃれつく冬香奈。
「うん、遊ぼう遊ぼう…って何して遊ぶ?今日はお外に出ないほうがいいってお母さん言ってたの」
 流石に叱られた後だけに、母親の逆鱗に再び触れるのは嫌らしい。
「うーん、夏姉の部屋で考えよ?いろいろあるし」
 やや癖のあるツインテールの長い髪が揺れる。
「さーちゃん、実は私の部屋のアレが目的でしょ?」
 じと目。先ほど口車に乗ったばかりに酷い目にあった故、警戒している。
「わたし、さんせー!さー姉、なつ姉、いこうよー」
 そんな姉貴分達を、両手で引っ張る冬香奈。
「ほらほら、ふーちゃんもこう言ってることだし」
「…なんだか、納得できないけど。だけど、ふーちゃんがこれじゃ、しょうがないか」
 三人が部屋を出て行く。階段を登る音。


「どうのこうの言っても、二人とも冬香奈には甘いわね…」
「良い様に使ってるつもりで、実際は冬香奈が主導権、握ってますもんね」
 残された大人二人、顔を見合わせる。
「だけど二十年後、このままで居られるかなあ?あの三人」
 秋香奈の顔が、翳る。
 彼女が何を言いたいか、私には良く分かった。
「信じる事よ、秋香奈。そんなに柔な躾、していないでしょう?」
「まあ、怖いおばあちゃんもいるし」
「…言ってくれるわね。まあ、いいわ。
 未来を恐れる暇があったら、今出来ることをしましょう。今まで、私達そうやって来たじゃない?」
 秋香奈の額を、指で軽くちょんと突く。微かに緩む表情。
「そうね。お互い、自分で選んだ道だもの。最後まで走り通すわ」
「ふふっ、それでこそ貴女。悩んで凹んでる姿なんて似合わない。
 悩んで後悔するより、行動して後悔なさい」
「ちょっと、どっちにしても後悔するって事?!」
 むくれてみせる秋香奈。やっぱりこの子はこの顔の方が良く似合う。
「『後悔なんかしない』なんて嘘っぱち。そんなの只の偽善よ。
 人生は後悔の連続で出来ているの。後悔ゆえ後ろを向いたまま立ち止まるか、後悔を糧に前へ進むか。重要なのはそこなのよ?
 ホクトも貴女もたくさん後悔して来た筈。それでも、過去の自分の選択を否定できる?」
 真正面から、目を覗き込む。
「冗談言わないで。過去を否定したって何にもならない。そうでしょ?」
 …血は争えないか。この子見事なくらい優そっくり。何事も前だけ向いてまかり通る。無茶を無茶と考えない。
 だから、ホクトもこの娘を選んだ。あの選択を、した。
 辛くないはずは、絶対にない。それでも。選んだ道。
 そこに後悔はあっても、否定はない。
(どうやら、私が一番、甘かったみたいね)




私の意識は、過去のあの時へ、跳んで行った。





− First Sesson is Finished.
      New Sesson now start −

後書

 初心者が、長編に手を出すとどうなるか。骨の髄まで思い知ったあんくんです。
 とにかく、プロット以上に長くなる。「予定は未定」という言葉が真理であると悟らされました。それでも、なんとか、一区切りまでたどり着きました。

 正直、第一章は、この次の話までの予定でした。
 それが、「おひろめ」を書いているうちに、いつの間にか方向が変わっていきました。
 想像以上に、私はお約束好きなのかもしれません。
 あまりにベタで、書いていて恥かしかったくらいですから。


 まあ、ともあれ、これで第一章は終わりです。

 この後は、本編においては、つぐみと武は取り敢えず脇役に退き、2034年メンバーやN7メンバー、場合によってはオリキャラが前面に出てくる予定です。
 必然的に、オリジナル要素が強くなってきます。TTLLは幕間や外伝で書くつもりです。

 それでは、ここまで読んで頂き、有難うございました。
 先ほど述べたような展開を容認していただけるなら、今後とも読んでいただくとありがたいです。


2006年3月18日 あんくん


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