---生物学的に見るEver17--- 
玖堂つかさ

第二講:キュレイはホクトや沙羅にも感染する?!



 作中、キュレイウイルスは「ヒト属サピエンス種にしか感染しない」と闇医者が説明していますが、これはかなり怪しいと言えます。というのも、キュレイウイルスはジャンガリアンハムスターであるチャミにも感染しているからです。
 闇医者の言葉を「サピエンスキュレイ種のようなヒトの亜種に感染しないというだけ」と解釈することもできますが、そうすると「標的細胞」という観点から見るとおかしくなります。

 「標的細胞」というのはウイルスが宿主とすることの出来る細胞のことで、基本的に、ウイルスはそのウイルス種に特異的な細胞しか宿主にすることは出来ません。例えば、同じレトロウイルスであるHIV(ヒトエイズウイルス)はヒトにのみ感染するのですが、これはヒトのリンパ球の一種であるT細胞しか宿主に出来ないからなのです。ネコエイズなど他の種にもエイズ自体は存在していますが、これはHIVとは別のウイルスがエイズと同じ症状を引き起こしているだけなのです。
 逆に言えば、標的細胞さえ存在すれば他の種にも感染することが可能なわけです。例えば、標的細胞に似た細胞も宿主に出来るウイルスなどは種を超えて感染することもあります。
 また、HIVがヒトの筋細胞などを宿主と出来ないように、同種の生命体の体内であっても、標的細胞以外には感染することが出来ません。
 つまり、ウイルスが感染するかどうかというのは種ではなく細胞によって左右されるのです。更に言いますと、殆どの場合が細胞膜(細胞壁)や細胞質によって左右されています。

 従って、キュレイウイルスがチャミにも感染するということは、ハムスターにもキュレイウイルスの標的細胞が存在しており、それを宿主にしたものと思われます。しかし、感染当初のつぐみのいた施設(病院)ではネコやネズミなど、その他の動物で研究をしていたことや、キュレイウイルスがヒトの全ての細胞に感染出来る事実から、キュレイウイルスは似たような細胞であれば宿主に出来る、と考えられます。
 似たような細胞とは言いますが、ヒトの細胞でさえそれぞれの機能によってかなり違いのある細胞なのですから、それら全てに感染出来るキュレイウイルスは、もはや標的細胞という概念を持たない、全ての細胞に感染出来るウイルスなのかもしれません。
 さて、ここでサピエンスキュレイ種の細胞はどうかと考えますと、ホクトが身体的に優れ、沙羅が知能的に優れているとはいえ、キュレイ種の遺伝形質は劣性遺伝するということなので、優れている面もヒトとしての範疇であり、基本的にはヒトと同じ細胞を持つと思われます。ヒトの表皮細胞から神経細胞にまで感染することが出来、異種の動物の全ての細胞にさえ感染することの出来るキュレイウイルスが、ヒトに極めて近いサピエンスキュレイ種の細胞に感染出来ないということはまず考えられません。よって、サピエンスキュレイ種もキュレイウイルスの標的細胞を持っていると考えられます。

 以上のことから、闇医者の説明の意図はいくつかのケースに絞られます。
 一番目は、闇医者の研究や調査が充分でなく、キュレイウイルスがヒト以外に感染することを確認出来ていなかったため、純粋なヒトにしか感染しないはずだと結論付けていたケース。勿論、チャミやライプリヒの研究のことは知らなかった。
 二番目は、サピエンスキュレイ種にも感染する可能性があることを知ってはいたが、つぐみを安心させるために嘘をついたケース。
 三番目は、サピエンスキュレイ種を「ヒトの亜種」だと表現したが、それは表現の間違いで、実際のサピエンスキュレイ種はキュレイウイルスでさえ感染出来ない細胞を持つ、亜種という言葉では表せないほど他のどの生物からもかけ離れた存在であるケース。
 四番目は、本当にキュレイウイルスはサピエンスキュレイ種には感染しないというケース。

 一番のケースは、闇医者がライプリヒと全く繋がりがなく、かつ、個人の趣味というレベルでキュレイについて調べていたという程度ならありうるかと思われます。或いは、実験用の培養細胞に選んだ細胞が、偶然にもキュレイウイルスが感染出来ない細胞だったということも考えられます。例えば、培養細胞に未分化の細胞を使用していて、かつ、キュレイウイルスは未分化の細胞には感染出来ないといった特徴があった場合には、このケースが有力となります。仮に、キュレイウイルスが未分化の細胞に感染出来ないとすると、そこから分化した細胞はキュレイ細胞ではないわけですが、分化した細胞に逐次感染することによって個体からキュレイ細胞が無くなることはないので一応可能なように思われます。
 二番のケースは、闇社会の医者がそこまで親身になってくれるかどうかが微妙ですが、一応ありえます。
 三番のケースは、この事実はつぐみにとってあまりにもショックなので、あくまで「ヒトの亜種」という言葉を用いて柔らかく表現した、ということはあるかもしれません。これも、闇医者が良心をもっていたことが前提ですが。
 四番のケースは、まずないでしょう。なぜなら、ウイルスも生命なのですから、自己の保存と種の繁栄を第一義にしていると思われるからです。生命である以上、宿主となりうる細胞を持つ個体に侵入して、その標的細胞を宿主としないはずはないのです。そうしなければキュレイウイルスは死んでしまうのですから。ありえるとするならば、キュレイウイルスはウイルスの枠組みから外れ、生命という概念からさえ逸脱した「物体」である場合のみです。



 と、ここまで書きましたが、結局のところ、実際に培養して研究することが出来ない以上、正しいことはわかりません。個人的には1番が有力だとは思いますが、その他のケースも皆無というわけではありませんし。
 やはり、最終的にはプレイヤーの判断如何でしょうね。



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