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                              朝月

「始動する心の困惑」編


AD:2027 ライプリヒ製薬 研究棟

AM6:30

一人の男が歩いていた
コツコツコツ
青いジーンズにTシャツ、そして上から白衣を着込んだ男が歩いていた
コツコツコツ
男が扉の前に立ち、そして扉を開けた

男「おはよっす」

扉の向こうは、一人の男が寝ていた、否、倒れていた。

男「!?お前、宮下じゃねえか!おいっ、どうした!誰にやられた?」

宮下という男はかすかに意識を保っていた

宮下「うう・・・姐さん、ひどすぎるっすよ」

ガクッ

男「・・・死んじゃいねえな」

男はひとまず安心した
ガチャッ
奥の扉から一人の女性が出てきた、長い髪を下のほうで束ねブラウスとロングス
カートを着込み白衣がよく似合うその女性は男を見ると。

女性「あら、桑古木クン、おはよう」
桑「あ、おはようございます、って、槙さん!宮下が!」

槙という女性は桑古木の下を見た

槙「ああ、大丈夫よ、10分後には目、覚めるだろうから」

桑古木は思い出した

桑「またなんかヘンな実験したんすか!?」
槙「変とは侵害ねぇ、この実験が人類の大いなる第一歩になるかも知れないの
に」

桑古木は疑った、それには桑古木がこの女性、大河内 槙(おおこううち ま
き)なる
人物をどのような人物かをよく知っていたからである

―大河内 槙―
田中 優美清春香菜の大学時代の先輩にしてライプリヒ製薬の
研究員である。しかし、彼女はただの社員ではなかった。
ライプリヒ製薬の内部情勢をすみからすみまでを知り、
なおかつ、裏工作も難なくこなせる権力も持ち合わせていた。
研究員からは「姐さん」「姉御」「姉さん」など呼ばれている。
時には「影の社長」とまでうたわれた人物である。
桑古木も槙には世話になっていた。
廃棄されたIBFの管理、LeMUの再建など、彼女はやすやすと済ませた。
彼女がいなければ、こんなにも早くLeMUは再建されなかっただろう。
だが、彼女には悪い癖があった。それは、所かまわず研究中のウイルスを
研究員に打ち込むのである(もちろん極秘で!)
彼女曰く「人間に打ち込んで研究するのが一番手っ取り早い」である
打ち込まれた研究員に対しては、「免疫力向上もあって強い体になれるならいい
じゃない」
との事。
さすがにこれは桑古木も止めようとした。だが、「大丈夫、絶対外には漏れない
し。それに、私、特効薬を持ってるから死にはしないわよ。それに、裏でこそこ
そ人体実験してる奴らよりよっぽどマシよ」
そんな問題じゃない。していることは基本的に同じじゃないか。
だが、彼女には何を言っても無理だろう。
あの春香菜でさえ逆らえないのだ。桑古木はあきらめた。

桑「死人は出さないで下さいよ」
槙「誰に言ってるの?桑古木クン?」
桑「いえ、何でもないっす」
槙「よろしい」

桑古木は宮下を床に置き立ち上がった。

桑「仕事でも始めるか…」
槙「あ、ちょっと待った」
桑「へ?」
槙「今日、あなた休んでいいわよ」
桑「は?」

桑古木はあっけにとられた
リストラか!?まさか、そんな…。桑古木は心あたりを探った。
仕事をサボったことだろうか?
間違って槙のパソコンの電源を消してしまったことだろうか?
どの道、リストラは嫌だ。

桑「ちょ、ちょっと、リストラは勘弁してくださいよ!」
槙「は?」

今度は槙が驚いた表情をした

槙「何のこと?」
桑「今、今日は休んでいいって。有給意外に休みってリストラじゃ…」
槙「違うわよ、今日休んでもらいたいのはあなたに用事を頼みたいから」
桑「あ、そういうこと…」

槙はため息をついた

槙「ま、とにかく、用件を言うわ。昨日、なっきゅから電話があって、桑古木ク
ンを呼んできてくれって」
桑「そういえば、今日来てませんね」
槙「うん、なっきゅには別な用事頼んでいるから」
桑「そういえば、なんで優の奴、俺に直接連絡しないんだ?」
槙「あ、そういえばなっきゅが連絡しても全然繋がらないって怒ってたけど」
桑「あ…そういえば俺、一昨日PDAドブに落として修理に出してたんだっけ…」

槙はまたため息をついた。

槙「まあ、とにかく、早く行ってらっしゃい」
桑「わかりました。それじゃ行ってきます。」

桑古木は部屋を後にした

宮下「う…うん?あれ、ここは?」

下に倒れていた宮下が目を覚ました

槙「あら、宮下君、お目覚め?」
宮下「ひいいいいいいっ!あ、姐さん!いつからここに!?」
槙「いつからって、さっきからずっといたけど?何寝ぼけてるの?」
宮下「そ、そうですか…」
槙「それにしても残念ね…例の改良型ウイルス、感染力は高いけど致死率はそん
なに高くないわね。これじゃ兵器として使うのは無理ね」
宮下「そ、そうですか」
槙「そうだ!宮下君、もうひとつアラスカで発見された新種のウイルスがあるん
だけど、お願いしていいかしら?」
宮下「あ、姐さん!これ以上はやめてください!もう体が持ちません!」

宮下にはわかっていた説得は無謀なことが。だが

槙「いいわよ」
宮下「え、本当ですか!?」
槙「ただし!」
宮下「え?」
槙「今日、桑古木君が早退しちゃってね、彼の仕事を頼める人がいなくて困って
た所なの、彼の仕事お願いできる?」
宮下「よ、喜んで!」

彼は幸福だった、実験台にされるより仕事を押し付けられるほうがどんなに楽な
事か
宮下(桑古木ありがとう、本当にありがとう)
宮下は桑古木に深く感謝した

PM8:00
ピンポーン
桑古木は田中家のベルを押した。

優「はーい!」

扉の向こうから優の声が聞こえた。
ガチャ

優「あ、桑古木か、どうぞ入って」
桑「おう、邪魔するぜ」

桑古木は田中家のリビングに招き入れられる。
そして、ソファーに腰かけた。

優「今、コーヒー入れるからね」
桑「おう」

―5分後
優はコーヒーを2つ手にして来た

優「ブラックで、いいかな」
桑「ああ」

優は自分と桑古木の前のテーブルにコーヒーカップを置くと静かに反対のソ
ファーに
腰かけた
10年前より落ち着いた顔立ち、肩まで伸びた髪の毛、そして優秀なる知識を
持った
女性、それが優である。
彼女の成長はキュレイウイルスにより23歳で止まっていた。
10年前、ティーフ・ブラウに感染し、瀕死の状態だった彼らはキュレイウイル
スの
キャリアであるつぐみからティーフ・ブラウの抗体を注射した、そこからキュレ
イウイルスに感染し今に至る。
無論、桑古木も感染し成長は20歳で止まっていた

桑「すまなかったな」
優「え?」
桑「昨日、連絡つかなかっただろ?実はさ、一昨日PDAをドブに落としちゃって
さ、ハハハ」
優「そうなんだ、だから、連絡できなかったんだ、おかしいと思ったのよ」
桑「悪かった」
優「いいのよ、ちゃんとした理由があるなら私は何も言わないわ」
桑「すまねぇな」
優「あ、そうそう、今日、私が桑古木をここに呼んだ理由はね…」
桑「ああ、そうか、俺、その用事で来たんだっけ、で内容は?」
優「それがね、桑古木…実はマッキー先輩がちょっとしくじちゃってね」

マッキー先輩というのは、優が槙に名づけたあだ名である。

桑「槙さんが何をしくじったんだ?あの人がしくじるんだからよほどのことだと
…」
優「桑古木…落ち着いて聞いて…今IBFが危ないの」

桑古木はそれを聞き、立ち上がって優に詰め寄った

桑「どうしてIBFが危ないんだ!なにか、事故でも起きたのか!?」
優「だから落ち着いて聞いて!」
桑「わ、わかったよ…」

桑古木はおもわず後ろに下がった。そして、ソファーに戻る。どうやら優も焦っ
ている様だった。

桑「で、どうしたんだよ、いきなり、何だってそんな…」
優「実は、前からIBFの完全廃棄を決行することがライプリヒ製薬の中で始まっ
てたんだけど…」
桑「・・・・・・」

それは、桑古木も知っていた、槙を通じて情報が送られていたからだ。

優「その件に関してはマッキー先輩が阻止していたんだけど…ついに、ライプリ
ヒ製薬の本社であるドイツにIBF完全廃棄を求める文を本社に送ってしまった
の」
桑「それで、本社は何だって!?」

桑古木の表情がいっそう暗くなる。

優「正確に言うとその文章はさすがマッキー先輩というか…本社に送られた瞬間
にその文章は削除されたわ」
桑「そ、そうか…」

桑古木に安心したようにソファーにへたり込む。

優「問題はそれからなのよ、奴らはそれに気づき、本社へ直接命令書を貰いに
行ったの」
桑「なんだって?って、奴らって誰のことだ?」
優「私も、詳しいことはわからないんだけど…マッキー先輩の手が及ばない内部
組織らしいの…」
桑「・・・・・・」
優「でね、奴らは出張と偽り、外国に出ている誰かと思うんだけど…」
桑「そこから特定するのは困難ってワケか…」
優「何しろ大企業だからね…」
桑「で?俺は何をすればいい?阻止するあてはあるのか?」
優「出張で帰ってくる人物を徹底的に調べる!」
桑「なんてシンプルかつ単純なんだ…、まあ、実際それしかないよな」

桑古木はおもわず苦笑した。

優「で、それに抜擢されたのは、私たちキュレイ種ってわけ」
桑「なるほど…」
優「話は、それでおしまい。後は、どれだけ阻止できるかにかかっているわ、頼
むわよ、桑古木」
桑「ああ、やるだけやってみる…、いや、必ず阻止して見せるさ」

優は、安心した顔をして

優「そういえば、あなた倉成に似てきたわね」
桑「そりゃまぁ、武の役を演じるのが俺の役目だからな似ても来るだろ、だけど
…」
優「だけど?」

優は首をかしげる

桑「俺は武の役を演じるため日々練習している」
優「うん」
桑「だけど、武の役を演じた記憶がそのまま桑古木涼権っていう人格にそのまま
吸収されて俺、桑古木涼権が形成される」
優「・・・・・・」

優は黙って桑古木の話に聞き入っている

桑「そして、武そのものを演じきったそのとき、俺がどこかに消えそうな気がし
て、恐いんだ…」
優「桑古木…」
桑「そこにいるのは、倉成武?桑古木涼権?わからない、わからないんだ…」
優「・・・・・・」

優は黙ってしまった、もとい、言い返す言葉が見つからなかった。

桑「よっと…、俺はそろそろ帰らせてもらうよ」

そういうと、桑古木は立ち上がった

桑「なあ、優…俺は誰だろうな?」

そういうと優は落ち着いた口調でこう言った。

優「あなたは、あなたよ」
桑「だよなぁ」

桑古木は微笑む
―ズキン

桑「―っつ!」
優「桑古木!?」
桑「何でもない、少し、頭痛がしただけだ…」
優「大丈夫?」
桑「大丈夫だよこのくらい、それじゃ、お邪魔しましたっと」

桑古木は田中家を後にした。

―その日の午後 PM1:30 繁華街
桑古木は昼食を済ませようと繁華街に来ていた。
午前中は優の話とPDAの修理が終わったので店に取りに行っていた。
桑古木は、パンとジュースを買い、近くのベンチに座り込んでいた。
そして、考えていた、田中家でのあの事を――――――

桑「ふう、俺の人格、武の人格か」

ズキン
さっきから頭痛が止まらない

桑「風邪でもひいたかな、かえって寝るか。それにしても、俺はなんであんなこ
と優に言っちまったんだろうな」

桑古木はため息をついた。目の前は多くの人通る――――――

桑「俺は誰、か」

ズキン
頭痛がひどくなる。桑古木は頭を抑える。

桑「ヤベ、マジ帰らんと…死ぬ」

キミハ、ダレ?
人の声が聞こえてくる。それは通行人の声だろうか、それとも幻聴だろうか
ズキン ズキン

桑「くっ」

キミハ、ダレ?
ズキ ズキ ズキ

桑「そんなの、決まってんだろ…!」

ズキン ズキン ズキン
キミハ、ダレ?

桑「俺は――――――」

―ドサッ
桑古木はその場に崩れ、そして意識を失った。

―END―



―あとがきー
と、言うわけでまた、桑古木と優を中心にした話を書いてしまいました。
そして、初オリキャラ、初シリーズ物と、いろいろやってしまいました。
槙について 優春の先輩というキャラは以前から考えていました、もし、優春を
超える人がいたら…という感じで、作ったのがこの大河内 槙です、この人は皆さんの
目にどう映ったでしょうか?ご感想、お待ちしております。
次回はこの人がかなり活躍する!…と思います。
(オリキャラでこんなに活躍していいの?)って位に(オイオイ)


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