Ever 17−Be in two minds -
                              朝月

「意思と記憶の確率性」編


一人の女性がいた、その女性はある家の前に立っていた。
時間はPM1:00
丁度昼食を食べ終わり仕事に精を出そうかという時間である。
彼女は家の扉の前に立ち、ベルを鳴らす。

ピンポーン

?「はーい」

小柄な少女が扉を開けて出てきた。
どうやら小学生といったところだろうか。
少女は女性を不思議そうに見つめて、こう言った。

少女「あの、家に何か御用でしょうか?」

女性は少し間を置いてこう言った。

女性「ここに、田中優―――、いえ、田中ゆきえさんはいらっしゃるかしら」

少女はにこーっと笑った。

少女「お母さんですか?少々お待ちください」

少女はそう言って再び家の中に入っていった。

数分後―――

少女は再び扉を開けた。

少女「中でお母さんがお呼びです、中へどうぞ」
女性「ありがとう」

女性は家の中へ入った。

少女「こちらです、どうぞ」

女性は少女に連れられ、奥の部屋に案内された。

少女「では、ごゆっくりどうぞ」

少女は頭をペコリと下げた後、部屋から出ていった。
女性が部屋を見渡す、広くも無く、狭くも無く、早く言えば人が一人住むには
適した丁度いい部屋だった。
奥に一人の女性がデスクに座り黙々とパソコンを操作していた。

女性「この部屋に来るのは久しぶりね」

部屋を見渡していた女性がそう言うと、
パソコンを操作していた女性が振り向き、こう言った。

女性「あ、マッキー先輩、来てたんですか」
マッキー先輩「たった今ね」

―マッキー先輩―
本名、大河内槙 パソコンを操作していた女性、
田中優美清春香菜の先輩であり、製薬会社ライプリヒ製薬の研究員である。
容姿端麗、頭脳明晰、文武両道とまったく非の打ち所のない人間だが、
彼女には特殊な趣味があった。
それは、ウイルス改造 人体実験などである。
ブラウスにロングスカート、落ち着いた感じの服装に整った顔立ち
足の太ももまで伸びた髪を腰の辺りで縛った女性。
それが大河内槙という人物である。

槙「それで?頼んだものは手に入れられた?」
優「ええ、少々手間取りましたが…。そちらのファイルにまとめてあります」
槙「ありがとう」

槙はそう言ってファイルを取り、中を読み始めた。

槙「・・・・・・」
優「どうですか?」
槙「・・・これは」
優「え?」

優は首をかしげた。

槙「いいえ、何でもないわ、ありがとう、なっきゅ」
優「どういたしまして」
優「それより、先輩」
槙「何?」
優「どうして“それ”をわざわざ私に調べさせたんですか?
会社のコンピューターを使えば早いはずですよ?」
槙「念のためよ」
優「?」

優には解らなかった。

槙「ごめんなさい、これは、私の話だから」
優「そうですか」

優はそう言って微笑んだ。

優「あの、マッキー先輩…一つ、相談していいですか?」
槙「何?もしかして桑古木クンのこと?」
優「――――っ!?」

優は驚きを隠せなかった。
今、自分が考えていたことをピシャリと当てられたからだ。

槙「もしかして、大当たり?」

―――こくん。
優は黙って頷く。

槙「いくら彼のことが好きでも、それを伝えないとどうにも進まないわよ」
優「ええ、そんなことは――――って、違いますよ!」

優が声を張り上げる。

槙「あら、そお?私はってっきり…」
優「本当に違うんです!」

大声を上げて優は否定する。

槙「まぁまぁ、落ち着いて」
優「ぜはーっ、ぜはーっ…」

槙が優をなだめる。

槙「で?本当に心配なのは、何?」
優「実は、彼の精神状態のことなんですけど…」
槙「精神状態?」
優「はい、何か焦っているような…。うまく、言えないんですけど、自分で自分
を苦しめているっていうか…」
槙「・・・・・・」
優「ただの、思い過ごしかもしれませんけどね」

優は笑う。ただ、ゆっくりと。

槙「彼の精神状態か…、確かに今の彼は、あんまり、良いとは言えないわ」
優「え?」
槙「彼は、何でも一人で背負い込もうとしている、それはあなたも良くわかって
いることでしょ?」
優「ええ…」
槙「なぜ、人に頼ることを忘れてしまったのか、彼をそう変えたのは誰か、そし
て…それは誰のためか…」
優「・・・・・・」
槙「その辺、よく考えてみて、桑古木君に今必要なのはあなたの支えなんだか
ら」
優「…はい」

2人の話が落ちつた時、部屋のドアがノックされた。

コンコン

優「誰?」
?「お母さん、私よ私」
優「ユウ?何か用?」
ユウ「コーヒーとお茶菓子を持ってきたの、話、長くなると思って…」
優「ありがとう、ユウ。今、扉を開けるからちょっと待ってて」

優はそう言って立ち上がり、扉の前へ向かった。

ガチャリ

優は扉を開けて、ユウを出迎えた。
ユウはコーヒーとお茶菓子をデスクに置き、優と槙に一言いって部屋を出た。

槙「あの娘って、秋香菜?」
優「ええ、そうです」
槙「大きくなったわねぇ〜」
優「先輩、オバハン臭いですよ」

―――ムカッ

槙(なっきゅの毒舌を受け継いでないといいけどね…)

槙「それはそうと―――」
優「はい?」
槙「"あの事”彼女にはまだ話してないの?」
優「ええ…、あの子にはまだ荷が重過ぎる話ですから」

優の娘―――田中 優美清秋香菜は
優のクローンである。しかし、優はユウ(秋香菜)に
クローンであることを話してはいない。
そして自分の本当の名が優美清春香菜であることも―――。

槙「いざとなった時、話すのはつらいと思うけど?」
優「解っています、でも、これは私の使命ですから」
槙「そう―――」

槙はそう言ってコーヒーを飲んだ。

槙「私そろそろ戻るわ、このファイルの整理もしなくちゃならないし」
優「それなら、手伝いましょうか?」
槙「いいえ、あなたはゆっくり休日を楽しんでいて。…もっともすぐ手伝っても
らうことになるかもしれないけど」
優「…わかりました」
槙「じゃあね」

槙はそう言うと部屋を出て行った。
部屋には優が一人残された。

優「そういや…桑古木の奴…今何してんだろ…」

優は部屋に設置してある子機を手に取り
桑古木に連絡をした―――はずだった。

優「あんで…、繋がらんのじゃ〜!ボケぇ〜!」

優の声は部屋の外まで響いた。
その声を聞いていたユウは…。

ユウ「いつもの…お母さんじゃない…」



―同時刻―
俺は―――闇の中にいた深い、ただ、深い海のそこのような―――
ん?光が見える…。俺はこの闇から出られるのか?
あの光に―――
光に行こうとしたその時だった、何かに足をつかまれた。

なっ、なんだ!?

全身が闇に引き寄せられる。もう光に届かない―――。
後ろを見ると何やら人影が見える。

だ、誰だお前は!?

人影は笑った―――様な気がした。

ボク…?その前に、キミハ…ダレ?

俺!?ぐはっ…!?

急に息が苦しくなる。

ここは海の底なのか?くそっ…息が…

キミハ…ダレ?

後ろから声が聞こえる。

ぐ・・・・・・

キミハ…ダレ…?

俺は―――――

そこで意識が途切れた。否、目覚めた。

ガバッ

?「ここは・・・何処だ?」

俺はベッドの上で目覚めた。服は汗でぐっしょり濡れていた。
あたりを見渡す―――。ここは何処だ?
俺の記憶では知らぬ場所だった。

ガチャリ

奥の扉が開く

女性「あっ、目、覚めた?」

扉の奥から見知らぬ女の人が出てきた。

?「あんたは?」
女性「私?私はこの診療所の院長をしている…深冬」
?「みふゆ?」
女性「そ。鳴瀬診療所院長…鳴瀬深冬!」

鳴瀬深冬と名乗った女性は、若いながらも知性的な印象が見えた。

深「大変だったんだよぉ?キミ、うちの診療所の前で倒れているんだもん、思わ
ず助けちゃったじゃない?」
?「思わず…助けた…」

思わなければ助けなかったのか。
と、言いたいところだったが、余計なつっこみは入れないようにした。

深「私に感謝しなさいよ、青年?」
青年「ああ、ありがとう」

俺は素直に感謝した。

深「で?君の名前は?」
青年「俺の名前?」
深「そうだよ、私は自己紹介したんだから、今度はキミの番でしょ?」
青年「俺の―――、俺の名前は…!?」

ズキン!

青年「―――!?ぐあっ…何だ…コレ…?」

俺は痛みに耐え切れずその場にうずくまった。

深「ちょっと青年!?大丈夫!?」

ズキンズキンズキン

青年「ぐぅぁぁぁぁぁっ!」

俺の意識が消えていく―――

深「青年!」

意識が―――闇に溶けていく…
溶けて、消えてゆく…

深「青年!青年!」

消え行く意識の中で…俺は何度その言葉を聴いただろうか…

キミハ…ダレ…?



―再び田中家―PM 4:30
槙が帰った後、優はレポートをまとめていた。
タンタンタンタンタンタンタン
リズムに乗ったキーボードをたたく音が部屋に響く。

――私は倉成が好きだった。
いや、今でも好き…かもしれない。

タタタタタタタタタタタタタタタ

それなら、なんでさっきはあんなこと言っちゃったんだろ…

槙『いくら彼のことが好きでも、それを伝えないとどうにも進まないわよ』
優『ええ、そんなことは――――って、違いますよ!』

ダダダダダダダダダダダダダダダ!

違う違う!あれはちょっと倉成に似てきた桑古木が重なってちょっと気になった
かなーって感じになっちゃったのよ!うん!

シュバババババババババババババ!

そう!そうよね、倉成を演じることがあいつの仕事だもの、似てきて当然よね!

ギョガガガガガガガガガガガガガガ!

あれ?でも倉成に似てきた?ということは桑古木には桑古木の「人格」が
あるのよね…。
倉成の記憶が桑古木の人格を形成…

優「――――っ!?」

私は何か不安を感じた。

優「ヘンなことに…ならなきゃいいけど…」

そして、相変わらず桑古木との連絡は取れなかった。



―鳴瀬診療所― PM 9:00

青年「…記憶喪失?」
深「そう記憶喪失!名前、思い出せないんでしょ?」

深冬はそう言った。

青年「俺が記憶喪失…確かに俺は何も思い出せない…名前も、生まれた年も」
深「今は、思い出せなくていいよ、ゆっくり行こう?」
青年「ああ、それもいいかもな…。でも、このまま…何も思い出せなかったら
…」
深「ええい!物事をネガティブに考えるな!いつか思い出せるから!
キミがそんなだから、記憶も愛想つかしたんじゃない!?」
青年「――――似ている…」
深「え?」
青年「誰かに似ている…って思ってさ」
深「私が?」
青年「うん。大切な、約束をした、誰かに―――」
深「約束…?」
青年「ああ、俺は今、深冬の言うと通り、記憶喪失ってやつかも知れない」
深「………」
青年「でも、約束したことは覚えている、今は記憶の中にはいない、誰かと…」
深「…今日は泊まっていきなよ、どうせ帰る場所も忘れちゃったんでしょ?」

それは事実だった。
“事実” たった一つの言葉が俺を縛る。
俺の帰る場所―――それは果たして何処か……。
今、それを知る術は、無い。今は疲れを取ることが先決だ―――。

青年「そんじゃ、そうさせてもらうかな…」

俺はごろんとベッドに寝転がる。

青年「ん?」

俺はベッドの横に立ててあった写真を見つけた。

青年「この写真は?」

俺は写真を取った。見ると、真ん中に深冬が笑っていた、年恰好からすると最近
取られたものだろう。今いる深冬と変わりはなかった。右には老婆が写ってい
た、おそらく深冬の母親だろう。
そして左には―――。

青年「あれ?」
深「ああ?その写真?それはね、お母さんがその左の女の人の出産を手伝ったと
き撮った写真なの」

深冬の言葉が聞こえた。しかし、今の俺の耳には届かなかった。
知っている、俺はこの人を知っている…。
左には長い黒髪が似合う女性が写っている。両手には2人の赤ん坊を抱いてい
た。
赤ん坊を抱いていた女性は幸せそうで…どこか悲しそうな顔をしていた。
俺はどこかでこの人に会っている。いったい何処で?いつ?
これも俺の忘れた記憶なのか?今は…思い出せない…。
俺は写真をもとの位置に戻した。

深「その写真が、どうかした?」
青年「いや、なんでもないよ」
深「?」

深冬が首をかしげた。

青年「寝るか…」

俺は再びベッドに寝転がった。

深「私も部屋に戻るね〜。何かあったらそこの内線で呼んでね。じゃ、お休み
〜」
青年「ああ、おやすみ」

バタン

扉が閉められた




―その夜―

コポ…
コポポ…

―ん?ここは…海?

俺は海の中にいた左を見るとLeMUが見える俺は次第にLeMU内部へ吸い込まれて
いった。

ああ、コレは夢だ…久しぶりに視た、“あの時”の夢―――

人間が、6人…武、俺、つぐみ、空、優、そして、ココ…
ココが、運ばれている…。−そうか、今からIBFに向かうんだっけ…

―時間が、一気に、あの忌まわしい時へと、流される―――

桑『ココ!返事をしてくれよ!ココ!ココォ!!』

無駄だよ…聞こえやしない…
だってココは静かに寝ているんだから…呼んだって、聞こえやしない…

俺は“俺”に向かってそう言った…

ココ…武…助けるから…絶対に、助けるから!

俺がそう言った瞬間――――。世界が闇に包まれた

なっなんだ!?

後ろから影が襲う

お、お前は!

キミハ―――ダレ?

またお前か…お前は…誰だ!?

キミハダレ?

お前は誰だ!

不安…憧れ…焦り…記憶…意思…思い通りになれない、裏の存在…

何…?

“ボク”は“キミ”から生まれた…キミハ…ダレ?

闇が深くなる…声が出せない…

キミハ自分が“キミ”であることを思い出せない…

え?

だから、ボクが生まれた…キミが思い出せないならボクが意思を持つ
ボクが俺であるために…記憶のために…

影の姿が浮かび上がる…

お前は…!

俺はそいつを知っていた。

お前は…お前は…!

闇に全てが…のまれる…のまれていく…

―サヨウナラ… “カブラキ リョウゴ”

ハハハハハッ、アハハハハハハハハハッ!



―翌日―AM 7:30


青年「はははははっ、あははははははははっ」

青年は笑い声と共に目を覚ました。

ガチャッ

深「ふぇ…?おきへたの?」

目をぐしぐしとこすりながら深冬が起きてきた。

青年「深冬…思い出したよ…」
深「思い出したって…何を?」
青年「名前、俺の本当の名前…」


深「ええっ!?よかったじゃない!それで、キミの名前は?」

青年は軽く笑いながら深冬にこう言った―――

青年「―――タケシ」
青年「クラナリ タケシ」

青年はそう言って深冬に別れを告げ、診療所から出て行った。

―END―




―あとがき―
増えた、オリキャラが…
長くなった、シナリオが…2話で終わらせるはずが…
と言うわけで読んで下さっている方々、もう少しのお付き合い、お願いします。
最後に
いつも読んでくださる方、ありがとうございます。
2話から読んでわけのわからない方、よろしければ1話から読んで下さい。
では、また。


/ TOP  / BBS / 感想BBS








SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送