〜 エバセブ熱血行進曲 〜
                              作 A/Z&Mr.Volts


<Programm Nummer Eins:Wettlauf>
[プログラムナンバー1:徒競走]



  運動会当日、その日の空はどんよりと曇っていた。

  雨が降っていないだけ幾分かはマシだったが、
お世辞にも運動会日和と呼べる天気ではなかった。

  誰もが憂うはずの天気だったが、一人だけご機嫌な人物がいた。

 「この天気なら紫外線の心配もいらないから、私も参加できるわね」

  そう、つぐみである。つぐみの参加によって倉成家の戦力は
大幅にアップしたことになる。

 「ねえ、沙羅。今日のお母さんやけに気合入ってるよね?」

  ホクトが沙羅に小声で話しかけた。

 「うん。そんなにうちの家計ってピンチなのかな」

  沙羅も囁くように答える。  

 「それなら今日は何としても賞品を持ち帰なきゃね」

 「頑張ってねお兄ちゃん。今回はパパとママとお兄ちゃんの腕に
  かかってるんだから」  

  この3人の運動能力ならば、事は有利に運ぶだろう。

 「う〜ん、ちょっと不安だけど一生懸命頑張るよ」

  ホクトは謙虚に答えた。





  運動会は近所の小学校の校庭を使って開催される。

  開会式では町内会長が長々と挨拶をしていたが、
誰も退屈な挨拶など聞いていなかった。

  参加者のほとんどは間違い無く賞品目当てである。

  中には純粋に体を動かしたいという理由で参加している者もいるだろうが、
  参加者のほとんどは主婦であろうおばちゃんや、そのおばちゃんに
  無理やり引っ張り出されてきたと見られるおじちゃん達といった顔ぶれである。

  賞品目当てと言わずして何であろうか。既に目の色が違う。

 「お父さん、何か凄い気迫だよね」

  ホクトは不安げに武に声をかける。

 「ああ、おっちゃんおばちゃんパワーをナメてたかもな・・・でもなホクト?」

 「何?お父さん」

 「大丈夫だ、自分に自信を持て。『俺達は負けない!』だ」

  満面の笑みで言う武に対して

 「うん、そうだね」

  ホクトも笑顔で答える。

 「パパ〜、お兄ちゃん〜。そろそろ徒競走が始まるよ〜!早く早く〜」

  武とホクトに向かって手を振りながら、沙羅が呼んでいる。

 「もうそんな時間か。よっしゃ、いくぞホクト!」

 「うん、お父さん!」

  二人は集合場所へ駆けていった。





  徒競走の参加者が揃ったところで、スタッフが説明を始めた。

 「え〜、この競技は男女別6人一組で競走していただきます。参加者が
  多い都合上賞品は各組1位の方のみに差し上げます。皆さん頑張ってくださいね。
  それでは整列してください」

  参加者が多いため賞品を獲得できるのは各組で一人だけのようである。

  これは否が応にも燃えざるを得ない。

  もちろん、この四人とて例外ではなかった。

 「つぐみ!ホクト!沙羅!」

  武の呼びかけに、三人とも武に注目する。

 「いいか、俺の見立てでは今回の賞品はおそらく醤油だ。ゴールの横に
  細長い箱がたくさん置いてあるだろう?」

 「あ、ホントだ」

  と、沙羅。

 「あの大きさだと、多分1リットルビンね・・・」

  つぐみが冷静に分析する。

 「それじゃあお父さん・・・」

  ホクトがゴクリと唾を飲み込む。

 「そうだ、うまくいけば醤油を4リットルゲットだ!」

 「当分醤油には困らないわね」

  つぐみが指折り数えながら言う。

 「そういう事だ、何としても勝たねばならん。皆!やるぞ!!」

  始めは乗り気でなかった武が今では一番意気込んでいる。

 「それじゃ早く並びましょう。間違っても同じ組にはならないようにね」

 「御意、でござる」


  こうして、最初の種目である徒競走が始まった。





  いくら気迫が凄かろうと相手は普段ロクに運動もしていない中年である。

  さらに、倉成家にはキュレイの力を持った者が二人もいる。それにホクトの
  身体能力もかなりのものである。

  勝敗は火を見るより明らかであろう。

  事実、武とつぐみはダントツで1位をかっさらって、
  ホクホク顔で醤油を受け取っていた。

  二人のケタ外れのスピードは会場の注目を一挙に集めたほどだった。

  沙羅は持ち前の元気さで頑張ったものの3位という結果で、
  残念ながら醤油獲得には至らなかった。

  中には足の速い中年もいるのだから仕方が無い。

 「やったな、つぐみ」

 「ええ、武もお疲れ様」

  醤油をかかえニコニコしている二人の元へ、沙羅が駆けよってきた。

 「パパ、ママ・・・はぁはぁ・・・」

  よほど急いできたのか、かなり息が上がっている。 

 「おう沙羅、お疲れ。残念だったなあ」

 「まだ始まったばかりだから、次からまた頑張りましょう」

  武とつぐみが、ねぎらいの言葉をかける。

 「うん、そうだね・・・ふぅ、それよりもお兄ちゃんの事なんだけど・・・」

  息を整えた沙羅が口を開く。

 「ん?ホクトがどうかしたのか?」

 「・・・お兄ちゃん、負けちゃったの・・・」

 「ホクトが?・・・まあ、でも勝負は時の運とも言うしな」
 
  武が言うと

 「ううん、あれはどう見ても時の運なんかじゃないよ!」

  沙羅が反論する。

 「沙羅?どういうことなの?」

  息巻く沙羅に対して、つぐみが尋ねる。  

 「だ、だって・・・お兄ちゃんを負かした人・・・
  どう見ても70歳は越えてるお爺さんだったの」

 「なっ!?」

 「えっ!?」

  沙羅の言葉に、武とつぐみは驚きの声を上げる。

 「それは本当なの沙羅?」

  つぐみは信じられないといった様子だ。

 「うん、圧倒的な速さで1位になってたの・・・」

  そんなやりとりをしているところにホクトが戻ってきた。

 「あ、お兄ちゃん・・・」

 「ゴメンね、負けちゃったよ。でも、あのお爺さんすごく速かったなあ。
  あんな人がうちの町内にいるんだ」

  ホクトは悔しさというよりも、むしろ感心の色が強い口調で言う。

 「なあホクト・・・その人本当に爺さんだったのか?」

  武もつぐみ同様信じられないといった様子だ。

 「うん、お爺さんだった。それは間違いないよ」

 「何者だよ・・・その爺さん」

  武が呆然としていると

 「倉成さん。家族でご参加ですか」

  と、不意に声をかけられた。

 「あ、浜岡さん。こんにちは」

  声の主は、お隣の浜岡家の旦那さんであった。

 「やあ、どうも。女房の奴に無理やり引っ張りだされましてね。
  いや〜日頃の運動不足を思い知らされましたよ」  

  浜岡さんは気さくな人柄で、武達が引っ越して来た時には色々と
  世話を焼いてくれた。

  旦那さんの温厚な人柄と、奥さんの豪快な声で近所では有名な夫婦である。

 「それにしても倉成さんも奥さんも物凄く足が速いですなあ。驚きましたよ」      

 「いや〜それほどでも」

  武は照れ笑いをする。

 「しかしホクト君は相手が悪かったですな〜。あれは仕方が無いですね」  

 「え?浜岡さん、あのお爺さんのことをご存知なんですか?」

  そう尋ねるホクトに

 「ああ、そうか。皆さんはこちらに来られてまだ間もありませんでしたな。
  あのお爺さんは7丁目にある小さな教会の司祭だか神父だかで、
  主に皆の相談相手とかをやっておられるんですよ」

 「あのお爺さんが神父?」

  ホクトが目を丸くする。

 「ええ、かなり愉快な方で、こういっては失礼かもしれませんが
  全然神父には見えないんですけどね。殺しても死なないんじゃないか、
  なんて言われているくらい元気な人なんですよ。ありゃまさに超人ですな。
  あ、ホクト君はさっき体感したんだよね」    

 「あ、はい」

  ホクトが頷く。

 「さてと・・・私はそろそろ行きますね。次の競技も出るつもりなんですよ、
  女房と一緒にね。では、お互いに頑張りましょう」

 「はい。それじゃあ、また」

  笑顔で去って行く浜岡さんに別れを告げてから、四人は顔を見合わせた。

 「どうやらその爺さんは要注意人物のようだな」

  最初に武が口を開く。

 「ええ、同じ競技でぶつかった時には気をつけないとね」

  つぐみが頷く。

 「もし今度当たったら、次こそは負けないよ!」

  ホクトがガッツポーズをする。

 「そうだね。頑張って賞品をゲットするでござる〜」

  と、四人が気合を入れた直後―――


 「ふぉっふぉっふぉっ、威勢の良いことじゃて」

  急に背後に気配が生まれた。

  四人が振り返ると、そこには一人の小柄な老人が立っていた。

  老人は白髪を後ろになでつけ、髭を顎にたくわえ、こざっぱりとした
  服装をしていて、顔には温和な笑みを浮かべながら醤油のビンを赤子を抱く
  ように持っている。

 「あっ!さっきのお爺さん」

  ホクトが思わず声を上げる。

 「この爺さんが!?」

  武も老人に注目する。

 「ふぉふぉ、お若いの、さっきは運が悪かったのお。じゃが別に悲観せんでも良いよ、
  お主はなかなかの運動神経を持っておる。近頃の若いもんにしては珍しいぞい。
  ところで・・・」

  言いながら老人は武とつぐみを見据え 

 「先ほどお前さん方の走りっぷりを見せてもらったが、あの速さは常人にはとうてい
  出せるものではないじゃろ。他の連中はただ速いだけと思っとるかもしれんが
  ワシの目は誤魔化せんぞ。お前さん方一体何者じゃ?」

  笑みを絶やさずに言う。

 「私から見ればあなたの方が異常よ。その質問をそのまま返すわ」

  つぐみが表情を険しくして老人を睨みつける。

 「ほっほっほ、お嬢さん、そんなに怖い顔をしなさんな、美人が台無しじゃぞ。
  そうじゃな・・・それじゃまず、ワシの事から話すとするかの」

 「そうね、お願いするわ」

  つぐみが警戒を残しつつも幾分か表情を和らげる。

 「そうじゃのぉ、ワシの事は『キュレイ爺さん』とでも呼んでもらおうかの」

 「なんですって!?」

  つぐみがまた険しい表情になる。

 「やはりの・・・お前さん方も同じじゃったか。その反応だけで充分じゃて」

 「ちょっと、詳しく説明してくれない?」

  詰め寄るつぐみに対して、老人は平然と

 「昔、「らいぷりひ」とかいう連中に捕まって何かの実験台にされたことがあっての。
  気が付いたら何をやっても死なない体になっておった。じゃがある時
  スキを見てその研究所の馬鹿どもを張り倒して逃げてきたという訳じゃ」

  言いながら顎髭をなでる。

 「ライプリヒ!?」

  つぐみが声を荒げる。

 「ほほう、おまえさん方とも何かいざこざがあったみたいじゃな」

 「まあ、ね」

  つぐみが少し苦い顔をする。

 「それじゃあ、奴らに追われたりしたんじゃ・・・?」

  沙羅が心配そうに尋ねる。

 「カッカッカッ、全部返り討ちにしてやったわい。こんな老いぼれ一人を
  追いかけ回すなんざ難儀なことじゃのう。それに確かあの連中は
  摘発されたんじゃろ?お前さん方の過去を詮索するつもりは無いが
  昨日よりも今日、今日よりも明日じゃよ。」

  キュレイ爺さんの態度に毒気を抜かれたのか、つぐみは

 「確かにそう・・・ね」

  と言ってキュレイ爺さんに微笑んだ。

 「とまあ、昔話はこれくらいにしてじゃな・・・」

  一瞬、キュレイ爺さんの目がキラリと光る。そして武達を見やり

 「お前さん方はワシを楽しませてくれそうじゃ。ただ賞品をいただくだけじゃ
  面白くないからのう。やはり、強者を制して手に入れた賞品の方が
  喜びも格別というものじゃ」

  と、獲物を狙う獣のような目を向けながら言った。

 「爺さん・・・それって・・・」

 「そうじゃ、宣戦布告じゃよ。ワシはお前さん方と当たるように
  競技に参加するでな。覚悟せいよ」

  問う武にキュレイ爺さんはニヤリと笑って答える。

 「それじゃ、賞品は・・・」

 「当然ワシを倒さぬ限り手に入らんという事じゃ。
  ワシにも生活があるし簡単には負けられんのう、
  ふぉっふぉっふぉっ」

  キュレイ爺さんはそう言って醤油のビンに頬擦りをする。

 「では、また戦場で会おうぞ」

  そう言うと、爺さんは恐ろしいほどのスピードで去っていった。





 「まさか爺さんが俺たちと同じキュレイの感染者だったとはな」

  爺さんが立ち去って程なくしてから武が言う。

 「うん、僕達を狙い打ちにしてくるみたいだね・・・」

  と、半ば呆れ顔のホクト。

 「これは負けられないわね・・・」

  つぐみが爺さんに対して異常な程の闘志を燃やす。

 「何だか燃える展開になってきたでござるよ、ニンニン」

  いつもと変わらない調子の沙羅。


  こうして倉成家とキュレイ爺さんとの壮絶な戦いの火蓋は切って落とされた。




あとがき


 Az:出ました・・・○○○○爺さん・・・

 Vo:今回の主役だね、ある意味。オリジナルキャラですが。

 Az:実はこの爺さんを出したいが為だけに、このSS考えたんです・・・(汗)

 Vo:いい味出してるよねえ。話が後半に進むに従ってどんどん壊れていくけどw。

 Az:爺さんキャラ書いているときだけは、スラスラ書けましたw

 Vo:まあ、今後の倉成一家対爺さんの死闘に乞うご期待!ってところですな。

 Az:ええ、爺さんのキャラが立ち過ぎてる気もしますが、
   アレな爺さんなので良いかなとw

 Vo:次回の二人三脚では爺さんの顔をゴシゴシこするとチョコレートの匂いがするよ!

 Az:・・・(暗殺決定)


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