〜 エバセブ熱血行進曲 〜 作 A/Z&Mr.Volts |
「以上を持ちまして午前のプログラムを終了致します。 これより1時間ほど昼休みと致します。尚、こちらで簡単な昼食を 用意してありますのでご希望の方は本部前にお集まりください」 そう放送が流れると、参加者のほとんどが本部の方へと集まっていく。 回覧板のお知らせの中に昼食が配られるようなことが書いてあったので、 わざわざ弁当を用意してくる参加者の方が少ないのだろう。 「もう拙者お腹ペコペコでござるよ〜」 「僕もお腹すいちゃったよ。ねえ、早く貰いに行こうよ〜」 「そうだな。それじゃ、俺達も行くとするか」 「ええ」 武達が昼食を受け取りに本部の方へ行こうとした時 「ちょっと待って、四人とも」 不意に声をかけられた。 振り返るとそこには 「ねえ、お昼ご飯皆の分も用意してみたんだけどよかったら一緒に食べない?」 両手に大きな荷物を抱えた春香菜が立っていた。 「わ、凄い量・・・」 沙羅が目を丸くする。 「ホントにいいのか、優?」 武が尋ねると 「もちろん♪それに、ご飯は大勢で食べた方が美味しいわよ♪」 言いながら春香菜はニッコリ笑う。 「ご馳走になりまーす」 ホクトと沙羅が口を揃えて言う。 「悪いわね、優」 「ううん、気にしないで」 先ほどまで黒いオーラに包まれていたつぐみだったが、 それもどうやらおさまったようである。 甘かった・・・ 「ちょっと、優・・・これはどういうこと?」 「どういうことって?」 幾分か声のトーンの低いつぐみに対して、明るい調子で答える春香菜。 「この差は何って聞いてるの」 「あ、ほら、論文書き上げた後に急いで用意したからあまり時間が無くって、 少し中身にばらつきが出ちゃって・・・」 「『少し』?」 見ればつぐみ、ホクト、沙羅の分の弁当は普通サイズ。 武と春香菜の分は五段のお重であった。 「桑古木にも頼んでいたんだけど、疲れていたから3人分を作るのが 精一杯だったみたい。」 「・・・・・・・」 つまり、つぐみ、ホクト、沙羅の分は桑古木が作ったということになる。 再び二人の間に危険な空気が流れ始める。 「それじゃ、食べましょうか♪」 そんな不穏な雰囲気をよそに、春香菜がさらに明るい調子で言った。 「い、いただきまーす」 ホクトと沙羅が無理に笑顔をつくりながら箸を取った。 「と、とりあえずいただくわね」 ご馳走になっているという立場上、つぐみもとりあえず大人しく弁当箱の蓋を取る。 「では、早速・・・」 春香菜はお重からダシ巻き玉子を箸でつかむと 「倉成、食べさせてあげる。はい、あ〜ん」 そのダシ巻き玉子を武の口元へ持っていく。 ミシ・・・つぐみの箸を持つ手から何か音がしたような気がした。 「お、おい優・・・自分で食えるってば」 武が嬉しいような困ったような表情になる。 「ニヤケ顔で言っても全然説得力ないわよ・・・」 つぐみが冷淡な声で呟く。 「(お、お兄ちゃん、早く食べてどこかに逃げようよ)」 「(う、うん。そうしよう)」 こうなったら触らぬ神に祟りなしである。 「ほ〜ら、倉成ぃ♪」 玉子と同時に顔も近づけてくる春香菜。 「そ、それじゃ・・・あーん」 どうあっても口を開けなければならない状況になってしまい、 武はおそるおそる口を開けてダシ巻き玉子を口にした。 武の「あーん」のあたりでホクトと沙羅はつぐみの箸が メリメリッと更に悲鳴を上げる音を聞いた。 「どう?美味しい?」 「うっ、こっ、これは・・・?」 武の顔が徐々に青ざめていく。と、そこへ 「ふぉっふぉっふぉ、うまそうなものを食べておるのお」 声がしたかと思うと目にも止まらぬ速さで背後から箸が伸びてきた。 「あっ」 と春香菜が声を上げたときにはキュレイ爺さんはすでにをお重から 生春巻を奪い、口の中に放り込んでいた。しかし 「・・・むっ、こっ、これは!」 突然爺さんの顔が険しくなった。 「もう、欲しいなら欲しいって素直に言えばいいのに」 それを見ていた春香菜が苦笑すると 「ああ、いやいや。ただちょっとだけつまみ食いがしたかっただけなんじゃ」 と、爺さんはとっさに震える手を振りながら言う。 「あら、それじゃ良かったらもう少し食べる?」 と、重箱を差し出す春香菜に爺さんは激しく首を横に振り 「いやいや、もう十分じゃよ。それでは、ワシはこの辺で失礼・・・」 と言って背中を向けて立ち去ろうとしたが 「爺さん、遠慮なんかするなよ。なあ?」 素早く立ち上がった武が爺さんの肩を掴んだ。 「(何をするんじゃ!)」 「(一口食ったんだから責任持って爺さんも手伝え!)」 春香菜に聞こえないように小声で武と爺さんは口論を始めた。 「(馬鹿な事を言うでないわ!お主、老人の寿命を縮める気か?)」 「(あんたにゃ寿命なんて関係ねーだろ!)」 と、そこへ 「そうだよお爺さん、ご飯は大勢の方が楽しいよ。一緒に食べよ♪」 事情を知らない沙羅からの援護射撃を受けた爺さんは退路を完全に断たれ、 あきらめた表情でビニールシートに座った。 「それじゃお爺さんには私の分をあげるわ。私は倉成と一緒に食べるから♪」 と、もう一つの無傷のお重が爺さんの前に置かれた。 「武と・・・一緒に?」 つぐみの動きがまたしても止まる。 「そうよ。お爺さんもお腹すいてそうだし、私一人には ちょっとこの量は多すぎるもの。さ、倉成、次は何が食べたい?」 「(マ、ママの黒いオーラが増大してる・・・)」 「(さ、沙羅、こっちこっち。こ、これはご飯食べ終わるまでとか 言ってられないかもしれない・・・)」 沙羅とホクトはシートの端の方に緊急避難し、 いつでも逃げ出せる体勢をとりながらお弁当を食べ続けた。 一方、つぐみと春香菜の間に渦巻いている黒い霧の外では キュレイ爺さんが生涯最大の敵と向かい合っていた。 「(この世に生を受けて119年。戦争も経験し泥水をすすり木の根を齧って 激動と貧困の昭和を生き延びてきたこのワシが・・・震えている?)」 じいさんは震える手を動かしてお重の蓋を開けた。そこにはおいしそうな 色とりどりのおかずの面々が顔を覗かせていた。こうして改めて見てみると 先ほどの味の暴力が夢だったのではないかとさえ思わせる。 「いや、ワシは町の平和の為に戦いつづける正義の神父じゃ! 決して敵に後ろを見せるわけにはいかんのじゃ!!」 爺さんは首を振って迷いを消し去ると、難攻不落の五重の塔に 己の全てを賭けて戦いを挑んだ。 「はい、倉成。あ〜ん♪」 「あ、あ〜ん・・・」 その頃武も春香菜ワールド全開の弁当を前に限界が近かった。 食材そのものは決して悪くない。それどころか所々感じられる 風味から判断してもかなりいいものを使っている筈である。 それぞれが自分の持っている味の個性を強く発揮している。 ただ、それらが全くまとまっていないのだ。例えるなら世界各地から 優れた奏者を連れてきてそれぞれが気の向くままに勝手に演奏している というイメージだろうか。 「うん、今日はなかなかの出来ね♪」 春香菜はまったくそれには気づいていない様子で、 自分の弁当の出来に満足した表情を浮かべた。 「ち、ちょっと飲み物・・・」 たまらず武はそう言って缶紅茶に手を伸ばしたが、 横から伸びた影が素早くそれを奪い取った。 「つ、つぐみ・・・」 「何やってるの?早く食べなさいよ」 と言ってつぐみは紅茶を口にする。武も爺さん同様退路を断たれてしまった。 ふと爺さんの方に目を向けると、どうやらあちらの戦況もかんばしくない ようだ。焦点の合っていない虚ろな目をして何やらぶつぶつ呟いている。 と、その時こちらをゆっくりと向いた爺さんと目があった。 孤立した戦場で共通の敵と戦い続けている友を見つけた二人は力強く頷くと 「かくなる上は玉砕覚悟じゃ!ゆくぞ武、ワシに続け!!」 「おう、爺さん!喉にモノ詰まらせて死ぬなよ!!」 と声をかけ合い、二人同時に物凄い勢いで弁当をかき込み始めた。 「ふ、二人共もっとよく噛んで食べないと消化に悪いよ・・・」 沙羅はそう忠告するが、二人の豪快な食べっぷりを見た春香菜は 「あら、そんなに美味しかったかしら?作ってきた甲斐があったわ♪」 と機嫌がよさそうに微笑んでいる。 むしゃむしゃむしゃもぐもぐもぐごっくんばりばりぼりぼり・・・ しかし武と爺さんにはそれに応答する余裕は無い。 破竹の勢いで右手を動かして敵を次々に蹴散らしていく。 『・・・ごちそうさま!!!』 アッという間に弁当を完食した二人は箸を置いて手を合わせると 声を揃えてそう言った。 「はい、お粗末様でした♪」 武と爺さんは共に生き残ったことを喜び合い、ガッチリと固い握手をかわす。 と、そこで春香菜は何かを思い出したようにどこからか包みを新たに取り出し 「あ、そうそう。手作りのデザートも用意したのよ。二人とも食べて食べて♪」 と、先ほどと同容量の器が二人の前にドン!と置かれた。 「・・・はうっ」 二人は血の気を失い同時にその場に倒れた。 |
あとがき Vo:田中先生、再び降臨。 Az:もう完全に私の趣味で書いてくれましたよね、貴方? Vo:武、つぐみ、春香菜の逆三角▽関係は書いてて楽しかったね。 でもこれだけ泥沼化してるのにそれに全く気付いてない武が一番凄い。 Az:爺さん出さなかったら収集つかなかったかも知れませんね。 よくここまで、私の原文を昇華させてくれたものです。 Vo:オチはやっぱり爺さんだったね。うまいところ二人の間の クッションになってくれました。 Az:爺さんは重要です。いないと、倉成一家の圧勝てな話になりかねません でした。この時も先生は、『黒』のノースリーブにミニタイトで! Vo:その話は前回にもしたでしょ! Az:まだ、全開では無いのですが・・・ Vo:このままだとAzの妄想が止まらなくなるんで、次々! |
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