〜 エバセブ熱血行進曲 〜
                              作 A/Z&Mr.Volts


<Programm Nummer Vier:Armwrestling>
[プログラムナンバー4:腕相撲]



  昼食も終わりいよいよ午後の競技である。

  食後の体操をして身体をほぐしながらホクトが尋ねる。

 「沙羅、次の種目ってなんだっけ?」

 「えーと、アームレスリングだって。腕相撲だね」

 「・・・腕相撲?またずいぶん地味なことをやるんだな」 

  先ほどの昼食のダメージが完全に回復していない武が
ビニールシートに寝っ転がったまま怪訝そうにそう言った時、
大音声がグラウンドに響き渡った。

 「ご町内のお父様、大変お待たせいたしました!只今より午後の第1種目、
第17回アームレスリング大会を開催いたします!!」

  うおおおおお!それを聞いた男達が大歓声をあげる。

 「な、なんなのこの盛り上がりは・・・」

  さすがのつぐみも突然のハイテンションな流れに圧倒されている。

 「毎日毎日仕事、接待、残業で既に身も心もボロボロ。
  たまの休みに家でリラックスしてると奥さんには
 『テレビばっかり見てないで少しはどこかに出かけたら』と言われ
  娘には『お父さんそんなカッコで一日中ゴロゴロしないでよ』
  と言われ!サラリーマン戦士の安息は脅かされてきました!!」

  会場は司会の声が大きくなるにしたがってますますヒートアップしていく。

 「しかし、そんな家族に頭の上がらない日々とは今日でサヨナラです!
  父の威厳を取り戻すのです!!一家を支え続けて来た偉大なる
  父の太腕の力を今ここに!!!」

  おおおおお!父達が一斉にときの声を上げる。
  どうやらこの運動会の名物イベントの一つらしい。

 「な、なんだか凄いことになってるね・・・」

  沙羅がそう呟いたが、武とホクトは顔を見合わせて大きく頷いた。

  二人とも最近では女性陣に押されて立場が弱くなってきているのだ。

 「よし、行くぞホクト!突撃だ!!」

  突然復活した武が飛び起きてホクトにそう呼びかける。

 「うん、お父さん!」

  ホクトも何故か俄然やる気になっている。

 「ど、どうしたの二人とも急に・・・」 

  二人の豹変ぶりに戸惑うつぐみをよそに、二人は完全に燃えていた。

  しかしそこであることに気が付いた沙羅が

 「あ、でもお兄ちゃんは『お父さん』じゃないから参加できないんじゃない?」

  と突っ込むとホクトの動きが一瞬止まった。しかしそこへ

 「ふぉっふぉっふぉ、その心配は無用じゃよ」

  と、横から声がした。振り向くとそこには何故か白いタンクトップ一枚に
  赤マントとチャンピョンベルトを身につけ、覆面までかぶったキュレイ爺さんが
  立っていた。

 「爺さん、なんてカッコしてんだよ」

  武が思わず突っ込むが爺さんはチッチッチと指を横に振り

 「今のワシはキュレイ爺さんじゃない、ちゃんぴょんじゃ。
  町の平和の為に日々戦い続ける永遠のふぁいたーなんじゃ」

  と宣言してホクトの方に目を向けると

 「少年よ、男は15を過ぎればもう一人前じゃ。
  この競技の参加は15歳以上なら誰でも自由じゃ」

  そしてマントを翻し、こう言い残して去っていった。

 「健闘を、期待しておるぞ」



  武とホクトが受付についた時には既に腕自慢の男達が集結していた。

 「はい、皆さん聞いて下さい。この競技は参加希望者が多いために
  まずは予選を行います。クジ引きで決められたブロック予選に勝ち残った
  8名のみが次の決勝トーナメントに進むことができます」

  と係員の説明を受けていた武は思わず希望的意見を口にしていた。

 「クジ引きか。なるべく潰しあわないようにしたいもんだな」

 「そうだね、予選でいきなりお父さんやお爺さんと当たるのは避けたいね」 

  とホクトもそれに同意する。係員の説明は続く。
 
 「・・・説明は以上ですが何か質問はありますか?特になければ早速予選の
  抽選を行いたいと思いますので、あちらの抽選場の前に整列して下さい」

  クジ引きの結果、武、ホクト、キュレイ爺さんはそれぞれ違うブロックに
  振り分けられた。隠れた強敵がまだいるかもしれないが、とりあえず予選
  での対決は避けられたわけである。

 「ラッキーだったな、皆バラバラか。これなら2人とも決勝にはいけそうだな。
  よし、それじゃ行くか!ホクト、頑張ってこいよ!!」

 「うん!お父さんも頑張ってね!!」 

  と言って二人はそれぞれの戦場に向かった。





 「だいじょうぶかな、パパとお兄ちゃん・・・」

  その頃、表では沙羅が心配そうに裏にある予選会場を見つめていた。
  グラウンドの真中では現在決勝のリングが急ピッチで設置されている。

 「平気よ、あの二人なら」

  つぐみは微笑んで同じように裏へ視線を移す。ここからでは様子は
  わからないが、本気になった武とホクトが負けるはずがない。



 「ストップ!倉成武さん決勝トーナメント進出決定!」

 「よっしゃあ!」

  武は小さくガッツポーズをとった。こういう競技に出てくるだけあって
  なかなか手強い者もいたが、とりあえず決勝戦へのキップは勝ち取った。

 「おとうさーん!」

  そこにホクトが走ってきた。

 「おう、ホクト。どうだった?」

  尋ねる武にホクトは親指を立ててみせる。

 「そうか。よーし、よくやった!」

  武はホクトの頭をくしゃくしゃに撫でた。
ホクトは照れながらも嬉しそうに目を細めた。するとそこへ  

 「倉成さん、ホクト君、決勝進出おめでとうございます」

  後ろから声がかかった。突然の声に二人が振り向くと
  そこには浜岡家の旦那さんが立っていた。

 「浜岡さん、あなたも出場していたのですか?」

  武が不思議そうに尋ねたのも無理もない。浜岡さんは顔つきも
  優しそうでとても力が強そうには見えないし、こういう競技も
  苦手そうに見えたからだ。

 「ははは、女房に言われましてね。『あんたは普段から全然力使ってない
  んだから、こういう時くらいカッコいいところ見せなさい!』ってね。
  それでチャレンジしてみたんですがやっぱり皆さんお強いですねぇ」

  と腕をさすりながら笑った。

 「じつは初戦からおじいさんと当たりましてね。ホクト君の仇をとろうと
  精一杯頑張ってはみたんですが、やっぱり歯が立ちませんでしたよ」

 「浜岡さん・・・」

 「ホクト君、決勝戦はスタンドから応援していますから
  私の分まで頑張ってくださいね」

 「はい!絶対におじいさんに勝ってみせます!」

  力強くホクトが返事をすると、浜岡さんはいつもの
  人あたりのいい笑顔を浮かべて自分の席に戻っていった。

 「負けられないな、ホクト」

  武がそう言うと

 「うん、絶対勝ってみせる。優勝してみせるよ!」

  ホクトは答えた。

 「よーし、その意気だ。とりあえず決勝戦までまだ時間があるから
  いったんつぐみ達のところに戻るか」




 「あ、帰って来た!パパ、お兄ちゃん、お帰り!どうだった?」

  と尋ねる沙羅に二人は揃って親指を立てた。

 「やったね!」

  それを見て沙羅は歓声を上げた。つぐみも微笑んで

 「そう、お疲れ様。頑張ったわね」

  と二人の健闘をねぎらった。

 「でも、勝負はこれからだね」

  スポーツドリンクを飲みながらホクトが息をつく。

 「そうだな、予選でも結構手強い奴がいたからな。そこから勝ち上がってくる
  奴が相手なんだから楽に優勝とはいかないだろうな」

  武も予選を振り返ってみてこれからの勝負は
  更に厳しさを増すだろうと予想していた。

 「・・・お爺さんもいるしね」

  やや弱気になっている二人の様子を見て沙羅が檄を飛ばした。

 「だいじょうぶだよ!パパとお兄ちゃんが本気を出せば
絶対誰にも負けないよ!」

  その激励に二人は笑顔を取り戻し、ゆっくりと立ち上がった。

 「そうだな、『俺達は負けない』だ。よし、行くぞホクト!」

 「うん!沙羅、絶対に優勝してみせるからね!」

  そう言って二人は決勝の舞台へと走り出した。





 「レディースエーンドジェントルメン!皆様大変お待たせいたしました、
  只今より第17回町内アームレスリング大会の決勝戦を行います!
  今年は栄光のチャンピョンベルトは誰の手に渡るのでしょうか!?」

  煙幕の中からさっきの司会が黒タキシードに蝶ネクタイの姿で
  特設リングの上に現れた。会場が大歓声で揺れる。

 「気になる優勝商品は松坂牛1キロだ!男達よ、己の腕で勝利を奪い取り
  奥さんとの愛に再び火をつけろ!家族との絆をこの手に取り戻すんだ!」

 「松坂牛?!」

  賞品を聞かされた沙羅が手を叩いて歓声をあげる。

 「まずは選手の入場から行いたいと思います!数ある強豪たちを倒して
  ここまで勝ち上がってきた猛者たちは、こいつらだあ!」

  スポットライトが花道を照らす。入場曲だけではなく
スモークまでご丁寧に用意されている。

 「最初に入場するのは倉成一家の大黒柱、倉成武だ!徒競走で見せた
  ぶっちぎりのスピードは折り紙つきだ!溢れる若さがかもし出す
  魅力の前には近所の奥様方もメロメロって噂だぞ!」

  グシャッ!つぐみの持っている紅茶のスチール缶が潰れる音がした。

 「マ、ママ落ち着いて・・・」

 「武、後で覚えてらっしゃい・・・」

  どこからか突き刺さってくる黒い刃のような殺意に
花道を歩いていた武は一瞬足を止めて身震いした。

 「チッ、らしくねえぜ。一発バシッと決めてやるぞ!」

  武は両手で頬を叩いて気合を入れた。しかし、後ほどつぐみによって
  死ぬほど気合を入れられることになるのだが。 

 「さあ、お次はボリフェノール・三郎だあ!どっかで聞いた名前だって?
  ノンノンノン、こいつはそこいらの奴とは刺激が違うぜ!・・・」

  実況がノリノリで選手紹介を続ける中、ホクトは後ろで入場の出番を
  やや緊張気味に待っていた。たかだか町内の運動会でこんな大掛かり
  なイベントが行われるとは思っていなかったのだ。

  気分を落ち着けようと軽くあたりを見回していると、
  ふいに一人の大男が近寄って来た。

 「なんだあ?今年はこんなちっこいガキが決勝まで来たのか?フン、
  みんな不況で財布と一緒に筋肉まで縮みこまっちまったんじゃねえか?」

  身長190cmはある大柄な男はホクトを見下ろして笑い飛ばした。

 「だとしたら今年は楽勝だな。今度こそ優勝はオレ様が頂くぜ!」

  ホクトは一瞬あっけにとられたが、自分が馬鹿にされていることに
  気づいて反論しようとすると

 「ふぉっふぉっふぉ、油断は大敵じゃぞい」

  と、言いながらどこからかキュレイ爺さんが現れた。
  すると大男は急に声を荒げて

 「ジジイ!今年こそテメエも最期だぜ。オレ様が
  棺桶に叩っこんでやるから覚悟しとけよ!ガッハッハ!!」

  と鼻息荒く爺さんを挑発した。しかしキュレイ爺さんはしれっとした態度で

 「熊田よ。お主こそ、その自信に足元をすくわれぬように気をつけることじゃ」

  と返した。男は黙ってきびすを返すと、かかとを鳴らしながら
  入場ゲートの方に歩いていった。

 「すまなかったの。あいつも根は悪い奴じゃないんじゃがどうも
  気性が激しくての。こういうところに来ると興奮しすぎてしまうんじゃ」

  爺さんは男が去った後、ホクトに申し訳なさそうに言った。

 「いえ、気にしていませんから」

  ホクトはそう答えながら、自分の中の不安と緊張が解けていくのを
  感じていた。『やるしかない・・・』静かに拳を握ると、入場ゲート
  に向かって歩き出した。

 「さあ、そして不遇のビッグベアー熊田重蔵の登場だあ!
  日本人離れした190cmオーバーの体格に100kgを
  越す体重が生み出す圧倒的なパワー!!毎年チャンピョンの
  神父様に敗れているが今年こそは逆転劇が見られるのか?
  乞うご期待だあ!」

  いよいよホクトの出番だ。ホクトは大きく息を吸いこむと、
  スポットライトと大歓声に包まれた花道に足を踏み出した。

 「お次は最年少の倉成北斗君だ!16歳という大会史上最年少の
  決勝戦進出は前代未聞の大波乱を予感させるぞ!
  このまま一気に優勝というドラマが達成されるのか?
  今大会最大のダークホースだ!」

 「おにいちゃーん!がんばれー!!」

  応援席から手を振る沙羅とつぐみに小さく手を振り返しながら、
  ホクトはリングに歩を進めた。もう不安も緊張も感じなかった。

  そして、音楽と声援が止まった。観客は息をひそめ、
  町の英雄の登場を静かに待った。

 「いよいよ最後に我らがチャンピョンの登場だあ!無敗街道をひた走り
  連勝記録をいまだに伸ばし続ける最強の漢!今年また新たに伝説の
  1ページが刻まれる!!この瞬間を1秒たりとも見逃すなあ!!!」

  うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
  キュレイ爺さんが花道に上がった瞬間、会場のボルテージは
  一気に最高潮に達した。歓声が街の空気を大きく揺らす。

  爺さんは王者の貫禄を湛えながらスポットライトに照らされた
  花道を一歩一歩踏みしめ、大歓声をその身に受けながら
  ゆっくりとリングに上がった。

 「以上8名でトーナメントは行われます!引き続き決勝戦の抽選を
  行います。予選と同じく選手の運命を決めるのはクジ引きだあ!」

  どうやら決勝戦もクジ引きで対戦相手を決めるようだ。

  とはいえここまで来たら遅かれ早かれどこかでぶつかることになるのだ。
  武は心の中で息子や爺さんと当たる覚悟を決めた。

 「それでは選手の方は中央にある箱の中から入場した順番のとおりに
  一個づつボールを取って下さい!」

 「てことは、最初は俺からだな」

  武が前に進んで箱の中に手を入れる。そして最初に触れたボールを
  迷わず引き出した。

 「7番か・・・」

 「はい、倉成武選手は第四試合ですね。では続いてボリフェノール・三郎
  選手は・・・2番ですね。オーケー、お次は・・・」


 「どうしよう、パパとお兄ちゃんがいきなり当たったりしないかなあ・・・」

  沙羅が不安そうに言うが、つぐみは

 「大丈夫よ、あの二人はいざって時の悪運は強いから」

  そう答えた。LeMUの過酷な状況を切り抜けてきた二人の運と意思の強さを
  つぐみは誰よりも知っていたし、信じていた。

 「熊田選手は・・・4番ですね。では倉成北斗選手お願いします。
  ・・・おっと1番ですか、では1回戦の相手はボリフェノール・三郎選手
  ですね。」

  最後に爺さんが残ったボールを引き出す。

 「ということは、チャンピョンは残った5番ですね。これで全てのカードが
  決定いたしました!」


 「パパとお爺さんが2回戦で当たるんだね」

  沙羅が抽選結果の書かれたスクリーンを見ながらそう言うと、
  つぐみもスクリーンに目を向けた。

 「そうね。ホクトとは反対側だから決勝でぶつかることになるわね」

 「がんばって。パパ、お兄ちゃん」



 「では決勝トーナメント第1回戦。倉成北斗VSボリフェノール・三郎の試合を
  始めます!」

 「HAHAHA!初戦からミーと当たるとはアンラッキーなボーイデ〜ス♪」 

 「・・・」

  対戦台の向こうには日本語はうまいが変なテンションの外国人が立っている。

 「肉とワインで鍛えられたこのパーフェクトなボディには誰も勝てまセ〜ン♪」 

  三郎はそう言っていろいろなポージングを決める。うちの町内には
  こんな人もいるんだ・・・ホクトは別の意味で感心していた。

 「お互いに、礼!」

  競技台を挟んでホクトと三郎は一礼した。その後ホクトはグリップ・バーを
  左手で握り、エルボーカップに右肘を乗せ、相手と手を組むと静かに
  審判の合図を待つ・・・

 「レディー、GO!」

 「はあっ!!」「Oh!!」

  ホクトは歯を食いしばった。やはり勝ち上がってきた奴等は強い。
  長期戦に持ち込まれると不利だ。

 「ぐおおおおっ!」「No〜!!」「ストップ!勝者、倉成北斗!」

  ホクトは全体重を右腕に乗せて一気に勝負を決めた。
  観客が勝者を大きな声援と拍手で称える。

  その場で目をつぶって乱れた息を整えていると、突然ホクトの右手が
  天高く持ち上げられた。驚いてホクトがそちらを見ると

 「ユーはベリーストロングね!その調子であのグランドファーザーも
  ノックアウトしちゃってくだサーイ♪」

  何と負けた三郎がホクトの右手を持ち上げていた。ゆっくり手を下ろすと
  彼は笑顔で握手を求めてきた。ホクトも笑ってその手を握り返す。
  大きくて暖かい手だった。

  と、その時金髪の女の子がリングに上がってきた。
  三郎はそちらを見て苦笑するとその女の子を抱え上げて
  何やらわからない言葉でその子と2言3言会話を交わすと、
  もう一度ホクトの方を見て「グッドラック」と一言だけ告げて
  そのままリングを降りていった。

 「初参戦の倉成北斗選手が見事一回戦突破を果たしました!
  続いていよいよビッグベアー熊田の登場です!そして彼の
  今日の獲物は・・・?」

  熊田がリングに上がると同時に歓声が大きくなった。彼の野性味溢れる
  荒々しいファイトスタイルはキュレイ爺さんと並ぶ大会の名物なのだ。

  会場の熱狂と熊田の雄叫びを背にホクトは控え室へと戻っていった。

 「ホクト、よくやったぞ!」

 「あ、お父さん・・・」

  控え室に戻ったホクトを武は手放しに誉めて迎えた。

 「さっすが、俺の息子だ!」

  すっかり息子の勝利に気分をよくしている武は
  ホクトの両頬をむにょーんと引っ張った。

 「お、おとうふぁん、いふぁい・・・」

 「この調子で勝ち上がって来いよ、そして決勝戦は俺と対決だ!
  どっちが勝っても肉はゲットできるが、手加減はしないからな!」

  すっかり舞い上がっている武だったが、そこに実況の声が響いてきた。

 「続いてはいよいよ皆様お待ちかねのチャンピョンの登場です!」

  どうやら第2回戦はいつの間にか終わって、
  次はキュレイ爺さんの出番のようだ。それを聞いた武は

 「おっ、爺さんの出番か。多分次の俺の相手になるだろうから、
  ここはひとつお手並み拝見といくか」

  そう言ってホクトから手を離して、入り口の方に歩いていった。

 「・・・ふう」

  ようやく開放されたホクトも頬をさすりながら武の後を追った。



 「第3回戦は我らがチャンプ神父様VS高速パンチの使い手鮫島力との対決です!
  お互いに、礼!」

  武はリング上の爺さんを見ながら分析をしていた。

  彼の体格は参加者の中でもかなり小さい方だ。一方の対戦相手は熊田ほど
  デカいわけではなかったが、爺さんが小さいこともあってまるで大人と子供の
  腕相撲である。このハンデをどう覆すのか・・・

 「レディー、GO!!」

 「ホイッ!」

  だんっ!一瞬だった。レフェリーが開始の合図をするのと全く同時に
  フルパワーを出して相手に反撃のスキを与えず一気に勝負を決めたのだ。

 「ストップ!チャンピョン、準決勝進出です!!」

 「ふぉっふぉっふぉ。今夜は久しぶりにすてーきが食えそうじゃ♪」

  と言って爺さんはポーズを決めつつ白い歯を光らせた。
  会場からは再び大歓声があがった。

 「うわあ、やっぱりスゴイねお爺さん・・・」

  ホクトが感嘆の息を漏らす。

 「・・・マジかよ」

  武もその様子を見て呟いた。確かにあれではどんな怪力の大男が
  出てきても勝てない筈である。だが、勝機が全くないわけではない。

 「持久戦に持ち込めば、なんとかなるかもな」

 「え?」

  ホクトはあまりわかっていない様子だったので、
  武は簡単に自分の考えを説明した。

  確かに彼の瞬発力は常人離れしているが、最初のインパクトさえしのいで
  しまえばキュレイのハンデがない以上パワーでは体格的に勝る自分の方に
  分があるのではないかと武は話した。

 「そっか、スゴイよお父さん!それならお爺さんに勝てるかもしれないね!」

  父のアイデアを聞いてホクトは素直に感心している。

 「まあ、最初のあれをこらえきれたらの話だけどな・・・」

  と、そこへ戦いを終えた爺さんが歩いてきた。

 「ふぉっふぉっふぉ、作戦会議でもしているのかの?」 

  爺さんは余裕たっぷりにそう尋ねた。武はそれに対して笑みを浮かべながら

 「それは本番のお楽しみだぜ」

  それだけ答えて試合会場の方に足を向けた。爺さんも不敵に笑い返すと

 「ふぉっふぉっふぉ。お楽しみは大歓迎じゃわい」

  そう言い残して控え室へと戻っていった。武は爺さんの後ろ姿を一度だけ
  振り返ると手の平で両頬を叩いて気合を入れた。

 「さて、行くか!」

 「お父さん、頑張ってね!」

  ホクトの声援に送られて武は試合会場に向かった。



 「いよいよ第一試合最後のカードです。倉成武VS望月駿!お互いに、礼!!」

  武は競技台の向こうにいる対戦相手に一礼をした。この後は爺さんが
  控えている、長期戦による体力の消耗は避けたい。武は対戦相手と腕を
  組みながら一気に勝負をつけることに決めた。

 「レディー、GO!」

 「はあっ!」「ぐっっ!」

  なんと相手も同じ戦略を取っていた。最初から一気に行くという
  心構えがなければ危なかったかもしれない。

 「ぬああああっ!」

  ばんっ!武は気力を振り絞って何とか相手をねじふせた。    

 「ストップ!勝者、倉成武!」 

  歓声と拍手が鳴り響く中、武は内心冷や汗をかきながら試合場を後にした。

 「ふい〜、危なかったぜ。だが爺さんとの対戦のいい予行練習にはなったな」

  控え室に戻ると、タオルを持ったホクトが笑顔で出迎えてくれた。

 「やったね!おめでとう、お父さん!」

 「ああ、サンキュー」

  武は受け取ったタオルで汗を拭きながら息をついた。

 「準決勝のお前の相手は手強そうだな、大丈夫か?ホクト」

  息を整えた武がそう尋ねるとホクトは

 「うん、絶対優勝するって浜岡さんや沙羅たちと約束しちゃったからね。
  こんな所で負けられないよ!」

  と力いっぱいに返した。そこへホクトの優勝宣言を聞いていたのか、
  熊田が荒々しい靴音を鳴らしながら近づいてきた。

 「おいおいボウズ、まさかこの俺様に勝つつもりなのか?へっ、10年早いぜ!」

  熊田はプライドを傷つけられたのか、少し不機嫌そうな声で吐き捨てる。
  しかしホクトは全く動じず熊田の目をまっすぐに見据えながら更にこう言った。

 「僕は約束したんだ、必ず勝つって。だから負けない!」 

 「へっ、約束しただけで勝てるんなら世話ねえやな。ジジイの前にまず
  テメエからひねり潰してやるぜ!覚悟しとくんだな!!」

  どうやら完全に怒らせてしまったようである。熊田は顔を真っ赤にして
  肩をいからせながらその場を去っていった。

 「大丈夫か、ホクト・・・?」 

  息子の危機を案ずる父親の言葉に対して、ホクトははっきりと答えた。

 「大丈夫、絶対に勝ってみせるから」

  ホクトはそう宣言すると、拳をゆっくりと握り締めて

 「それじゃお父さん、行ってくるね」

  そう言って控え室をしっかりとした足取りで出て行った。



 「さあ、いよいよ準決勝第1回戦です!倉成北斗と熊田重蔵の
  フェザー級VSヘビー級の一騎打ち!」

  うおおおお!異色対決を前に観客は盛り上がりを押さえられない。  

 「やっちまえ熊田ぁー!ガキなんぞの出る幕じゃねえってことを
  身をもってたっぷり教えてやりなぁー!」

  既に昼間から酒を10秒チャージして出来上がっている
  酔っ払いオヤジのヤジが飛ぶ。

 「何よ!お兄ちゃんはすっごく強いんだから!!あんな熊みたいなオッサン
  なんてちょいちょいっとやっつけちゃうんだからね!」

  それを横で聞いていた沙羅が思わず抗議の声をあげる。

 「なんだあ、あいつはお嬢ちゃんの兄貴か?ははは、そいつは気の毒だな。
  なにせ相手はあの熊田だからなあ〜、相手が悪すぎるぜ」

  オヤジは大仰な仕草で両手を上げて首を横に振る。

  兄を公然とバカにされて怒りに震える沙羅の前で
  オヤジはなおもおどけて胸の前で十字を切ったりしている。
  しかしそのオヤジの背後に音もなく近づく黒い影があった。

 「ちょっとあなた」

 「あん?」

  ドフッ!振り向いた瞬間につぐみの鋭い一撃がオヤジのボディを襲った!

 「ぐ、ぐおおお・・・」

  思わず大地に膝をつくオヤジ。

 「少し飲みすぎたようね。そこでしばらく寝ていたほうがいいわ」

  突然の場外乱闘の発生に唖然とする周囲を尻目に
  つぐみはそう言って席に戻っていった。

 「天誅でござる」

  うずくまって呻くオヤジに沙羅もそういい残すと応援に戻っていった。



  その頃リング上では熊田が闘志を剥き出しにしてホクトとにらみ合っていた。

 「へへへ。ボウズ、一瞬で決めてやるからよ。おとなしくママのところに帰んな」  

  熊田は指を鳴らしつつ挑発するがホクトは動じない。ゆっくりと呼吸を
  整えながら相手と手を組み、試合開始の合図を静かに待ちつづけた。

 「レディー、GO!」

 「そりゃあああ!」「うおおおおッ!」

  歓声が飛び交う中で武は心配そうに息子の勝負を見守っていた。
  二人の体格差によるハンデは大きい。まして、ホクトは常人離れした
  体力を持つとはいえキュレイに対しては劣性なのである。

  やはり不利か・・・?武がそう判断を下した瞬間

 「ぐおおおおっ!」「むっ!?」

  なんと最初リードを奪われていたホクトが次第に押し返し始めたのである。

 「おーーっと、なんと北斗選手が巻き返し始めたぞ!奇跡が起こるのか?!」

 「こ、このガキ・・・!」  

 「おにいちゃーん、がんばれー!!!」

  周囲の歓声に負けじと沙羅も声を張り上げてホクトを応援する。
  隣に座っているつぐみもじっと息子の戦いを見つめていた。

 「ダアアアアアッ!」「ぬおおおおっ!」

  どんっ!場内が一瞬静まり返った。

 「・・・ストップ!勝者、倉成北斗!」

  審判が勝者の名を告げる。その瞬間に観客は16歳の少年に
  割れんばかりの拍手を送り、その健闘を惜しみなく称えた。

 「試合後に、礼!」

 「はあーっ、はあーっ、はあーっ」

  一礼をしてホクトはその体勢のまま手を膝についた。
  全身から汗が噴き出してきて、膝はガクガクと笑い、頭もくらくらする。
  目の前が真っ暗になりいっそこのまま寝てしまおうかと思った瞬間、
  誰かがホクトの頭の上に手を乗せた。

 「熊田さん・・・」

  重い頭をあげると、そこにいたのは父ではなかった。
  先ほどまでは敵同士だった男が、少しだけ悔しそうな
  笑顔を浮かべて立っていた。

 「ほれボウズ、こんなところで寝るんじゃねえよ。何せお前さんは
  俺の今年の悲願を打ち砕いちまったんだからな、あのジジイを
  俺の代わりにしっかりぶっ倒してこいよ!」

  熊田はバシッとホクトの背中を叩き、もう一度豪快に笑うと
  下手な口笛を口ずさみながら去っていった。

  なんとかホクトが重い身体を引きずって裏まで戻ると、
  武が屈伸運動をして身体をほぐしていた。

 「お父さん・・・」

 「おっ、ホクト。ナイスファイトだったな!」

  戦いを終えてボロボロになっている息子の姿を見て、
  武は少し誇らしげな気分になった。

 「まあ、ゆっくり休んどけ。次はちょっくら長い試合になると思うからな」

 「次は、いよいよお爺さんとだね・・・」

  自分の疲労も忘れて父の心配をしているホクトに対して、
  武は小さくステップを踏みながら

 「ああ、軽ーくひねってくるさ。お前は決勝で当たる
  俺への作戦でもゆっくり考えてな」

  とさらっと軽くホクトの髪を撫でて、試合会場に向かっていった。




 「さあ、準決勝第2回戦はチャンピョンVS倉成武!初参加ながら
  ここまで一気に勝ち上がってきた倉成武選手と不敗神話の伝統を
  守り続けてきた神父様との好カードに期待がかかります!」

  武はとにかく勝負を引き伸ばすことを考えていた。ここで体力を
  使い切ってもいい。もし、俺がここで負けても・・・

 「試合前に、礼!」

  俺がここで負けたとしても、ホクトがいる。とにかく爺さんの体力を
  少しでも減らし、ホクトの体力回復のための時間を稼がなければ。

 「レディー・・・」

  武は全神経を集中して、開始の合図を待ち構えた。

 「GO!」

 「ホイッ!」「ツッッ!!!」

  スタートと同時に、小柄な爺さんの体格からは想像できない凄まじい力の波が
  武の筋肉を襲う。だが紙一重ギリギリで武の手の甲は床についていなかった。

 「ほう、ワシのぱわーに耐えるとは大したもんじゃ。
  じゃがもう勝負はついたも同然じゃな」

  そう言って更に圧力を加えてくる爺さんの攻撃に武は必死で耐えた。

 「へっ、勝負はこれから・・・だぜ!」

  武は右腕に力を集中する。やがて、
  徐々に武の腕が爺さんの腕を押し返し始めた。

 「むむっ、これは・・・?」

 「・・・へへ、思った通りだぜっ!」

  二人の腕の位置がイーブンに戻った。
  それを見た観客は一気に沸き立ち、大歓声を上げる。

 「このまま一気に・・・決めてやるぜ!」

  勝利を予感した武はこのまま押し切ろうと力を振り絞った。しかし・・・

 「若造が、ワシを舐めるでないわぁっ!!」

 「なにっ!!!」

  ぐんっ!予期せぬ第2波を受けて武は再び窮地に追い込まれた。

 「くっ、そんな馬鹿な・・・」

  計算外の爺さんの余力に武は声を上げる。

 「ホワアッ!!!」「ぐおおっっ!!!」

  どむっ!結局武の最後の粘りも通じず、
  爺さんの右手が武の右手をねじ伏せた。

 「ストップ!勝者、チャンピョン!!!」

  会場に大きな拍手が鳴り響く。歴史に残る名勝負を目にした観客は
  二人の健闘に盛大な拍手を送った。

 「はあ、はあ、くっそー、無理だったか。いけると思ったんだがなあ・・・」

  悔しそうに額の汗を手の甲でぬぐいながら一人ごちる武に
  キュレイ爺さんが歩み寄ってきた。

 「いやいや、ないすふぁいとじゃったよ。
  生きてきた時間が長かった分の差で、ワシの勝ちじゃな」

  そう言って差し出される右手を握り返しながら、
武はふと疑問に思って聞いてみた。

 「そういや爺さん、あんた歳いくつなんだ?」

  そう尋ねる武に爺さんは顎に手を添えて

 「たしか今年で119歳じゃったかのう?」

 「119歳?!」

  それを聞いた武は驚きの色を隠せない。

 「ふぉっふぉっふぉ。若いじゃろ」

 「若いとかそういう問題じゃない気がするが・・・」

  呆れてそう答える武に対して爺さんはさも愉快そうに笑った。

 「カッカッカッカッ。さて、次はお主の息子が相手か。見たところ
  あの子もこの戦いを通じて成長してきておるようじゃからのお。
  悪いが手加減はできんぞい」

  そう言って立ち去ろうとする爺さんの背中に向かって武は叫んだ。

 「爺さん!あんたがいくら強かろうと、あいつは絶対負けないぜ!」




 「あ、お父さん・・・」

  ホクトは敗北して帰ってきた父にかけるべき言葉を探していたが、
  戻ってきた武は意外にもすがすがしい晴れやかな顔をしていた。

 「悪りぃホクト、負けちまったわ」

  手をパン!っと合わせて詫びる武。悔しくないわけが無いだろうが、
  それでも父は笑っていた。

 「・・・後は、お前に任せるぜ」

  武はそう言ってホクトの頭の上に手を置いた。
それ以上の言葉は必要なかった。

 「・・・うん。行ってきます、お父さん!」

 「ああ、頑張れよ!」



 「皆様大変長らくお待たせいたしました!
只今より第17回町内アームレスリング大会の決勝戦を行います!!!」

  ワー−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−ッ!!!
  この瞬間を心待ちにしていた人達の感動の声で会場が揺れる。

 「今年の大会は大番狂わせの連続で決勝戦で我らがチャンピョンに
  挑戦するのは何と大会史上最年少の16歳の少年倉成北斗君!
  挑戦者がその若さで一気に頂点まで上り詰めて新しい時代が到来するのか?
  チャンピョンが王者のプライドにかけてベルトを守りきるのか?
  その答えが今出されます!」

  ホクトと爺さんはゆっくりと競技台の前に進み出た。

 「お互いに、礼!」

  ホクトは一礼をしながら精神を集中した。会場の大歓声が意識の中で
  小さくなっていき、やがてホクトの耳には聞こえなくなった。

  今まで何度も繰り返してきた動作をもう一度行って爺さんと
  静かに腕を組むと、開始の合図を待つ。勝負は、最初の一瞬。

 「レディー・・・」

 『絶対に、勝つ!!!』

 「GO!!!」

 「ホイッ!!!」「うおおおおっ!」

  おおおおお・・・!観客の間からどよめきの声が上がる。試合開始直後、
  二人の腕は全く動かなかった。つまり、互角。

 「ぬぬぬぬぬ・・・!」「はああああっ・・・!」

  二人はその後も己の腕に力を注ぎ続けたが、そのままの位置から
  腕は全く動かない。会場は呼吸すら忘れたかのようにしんと静まり返り、
  試合の行方をじっと見守った。

 「ぬうううう!!!」「くっ・・・!」

  爺さんの王者としてのプライドが圧力となってホクトの右腕をじわじわと
  侵食し始めた。腕が徐々に傾いて床に近づいていく。『これまでか・・・!』
  ホクトが覚悟を決めかけた時、会場に大きな声が響き渡った。

 「こらー!しっかりしろホクト!!ここまで来て負けるんじゃなーい!!!
  もし負けたらパロ・スペシャル&マッスルスパークの刑だぞー!!!」

  半分消えかけていた意識の隅に秋香菜の声が届いたような気がした。
  そうだ、僕は約束したんだ。『負けない』って。ホクトは閉じかけていた
  目を再び見開くと、残された全てを自分の右腕に託して最後の力を振り絞った。



  ・・・どん。



 「・・・・・・・・ストップ!」

  会場が水を打ったように静まり返った。



 「勝者、倉成北斗!!!」

  わああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
  新しい王者の登場に会場は熱狂の渦に包まれた。

 「わーい!お兄ちゃんの優勝だぁ!!!」

  沙羅がその場に飛び上がって喜ぶ。

 「よく頑張ったわ、ホクト」

  つぐみも少し目を潤ませながら微笑んで言った。

 「はあーっ、はあーっ、はあーっ、はあーっ・・・」

  完全に力を使い果たしたホクトはふらつく足を押さえられず、
  その場に倒れ込んでいった。

  ふにょっ。

  と、その時ホクトの体を暖かいものが包み込んだ。

 「やったあ!さっすがホクト!!」

  リング上まで素早く駆けあがってきた秋香菜が
  ホクトの体を抱きとめていた。

 「キミがこの町で最強の男だよ!!!」

  ぎゅう〜!

  秋香菜は感極まってホクトの体を全力で抱擁した。

 「・・・ち、ちょっと優・・・く、くるし・・・」

  柔らかい感触と歓声に包まれながら、
  ホクトの意識はお花畑へと飛んでいった・・・





 「だっはっはっ!それにしても情けないよな〜」

  武はまだ腹を抱えて笑い転げていた。

 「し、仕方ないじゃないか・・・」

  ホクトは顔を真っ赤にしながらそっぽをむいた。

  あの後秋香菜の腕の中で気絶してしまったホクトは新チャンピョンの座を
  5秒で奪われ、代わりに『この町で最強の女』として新たにチャンピョンの
  座についた『田中優美清秋香菜』がベルトと松坂牛を受け取り、ホクトを担いで
  ここまで連れてきたのだ。

 「そうだね〜、あれじゃせっかくの優勝が台無しだよね〜」

  と、沙羅も笑いをこらえながら言う。

 「そ、そういうお父さんだって準決勝でお爺さんに負けたじゃないか・・・!」

 「うっ・・・!」

  痛いところを突かれて武の動きが止まる。

 「そうね、あれにはがっかりしたわ」

  急に矛先が変わってつぐみからも痛い視線を向けられた武だが、

 「あ、あれは息子にいいところを譲ってやろうという父の大いなる愛なんだ!」

  と、苦しまぎれの言い訳をした。

 「お、俺が本気を出せば爺さんなんて楽勝だったんだぞ?・・・本当だぞ?」

  家族全員からの全く信じていないジト目の集中攻撃を受けた武はついに

 「すいませんでした」

  と、敗北宣言をしつつ土下座した。するとその時

 「たっだいまー!」

  ホクトと戦利品の松坂牛を置いてすぐにどこかに行ってしまっていた
  秋香菜が戻ってきた。

 「あ、なっきゅ先輩、お帰りなさ〜い」 

  沙羅が秋香菜を笑顔で迎えた。

 「うむ、出迎えご苦労である」

  秋香菜はチャンピョンベルトの巻かれた腰に両手を添えた
  仁王立ちのポーズで胸を張って答えた。

 「でも先輩どうして今日ここに来れたんですか?
  確かレポートがあるって・・・」

 「ふふふ、先週ホクトから運動会の話を聞いて面白そうだなって
  思ったから昨日の夜から頑張ってついさっき終わらせて
  飛んできたのよ♪」

 「そっか、応援に来てくれてありがとう、優。
  ところで今までどこに行ってたの?」

  ホクトがそう聞いてみると

 「キミの代わりに勝利者インタビューを受けてたのよ♪」

  秋香菜はそう答えた。

 「え、それってどんなことを聞かれたの?」

  内容が気になったホクトがそう尋ねても秋香菜は笑って

 「さ・あ・ね・え〜?」

  と首を横に振ってごまかした。そこへ向こうから浜岡夫妻がこちらへ歩いてきて

 「ホクト君、だめだよ。妹がいくら可愛いからって押し倒したりしちゃ」

  いきなり旦那さんがホクトの肩に手を置きながらそう言った。

 「え?」

  ホクトが動きを止める。そこへ奥さんがいつもの大きな声で

 「あ〜らホクト君、お母さんのスカートをめくったことがあるって本当?
  ホクト君もやっぱり男の子ねえ〜!」

  と言って豪快に笑った。完全に固まってしまったホクトの足元に
  秋香菜はそ〜っとチャンピョンベルトを置くと

 「あ、あはは・・・それじゃまたね!!!」

  と言って脱兎の如き速さで逃げていった。

 「優〜〜〜〜〜っ!!!」

  残されたホクトの叫び声がグラウンドにむなしく響き渡った。



  あとがき


 Vo:一番長く、一番苦労した作品です。他の作品の2倍〜3倍のボリュームに
   なってしまいました。超怠作になってなければいいんですが・・・

 Az:一切のノリをVoにお任せしています。ホクたんの見せ場が作りたかったんですよね?

 Vo:そうそう。どうも世間一般ではホクトの評価が低いようなので、ちょっと
   かっこいいホクたん書いてみようかと思って。

 Az:その為に、爺さん以外にも濃いキャラをどんどん出してくれましたな・・・

 Vo:まさか後からまたそのキャラを出すことになるとは思わなかったけどな。
  (腕相撲に出てきたオリジナルキャラの何人かは後ほど再登場します)

 Az:個人的には、ボリフェノール三郎がお気に入りです♪

 Vo:アツイ話になりましたがそのままノンストップでラストまで盛り上げて
書くのが大変でした・・・

 Az:一番時間かかってますよね? 後、缶紅茶の出番が増えてきましたw

 Vo:シリアスものはギャグと比べて書くのにエネルギーがたくさん必要だし、
   この話がオイラにとって生まれて初めて書いたSSということもあって
   難しかったです。でもみなさんのSS見ると結構シリアスを書かれている方も
多くて驚きました。

 Az:ええ、私には出来ません・・・(泣)

 Vo:拙い文で恐縮ですが『文長すぎだよ!!!』と思いつつも心の片隅で
  『ホクたんもいいかも♪』という想いが生まれていただけると幸いです。


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