〜 エバセブ熱血行進曲 〜
                              作 A/Z&Mr.Volts


  <Programm Nummer Fuenf:Essenbrotlauf>
[プログラムナンバー5:パン食い競走]




 「間もなくプログラムナンバー5番、パン食い競走を行います。
  参加希望の方はグラウンド裏の受付までお越しください」

  会場の腕相撲の熱狂もようやく落ち着いてきた頃、
放送がグラウンドに響いた。それを聞いた武は

 「おっ、パン食い競走か。いいねえ、ちょうど一仕事終えて腹が
  減ってたところだ。ここらでひとつエネルギー補給といきますか」

  とお腹を押さえながら立ち上がった。

 「何言ってるの。さっき帰ってきて早々『腹が減った』って言って
  おやつを散々食べていたじゃない」

  と呆れた様子で突っ込むつぐみに対して武は力こぶを作ってみせて力説した。

 「古人いわく、『腹が減っては戦は出来ぬ』。一家を支えて戦う戦士には
エネルギーがそれだけたくさん必要なのさ」

  それを聞いていた沙羅がボソッと小声で突っ込む。

 「戦死して帰ってきたくせに・・・」

 「うっ!」

  先ほどの腕相撲で見事に敗北を喫して帰って来た武には痛恨の一言だった。
  ショックで力こぶを作ったポーズのまま固まってしまった武にホクトが
  フォローを入れた。

 「で、でもあれは準決勝でお父さんがお爺さんを疲れさせてくれたから
  勝てただけで、僕一人じゃお爺さんにはとても歯が立たなかったよ」

 「ホクト〜、お前はいい奴だなあ〜。
出来のいい息子を持ってパパは幸せだぞ〜」

  息子に危機を救ってもらった武は上機嫌でホクトの頭をぐりぐりと撫でた。

 「はいはい、わかったから取り合えず受付に行きましょう」

  とつぐみはそれ以上相手にせずに席を立つと、さっさと裏の方へ歩いていった。

 「あ、待ってよママ」

  と沙羅もつぐみの後を追った。

 「・・・なあ、俺達の株ってそんなに上がっていないんじゃないか?」

 「・・・そうかもね」

  二人は顔を見合わせてため息をつくと、受付に向かった。





  エントリーを済ませ倉成一家が向かった集合場所のお立ち台の上には、
  2人の係員の間に狩衣を着て烏帽子を被った平安貴族みたいな格好を
  した男が腕を組んで立っていた。

 「誰だあ?あいつ」

  武が心に思った疑問を素直に口にした時、係員の一人が説明を始めた。

 「えーと、それでは皆さん・・・」

  「今から麿がヤミパン食い競走の説明をするザンスから
  よーく聞いているザンスよ!」

  すると、係員の説明と同時に突然男が口を開いた。

 「ヤミパン食い競走?」

  沙羅が聞き覚えのない競技の名前を復唱する。 

 「あの、説明は我々が・・・」

  もう一人の係員が男をなだめるが男は全く聞く耳を持たず

 「右大臣、左大臣、よきにはからえ」

  と手で制してしまった。係員はお互いに顔を見合わせてしぶしぶ引っ込んだ。

 「では、説明を始めるザンス。まずは徒競走と同様に6人一組になって
  スタートするザンス。そして半分程の距離を走ったところにパンが6個吊って
  あるから好きなパンを手を使わずに口だけを使って取ってもらうザンス。」

  ここまでは別段変わったところのない普通のパン食い競走だ。
 『闇』とはどういう意味なのか・・・

 「しかし、パンの中身は何が入っているかわからないザンス。
  しかもそれを完食するまでその位置から動いては駄目ザンス。」

 「なるほど、それで『ヤミ』パン食い競走なのか・・・」

  ホクトが納得した表情で頷く。

 「それと、一応死なないように作ってあるつもりザンスが
  ギブアップする場合は手遅れになる前に速やかに係員に知らせるザンス」

 「ち、ちょっと待て!」

  それを聞いた武が思わず説明を止める。

 「・・・何ザンスか?」

 「それはギブアップする危険性のあるものが
  パンの中に入っている場合もあるってことか?」

  不安げに尋ねる武に向かって男は根拠のない自信に満ちた顔で

 「根性があれば大丈夫ザンス」

  と懐から扇子を取り出しながら断言した。

 「根性って言ってもな・・・」

 「自信がなければ引っ込んでるザンス。
  麿の芸術を理解できない輩に用はないザンス」

  男は手に持った扇子で武にシッシッと追い払う仕草をした。

 「何だとお?ふざけんな、やってやらあ!
  パンだろうがなんだろうが食ってやるよ!」

  その態度に完全に頭に来た武は怒りにまかせてそう宣言した。

 「まあ、せいぜい頑張るザンス。ああ、ちなみに競技の途中で水を
  飲んだら失格ザンス。麿の芸術を水で流し込むような無粋な輩は
  最低ザンス。説明は以上ザンス。」

  そういって男は扇子で顔をあおぎながら去っていった。

 「くっそーあの麿野郎。見てろよ、絶対全部食ってゴールしてやるからな!」

  まだ興奮冷めやらぬ様子の武に浜岡さんが近づいてきた。

 「いやいや、あの人にも困ったものですなあ」

 「お知りあいの方なんですか?」

  と沙羅が浜岡に尋ねると

 「ええ、彼はこの町内ではおいしいと評判のパン屋のご主人なんですがね。
  毎年この競技で新しく作ったパンを試しているんですよ」

  そう答えてきた。どうもこの町には変わり者が多いようだ。

 「ということは、私達はいわば実験台って訳ね」

  それを聞いたつぐみが少し不機嫌そうに言うと、浜岡さんは苦笑して

 「ありていに言ってしまえばそういうことになりますね」

  と言うと、懐から胃薬を出して

 「よろしければ、どうぞ」

  と武に差し出した。

 「よ、用意がいいんですね・・・」

  ホクトが感心した。もしかするとこういうトラブルに
  浜岡さんは慣れているのかもしれない。

 「いえ、お気持ちだけ頂いておきます」

  と、武は申し出を断った。薬に頼るのは男としてのプライドが許さない。
  絶対にあいつのパンを食ってみせる!武は別の意味で燃えていた。

 「そうですか、では私はそろそろ失礼します。お互いに生きて帰りましょうね」

  と、浜岡さんは縁起でもない言葉を残して去っていった。
  ふと周りを見回してみると神に祈っている者や
  家族の写真をじっと見つめているものもいる。

 「え、えーと、それでは皆さん内容はだいたいご理解いただけたでしょうか?
  それでは競技の方に移りたいと思いますので、整列してください」 

  やがて取り残された係員が進行を取り直した。整列の号令がかかると
  そこにいた人達はまるでこれから死地に赴くような覚悟の目をしながら
  ゆっくりと動き始めた。





 「どんなパンが出てくるのか楽しみでござるな♪」

  周りの沈んだ空気などまるで気にしていない様子で沙羅ははしゃいでいた。

  武たちとは徒競走の時と同様に同じレースにぶつからないよう先ほど別れた。
  ふと何となく隣に目を移すと、そこにはキュレイ爺さんが立っていた。
  なんだかいつもの覇気がない。

 「・・・?お爺さん、大丈夫?」

  声をかけられた爺さんはゆっくりと顔を沙羅の方に向けると

 「ああ、娘さんか。大丈夫じゃよ。ほれこの通り、ワシは元気じゃ」

  とポーズを決めるが、表情が冴えない。

 「体調が悪かったら、休んでいた方がいいんじゃないですか?」

  と、まだ心配している様子の沙羅に対して爺さんは笑って

 「いやいや、本当に何でもないんじゃ」

  と言うのでそれ以上は言及しないことにした。



 「それでは位置について」

  いよいよ沙羅たちの番だ。自分より前の人達は次々と
  数々の凶悪なパンの前に夢を打ち砕かれていった。改めて
  浜岡さんの言っていた「実験台」という言葉の意味に沙羅は
  戦慄を覚えた。しかし、ここは考え様によってはチャンスなのだ。

  体力ではどうしても成人男性と比べて劣る沙羅でも、当たるパン
  によっては入賞も不可能ではない。今までにもゴールまでたどり着く
  者が皆無だったわけではないのだ。

  麿からすれば新製品のテストをしているだけであって別に
  走者を掃討しようと意図している訳ではない筈なので
当然と言えば当然なのだが。

 「よーし、頑張るぞ!」

  沙羅は気合を入れた。キュレイ爺さんも同時に走るのだが、
  決まってしまったものは仕方がない。

 「ヨーイ・・・」

  パン!!!ピストルの合図と同時に全員はパンの吊ってある
  ツリーに向かって神風のように走り出した。ツリーの下では麿が
  不敵な笑みを浮かべて犠牲者をてぐすね引いて待っている・・・
  もとい、試作品の反応を見ようと様子をうかがっている。

 「ハア、ハア・・・」

  沙羅が遅れてツリー下に到着した頃には
  そこは既に阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

 「う、うああああ。助けて、助けてよ、お母ちゃん・・・」

 「逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ・・・」

 「み、みずだあ〜。水をくれよ!誰かMIZUを、Can I have water?・・・」

 「べんとらぁ〜、べんとらぁ〜、すぺーすぴーぽぉーーーーー!!!」

  その光景を見ながら麿は内心ほくそ笑んでいた。

 「フフフ・・・今回も貴重なデータが取れたザンス・・・」

 (以前全く売れなかったバナ納豆パンに改良を加えて更に当社比1.5倍に
  増量したバナ納豆パンスーパーDXはどうやら愚民の舌には理解できない
  ようザンス。固さの限界に挑戦した硬度9のチタンフランスパンは
  脆弱な大衆には歯が立たないみたいザンスね。風雅な香りを楽しんで
  もらおうと生の菊の葉を贅沢に盛り込んだ菊ノ葉パンは失敗のようザンス。
  食感と栄養素を考慮しつつネーミングセンスも高尚なトロロパンは
  もう少し改良の余地があるザンスね・・・後は・・・)

  ツリーには2つパンが残っていた。真っ先にツリーにたどり着いたはずの
  キュレイ爺さんはパンを目の前にして小刻みに体を振るわせながら
  ただその場にじっとたたずんでいる。

 (・・・?あの翁はパンが苦手だったザンスか?
  いや、そんなデータは無かったはずザンスが・・・)

  その時突然爺さんが腕を振りかざしたかと思うと、
  ツリーにぶら下がっていたパンを叩き落した!

 「ちがああああああう!ワシは今日はご飯が食べたいんぢゃ!
  白いご飯が食べたいんぢゃよおおおおお!」

  と絶叫すると、コースを飛び出てどこかに走り去っていってしまった。

 「ヒイイイッ!麿の芸術が!!マグロの代わりに近所の釣り好きの
  ハマちゃんにもらった締めサバを丸ごと入れて新鮮な鶏肉と無農薬ハーブを
  コラボレートしたチキン締めサバタツタ風サンドが!」   



  ようやくツリー下に辿り着いた沙羅は残されたパンをじっと見つめた。
  残されたパンがまともなものとは限らない。だが、4人がダウン&1人
  脱落のこの状況ならこれを食べ切れば勝てる。沙羅は覚悟を決めると、
  残された最後のパンにかぶりついた。

 「あ・・・」

  どんな凶器が隠されているかと思ったらこの味には覚えがあった。

 「ツナマヨ・・・」

  そう。ツナマヨパンだった。パンの表面はサックリだけど生地はふんわり。 
  その中にはコーンの優しい甘みとツナの芳醇な旨みをオニオンが
  締め、更に全体を包み込んでいる卵から作られた手作りマヨネーズ達に
  よって奏でられる味のハーモニーはまさに至高の一品!

 「うーん、い〜い仕事してますね〜♪」

  思わず某鑑定番組の中島○之助のモノマネまで飛び出しながら、
  沙羅は両手で頬を押さえてしばしの間天国を味わった。

 「・・・ふう、ごちそうさま♪」

  しばし余韻に浸っていた沙羅だったが、両手を合わせて食後の
  感謝の言葉を述べると麿に小さく手を振り、ゴールに向かって走り出した。
  その様子を見ていた麿は扇で口元を隠しながら満足そうに『ホホホ』と笑った。





 「えへへ、おいしかったなあ〜。あのパン♪」

  沙羅はまだあの時の味を思い出して悦に浸っている。

 「よかったわね、沙羅」

  つぐみが幸せそうな沙羅の様子を見て微笑みながらそう言う。

 「ほんとにすっごくおいしかったんだよ♪
  もしあれが発売されたら絶対買いに行こうね、ママ」

 「そうね。そんなに美味しいのなら、買ってみようかしら」 

  ちなみにつぐみは「ピザの味がするパン」を食べたらしいが、
  本当は何の味だったのか真相は闇の中だ。彼女も沙羅と同様一位で
  ゴールし、新鮮野菜の詰め合わせセットをゲットしていた。

 「んぐ、んぐ、んぐ、くっそー!あの野郎。あんなもん食えるかってんだ!」

  武とホクトは残念ながら麿の繰り出す悪夢の前に敗れた。

  武は『辛さのギネスに挑戦!超激辛スパイス盛り合わせパン』を食って
  火を噴き、二人三脚の賞品の缶紅茶を次々と飲み干している。

 「・・・・・・・・・・・・・」

  ホクトは『中国4千年の秘儀!漢方精力パン』を食べて卒倒して
  担架でここまで運ばれて来て椅子に座って以来、
  石像のように固まってしまって身動き一つしない。

 「それにしても二人ともだらしないよね〜」

 「そうね、がっかりしたわ」

  女性陣が非難する。腕相撲と合わせて2連敗の武としては立つ瀬が無い。

 「んぐ、んぐ、仕方ねーだろ!あれは絶対人間の食うもんじゃねーよ!!」

 「・・・・・・・・・・・・・」 

  と、そこへ麿が着流しに身を包み下駄を鳴らしながらやってきた。
  どうやらオフタイムはそういう格好をする主義らしい。

 「堪能していただけたザンスか?今日の麿の芸術は」

  どうやら倉成家に感想を聞きに来たようだ。

 「もう最高でした♪」

 「悪くはなかったわ」

 「お前!あんなもん人に食わすんじゃねーよ!!」

 「・・・・・・・・・・・・・」

  それぞれが感想を述べる。それを聞いた麿は満足そうに頷くと
  懐からキセルを出して咥え

 「今回も貴重なデータが取れたザンス。これを元に麿の芸術に
  更なる磨きをかけてみせるから、期待して待っているザンス」

  と言ってキセルを揺らした。別に火をつけるつもりはなく、
  ただ咥えているだけのようだ。

 「あのツナマヨパン発売されたら、絶対買いに行きますね♪」

  と力を込めて宣言する沙羅に笑いかけると、キセルを粋な仕草で
  袖の下に仕舞いこんでどこかに流れ歩いていった。

 「あ、こら、待ちやがれ!人の話聞いてるのか?あれは一歩
  間違えれば殺人だぞ!日本では殺人罪を犯した者には
  死刑、無期または3年以上の懲役が・・・」

  紅茶を片手に麿を追いかける武を見て
  沙羅とつぐみは揃って溜め息をついた。



  あとがき


 Vo:実は今回一番苦労したのはタイトルなんです。一応ドイツ語対応に
   したんですが当然ながらドイツに『パン食い競走』なんてないんですよ。
仕方ないんで『パンを食べる競走』ってのをドイツ語に直訳しました。

 Az:よく、調べ上げたものです。私には出来ません・・・
   普段の語学とかもこの調子で頑張れたらイイんでしょうけどねぇ〜。

 Vo:それは言わない約束でw。まあ『二人三脚』も割と適当につけちゃいましたが。
  本編自体は楽しんで書けました。またオリジナルキャラ出しちゃいましたが。

 Az:パン貴族・・・よく思いつきますよね、あんなキャラ。

 Vo:最初は普通っぽく書いてるんだけどね。どうしてもギャグを作ろうとすると
だんだん壊れたキャラになっていくんですよ。

 Az:この町の住人濃すぎです・・・私達がやってしまったんですけど・・・w

 Vo:何かあとがきになってだんだん送るのが怖くなってきた。このまま封印
したい気分です。

 Az:ここまでやりっぱなしで封印というのも寂しい気もするので、恐る恐る投稿
ということで・・・


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