彼が目覚めた時、眼に映った仲間の数はあまりに少なかった。
『1人の仲間』を救うためにそこを離れられない『1人の仲間』と別れた・・・
しかし・・・それでも仲間は『4人』いたはず・・・
なのに・・・目を開ければ・・・
さっきまでいたはずの『4人』が『1人』になっていた・・・
そして彼は、自分の力を認めず、使わず、小さな可能性を否定しかけていた・・・

These are some ladies' and some guys' story
                              作 BREAKBEAT!

Firest Story Is What can I do ? 


2017年5月21日 日曜日 天気 雨

あの事故から二週間が過ぎた。僕と優はとある病院に入院している。僕達は助かった。あの地獄から抜け出せたのだ。でも、武がいない、つぐみがいない、そして・・・ココがいない・・・

僕と優が入院している理由は、ティーフブラウ(TB)だ。
5月1日、僕達がLeMUに閉じ込められた日に、LeMUのなかにいたほとんどの人は脱出できた。
しかし、その脱出できた人のほとんどが死んでいる。
最近になって発見されたTBウイルス・・・その脅威は世界に知られてなかった。
情報が遅れたために日本の医療学界はパニックに陥り、処置が遅れ、LeMUのなかにいた人のほとんどが死に、その人たちを通して世界中にTBが広まってしまった。
しかし、僕と優はLeMU内にいたにもかかわらずTBに感染していない。
そのことに病院や専門家達は興味を持ったらしく、僕達に次々に質問をしてきた。
僕達はIBF内で知ったTBの情報を全て話した。
そして、ライプリヒの神をも恐れぬ実験のことも話した・・・が、新聞やニュースに出る話題は全てTBの話題だった。
ライプリヒの情報工作があったのは明らかだ。
現実を知っているのは僕と優と、おそらくどこかで生きていると思われるつぐみだけ、か・・・
知っているのに何もできないもどかしさと無力感がこんなにも強いものだったなんて・・・はは、物語の主人公の気持ちがよくわかる気がするよ。

現実がこんなにも・・・運命がこんなにも残酷だったなんて・・・
知らなかったよ・・・
こんな展開はゲームや漫画だけの話じゃないってことが・・・
それが現実化すると、こんなにも酷く痛いことだなんて・・・

ライプリヒの記事が無いかと、一通り読んだ新聞を僕の両親と友達が持ってきた見舞いの果物や花、小物なんかが置いてある、机の上に置いた。
奴らに関する情報はなし・・・TBが猛威を振るっているという事実さえ世間の記憶としては薄くなり始めている。
自然と溜息が漏れ、やることも無いから真っ白いベッドの上に横になり、少し染みができた白い天井を眺めながる。
記憶が戻り、真っ白だった僕の中がいろんなもので埋まったはずなのに、1つの大きな存在の喪失が、もう一度僕の心に大きな穴を開けてしまった。
「ココ・・・・・・」
呟きと同時に頬に一筋の雫が流れるのを感じた。
僕はいつも締め切った病室のなかで一人で泣いていた。
ココがいないということが、二週間たった今でも信じられない。
あの元気な声が聞きたい、どんな不安も吹き飛ばしてくれるあの明るい笑顔が見たい、もう一度君に会いたい!

コンコン

誰かがドアを控えみにノックした。
僕は慌てて上半身を起し、袖で涙を拭いて、返事を返す。
「どうぞ」
ドアを開けたのはやっぱり優か・・・
「少年、ちょっといい?」
優は静かにドアを閉め、ゆっくりと口を開き、また、あの話を持ち出した。
僕は自分の中で何かが暴れだしそうなのを感じた。
そいつは優が口を開くたびに行動を激しくし、優の話を途中まで聞くと、そいつは、ついに限界を迎えた。
「いい加減にしてよ!」
ベッドの上に置かれた枕を力任せに優に投げつけるが、優はそれを顔で受け止めただけだった。
「お願いだから・・・話を聞いて」
顔は項垂れているが、嗚咽交じりの声が僕に優の感情を伝える・・・優の気持ちはわかる・・・痛いほどわかるよ・・・でも・・・
「死んだ人間を救うために協力しろだって、冗談じゃないよ!」
拳を壁にたたきつけ、僕は我を忘れ、全ての負の感情を込めた声で叫んだ。
優の声が・・・考えが・・・優の全てが気に入らない!!

優は毎日僕の病室に入ってくる。理由はいつも同じ、「倉成とココを救うために協力して」それを言いに来るだけだ。
ココと武は死んだ。つぐみは行方不明だ。
海上保安部の話だとココはIBFに取り残されたらしいし、優の話だと武はつぐみを救うために海の底に沈んだらしい。
死んだとわかっている人間をどうやて救う? できるわけが無い!
「だから・・・倉成とココは死んだわけじゃないの」
「またそれ? BWだっけ? そんな妄想じみた話を信じろと言うほうがどうかしてるよ!」
妄想を信じろ? ハッ、鼻で笑っちゃうよ、そんな話!
優は死人を・・・ココや武を冒涜してるんだ!!

優はインゼル・ヌルを離れるとき不思議な声を聞いたらしい。
声の主が言うにはココと武を救うには2034年に今回の事件と同じ事件を起こす必要があるらしいが、信じられるもんか!
「死んだ人間を生き返らせる、どうやって!? 第一、ココたちが生きているならなんで助けに行かないの?」
僕はやけになっていた。仲間を、そして最愛の人・・・ココを失ったのだから。
「それは後で説明するわ・・・だから協力すると約束して! どうしてもあなたの力が必要なの!」
優の声は震え続けている。考えてみれば優も最愛の人を失ったのだ。優の最愛の人――倉成武
彼女の彼に対する接し方はときどき僕と少し違うところがあった。
僕はLeMUの中にいたときから彼女が武のことが好きだったことを少し知っていたのかもしれない。
彼女の気持ちは本当にわかっている。でも、彼女の言っていることは理解できなかい・・・いや、したくない!!

そのまま僕らは黙り込み、しばらくしてから優が病室を出て行った。
「また・・・来るから・・・」
最後の別れ言葉のとき、優は明らかに泣いていた。
さっきまで優が立っていた床の上では、雫がかすかに光っているのが見えた。
僕はなぜかそれを見たくなかったから・・・病院のスリッパでそれを潰した。

2017年5月23日 火曜日 天気 晴れ

今日は退院の日だ。
昨日も優は僕の元に現れた。理由はいつもどおり・・・もう、うんざりだ。
病院の自動ドアの前には僕と優の専門医だった人と複数の看護婦さん、僕の両親、優、優のお母さんらしき人と、その赤ん坊が待っていた。
僕はなぜか赤ん坊に目が付いた。不信感がある。なんというのか・・・優と雰囲気が似すぎているような感じだ。
顔を見る限り女の子なのは間違いない。それでも、姉妹にしては似すぎているような感じがした。
赤ちゃんと遊ぶ優の姿は、本当に微笑ましい・・・。赤ちゃんも、優も、同じように笑う・・・
やっぱり・・・何かがおかしい・・・
一見、幸せそうな家族風景のはず・・・実際、父さんも、母さんも、優のお母さんも、病院の関係者の人たちでさえそれを優しく見守ってる・・・
けど・・・・僕には、やはり異質で幸せそうな風景にしか見えなかった・・・

僕と優は病院側から花束を受け取りそれぞれの帰り道をたどった。
優と別れるとき、優が僕に一枚の紙切れを手渡した。さっきまで、「ラブレターか?」と僕を問い詰めようとした父さんは、今は母さんに耳をつままれて、少し涙目になってる。
開いてみるとそれは優からのメッセージだった。

『少年へ
急にあんな話をしてごめんね。
私もあんな話を聞かされたら少年みたいな態度を取っていたと思う。
でも、これだけは覚えておいて。
ココたちを救うにはあなたの力が絶対に必要なの。
もし、協力する気になったら連絡を頂戴。

PDA  090−××××ー△△△△
メルアド yuu.○○○○○@◇◇◇◇.ne.jp

じゃあ、元気で』

「冗談じゃないよ・・・」
「涼、何か言った?」
「ううん、なんでもないよ、母さん」
メモをくしゃくしゃに丸め、ポケットに無理やり押し込んでやった。

2017年7月4日 火曜日 天気 曇り

「少ちゃん♪」
「ココ! やっぱり無事だったんだね」
「う〜ん? 少ちゃん何言ってるの?」
「ううん。なんでもないよ、ココ」
「えへへ、変な少ちゃん」
「そ、そんなことないよ」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「くっ」
「ぷっ」
「く、くくく・・・アハハハハハハハハ!」
「にゃはははははははははははは!」
僕たちは笑いあった。
そうだよ。ココが死ぬわけないよ。ココはここにいるじゃないか。こんなに元気じゃないか! なんだよ、結局は優の勘違いじゃないか。
「にゃは、はははは、はは・・・ケホッ!コホッ!」
「こ、ココ?」
「ん・・・くぅ・・・あ・・・ケホッ! うんん・・・コホッ!ゴホッ!グフッ!」
「ココ! どうしたんだよ?!」
さっきまで元気に笑い会ってたココが唐突に血を吐きだ、それを隠そうと一生懸命口を押さえ、僕に背を向けた。でも、ココの背中越しに聞こえてくる・・・
苦しそうな呼吸音とだんだんと大きく・・・それでいてにごっていく咳の音・・・滴る血の音・・・
僕はココの前に回りこんで、両肩を力一杯握って叫んだ。
「どうしたの、ココ? どこか悪いの? 痛いの?!」
「ヴゥーン、ン、ン――――!!」
イヤイヤをするように、両手を口に押し付けながら顔を激しく左右に振る。その手はすでに真っ赤に染まり、手から出血してるように見間違えておかしくない。
「ア・・・ウゥゥ・・・アア、グゥ・・・ウエェエアア―――ッ、ゴホッ!」
ココの口から大量の生暖かい紅い水が飛び出て、僕はまともにそれを被った。
・・・顔が、視界の右側が、真っ赤に染まった。

ドサッ!

「ココ!!」
ココは力なくその場に倒れた。
僕は急いでココを抱き上げた。
ようやく見れた顔は、真っ青で、目を閉じてぐったりとしている。
呼吸音と胸の動きがなければ死人と見間違えてしまうぐらい酷い表情・・・この症状を、僕は知ってる。これは・・・これは!!・・・TB・・・
「アンプルは・・・オレンジアンプルは?!」
あれさえあればココは助かるかもしれない。少なくとも、今の苦しみから救ってあげることができる。
ココを寝かして、首を上げてあたりを見渡すと、とても遠いところにオレンジ色のアンプルと、注射器が転がっている。
「あれだ!」
目標を見定め、すぐさま取りに走ろうと行動を起し始めると同時にココが目を覚ました。
「少・・・ちゃん・・・」
無理にでも起き上がろうとするココを制そうと、もう一度肩を掴む。そして、ココがまた血を吐いた。
「ココ、しっかりしてよ!」
「ごめんね・・・ココ、少ちゃんもこと・・・汚しちゃったよ・・・」
「そんなことはどうでもいいから! 早く・・・早くオレンジアンプルを打たなきゃ!!」
「バイ・・・バイ・・・」
「そんな・・・やだよ。起きてよ・・・ココ・・・」

「ココォォォォォォォォォォォォオオオオオオ!!」

ガバッ

「ハア、ハア、ハア・・・クソッ!」
ここ最近、叫び声とともに僕は目を覚ます。
パジャマの下では、胸にべっとりと付いた寝汗が不快感を引き立て、急激に上半身を起したせいで頭がくらくらする。
元気なココが急に血を吐き出し、悶え苦しみながら死んでいく夢・・・。
僕の目の前で苦しみながら死んでいくココ。でも、僕はその光景を見て、後悔して、泣くことしかできない。
「ちくしょう・・・・・ちくしょう・・・・・・」
何も無い虚空をギュウと抱きしめ、そこに暖かな幸せがあれば・・・ココがいれば・・・そう、何度も思った・・・

2017年9月25日 月曜日 天気 曇りのち晴れ

今日は、学校を早退して、自分の部屋に入った。
慌てて自分の机の中をかき回し、くしゃくしゃになった紙を見つける。優のメールアドレスの書かれた紙だ。
僕はすぐさまパソコンを立ち上げ、優にメールを送った。
内容はこうだ。
『最近体に異常はない?』
こんなメールを送った理由は、今日の体育の時間久しぶりに怪我をしてしまったからだ。
膝をすりむいた程度の怪我だが何かがおかしい。
しばらくして、すりむいたはずの膝を見てみると血が止まっており、何事もなかったかのように綺麗に傷がなくなっていた。
まるでLeMUでつぐみが負った足の怪我のように・・・・。
何時間たっただろうか?メール受信を知らせる音に、僕は目を覚ました。
マウスをクリックして、メールのあて先を確認する。
あて先は・・・優だった。
今にも爆発しそうな恐怖心を無理やり押し込み、メールを開封した。

『やっぱり少年も感染していたんだ』

冒頭のその一言に、僕はある種の衝撃を受けた。
「感染!? 何のことだ!?」
慌ててメールの続きに目を通すと、僕は、優にメールを送ったことを激しく後悔した。

『少年も私もつぐみのキュレイに感染したんだよ。
私がキュレイに感染したことに気づいたのは4ヶ月前、病院の中で・・・いわゆる、一種の持病が起きなかったことに気づいたとき・・・
でも・・・やっとこれで彼が倉成とココを救うためにあなたの力が必要だって言った理由がわかったわ。
これでココと倉成を救うことができる。いい? ・・・・・』

これ以上このメールは読みたくない・・・僕は、メールを削除した。
「僕が・・・キュレイに感染している?」
信じられない・・・信じれるわけがない。TBの治療の最悪の代償は不死になる可能性があること。
そうなったとしても、ココや皆と助かるなら、と覚悟はできてた確かだけど・・・でも・・・そんな!!
「そうだ・・・」
机の中を再びかき回し、中から黄色いカッターナイフを取り出し、腕に押し付けた。
他人から見れば馬鹿な行動に見えるかもしれない・・・でも・・・僕には真実が・・・安心できる真実が必要たったんだ。
目を力一杯閉じて、カッターを強く引いた。
「・・・つぅ」
腕に鮮やかな紅い直線が引かれ、そこがゆっくりと熱を発しながら開かれた。
血がゆっくりと溢れ出て、腕を伝い、肘を伝い、最終的には、重力に地面に向かって連れて行かれて、カーペットに少し黒が混ざったような赤い染みがつくる。
しばらくその傷を放置してると痛みが消えていた。
まさか!
体育で使ったタオルで血に染まった腕を拭いてみると・・・
あるはずの腕の傷はふさがっていた・・・
「そんな・・・・」
膝の力が抜け、地面が凄い速度で迫ってくる。
「そんな・・・うそだろ・・・」
同じ言葉を繰り返し、気づけば・・・朝になっていた・・・

2017年10月2日 日曜日 天気 雨

先週に優にメールを送ってから、毎日優からメールが届くようになった。

『倉成とココを救いたいの・・・お願いだから協力して』

大体こんな感じのメールが届く。何度も断りのメールを送り続けているが何の変化も見られない。
いい加減、僕は苛立ち始めていた。

そして・・・今日、僕は優のことを嫌う・・・

今日、優は僕に動画を送りつけてきた。
どうやらピピの画像記録らしい。僕はこの画像を見た瞬間、優に対する怒りと憎しみが、絶頂に達した。

『ピピ・・・もう、どこ行ってたの?』

「ふざけるな・・・ふざけるのもいい加減にしろ!!」
僕は怒鳴り、同時にパソコンラックを有らん限りの力で叩いた。
それはIBFに取り残され苦しそうにこちらを見ているココの映像だった。
優は僕のココに対する気持ちを知ってるはず。なのに・・・なのに、こんな画像を送りつけるなんて・・・
自然と視界が霞み始め、前がうまく見えなくなり始めた。
目からあふれ出す水なんて関係ない!!拭怒りを込めるだけ込めたメールを優に送りつけてやった。

『優、こんな映像を見せて楽しいの? ふざけないで!』

優からすぐに返事が返ってきた。

『ふざけてないよ!
ねぇ、少年、本当にこれでいいの?ココを助けたいんじゃないの?あなたがココを好きだったのはLeMUにいたときから知っていたわ。
ココが助かるかもしれないんだよ?もう一度会えるかもしれないんだよ?ほんの少しでも可能性でもいいからかけてみようよ。
私はココや倉成を助けたい。でも、ココと倉成を助けるにはどうしてもあなたの力が必要なの。お願い、力を貸して。』

わかっている、わかってるよ、そんなことぐらい・・・でも・・・

『優の気持ちはわかるよ・・・たしかに、僕はココが好きだったし、救いたいし、もう一度会いたい!!
でもココたちは死んだんだ! それが事実なんだよ! 現実なんだよ! どうしようもないんだよ!』

僕は優に返答して、すぐに優のアドレスを迷惑メールの対象にした。
これで優からメールが送られてくることは無い。
しかしこれでいいのか?ほんとうにこれでいいのか?僕は自分自身に問い続けた。
でも・・・答えは出なかった・・・

2017年12月8日 金曜日 天気 雨

「ここは?」
何も無い真っ暗な空間で僕は目覚めた。
本当に何もない・・・光も感じられないただ暗いだけの空間。
足場もない。足を着かなくても、浮いていられるのがわかる。
行くべき方向はわからなかったけど、自然と僕は歩き出していた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

どれだけ歩き続けただろうか?流石に疲れ始めた僕に突然、誰かに話しかけられた。
「ココを救いたくないの?」
「だ、だれ?」
僕は辺りを見回した。しかし、暗い闇が続いてるだけで誰もいなし、どこから声が響いてくるのかさえわからない。
「そんなことはどうでもいいんだよ。それより、ココを救いたくないの?」
「なにを言ってるんだ、ココは死んだんだ!」
僕は叫んだ。
「ちがう!ココは死んでなんかいない!」
反論しようと、声を張り上げようとした前に、彼は・・いや、姿のない人物は続けざまに言った。
「君は、ココが死んだと決め付けているだけだ。ココが死んだと決め付けて、今ある可能性から目をそむけ、『最愛の人をなくした不幸な少年』を装って、楽な道を選ぼうとしている」
「何であんたにそんなことがわかるんだよ!? ココは死んだんだ! それはまぎれも無い事実だよ!」
僕がそう答えると、そいつは失望の念が混じったような声で返してきた。
「ふーん・・・君のココに対する想いはその程度だったんだ・・・・」
「なに!?」
ココに対する想いがその程度だって、冗談じゃない!
「ふざけるな! 僕のココに対する想いは本物だ!」
「だったら何でココの生を否定するの!? 少しでもココが生きている可能性があるのに何でそれにかけないの? 武だったらきっと、その可能性にかけるよ。たとえ、それが0.00000000000000001%の確立でも・・・・」
僕は唇を強くかんだ。確かに武ならそうするだろう。でも、僕は・・・・・・僕には・・・・・・

力がない・・・

そう、僕を力を持っていないんだ。
武みたいに強くないし、つぐみや空のように冷静じゃないし、ココや優みたいに明るく振舞えない!
僕は皆みたいに力を持っていないんだ。そんな僕になにをしろと言うんだ?!

「優だって、武とココを救う可能性があるからそれにかけてるんだ、なのに君ときたら・・・・・」
「うるさい! あんたになにがわかる!」
こいつは優と同じ事を簡単に言ってくる。
少なくとも、優にはその権利はあるけど、こいつなんかにあるはずがない!
それを最後に、沈黙が続き、しばらくして、そいつは再び口を開いた。
「・・・惨めだね」
「え?」
「君はとっても惨めだ・・・」
「いいかい。あの事件があった1週間、君はいったい何をした? 泣いて喚いて、みんなに迷惑をかけて、みんなの陰に隠れておどおどしてたうえに、肝心な時でさえ何もできなかった・・・」
「しょうがないじゃないか・・・僕は記憶が消えてたんだ・・・何もかもが怖かったんだ・・・僕は力を持ってなかったんだよ!!」
「はぁ・・・本当に情けないな。少年は・・・」
一呼吸つくと、そいつが再び口を開く。
「いいかい? 記憶があろうがなかろうが、皆怖かったんだよ! 死と隣り合わせの毎日が怖かったんだよ! ココだって、本当は気づいていたんだ。自分の体の不調に・・・みんなより確実に迫ってくる『死』の恐怖に・・・なのに笑っていられた、なんでわかるかい?」
「・・・・・・・ココは強いから」
「違う!」
「ココは力を持っていた。どんな時でも明るく笑える力を持っていて、それを使っていたんだ」
「力を・・・使っていた?」
「そうだよ!武だって、つぐみだって、優だって、空だって・・・皆が持てる力を使っていたんだ。なのに君は・・・力を使わなかった・・・」
「そして、このままじゃこれからも同じようなことを繰り返すんだ・・・。『力が使えないのを認めず、力が無いと勘違いした少年』という仮面を被ってこれから過ごすだよ」
「・・・・・・・」
・・・反論できなかった・・・認めるしかなった・・・
確かにそうだ。
僕は力を持っていたんだ・・・でも、それを身体から捻り出そうともしなかった!
僕は、あの時、あの場所で、何もしていないんだ。
記憶がない、不安定というリスクを負ったといって何もしなかった僕・・・
泣いて、喚いて、みんなの陰に隠れて過ごし、皆に迷惑をかけてばかりだった僕・・・
はは・・・なんて情けないんだ、僕は・・・
負け犬といわれても文句のいいようがないし、ココに嫌われてもおかしくないよ・・・

「悔しいかい?」
「うん・・・」
「ココを救いたいかい?」
「うん・・・」
「どうして?」

そんなの解りきってる・・・
なんで今まで気づかなかったんだろう・・・
あの時・・・
あの場所で・・・
なにもしなかったから・・・
なにもできなかったから・・・
せめて・・・
せめて・・・このチャンスは逃したくないんだ!!

「僕は・・・僕は、ココが好きだから! もう一度ココに会いたいから!!」
僕は腹の底から声を上げ、この気持ちをそいつに伝えた。
「やっと言ってくれたね、その言葉・・・ずっと聴きたかったよ」
心なしか、そいつは笑ったように感じた。
「よし・・・じゃあ、優に連絡を入れてごらん。優は、ずっと君の返事を待ってるはずだよ」
「わかってるよ・・・でも、どうやって・・・いや、誰がココを救うの?」
「それは・・・僕の役目だよ」
「え?」

朝の6時半頃、僕は目を覚ました。
「夢、か・・・・」
でも・・・夢でもいい・・・
僕は・・・僕は決心したんだ!!
ベッドから飛び起き、パソコンラックの上で充電中だったPDAに手に取り、優のメモを見ながらダイヤルを押した。
数回のコールの後、いかにも今まで寝てました。という感じの声が聞こえてきた。
「ん〜もしぃもしぃ?」
「もしもし、優?」
「その声は・・・・少年!?」
急に優が大声を上げ、頭の中がガンガンと響く。
鼓膜は・・・うん、破れてない。
「優・・・ちょっと、声のボリュームさげて・・・」
「あ、ごめん・・・」
居心地の悪い沈黙が続き、僕から声を変えようかと声を出しかけると、先に優が話し始めた。
「少年・・・・もしかして協力してくれるの?」
「うん・・・もちろんだよ」
もしかしたら、ココを救えるかもしれない。もしかしたらあの笑顔にもう一度会えるかもしれない。その可能性にかけたい!
「ちょっと、少年、聞いてるの?」
「あぁ、ごめん・・・で、なんだっけ?」
「はぁ・・・もう、しかりしてよ」
優の溜息が聞こる。いかにも、ヤレヤレと言いたそうだ。
「だから、日曜日に会いたいから渋谷に来てくれない?」
「あぁ、うん、わかったよ」
「待ち合わせ場所は忠犬ハチ公の像の前で時間は午後2時ね。」
「わかった、じゃあ切るね?」
「あぁ、待って少年」
「???」
「ありがとう・・・・じゃあね。」
ガッチャ!プー、プー、プー。
電話は切れた。
僕は優の最後の一声を思い出した。
「ありがとう、か・・・・ははは、ありがとうはこっちが言いたいよ」
今まで僕を説得し続けてくれた優に、そして、僕がココを救うと決心するきっかけを作ってくれたあの声に。

2017年12月10日 日曜日 天気 雪

「遅い!!」
僕はブチキレ寸前だった。
「ご、ごめんてば〜」
優は僕の目の前で手と手をあわせて謝っている。
待ち合わせの時間は2時なのに、優が来たのは3時半だった。
こんな寒い日に外で一時間半待たされたつらさがわかる?
「許してよ〜、少年様〜」
なんともまあ、力の抜けるような声で許しを請う優の態度・・・はっきり言って、見てるこっちが恥ずかしい。
「あ〜もう、わかったから」
こんな声をだされたら許すしかない。
「やった〜、さすが少年、心がお広い」
ワーイ!ワーイ!といった感じで、優がバンザイみたいなポーズを続ける。あまりにも周りの視線の痛かったから、これ以上優をはしゃがせるわけにはいかなかった。
「で、どこで打ち合わせするの?」
「そうだね〜・・・とりあえずあそこの喫茶店で話さない?」
優は少し離れた喫茶店を指差した。
「いいよ」
僕は素直に優の言葉に従い、その後について行った。

喫茶店の中に入るとコーヒーのいい香りと、静かなジャズミュージックが流れてきた。今頃レコードで音楽を流すなんて、結構凝った店だ。
「ここの喫茶店、今流行ってるの」
優は喜んだ表情を見せながらコートに付いた雪を払ってた。
確かに・・・客の数を見れば、流行っていることは一目瞭然といったところだし、やけにカップルが多い・・・
「いらしゃいませ」
親切なウエーターの声に少し驚いてしまった。
「二名です」
優は右手の人差し指と中指を立て、ピースの形を作りながら言った。
「二名様ですね・・・こちらへどうぞ」
ウエーターに案内されて席に着くと、さっそく優が渡されたメニューを開きながら嬉しそうに独り言を言っている。
こう見ると、本当に18歳か?と、疑いたくなる。
「少年は何か頼まないの?」
メニューから、ニョキ、と首を出して、優は聞いてきた。
「僕は・・・コーヒーの・・・そうだな・・・キューバにしてみようかな」
「じゃあ、私はショートケーキとチーズケーキとスペシャルデラックスパフェとブルマンにしよう」
「そ、そんなに食べるの?」
スペシャルデラックスパフェとは、メニューに載ってるほかのどのパフェよりも明らかに大きく、かつ、容器の横幅が広い。
そして、この喫茶店の店長お勧めらしい・・・
「・・・本当に大丈夫?」
「大丈夫。私、食べてもあんまり太らないタイプだから」
僕は近くのウェイトレスを捕まえて注文をすると、さすがにウェイトレスは驚いた顔をしていた。

「じゃ、そろそろ本題に入ろうか?」
ケーキとコーヒーを楽しんでいる優に問いかけると、優は真剣な眼差しになった。ちなみに、パフェは約1時間前に消えてしまっている。
「倉成たちを救う方法のことね?」
空になった皿に、ケーキのフォークを置くと、優は口を開いた。
僕も深く頷いて見せた。
「前にも少年に話したけど・・・」
「ストップ!!」
「な、なによ、いきなり・・・」
「その、『少年』って呼び方やめてくれない?」
「へ、なんで?」
「これから僕達パートナーになるんだよ?」
僕はそれ以上はあえて言わなかった。
「わかったわ」
そう言うと優は、僕に右手を差し出した。
「よろしくね、桑古木」
「こちらこそ」
お互いの右手を強めに握って、少しだけ振る。優の手を離した後、カップの中のキューバを全て飲み干してから口を開いた。

僕は、僕はココに会いたいから・・・
あの元気な声が聞きたいから!! どんな不安も吹き飛ばしてくれるあの明るい笑顔が見たいから!!
もう一度・・・
もう一度君に会いたいから!!

だから!!
「・・・僕になにができる?」

彼は認めた。自分の弱さと愚かさを・・・
しかし、その弱さを基に、彼は、覚悟を決めた。
今ある可能性を、確実なものにしようと・・・少しだけでもいいから強くなろうと・・・

to be continued



後書き
・・・という名の言い訳の場(苦笑)

どもっす!いい加減に再開せんと、「あぁ・・・こいつ最低」といわれてもおかしくないし、いい感じにレベルも上がってきた・・・気がするので、初心に戻るつもりで仕上げた過去の修正版SS!『What can I do?』完成!!

これからは、このSSを中心的に製作していきますのし、全体的に暗い内容ですが、皆様、どうか温かい目で見守ってくださいませm(_ _)m
少ちゃんこと涼ちゃんのSSはこれにて終了です。ヤローをいつまでも主人公にしておく趣味は俺には無い!(嘘)

今回のSSは、少ちゃんが苦悩や後悔の中でいかにして計画を実行するか決意したかについて書いていきました。

お次はなっきゅ先生のSS!

ではでは〜♪





2002


/ TOP / What's Ever17 /  Le MU / Gallery / Jukebox / Library / Material /Link / BBS






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送