2017年12月10日 日曜日 天気 雪
「それで・・・僕になにができる?」
それが少年、いや、桑古木の最初の質問だった。
私はカップに残ったブルマンのブラックコーヒーを一口飲み、一息ついてから彼の質問に答えた。
外を見れば、雪がしんしんと降っていた。

〜These are some ladies' and some guy's story〜
                              作 BREAKBEAT!

second story is Everything to my lover
chapter1



「あなたには、倉成になってほしいの・・・。」
「武に・・・・?」
桑古木は軽く首をかしげた。
「正確に言うと、武の代わりになってほしいのよ」
桑古木はさらに首をかしげた。いかにも、よくわかりませ〜んて感じの顔をしている。なんでわからないかなぁ〜。
「わかったわ、順を追って詳しく説明していくから、よーく聞いてね」
私は自分のショルダーバッグから、B5サイズの紙を数枚束ねたものと、サインペンを取り出した。
「相変わらずそのサインペンを持ち歩いてるんだね?」
桑古木は懐かしそうな顔をしながら私のサインペンを見つめた。
「まぁね、とりあえず説明するわよ」
私は紙を桑古木の前に置き、サインペンを逆に持って説明を始めた。

「まず、私がインゼル・ヌルを脱出したとき、不思議な声を聞いたことは話したわね?」
桑古木は真剣な眼差しで私を見つめながら深くうなづく。
「その声が言ったの、2034年で僕を騙してって」
「騙す?」
「そう、彼が言うには、2034年で私達が彼を騙すことによって、倉成とココが救われるらしいわ」
「よく意味がわからないんだけど・・・彼って・・・たしか優はブリック・ヴィンケル(BW)って言ってなかったけ?」
「そう、彼は自分のことを第三視点、BWと言っていたわ」
私は、あの日の出来事を思い浮かべた。


5月7日 
久しぶりに見た蒼い空と暖かい太陽。でも・・・私の心はそんなすがすがしい情景とは正反対の位置にいた。
私達が救われたのは5月6日。私と桑古木は丸一日眠っていたらしい。海上保安部の人に話を聞いて、私は助かったことを確信した。私は走り出した。
あの人と一緒に生を実感しよう。LeMUで伝えられなかった気持ちをあの人に伝えよう。今ならできるわ。たとえあの人に好きな人がいても、かなわない恋でも、せめてこの気持ちだけは伝えたい。後悔したくないから。もうすぐ私は死んでしまうから。
だから彼にこの気持ちを知ってもらいたい。

私の愛する人―倉成武。

あの人に私の気持ちを知ってほしい!
私はインゼルヌル・ヌルを駆け回った。蒼い空と、暖かい太陽の下を、この天気のようにすがすがしい気持ちで走り向けた。
でも・・・彼はいなかった。インゼル・ヌルを一通り走りまわった後、私は両膝に両手を置き、あたりを見渡した。
(きっと入れ違いになっただけよ)
私は自分にそう言い聞かせて、再び走り出した。
彼はどこ?どこにいるの?
しかし彼の姿は見つからなかった。
何回も走り回っているうちに、一つだけ嫌な考えが浮かんだ。
私はその考えを否定した。首を左右にブンブンとふり、その考えを追い払おうとする。

(倉成は・・・倉成は生きている!)

私はそう考え、再び走り出した。
走っていると、なぜか足が速くなる。後ろから何かに追いかけられているような感じがする。
私は走った。走って、走って、走り続けた。
考えちゃいけない!そんなことを考えちゃいけない!
私は両手を両方のコメカミに強く、強く押し付け、頭を振りながら走った。
しかし、私は倉成が死んだという私自身の考えに追いつかれた。
自然と足が止まり、一歩も動けなくなる。身体に力が入らない。心臓病とは違う胸の痛みが私を襲う。
そんなはずないよね・・・?そんなはずは・・・・
でも・・・もしかしたら・・・彼はもう・・・
私は絶望に支配された。
それを否定する私がいる。しかし・・・それを肯定する私もいる。
どちらも・・・私の中ではただの想像にすぎない・・・だって私はまだ倉成にあっていないから・・・
「そうだ・・・聞いてみよう・・・」
私は意を決し、海上保安部の人に聞いてみた。

「あの・・・倉成武という男の人はいませんか?」
「倉成・・・武?」
「私達の仲間なんです。一緒にIBFにいたはずなんです」
「ええ!?ですが・・・私達がIBFに付いたころにはあなたたち三人しかいませんでしたよ?」
「え!?そんな・・・そんなはずはない!」
私は叫んだ。
海上保安部の人が言っているのだから間違いじゃないだろう。でも・・・そんなはずはない!
「お、落ち着いてください。」
「そうだ・・・いまからIBFに倉成たちを迎えに行けばいいんじゃないの?ねぇ・・・そうでしょう・・・?」
「確かにそうしたいのですが、助かっているかどうかもわからない人のために潜水艇を出すわけには行きません」
「なんで!?人の命がかかっているのよ!?」
海上保安部の人は深い溜息をつくと、私を厳しい表情で見つめた。
「いいですか?いま、LeMUは崩壊している真っ最中なのです。そんなときに潜水艇を出したらLeMU崩壊に巻き込まれる可能性もあります。それに、崩壊が治まったとしても、LeMUの真下にあるIBFが崩壊に耐え切る確率はかなり低いのです。」
「・・・・・・」
私は完璧に黙り込み、話を聞いていた。
「残念なことですが、これが現実です・・・」
「う、嘘よ・・・ねえ・・・嘘よね・・・?」
「・・・・・・」
海上保安部の人はぎこちなく横に首を振った。
想像が絶望に変わり、絶望が・・・真実へと姿を変えた。
私は熱くなってきた目頭を押さえながら走った。
「ちょ、ちょっと!」
私にはもう、何も聞こえなかった・・・。
さっきまで、すがすがしく感じていた太陽の暖かさでさえ邪魔なものに感じる。
私はインゼル・ヌルの端にある公園にたどり着いた。何でここに来たのかは自分でもわからない。
いや・・・ここにきたかった理由は、一人で泣きたかったからだ。

私は公園にある木の幹に頭をこすり付けた。
「・・・ぐす、ぐす・・・・倉成・・・ぐす、くら、な、り・・・ぐす」
私は泣き出した。私が頭をこすり付けている木は、ちょうど倉成の胴と同じくらいの太さの木だ。
「ぐす、ぐす・・・うわ〜ん、うわ〜ん、倉成、倉成〜!」
瞳に涙があふれ私の頬を濡らした後、地面に吸い込まれるように次々と落ちていく。
泣けば・・・この心の痛みは消えるの?泣けば・・・このあなたのことが忘れられるの?
ねぇ・・・教えてよ・・・倉成・・・
泣けば・・・何かが得られるわけじゃないのに・・・あの人が生き返るわけじゃないのに・・・私は泣き続けた・・・。

泣くだけ泣いたあと、青い海を眺めた。昨日まで見ていた薄暗い色の海ではなく、透き通るような青い海だ
「この海の中に、倉成がいる・・・」
私は、このまま海に飛び込んでやろうかと思った。
「はは・・・そんなことしたら倉成怒るだろうな・・・」

『せっかく助かった命を無駄にしやがって!』

って感じで。
彼はそういうことにすごく熱い性格だったから。
しばらくすると、また目頭が熱くなってきた。
私はこれ以上泣かないようにその場を離れようとした。その時だ、

パシャ!

何か音が聞こえた。
「な、なに!」
私はあたりを見渡した。しかし、周りにはそんな音を立てるものは一つもない。
「気のせいかな?」
私が再び歩き出そうとしたら、

パシャパシャパシャ・・・

やっぱりなにかいる!まさか!
「倉成!?」
私の胸に希望がわいた。
やっぱり彼は生きている!
私は音のする方向を向いた。
そこは海だ。
やっぱり倉成だ!倉成は生きているんだ!
私はそう確信して、海を見つめた。しかし、海にいたのは・・・
「ピピ?」
そう、海にいたのはあのかわいくて小さな白い子犬、ピピだった。
私は手すりから身を乗り出し、海に落ちないようにピピを拾い上げた。
「ピピ・・・どうしたの?」
ピピは私に顔を向けると、ピピ自身の顔を私の顔に押し付けるように口を向けてきた。ピピは何かを口にくわえていた。私がその物体を掴むと、ピピは素直に口を離した。
「テラバイトディスク?」
ピピがなぜそれを持っていたかはわからないが、私はそのディスクをスカートのポケットに押し込んだ。私はピピの顔が目の前にくるような感じになるようにピピを抱えた。
「どうしたの?」
「わんっ!わんっ!」
ピピは何か言いたそうな感じだったけど、私にはピピの言ってることはわからない。
当たり前と言ったら当たり前なのだが、なんとなく、今だけはピピがいっている言葉が知りたかった。
「ココはどうしたの?」
「わんっ!わんっ!」
ピピは吼えてばっかりいた。
「あ!ここにいたんですか」
後ろから男の人の声が聞こえた。さっきの海上保安部の人だ。
「本土に変える時間になりました。ヘリに乗ってください」
「・・・・わかりました・・・」
ここにいても倉成は帰ってこない。もう・・・帰るしかないんだ。
「ピピ、おいで・・・ココが待ってるわよ」
そう言うと、なぜかピピはおとなしくなった。
やっぱりココに会いたかっただけなんだ・・・。
私はそう確信していた。

私は数人の係員の人たちに付き添われるような感じでヘリコプターにむかった。
ヘリコプターへ向かっている途中、係員の人から、
『検査や治療を受けるために、一時の間入院しなければならない』
そんな感じの言葉を聞いた。
 しかし・・・私にはそんなことどうでもよかった。
倉成はいない。
それしか私の頭にはなかった。
「どいてください」
白衣を着た二人の男の人が担架を運んできた。担架の上に乗っているのは桑古木だった。
彼はまだ眠っている。
彼は、肉体的にも、精神的にもだいぶまいっていたから・・・
桑古木がヘリの乗せられるのが見えた。
あのヘリコプターの中には、桑古木とココとつぐみがいる。
助かったのは私達だけ・・・
私がヘリに向かって再度歩き始めた時、その声は聞こえた。
「優!」
私は、その声から全てを知った。ココがIBFに取り残されたこと、ピピが電子犬だということ、ピピの銜えていたテラバイトディスクに空の記憶が保存されていること、つぐみのこと、倉成とココが生きていること、そして・・・倉成たちを救う方法を・・・


「結局・・・BWってなんなの?」
「だから・・・今からそれを説明するって言ったじゃない」
私は紙を一気にめくり、一番最後のページを彼に見せた。彼が見つめているページは私が調べられた全ての情報だ。
「BWって言葉は、ドイツ語で『第三視点』って意味なの」
「『第三視点』?」
「そう、『第三視点』っていうのは・・・・」
私は彼に、私が調べることができた情報を全て教えた。
第三視点とは何か・・・?四次元空間とは何か・・・?全ての情報といってのこれくらいだ・・・
「つまり・・・そのBWって人は四次元空間の生き物ってこと?」
「あくまで仮説なんだけどね?でもそう考えると説明がいく部分がいくつかできてくるの」
三次元空間の生物である人間は時空を移動できないのに、なぜ倉成たちが助かるのか
?とか・・・。
私はそんな感じの説明を桑古木にし始めた。桑古木はちんぷんかんぷんって言葉が似合う顔をしていたので説明を途中でやめた。
「あ、あれ?優、何で説明をやめちゃうの?」
「いきなりわけのわからない知識を一気に教えられたって頭に入るわけないでしょう?どうせあとでいろいろと勉強させるんだから、今ぐらいは楽させてあげる」
私はにこって感じでやさしく笑って見せたつもりなのだが、桑古木の顔はなぜか引きつっている。
「まぁ、この話は置いといて・・・・なんで今すぐココたちを救いに行かないか説明するね?」
「そうだよ!何で今すぐココたちを救いに行かないの!?ねぇ!?」
桑古木は目に血柱を立てながら私の顔に前に顔を持ち出した。さすがの私も、この行動にはいささか慌ててしまった。
「ちょ、ちょっと落ち着いて!それは今から説明するって言ってるでしょう?」
「あ・・・ご、ごめん・・・」
桑古木は冷静さを取り戻し、椅子に腰を下ろした。
私は、ふうっ、と息を吐き自分を落ち着かせた後、最後までめくられた紙の束を持ち上げ、最初から二番目野上が一番上に来るように紙をめくり、テーブルの上に置き、紙をサインペンのおしりでコン、と叩いた。
「じゃあ・・・説明するわね?」
桑古木はよりいっそう真剣な顔になり、私を見つめている。

「いい?まずは、2034年で私達がしないといけないことを説明するわね?私達は
2034年5月1日に私達が体験した事件を起こさないといけないの」
「なんだって!?」
桑古木はテーブルを強く叩いた。
周りの視線がこちらに集まる。
「別れ話かしら・・・ぶつぶつ・・・・」
「あの女の子、がさつそうだから・・・ごにょごにょ・・・・」
ちょっと何好き勝手言ってんのよ!!
周りの勝手な話に私は心の中できれた。心の中の私はうきー!と叫びながらサンドバックを殴ったり蹴ったりしている。
「ちょ、ちょと、優」
「え?なに?」
私は我にかえった。
「いや、今すっごく怖い顔してたから・・・」
「怖い顔?」
「うん。鬼気迫るというか、この世の終わりというか、殺意の波動というか・・・・」
さ、殺意の波動?どこかで聞いたことのある言葉だけど、まぁいいわ。
「で、その事件を起こす理由は倉成とココを救うきっかけとBWを錯覚させるため」
「さ、錯覚?」
「そう、詳しく言うと、2034年の世界を2017年の世界だと勘違いさせることが目的なの」
「BWを勘違いさせること、ココたちを救うことどういう関係があるの?」
「それは・・・」
私はそこまでは聞いていなかった。ただ、事件の起こし方、私達の役割、事件を起こす時刻、事件に巻き込まれるメンバー達・・・それぐらいしか聞いていない・・・。
ただ彼は・・・『17年後、僕を騙して。そうすれば僕はきっと君達の前に姿を現すから』と言っただけ・・・。根拠なんてどこに無い。あるのは・・・とても脆い希望だけ・・・
「まあいいや。ところで・・・なんでココたちを今救い出したらいけないの?」
「え?」
私は驚いた。
「ん?僕・・・なんか変なこと言った?」
「そ・・・そんなことないけど・・・」
「根拠のないことに僕が従わないんじゃないか、と思ったでしょう?」
図星だった。
「優、僕はもう決意したんだよ。ココを救うためなら何でもする、って。だからこんなことで立ち止まってる暇はないんだよ」
桑古木の瞳に揺ぎ無い意思の光が見えた気がした。
そうだよね。私だって倉成を救ってみせる、って決意したんだ。こんなところで止まってられないよね。
「わかったわ。じゃあ説明するわね」
「彼が言うには、彼は2034年の世界で覚醒してから2017年の世界の戻ることによって、倉成を救うらしいの。そして、倉成がココを救うんだけどココの様態がひどすぎたし、IBF内から脱出する手段もなかったの。だから倉成たちはハイバネーション、つまり冷凍睡眠をすることによって助かったらしいわ」
「でも、助かったなら今すぐ救出しても大丈夫なんじゃ・・・・」
私は桑古木の顔の前でチッ、チッ、チッ、と人差し指を左右に振った。
「さっきも言ったけど、私達は2034年の世界で絶対に事件を起こさないといけないの」
「なんで?」
「私達が2034年の世界で事件を起こすことによって彼が覚醒して、2017年の世界で倉成たちを救う。ここまではいいわね?」
桑古木はフムフムといった感じで頷いた。
「倉成たちが救われたという結果を作るには、2034年の世界で起った事件によって、彼が覚醒する。覚醒した彼が過去に戻り倉成たちを救うという原因がないといけないの。もし、私達が2034年になる前にココたちを救いだしてしまったら、私達が2034年の世界で事件を起こす必要がなくなるでしょう?そうなると、2034年で彼が覚醒する、覚醒した彼が倉成たちを救う、という倉成たちを救うための原因が消えてしまうの。原因がないのに結果が存在することはありえない。つまり、時の矛盾、『タイムパラドックス』が発生するわ」
「『タイムパラドックス』?」
「そう、つまり、2034年に彼が覚醒して2017年で倉成たちが救われる。そこで私達が2034年で事故を起こす前に倉成たちを救うと2034年に事故を起こす必要がなくなる。そうなると倉成たちが助かった原因がなくなるから、いまから2034年の世界まで倉成たちが生きていたという歴史は成立しなくなるの」
「ということは・・・2034年になる前にココたちを救ったら、ココたちは絶対に助からないってこと?」
「そう、なるわね」
また、しばらくの沈黙ができる。でも、私は話を進めた。
「じゃあ、何で桑古木が武になる必要があるのか説明するわね?」
桑古木は慌てて顔を上げこちらを向いた。私はテーブルの上の紙をめくった。
「まず、2017年の事故と2034年の事故とを錯覚させるには、登場人物が同じじゃないといけないの」
「????」
桑古木はぜんぜん理解できてないようだ。」
「桑古木は『白雪姫』ってお話を知ってるよね?」
「もちろん。」
「じゃあ、そのお話に出てくるメインキャラクター達をあげてみて」
桑古木は少し上を見ながら考え始めた。
「えーと、白雪姫、白馬の王子様、七人の小人達、悪い魔女、魔法の鏡・・・・ぐらいかな?」
「正解!じゃあ、『シンデレラ』のお話のメインキャラクター達はどう?」
「えーと、シンデレラ、王子様、魔法使い、意地悪な継母と3人義理の姉達・・・・かな?」
「正解。じゃあ、『シンデレラ』のお話にでてくるキャラクター達で『白雪姫』の物お話が演じられると思う?」
「それはないね」
桑古木はきっぱりと答えた。
「なんで?」
私は聞き返す。
「人数が違いすぎるよ。『白雪姫』に出てくるメインキャラクターは11人、それに対して『シンデレラ』にでてくるメインキャラクターの数は7人だもん。第一、全員の役割が違うじゃないか。白雪姫は死ぬけどシンデレラは死なない。『白雪姫』の王子様は白雪姫を魔女の魔法から開放するけど『シンデレラ』の王子様はシンデレラに会うためにガラスの靴が履ける人を探す。『白雪姫』の魔法使いは悪者だけど『シン
デレラ』の魔法使いは善い人。それ以外は問題外だし・・・・。あ!そうか!」
桑古木はやっとわかってくれたようだ。
「2034年でココたちを救ってくれる人を錯覚させるには2017年で事故に巻き込まれた武、優、つぐみ、空、ココ、僕、と同じ人数用意して、同じ役割をやらせないといけないんだ。でも、武は2034年の世界にいないから誰かが武を演じる必要がある、ということだね?」
「そう。そして、倉成を演じるのがあなたじゃないといけない理由は、あなたは私達とともに倉成と一週間過ごしているから倉成がどういう人間かを知っているし、あなたと私は五年後を境に年を取らないから、あなたはちょうど倉成と同じ年齢で成長と老化が止まるから、これ以上の代役はいないの・・・・。お願い協力して」
「もちろんだよ。僕は武みたいな男になりたかったんだ。愛する人のためなら自分の命も投げ出すような男に・・・」
愛する人のために、かぁ。その言葉はココのためにあるのだろうなぁ。なんだか・・・ココがうらやましい。
「でも・・・優と僕とココとつぐみと空の代役は誰がするの?」
当然の質問だ。まぁ、答えはもう出してるけどね。
「つぐみも不老不死だから、つぐみを事件を起こす日にLeMUにおびき寄せればそれで十分。空も2034年の空を使えばうまくいくわ」
「僕とココの変わりは?」
「それはホクトと松永沙羅という子たちにやってもらうわ」
「ほ、ホクト?沙羅?誰なの?」
私は黙り込んだ。
本当は言いたくない。認めたくない!でも・・・事実なんだ・・・。変えようのない・・・事実なんだ・・・
「倉成と・・・つぐみの子供よ・・・」
「え!?」
私は声を震わせながら言った。
「倉成とつぐみは、クヴァレの中で結ばれたらしいの。その子供達が二卵性の双子の兄妹であるホクトと沙羅なの」
私は下を向いた。
私は少し泣いていた。私の好きな人と結ばれて、その愛し合った証拠まで残せたつぐみのことがうらやましかった。いいえ、嫉妬していた。
「優、大丈夫?」
「んん。平気。コンタクトがずれたみたい・・・。直してくるね」
わたしはバレバレな嘘をついて化粧室に向かった。洗面台の鏡の前の自分は大粒の涙をこぼしている。目を真っ赤に染めて・・・
「やだなぁ・・・・なんでいまさら泣くのよ・・・・」
私はしばらく泣いた後、なるべく元気な顔をして桑古木に前に座った。
桑古木は何もいわずに次の質問に入ってくれた。
「優の代役は誰がするの?優も僕と一緒で、五年経つと外見は変わっちゃうよ」
「それも問題ないわ」
「え?もしかして・・・・優本人がするの?」
「違うわよ。私の代役は、私の分身であり、私の妹であり、私の全てである娘にやってもらうわ」
「優の分身?優の妹?・・・・。あ!僕達が退院するとき、優のお母さんと一緒にいた女の子のこと?」
「いえ〜す!ざっつらいと!」
私は桑古木の鼻の前に人差し指をビシッ!と立てた。
「あの子は・・・・・」
私はためらった。この秘密を知っているのは私と、お母さんと、倉成だけだ。私は彼にもっと自分のことを知ってもらいたかった。だから彼には私の娘『田中優美清秋香菜』のことを話した。彼女は私の全てであり私の罪の表れでもある。でも、桑古木には私のパートナーになる男だ。彼には説明する必要がある。いいえ、私には説明する義務がある。
「あの子は・・・わたしの・・・クローンなの・・・・」
「え!?」
「あの子は、私が一昨年クローン受精で生んだ私の娘。私自身なの」
桑古木は全てが飲みきれていないような顔をしている。
「2013年、つまり私が14歳のとき、心臓病で倒れたの。その心臓病は後天性の心臓の疾患でね、不治の病だって診断されたの。『移植は不可能。治療しても苦しむだけで延命つながらない。』お医者さんはそう言ったわ。私は泣いたわ・・・だってまだ14歳よ?これからできることだって増えていくし、夢もあった。でも、この病気は治らないし、君の命はもって3〜4年だ、って言われたのよ」
私はあのころを思い出した。いつもいつも死の恐怖に震えていたあのころを・・・。
毎日毎日泣き続けて、心臓に激痛が走るたびにこのまま死神に心臓を持っていかれるんじゃないかと思い、毎晩毎晩・・・泣きながら自分の身体と運命を呪ったあのころを・・・。
私は話を続けた。
「でもね、そんな私にも希望を与えてくれた人がいたの。その人の名前は・・・『モリノシゲゾウ』博士・・・遺伝子工学の世界的権威よ。博士は私に優しく接してくれたわ。私も彼に甘えた・・・」
たぶん、私は博士にメモリーでしか残っていないお父さんの影を求めていたのかもしれない。
「ある日、私は自分心臓病についての恐怖、苦悶、絶望を全て話したわ。そしたら彼はこう言ったの、『一度、私の研究所に来て見なさい。』って。そして、私はその年の11月に彼の研究所を訪ねたわ」
私は私があの子を生むきっかけになった言葉を桑古木に聞かせた。
「不死にはみっつの種類がある」
「ひとつめは固体の不死」
「ふたつめは記憶の不死」
「みっつめは遺伝子の不死、だ」
「どうだろう・・・・?第三の可能性にかけてみては・・・・」
「これはね・・・私があの子を生むきっかけになった言葉なんだ。さっきも言ったけど、私の心臓病は後天性の疾患だから『生まれてくる子供』にその疾患が移る可能性なかったの」
あと数年で私の肉体が滅びるなら、せめて、自分の遺伝子だけでもこの世界に遺しておきたい。そう思い、博士に説得されるような形で私は決心をした。
「そして私は、第三の可能性にかけたわ・・・・。私はその翌月、つまり12月に、私は私の細胞核を、私の卵子に移植して、私の身体の中に、新しい私を身ごもったの・・・」
桑古木は黙り込んでいた。いや、私の罪にあきれていたのかもしれない。
「そして、9カ月後、つまり2015年9月22日に、私は・・・・私の子をであり、新しい自分である、『優美清秋香菜』を生んだわ」
「優美清・・・秋香菜?」
やっと桑古木が口を開いた。
「そう、あの子は私の子供だけど、一卵性の双子と同じように、まったく同一の遺伝子をもっているわ。だから・・・私の代わりはあの子でいいの」
そう言って私は、バッグから一冊のファイルを出した。私と・・・あの子のアルバムだ。あの子の写真が載ってるページを開き、桑古木に手渡した。桑古木はその写真を見つめている。写真を見つめながら桑古木は口を開いた。
「じゃあ、この子が優の子供なんだね?」
私は頷いた。
「私はこの子を生んだことを後悔してないよ」
それは私の本音だった。
「確かに私は罪を犯した。生にしがみつき、神を冒涜した。でもね・・・私は本当に
後悔なんかしてないんだ。」
桑古木は黙り続けている。
「ねえ、桑古木・・・あまり驚かないでね」
「ん?なにが?」
桑古木は安易な答えを返してきた。私は少々驚いた。
「桑古木・・・・私を否定しないの?嫌わないの?」
桑古木はプルプルと首を横に振った後、アルバムを閉じ、ゆっくりと口を開いた。
「優は後悔してないんでしょ?だったらそれで十分じゃないの?」
桑古木は安易な答えを返した。でも・・・私は彼に感謝した。
「ありがとう・・・桑古木・・・」
私はいつの間にか、瞳にたまっていた自分の涙をふき取った。

問題は次だ。私だってこんなことはしたくない。でも・・・やらなくちゃならない。
「最後なんだけど・・・・桑古木、落ち着いて聞いてくれる?」
「ゆ、優・・・そんな風に言われたらと身構えちゃうよ・・・・」
もっともだ。LeMUのなかで私も空にそう言ったしね。
「じゃあ、話すわね。実は・・・これだけは絶対にやっておかなくちゃいけないこと
なの・・・。これをやっておかないとココたちは救えないのよ・・・」
桑古木は、はぁ、と溜息をつくと、
「優。僕はさっきも言ったけど・・・ココを救うためなら何でもするよ!」
「わかったわ・・・。私達は・・・ライプリヒ製薬に就職しないといけないの・・・」
「な・・・」
桑古木が大声を上げそうになったから私はこたばで彼を制した。
「私はLeMUに桑古木はライプリヒに就職してもらうわ。目的は・・・ライプリヒとIBFの監視と、ライプリヒを潰すため・・・。」
桑古木はうつむきながら私の話を聞いている。私は話を続けた。
「ライプリヒ製薬は世界的大企業で、いろいろな国の政治中枢まで根付いている。そんな企業を簡単に潰せる思う?」
桑古木はうつむきながら、ぎこちなく首を横に振った。桑古木は黙り込んでいる。
「だから中側から潰していくの」
「そんなことぐらい・・・わかってるよ・・・・」
桑古木は口を開いた。声は振るえ、彼の怒りを強調している。
「でも・・・ライプリヒの連中に頭を下げろというの?ココと武をあんなふうにした奴らに頭を下げろというの!?僕にはできないよ!」
「ココたちを救いたいんじゃないの!?」
私は桑古木の気持ちがわかる。たしかに・・・倉成たちがIBFで眠っている原因を作ったのは奴らだ。でも・・・
「桑古木・・・私もライプリヒの連中に頭なんか下げたくない・・・。でもね、私達が正面からぶつかるには相手が大きすぎるのよ」
「わかってるよ・・・でも、そんなこと馬鹿げたことできないよ!」
私はその言葉にキレた。
「あなた!さっき言ったじゃない!『ココを救うためならなんでもするよ!』って、なによ!さっきの決意は嘘だったとでも言うの!」
さっきの言葉はなんだったのよ!あなたの決意はそんなものだったの!?私は心の底からそう思った。
桑古木は顔を上げると同時に叫んだ。
「うるさい!」
と、そのときだ。
「お客様・・・他のお客様のご迷惑になります。これ以上大声を上げるのでしたら出ていってもらいます」
ウェイターが私の後ろから話しかけた。
周りを見渡すと、他の客がこちらを見つめていた。なかには睨みつけている人もいる。
私は
「いいわ・・・もう用もないし・・・」
私はサインペンと数枚の紙とアルバムをバッグに詰め、コートを羽織り、席を立った。桑古木のそばを通るとき、ぼそっ、とつぶやいてやった。
「最低」

私は勘定も済まさずに店を出て、駅に向けて足を進めた。白い粉雪が私の身体にやさしく落ちてくる。雪は怒りで熱った私の身体を冷やしてくれた。
「なんで・・・こんなことになっちゃたのかな?」
私は冷えた頭で考えた。
「馬鹿・・・」
その言葉は桑古木に、そして・・・私自身に・・・・。

「ただいま〜」
PM 7:31
私は家に帰り着いた。
「あ、ママ!おかえり〜!」
「わん!わん!」
私の娘、優が私を迎えに玄関まで迎えに来てくれた。ピピも一緒だ。
まだ少しおぼつかない足取りで、私めがけてトテトテと歩いてくる。
私は優の頭に手を軽く置き、頭をなでながら言った。
「ただいま。どう?いい子でお留守番してた?」
「うん!」
「そう・・・偉かったわね」
「えへへ・・・」
優はかわいいく、うれしそうに笑う。
この子の笑顔を見ていると、胸が苦しくなる。この子は・・・あの地獄を私の代わりとして体験しなければならないのだから。
この子は私の代わりとしてこの世に生を受けた。しかし・・・今となっては私の欲を達成させるための操り人形だ。優・・・ごめんね・・・
私が優の頭から手をどけるとお母さんが姿を現した。
「おかえりなさい・・・ゆきえ。寒かったんじゃない?」
「ただいまお母さん。うん。ちょっとね」
家に帰ると私は母親の仮面をかぶる。ゆきえという母親の仮面を・・・
お母さんは、仕事場ならゆきえ、家の中だとゆきという仮面をかぶってくれる。
ゆきという名は、私のおばあちゃんの名前だ。私達親子は、一世代ずつずらした名前を使っている。
実を言うと、お母さんには本当のことを話していない。

「あの子が・・・優が私のクローンだと知るのはまだ早すぎるわ。お母さん・・・お願い!家の中では、私にお母さんの名前を・・・ゆきえを名乗らせて!」

 あの日私はそう言ってゆきえの名前を名乗ることを許してもらった。
本当は・・・倉成たちを救うため・・・そのためにはどうしても私はゆきえを名乗る必要がある。あの子にはもっと勘違いをしてもらわないといけない。
あの子の父親が、私の父、田中陽一だと勘違いしてもらわないといけない。
あの子の父親は、2017年に行方不明になった。と勘違いしてもあわないといけない。

全ては・・・あの時の私と似せるため・・・倉成たちを救うため・・・

お母さんに本当のことを話しても信じてはもらえないだろう。だから私は自分の母親も騙しているのだ。

まったく・・・最低の女だ・・・

「ゆきえ、どうしたの?」
「ママ?」
二人の声ではっとする。
「ううん・・・・なんでもない!あ〜お腹すいた〜。お母さん、今日の晩御飯なに?」
「今日は寒かったから、すき焼きにしたわ」
「すき焼き?わ〜い!早く食べよう!」
「はいはい。だったら手を洗って、うがいしてきなさい」
「は〜い」
私はうがいや手を洗うことなんて必要ない。キュレイのおかげで病気になることはないからだ。
でも、一応手も洗うし、うがいもする。もしかしたらこの子が病気になるかもしれないから。

「いただきまーす」
親子三人で鍋を囲む。
「ゆきえもいい加減、料理ぐらい作れるようになりなさい。」
「う〜ん・・・そのうちね」
「もう、しっかりしなさいよ」
「あ、ママ。きょうね、おばあちゃんたら・・・」
三人の暖かい笑い声が室内に広がる。鍋の暖かさと重なり合って、さらに大きな暖かさを生んだ。
とても居心地のいい空間が生まれた
暖かい・・・ただひたすら暖かい・・・

夕食が済むと私は、お風呂にはいった。
ゆっくりと湯船に身体を沈ませる。

ザバァー

私が湯船につかることによって、浴槽からお湯が溢れる。
湯気で周りがうっすらと白く見える。
「はぁ・・・・・どうしようかなぁ・・・」
桑古木とけんかしたのは失敗だった。彼以外に倉成のことを詳しく知る男はいないし、たとえ私が指導しても俄仕込みの倉成では、BWを騙すことはできない。
「はぁ・・・・・どうしようかなぁ・・・」
同じセリフを繰り返した。
私は本当に馬鹿だ。
相手にものを頼むならそれなりのことは我慢しないといけない。
たとえ、桑古木があんなことを言っても少し頭を冷やせば桑古木だってわかってくれたかもしれないのに・・・
「ママー!わたしもおふろはいってもいい?」
ガラガラガラと引き戸を開ける音とともに、裸の優が浴室に入ってきた。入ってきてから入ってもいい?と聞くのは変な感じがするがあえて口にださない。
「ええ。いいわよ」
わたしは優しく言った。
「やったー!」
本当にこの子はかわいい。自分を賛美しているわけじゃないけど、本当に可愛く思える。
優の髪と身体を洗って、二人で湯船につかった。
「いい?お風呂にからあがる前にしっかり100数えるのよ?」
「うん!ママ、いっしょにかぞえよう」
「いいわよ。じゃあ、数えようか?」
「うん!」
二人で一緒に100数えた
「「ひとーつ、ふたーつ、みーつ、よーつ・・・・」」
優と私の声が重なり合う。
私は・・・この子といるときが本当に嬉しい。この子は、私に生を実感させてくれる。本当にあなたを生んでよかった。私はあなたにひどいことをするけど、これは本当の気持ちだよ。

私は心の底から、優に感謝し、謝った。

お風呂からあがり、優が眠る時間になった。
スタンドライトだけが唯一の明かりである薄暗い部屋で、優は小さなベッドに入った。
普段は優に神話民話逸話とか第三視点についてとかを聞かせている。この子が知って
いる第三視点の知識をホクトに教えさせるためだ。ホクトにBWが降りたとしても、自
分を知る手がかりがなければ自分を完璧に見つけることは困難だ。そう、私は彼を導
くだけ・・・彼を見つけるのは彼自身だ。
倉成役の誰かが教えてもいいのだが、普通の大学生であるという設定の倉成役がそんなことを話すのはいささか変だ。だから、考古学を学んでいる私の娘なら大丈夫だろうというのが私の考えだ。
しかし、今日は優が違うことをお願いしてきた。
「ママ、おうたきかせて」
「唄?」
「うん!ママにうたってほしいの」
「唄ねぇ・・・」
ベッドの端に頬杖を突いて考えた。
子守唄なんて何年もうたってないからよく覚えていない。でも・・・こんな時なら子
守唄を聞かせるのが当たり前だ。
私は考えた。思い出そうとしていた。
なんだったかなぁ・・・。何ヶ月前に誰かに子守唄を聞かせてもらったような気がす
るんだけど・・・・あ!そうか、あの唄だ。
「わかったわ」
優は目をキラキラさせて私が唄うのを待ち望んでいた。
「はやくきかせて」
「はいはい」
私はゆっくりと息を吸った後、唄い始めた。

「長弓背負い月の精」
「夢の中より待ちをりぬ」
「今宵やなぐゐ月夜見囃子」
「早く来んかと待ちをりぬ」
「眠りたまふぬくと丸みて」
「眠りたまふ母に抱かれて」

ココが教えてくれた子守唄だ。
ココはママから教えてもらったと言っていた。

ココ・・・あなたは今・・・倉成と一緒に眠っているのね・・・

「きれいなおうただね。なんていうの?」
「月と海の子守唄って唄なの。私のお友達が教えてくれたのよ」
「ふぅーん・・・ママ、もういちどうたって」
「ふふふ・・・いいわよ」
私は再び唄いだした。

「長弓背負い月の精」
「夢の中より待ちをりぬ」
「今宵やなぐゐ月夜見囃子」
「早く来んかと待ちをりぬ」
「眠りたまふぬくと丸みて」
「眠りたまふ母に抱かれて」

ふと、優に目をやると気持ちよさそうに・・・安らかに眠っていた。
私は軽く優のおでこをなでて
「おやすみ、優」
と一言だけつぶやいて、スタンドライトの消えた暗い部屋を後にした。

自分の部屋に入って、ベッドに飛び込む。
私がベッドに飛び込むことによって、ベッドの上のPDAが激しく飛び跳ねた。
「やっぱり・・・電話しようかな・・・?」
私の目の前に着地したPDAを見つめる。
倉成の役は桑古木しかできない。
彼だけが倉成になれる。
そう・・・彼は倉成の代わり。
「しかたない・・・やっちゃいますか」
私はPDAを掴んだ。
「・・・・・あれ?」
PDAのディスプレイに着信履歴のマークあった。
「誰だろう?」
キーを親指で叩いた。

着信履歴
12/10(日) 20:30
少年
090××××××××

桑古木からだった。
「桑古木・・・」
すぐさまダイヤルボタンを押す。
「テゥルルルル、テゥルルルル
ガチャ・・・
ゆ、優?」
少し弱々しい声で答える桑古木。その声からは後悔の色が見えた。
「なに・・・電話した?」
私は少し意地になっているのか、自然と刺々しい声がでてくる。
「優、ごめん!やっぱり僕にも手伝わせて!」
「桑古木・・・」
「僕はやっぱり、ココに会いたいんだよ!どうしても、何をやってでも、ココに会いたいんだよ!」
電話の向こうの彼は泣いていた。
「分かったわ・・・桑古木」
「本当!ありがとう、ありがとう優!」
「あ〜もう。そんなに泣かないの。男の子でしょう?」
「う、うん・・・」
ぐすっ、という音がPDAから聞こえた後、彼は質問をしてきた。
「で、優、僕は何を・・・」
「すと〜ぷ!!」
「な、なに?急に大声出さないでよ!」
「あのね〜桑古木・・・私は、あなたに誰になって欲しいって言った?」
「・・・?何を言ってるの優?」
「はぁ・・・あのね・・・私はあなたに、『倉成になって!』っていたのよ。倉成は一人称を『僕』って言わないでしょう?倉成の一人称は『俺』!さぁ・・・言ってみて」
「優・・・そんな急に言われてもできないよう・・・」
「グタグタ言うな!さっさとやれ〜!」
「わ、わかたよう」
「そこも間違い!『わかたよう』じゃなくて、『わかった』。OK?」
「お、OK・・・」
「はい、やり直し〜♪」
桑古木が、ゆっくりと深呼吸を音が受話器越しに伝わった。
「で、優、ぼ・・・・お、俺は何をすればいい・・・んだ?」
「く、くくくくく・・・・あっはははははは」
「ゆ、優?」
ぎこちなく彼がしゃべるもんだから面白くて面白くて・・・
「くくく・・・ご、ごめんごめん」
「えっとね・・・まずは、来週の日曜日私の家に来て」
「ゆ、優の家に」
「そう・・・住所は・・・」
「ちょ、ちょっとまって、じゃなくて、ちょっと待て!メモを準備すッから!」
ふむ・・・なかなかいいセンいってるわね。
私は心の中で確信した。
「いい・・・ぞ!」
「なんかぎこちないわね〜。まぁいいわ、これから少しづつ・・・ね?」
「ゆ、優・・・そんな怖い言い方する・・・な・・よ」
「ごめんんごめん。じゃあ住所言うわよ?」
「あ、ああ・・・」
「××町△△△通り○○マンションの017号よ」
「えぇっと・・・××町△△△通り○○マンションの017号だね?わかった」
「『だね』じゃなくて『だな』!」
「わ、わかってるって」
本当に大丈夫かしら?でも彼しかいないんだからしかたないよね?
「時間は?」
「午前10:00」
「わかった」
「昼食はこっちで食べさせてあげるから、心配しなくてもいいよ」
「ゆ、優の料理?」
「なによ?その以下にも心配&食べたくない!ッて感じの声は?」
「だって・・・LeMuの中で見た限り、優ってさほど料理得意そうじゃないから・・・」
「大丈夫だって!きっとおいしいから!第一LeMuの中では、なれないものを作って失敗しただけだって!」
「う、うんわかった・・・じゃあ今度の日曜日、午前10:00に優の家に行けばいいん・・・だ・な?」
「せいか〜い!よくできました〜!あ、そうだ。服装はあの時の倉成と同じ服装ね」
「武と同じ服装・・・?」
「そう、柄は違ってもいいから」
「わかった。じゃあ・・・な、優」
「あ、桑古木・・・ありがとう」
私がそう言うと、彼は電話を切った。
私はベッドに倒れこみ、枕に顔を埋めた。
「これで・・・これであなたを救えるわ・・・いいえ・・・これはまだ小さな一歩なのよね?」

「倉成・・・」

私はそのまま寝てしまった。

2017年12月17日 日曜日 天気 晴れ
「ち〜が〜う!だからこうだってば!」
私はパンツの左ポケットに手をいれ、右手を後頭部に添えた」
「こ、こう?」
目の前にいる桑古木も同じポーズようなポーズをとる
「もう少し右腕の肘を上げて!」
「左手の親指はポケットから出す!」
「あ〜もう!そうじゃないってば!」
私と桑古木は、今、私の家で桑古木は倉成になるための練習をしている。優は、お母さんと一緒に出かけている。というか、私がそう仕向けたのだ。
私も、桑古木も服装は同じ、上は、長袖に半そでを重ね着したレイヤードスタイル。下は細身のパンツだ。
まずは形から言ってみよう!という言うわけで、この格好にしたのだ。
「優・・・僕、お腹すいたよ〜」
桑古木が弱々しく弱音を吐く。しかし、注意するのはそこではない。
「優・・・俺、腹減ったよ〜でしょうが!やり直し!」
「ひぃ〜」
こんなことをもう、三時間も続けている。
流石の私もお腹がすいたので、昼食をとることにした。
「ちょっと待ってて。準備してくるから」
私は、桑古木を部屋に残して去ろうとしたがついでに一言。
「あ、私がいない間にいやらしいことしないでね?」
「誰がするか!」
「あら・・・いい反応」
私はキッチンに向かった。

「ピーお湯が沸きました。お気をつけください」
無機質な声が耳に入った。
しかし、そんなことは気にしない。お湯が沸いてくれたことを知ることができればそれでいいのだ。
「ええっと・・・確かここに・・・あ、あったあった」
私は、戸棚の奥にあった物体を手に取り、封をあけ、その中にお湯を注いだ。
「お・ま・た・せ」
桑古木は私の部屋を座りながら見渡していた。
「こらこら・・・女の子の部屋でそんなことをすると嫌われるぞ?」
私はお盆を床に置き、軽く桑古木の頭を叩いた。
「ご、ごめん」
「ふ〜ん・・・どうやら・・・君の悪い癖はすぐ謝るところみたいだね?しょうがない。その癖も私が直してあげよう!」
「い、いいよ」
「遠慮しないの。全てお姉さんに任しておけば心配ないから。ね?それよりも・・・ご飯食べましょう?」
「う、・・・・ああ」
「ピンポ〜ン!せいか〜い!商品はこの、優ちゃん特性のカップラーメンです!」
私は、桑古木にカップラーメンを手渡した。
「なに・・・これ・・・?」
私がカップラーメンの蓋を完全に開き、麺を口に運んでいると、桑古木はぽつんと呟いた。
「なにって・・・カップラーメン」
私は麺を飲み込んだ後、桑古木の質問に答えた。
「優が昼食を作ってくれるんじゃなかったの?」
「作ったじゃない。カップラーメンを」
すると、桑古木が・・・
「優の料理ってこれかい!」
と、倉成のようなツッコミをしてきた。
うん!倉成の役は桑古木しかいないわね!
私は今度こそ、本当に確信した。
「あ〜カップラーメンをばかにしちゃ〜いけないよ!微妙なお湯の量が難しんだから!」
「だからってこれはないだろう!」
こんな感じの会話に10分間も費やしてしまい、私と桑古木は、のびきったラーメンを黙って口に運んだ。

「優・・・俺は他に何をすればいい?」
ゆっくりでいいから、倉成を真似る気持ちでしゃべってみて、というと彼はだいぶうまくなった。
「そうね・・・あなたにしてもらわないといけないことは、
1つ、倉成になりきること
2つ、ライプリヒの医学部に就職してもらうこと
3つ、私のサポート
の三つよ」
「ライプリヒの医学部?何でそんなところに?」
「私は考古学を学んでいるわ。だから、いまさら医学部に変更することはできないわ。それに、ライプリヒが裏でどんな悪行をしているかの証拠も必要だからあなたにはライプリヒの医学部に就職してもらうわ」
「優は?」
「私の方は、心配御無用!」
私は、自分の机から、一枚の紙を見つけ、桑古木の前に広げた。
「え〜と・・・なになに・・・
『考古学者大募集!
レムリアや海底の古代について興味がある人は是非こちらまでご連絡を
海洋テーマパーク LeMu』
これって?考古学者の求人情報?」
「そう。どうせライプリヒは、IBFの存在を隠すために、LeMuを再建築するはずよ。だから私の方は心配ないの?」
「でも、俺達のことは、奴らに知られてるんだ。就職できるのか?」
「そのときは・・・ライプリヒをやり過ぎない程度に脅すか、私たちの血液中に流れるTBの抗体を売る必要があるわね・・・」
「そう・・・か・・・」
桑古木の声が小さくなる。
「なに・・・?不安になったの?」
「ば、馬鹿ちげぇよ!」
「そう、なら良いわ」
私は立ち上がり、
「桑古木、コーヒー飲む?」
と聞いてみた。
「あぁ・・・貰うよ。あ、砂糖とミルクも頼む」
「だめよ」
「な、なぜに?」
「倉成はコーヒーをブラックで飲んでたからね」
考えてみたら、倉成は私の飲みかけのコーヒーを飲んでいたのだ。
こう考えると・・・彼って結構大胆だよな〜
クッスっと軽く笑う。
「そうね・・・急にじゃ少しかわいそうかもね?少しだけ入れてきてあげる」
「あ、ありがとう、優」
別に感謝することでもないけどね。
私は、ヒラヒラと手を降りながらその場を後にした。

to be continued



あとがき

どもっす!BBです。
いや〜ついに連載スタートの優春SS『Everything to my lover』ですぞ〜!
そっれにしても長いな〜。
余計な部分が多かったような気がする。
今回は一種のプロローグなので内容は薄いです。
これからが本当のお楽しみですぞ〜!
ちなみに・・・優春SSはあと、2,3回続きます。

今回も描写がだめだめ!
うまくいかんとです!

では、SEE YOU!





2002


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