〜History〜
                              ちまたみうみ



 子供達が戯れている。
 それはここが病室ということを除けば、或いはここでさえも、ごく自然でありふれた光景だった。
 三人いるうちの、一人の少年は白人系。その他の二人の少女は、ベッドに寝ていて上半身だけ起こしている女の子が白人系、その傍らに立っているのは東洋系の女の子だった。
 東洋系の少女は日系なのかどうかはわからないが、彼女は普通に英語を喋っているため、このアメリカに馴染んでいることは確かなようだ。
 彼らは見た目からして12歳前後で、背の高さもそう大して変わらない。そういったせいもあるのか、随分と仲が良さそうに見える。
「ねぇジュリア、つぐみ。二人が退院したら、三人で……あ、あとはパパやママ達も一緒にどこかキャンプでも行こうよ」
 彼は談笑している白人系の少女ジュリアと東洋系の少女つぐみに、自分も会話に混ぜてと言わんばかりにそう言った。すると二人は同時に少年、トムの方を振り返って瞳に火を灯らせた。
「あ、それいいわね」
「うん……私も行きたい」
 二人の返事に気を良くしたのか、少年は表情を明るくすると、その場その場で思いつくプランを語り始めた。
 魚を釣ったり、ご飯を作ったり、夜は色んなことを話したりトランプしたりしながらテントで寝たり……と。
 そんなありふれた子供同士の会話。
 いつまでも笑顔でいる子供達。
 だがしかし、今日も別れの時はやってくる。
「あ……こんな時間。僕、そろそろ自分の病室へ帰らなくちゃ」
「そういえば私も、今日はお母さん達と一緒に出かけなくちゃいけないんだ」
 唐突に、白人の少年と東洋系の少女が思い出したように言った。するとベッドに寝ている少女は少し残念そうな顔をしたが、すぐまた笑顔を取り戻し、最後にこう言った。
「じゃあ、また今度ね」
 その言葉をきっかけに、子供達は別れた。


 巨大な鉄の塊が迫ってくる。
 それは、12歳の少女を一瞬にして恐怖に落とし込む威圧感を放っていた。
 コンクリートの大地を走る鉄塊、18輪トレーラーはその勢いを止めることはない。
 運転手は少女に気づかなかった。
 大地は激しく揺れる。
 鉄塊は彼女の視界で巨大化し、やがて世界はすべて埋まった。
 そして、接触――――。


 その後、三人は出会うことは無かった。




――History――




「で――なんでオレが子守りをしなきゃなんないの?」
「あら、いいじゃないの。きっと近い将来誠君の役に立つと思うわよ」
「いづみさん……それはそこはかとなく大胆発言では……」
 複数の子供に囲まれ半分玩具と成り果てている青年、石原誠。その様子を傍から穏やかな表情で見守る女性、守野いづみ。
 二人は現在とある児童養護施設にて、その手伝いをしていた。なんでも、いづみの友人がこの施設にいるらしく、旧友との再会を兼ねてお手伝い、ということらしい。ちなみになぜ誠が付き合っているかと言うと、恋人同士として正式に関係を持っている二人だから、事前練習という名目も兼ねているらしい。
「まあ、子供は嫌いじゃないからいいんだけどな」
 そう言うと、誠は手近に居た赤ん坊をひょいと持ち上げ『たかいはやーい』などと言いながら滅茶苦茶に振り回した。これは安全性としてどうかと思うが、誠も赤ん坊自身も楽しんでいるようなので、いづみはその様子を苦笑しながら眺めていた。
 ゴツッ。
 赤ん坊の視線が一瞬誠から逸れた、その瞬間だった。誠の後頭部を激しい衝撃が襲う。それは鈍器に殴られたような痛みで、思わず赤ん坊を落としそうになる。が、なんとか意識を奮い立たせて赤ん坊をキャッチすると、バっと擬音がつくかのごとく激しく後ろを向いた。
「だ、誰だ!?」
 ゴッ。
 衝撃再び。今度は正面を向いた誠の鼻頭に直撃だった。
「ば……ばびぶんば!」
 鼻頭を押さえながら意味不明な言葉を口にする誠の前には、まだ小さな男の子が立っていた。その手には、いくつかの積み木が握られている。恐らくそれが凶器だったのだろう。
 男の子の表情は険しく、不機嫌というよりは純粋な怒りを感じた。
「おまえ……みさおちゃんをいじめるな!」
「……は?」
 そう言うと、男の子は再び持っていた積み木を誠へと投げつけ始めた。
「ぐわっ! 待て子供! オレが悪かった、だからやめろ!」
 何が悪いのかわからない誠だったが、とりあえずその様子を見て気がおさまったのか、男の子は攻撃を止めた。
「わかればいいんだよ……おじさん」
「お、おじさ……」
 彼はそう呼ばれたことがショックらしく、視線を宙に彷徨わせつつ小さくため息をついた。
 誠がそうやってダメージの余韻に浸っていると、トテトテと小さな足音が誠の元へと近づいていき、心配そうな女の子の顔が彼の視界を覆った。
「お兄さん、だいじょうぶ?」
「ん……君は?」
 お兄さんと普通に呼ばれて復活したのか、誠はしっかりした口調で髪の両端をリボンを結んだ女の子に反応した。
 名前を聞かれると、一瞬女の子は難色を示し男の子の方を向いたが、男の子が何も言わないとそのまま口を開いた。
「えーと……沙羅。わたしの名前は沙羅っていいます」
「へえ、沙羅ちゃんって言うんだ」
 誠は先ほどの痛みを忘れたかのように笑顔を浮かべると、沙羅の頭を軽く撫でた。少し驚いたように身をすくめたが、別に変なことをされる訳ではないと悟るとされるがままになった。
「で、そっちのおガキ様は?」
 いつの間にか先ほどの赤ん坊を抱いている男の子に対してそう言うと、少し眉をひそめながら素直に答えた。
「おガキ様? ……なんだかよくわからないけど、ぼくはホクト」
「ホクトって言うのか……へぇ……。
 するとやっぱり七つの星の傷跡があるのか?」
「それはケンシロウだよ」
「…………ナイスツッコミだ」
 彼にしてみれば、よもやこんな子供に突っ込まれるとは思っていなかっただろう。そんなホクトに少し畏怖を覚えながらも、警戒心を完全に解いた二人と遊び始めた。
 



 彼女は何もせずに過ごしていた。
 病室、という名目だけの監獄に、ただ幽閉されていた。
 毎日のように繰り返される人体実験。
 その度に傷つき、苦しみ、だがやがてそれは元通り。
 トレーラーに轢かれたあの日から。
 トムやジュリアと別れたあの日から。
 ただひたすら、彼女はそれだけを繰り返していた。
 もはや苦痛や悲しみさえも麻痺してしまうくらい、長い長い時間だった。
 だからもう何も考えず、ただ毎日を過ごしていた。
 あの日、までは。




「僕、ホクトと沙羅が欲しい〜!
 絶対絶対持って帰るんだ〜!」
「ほら誠君、ワガママ言わないで帰りましょう」
「いづみさんのばか〜!」
「それじゃあね、誠お兄ちゃん」
「ばいばーい」
「おう、また来るからな二人とも!」
 不穏当な駄々をこねた誠だが、二人に別れの挨拶をされると一瞬の間もなく意識をチェンジした。
 笑顔のまま手を振ると、誠は背を向け、いづみと連れ立って帰り道を歩き始めた。
「ふぅ〜、一日子供の相手ってのは疲れるなぁ」
「その割には楽しんでたじゃない? 特に、ホクトくんと沙羅ちゃんとで」
 辺りは既に暗く、夏の虫もその声を高らかに歌っていた。それ以外の雑音は殆ど聞こえず、聞こえるとすればお互いの吐息や足音くらいだった。
 だがそんな静寂の世界も、二人の男女によって新たな音声がつけられ、装飾されていた。
「ふぅ……」
 しばらく近くの駅まで今日の出来事などを喋りつづけていた二人だったが、誠の語尾についてため息を最後にふと話題が尽きて両名沈黙した。
(……き……気まずい) 
 空気が流れない。
 その間が歯がゆく、何か話題を作ろうと思って誠は必死に考えるが全て無駄に終わる。
 そうやって悩み、随分と彼が困った時、いづみは何やら思い詰めたような表情で口を開いた。
「ねぇ、誠君」
「なんです?」
 向こうから先に話題を降られたことに少し焦ったが、動揺を隠して誠は応えた。
「実は今日、これから行きたいところ……いえ、行かなきゃならないところがあるの」
「…………え! ま、まさか!?」
 いづみの様子、言葉から誠は一つの結論に辿り着いた。
 今日最初の方にいづみさんが言ったあの言葉、『きっと近い将来誠君の役に立つと思うわよ』。
(つまりそれは、オレが近々育児をすることになるということで……つまりそれは……その……なんだ……)
 誠の脳裏に、いづみさんのあられもない姿が映し出される。同時に心音が一気にその回数を増し、体中が火照っているような感覚を覚えた。
「い、いづみさん……」
 すべての想像の先が目の前に立っているいづみに集約され、脳が沸騰しかけた誠は歩みを止めた。いづみを振り向かせるとその両肩に手を置き、わずかに震えながら、誠は決意の言葉を紡ぎだす。
「あの……オレは……」
「誠君、だいたい察してくれてるみたいね……」
 しかし彼の言葉は吐き出そうとしたところで止められる。少し肩透かしを喰らったように思ったが、その真剣さに気おされ、黙り込んでしまった。
 その様子を確認して、いづみはしっかりと誠の目を見据え、少し深呼吸をしてから改めて言った。
「一緒に行きましょう……」
「…………」
 ドクン、ドクン、と、誠の心臓がはちきれんばかりに雄叫びをあげる。それは恐らく空前絶後の叫びだろう、と自分でも思った。
「……研究所へ」
「はい…………って、ええ!?」
 誠は驚いた。研究所へ行こう、と言われたことに驚いたのではなく予想と違ったことに驚いたのが、若干の悲しいところである。
 しかし驚きっぱなしで絶句するようなことではないと冷静に悟った誠は、その真意をいづみに尋ねた。
「ど、どうして研究所へ……?」
「……それはね」
 いづみはぽつぽつと、ことの理由を語り始めた。
「今から2年前のこと……。
 私の父、つまり守野茂蔵と親しくしていた女性がいた。
 その女性は過去に色々あったらしいんだけど、そのことについては触れなくてもいいから、伏せるわね。
 とにかく、その人……田中優美清春香菜、ちょっと変わった名前だけど本名よ? まあ、とにかくその人が、私の父にこんな研究を伝えてきたの。
 第3視点……つまり、私達の世界や他の世界、過去未来現在すべてを見通せる存在について……よ」
「オレ達の世界や他の世界……過去未来現在が見える……? なんのジョークですか、それは?」
「ジョーク、ね。誠君も、十分ジョークみたいなことを経験してると思うんだけど」
「…………!? 
 もしかして、あの無限ループ……キュレイシンドロームに、何か関係が?」
「ええ、その通りよ。
 しかもこの説で示されている、第3の視点……仮に『ブリックヴィンケル』と呼ばれている、四次元的生命体の存在が証明できれば、キュレイシンドロームは、間違った説ということになるの」
「四次元的生命体……? 間違った説?」
「誠君も、四次元や、n次元で知覚できる世界はn次元−1次元という法則については知っているわよね?」
「ええ……ってあれ、やばい。ちょっと細かいところでド忘れしちゃったかも……」
「はあ……まあいいわ。細かいことは、研究所に行って、父と、田中氏とで詳しく話しましょう」
「わかりました……」
 誠は少し罰の悪そうな顔をしながらも、少し嬉しそうな微妙な表情をしていた。
 かつて己が体験した、同じ時間を何度も何度も繰り返すという、無限ループについての理由をキュレイシンドロームによる『妄想が誠にとっての現実世界となった』という結論について、自身納得していない部分があったからだ。
 あの時は本当に切羽詰っていたのでそう解釈するしかなかったが、今にして思えばこうやっていづみと一緒にいることや、生きていることすら妄想に過ぎないと言われれば、気分は悪い。
 だからこう言った別の可能性というのに、少し期待していたのかもしれない。自身特に意識をしていなかったが、現在いづみとキュレイシンドロームを研究しているのは、その説を否定するためだったとも思えてくる。
 そうなると少しいづみに後ろめたさを覚えた誠ではあったが、身体から湧き上がる好奇心には勝てなかった。
「それじゃあ、行きましょう」




 それは珍しく天気の悪い日だった。
 じめついた雨が怒ったように大地を打ちつける。まるで激しく己の意志を主張するかのごとく。
 しかしそんなことには無関心に、いつものように『病室』で目を覚ましたつぐみは、枕元に何か封筒のような物が置いてあるのに気がついた。
 飾り気のない、ただ真白い封筒だった。これが一体何なのか理解しようとしたつぐみだったが、結局中身を確認することが手っ取り早いという結論に落ち着いた。
 封筒を開けると、一枚の紙と、本と、どこかの紙幣と、手紙のような物が入っていた。
 つぐみは四つ折になっている手紙を無造作に開くと、そこには懐かしい彼女の母国語である日本語で、何かの文章が描かれていた。
 日本語を使わなくなってから大分経っているつぐみだったが、そこの言葉に関しては問題なく読み取ることができた。
『外を見てくれ』
 つぐみは弾かれるように外を見た。今まで虚ろだった感覚が、突然突き破られたような感覚を覚えたのだ。
 窓の外を見ると、そこには一台の黒い車が止まっている。テールランプが赤く点灯しており、既に発車準備はできているようだった。
 それを見ると、つぐみは反射的に窓から飛び出した。
 パジャマであることや裸足であること、外は大雨であることなど気にする様子はまったくない。
 一心に、何かに憑かれたかのごとく車に向かった。
 バンッ!
「さあ、早く乗って!」
 車へと近寄ったつぐみの前で、突然暴力的な勢いでドアが開かれる。少し戸惑いながらもつぐみはそれに乗り込み、自分でドアを閉めた。
 すると車はぬかるんだ地面に一瞬足を取られるも、すぐに猛スピードで発進した。
「ねえ……どこへ行くの?」
 つぐみは不安そうに、隣に座っている白衣を着た男に問い掛けた。すると男は、少し悲しそうな笑みを浮かべながら
「君が自由になれる場所へ」
 そう言った。




 彼らが守野博士の研究所へ向かうと、軽い挨拶をしてから応接間へと通された。そこのソファにはセミロングの髪の女性が座っていて、年齢は誠と同じか、それ以下のように見える。
 誠はその女性に軽く会釈をすると、守野博士に促されるようにソファに座り、隣にいづみ、正面に守野博士、その隣に女性という形で落ち着いた。
「どうも、初めまして……ですね、守野博士」
「娘との関係は?」
 誠が少し緊張しながら頭を下げると、そこに浴びせるような勢いで守野博士は言った。すると誠は戸惑ったような様子で顔を上げ、咄嗟にいづみの方へと視線を向ける。
 だがいづみは『なに?』といった様子でまるで今の言葉の重みについて考えていなかった。
 仕方なく誠は自分から遠慮がちに呟いた。
「あの……一応……いや、確実にというか須らくというか絶対的にというか恋人っぽかったり違ったり歳の差カップルだったり」
「君……支離滅裂になってるよ」
 誠がいっぱいっぱいになりながらようやく搾り出した言葉は、守野博士を苦笑させた。その横では同様に女性も笑っており、少し気まずさを覚えた。
「ああ、ちょっと私の意地が悪かったね、冗談だよ」
「……はい?」
「いやね、君が娘の恋人だということは、かねてから聞いているよ。
 安心しなさい。私は反対する気や怒る気はないから。
 むしろ君みたいな面白い男だったら、私は賛成するぞ」
 そう言って守野博士はいつも他人に対してふるまっている紳士的な態度を崩し、高らかに笑った。
 これが父親としての守野博士の姿なのだろう。隣にいる女性はそう思って少し疎外感のようなものを感じたが、同時に親しみも強くなった気がした。
「――と、紹介を忘れるところだった。
 この子が田中優美――」
「田中優美清春香菜です。優に、美しく清らかな春香る菜の花と書きます。面倒だと思うので、優と呼んでください」
 守野博士を制してそう言うと、丁寧に立ち上がってペコリと頭を下げた。つられて誠も立ち上がり、同じく自己紹介をした。
「えーと、自分は今年で24歳、いい味出してる石原誠と申します。時間の荒波にも負けないナイスガイです」
「……ふふっ」
 誠が真顔で言った自己紹介に、優は小さく笑いをこぼした。
 いや、小さくはなかった。
「あははははは!」
「え、え?」
 流石にそこまで反応されるのは予想外だったらしく、誠は目を丸くして優の顔を凝視した。他の二人も不思議そうに優を見つめている。
「あははは……あ、ごめんね。すると石原君は同い年なのかな?」
「え……ってことは、田中さんも?」
「ええ。
 あ、そうそう。いづみさんも含めて、私のことは田中じゃなくて優って呼んでね」
「おう、わかった」
 同い年とわかって、誠は口調を彼の標準に戻した。
 それにしても、先ほどは何がそこまで受けたのだろうか。
 ただ単に弱いのか、ツボにハマったのか。
 変な芸人魂に燃える誠にとっては、非常に気になるところだった。
「なあ優……さっき、なんであんなに笑ったんだ?」
 すると優は、特に躊躇もなくさらっと言った。
「あ、うん。実は誠君のことはいづみさんにちょっと聞いたことがあって、その時から思ってたことなんだけど、私の知ってる人にそっくりなの」
「――そっくり?」
 まさかオレのモノマネ芸人か。即座にそう思ったが、すぐに次がれた言葉で思考を断ち切られた。
「私より2つ年上の男なんだけどねぇ、そいつがどうしようもないバカで」
「それって暗にオレをバカと言ってるだろう」
「ああ、それよそれ! そういうところが武にそっくり!!」
 会った当初のおとなしそうなイメージとは裏腹に、優は誠を指差しケラケラと笑った。が、その優の表情が一瞬翳ったのをいづみは見逃さなかった。
「優ちゃん、いくら好きな人にそっくりだからって、誠君を誘惑しちゃダメよ?」
 しかしいづみはそれについて言及せず、今見たものを冗談でぼかすことにした。
「し、しませんよいづみさん! こんなバカを!」
「優……お前完全にオレとその武って人間を混同してるだろ……」
 そんなこんなで、最初の緊迫したムードとはかけ離れて仲良くなったようだ。
 やがて折を見て、守野博士はおもむろに口を開いた。
「では、そろそろ話を始めようか」
 ガラリと語調が変わった守野博士の声を聞いて、三人は身を少し強張らせながらソファにしっかりと腰を落ち着ける。
 守野博士は、全員がしっかりと自分の方を向いているか確認するように周囲を見渡すと、学者の顔で語り始めた。
「これは本来私の専門分野ではないのだが……人命がかかっているとなると、見過ごす訳には行かなかった。
 全ては、私の情報、いづみの研究、優の仮説……そして誠君の体験が鍵を握っているのだ。
 誠君に、最初に言っておこう。
 これは君の抱えている謎の解決とともに、二人……いや、三人の人間を救うための話し合いであり、計画だ」
「え……ちょ、ちょっと待ってください。
 謎が解けるのは願ってもないことですけど、人間を救うっていうのは?」
「それは私が後で説明する。だから、今はとりあえず話を聞いて」
 優に真剣な表情で言われ、少し困惑気味になる誠だったが、やがて顔を引き締めて、再び耳を傾けた。
「まずいづみの話によると、信じ難いことではあるが、君は同じ時間を何度も何度も繰り返したそうだ。
 それについては間違いないかね?」
「ええ」
「そうか……では、時間を繰り返したりする際、記憶を引き継いでループしたことは?」
「えーと……もしかしたら幾度となくあったのかもしれませんが、記憶のある限りでは、微かに、断片的に残っていたのが一度。その次のループでは完全に……いや、果たしてそれが次のループだったか確かめる術はないんですが、とにかく最後には完全に記憶を引き継いでいました」
「それはつまり……彼が段々と誠の意思と同調していったってことか……」
 誠の話を聞いて、優がぽつりと漏らした。
「彼? 彼って、誰だ?」
「私にもよくわからないけど……恐らくは、ブリックヴィンケル」
「ブリック……ヴィンケル……。
 なあ、さっきもいづみさんが言ってたけど、誰なんだそれ? っていうか、何なんだ?」
 誠が尋ねると、優は深く頷いた。それが何を意図するのかよくわからなかったが、語る上での決意表明のようなものだったのだろう、と誠は解釈した。
「BWは、第三の視点……それはつまり、四次元的生命体。言わば、傍観者ね。
 n次元で知覚できる世界はn次元−1次元。
 この法則により、つまりは四次元からは三次元の全てが見えるということになるの」
「三次元の……すべて」
「そう、すべて。
 過去、未来、現在。今私達のいる同軸時間上に存在する、もう一つの世界。
 とにかく四次元からはそういったすべての物を見通すことができるのよ。
 そしてこんなことができる、我々の世界にとって第三の視点を持っている四次元の生命体……それが、BWなの」
「え……待ってくれ、つまりこういうことか?
 そのBWっていうのは、四次元からやってきた生き物で、すべての世界が見えちゃうっていうのか?」
「うーん、ちょっと違うかな。
 BW自体は、恐らく常に四次元から出ることは無く、視点としてただ『見る』だけで、基本的にこちらの世界に干渉することはない。
 ただし一部の特殊な能力を持った人間には……形こそわからないが、その視点が見えるみたいなの。
 また、場合によっては視点が三次元の身体を借りることで活動したり、逆に視点を借りて三次元の生物が四次元的に物を見ることが可能になるの」
「……………………」
「難しいかな? なるべく簡単には言ってるつもりなんだけど」
「いや、意味はわかる……ということは、オレの無限ループにはBWが絡んでるって、言いたいのか?」
「そういうことに、なるね」
(ブリック……ヴィンケル)
 誠は自分の予感を肯定され、思わずその名前を頭の中で重々しく反芻させた。




「あなたは……?」
 ごうごうと降りしきる雨の中、黒い車の前に立つ白衣の男と黒衣の女、つぐみ。
 彼女は男に問い掛ける。
 何故自分を助け出したのか。
 何故自分は閉じ込められたのか。
 ここはどこなのか。
 あなたは、誰なのか。
「私は……」
 そして最後の問いに、男が答える。
「守野、櫂志」




「誠君や、最終的には私も体験したループは、恐らくBWがなんらかの理由で、或いは理由もなく偶発的に誠君に宿り、視点を過去へ遡らせたんだと思う。
 仮にBWが、ある特定の周期を行き来するようなプログラム(本能)を持っている生命体だとすれば、7日間というプログラムを持ったBWが誠君の視点を一緒に過去へと引き戻したんだと思う。
 だけどそこでタイムパラドックスが発生しないようにBWが宿っている7日間の記憶を消してしまうのだとすれば、誠君にずっと記憶がないのもわかると思うの。
 しかし、幾度も幾度もループをするうちに、誠君に強烈なイメージが発生し……そう、この場合は『死』だった。
 それによってとうとう発現し、BWと同調してしまった誠君は、最初はわずかな記憶を。そして最後には完全に記憶を取り戻し、歴史を変え、BWから解放されたんじゃないか……そう思ってるの。
 つまり誠君はキュレイシンドロームではなく、BWによって無限ループを引き起こしていたんじゃないか……っていうのが、優ちゃんの仮説から考えた説なのよ」
「……………………」
 誠はいづみの話にじっくり耳を傾けていたが、話し終わった後も、どこか釈然としなさそうだった。
 その様子を周りはじっと見つめていたが、やがて誠は口を開いた。
「でもさ……となると、オレはどうして2019年の4月1日に戻るよう設定され、BWの宿主になったんだ?
 設定が7日間のループだとすると、最初の歴史だと、7日にオレはBWの視点に捕まった……ってことだよな。
 そこで誰が死んだのかはわからないけど、人が死んだだけでBWになるんなら、世界中ループだらけじゃないのか?」
「……………………」
 誠の言葉に一同が、何かに失敗したように沈鬱に黙り込む。
 が、それを打開したのもまた誠だった。
「いや……でも待てよ。
 BWに遭遇したその瞬間からループが決定付けられるわけじゃないとすれば、少し心当たりがある」
「え?」
 その言葉に一番に反応したのはいづみだった。
「ほら、司紀杜神社だよ。
 もしかしたらあそこが四次元と三次元の境目か何かで、そこから視点がこっちの世界に潜りこんだとか考えれば、オレが立ち寄った際、偶然に宿主にしたっていうのは十分ありえるはずだ。
 そして、まだ完全に視点となりきれてなかったBWが、オレ、或いは誰かの死によって覚醒し、ループに巻き込んだ……って。
 突拍子もないことかもしれないが、ここまで来てそれは否定されないだろ?」
「うん……そうかもしれない」
 最初に頷いたのは優だった。彼女自身司紀杜神社は知らないが、なんとなく意味は通じていたようだ。
「それなら説明がつくし、私も納得するよ……というか、納得する以外ないかも」
「どうして?」
「そもそもにこんな仮説自体が、自分で立てておいて滑稽だもん。
 それに、BWの存在は実際に……」
「え?」
「あ、ああ、それはまたあとで話すよ。
 にしても、これが本当なら、いよいよ存在の可能性が濃くなったわね」
「そうみたいだな」
 頷く誠の顔は嬉しそうだった。確証らしい確証があったわけでもないのだろうが、その説でなんとなく胸のつかえがスッキリしたのだろう。
 しかしそんな誠の高揚感を静めるように、守野博士が呟いた。
「では……次の話題に入ろうか」
 その声は依然として重く、むしろこちらの方が重大とさえ思える。
 思わず生唾を飲み込んだ誠は、姿勢を今一度正して聞く準備を整えた。
「優、まずは君から話したまえ」
「はい」
 そう言うと、優は真剣な表情のまま、しかしどこか悲しげに語り出した。
「…………今から5年前のことです。
 巨大海洋テーマパーク、LeMUで浸水事故が発生し、その年の5月7日に圧潰しました」
「ああ、それなら聞いたことあるよ。結構デカい規模のテーマパークだった割に、あんまり騒がれなかったけど」
「ええ。
 真相を今話すと、その事故では、実は5人の人間が閉じ込められたの。
 倉成武、桑和木涼権、小町つぐみ、八神ココ。
 そして…………私」
「え!?」
「まあ、それほど驚くことでもないんだけどね……」
「そ、そなの? でもよく助かったな。
 ってあれ? もしかして、今名前の出た倉成武ってのが、さっき言ってたオレに似てるってヤツ?」
「そう……まあそれはともかく、話を続けるね。
 その中で、私達はなんとか圧壊までに脱出方法を考えようとしたんだけど、結局見つからなかったの。
 けど、仲間の小町つぐみがLeMUのさらに下にある研究所の存在に気づいた。
 それは製薬会社ライプリヒの極秘研究所で、LeMUやライプリヒの人間でさえ、一部の人間しか知らない場所だったの。
 だから私達は最後の望みを賭け、私達はそこへ向かった。
 しかしそこへ行っても事態は好転せず、さらにティーフブラウっていうウィルスが私達の身体から検出されて、もはや殆ど生還は絶望的な状況になってしまった。
 だけどそこで、小町つぐみがキュレイウィルスの、キャリアだということが判明した」
「キュレイウィルス?」
「そう。これは直接的にキュレイシンドロームとは関係がないんだけど、いづみさんから話してもらってると思う、トム少年の事例に関連されるの」
「トム少年……キャビン博士の患者で、自分は不死、さらに自分に触った人間も不死になると言った少年……だっけ?」
 誠がいづみの方を向くと、彼女は何も言わず頷いた。
「最初に言うけど……トム少年は妄想でそんなことを言っているのでなく、さらにキュレイシンドロームなのでもなく、本当に不死だったの」
「…………マジ、かよ」
 今更ではあるが、誠は優がさらっと言った言葉にやはり驚きを隠せなかった。
「これはちゃんと裏付けもある、事実だ」
 優の声が突然守野博士の声に切り替わる。どうやら、ここからは遺伝子学の権威である彼の得意分野のようだ。
「キュレイウィルスというのは、簡単に言ってしまえば、人間の遺伝子コードを書き換えて、事実上まったく別の生物にしてしまうウィルスだ。
 遺伝子が書き換えられて別の生物になる、と言っても、別に外見的にはそんなに変わる訳じゃない。
 だがしかし、このウィルスは人を不死にする効果があるんだ」
「……?」
「わからないと言った様子だね。無理もないだろう。
 まあでも君程の知識であれば、代謝や免疫機能が著しく向上し、テロメアは回復し続けるようになる……と言えばわかるだろう」
「え……ってことは……。
 決して老化……しなくなる?」
 誠は自分で言っていることに半信半疑ながら、自分の知識と不死というキーワードで手繰り寄せられるのは、この答えだけだった。
「ご名答。
 つまりキュレイウィルスというのは、決して老衰で死ぬことはないし、普通の人なら死ぬような大怪我だとしても、大抵は完治してしまうようになる。
 イコール、不死というわけだ。
 そしてそれは他人に伝染し、先の事例からすればトム少年と親しかったジュリア、末期ガンの重病患者が回復したのも頷ける。
 ちなみにキュレイウィルスと後に名づけられるウィルスに感染が認められた歴史上初めての患者は、ジュリアだ」
「不死のウィルス……キュレイ……」
 青年はその言葉を呪文のように繰り返す。
 これによって、BWに併せて自分がキュレイシンドロームではないということが証明された嬉しさと、何か胸に引っかかるような不安感が誠に振りかかった。
「まあここで話しを戻すわね。
 そして私達は……」
「ちょっと待ってくれ」
 再び話を始めようとした優を誠は制止した。それから小さく息を吸い込んで、少し勢いをつけて言う。
「ここから先は、オレが聞くような話なのか?
 というかここまで謎が解けたら、あとはオレには関係がないんじゃないのか?
 そういえばさっき人命がどうのって言ってたけど……なんか訳ありみたいで、話聞いて首突っ込んだら、マズイことじゃないのか?」
 そう言うと、優は少し哀しそうな瞳をして俯いた。
 意見を求めるように誠は守野博士といづみの方も向くが、二人は視線を逸らして何も答えてはくれなかった。
「やっぱり、何かあるんだな」
「……ええ」
 答えたのは優だった。
「私は……別に恩を売ったつもりじゃないけど、この仮説によって誠の無限ループについて、完全解消とまではいかないけど、納得がいくような説明は提供できたと思う。
 だから……っていうと、恩着せがましいね。
 良かったら……そう良かったらでいいんだ。
 この話の続き……聞いてくれるかな」
 そう言うと、優はしっかりと誠の目を見据えた。その瞳の中には、強い決意のような炎が浮かんでいるようにも思え、今自分が断るということは、この炎を消してしまうように思えた。
 消してしまうから、ではない。誠は、あまりに彼女が真摯だから、彼はそれを受け入れることを決めた。
「わかった……聞く……いや協力する。
 きっとオレはBWに関して何かしら繋がりが見えるから、これから何をするかはわからないけど、重要な参考になるんだろ?」
 誠はそう言って、優に笑顔を向けた。
 その笑顔の向こうに、優は今は会えない一人の青年のことを思いだし、わずかに目頭が熱くなった。
「…………ありがとう」
 紡ぎ出した言葉は、少し濡れていた。




 彼女は生活費を稼ぐため、この海洋テーマパーク『LeMU』へとやってきていた。
 いわゆるバイトである。
「ウゥゥゥ……ウゥゥゥ……」
「う〜〜〜、う〜〜〜」
 業務内容はと言うと、LeMUのマスコットキャラクター『レミュール』の着ぐるみを被り、蒸し暑い中を歩き回るのである。
「ウゥゥゥ……ウゥゥゥ……」
「う〜〜〜、う〜〜〜」
 そして現在、彼女の尻尾にかじりついている犬が一匹。その犬の尻尾にかじりついている女の子が一人。
 彼女がどこへ行こうとスッポンのごとく噛み付いたまま決して離れず、いい加減つぐみは苛立ちを隠せなくなってきた。
 だがしかしこのまま怒って実力行使に出る訳にもいかず、悩むところだった。
 と、そんな時、彼女の目の前に立っていた青年がふとつぐみの方を振り向いた。
 瞬間、目が合い、そのままお互い気まずい沈黙が続いた。  
「ど、どうも……」
 彼はまるでその雰囲気を取り繕うかのように、つぐみ(もっとも彼にしてみれば着ぐるみ)に会釈をした。
 だがつぐみはその様子がバカみたいに思えてそっぽを向いた。
 しかしそれからしばらくしてふと思いついたつぐみは、目の前で犬と少女を凝視している青年に、心底嫌そうにささやいた。
「ねえ?
 この子達、なんとかしてくれない?」




「まず、TBウィルスの脅威に関しては、つぐみから抗体を取り出すことによって、回避することができた。
 その際に、抗体、つまりキュレイウィルスを摂取したのは、私、倉成武、桑和木涼権の三人。
 まあ、そういうわけで結果的に私達はもう歳を取らなくなってしまったけど……」
 誰に向けてなのかよくわからない、少し哀しそうな表情を優は見せ、自分の頬に手をやった。
 恐らく彼女は、キュレイウィルスのキャリア全員に対してそうしたのだろう。
 そんな優のことを誠は少し不憫にも思ったが、哀れみの言葉などかけても無駄だとわかっていたので、敢えて何も言わなかった。
「それで、何もCウィルスは即効性というわけでもなかったので、私達は一旦意識を失ってしまった。
 だけどその間に通信が入って、武が救助隊とコンタクトを取ったの。それで救助隊が来ることになったんだけど……。
 私達は意識がなかったから詳しくはわからないんだけど、武とつぐみは何かの事情で一旦私達の居た治療室から離れていて、その間に救助隊が来てしまい、私達だけを救助していった。
 その後武はつぐみと二人で脱出を試みようとしたけど、結局つぐみを救って自分は犠牲になり、海底へと沈んだ……」
「…………」
 誠はその話を聞いて、どことなく畏敬の念のようなものや、不思議と親近感のようなものを覚えた。
 実質自分も似たような状況に陥ったこともあるため、それは自然のことだったのかもしれない。
 そんな様子を悟ったのかどうかは知らないが、優は誠の目を一回だけしっかりと見つめると、続きを始めた。
「119mの海底へと沈んだ武は、当然死ぬはずだった……。
 しかし彼は蘇ったのよ。
 17年後の未来からBWの視点を借りてやってきた、彼の息子、ホクトの言葉によって」
「ホクト……?
 え、今ホクトとおっしゃいましたか?」
「そうよ誠君」
 代わりに答えたのはいづみだった。
「さっきの施設にいた双子の兄妹……あの子達こそが、LeMUで結ばれた、倉成武と小町つぐみの実子なのよ」
「どえええ!?
 え、す、す、するとつまり、あそこの施設へ連れていったのは……本当は、このことが目的……で?」
「そう。
 嘘ついちゃってごめんなさいね。
 でも仕方がなかったのよ」
「ああ、別に謝ることはないですけど……それにしても、あのガキが将来そんな凄いことをやってのけるとは……」
 親子の絆は偉大だ。
 突然誠はそう思った。
「話は戻すけど、とにかくそれによって蘇った武は、彼の声に導かれるようにして、LeMUの下にある研究施設IBFにまた戻るの。
 実はまだ一人、八神ココが救助されずに取り残されてしまってたから。
 だけど、武が駆けつけた時ココは、殆ど手遅れに近かったみたいで、ただの視点ではあるけど話しをすることのできるホクトとBWの発案によって、冷凍睡眠で保存することになったの。勿論その後武もね。
 そして冷凍睡眠を始めた二人を見届け、当時の私の前(?)に姿を現したBWは、こう言ったの。
 『17年後、ぼくをだまして欲しい』って」
「だます……?」
「そう。
 実はね、あのまま武達を救出してしまうと、タイムパラドックスが発生するのよ。
 2034年にBWが発現しなければ、彼は倉成武とココを助けに行くことができないの。
 仮に武達を救出してその後をほのぼの生活して2034年を迎えたら、私達はそこでBWを発現させる必要がない。
 だけどそうなると、2017年に武達を助けに行く者がいなくなるわけだから、本当は武とココはそのまま死んでしまうはずなの。
 17年で武とココを救出して、ほのぼの生活するという未来は絶対に有り得ないのよ。
 だからBWは、私に17年待ってと言った。
 そして17年後、まったく同じような事故を起こして、2034年を2017年と錯覚させるの。
 そうしたら、BWは絶対にボロを出して姿を現すから、ぼくを騙して欲しい。
 こんな感じのことを彼は言っていたわ」
「……え、えーと……。
 なんだかいまいちよくわからないんだが、要するにこういうことだよな?
 2034年に、2017年に起きたLeMUの事故と同じ事故を起こせばいい、って」 
「そういうこと」
 少し自信無さげに言う誠に、優は笑顔で答えた。すると誠は安心したように少しため息をついた。
「そしてね、私がこれからしなければならないことは、LeMUやライプリヒに潜っての情報収集。
 それとあの事故を再現するための、人集め」
「人集め……ああ、似てる人とかを捜すのか?」
「うーん……一人、あの事故での仲間の桑和木涼権を、倉成武の代わりにしようと、今特訓中なの。
 他には、彼女はもう歳を取らないから、容姿については問題なくつぐみ本人で大丈夫。
 それとBWと同調するはずのホクトと、つぐみを呼ぶための口実にもなる沙羅。
 あとは…………」
「ん?」
 最後の一人を言おうとして、優は口篭もってしまった。
 誠はその様子を怪訝に見つめたが、何か深い事情があるのかと思い、本人から語るのを待った。
「優、私から話そうか?」
 わずかに震える優の肩にそっと手をかけながら、守野博士が言った。
 しかし優は無言のまま首を横に振ると、顔をしっかりと上げた。
「あとの一人は、田中優美清秋香菜。私の娘であり、私のすべてであり、私本人でもある」
「……え?」
「ちょっと混乱しちゃったみたいだね、ちゃんと説明するよ。
 私が14の頃の話なんだけどね……突然、心臓の病気で倒れたんだ」
「えっ!?」
「あー、今はもうCウィルスのせいなんだかおかげなんだかで、大丈夫なんだけどね。
 当時は絶対に治らないと言われて……つまり死の宣告をされたの。
 それはもう絶望したよ。
 まだ14歳で、やりたいことはいっぱいあったし、まだまだできることも増えていくっていう歳なのに、そんな現実突きつけられて。
 だけどそんな時に、私は守野博士と出会った」
 そこのところで、優は一旦話を止めて、守野博士の方を向いて頷きあった。
「色々な話をしてもらってり、聞いてもらったりね…………。
 そしてある日、私はとうとうこの話を博士に告げたの。
 すると研究室へ来なさい、って言われて、私は決意を固めてそこへ行った。
 そこで博士に私という存在が在り続ける方法を教えてもらった」
「……クローン、か」
 そう呟く誠の頭の中に一人の女性の顔が思い浮かんだが、それは他の誰かが知る由もないことだった。 
「ええ、そう。
 私は、自分自身のクローンを身に宿し、そして出産した。
 その子の名前は、さっき言った通り」
「そっか……。
 じゃあすると、本当は優は自分という存在を残すためにクローンを作ったんだけど、結局自分は本当にCウィルスに感染したせいで、純粋な母親になったってことか」
「誠……あんまり驚かないね。
 それに……こんなことするなんて……軽蔑しないの?」
「は? なにが?」
 真剣そのもので、少し哀しげな様子で優は誠に問う。
 だが誠の方はさも当然といった様子で、驚いた様子も何もない。
 実際彼はこのことに関して驚いてたりはしないし、こんなに色々な話をされて少し神経が麻痺しているのかもしれないが、誠は軽蔑する要素など一つも感じなかった。
「ふふふ……」
 そんな誠の様子を見て、いづみは小さく笑った。
「えーと、で、2034年に行うはずの事故の5人目は、優秋バージョンってことか」
「ゆ、優秋バージョン……。
 ……ま、まぁそれでもいいけど。
 とにかく、その5人でやる予定なの」
「へえ……っておい。
 予定っていうけど、本当に集められるのか?
 その特訓中っていう、桑和木ってヤツと優秋と、武の恋人であるつぐみは大丈夫だとは思うけど、その子らはどうするんだ?
 それにさ、仮にもあれは大事故だったんだから、そんなことしてもし本当に死んじゃったりしたらどうすんだよ」
「……大丈夫。
 事故に関しては常に脱出ルートや方法は確保するつもりだから、もし緊急時の時はいつでも脱出できるように準備はする。
 武とココを助けるためとはいえ、実際17年前の事故とは関係のないホクトや沙羅、それに娘まで巻き込むまけにはいかないから」
「うむ……それならば文句はないが」
「……だけどねやっぱり問題はつぐみなのよ」
「え? だってつぐみって武の恋人だろ?
 だったら事情を話せばすぐに……」
「誠君、なんでホクト君と沙羅ちゃんが施設にいるか、わかる?」
 いきなり横からいづみに質問され、反射的にそっちを向きつつ少し考える。と、そこで誠は一つの矛盾点に気がついた。
「あれ……そういやホクト達はなんで施設にいるんだ?
 つぐみっていう親がちゃんと……あ!
 そうか、つぐみは何か事情があってホクト達が育てられない環境にあったんだ。
 ……いやでも、それってどんな環境だ?」
 誠は一人で勝手に考え込み、あれこれ想像を巡らせようとする。
 だがそれよりも先に、優が説明を始めた。
「つぐみは今、行方不明なのよ」
「ほうほう行方不明…………。
 って行方不明!?」




「な、なにやってるのよ、武!?」
「何って、お前……見てわからないか?
 ハッチを開けてるんだよ」
「だ、だからっ! なにやってるのよっ!!」
「何が『だから』なんだ?」
「やめてよ!!
 何をする気なの!?」
 つぐみは、武の腕に必死にしがみつく。
「邪魔すんな」
 武は特に感情の込められてない声でそう呟くと、つぐみの腕を振り払った。
 そしてガラスハッチを高く持ち上げる。
(人ひとりが通れる大きさだな……)
 そんなことを思っていると、武は再び腕を引っ張られる。
「触らないでくれよ……。
 俺に触るな」
「嫌! 離さないっ!」
 つぐみはがっちりと武の腕を押さえ、ハッチを閉じる。
「死んでも……離してやらないから」
「…………。
 ふぅん……。
 本当にワガママ勝手なやっちゃなぁ、お前」
「…………」
「…………」
 武はつぐみと目を合わせたまま、少し考えるようにしてから口を開く。
「なぁ、つぐみ……」
「…………」
「アルキメデスの原理って知ってるか?」
「えっ」
 刹那、一瞬虚を突かれて緩んだつぐみの腕を振り払い、武は素早くガラスハッチを開いて二重ハッチの真ん中――エアロックへと飛び込んだ。
 そして跳ね上げたハッチを急いで閉じて、ロックになっているカンヌキを下ろした。
 そんな一連の動作を、つぐみは呆然と、両目をあらん限り開いてガラス越しに武の姿を捉えた。
 が、すぐにつぐみは我を取り戻し、ガラスハッチを両手で叩き、その瞳から涙を流しながら喉が裂けんばかりに叫んだ。
「武、武……!!
 何やってるの! 開けて! 出てきて!!」
 ガンガンと乱暴に強化ガラスを拳で叩く。
 さらに力ずくでハッチのレバーを引いたが、それはビクともしなかった。
「つぐみ……何言ってるんだ?
 ガラスが厚くて、よく聞こえんぞ」
 聞こえている。そんなことはつぐみもわかっていたし、武もバレてることもわかっていた。
「バカーっ、バカーっ! 開けろって言ってるのお!!
 何考えてるのよお!!」
 見開いた瞳からは、ぽろぽろ、ぽろぽろと涙がこぼれる。
 何度でも何度も雫はしたたり、拳とともにガラスを叩いた。
「あれぇ、ひょっとしてお前……。
 知ってたんだ、アルキメデスの原理……?
 ていうか、俺が教わったのかもしれんなぁ〜。
 そりゃあ知ってるわな。すまんかった。はっはっは……」
「笑いごとじゃないのっ! 冗談じゃないっ!
 そういう問題じゃあ……ないんだよおっ!!
 バカっ……武の……バカあっ!!」
 擦り切れた、悲しみに喘いだ声で、彼女は叫んだ。
「ああ、俺はバカだ。大バカだとも!
 そんなことも知らなかったのか? つぐみ……」
 武は、ガンガンと激しく叩かれて、みしみし悲鳴をあげながらも壊れる様子のないガラスを見て、ふと一瞬だけ安堵の表情を見せた。
「まぁ、ともかくとして……。
 この卵の浮力を、確保しようじゃないか」
 そう言って武は背後にあるハッチのハンドルを、後ろ手で開放していく。
「た……武……っ?」
 つぐみは、ふとガラスハッチを叩くのをやめた。  
 だがその代わりに、顔色が一瞬にして青ざめていくのがわかった。
「まさか……。
 まさか、まさか……。
 死ぬ……気……なの……?」
「大丈夫だよ」
 武はつぐみから目を逸らさず、はっきりと答えた。
「俺は確かにバカだが……。
 そこまでバカじゃない」
 水深は73mまで到達した。
 武はハンドルを廻す、背中の手を止めようとはしない。
 開放まで、あと少しだ。
「お願い……。
 ひとりに、しないで……。
 私を、ひとりにしないで……!」
「まったく、心配性なやっちゃなぁ……」
 武は半ば呆れるような笑顔を作った。
「大丈夫だって、何度も何度も言ってるだろ?」
「うん……」
「ちゃんと、生きる気になったろ、お前……?」
「うん……」
「だったら、生きろ。
 生きている限り、生きろ。
 大丈夫……。
 俺は――。
 俺は、死なない」
 ――74m。
 船底のハッチは開かれ、エアロックの中の濃い空気は圧力差によって押し出される。
 武は弾かれるように海水の中へと、大気と一緒に流れ出た。
「武! 武ぃぃぃぃぃぃ!!」
 つぐみの悲痛な叫び声は、もう武には届かない。
 彼女は、深く沈んでいく彼の肢体を、拭えない涙の向こう側で、必死に呼び続けていた。




「彼女はね、製薬会社ライプリヒにとってみれば、貴重なCウィルスのサンプルなの」
「サンプルって……なんだよそれ、っていうかライプリヒってもしかして、かなりヤバイ会社なのか?」
「ええそう。
 表では良いことしてそうな面して、裏では人体実験を平気で行い、細菌兵器を作り出したりしている悪魔の集団よ」
「……じゃあ、彼女は……」
「ずっと、逃げ続けなければならないの」
 いづみが最後の言葉を代弁した。




 ちろちろちろちろ……。
 水の流れる音が延々と続いている。
 全てを呑み込む暗黒の口はつぐみの全身を包み、そこから溢れ出る唾液は彼女を心ごと震わせた。
 つぐみの今日の寝床は、海へと流れ落ちる下水管の中だった。
 先ほどまでライプリヒの連中から逃走し、全力疾走をしていたので、今もまだ多少息が荒い。
 それでも彼らを撒くことに成功し、落ちつける場所へ辿りついた彼女は、脱力感によって急激に意識を奪われ始めた。
「……武……寒いよ……」
 自分を助けるがために、海の藻屑となっていった最愛の人、倉成武。
 毎日の夜は彼のことだけを思い出して、わずかながらの温もりを得ていた。
 だがそれももう限界に近かった。
 今彼女の心は氷の中へと叩き込まれているも同然だった。
「武……」
 ふと、彼女の頬を一滴の生暖かい液体が伝った。
 涙である。
 だがつぐみはそれを拭おうとはせず、膝を抱えたまま、迫り来る闇に身を委ねる。
 今日と言う日も、虚しく終わりを告げる……当然のように、つぐみはその事実を受け入れていた。
 しかし、今日はいつもとは違った。
「う……うぅ!」
 突然、強烈な吐き気が押し寄せた。
 つぐみはそれを堪えきれず、口内に溢れた液体をそのまま海へと吐き出した。
(……どういうこと?)
 つぐみは呆然と、自分の口から流れた液体を見送る。
 これは確かにおかしい現象だった。
 Cウィルスに侵されているはずのつぐみが、何か病気をするはずもない。
 つぐみは冷静になって、これまでのことを考え始めた。
 すると本人の意思とは無関係に、記憶をどんどんと遡っていく。
 彼女はどこまで戻っていっただろうか。
 そこは暗い、暗い世界。
 しかし彼女は確かに、全身に温かいものを感じていた。
 表面だけでなく、胎内にいたるまで、全てが温められ、癒されている。
 あれは――そう、そうだ。
 つぐみは思い出すと同時に、意識を現実に引き戻した。暗い、暗い下水管へと。 
 けど、今つぐみの心にあるものは、絶望ではなかった。
 今から数秒前までつぐみを覆っていた氷は完全に決壊し、むしろ彼女の心は温かみを帯びていた。
「私……私……。
 武……ここに、いるよ……。
 ここに、いるんだよ……。
 できちゃった…………。
 私達の、子供が……」
 今日の彼女の涙は、決して冷たくなかった。




「――すると、ホクトと沙羅は逃亡中に生まれた子供だったって訳だ……。
 だから仕方なく、施設に預けて…………」
「……ええ。
 この情報は、博士のライプリヒ内部のコネを通じて流してもらってる情報なんだけどね。
 明確な位置とまでは行かないけれど、彼女のだいたいの様子はわかるのよ。
 本当は今すぐにでも、助けに行ってあげたいけど……」
「歴史が変わり、BWは出現しなくなるかもしれない、って訳か」
 誠がそう言うと、優は瞳を伏せたままコクリと頷いた。




「今日はどうなされましたかな」
 小汚いバラック小屋の中は、意外にも白で統一されており、綺麗だった。
 一瞬昔のことを思い出し、反射的に身震いしてしまったつぐみだったが、今はそんなことを言っている余裕はなかった。
 小屋の中の小さな机の前に座っている男がつぐみの方を見ると、彼女は語り出した。
「妊娠しているかどうか……調べて欲しいの」
 すると、医者とおぼしき人間は、妙に大きい麦藁帽子で見えない顔の上からでもわかる苦笑をした。
「私はこっちの裏世界で色々な患者を診ましたが、妊娠の検査というのは初めてです」
「え……それじゃあ、診てくれない……の……?」
 そうやって不安そうな表情になるつぐみを、帽子の下から医者は高らかに笑って否定した。ただつぐみはその爆笑の意味がよく掴めておらず、ただ狼狽するばかりであった。
「いやはやなんとも、面白いお嬢さんだ。
 とにかく妊娠の検査をしたいんですね?
 私の得意分野は外科ですが、医道は全てに精通しているつもりです。
 安心してください」 
 そう言うと、医者は白衣を翻して奥の部屋へと入っていった。
「どうぞ、いらっしゃってください」
 医者の声に反応してつぐみも部屋へと続いていった。
 ……………………。
 それから妊娠の検査を受けたつぐみは、彼に双子を身篭っていることを告げられた。
 それは今だかつて味わったことのない感動だった。
 自分の中に命が宿っているのだ。
 武と自分の、存在の証が己の胎内には息づいている。
 改めてそれを認識したつぐみは喜びに打ち震えた。
 その場で泣き崩れる彼女の心情を察したのか、医者はその部屋を去ろうとし、最後に一言だけ告げて扉の向こうへ消えていった。
「お代はいりませんよ」




「ところでそのコネっていうのは、どこから情報を仕入れたんだ?
 つぐみが逃げているってことはともかくとして、子供が生まれたなんてことまでよ」
「ああ……それはだな、私には弟がいてな、守野櫂志というんだが……。
 あいつは元ライプリヒの研究員で、つぐみの逃亡の手助けをしたり、闇医者としてつぐみの世話をしたりしたんだ。
 さらに私が彼女の子供が預けられている施設を特定できたのも、実はその施設はあいつが斡旋したからなんだよ」




「長弓背負いし……月の精……。
 夢の中より……待ちをりぬ……。
 今宵……やなぐゐ……月夜見囃子……。
 早く……来んかと……待ちをりぬ……。
 眠りたまふ……ぬくと丸みて……。
 眠りたまふ……母に抱かれて……。
 真櫂掲げし……水の精……。
 夢の中より……待ちをりぬ……。
 今宵……とりふね……うずまき鬼……。
 早く……来んかと……待ちをりぬ……。
 眠りたまふ……ゆるゆる揺られ……。
 眠りたまふ……海に抱かれて……」 
 まだ高校生のようにも見える若い容姿の彼女に抱かれた二人の子供は、三人で暮らすには少し小さなくらいのアパートで、寝息を立て始めている。
 つぐみの口から紡がれるどこか幻想的な子守り歌は、赤ん坊にまどろみの安らぎを与えていた。
 そして二人の赤ん坊の寝顔は、つぐみに安らぎを与えているのだった。
 この幸せだけは壊したくない。
 既に眠った赤ん坊に微笑む彼女は、それだけを願って日々を過ごしていた。
 しかし――――その願いが叶うことはなかった。




「そうですか……で、現在彼女の行方はつかめていない、と」
「ええ」
 誠はようやく納得したように、かつ辛そうな表情で言うと、優は目を伏せながら頷いた。
「…………よーし、ここまで聞いたらもう後には引けない。
 何がなんでも武とココっていう子を助け出して、ライプリヒをぶっ潰してやる!!」
 しばらくその場は沈黙が支配していたが、それを突き破るように誠は拳を天へと突き出して、そこにまる何かがあるかのごとく、力強く手の平を握り締めた。
 それを見て三人は嬉しそうに笑みを浮かべた。
 それから少し時間が経って、誠がソファに腰を降ろしてから、優は今後の活動について話し始めた。
「それじゃあ、まず誠には桑和木涼権を倉成武に近づける訓練を手伝って欲しいの」
「よし、わかった。
 ……って、なんでオレ?」
 優の言葉に誠は不思議そうに目を丸くした。だが優は当然のように回答する。
「さっき言ったでしょ?
 誠って、武にそっくりなのよ。
 だから言ってしまえば、誠を真似るということは武を真似るってことでもあるから、涼権に自分の真似をさせれば良いわけよ」
「そ、そうなのか……?」
「まあ、一緒にいればいいだけみたいなものだから、簡単だと思うよ。
 だから並行して、つぐみの居場所を常にマークしておいて欲しいの。
 それに関しての資金面の問題は、飯田財閥とのコネでなんとかなるわ」
「飯田財閥……?
 それって、どこかで聞いたようななかったような……」
「誠君、億彦君のお父さんの財閥のことよ……忘れちゃったの?」
「億彦……ああ、あいつか。するとつまり億彦はたっぷりこきつかっちゃったりしても良いわけだな」
「それは少し違うけど……まあ、協力はしてくれるはずよ」
「わかりましたー」
「それで最後に……ある程度落ち着いてからでいいんだけど、第3視点の研究に付き合ってくれないかな?
 この仮説をより完成度の高いものにするために、誠の協力が必要だから」
「OKOK全然大丈夫。
 もう核弾頭抱えて敵陣へ乗り込めって言われたってOKだ」
 そうやって胸を張る誠の顔は、微塵の後悔も感じられなかった。
 こうして優達は誠の協力を得て、さらに計画を進めていく。
 すべては2034年4月7日、ブリックヴィンケル召喚のために。
 そして、武とココという、優のかけがえのない大切な仲間を、取り戻すために…………。


 

「4月1日、LemUに来れば子供達に遭わせてやる」


 

 Ende




**あとがき******
もはや色々矛盾点やご都合主義的なところで彩られてますが(汗
とりあえず書いてみたかったので書いたという典型的な駄作です。
それでもこのSSで僕は何をしたかったかというと、こんなんもアリかなぁとか思ってみたりしたことをSSにしただけなのですよ。
SSで何をしたかったのではなく、考えをSSにしたかっただけ。
まぁそんな作品で、ストーリー性は無視していますが、石は投げないで(滝汗
であ、サラダヴァー。





2002


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