LAST ちまたみうみ |
窓の外には、若々しい緑が日の光を受けてその葉を輝かせている。強い風が吹いた時に聞こえるガラス越しの葉擦れの音が、今は何とも心地良かった。 ふと何気なく、俺はワープロのキーボードを叩く手を止めて腕時計を見た。 「三時……か」 すると急に疲れがこみ上げたように感じ、大きく伸びをすると自然に大きなあくびが出た。 「休憩すっか」 ラボにいる他の連中は皆血眼になって作業を続けているが、俺は休憩を取ることにする。 多少の罪悪感が無いと言えば良心の呵責が否定するだろうが、いつまでもこの殺伐として雰囲気に飲まれているのは、キュレイ感染者とはいえ絶対に身体に悪いだろう。 そう自分を納得させ椅子から立ち上がり、研究室の隅にある給湯室でコーヒーを淹れると、そのカップを持って窓の前まで歩み寄る。 「こら、桑古木」 「え?」 葉の隙間から溢れる眩しい太陽光に目を細めながら、一口コーヒーをすすろうとした瞬間、不意に背後から怒ったような声をかけられた。 「気の利かないところまで倉成にならなくていいのよ?」 驚いて振り向くと、そこには笑顔で冗談っぽく言う優が立っていた。しかし笑顔ではあるが、表情の端に疲れが見えている辺り少し本気なのだろう。 その言葉の意味を少し考えてみたが、たぶん、自分も休憩に誘えと言いたかったんだな。 「いや、見当たらなかったしなあ……」 それとなく言い訳してみるが、既に優は自分でコーヒーを淹れ始めていて、聞こえなかったようだ。 何となしに俺は優が再び自分の隣に来るのを待ってから、視線を窓の外に移して、改めてコーヒーをすする。もはや習慣となっているので過去ほどの違和感はないが、正直眠気ざまし目的のこの濃いコーヒーは不味い。熱さも相まって、俺は優に見られないように顔をしかめた。 「終わったのねえ……」 カサカサという葉擦れの音に乗って、優の感慨深げな声が聞こえた。その真意を測りかねて隣にいる優の方を振り向いたが、マグカップ片手に彼女もまた窓の外を眺めているだけだった。 同意をしようにも言葉が見つからない俺は、仕方なくそのまま次の言葉を待つ。が、しかし、数秒の後優が答える前に心当たりに行き着いた。 「ああ、終わったな」 なんとなく胃の中に不快感を覚え、それを無理矢理押さえつけるために敢えて不味いコーヒーを胃に流し込んだ。 たぶん優が言いたいのは、武とココを救出するための17年間のことだろう。直後は色々と祝ったり嬉しいゴタゴタが続いたり、つい先ほどまではライプリヒから引き抜いてきた良心あるキュレイ研究スタッフ達とともにこの研究所で地獄の日々を送ってたりして、全然振り返る暇が無かった。 色々と悩むところもあったけど、俺はどうにか武になりきって、初めて皆の力になれた。それはとても自分に誇れることで、後悔なんて何一つ無いことだと思う。けど、今を思うと少し自分が嫌になる。 俺は確かにこの17年間を武になるべく、そして武として生きていた。 だがその間、俺はどこへ行ってしまっていたのだろう? 残ったのは、二人を助けたいという気持ちだけで、本来の俺はどこにいるのだろう? 桑古木涼権は、まだいるのだろうか? なんか……頭が痛い。 「どうしたの桑古木? そんなしかめっ面して」 「……え? ああいや、なんでも」 俺の様子から何か悟ったのか、怪訝そうに優が下から顔を覗き込んできた。どうやら眉間にしわが寄っていたらしい。 とりあえず、優から一歩だけ距離を取る。だがその行動が逆に怪しまれてしまったようだ。 「さては悩み事ね。よーし、このお姉さんが解決してあげましょう!」 「35……」 優がどことなく嬉しそうにそう言ったが、俺が彼女の言葉の一つに反応して、ある数字をボソりと呟くと、次の瞬間俺の耳元で新幹線が急にトンネルに入った時のような轟音がした。 「いえ、何でもありません優お姉さん」 「よし」 たぶん次は、確実に大型の獣も仕留める優の拳が俺の身を捉えることだろう。そう思って冷や汗をかきながら訂正した。 それにしても優は昔から全然変わってないな……。 より落ち着いた風にはなっているとはいえ、やはり昔の印象が色濃い。それが今の俺には羨ましくも眩しく目に映った。 「さて、流れからして悩みっていうのは、17年間一連のことね」 今度は隠そうともせず意識して眉間に皺を寄せていると、優は特に考えもせず、当然のように言い放った。 「流石田中先生。察しがいいな」 あまりにもあっさり読まれたことが悔しくて少し皮肉っぽく言ってみるが、優はそれを軽い笑顔で流す。 「まあ、これでもあなたとは17年間の付き合いなのよ? それくらいわかるわよ」 「それもそうか」 そうだ、優は俺と同じ17年を歩んできたんだ。そう思うと、素直に悩みを打ち明ける気になった。 優が手に持っているコーヒーを一度口につけるのを確認すると、俺は思っていることを打ち明けた。 「……そう」 優は話をしている間は真剣な表情で俺の目を見ながら聞いていたが、それが終わると身体を窓の外へ向け、少し冷めてしまっただろうコーヒーを飲み干した。 何か言ってくれるのか、と思って俺は優の方を見つめて待っていたが、彼女はそれきり何も言わなかった。考えているのか、それとも答える気がないのかその表情からは何も読み取れない。 かといって自分から訊くのも躊躇われたので、俺はただ待つことにする。 「――でも貴方はアイツじゃないのよね」 それからどれだけの時間が経ったのか、自身半分呆けていたので正確な時間の感覚が無い。だが、どんなに短いにしろ、俺にしてみれば途方もない時間の間に感じられたことは確かだった。 不意に発せられた優の言葉は、俺が武ではないと否定していた。だがその言葉の意味はそれだけじゃない、と俺は思った。というよりはむしろ、優は自分自身に言った気がする。 少し考えて、俺はその意味を悟った。 「優……お前、やっぱりまだ武のこと……」 「まだ、なんて言わないで。それに私は大丈夫」 俺が心配そうに言うと、優は制すように張りのある声でそれを遮った。そして俺の方に向き直ると、急に笑顔になって言った。 「あなただって、ココのことが好きでしょ?」 「え? あ、ああ……」 「それは桑古木涼権の気持ち。ちゃーんと、貴方は貴方の意思で動いてるし、武のコピーでもないわよ。武には貴方にない魅力があるように、貴方には貴方だけの魅力がある。17年間も一緒にいる私が言うんだから、間違いないわね」 「…………」 そうか……そうだよなあ。俺は武に成りきろうとはしたけど、武にはなれないんだ。武は俺の憧れだけど、何も彼と同じになろうとは思わないし、頑張っても無理だろう。 けどそれでいい。だからこそ、これからの人生は桑古木涼権として、素直に生きていける。 「そうだよなあ……んじゃあ、これで桑古木涼期演じる倉成武は、最期にしますか」 わだかまりが消えた気がして心が随分とすっきりとし、俺は優へのお礼も兼ねて、そのケジメを形にすることにした。 「え?」 「なあ優、今晩一緒に食事でも行かないか?」 武の笑顔でそう言う。 すると優は一瞬、何が言いたいのかわからない、と言った顔をしたが、本当に17年間の付き合いは伊達じゃないのか、その真意を汲み取ったようである。 いつも笑顔みたいな彼女だが、そんな優の中でもとびきりの笑顔で答える。 「いいわよ」 俺は黙って、桑古木涼権の笑顔を返した。 FIN |
あとがき
なんじゃこりゃあ!?(某○作風) とりあえず適当に作ってたら訳のわからないのが出来上がってしまいますた(滝汗 『涼権タソで何かSS書いてみよう』というコンセプトだったのですが、方向性が……ギャグじゃない。 俺の世界じゃない。 こんなの認めぬわぁい!!!!(マテ とにかく書いてしまったものは仕方がない。 何も救われてない涼権君ですが、そこは他の方が救済されてるのでまあいかとw 久しぶりの投稿っていうか知らない方も多いでしょうけど、感想頂けると幸いです。 であ、サラダヴァー。 |
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