〜ある一家の日常〜 『第〇章 -青い空-』 銀狐 |
「平和……じゃねえ……。のどか……でもないな……。かはっ……」 「お父さん!お父さん!大丈夫!?」 倉成武は、本土へ向かう船の船室でその命を終えようとしていた。 「お父さん!死なないっていったじゃないかあ!それに、バカは死なないんだぞぉ!」 さりげなくホクトは酷いことを言っているが、冗談ではなく本気だ。親から譲り受けたバカにも困ったものだと言わんばかりに、つぐみは首を横に振った。。 「……痛っ……。おいホクト、勝手に殺すなよ。それに誰がバカだ、誰が!」 武がパンチを喰らった場所を押さえながら起き上がった。 「自分のこともわからないなんて……本当にバカね、あなた」 ダメだしを言い放つつぐみ。その横で、沙羅は声を殺して笑っていた。 「何!?つぐみ、お前自分で殴っておいてトドメまで刺すのかよ!」 「トドメってそういうものじゃない?」 BWを見送った後、つぐみと武は口論を再戦した。無論、また武の『チャーミングだからチャミ』のせいだが。 そして口論はそのまま乱闘へと移り、武はつぐみのレバーブローを喰らって倒れたのだった。 「まったく……いろいろと話し合いをする筈が、つぐみと乱闘かよ」 「負けるお父さんもお父さんだと思うけど……」 ホクトが武に静かなツッコミを入れている間も、沙羅は笑い続けていた。 その時、優――田中優美清春香菜が、ノックもせず船室に入ってきた。 「倉成達、何やってるの?」 「ほら、優も来たことだし、みんなちゃんと話そうぜ。お、おい、落ち着け、どうどうどうどう」 腕にしがみついてきた沙羅を振り払いながら、武はみんなを促した。つぐみはまだ何か言いたそうだったが、口には出さなかった。チャミも、つぐみの頭の上からちょこんと身を乗り出した。 「どうするって言っても……。そういえば武の戸籍は大丈夫なの?」 「とっくに手はうってあるわ。時間はかかりそうだけど、なんとかなりそうよ」 武は、なんとかなるってどういうことだよ、と口を挟もうとしたが、ややこしい話は苦手なのでやめた。 「ま、本土へ戻ってから色々と忙しいけど、用事が済んだら御両親や友人に挨拶に行きなさいよ」 「ああ。わかった」 武は素直に頷いた。 「あ、忍者村もだよ!」 「はいはい、わかったから離れようね、うん」 武は、再びしがみついてきた沙羅を引き剥がした。 「それで、あなた達、これからどうするわけ?」 「は?どうするって何をだ?」 「ライブリヒやこの事件のこと、キュレイのことなどで忙しくなるけど、それらが全部終わったら、どうするのかってこと」 優は、船室にあったベッドに腰掛けて話し出した。 「ホクトは今までいた家に帰るのか、沙羅とつぐみはどうするのか、武はどうするのか。さあ、どうする?」 「俺の部屋ってやっぱりもうないのか?」 「そりゃあね。しかもそのアパート、2年前に取り壊されたわ。一応荷物は実家へ運んでおいたけど」 「なにぃ!?やっぱりあの大家、年だったしな……そのせいか……」 武がぶつぶつ言っていると、つぐみが切り出した。 「私は……どうでもいいわ。ただ、独りじゃないのなら……。もう耐えられないから」 そう言って、つぐみは武を見つめる。武も、その瞳を見返した。二人は、暫く見つめ合っていた。 「私はパパとママと一緒に暮らしたい!」 両親を無視して沙羅は言った。その声を聞き、武は我に帰った。 「なにぃ!?大学を卒業すらできず、しかもそのまま家持ち二児のパパ一直線!?」 「武、嫌なの?私達を、独りにしたいの?みんなで暮らしたくないの?」 つぐみのその声は、青い空のように透き通っていたが、嵐の海のような恐ろしさを含んでいた。 「そ、そんなことはないぞ」 焦りのあまり冷や汗をかいている武に、つぐみは更に追い討ちをかける。 「それに、二児のパパって、自分でしたことのクセに何言ってるの?」 「そ、それはそうなんだが……って何言ってんだよ!」 優達の目の前で恥かしいことを言われ、武は声を荒立てた。 「はぁ……とにかく、みんなで一緒に暮らすってことでいいの?」 溜息を吐きつつ、優は確認をとる。 「ぼくは別にいいよ。家の人達も、わかってくれると思うし」 「私はもちろんいいでござる♪」 「武がそれでいいのなら」 ホクト、沙羅に続いて、つぐみもOKする。 「なんだよ。俺がNOとでも言うと思ってるのか?」 武は自分を睨んでいるつぐみの瞳を見つめ返す。つぐみは睨んではいるものの、その瞳は暖かみに満ちているようだった。 「そんなわけないだろう。俺はそこまでバカじゃないぞ。もう誰も独りになんかしないさ」 「全員OKってことね。たぶんそうだろうと思っていたわ。それじゃ、どうぞ」 優は武に赤い通帳を差し出した。『信流銀行』と書かれたそれには、武が以前入れていた貯金の何倍もの金額が示されていた。 「なんじゃこりゃ。俺が寝てる間に、随分と利息が上がったものだな……ってこれ親父の名義じゃないか」 「あなた、貯金なんかしていなかったから、慰謝料は親父さんに頼んで、新しく作った定期に入れてもらったの。後、私からのプレゼントとして少し足しておいたわ」 「お父さんって貯金とかしなそうだもんね」 「……俺ってそんな人間に見えるのか……」 ホクトのツッコミに落ち込む武を尻目に、つぐみが優に疑問をぶつけた。 「いろいろと、本当にありがとう。ところで、慰謝料って何?」 「倉成に対してのよ。行方不明のままだったから、ね」 優は言いにくそうに、あえて客観的に言った。面と向かって、そういうことは言いにくいのだろう。 「じゃあこれを何に使えと?」 「もちろん、これからの為によ。一緒に住むんでしょ?仕事に就くまで、それで養いなさい」 武の質問に即答すると、優は手を振り振り船室を出て行った。 それを尻目に、武はみんなを自分に向き直らせると、もう一度一人一人に言った。きちんと、自分の意志で。 「ホクト、一緒に住むか」 「うん!」 「沙羅もな」 「もちろんでござるよ♪ 「そして……つぐみも」 「…………ええ」 つぐみはそう呟くと、顔を赤くして俯いた。それを見て、武の悪戯心に火がついてしまった。 「しかし……本当に可愛いなあ……いや、むしろ綺麗と言うべきか、この毛並み、艶……」 「……え?」 つぐみの髪をそっと撫でる。サラっと武の手から、つぐみの長く艶のある髪の毛が流れた。そしてそのまま、武はその手をつぐみの頭のてっぺんに持っていき……。 「本当に綺麗な毛並みだ……それに可愛いなあ。チャーミングだから、チャミ。ぴったしな名前だな」 そっと、武の指先がチャミの灰色の頭を撫でた。それと同時に、つぐみの怒りのボルテージも頂点に達した。 「た、武のバカーーー!!」 「がふぅ!?」 つぐみの強烈な前蹴りで、武の瞳から再び光が失われた。武はそのまま船室のドアを突き破り、甲板へと転がっていった。 「いやあ……一応、平和だな……」 青く透き通った空からは、暖かい陽射しが降り注いでいた。 「でも…………あんまりのどかじゃないぞ……。かはっ……」 「お、お父さん!!大丈夫!?」 「アハハ、アハハハ♪」 「く、倉成さん、どうしたんですか!?いきなり飛んできて……」 ホクトの心配そうな声と沙羅の堪えきれなくなった笑い声、そして空の驚きの声を最後に、武の意識は途切れた。美しく広大な海は、太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。 |
アトガキ 初めまして(?)、銀狐と言います。 最初にですが、ごめんなさい。 矛盾点や、他のSSと被っているところがいくつかあるかもしれません。 どうかお許しください……え、ダメですか……? とりあえず、グランドフィナーレの後として書かせていただきました。 俺はまだ未熟のようですね。 おかしな日本語がいくつかあるような気がします。 あえて、色々な方がSSにしているこの一家のSSにした理由は……書きやすかったからです(爆)。 ちなみに、このSSの副題にはたいして意味はありません。 例によって(?)なんとなくです。 一応、まだ続きはあります。 もし書けなくなったときの為、一話完結形式にしてみました。 一応、受験につき数ヶ月かかるかもしれませんが、絶対に完結させるつもりです。 次は、各キャラ視点で書いていきたいと思っています。 最初はホクトを予定していますが、急に変更される可能性もあります(ォ)。 それでは、最後になりましたが、こんな拙文を最後まで読んでいただき、真にありがとうございました。 ゲーム禁止中でして、ゲームでの確認ができないので矛盾点があるかもしれませんが、おかしいなと思った時には、バンバンと指摘やツッコミをお願いします。 |
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