2017年 5月1日 PM6:54
エレベーター前にて

「そうね、私は・・・・・・・・・・ここで死んでもいいかな。それも悪くないかも。」

その時、俺は内心ドキリとした。
つぐみは、『彼』と同じ瞳をしていたのだ。



『ここで死ぬのも・・・・・・・・・・悪くねえかもな。』


EVER17 〜BEFORE 2017〜
                             HELLCHILD作

第一話 『PYROMANIA』


2013年 5月24日 PM4:23

「まあ、大体こんなもんか?」
俺は今、遼一の部屋にいる。彼はマンションで一人暮らしのようだ。学校から歩いて数分といった所にあるので、通学にも便利そうだ。
学生の一人暮らしという割には、結構良い部屋だ。
6畳のワンルームだが、広く感じるのは整然としているからだろう。
必要最低限の物しか置いていない。散らかるほどの物もないのだろう。
部屋の隅にコンロや水道。もう片方の隅にテレビやビデオデッキがあった。
窓の近くにオーディオ機器があり、その上にMDウォークマンと数種類のMDがある。
ベッドの下には箱が色々とあり、どうやらそこに服が入っているようだ。

死ぬまでにやり遂げることは、既に決まっていたのだ。
実のところ、遼一はこれらを一人で決行しようとしていたらしい。
だが、急遽俺を入れたくなったらしい。結果的に、俺達二人でこれを遂行することとなった。
「しっかしこりゃあ・・・・・・・・・・相当ヤバイぜ。」
やり遂げるべき事、それはこんなモノだった。


『学校に放火する』

『一億円を難民募金する』

『本物のコカインをやる』

『100人の女をHする』

『苦麗無威爆走連合を潰す』

『金宮高校のクズ教師をクビに追い込む』

『崖の周りを緑の森にする』

『ピグミーランドで遊びまくる』


「実現可能なのか?こんな事。」
正直、実行できるかどうかすら、俺には疑わしかった。
「不可能を可能にするんだよ。」

「オレ達の死ぬ日を決めないか?
死ぬ日を知ってるってのも良いモンだろ?」
「確かにそれも面白いけどよ、その期限って何月何日だ?」
あまりに短すぎては困る。一応聞いておこうと思った。
「New Years Day・・・・・・・・・・・・・・・」
「え?」
「1月1日。それがオレ達の死ぬ日だ。」
「・・・・・・・・・・・なるほど。それがオレ達の『約束の日』ってワケか。」
「そういうこと。」
俺達は互いにニッと笑った。
「しかし・・・・・・・何から手を着ければいいんだ?」
「そうだな・・・・・・・・・・・一番上からやっていこうぜ。」
「学校に放火?できるのかよ、そんなこと。」
「心配すんな。作戦はとっくに練ってあるんだよ。」


翌日の午後、学校にて

「屋上なんかに来てどうするつもりだ?」
「まあ、見てみろよ。あそこに貯水タンクがあるだろ?」
遼一が指差した方向を見てみた。ドデカい貯水タンクがある。
「あの貯水タンクはな、51日間隔で業者が来て水を入れる。」
「・・・・・・・・・・それがどうした?」
「まあ焦んなよ。全てを見せてから説明するよ。」
「・・・・・・・・・・・?」

「今度は裏口?」
「この裏口と学校の裏門、そんなに離れてないよな?」
「まあ、そりゃあな。」
距離にして、大体15m程度だろう。
「真上、見てみろ。」
「上?」
「あれ、何だ?」
遼一の言うとおり、真上を見てみた。
彼が指した物、それはシャワーのような物だった。
「スプリンクラー?」
「そう。ここから先は、後で説明するよ。」


放課後、遼一宅

「21日の日曜日、屋上に業者のトラックが来てたんだ。知ってるか?」
「いいや。何か関係があるのか?」
「51日も間が空いてるから、給水前日のタンクの中は空に近い状態らしい。」
「だから、それがどんな関係があるんだよ?」
「あれに大量のガソリンを入れるんだよ。」
「・・・・・・・・・・・・・が、がそ・・・・・・・・・・?」
「ガ・ソ・リ・ン。つまり、説明するとこういうことだ。」

限りなく空に近くなった校舎の貯水タンクに、大量のガソリンを入れる。
同時に、校舎の裏口近くに火炎瓶を仕掛ける。導火線は逃げる時間を確保するため、長く作る。
俺達は導火線が燃えてる間に、全速力で出来るだけ学校から離れる。
やがて火炎瓶が爆発すればスプリンクラーが作動する。そして、炎にガソリン混じりの水が降り注ぐわけである。
なお警備員などは、気絶させるなどして外に出しておく。
これが計画の概要だった。
「しかし、それだけのガソリンを、どうやって調達するんだ?」
「そこで、お前の力が必要になる。」
「へ?」
「資金は全て、お前の親父の闇金の通帳から引き出してもらう。今、残高は幾らぐらいだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・3000万ほど。」
自分で言ってて信じられなかった。
「そんだけありゃあ十分だ。」
「・・・・・・・・・・・・お前、悪魔だろ。」
「まあな。」
こいつの思考回路はどうなっているのだろう?


2013年 7月10日 PM9:00

「教師達、まだ帰らねえのかな。」
少しだけ愚痴ってみる。
「まだだ。職員室に灯りがついてやがる。」
「テスト前日だから、仕事が残ってるのか。バカな連中だぜ。あと数時間程度で、その努力も水の泡になるんだ。」
「まあな。あと、ほれ。警備員達に顔を見られるとヤバイからな。覆面しとけ。」
マスクを手渡された。・・・・・・・・・・プロレスラーの覆面だった。
「・・・・・・・・・・・・マジかよ。」
俺にマスク・ド・倉成になれと?
「もうちょっとマシなモンねえのかよ。」
「普通に店に置いてあんのはこの二つだけ。しゃーねーだろ?この二つしか店に置いてなかったんだから。」
遼一がするらしいマスクも、やはりプロレスマスクであった。
二人とも、これにブルージーンズに真っ白なTシャツというのだから完璧だ。
俺達はもっと派手な服を好む趣向にあるようだが、今回は違った。
それにしても、ガス臭い。ガソリンの匂いだ。
今この場には、約10リットル×6のガソリンがあった。これでは煙草も吸えない。


PM11:25

「そろそろ・・・・・・か。」
俺は立ち上がった。
「そろそろ行くか?もう職員室の明かりも消えた。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・きれいだな。」
「え?」
きれい?
「何が?」
「星空だよ。あと、三日月。」
「ああ、なるほど・・・・・・・・・・・・・・・確かに。」
空は満天の星空だった。そしてその斜め上に、綺麗な三日月があった。
「この星空を眺めながら死ぬのも、悪くないのかもしれねえな・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・確かに、綺麗な物に包まれて死にたいとは、オレも思うよ。」
「ここで死ぬのも・・・・・・・・・・悪くねえかもな。」
彼は、そう呟いた。この瞳は恍惚としていた
「いいや。まだだぜ、遼一。オレ達はまだ生き抜いていない。生きる意味を、まだ見つけていない。
それを見つけるまで、オレ達は死ねない。そして約束の日までに、生きる幸福を掴み取る。そうだろ?」
すると、遼一はフッと笑った。
「そうだな・・・・・・・・そうだったな、武。」
彼は立ち上がった。そして、ポケットからバタフライナイフを取りだした。
「ちょうどいい・・・・・・・・・・この場で誓おうぜ。」

カチンッ!
シュッ。

刃を露わにし、それで自分の手の平を傷付けたのだ。血がボタボタと垂れている。
「!?」
「今、この場で誓おう・・・・・・・・血の誓約だ。」
「! ・・・・・・・・・・なるほどね。よし、オレも・・・・・・・・・・」

シュッ。

俺も自分の手の平を傷付けた。血が流れた。
そして、互いの傷ついた手をしっかりと握りしめた。
「約束だぜ、武。」
「ああ。」

血の垂れた跡には、ガソリンを垂らしておいた。DNA鑑定をされたら厄介だからだ。全く、何処までも念が入ったことだ。
レスラーマスクを被り、貯水タンクにはガソリンを入れた。指紋が付かないよう、手袋もした。
「よし、あとは警備員達を締め上げるだけだな。」
「急ごうぜ、ウロウロされると解りにくい。」
「解ってる。その対策も考えてあるさ。」


廊下にて

「まて!!お前ら一体誰・・・・・・・・・・・・」
「こういうモンだよっ!!」

ドガッ!

「グッ!?」
遼一が華麗なハイキックを決めた。完璧にアゴに入った。
校内において、喧嘩の腕は確実にトップクラスの実力を持つ遼一だ。警備員も勝てないだろう。
口から血を垂らしながら気絶している。
両手を後ろに廻し、手錠をかける(もちろん店で売ってるオモチャだが、簡単には解けないだろう。)
「武、警備室だ!あそこへ急ぐんだ!!」
「え?あ、ああ!でも何で?」
「いいから来い!あとで説明してやるよっ!!」


警備室の中

「だ、誰だ、お前達!!」
「誰でもねえよ!!」

ガス!!

2人いた警備員を、一人ずつワンパンで片付けた。
「学校中の映像・・・・・・・・そうか、校舎に残ってる連中がわかるわけだな。」
「そういうこと。廊下であった警備員も、ここでオレ達の姿を見つけたから来たんだ。」
コイツ、なかなか頭が回る男のようだ。
「武は残ってる奴らの様子を、オレの携帯に伝えてくれ。オレがそこに行って、そいつ等を締め上げる。」
「なるほど・・・・・・・・・警備員が二人、教室の辺りをうろついてやがる。」
「うし、OK!」

――――――――――――――――2時間後。

「よーし、これで全員か?」
「そうだな。にしても、グラウンドに放り出しといて大丈夫か?」
「ああ。ここは火事の時の避難場所にもなってるからな。安全なはずだ。」
遼一の見事なまでの喧嘩術によって、全員拘束することに成功した。
「よし、と。行こうぜ、武。いよいよデカい花火が拝めるぜ。」


裏口

「さあ・・・・・・・・・・いよいよだぜ。」
「ああ・・・・・・・・・・・・まったく、無駄に緊張しやがる。」
これからやらかすことを考えると、心臓がドキドキしてならなかった。
スプリンクラーの真下に火炎瓶を置いた。導火線の紙にも、ちょっとのことで火が消えないよう灯油を染み込ませてある。
「いくぜ・・・・・・・・・準備はいいな?」
「ああ。さっさとやっちまってくれ。」
「よし・・・・・・・・・・・」

「3・2・1・・・・・・・・・・・・・・・」
次の言葉が、俺の緊張を粉々に砕いた。



「ポチっとな!」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は???」
「いや、こういう時って普通に言わない?」
「・・・・・・・・・・・・・言わねえよ。それに、言うとしても『カチッとな』てトコじゃねーの?」
スイッチじゃなくて、ライターなのだから。
「・・・・・・・・・・・・まあ細かいことは気にすんな。点火するぜ。」
火を点けた。
「走るぞ、武!!!」
「え?あ、ああ!!」
突然点火したので意表を突かれた。急いで走り出す。
3mくらいに作ってあるが、灯油を染み込ませているので燃えが早い。急いで逃げねば。


「はあ、はあ、はあ・・・・・・・・・・・・・・・・・」
学校が遠くに見える距離まで逃げてきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・燃えてないな、学校。」
ここから見る限りでは、ボウボウになっている様子はない。
「水が大量に混じってたら意味がなかったか・・・・・・・・・・?」
「おいおい・・・・・・・・・・・・ここまで来てそれかよ?」
計画は失敗・・・・・・?俺はその場にへたり込んだ。

するとその時、学校が真っ赤に燃え上がった!

「げっ!?り、遼一!!も、燃えてる!ゆっくりだけど燃えてるぞ!!」
「ああ・・・・・・・・水が混じってて効果が薄まっていたが、それでも燃えていたみたいだな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やった。」
心の底から、達成感が溢れてきた。この上ない喜びが身体を支配する。
「よっしゃああーーーーーーーーっ!!!やったぜ、遼一!!」
「ああ、やったな、武!!さて、なんか食わないか?腹が減ってきたぜ。」
「よーし、今回は俺のおごりだ!!好きなモンをたらふく食おうぜ!!」
「おっ!よーし、行くぜ!!」
ここまで気分が良くなったことなんて、今まであっただろうか?
心の底から喜び、叫んで、騒いだ事なんて、今まであったろうか?
俺は、この幸福に酔いしれていた。






あとがき

武、ヤバイ奴ですね(マテ)。まさかこんな前科があったとは(オマエダ)。
「ポチっとな」ですが・・・・・・・・・・・これがこのSSを象徴してますね。
それに冒頭の部分も、これからのヒントになってきます。
これからも出てきますよ、Ever17を彩ったあの名台詞の数々。
あと「New Years Day 〜約束の日〜」って映画、知ってる人居ますか?
このSSはあれの設定を元にしてるところがあります。
んで次回から、またオリキャラ登場です(苦笑)。

BGM:『PYROMANIA』J


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