EVER17 〜BEFORE 2017〜
                             HELLCHILD作

第二話 『強制奪還』


2013年 7月11日 AM6:35

「うう・・・・・・・・・・・・・・・」
強烈な二日酔いで目が覚めた。
「の・・・・・・・・・・・・呑み過ぎたぁ〜・・・・・・・・・・・」
昨日は何件もの飲み屋をハシゴし、食うわ呑むわの乱痴気騒ぎを繰り広げたのだった。
「学校に連絡を・・・・・・・・・・・・・入れる必要もないんだったな。」
昨日燃やし尽くしたばかりだ。

トゥルルルルル・・・・・・・・・・・

電話が鳴った。
両親はまだ居るだろう。彼等に任せておく。
こんな体調では、まともに起き上がることすら難しい。
「はい、倉成です・・・・・・・・・・・・えっ!?は、はい。解りました。伝えておきますので、はい・・・・・・それではまた。」
恐らく、昨日のことについてだろう。
突然校舎が燃えてしまったのだ。校長達も泡を喰っているはず。
こちらに向かってくる足音が聞こえた。そして俺の部屋の前で、それは止まった。
「起きなさい。」
言うことはそれだけだ。ノックもしない。俺の名前を呼ぶことはない。
「起きなさい!」
声を荒げる母。俺とは最小限の言葉しか交わらしたくないのだ。
いつからだろう。俺はこの二人に『武』と呼ばれなくなった。
親子の関係が、悪い方向に行き始めてからだ。彼等は極端に俺と接触を避けるようになった。
俺は倉成家の面汚し。親父の顔に泥を塗るばかり。
彼等は俺を見限ったのだ。そして、俺も彼等を見捨てた。
恐らく、最初は俺を愛『そうとしていた』のだろう。
だが、俺は兄の猛ほど成績が良かった訳じゃない。努力しても俺は彼に追いつけなかった。
だが、別に俺はそのことを悔しいとは思わないし、猛に出来なくて俺にしか出来ない何かがあるはずだと信じていた。
俺はそれを磨いていきたかった。
だが、彼等はそれを許さなかった。とにかく猛と比較され、その度に俺は落伍者の烙印を押された。
そして、それに比例して両親の態度も冷たくなっていった。だから俺はこんな風になった。
両親が冷たくするから暴れる。子供が暴れるから冷たくする。
こんな悪循環を、今までずっと繰り返してきたのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・起きてるよ。」
「じゃあ、下に来なさい。」
それだけ言って、母は居間に戻っていった。
仕方なく起き上がり、まだ眠い目をこする。
どんな風に燃え上がったのか、報告を聞きたかった。

「・・・・・・・・・・・・・・昨日の夜、学校で火事があったそうだ。
復旧するまで学校には入れないから、今日から8月31日まで夏休みのようだ。」
父が仏頂面で言った。
「ふ〜ん、そう。中間テストはナシだな?」
こんな態度を取れば、怪しまれるに決まっている。だが、俺はあえて動揺するフリをしなかった。
なんか面倒くさかった。証拠も残ってないのだから、もっと堂々としてても良いはずだ。
「・・・・・・・・・・・・お前、昨日の夜は何処を出歩いていた?」
「夜の町を遊びに、だけど?」
「帰ってきたのも夜遅くだったな。」
・・・・・・・・・なるほどね。やっぱ勘付いてやがるか。
もう言いたいことは大体解ってきた。俺を怪しんでいる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・まどろっこしい言い方は止めろよ。
オレを疑ってんだろ?オレみたいなクズだったらやりかねないと思ったか?」
「・・・・・・・・・・・・そうは言ってない。」
「じゃあ何なんだよ。はっきり言ってみろよ。」
語気を強めてみた。二人とも少し引く。
だが、親父は平静を装って言った。
「・・・・・・・・・・・・・・これ以上私に恥をかかせるな。」
「ケッ、『この家の名誉のために』か?」
「わかっているじゃないか。」
「・・・・・・・・・・・・・・・ヘイヘイ解りましたよ。」
いつもどおりのパターンだ。
俺が話を切り上げて、部屋から出て行く。
どうせだからもう少し眠りたいと思い、自分の部屋に戻った。
そして、ベッドの上で眠る。思いっきり眠りこけてやる。



だれだろう・・・・・・・・・あいつ。
顔中が傷だらけだ。
いつもふてくされたような表情をしている。
なんか興味が湧いてきたな。話しかけてみよう。
『おい、あいつにはかまわないほうがいいぜ。』
同じクラスのやつが話しかけてきた。特に仲がいいわけでもないけど。
『え?なんでだよ。』
『おまえ、しらないのか?あいつのうわさ。』
『・・・・・・・・・・・しらない。あいつ、なにかしたのか?』
『ああ。あいつはな・・・・・・・「――――――――――――――――」・・・・・・・』



トゥルルルルル・・・・・トゥルルルルル・・・・・
「うぅー・・・・・・・・・ん・・・・・・・・・・」
相当ぐっすり眠っていたらしい。もう12時近くだ。
「・・・・・・・・・・何の夢見てたんだ?オレ・・・・・・・・・・」
よく覚えていない。なんか記憶が霞みがかっている。
いや、それよりも今は電話に出なければ。
こんな時間じゃ、両親はとっくに出かけているはずだ。
急いで居間に向かい、受話器を取った。
「はい、倉成です。」
『武か?オレ、遼一だけど。』
「遼一か。どうした?早速次の課題に入るのか?」
『そうじゃない。ちょっと、昼飯ついでに出て来れないか?』
「ああ、いいけど?」
『そうか。じゃあ、1:30に「17」で待ち合わせな?』
「おお、いいぜ。」
『よし、じゃあそう言うことだからよ。じゃあな。』
「んじゃな。」
電話を切り、洗面所へ行き、身だしなみを整えた。
『17(セブンティーン)』というのは、学校の近くにある喫茶店だ。
料理は結構うまいのだが、なにぶん店が小さく雰囲気も暗いので、客はあまりは入らない。
だが、込み入った話をするには結構有利なのだ。今の俺達のように。

「おう、武。こっちだよ、こっち。」
遼一はカウンターの方に座っていた。煙草を灰皿に押しつけている。
黒いシャツとジーンズでは、この店内では逆に結構目立つ。
「よお、遼一。どうしたよ。」
「いや、なんかマズイ事になっちまってな。」
「え?」
まさか、目撃されていたというのか?いや、逃げるルートも、出来るだけ人が通らない所にしていたはずだ。
「どういうことだ?」
「昨日の深夜、オレ達がベロベロに酔っぱらってそこら中歩き回ってるのを目撃した連中がいた。」
「・・・・・・・・・まさか、酔った勢いで、何か重大な事を言っちまったのか?」
「いいや、それはない。だが警察はオレ達を怪しんでいる。」
「・・・・・・・・・・・・ヤバいぞ、おい。両親はオレが昨日の夜居なかったことを知っている!」
両親の証言を得られたら、確実に俺達は警察にマークされる。
警察に捕まってしまったらお終いだ。
死者は一人も出していないが、鑑別行きは免れないだろう。
「まあ、焦んなよ。対策はもう練ってあるんだよ。」
そう言うと、彼はPDAを取りだした。
「おい、菊地か?・・・・・おお、奈帆と板谷を連れて『17』に来な。出来るだけ飛ばしてこい。
・・・・・・・・・・・わーったよ、おごってやる。三人まとめてな。その代わり、さっさと来いよ!」


「うーっす。どうも、遼一さん。」

「おお、遼一。ったく、下らない用事で呼び出すのは止めろよ?」

「久しぶりね、遼一。元気にしてた?」

二人の男と一人の女が店に入ってきて、こちらに向かってきた。
「で、何の用だ?」
「お前等3人とも、昨日の夜は何をしてた?」
「ん?ああ。『部屋の中で5人で呑んでた』でいいんだよな?」
「よし、上出来だ。」
遼一と会話をしている男。はっきり言って相当目立つ格好だ。ドレッドの長髪に、耳にはピアスが3個、鼻にも1個ある。
「アリバイ工作だったッスよね、遼一さん。」
「おお。お前等には嘘の証言をしてもらう。オレ達の関係は調べれば解るだろう。
だが、説得力が無いわけじゃない。警察も、物的証拠が出ない限りオレ達を追い詰めるのは不可能だ。」
遼一に敬語を使っている男は、少し3枚目入っていた。同い年くらいの格好をしているが、何故か敬語だ。全体的に丸っこいシルエットだが、肥満には見えなかった。
「しかし、まさか放火までやらかすとはね。」
「まあな。色々とムカついてたからよ。」
女の方は、3人の中でも一番落ち着いていた。背中まで伸びた明るい髪。細身の長身。結構パリッとした雰囲気だ。
「んでよお、武。」
「は、はい?」
いきなりこっちに話を振られた。
「オレ達は事件があった時間、この3人と一緒に、オレの部屋で呑んでたって事になっている。
学校へ向かう武の姿が恐らく誰かに目撃されているはずだが、それはオレの部屋に向かってたんだ。
学校へ侵入したりするルートは、誰にも見られないような所を通っていったはずだ。そこら辺は心配ないだろう。」
「なるほど、要するにアリバイ工作か。」
「やっぱ用意周到ッスよねえ、遼一さん。おまけに頭も切れてるからスゲエよ、マジ。」
この男の言うとおりだった。頭の回転が速く、計画性にも富んでいる。
俺には彼が、力と知性を兼ね備えた、理想の男に見えた。
「・・・・・その前に、この3人は一体?彼等のことを知らなきゃ、アリバイ工作も意味がないんだけど。」
「ああ、そうだな。じゃあ、自己紹介しろや。まずは菊地からだ。」
「あ、はいッス。オレ、菊地 哲也(きくち てつや)。よろしく。」
笑顔でそういうと、握手を求めてきた。
「倉成武。こちらこそよろしく。」
互いに握手する。
「武さんッスか。よろしくです。」
何故か俺にも敬語だ。遼一の友達だからか?それとも年下?
「オレは板谷 裕司(いたや ゆうじ)。よろしくな、武。」
「私は飯田 奈帆(いいだ なほ)。よろしく。」

『13』の名物ピザとパスタをたいらげ、色々と話し合った後に俺達は解散した。
菊地だが、彼は俺達と同い年のようだ。俺が遼一の友達だからと敬語を使っているらしい。
奈帆は俺達より一つ上で、名門女子高生であることも判明した。
俺は遼一の部屋に寄ることにした。計画の事について話しておきたかったからだ。


PM3:10

「計画のことは、3人にも話してあるのか?」
「いや。計画のことを知ってるのはオレ達だけだ。第一、二人だけの秘密のはずだぜ?」
「まあな。それより、第二の計画はどうするよ。『一億円を難民募金する』ってやつ。」
「・・・・・・・・・・一億円か。武の通帳にも入ってない金だな。」
「ああ。現在の残高は約3000万円。とても手が届かないな。」
「とりあえず、金を手に入れる手段を見つけだそうぜ。
そういや、武の親父って、確か裏で色々やってるんだよな?」
「ああ、まあな。でも億単位の金となると、そんなにはないと思うぜ?」
「けど、オレより武の方がチャンスに近い位置にいる。集金の手段は、お前に任してもいいか?」
「んー・・・・・・・・・・・・・・・・」
確かに、俺の方が機会に恵まれてはいる。遼一には、あまり手段があるとは思えない。
ここは引き受けた方が良いだろう。その方が有利なはずだ。
「わかった。でも、そんなに期待は出来ないぞ?」
「ああ。オレも少しでも金を集めておくよ。
ただ、オレ達は今、警察からマークされている。あんまり派手に立ち回るなよ?」
「わかってるっての。」


PM8:17

「しかし・・・・・・・・・そんなデカイ取引なんてあるもんかよ。」
ベッドに寝転がりながら、思いを巡らせていた。
親父の通帳なら何百億という金が眠っているだろう。しかし、信頼できるところに通帳は預けてあるはずだ。
俺が持っている犯罪の証拠をチラつかせれば、何とか一億を引き出すこともできるだろう。
しかし、弱みを盾に人を強請るような真似はしたくなかった。

暇だったので、俺は郵便物の整理をしていた。あるとは思えないが、俺宛の手紙を探すためだ。
その中に、一つの封筒があった。親父宛だ。
「・・・・・・・・・・・・・・ライプリヒ製薬?」
聞いたことがある。日独合同企業で、国内では有数の製薬会社だ。
(親父宛に・・・・・・・・・・・なんか匂うぞ)
こういう話が、今の俺達には必要なのだ。俺は封筒を破った。
中には手紙があった。パソコンで文字が打たれていた。要訳するとこんな感じだ。

『拝啓 倉成勲様
 この度、ライプリヒ製薬は新薬の開発に成功致しました。すぐにでも全国の病院へ流出させたいと思っております。従って、即刻認可をお願い致します。尚、実験等は行われていないため、極秘事項とさせていただきます。御礼として一億円を個人単位で振り込みたいため、貴殿の銀行口座を教えて頂きたい。
ライプリヒ製薬 取締役一同』

確か、親父は厚生労働省に勤めていたはずだ。
どうやら手紙を見る限り、ライプリヒ製薬は実験無しで新薬の認可を貰おうとしているようだ。厚生労働省はその代わりに、個人単位で一億円を貰うと言うことらしい。振込で行われるため、親父の銀行口座の番号と暗証番号を聞きたいようだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・チャンスだ!」


7月12日 PM4:00 遼一の部屋にて

「なるほど、安全性を確かめないで薬を流通させて、コストを減らそうってワケか。」
「ああ。一億円てのも相当の金額だが、裏の話を持ちかけられるのは省内でも幹部の人間だけだろう。
となると、ほんの数人の人間しか知らないって事だ。儲かりゃ何千ドルって金が手に入るんだ。
その位の出費は惜しまないだろう。製薬会社にとっては、実験の金が掛かりすぎて赤字になることもあるからな。」
「これに、お前の通帳の番号を教えれば・・・・・・・・・・・」
「何もしないでも、一億円が転がり込んでくる。」
「親父は、まだ何も知らないんだな?」
「ああ。封筒は破かれてなかったからな。自宅に送ってきたのが間違いだったぜ、取締役の奴ら。」


7月20日 PM3:24

「へへへ・・・・・・・・・・・どうだぁーーー!!!!」
見事に俺の口座に一億円が振り込まれていた。
(親父の野郎、今頃は泡喰ってるぜ)
自分の口座に振り込まれているはずの金が、全く無いのだ。
俺に疑いを持ったとしても、こんな汚いことは聞けないだろう。


PM5:30

「しかし、この一億円をどうやって募金するんだ?赤い羽根の募金箱に一枚一枚入れるか?」
「アホか。ユネスコに匿名で募金するんだよ。あっちの口座番号はもう既に調べてある。」
「オレの通帳から直接送金するのか?」
「ああ。それにしても・・・・・・・・・・これだけあれば、世界中が裕福になるんじゃないか?」
これだけあれば、一国が丸ごと救われるかもしれない。
そう思うと、少しだけ誇らしげな気分になってきた。
「これで世界の人間が救われるのか。まあ、こんな汚い金も使い方次第だよな。」
「ああ。金ってのは不思議な物だ。汚いはずなのに綺麗ってのは・・・・・・・・・」


7月22日 AM6:30

トゥルルルルル・・・・・トゥルルルルル・・・・・
「うう・・・・・・・・・・・何だよ、まだこんな時間じゃねえか。」
両親は今日も居ない。
電話はただ鳴り続けている。

せっかくの休みなのに、何故こんな時間に叩き起こされなくてはならないのか。
「はい、倉成です・・・・・・・・・・・・」
『武か?テレビ点けてみ。』
「テレビ・・・・・・・・・・・・チャンネルは?」
『10だよ。』
「・・・・・・・・・わーった。」
電話を子機に持ち替え、テレビのある居間に向かった。
テレビをつけ、10チャンネルを点けてみた。すると、とんでもないことが報道されていた。
『・・・・・・・一昨日、ユネスコに匿名で一億円の寄付があり、混乱を招きました。』
ニュースキャスターが、超然とした態度で読み上げる。
『ユネスコは、この寄付を中東全域のために使うことを決定しました。』
そして、画面に黒人の子供が映し出される。
貧民層の人間だろう。バックに映っている人間達は、全てボロボロの格好をしている。
画面の下あたりに、子供の言葉の訳が白い文字で映し出される。
『寄付をしてくれた人、本当にありがとうございます。これで、僕達も勉強をすることができます。』
大人も出てきた。中年の女性だ。
『これで子供達を養えることが出来て、本当に幸せです。寄付をしてくれた方に、心から御礼を申し上げます。』
『この金を無駄にしないよう、精一杯頑張ります。』
画面がニュースキャスターの顔を映す。
『これは日本からの寄付であることが判明しており、口座番号が・・・・・・・』

プチン。

『オレ達、結構な人助けをしたんだな。』
「ああ・・・・・・・・・・・・・・」
何故か照れくさい感じがした。そして、何故か胸の辺りが暖かかった。
俺が、人に心からの礼を言われたことなんてあっただろうか?
「なあ、遼一。」
『なんだ?』
「あの人達の心に・・・・・・・オレ達は刻みつけられるのか?
それが、オレ達が『ここに居たこと』の証明になるのかな。」
『・・・・・・・・・・・・・・・』
少しだけ間を置いてから、遼一は言った。
『彼等は、オレ達を知ってるわけじゃない。オレ達の顔を覚えようにも、最初から知らない。
けど、心の中での、オレ達に対する想いは、消えないでほしい。少なくとも、オレはそう願うよ。』









あとがき

手紙・・・・・・・・・要訳したものとは言え、なんて稚拙な文なんだ。恥ずい〜・・・・・・・・。
オリキャラ3人追加しましたが、彼等が何者か解った人、凄いです。
板谷のヴィジュアルでちょっとわかっちゃうかな〜なんて思ったりもしてます。
この人達も、武の過去に関わってきます。
菊地君、マグローを彷彿とさせますな(笑)

BGM:『Cosmic Tourist』未来 ―HIDEKI―


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