『B−T−B』
世界最強と恐れられたテロリスト五人組。
主にライプリヒの研究所を襲い、凶悪なウイルスを消滅させていった。
その力は圧倒的で、もはや旧世代の霊長類ではないという科学者もいる。


B−T−B
                             HELLCHILD作

type=1


その男、八神トールは船の上にいた。
海洋テーマパーク『LeMU』がある浮島、『インゼル・ヌル』へと向かう船の上に佇んでいた。
乗客は十数人。
彼の同胞、『星野秀彦』・『今井尚(ひさし)』そして『田中優美清春香菜』・『茜ヶ崎空』。
そして、オペレーターや研究員が何人かだ。
近くにいる優春に、トールは話しかけた。
「いよいよだな。」
「ええ・・・・・・・・・・・・」
「俺達がここまでやってきたのは、今日のため。全ては、この日のためにあったんだな。」
「そうですね・・・・・・・・・・・八神さん、今まで、本当にありがとうございます。」
そう言うと、彼は笑ってこう言った。
「ははっ、よせよ。まだこれからだろ?これから先も、俺達はお前達を色々と支えていかなきゃならねえんだからな。」
「そう・・・・・・ですよね。ごめんなさい。」
「謝んなって。俺は好きでやってんだから。そういや、機材のチェックは終わったか?」
「ええ、今井さんがチェック済みです。」
「なるほど・・・・・・・・・・よし、経過を聞いてみるか。」

それから彼は反対の方へ歩いていった。そこで彼の姿を見つけた。
「よお、ヒサシ。機材に問題は無いか?」
「・・・・・・・・・?・・・・・・・・・・アニイか・・・・・・・・・・」
相変わらずボーッとした感じだ。彼はこう思った。
(17年間付き合ってても、この性格は変わんねえな。)
少し眠そうな目つき。真っ逆様に立てた金髪。頬の傷痕。
白衣の下には、黒のノースリーブと革パン。ワークブーツでキメている。
およそ研究員とは思えない格好だが、これでも彼はラディックの研究所の所長である。
このBW計画のためのスタッフは、彼が所長を務めるドイツ本部施設からの精鋭の者達だ。
「ああ・・・・・・・特に問題は無い。」
「そうか。準備は万端だな。」
二人で海の彼方を眺めた。ちょうど彼等の向いている方向は、進行方向と同じだ。
「・・・・・・・・・・・にしても気に入らねぇな。」
「何が?」
「・・・・・・・・あの女。」
そう言って、苦虫を噛み潰したような目つきで優春を見る今井。
「結局オレ達は、奴の掌の上で踊ってたんだろ?あいつはオレ達を利用してた。
その上、空の身体まで造れだと・・・・・・・・・・・・・・なんかムカつく。」
「まあ、そう言うなよ。彼女が計画を提示しなかったら、俺がお前等を助けることもなかっただろ?
だからまあ、お互い様って事でいいじゃん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・アニイがそう言うなら。」
トールに返しきれない恩があるからこそ、今井は納得した。
彼等にとって、トールは神にも等しい存在だった。
「ところで、ヒデはどうしてる?」
「知らない・・・・・・・・・・多分そこらでイルカに餌やってんだろ。」

「おっ・・・・・・・・・・おえええ、ゲロゲロゲロ・・・・・・・・・・・・・」
「ほ、星野さん!大丈夫ですか?」
今井の言葉通り、彼は船の最後尾で、海に向かって吐いていた。
空が必死で背中をさすっている。
「あーあ、ったく。船弱いなら最初から言えよ。」
「うぅ・・・・・・・・・・・だって・・・・・・・・・・」
白のタンクトップに黒のフード付きジャンパー、灰色と黒の迷彩色のボトム。
足下には黒白のスニーカー。チャパツと童顔が、どこかのサッカー選手のようだった。
「ハァ・・・・・・・・・・ほらよ、酔い止め。」
トールは応急用の酔い止めを渡してやった。急いで飲むヒデ。
「はあ・・・・・・・・・・・やっと落ち着いた。」
「空、お前は優の手伝いしてやんな。」
「はい、八神さん。」

「しっかし、まだか?」
「あと2時間程度だろ。」
二人並んで立つ。
実のところ、彼の方が5cmほど身長が高い(182cm)。体格はヒデの方が細いが。
「あと2時間、か・・・・・・・・・・・・あと2時間で、計画が発動するんだな。」
「何時になく感慨深げじゃねえか。ひょっとして、ビビッてんのか?事のスケールのデカさに。」
「そうじゃねえよ。今更何が起こったってビビりゃあしねえさ。今まで散々に非現実的なモンを、あんたに見せられてきたんだからな。」
「おいおい、そんな大それた事はしてないぜ?」
「したさ。あんたの色々な超能力を、俺達は目の当たりにしてきた。
よく覚えてるのは、すげえ正確な未来予知。『第3の眼』・・・・・・・だったか?」
「ああ。ココほど強力じゃあないけどな。せいぜい『視る』だけで、他の世界の人間に語りかけることは出来ない。」
「話を聞く限り、あんたの妹って相当浮世離れしたヤツみたいだな。」
「んー・・・・・・浮世離れしたっつーか・・・・・・・・・・・・・・・・微妙だな。」
確かにあの電波っぷりは、現実のものではないだろう。
「そういやアニイ、『あっくん』と『ユータ』の姿が見えないけど?」
「ああ。『ユータ』は目的地で待機中。現地での準備はアイツに任せてある。
『アツシ』も小町つぐみを迎えに行って、今頃は向こうのホテルで待機中だろう。」


その少し前。
小町つぐみは、追われていた。恐らくはライプリヒの連中だ。
しかし何物なのかは解らない。ひょっとしたら人間ですらないのかも知れない。
「くっ・・・・・・・・・・捕まってたまるもんかっ!」
しかし、彼等の機動力の方が上だった。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・・・・・・・・」
「キシャァ〜ッ・・・・・・・・・」
森の開けたところで、彼女は追い詰められた。
「くっ・・・・・・・・・・・・」
「シャ〜ッ・・・・・・・・・シャ〜ッ・・・・・・・・・・・」
顔中に包帯を巻いている姿は、まるでミイラのようだ。
黒のハイネックとパンツに身を包み、黒の手袋の上にはカギ爪がある。
どう見てもまともな理性がない。話は通じないだろう。
「キァァーーーーーーーーーッ!!!」
「くっ!!」
必死で攻撃をかわすつぐみ。だがそれもダメだ。
「キシャッ!!」

ザン!

「ぐぅっ!!」
素早い第二撃が来た。完璧なコンビネーション攻撃だ。
一体一体がつぐみと互角のスピードを誇っているはずだ。それが完璧な統制力で迫ってくる。
8体1は分が悪すぎる。少しずつ切り裂かれていくつぐみ。
(くっ・・・・・・・・・これまでか・・・・・・・・・・・)
ここまで来たらもう死を覚悟するしかない。すぐに3体同時に攻めてきた。とどめを刺すつもりだろう。
(ごめんね・・・・・・・・ホクト、沙羅・・・・・・・・)


ガゥン!! ガゥン!! ガゥン!!


三発の銃声が鳴り響いた。
それと同時に、飛び掛かってきた3体の敵の頭に風穴が空いていた。
「・・・・・・・・・・・え?」

「よぉ、お嬢ちゃん。大丈夫?」

声がした先を見ると、そこには黒ずくめの男が立っていた。
マントの様に真っ黒なロングコート。人形のように端正で無機質な顔立ち。長く伸びた黒髪。まるで西洋のヴァンパイアの如き男だった。
その手に持っている銃は、恐らくブローニングだろう。
「あ、あなた・・・・・・・・・誰!?」
「オレは桜井敦(さくらい あつし)。よろしくね、小町つぐみちゃん。」
・・・・・・・17年間、ちゃん付けで呼ばれたことがあっただろうか。少し意表を突かれた感じがするつぐみであった。
「って、自己紹介してる場合じゃねぇな。ちょっと待ってて!今こいつら片付けるから!!」
「ええっ!?か、片付けるって、ちょっ・・・・・・・・!!」
全てを言う前に、彼は駆けだしていた。

「どりゃあっ!!」

ゴギッ!!

「ギャアアッ!!」
凄まじいキレのハイキックが決まった。音からして、完璧に首の骨はイッているだろう。
「キシャアアアーーーーーッ!!」
「キエエェエーーーーーーーーッ!!」
「シャアアァアアアァ!!」
「キイイイイィィイイィィイイ!!」
残りの4体が攻めてきた。だが、余裕でその攻撃をかわしている。
4体の高速コンビネーション攻撃も、彼には通用しなかった。
彼が人間離れしたスピードで、全てかわしてしまっているのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・うそ。」
思わずそう呟いてしまった。実際、有り得ないような光景を彼女は見ている。
「消えな!!!」

ガゥン、ガゥン、ガゥン、ガゥン!!!

4発とも、全て脳天にヒットした。
「ったく・・・・・・・・・これで全部片付けたかぁ?」
恐らく、2分もかかっていないだろう。
「・・・・・・・・・・・・全員、死んだの?」
「そのはずだけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!! ダメだ、来るな!!!」
急に怒鳴った。それと同時に、信じられないことが起こった。
頭を撃ち抜かれた奴ら、首の骨が折れたはずの奴らが、急に起き上がりだした。
「ば、ばかな・・・・・・・・・・・・・・!?」
「ちっ・・・・・・・・・・・・やっぱ普通の武器じゃダメってことかよ。」
そういうと、彼は銀色の銃を取りだした。デザートイーグルにも見えるが、微妙に違う気もする。
「シャアアーーーーーーーーッ!!!」
全員が一斉に襲いかかってきた。だが、彼は冷静に佇んでいる。
「な、何やってるのよ!!はやく逃げなさい!!」
だが、彼は全く動く気配を見せない。
これまでか――――――――――――――――と思われたその直後

「哀しき不死族(ノスフェラトゥ)に安らかな眠りを・・・・・・・・・・・・・」

彼はそう呟き、全員の一斉攻撃を避けた。

ガゥン、ガゥン、ガゥン、ガゥン、ガゥン、ガゥン、ガゥン、ガゥン!!!

そして合計8発の銃弾を、全員の頭に撃ち込んだ。
しばらく待ってみても、そいつらが起き上がることはなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・死んだ、の?」
「ああ。」
「・・・・・・・・・あの・・・・・・・あなたは・・・・・・・・・・って、キャッ!?!?」
突然抱きかかえられた。しかも、お姫様抱っこという格好だ。
「な、何するのよっ!!」
「いいから、オレに付いてきてもらうぜ!!」
そう言うなり、彼は凄まじいスピードで駆け出した。本当にバイク並のスピードだ。
短距離走をやったら、本当に世界記録を更新できそうだ。
「な・・・・・・・・・一体何処に行くのよ!?」
「この近くの港だよ!そこにオレのボートが待機させてある!!」
「な、何で私があんたに連れ出されなきゃいけないのよ!?」
「明日は何月何日だ!?」
「え・・・・・・・・・・・・5月1日?」
「そう!今日、あんたの子供達に会わせてやるんだよ!LeMUでな!!」


インゼルヌルの船着場では、一人の男が待っていた。
こちらも黒のスーツを着込んでいた。インナーは黒、ネクタイは白でキメている。
人の良さそうな顔だったが、その時の彼の表情は真剣だった。
そこに、トール達を乗せた船が到着した。同時に彼の表情が緩んだ。
「よお、ユータ。準備はどうよ?」
トールが最初に船から降り、彼に話しかけた。
「バッチシ。コミッシャー・ヴァルと緊急脱出口にも、爆弾を仕掛けておいた。
生体反応センサーもいじっておいたから、時間になったらイカれだすはずだよ。」
「上出来だ。」
「まあね。」
彼の名は『樋口豊(ひぐち ゆたか)』。彼もトールの仲間の一人だった。
その顔には、笑顔が浮かんでいる。少年のような純粋さがにじみ出ていた。
「アツシから連絡は?」
「あったよ。今は小町つぐみと一緒に、ホテルの中で待機してるってさ。」
「よし・・・・・・・・・俺達は、準備を進めておこうか。ユータも、機材の搬入を手伝ってくれ。」
「りょーかい。」


インゼル・ヌルの上にあるホテル。
相当なVIPでしか泊まることが出来ないであろう所のスイートルームに、つぐみは居た。
一泊で5万か6万はしそうだ。これまでの生活とはギャップがありすぎる。
彼女は今、シャワーを浴びている最中だった。浴室内にも凝った飾りが多少ある。
熱い湯を浴びながら、彼女は今日の出来事を反芻していた。
(何者なの?あの男・・・・・・・・・・・・・)
あの後、近くの港にあったジェットボートに乗り込み、一気にインゼル・ヌルまで来た。
そして、このホテルまで来た。恐らく前から予約していたのであろう。そうしなければ、フロントでもう少し時間を食っていたはずである。
そして彼はこう言って、自分の部屋の鍵を残していった。

『オレの部屋は802だから、何かあったら来てくれ。』
こうも言っていた。
『ベッドの隣も空けとくよ。』

全体から見て、結構軽い感じの男であるという印象は拭えない。
だが、戦闘の際の表情は本物だった。ああ見えて、恐らくは何度も修羅場をくぐり抜けて来たのだろう。
しかしあの身体能力は一体どういうことだろう。
ハイキックで首の骨を叩き折り、バイク並のスピードで疾走する。人間の業ではない。
つぐみを襲ってきた連中のことも、はっきりとは解っていない。普通の人間ではないことは確かだ。
彼は何か知っているような口ぶりだった。
(・・・・・・・・・・・直接問いただしてみるか・・・・・・・・・・・)
彼女はシャワーを止め、バスルームを出た。


コンコン。

ドアをノックするつぐみ。
「小町つぐみだけど・・・・・・・・・・・・開けてくれない?」
彼女は802号室の前に来ていた。
「ああ、入っていいぜ。鍵はかけてないから。」

「ちょうど良かった。オレも今から君の所へ向かうところだったんだよ。はい、これ。」
アツシが何かを放り投げた。それは・・・・・・・・
「・・・・・・・・私の服?しかもこれ・・・・・・・・・・・」
17年前、LeMUにいた時の服だった。レースの種類、ベルトですら同じだ。
今日まで着ていたのは、ボロボロのジーンズと、所々が汚れたTシャツだけだった。
割と気に入っていたのだが、子供達を探しているときにボロボロになってしまい、捨てた。
「一度洗って糊は取ってあるから、着てもそんなに違和感はないと思うよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・今からこれに着替えるの?」
「いや、明日の朝からでいいよ。」
これを着て何をするというのだろう?
いや、それよりも聞きたいことがあったはずだ。
つぐみは話しかけた。
「ねえ・・・・・・・・・・・・・私を襲ってきた連中は一体何者なの?」
「あいつらは『ラビット』。ライプリヒの連中が生み出した生物兵器だよ。」
「生物兵器?」
「そう。DNA操作と大量の薬物投与によって生み出された化け物さ。
さらに、キュレイウイルスを感染させることによって、不死身にする。
厄介な敵だぜ。通常の武器じゃ歯が立たない。奴らを殺すには、特殊な武器が必要だ。」
「そうか・・・・・・・・・・・・・・だからあんなに攻撃を受けても・・・・・・・」
首の骨が折れても、頭を打たれても復活する。
まさに不死身のバケモノだ。
だが、何故あいつらは彼の攻撃で死んだのだ?
「ねえ、確かあなた、銀色の銃で奴らを撃ったわよね?あれは一体何なの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
少しだけ黙る。表情から察するに、言うことに抵抗があるようだった。
やがて、口を開いた。
「・・・・・・・・・・・・・・あれは『ウイルスガン』」
「ウイルスガン・・・・・・・・・・・?」
「ああ。特殊なウイルスを入れた弾を打ち出す銃だ。これがキュレイ種を殺せる、唯一の武器。いや、兵器と呼んでいいだろう。」
「兵器・・・・・・・・・・・・・・」
たかだかハンドガン一個が兵器。
キュレイ種というのは、やはり侮れない。
「そのウイルスって一体?」
「キュレイウイルスを改良したものさ。」
「改良・・・・・・・・・・それでキュレイ種が殺せるようになるの?」
「ああ。オレ達、特に彼にとっては造作もないことだろうよ。恐らくはな・・・・・・・」


トール達は別のホテルに泊まっていた。そして、優春は空を眺めていた。
手摺りの向こうは海。空と海は、今は漆黒。その中に一つ、輝くものがあった。
「海月(クラゲ)・・・・・・・・・・・かぁ?」
「・・・・・・・・・・・八神さん。」
いつの間にか、トールとヒサシが並んで立っていた。
「明日は早いんだ。早めに寝とけよ?ヒデは大イビキ書いて寝ちまってるぞ。」
「あ、はい・・・・・・・・・・・・・でも、こんな満月も久しぶりですね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・刺されると痛いぞ。」






あとがき

『ラビット』ていうのは『ガレリアンズ・アッシュ』というゲームに出てくる化け物です。
他の敵キャラも出てくるので、お楽しみにね。
あと、BUCK−TICKメンバー全員集合!!(マテ
これにて『B−T−B』が5人集合いたしました。
『アニイ』読んだ人なら解ると思うけど、アニイの言ってた4人が彼等です。
でもそれだけじゃないんで、期待していてください。

BGM:『LOVE LETTER』BUCK−TICK


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