EVER17 〜BEFORE 2017〜
                             HELLCHILD作

第3話『幻覚の未来』


2013年 7月29日 PM1:00 喫茶店『17』内にて

「次の計画はどうするんだ?」
隣の席に座っている遼一に尋ねた。
「ああ。クスリなら歌舞伎町辺りで、いくらでも売ってるさ。」
「ここからだと、片道3時間は掛かるな。」
補足しておくが、俺達は千葉県に住んでいる。
その中でも海に近い方に住んでいるから、東京まで行くのには相当な時間が掛かるのだ。
俺もいつかは、ここを出て東京に一人暮らしをしたいと思っていた。あんな家なんざ、これ以上は住みたくない。
もっとも、やることをやったらサッサと死ぬ身となっては、もうどうでも良いことだが。
「ついでにさ、東京見物もしていかないか?」
どうせなら、一度は東京で遊びたい。遼一に言ってみた。
「お、それは良いかもな。どうせなら一泊していくか?」
「ああ。一日かけて回ろうぜ。」
「よし、そうと決まれば、家に帰って準備だ。」
「ああ。明日の10:00に金宮駅で待ち合わせだぜ。」


7月30日 AM10:00

「よし、来たか。」
「ああ。ギリギリで間に合ったな。」
俺は10分前にはここに来ていた。遼一はたった今ここに着いたところだ。
派手目なシャツに黒のGパン、腕にバンクルやブレスをたくさん付けている。
結構遼一は服装にこだわりを持っているようだ。
「んじゃあ、行くかな。」
「おお。切符はもう二人分買っといたぜ。」
「よっしゃ、手際良いな。つーか、その格好暑くないか?」
「いや、別に?」
東京に行くので、結構おしゃれをしてきた。全身黒ずくめでキメてみた。
ちょっと熱を帯びているが、そこまで暑くはない。
「この駅から、東京まで一本だっけ?」
「ああ。オレ達はただ眠ってりゃあいい。」


PM1:12

「ふ〜、やっと付いたか。」
俺達は今、東京駅にいる。ここからまた適当な電車に乗る。
「ここが都会か・・・・・・・・・・オレ達の所と、対して変わらないな。」
遼一は、そう呟いた。その通りだと思った。
見た感じは、俺達の住んでいる町の住人と、そんなに変わらないような気もする。
「まあ、渋谷とかに行けば、オレ達の田舎町とは比べ物になんないんだろうけどよ。」
「ああ。原宿でたっぷり買い物してやるぜ。金は降ろしてあるよな?」
「まあな。財布には50万ほど入ってる。」
「そんだけありゃあ十分だ。よし、行くぜ!」
遼一はすっかり乗り気なようだった。俺も段々気持ちが弾んできた。


PM8:00 ホテルの一室にて

「あ〜ったく、遊んだ遊んだ。」
「ホントだよなあ・・・・・・・・・ここまで遊んだのも久しぶりだ〜。」
渋谷や原宿へ行き、服やアクセを買いまくった。結構収穫はあった。
「えーっと、どんくらい買ったんだ?」
「おし、数えてみっか。クレイジーピッグとガボールとジャスティン・デイビスと・・・・・・・・・服は色々だな。ブランド名は見てない。」
アクセに関して言えば、結構趣味が合うらしい。俺は主にジャスティン・デイビスを買い、遼一はガボールやクレイジーピッグなどを買っていた。
服では好みが少し違うらしい。俺は割とラフな格好というか、楽な格好を好むのに対して、遼一はレザーやベルベッドなどの、派手目な物を好んでいた。
「これでキメりゃあ、次の計画もバッチリだな。」
「ああ、『百人喰い』か?」
「そう、それ。百人の女がオレ達目掛けて突進してくるぜ。」
「違いないな。」


8月1日 AM11:23

「あ〜あ、泳ぐのなんて久しぶりだ〜。」
「そうだよなあ・・・・・・・・・・・・・・・近くにプールなんて、殆ど無いしな。」
俺達は今、テーマパーク内のプールにいる。流れるプールで浮かんでいるところだ。
金宮高校には、プールがない。地元の海ではクラゲが大量に出るので、誰も泳がない。
近くには小さな市民プールがあるが、夏になると床が日光で異常に暑くなるので、あまり人気はない。
東京のプールは豪華だ。あちこちに装飾が施されている。
「よお、どうせだからさ、レースしないか?」
「え?」
「あっちの25mプールで、50mレースしようぜ。」
遼一が誘ってきた。
「おお、いいぜ。負けねえよ。」
こう見えても、泳ぎは結構得意な方だ。
「うっし、それじゃあ行くか。」


「いっせーのーせ、で行くぜ。」
「ああ。」
「んじゃ、行くぞ。いっせー、のー、・・・・・・・・・・・・」

「せっ!!」

遼一は物凄いスピードで水を掻いている。完璧なフォームのクロールだ。当然、速度はかなり速い。
(んのヤロー、こっちだって負けるかっての・・・・・・・・・・・!!)
俺は、スタートしてから一度も顔を上げていない。潜水で泳いでいるのだ。
5m毎に息継ぎをしようと思っていたが、そんなことをしていたら確実に負ける。このまま50m泳ぎ切ってやる。
しかし、いっこうに遼一との差は縮まらない。このままでは、ターンの際にまた差を付けられてしまう。
(こうなりゃ、イチかバチかだ!!)
俺は、最後の手段に出た。
壁が1m先に迫ったとき――――――――――――――――

(ぬぅおりゃっ!!)

クイックターンをかました。何とか遼一を追い抜くことが出来た。
(このまま、引き離さないと・・・・・・・・・・・・・・!!)
もう息が続きそうになかった。一刻も早くゴールにたどり着かねば。

あと10m・・・・・・・・・8m・・・・・・・・・5m・・・・・・・・・3m・・・・・・・・・1m・・・・・・・・・

「ぶぉっはぁあっ!!」
ゴールと同時に、思いっきり息を吸った。何とか勝利することが出来た。
「はあ、はあ、はあ・・・・・・・・・・・・・・・」
「ぜえ、ぜえ・・・・・・・ち、ちっきしょぉ・・・・・・・・・・・・・・・」
「っど、どんなモンだよ、オレの実力はよ・・・・・・・・・・・・・」
「う、るせぇ・・・・・・・・・・・息も絶え絶えの状態でカッコつけてんじゃねえよ・・・・・・・・・・・」
「へ、へへへ・・・・・・・・・バーカ、最後に勝った方が・・・・勝ちなんだよ・・・・・・・」


PM7:25 歌舞伎町

「今回もまた、パーフェクトな変装だな。」
「まあな。ちょいと要注意人物になっちまってるから、注意を怠ったらヤバイだろう。」
全身にパッドをつけて身体をデカくして、HIPHOPなジャージを着込み、更にはガングロメイクまで。シークレットブーツで身長を誤魔化し、ヘリウムガスを吸って声質を変えている。デカアフロのヅラも被って、完璧な別人物だ。
「しっかし、安っぽいのが、そこら中に売ってやがる。」
さっきも『マッシュ 10000円』と手書きで書かれた値札と、怪しげに干からびたキノコを数本見かけてきたところだ。
「オレ達がやるのは、あんなカスじゃねえぞ。それは解ってるよな?」
「わーってるって。本物のマリファナだろ?」
「おお。武がどんな風にラリっちまうのか、ちょっと楽しみだな。」
「オレも遼一がどんな感じでイッちまうのか、少し楽しみだぜ。」
「なんならビデオでも回しておくか?どんな風になっちまうか。」
「お、いいね。ビデオカメラ買っておかないとな。」
「おう。明日帰る途中で秋葉原に寄るから、そこでな。」

路地裏にある、いかにもヤバそうなクラブに、足を踏み入れてみた。
タトゥーだらけの男や、顔中ピアスだらけの女など、凄まじい連中がたむろしていた。
向こうの方でレゲエ風の黒人が、白い粉を売りさばいているのを発見した。恐らく、彼がディーラーだろう。
どうやら商品には、キノコや草・そのまんまの粉・錠剤のようなタイプからカプセルまで、色々とバリエーションがあるようだ。
「おい、ディーラーさんよ。ちょいと買いたいんだけど。」
遼一が勇み足で、バイヤーの前に出ていった。
「・・・・・・・・・・・・・・何ガ欲シイ?」
カタコトの日本語だ。まだ日本に来て日が経っていないのだろうか?
「カプセルだ。思いっきり密度が濃いのを2個くれ。」
「一番濃イノダト、二個デ50ダヨ。払エルノ?」
「まかせとけよ、ほれ。」
遼一はポケットから50万円の札束を取りだした。丁寧に受け取り、慎重に枚数を数えていくディーラー。
「チョウドダネ。毎度アリ。」
「んじゃあよ。二度と会わないようにしようぜ・・・・・・・・・・」


8月2日 PM1:00

「二人同時に飲もうぜ。」
「ああ。1・2の3!だからな。」
オレ達は、例の崖の下にある砂浜に来ている。海水は濁っており、そこかしこにゴミが散乱している。
「ビデオカメラはもう回してあるんだよな?」
「おお。ゼッティングもバッチリだ。」
「よーし・・・・・・・・・・・・・・それじゃあ・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いきますか・・・・・・・・・・・・・・・・?」

「1、2の・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「3!!!」



俺と遼一は、同時にカプセルを飲み込んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・何も・・・・・・・・・・・・・・・・起きないよな?」
視界は正常だし、意識もはっきりとしている。
「いや、カプセルだから、腹に届いて融けてから効果が出・・・・・・・・・・・」
そこで、遼一の言葉が途切れた。と同時に、俺の視界が歪み始めた。
「な・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?」
遼一は、ただ天を見つめている。目は虚ろで、焦点が定まっていない。
最後に見えたのは、それだけだった。もう何が何なのか解らなかった。
「う・・・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・・・・・・」
呻き声を上げながら、俺は倒れ込んだ。感覚はなかったが、倒れていることは理解できた。
そして俺の意識は、深い場所へと沈んでいった・・・・・・・・・・・・・・・・・・




(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?)
真っ白な世界。地に足はついていない。宙に浮かんでいるようだ。
(ここは、どこだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・暖かい・・・・・・・・・・・・・)
まるで、羊水の中を漂っているかのようだった。
この上ない安らぎ。俺は、母なる鼓動に抱かれていた。
(ああ・・・・・・・・・・・・・・・・ここからオレは生まれたのか・・・・・・・・・・・・・)
出来るなら、ずっとここにいたい。けど、ここに留まっているわけにはいかない。
俺は、歩き出さねばならない。まだ『意味』を見つけていない。彼と共に。
(オレは、行かなきゃいけない)

――――――――――――――――その瞬間、世界の色が変わった。

(あれ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?)
俺は目を開けた。さっきまでの光景ではない。
深い濃紺の闇。頭上には揺らめく光があり、そこからは一筋の光は射している。
(海の、底・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?)
恐らく水深100m以上だろう。でなければ、太陽があんなに遠くには見えない。
不意に、後ろを振り向いた。そこには、一つの小型潜水艇があった。俺はそこに寄ってみた。すると・・・・・・・・

『武! 武!!』

(何だ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・この女?)
黒の長髪を持った女。真っ黒な服を着込み、首の辺りにリボンを付けている。ちょうど俺と同い年くらいか。
涙を流しながらガラスのハッチを叩いている。そして、さっきから俺の名前を連呼している。
『あれえ?お前知ってたんだ、アルキメデスの定義・・・・・・・・・・・』
声のした方向を振り返ってみると、そこには男が立っていた。そいつは今まで散々見慣れた顔をしていた。

(オレ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?)

そう、その男は間違いなく俺だった。今より少し年を取って見え、髪も黒かったが、間違いなく俺だ。
『ていうか、俺がお前に教わったのかもしれんなあ〜。そりゃ知ってるわな、すまんかった。はっはっは・・・・・・・・・・・』
軽口を叩く。今の俺とは似ても似つかない言葉遣いだ。こいつは本当に俺なのか。
『バカーッ!!笑い事じゃないっ!!笑い事じゃ・・・・・・・・・・・ないんだよおっ・・・・・・・・・・・!!』
彼女はただ泣き叫ぶばかりだった。そうしている間に、俺らしき男は、扉のハンドルを回していく。
『た・・・・・・・・・・・武・・・・・・・・・・・・・・?』
(な・・・・・・・・・・・・・・・・・・ば、バカ野郎、死ぬ気か!?)
思わず叫んでいた。だが、その声は彼には届かなかった。
『大丈夫・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺は死なない。』
そう言い残し、彼は手に力を込めた。

(やめろ――――――――――――――――――――――――――――ッ!!!)

扉を開けると同時に、彼は吹き飛ばされた。
そして突然視界が光に包まれた。眩しさの余り、俺は目を覆った。
(くっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?)


目を開けると、そこは制御室らしき部屋だった。そこにも俺らしき男が居た。
しかしどこか様子が変だ。一人きりなのに、誰かと抱き合っているかの様なポーズをとっている。
『空・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
彼が呟いた。その直後、近くの壁から水が吹き出し始めた。
(げっ・・・・・・・・・・・・・・・・・お、おい、ヤバいぞ!!はやく逃げろ!!)
そう言っても、彼には届かない。彼は微動だにしなかった。
そうこうしているうちに、水がくるぶしの辺りまで溜まってきた。
俺自身には濡れている感覚はない。恐らくこの世界に於いて、俺は傍観者なのだろう。

すると、彼と抱き合っている女性が見えた。

真っ白なチャイナドレスと、透明な翼の如きストール・・・・・・・・・・本物の天使のようだった。
そして、また世界が光に包まれた――――――――――――――。


(今度は小学校の頃かよ・・・・・・・・・・・・・・・・)
子供の頃の俺が、そこにいた。体操服を着ていて、大人数で校庭に集まっているところを見ると、どうやら運動会の練習のようだ。
元々他の連中とは少し違うという理由で、俺はこの頃からクラス内で敬遠されていた。
しかし、こんな運動会の練習は、俺の記憶の中にはなかった。ただの幻覚なのだろうか?
『じゃあ二人三脚を始めるから、それぞれ好きな人とペアを組んでくれー!』
体育教師が叫ぶ。生徒全員が、好きな奴とペアを組んでいった。
しかし、どうやら俺だけ余ってしまったようだ。俺と組みたがる奴は、誰一人居なかったということか。
しかし、どうやら一人余りが居た。隣のクラスの奴のようだ。
『なあ、俺と一緒に組まない?』
声を掛けた。敬遠されていたといっても、まだこの頃はそれほど醒めた性格ではなかったらしい。声の掛け方で解る。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?』
声を掛けられた奴は、顔中傷だらけで無表情だった。彼は意外そうな目で俺を見た。まるで自分が呼ばれることを予期していなかったかのようだ。
『余ってるんだよな?だったらいいだろ?』
『う、うん・・・・・・・・・・・・・・いいけど。』
『じゃあ決まりだな。』


「・・・・・・・・・・・・・・・・・んん・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺は目覚めた。どうやら、元の砂浜のようだ。
「おう、目が覚めたか。」
隣には、遼一が立っていた。ビデオカメラをいじっている。
「俺は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
深い眠りから覚めたような気分だった。頭が少しぼんやりしている。
「ビデオの記録からすると、オレ達は丸々2日ほど眠ってたらしいな。」
「2日!?ってことは・・・・・・・・・・・・・・・・・・今日は8月3日か。」
道理で頭がぼんやりしているわけである。
「あーったく、まだ頭がフラフラするぜ・・・・・・・・・・・・・・」
遼一が立ち上がった。しかし、明らかに足元がおぼつかない。
「当然だろ、本物のコカインなんだから・・・・・・・・・・・・」
頭が逝ってしまわない方がおかしい。
「もう少しここで休んでいこうぜ。」
「ああ。この調子じゃ、また疑われかねない・・・・・・・・」
遼一は、俺の後ろに寝っ転がった。背中に砂がつきそうだが、それを言ったら俺も砂だらけである。

(俺は・・・・・・・・・・・・・・・・何を見たんだ・・・・・・・・・・・・・・?)

何か、大切な夢を見たような気がする。覚えているのは、暖かな鼓動、俺を呼ぶ声、天使の翼、そして・・・・・・・・・・・
(・・・・・・・・・・・・・・あのガキ、一体誰だっけ・・・・・・・・・・・・・・・?)
名前が思い出せない。誰か、大切な誰かだったような気がするのに、思い出せない。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もうやめよ。)
いちいち考えてると、また頭が痛くなってきた。俺も仰向けに寝っ転がった。








あとがき

うーん・・・・・・・・・・・・意味があるのか?この話。
しかし、B−T−Bと並行して書いてるから、もう疲れるの何のって。ハイペースで書ける方がマジで羨ましいです。
彼の未来予知についてですが、あれはクスリによって脳内物質が過剰に分泌されて松果体の働きが活発になり、第3の目が開眼した・・・・・・・・・・・・・・てのはどうでしょう。
凄く無理矢理っぽいですけど。

BGM『PSYCHEDELIC LOVER』PIERROT


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