B−T−B HELLCHILD作 |
「こいつが、ウイルスガンの弾丸だ。よく見てみな。」 そう言って、アツシは一個の弾をつぐみの目の前に差し出した。 「・・・・・・・・・・・何?これは・・・・・・・・・・」 「まあ、こういうことさ。」 アツシは弾を解体した。火薬の粉を捨て、弾頭部を掌に載せた。 その弾頭部には、小さな穴が所々に空いていた。この穴に何か意味があるのだろうか。 「これがどうしたの?」 「まあ、よく見てなよ。」 アツシは手を握りしめた。すると驚くべき事に、弾はバキバキと音を立てて割れていった。 割れた弾の中から出てきたものは、透明な液体だった。オブラートに包まれている。 「この液体は・・・・・・・・・・」 「キュレイのウイルスベクターだよ。DNAワクチンを注入してある。こいつに感染しても、テロメアも治癒能力も、何も変わらない。無害な物だ。 この弾が着弾すると、衝撃でオブラートが破れる。小さな穴からベクターが洩れだし、感染する。さっきの奴らも、そうやって倒したんだ。」 「これを撃ち込めば、キュレイ種も死ぬの?」 「ああ。ウイルスベクターによるガン治療法は知ってるよな?」 「ええ、もちろん。」 ウイルスを抽出し、治療用の遺伝子をウイルスの中に挿入する。 このウイルスは、身体の中の狙ったところに移動して、傷ついた細胞を治療する。 現在はガンだけでなく、全ての遺伝子性疾患の治療に用いられている。 「まあ、あれの応用と考えれば簡単さ。このウイルスベクターに感染すれば、キュレイの効果は無くなる。『p53』の遺伝子も正常に働き出す。すると、欠損した部分は元に戻らなくなり、そのまま死ぬってワケだ。体内に入った時点で効果が現れ始め、大体24時間後には治癒能力もテロメアも元通りになっている。」 「・・・・・・・・・・・・・・・これは、あなたが創ったの?」 「いいや、違う。オレの仲間が創ったのさ。」 「仲間・・・・・・・・・・・・貴方、一体何者なの?何の目的があって、こんな・・・・・・」 問いただしたいことは山ほどある。 子供達に合わせてやるということ。アツシの正体。ここに来た目的など。全てを教えて欲しかった。 「ねえ、私は何も知らされてないわ。頼むから、全てを教えて。」 「・・・・・・・・・・・・・わかった。けど、ちょっと外に出てみないか?」 「え?」 そう言うと、アツシはバルコニーの方へ歩いていった。 「今日は満月みたいだな。月が綺麗だ。つぐみちゃんも来てみなよ。」 「つぐみ『ちゃん』って・・・・・・・・・・・・」 かなり照れくさい呼び名だ。武にすらそんな呼び名で呼ばれたことはない。 彼の言うとおり、空には満月が輝いていた。そして・・・・・・・・・ 「星が・・・・・・・・・・こんなに綺麗に見えるのね。」 「ああ。気が付かなかった?17年前にもここに来たことがあるはずなのに。」 どうやら、2017年の事故も知っているらしい。 こうなったら全てを吐かせてやると、つぐみは決心した。 「ねえ、いい加減に教えて。あなたは一体何者なの?子供達に合わせるってどういうこと?何故私をここに連れてきたの?全て教えてよ。」 「わかったわかった、そう焦んなって。じゃあ、オレが何者かって事からだな。」 アツシはつぐみの方に身体を向けた。 闇を纏うような黒ずくめの格好は、この夜の闇に溶け込んで解らなくなってしまいそうだった。 それとは対照的に、顔は白く、人形のように端正で美しい。本当に浮世離れした感じがする。 そして、その深く澄んだ漆黒の眼が、つぐみの視線を捕らえた。 ゆっくり息を吸った後、彼はこう答えた。 「オレの名は『桜井 敦』。一応、製薬会社『LUDWIG』の副社長って事になっている。」 「ラディック・・・・・・・・・・・?」 「ドイツの製薬会社の名前さ。」 「・・・・・・・ただの副社長じゃないんでしょ?あの動き、どう考えても普通の人間じゃないわ。」 「ああ、やっぱりわかる?」 「私も、そこまで鈍くはないわ。」 「よーし、わかった。『B−T−B』って知ってるか?」 「聞いたことはあるわ。確か、国際的なテログループだったわね。 五人組で、主にライプリヒの研究所を片っ端から破壊していってるっていう・・・・・」 「そう、それだよ。その一人がこのオレさ。」 「ふわああぁぁ・・・・・・・・・・・・・・」 不意に、ヒデは目覚めた。 さっきまではぐっすりと爆睡してたはずなのだが、どうしてか、急にパッチリと目が覚めた。 隣のベッドでは、ユータが退屈そうに天井を見ている。どうやら起きているようだ。 「よぉ、ユータ。」 暇だから話しかけてみることにした。 「あ、ヒデ。起きたんだ?」 「おお、何故かは知らんけどな。」 ヒデも天井を仰ぎ見る。 「・・・・・・・・・・・・・ホントさあ、長かったのかな?それとも短かったのかな?」 「なにが?」 「この14年間だよ。たった二人の人間を助け出すために、オレ達は物凄い沢山のことをしてきたわけじゃん?」 「まあね。研究所ブッ壊したり、脅迫電話をかけたり、株を買い占めたり・・・・・・・」 「マジで時間の感覚がおかしくなっちまったな。」 「永遠の命を持ったら、そんな風に感じてしまうのかもしれないね。」 「永遠の命、ねえ・・・・・・・・・・・・・・・何処までも呪われてるな、オレ達。」 「というより、元から呪われて生まれてきたんだよね、オレ達は。」 「・・・・・・・・・・・・・それもそうだな・・・・・・・・・・・・・・」 「オレと4人の仲間は、ライプリヒの研究所に拘束されていた。物心ついたとき、最初に見た物は、真っ白な壁だった。」 真っ白な壁。真っ白な床。真っ白な天井。真っ白な服。 全てが、ただ純白。汚れ無き、一片のシミも無い白。 ―――――――プシュン。 自動ドアが開いた。白衣を着た研究員が、彼の手を引っ張った。 『さあ出ろ!さっさと来い!もたつくな!!』 怒鳴られながら、手を引っ張られた。 「オレは、ありとあらゆる苦痛を味わった。そして、しばらくして3人と出会ったんだ。 今井尚、星野秀彦、樋口豊・・・・・・・・・・・・みんな、オレと同じ苦痛を味わっていた。 オレ達は、外の景色を見たことがなかった。朝焼けも、夕焼けも、星空も、月も、太陽も、何も見たことがなかった。」 「・・・・・・・・何故、脱走しなかったの?今の貴方くらいの力があれば、ライプリヒの研究所なんて・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・この傷、見える?」 そう言って、彼は髪をかき上げた。 こめかみに、一筋の傷痕がある。何かの手術痕のようだ。 「生まれたときに、脳内にマイクロチップ型爆弾を移植された。研究所の外に出たりすれば、すぐさまドカンだ。また、どこかの端末でちょっと操作するだけでも、簡単に爆発しちまう。絶望的だったよ。 ここから一生出られないって、そう思ってた。でも、14年前・・・・・・・・・・・」 突然、警報が鳴り響いた。どうやら事故か何かが発生したらしい。 研究員達もパニックに陥ってるようだ。 この部屋には、4人が居る。緊急事態だというのに、外には出られない。 『な、何なんだアイツは!?』 『あ、あいつは脳感染に成功した唯一の・・・・・・・・・・・ぎゃあっ!!』 グシャッ、と何かが潰れるような音がした。 『ひっ、ひいいいい!!く、来るなあああ!!』 銃を乱射する音が聞こえる。そして・・・・・・・・・・・ 『ぐええぇっ!!』 何かを吐き出すような呻き声が聞こえ、もう一人の研究員が倒れる音がした。 ――――――――プシュン。 ドアが開いた。そこには、一人の大柄な男が立っていた。 肩まであるような長髪を、全て真っ逆様に立てている。 黒ずくめの格好・・・・・・・・・そして、その手は血に染まっていた。 体中が返り血だらけだ。恐らくこの男が騒ぎの中心なのだろう。 『お前達が、パーフェクトキュレイか?』 『・・・・・・・・・・・・・ああ。けど、何でそれを知ってる?』 ヒサシが呟いた。 『ライプリヒのデータを調べてみたところ、ここにお前達が居ることがわかった。 お前達と取引をするために、俺はここにやってきた。お前達は自由の身だ。もう外に出られるんだぜ。』 彼はそう言った。外に出れる?助けに来た?自由の身? 『ま、待ってくれ!オレたちの頭には・・・・・・・・・・・』 『そのことは心配するな。ここのセキュリティデータは完全に破壊したからな。』 『・・・・・・・・・・・・取引って何だ?』 ヒデが言った。俺達を助ける変わりに、何を要求しようと言うのか。 『その前に今は脱出だ。条件は飲んでも飲まなくてもいい。もうすぐ起爆システムが作動する。その前に、急ぐぞ!!』 「その男を見かけたことは、何度もあった。研究所内でテストを受ける姿を、オレ達は何度も目撃していた。その全てに於いて彼は、凄まじい成績を誇っていたはずだ。オレ達は助け出される代わりに、条件を飲んだ。」 「条件?」 「ああ。ライプリヒに研究所を片っ端から破壊し、今年、2034年にライプリヒを買収する手伝いをするということだった。そして、それは今回の計画のためだった。」 「計画・・・・・・・・・・・・・それを実行するために、私を?」 「ああ、そうだ。」 「じゃあ、教えて。私は何をすればいいの?それを行えば、子供に会えるの? その計画って、一体何なの?何のためにそんなことを行う必要があるの?ねえ、答えてよ!」 つぐみは、アツシに詰め寄った。もし子供達に会えるのなら、何だって出来る。 少なくとも、そう思っていた。そして、自分は何のためにここに連れてこられたのか、知る必要もあった。 だが、アツシの答えはこうだった。 「悪いけど、オレの口からは話せないんだ。ここで君に秘密を漏らすわけにもいかないからね。」 「なっ・・・・・・・・・・・・・・」 「ただ、一つだけ言えることがある。」 つぐみの顔を見つめながら、アツシはこう言った。 「明日、君はLeMUに向かえばいい。ライプリヒの連中は居ないから、安心しな。」 「LeMUに・・・・・・・・・・・?」 「そう。そこにしばらく居てくれればいい。それだけさ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 にわかには信じられなかった。それだけで子供達に会えるのか? 「じゃあ、そろそろ寝るかな・・・・・・・・・・」 「待って!まだ聞いてないことが一つだけあるわ。」 部屋に戻ろうとするアツシを、つぐみは呼び止めた。 「なに?」 「あなたは・・・・・・・・・・何者?」 「だから『B−T−B』の一人だってば。」 「そうじゃない。私を助けたときの貴方の動き・・・・・・・・・アレは普通の人間のものじゃなかったわ。」 「ああ・・・・・・・・・・・・そういう意味ね。」 アツシは、再びつぐみの方へ歩み寄ってきた。 「オレは2006年、ライプリヒの研究所で生まれた。その当時、ライプリヒはあるプロジェクトを推進していた。知ってる?」 「い、いいえ・・・・・・・・・・・・・・・」 「『新しいキュレイ種』の誕生さ。従来のキャリアは、単純に感染してDNAを書き換えられただけだった。それはパーフェクトキュレイの君でも同じだろ?」 「ええ。でも、新しいキュレイ種って・・・・・・・・・・」 「もしも『生まれたときから』キュレイ種として生きてきた人間が居たとしたら?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」 「さらに、キュレイウイルスは直接的に脳に影響を及ぼさない。それは知ってるよな?」 「ええ。検査の結果そうだったと、研究員達も言ってたけど・・・・・・・・・・まさか、あなた達は・・・・・・・・・・」 「そのとおり。2006年8月4日、4つの受精卵にキュレイウイルスが投入された。 その4つは、ライプリヒの研究所内にある人工子宮の中で育っていった。 そして・・・・・・・・・・・・・・・12月17日、オレ達4人はこの世に生を受けた。」 「海の月・・・・・・・・・・・・か。確かあの女の名前もそうだったよな?」 「ああ。小町月海、だろ?」 トールとヒサシが喋っている。優春は先に帰ったようだ。 「この計画ってひょっとしたら、彼女のためにあるようなモンなのかな。」 「・・・・・・・・・なのかねぇ。でも、本当にオレ達、何のためにこの計画に加担したんだっけ?」 「ココを救うため、だろ?」 「アニイにとってはそうかもしれないけどさ・・・・・・・・・・何でオレ達は・・・・・・」 今から考えると、つくづく疑問だった。 いきなり助けられ、自由の身にになった。そこから全国的なテロ活動の始まりである。そこから発展し、要人誘拐、株の買い占め、ソーシャルエンジニアリングなど、数々の悪行を成し遂げた。 それは、単純にトールへの恩返しなのか?それとも・・・・・・・・・ 「自由のためじゃなかったか?」 「え?」 「俺はお前達4人に、俺に協力する理由を聞いたことがある。そしたら、アツシはこう答えたぜ?」 『自由になるため・・・・・・・・・・自分の意志で、全てを切り開くためだ。』 「・・・・・・・・・・・そうだったな。」 「お前もそうじゃないのか?」 「・・・・・・・・・・・・・・・かもな。」 「純粋なキュレイ種として生まれたものは、成長が常人よりも速い。オレがアニイに助けられたのはオレが14歳の時だが、その時のオレ達の肉体年齢は、既に17歳以上だった。」 「何故そんなことが?」 「テロメアの影響さ。細胞分裂を繰り返すたびに磨り減るが、キュレイ種の場合は違う。 生まれてから初めの内は大したことはないが、成長するに連れて、常人との肉体年齢の差が明らかになってくる。今のオレは28だけど、いくつに見える?」 「・・・・・・・・・・・・・20歳そこそこ、くらいかしら。」 ちょうど武と同じくらいの年齢だ。彼は確か20のはずだから、この男も少なくとも20代前半だろう。 「性格には、21歳で成長が止まっている。成長期が終わると、そこから身体は成長しなくなるようだ。他の4人も同じさ。12年程前から、21くらいで成長が止まっている。」 「じゃあ、あのスピードは一体何?多分私よりも上だわ。」 バイク並のスピード、蹴りで首の骨を叩き折るパワー、これは一体どういうことなのか。 「キュレイ種として生まれたものは、神経細胞も人間とはかなり違う。 脳細胞(ニューロン)の総量は、常人の約1,5倍ほどだろう。特に大脳の運動野に於ける影響は強く、脳内の血流も他の部位より活発らしい。脳内の情報処理速度も、通常の3倍はあるようだ。反射神経には結構自信があるんだけど、どう?」 「うん・・・・・・・・・・・・さっき目の前で見させてもらったわ。」 追っ手とのバトルで、スピードと反射神経は見させてもらった。 完璧に統率の取れた奴らでも、彼のスピードには追い付けなかった。 「他にも、色々なところで影響があるんだけど・・・・・・・・・・説明してたらキリがないんでね。」 そう言って、彼は話を切り上げてしまった。 「あ、ちょっと・・・・・・・・・・・・・・」 「オレが話せることは大体話したよ。後は、明日LeMUに行けばいい。これ以上は、君と関係のない話だよ。じゃあ、お休み。」 そう言って、彼はベッドに潜り込んでしまった。 「もう・・・・・・・・・・・・・・」 全てを聞き出すことは出来なかった。 何故、こんな奴が自分を連れ去る必要があった? 計画とは何だ?『LUDWIG』とは? 様々な謎を残していたが、とりあえずこいつの正体は分かった。 信頼できるかどうかは微妙だが、子供達に会えると言うことは信用するしかなかった。 (彼の指示通りに動くしかないわね・・・・・・・・・・・・・) そして、つぐみはアツシから渡された服を持ち、自分の部屋へ戻っていった。 5月1日 AM11:20 アツシに付き添われて、つぐみはドームの前に来ていた。どこも入場客で賑わっている。 「LeMUの中に居ればいいのね?」 「ああ。少ししたら、事件が起こる。でも、子供達に会たかったら、絶対に逃げ出すなよ。」 「子供達を人質に取っているの?」 「いや、そうじゃない。まあ、とにかく中に入って、動かなければいい。それだけさ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 彼を信頼してるわけではなかった。 だが、信じざるを得なかった。 「じゃあ、楽しんできてくれよ。幸運を祈るぜ。」 そう言い残し、アツシは消えていった。 「会えるといいな、つぐみちゃん。愛すべき人と、子供達に・・・・・・・・・・・・」 |
あとがき さあ、ここからが面白くなってきますよ。 生物学的に矛盾点とかあるかもしれないけど、ツッコミは勘弁。 病み上がりの身で、これを書いています。 て言っても、これを見られるときには、もうとっくに回復しているでしょう。 最後にマジでサンクス、大根メロン様。 BGM:『ヒロイン』BUCK−TICK |
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