「ねえ、武・・・・・・何もかも嫌になって、死にたいって思ったこと、ある?」
「――――――――――ない。」
 そう。たとえ死にたくても、俺の背負った物が、それを許さない。
 約束を果たさなければならない。それだけのために、俺は今まで生きてきたのだから。
「こんな所でくたばってたまるか!! 全員生きて脱出してみせる!!
この暗闇から、抜け出してみせる! 救い出してみせる!!
絶対に、俺は諦めたりしない!! 全員で、生きて地上に戻るんだよ!!」
 もう見たくはない。自分の非力さ故に、誰かが死んでいくのを。
 これ以上は耐えられない。俺の大切な人達が苦しむのを、黙ってみているだけなのは。
『たかが人間一人に何が出来る?』
 あいつは、そう言った。哀しみを秘めた瞳で。
 確かに、そのことを否定はしない。人間一人に出来る事なんて、たかが知れている。まして俺みたいに、特別頭が良いわけでも、体力が有るわけでもない平凡な大学生に出来る事なんて、微々たるものだろう。あいつみたいなリアリストでなくとも解ることだ。現に俺が理解してる。
 だけど俺は、まだ生きている。生きている内は終わりじゃない。
 そもそも俺が諦めてしまった時点で、全てが終わってしまう。それは全ての可能性を自ら放棄することに等しい。限りなく0%に近い可能性でも、まだフイにしたくはないのだ。
 あいつは諦めてしまったけど、俺は諦めない。だってあいつにも、救いはあったはずなのだから。


「・・・・・・最後の手段を取るしかない。」








EVER17 〜BEFORE 2017〜
                             HELLCHILD作

第七話 『そしてサダメは疾走する』


「・・・・・・・・・」
 遼一は黙ったままだ。無表情を保っている。その奥底に潜む感情を、俺は図り知ることが出来ない。
――――――――知りたい。
 心の底から思った。彼の全てを知り、そして5年間のブランクを全て埋め尽くしたかった。
 唯一の絆を取り戻したかった。もう一度だけでいい、堅く結ばれていたい・・・・・・その思いだけが、俺を支配していた。
「・・・・・・ごめんな。」
 不意に口から出た言葉。自分でもそれが謝罪の言葉だと認識するのには、少々時間を要した。
「何で謝るんだよ?」
「入学式の時にもお前の名前を聞いていたはずなのに・・・・・・ずっと思い出せなかった。
初めて出逢ったときにも、全然わからなくて・・・・・・」
「気にすんなよ・・・・・・・・むしろ思い出してほしくなかった。」
「え?」
 そういって座り込む。足元には夕日に染まった海が広がっている。俺も遼一の隣に座り込んだ。
 物理的な距離は、これで縮まる。でも精神的な距離は、未だ縮まらない。
 遼一が全てを話してくれれば、この距離も埋まるのだろうか? それは疑問のままだ。
「・・・・・・ずっと変わらないんだな。」
「何が?」
「この夕陽だよ。初めてお前とこの場所に来たときから、何一つ変わってない。」
 遼一の言葉通り、昔と何一つ変わらなかった。
 ここから見える夕陽は、全てを黄金色に染める。地面に生える草、眼下に広がる海、そしてこの夕陽を眺める俺達をも。
 子供の頃、遼一を連れてここに来たこともあった。あの時遼一は、この夕陽を『きれい』と評した。
 俺は嬉しかった。初めて秘密を共有する人間が現れたこと。そして、この風景を一緒に見られる友が出来たことが。
 「出来るなら変わってほしくない・・・・・・この風景も、オレも武も。」
 「・・・・・・オレと遼一は、変わってしまったよ。」
 そう。束の間の別離、そして二人の間に流れる時間が、俺達を変えた。そしてそれは、俺の中から唯一の絆の記憶をも奪っていった。
 だが今こそ、取り戻す。過ぎ去った時間と、消え去った絆を。
「・・・・・・もう話すしかないんだな、全てを。」
 覚悟を決めたように、遼一が言う。決意と諦めの入り交じった、複雑な声だ。
「・・・・・・19年前、高校生だった母は"ある男"と付き合っていた。」





公園でナンパされて、それがキッカケで付き合い始めた。
両方とも本気で愛し合っていたように見えた。けど、それはウソだった。
その男は母に会うたびに、金を要求していた。
次第に要求する金額は高まっていく。
学校の金庫を開けてまで、男に貢ごうとしたとき。
男は母を捨てて、何処かの女と遠くに行ってしまった。
本当はそいつ、タチの悪いプータローだったんだ。
学校から金を持ち出していることが発覚して、母は高校をクビになった。
家族にも勘当され、行き場所を無くした。仕事もロクな物が見当たらない。
母はその男を恨んだ。自分をゴミのように捨て、自分の人生を粉々に破壊した男を。

やがて母は妊娠した。高校を退学してからホンの僅かの間に気付いた。
だが母は、例の男以外と交わりを結んだことはなかった。
それはすなわち、その子は男との間に出来た子供だという事を示していた・・・・・・





「・・・・・・・・じゃあ、その男の子っていうのが・・・・・・・・」
「オレだよ。母の死後、遺留品の中から日記帳が見つかった。そこで読んだんだ。
とりあえず4歳くらいまではオレをちゃんと育ててくれた。だけど、オレの顔はその男に似ていたらしい。
母はやり場のない怒りを、全てオレにぶつけてきた。男のせいで生活は貧しく、その日の食費すら切り詰めていかなければいけない。高校を不祥事で中退した母には、まともな職業は用意されていなかった。少ない時給で扱き使われる。そしてオレというお荷物まで付いてきた。
全てを男にぶつけたくても、その男の行方すら解らない。だからオレが代わりに、母の怒りを受け止めた。
毎日毎日殴られ続けた。毎日一つは体の何処かに傷を作る。そして年齢一桁ながら、小間使いのように扱われる。でもそんな生活を続けていても、オレは母を愛していた。オレが母の怒りを受け止めていれば、そしてオレが母のために尽くしていれば、いつかオレのことを愛してくれるんじゃないかを思っていた。
けど、それは楽観的な考えだった。あの日、オレはそれを思い知った。」





ある日、とうとう母は半狂乱に陥った。
金切り声をあげながら包丁を振り回し、オレの方へ向かってきた。
これまでもカッターやハサミや皿を投げつけられたことはあった。
だが今度は直にオレを刺そうとしている。母の眼には殺意があった。
走りながらオレの方へ向かってくる。絶叫しながら刃先をオレに向ける。
殺されることを確信したとき、本能が体全体を支配した。
タックルで母を吹っ飛ばし、包丁を奪い、それで――――――――


母を、殺した。






「・・・・・・心臓を一突き。一瞬だった。少しだけ呻き声を上げたかと思えば、すぐに体中が冷たくなった。」
「・・・・・・それで、母親を殺したって・・・・・・」
「ニュースでも取り沙汰されてたからな。保護者経緯で伝わってきたんだろう。
オレは施設に送られた。経歴上、そこでもオレは仲間外れだった。近付くと殺されるという恐怖感、それが他の奴等からは伝わってきた。ずっとオレは、孤独だった・・・・・・」
―――――――――真実。
 信じられなかった。だが、それは真実。
 俺に遼一の真実を受け止めてやれるのか。そんな不安が沸き上がってくる。
「・・・・・・そんな時、武と会ったんだ。」
「え・・・・」
「事件を起こしてから二年後、オレは武と出会った。それまでも事件のことが尾を引いていて、みんなオレを避けていた。
けど武は・・・・・・そんなことはまるで気にしなかった。何も知らないのかと思ったけど、それも違った。全てを知った上で、オレに親しくしていた・・・・・・」
 また、あの眼だ。何処か遠くを見る目・・・・・・想い出を見る眼。
 そう、俺は知らないうちに遼一を助けていた。そして、ずっと遼一の心を支えてきたのだ。
 今まで俺は、誰も救えないし救わない、俺のことを見てくれる人間なんて居やしないと思っていた。
 しかし遼一は、ずっと俺を支えにしてきた。何も解っていなかった、この俺を。
「武と別れて、オレはまた独りに戻った。昔からオレは、他人との距離を縮める術を知らなかった。それにプラスして、事件の事がまだ忘れられていなかった。
もうどうでもいいと思った。あっちが理解してくれないのなら、こっちから壊してやる。そう思って、狂ったように悪事をした。酒に煙草に女遊び、先公の車をブッ潰し、評判の悪い3年に因縁ふっかけてボコボコにした。
武と再び出会うまで、オレはずっと独りだった。誰もオレの周りには居なかった・・・・・・」
「・・・・・・そんな。」
そんなことはない。
 板谷や菊地、奈帆だっている。みんな遼一を慕っていたはずだった。
 そして俺も、遼一のことが好きだった。一生友達でいたいと、どれだけ切に願った事か。
 出来るなら昔に戻りたい。何も知らない友達同士だった、あの頃へ。
 それを伝えようと口を開いたとき、遼一の様子が一変した。
「―――――――――――ッ!」
 突然、顔色が変わった。あの時と同じだ。
 顔は真っ青になり、顔中から汗が噴き出している。明らかに何かの病気を患っている。
「お、おい遼一!? しっかりしろ!!」
「だ・・・・・・大丈夫だ・・・・・・」
「ば、バカ野郎、大丈夫なわけねーだろうが!! 早く医者に・・・・・・」
「お、大袈裟な・・・・・・平気だって・・・・・・ゴホッ!!」
 突然、遼一がゴホゴホと咳き込んだ。普通の風邪の患者の咳ではない。もっと大きく派手な物だった。
「ゴホッ! ゴッ、ゲホッ・・・・・・グッ・・・・・・」


――――――――――――ゴボッ!


 血が、溢れた。
 遼一の口から吐き出されたそれは、彼の掌から零れ、地面に滴り落ちていった。
 その光景に、俺はしばらくの間茫然となった。やがて真っ白になった頭が元に戻ってきたとき、遼一が血塗れの口を開いた。
「・・・・・・病院に行っても無駄なんだよ。そう宣告された。」
 その一言一言は、頭の中で重く鳴り響き、ループしていた。
「具体的な病名は聞いていない。ただ不治の病なんだって事・・・・・・それだけはオレにも理解できた。そして、具体的な治療法が発見されていないって事も。」
「・・・・・・・・・・・・嘘だ。」
「嘘じゃねーよ。ウイルス性の病気で、オレの場合は肺に感染しているようだ。
発作と共に吐血するようになったら、それはもうオレの命が永くないことを意味している・・・・・・医者はそう言っていた。」
 永くない・・・・・・・・・遼一の命が?
「2014年を無事に迎えられるかどうかも危うい。それほどまでに病気は進行している。」

『1月1日・・・・・・・・・それがオレ達の死ぬ日だ。』

 あの言葉の意味が、ようやく理解できた。そう、あれはこの事を見越しての話だったのだ。
 あの時点で遼一は、自分の病状を医師から知らされていたのだろう。それであの時、自分たちの死ぬ日を定めたに違いない。
「・・・・・・ひょっとして、お前が死にたい本当の理由って・・・・・・」
「・・・・・・・・・哀しすぎたから。」
 そう答える遼一の表情に、初めて感情が表れた。それは一般的に『悲哀』と称される感情。
 だが遼一の背負う悲しみは、そんな言葉すらも無意味に感じさせた。彼の背負う感情は果てしなく重く、そして痛い・・・・・・・・・言葉で語り尽くすことを愚かしく感じさせる。
「今まで生きてきて、幸せを実感した事なんて一度もなかった。母親には殺されかけ、周囲の人間からは疎まれ続け・・・・・・そうして何も生きている喜びを何も知らないまま死ぬのが、ひどく哀しかった。」
 そこに存在するのは、絶望。
 誰からも愛されなかったという孤独感。そして苦しみを背負ったまま、幸せをかみしめる事なく死んでいくという虚しさ。遼一の心にある物は、それだけだった。
「・・・・・・こんな汚れきったオレなんて、最初から生まれなければ良かったんだ。」
 そう吐き捨てる。自分がさも醜い生き物であるかのように。
「最初から生まれてこなけりゃ・・・・・・こんな思いもしなくて済んだ。母親に虐待されることも、周囲から差別されることも、死ぬことを怖がる必要すらなかった・・・・・・こんなにも辛くて短い人生を遂げる必要だってなかった。
・・・・・・・・・いっそのこと、全部なかったことに出来りゃあいいのに。そうすれば、オレも救われるんだ。」
 自嘲的な口調だった。その言葉には、一切の楽観も含まれていない。
「・・・・・・何も、無い・・・・・・・・オレには、何もない。何も持ってない。」
――――――――――――涙。
 初めて見せた涙。俺の前で、初めて泣いた遼一。
 それは頬を伝い、地面に落ちる。小さな粒が、地面を少しずつ濡らす。
「辛くて、悲しくて、苦しくて・・・・・・誰かに助けを求めたくても、誰も居なくて・・・・・・
何のために・・・・・・・・・オレは、何のために生まれてきたんだ!!」
 叫びは悲痛に木霊する。何処までも突き刺さる。
 唇を噛み締め、拳を握り締める。涙は止めどなく溢れる。
「全ての命が祝福されてるなんて、そんなのは嘘だ!! オレはどうなってんだよ!? このオレの姿は、どう説明すりゃあいいんだよっ!!」
 叫ぶ。喚き散らす。怒鳴りつける。
 こんなにも感情を吐露する遼一を、俺は今まで見たことがない。
 押さえつけてきた物が、全て流れ出した。そんな感覚だった。目を覆いたくなるほどの現実が、俺と遼一の前に立ちはだかった。それはオレだけの力では、到底消し去ることは出来ない。
「武・・・・・・オレ、何のために生まれてきたんだ・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」
 答えられなかった。正確には、言葉を発することが出来なかった。
 こんなにも残酷な真実を突きつけられて、俺は一体どうすれば良かったんだろう?
 何処にも・・・・何処にも救いなんて無い。こんな非力な人間じゃ、目の前の現実を変えることなんて出来はしない。隣で悲しんでいる人間を、助けることもできない。
 全てを語り終えた頃には、もう辺りは暗くなっていた。夜の闇に沈黙が充満する。俺達はその沈黙に身を任せ、ずっとそこに座り尽くしていた・・・・・・



 やがて、陽が昇る。二人とも座ったまま眠っていたようだ。
 こんなにも朝焼けが残酷だなんて考えた事もなかった。朝日が昇るたび、死刑台の階段を一歩ずつ踏み出していく。着実に、ゆっくりと、追い詰めるように、死は迫ってくる。嘲笑いながら。
「・・・・・・武ぃ・・・・・・」
「何だ?」
「・・・・ハラ減ったな。」
 そういえば、昨夜からここにずっと居た。ということは、夕飯を食っていないのだ。道理で俺も腹が減っているわけだ。
「・・・・・・じゃあ、何処かに食いに行こうか?」
「・・・・そうだな。」
 立ち上がり、二人で歩き出す。だが遼一の顔は、感情を失ったかのように無表情だった。





2013年 11月17日


 それからしばらくの間、俺達は互いに顔を合わせることも、会話を交わすこともなかった。恐らく、お互いにどういう態度を取ればいいのか、それが解らなかったのだろう。
 次に遼一と初めて会話を交わしたのは、あれから一週間が過ぎてからだった。
『とりあえず今回ので、通帳の金の80%は使いきっちまおうぜ。』
 そうだ、次はあの崖の上を緑の森にするという計画だった。遼一と顔を合わすこともなかったからか、すっかり忘れていた。
「苗木やら肥料やらを買い占めるには、相当な金が掛かりそうだからな。」
『ああ。木を植える前に、まずあそこの土をどうにかしなきゃならない。とてもあそこに木々が十分に育つだけの栄養があるとは、どうにも考えにくいからよ。』
「木を植える範囲ってのは、どのくらいの広さなんだ?」
『あの崖の先端を中心に、半径約1qってトコだな。そこから先は、もう舗装されちまってるからよ。』
 あの崖の半径1q内は、既に道路に変わってしまっている。俺は今まで、その道路の脇にある歩道からはみ出して、あの崖まで歩いてきたのだ。
「よっしゃ、それならさっそく、苗木やら肥料やらを買い占めに行かないとな。」
『そうだな。しかしかなりの重労働になりそうだから、覚悟して置いた方がいいかもよ?』
「まーな。でもまぁ、オレとお前なら大丈夫だろ?」
『ああ、当然だ。』
 そう、俺達は何でも出来る。生きることを除けば。
 望む物は何でも手に入る。ただし、生き永らえることを望んでも、それは手に入らない。
 俺達は無力だ。そのことを解っていても、俺達は強がって見せた。それが過ちだとも知らず。



11月19日 PM4:37

「ぐはー・・・・・・こりゃあ参るな。」
「まぁ、これを終わらせれば、あとは苗木を植えるだけだ。もっとも、それに至るまでが大変なんだけどな。」
 そう。俺達は今、穴を掘っている。というか、地面を削っている。スコップで表面の軟らかい土を掘り出し、そこに新しい土を混ぜ、また元に戻すという作業を俺達はずっと繰り返していた。
 地質的にこの辺りの土は、養分が決定的に少ないようなのだ。これでは苗木を植えても、すぐに枯れてしまう。そんな問題を解決すべく、俺達はまず土をどうするかを考えた。その結果、養分を含んだ土を地面に混ぜ、そして時間を掛けて養分を増殖させることにしたのだ。それから木を植えて、この近隣を森にするのだ。
「それにしても・・・・・・くっせぇ〜!!」
 もう臭くて臭くて堪らない。それもそのはず、現在混ぜている肥料入りの土は、動物の糞尿を元にした本格的用土なのだ。軽トラを買い、それに詰めれるだけ詰めてきた。
「おい遼一! 今夜は帰る前に、絶対に銭湯行くぞ!」
「わかってるよ。そのために、バスタオルとシャンプーも用意しておいた。」
 流石は遼一、用意周到だ。こんな体臭を付けたまま、学校に行けるはずがない。


PM8:23

「くは〜・・・・・・生き返る〜。」
 でかい湯船につかり、溜息を付く。重労働をした後の風呂は、体を安らげてくれる。
 午後9時まで開いている銭湯だ。平日で、しかも閉店までもう少しということもあって、ここは俺と遼一の貸し切りだった。
「あーあ、久々に安らいだ気分だ・・・・・」
「もうちょっと休らいでてくれ。オレは体洗ってくるから。」


 男二人だけで湯船に使っているというのも、少々変な気分だ。
 修学旅行などで男全員で風呂に入るのなら判るが、こんなにも親密な者同士が、二人だけで風呂に入っているという話はあまり聞かない。
「武・・・・・・武は、オレに会えて良かったか?」
「え?」
「オレはお前に再会できて良かったけど、お前は・・・・・・お前はどうなんだ?
最後の死に際までオレに付き合うことに、後悔してないか?」
 そうだ。全てをやり遂げた後、俺はこの男と一緒に死ぬのだ。
 その言葉を受け、俺はこう答えた。
「オレは・・・・・・遼一にもう一回会えて、良かったと思ってる。昔の友達だからじゃない。今この時間を共有できる人ができたこと、それがメチャクチャ嬉しいんだ。
出来るならオレは、お前の生涯の友達でありたい。だから、別に後悔なんてしてないよ。」
「・・・・・・・・・そうか。」
 そう言って、遼一は湯船から出た。側に置いてあったシャンプーと石鹸を取り、出口へと向かっている。
「もうそろそろ時間だ。今日はもう帰ろうぜ。」
「あ、もうそんな時間だっけ? そうか、じゃー行くか。」
 俺も頭に乗っていたタオルを取り、遼一の後に続いた。



11月30日


「お・・・・・・終わったぁああ〜〜〜!!」
 遂に終わらせることが出来た。崖の先端を中心に約1kmに、まんべんなく土を埋めていった。
「これからしばらくの間、養分が増えるのを待つ。まだ土が成熟してない間に木を植えると、土が枯れちまうからな。」
「お〜、そりゃ好都合だ。こっちはしばらくの間、重労働はやりたくねぇよ・・・・・・」
 あれから土を混ぜこぜする作業で、肩と腰はもうガタガタである。
「これから2週間後に木を植える。土を植えるよりは簡単だろ。」
「ああ。大体三日もありゃあ終わるだろうな。」




12月16日 PM3:21


 あれから2週間後、土は完全に成熟しきった。それから苗木を植える作業に入り、今はもう崖の先端近くに木を植えるだけとなった。
 遼一の言ったとおり、それほど手間の掛かる作業ではなかった。土に木を埋めるだけの作業だったので、あまり腕力を消耗しなかったことが大きい。
 そして今、俺達は菊地達の元に向かっている。今、言っておかねばならないことがあるのだ。

 既にHRは終了していたようで、生徒の約5割は帰っている。そして、菊地・板谷・奈帆の三人は、窓際の隅の方に溜まっていた。
「おう、3人とも。ちょっといいか?」
「? 何スか?」
「何か用かぁ?」
「どうかした?」
「いやな、今夜ちっと、俺の部屋でさ・・・・・・・・・」



PM7:24 遼一の部屋にて


『カンパーイ!!』
 全員が手にしていたビール缶を上に掲げる。5人とも遼一の部屋で呑んでいる最中なのだ。
 俺と遼一は、最後の課題『ピグミーランドで遊びまくる』を実現させるために、三度東京へ赴かなければいけない。それが完了して戻ってくる頃には、もう学校は冬休みに入っているだろう。そうなれば、菊地達を会う機会も減り、お別れを言うことが出来なくなる。
 そうならないために、今開いてる期間中に飲み会をブッキングした。そう、これはお別れパーティーなのだ。
「しっかし、何でまたこんな時にパーティーやんだぁ? 明日が日曜で良かったけどよ。」
「そういやそうっスね。何か記念でもあったんスか?」
「何かの記念日とかしか、こんなパーティーやらないはずよね。」
 そう、これが普通のパーティーじゃないことに、3人も気付いていたようだ。
 俺が何か言っておこうと口を開き掛けたが、遼一の方が先に口を開いた。
「・・・・・・実は、よ。」
 その口調は、重苦しそうだ。
「これでお前達と合うのが、最後かもしれな―――――――」


ピンポーン!


 突如、室内にインターホンの音が鳴った。
「あ、わりぃ。誰か来たみたいだ。」
 そう言って、遼一が玄関に向かう。そうやってドアまで行き、鍵を開けるのを見ていたが――――――
「あ・・・・・あんた達、誰?」
 その言葉を耳にして、俺も玄関に赴いた。

 そこにいたのは、強面でスーツ姿の男二人組だった。一人は慎重170ちょっとで、筋肉隆々の体格。もう一人は180以上ありそうな身長と、引き締まった印象を与える細さをしていた。
「夜分失礼。僕達は、金宮署の者なんだが・・・・・・」
 身長の低い方が、警察手帳を見せる。それと同時に、後ろに控えていた背の高い男も、胸ポケットからそれを取り出した。
「刑事さんが何か用?」
「いや、なに。ここ最近、妙な事件が連発しているだろう? それで話を伺いたくてね。」
「はぁ? 何でオレ達が取り調べ受けなきゃいけないんだよ?」
 遼一が言うと、細長い男が怒鳴った。
「とぼけるんじゃない! 貴様らがやったって事は既に――――――」
 細長が遼一の胸ぐらを掴もうとすると、チビがそれを片手で制した。
「まあ落ち着け。とにかく、ここでハッキリとさせてからだ。
 ああ、ごめんごめん。話がまだだったね。それじゃあ、説明するよ。
 まず順を追って説明するが、この間君達の高校で、放火があっただろう? 幸い怪我人は出なかったが、校舎は全焼という惨事になった。
 それと、広域暴走族が一夜にして壊滅された事件、君達も知ってるだろう? あれについて話を聞きたくてね。」
「はあ? 何でオレがそれで連行されなきゃいけないわけ?」
 遼一はとぼける。流石であるが、刑事達の方も何か知っていそうだった。
「まあ、急かすなよ。学校での放火事件だが、あれについて、警備員から話を聞いたんだ。すると『犯人はマスクを付けていたので顔は解らないが、声はしっかりと聴いた』と証言していた。
 ちなみに放火する動機がある人間の中で、アリバイが証明されていないのは君と、そこにいる倉成武君だけなんだよ。」
「あ・・・・・・・・・!!」
 遼一の口が大きく開かれる。これは全くの誤算だった。まさか俺達の声を聴かれていたとは。
「さらに、広域暴走族の一件についても、同じ事が言える。証言によると、襲撃をかけてきた人間の内の一人が、相方のことを『遼一』と呼んでいたらしいね?」
「・・・・・・・―――――――!!!」
 しまった。完璧に俺のミスだった。
 迂闊にも俺は、敵の目の前で遼一の名を叫んでしまっていた。それがこんな所で仇となるとは。
 いずれにせよ、このままではマズイ。どうすればいいのだ?
「まあ、詳しい話は署で聞こう。付いてきてくれたま―――――――」


ゴスッ!!


 遼一の頭突きが、チビに炸裂した。突然の不意打ちを喰らったせいで、チビは気絶して倒れた。
「武っ!!!」
 遼一が叫んだ。一瞬にして俺は遼一の意図を理解した。
 助走を付け、全速力で走る。そして全力でジャンプし、遼一とチビを飛び越え、細長の顔面をロックオンした。
「死んでろ!!」
 飛び膝蹴りが鼻面にヒットした。不意打ちでこれを食らうのは、かなり痛い。
 俺達の奇襲攻撃によって、危機は免れた。だがこうしているわけにもいかない。ここにこいつらが来ると言うことは、警察は既に俺達を逮捕するに足る証拠を得たということだ。
「かなりヤバくなってきたな・・・・・・どうするよ、遼一?」
「こうなりゃ仕方ない。今の残ってる課題をサッサと片付けて、目的地の東京に逃げ込もう。」
 そう、東京ならバッチリだ。人目が多いので、目撃されてもそれ程心配は要らないだろう。
「ど・・・・・・どうしたんスか?」
 菊地が不安気な表情で、俺達の顔を覗き見た。まだ状況が理解できていないのだ。
 そう、俺達はまだこいつらに状況を説明していなかった。別れの挨拶もまだだったのだ。
「遼一・・・・・・こいつらにも・・・・・・」
「ああ、わかってる。」
 遼一は再び室内に戻ると、菊地達3人に説明した。
「悪いんだけど、急用が出来た。オレと武はソッコーで東京に向かわなきゃいけない。」
「と、東京!?」
「な、何があったってんだ!?」
「どうしたんスか、遼一さん!」
 3人が口々に疑問を口にする。遼一は『静かに』といったジェスチャーでみんなを静まらせた。
「まあ聞いてくれ。ちょっとみんなには言えない都合でな・・・・・・ごめん。
 でも最後に聞いてほしい。どうしても皆に言っておかなきゃいけないことがあるんだ。
 それは・・・・・・」
 少しだけ間を置くと、遼一はこう言った。
「・・・・・・今まで、ありがとな。」
 それだけだった。後は何も言い出さなかった。自然に俺も、遼一の後ろに立っていた。
「ちょっと、オレからもいいか?」
 俺も伝えておきたいことがある。3人はこの世で唯一の、俺達の遺言を聞いてくれる人間だから。
「オレさ、みんなと一緒に入れて、嬉しかった・・・・・・心の底から、楽しかったよ。
オレが・・・・オレと遼一が、居なくなっても・・・・・・・・・・・・オレ達のこと、忘れないでくれよ?」
 そう・・・・・・それだけが、俺の願い。誰かに忘れられたくない、それだけが俺の願いだった。
 ただそれだけの為に、色々なことをやってきた。だけど、そんなことをしなくても、ここに俺達の存在を刻みつけてくれる人が居る。
 それだけで、少なくとも俺は満たされていた。
「さて、長居は無用だ。行くぜ、武。サッサとケリを着けないとな。」
「・・・・・・ああ。」
 いつまでもこうしちゃいられない。早くしないと、第二陣が校内とも限らない。
 軽トラは遼一のマンションの駐車場においてある。残りの苗木もあそこに積んであるから、すぐに出発できるはずだ。
「通帳は持ってるよな?」
「ああ、バッチシ。残高は500万円、カードも2枚あるぜ。」
「上等! じゃあ、行くぜ!!」
 そして俺達は駆け出した。最後に3人の姿を見納めながら。
「ちょ・・・・・・ちょっと待って!」
 奈帆が手を伸ばし、制しようとする。しかし、その手は俺達には届かなかった。
「「じゃあなー!! 生まれ変わったら、また何処かで合おうぜー!!!」」
 二人一緒にその言葉を言うと、再び疾走した。その間、一度も後ろを振り返らなかった。



「・・・・・・いよっしゃあああ!!!」
「かぁんせええええーーーーーーー!!!」
 二人で歓声を上げた。遂にここら辺一体を、木で埋め尽くすことが出来た。
 いつかこの先、木々は大木となる。そして、誰かがこの木々を植えたことを知るとき・・・・・・そうして初めて、俺達の願いは叶う。
「よし! このままパーキングエリアに突っ込むぞ!!」
「え!? ちょ、ちょっと、余韻に浸らせろ・・・・・・」
「そんな暇ねーよ!! 行くぞ!!」
 遼一は既に乗り込んでしまっている。俺も慌てて助手席に乗り込んだ。


「でもいいのか? 電車の方が危険性も少ないし、早いと思うんだが・・・・・・」
「いいや、あれだけ時間が経ってるんだ。オレ達のことは既に伝わっていて、駅には警官が張り込んでる可能性が高い。」
「でもそうなると、この高速も検問が張られてるんじゃ・・・・・・って、言ってる側からかよ!?」
 そう、言ってる側から検問が張られていた。制服姿の警官が『止まれー!』と身振り手振りで示している。
「お、おい! どーすんだ!?」
「簡単さ・・・・・・こーすりゃいいだけよ!!」
 思いっきりアクセルを踏み締める。その瞬間、車は一気にスピードを増し、俺は席の背もたれに叩きつけられた。
「オラオラどけえぇぇ!!! 轢き殺されてぇかああああーーーーーーーっっ!!!」


ガッシャーン!!!


 一気に検問を強行突破し、難を逃れた。幸いにして、誰も轢き殺さずに済んだ。それは幸運だった。
「いや〜、人通りが無くて良かった。いつもここら辺は苦麗無威がハバ効かせてたからな、その名残なんだろーよ。」
 涼しげな顔で言ってのける遼一が恐ろしかった。


「じゃあ、ここで一旦お別れだな。」
 俺達は駅で軽トラを降りた。ここはまだマークされてはいない。
 ここからは二手に別れた方が得策だと判断した。そのため、同じ東京行きでも、それぞれ違う電車に乗って東京へ行くことにした。
「よし! それじゃ24日、イヴに会おうぜ!」
「ああ!!」












あとがき

 いや〜、これでもうそろそろ終盤です。時間ってのは流れるのが早すぎるw。
 全ての真実も明らかになったし、後はブッチギって行くだけ〜!!・・・・・・なんですが、日程的にどうだろう(汗)
 まあとにかく、楽しみにしておいて下さい。とにかく、一番の見所は最終話なわけですから。そこで俺が本当にやりたかったことが詰まってるので。やっぱりそこら辺で最終的な評価を下してほしいですね。
 では、またお会いしましょう〜。

BGM:『Dear LIFE』SUGIZO


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