「ねえ、武・・・・・・何もかも嫌になって、死にたいって思ったこと、ある?」 「――――――――――ない。」 そう。たとえ死にたくても、俺の背負った物が、それを許さない。 約束を果たさなければならない。それだけのために、俺は今まで生きてきたのだから。 「こんな所でくたばってたまるか!! 全員生きて脱出してみせる!! この暗闇から、抜け出してみせる! 救い出してみせる!! 絶対に、俺は諦めたりしない!! 全員で、生きて地上に戻るんだよ!!」 もう見たくはない。自分の非力さ故に、誰かが死んでいくのを。 これ以上は耐えられない。俺の大切な人達が苦しむのを、黙ってみているだけなのは。 『たかが人間一人に何が出来る?』 あいつは、そう言った。哀しみを秘めた瞳で。 確かに、そのことを否定はしない。人間一人に出来る事なんて、たかが知れている。まして俺みたいに、特別頭が良いわけでも、体力が有るわけでもない平凡な大学生に出来る事なんて、微々たるものだろう。あいつみたいなリアリストでなくとも解ることだ。現に俺が理解してる。 だけど俺は、まだ生きている。生きている内は終わりじゃない。 そもそも俺が諦めてしまった時点で、全てが終わってしまう。それは全ての可能性を自ら放棄することに等しい。限りなく0%に近い可能性でも、まだフイにしたくはないのだ。 あいつは諦めてしまったけど、俺は諦めない。だってあいつにも、救いはあったはずなのだから。 「・・・・・・最後の手段を取るしかない。」 |
EVER17 〜BEFORE 2017〜 HELLCHILD作 |
「・・・・・・・・・」 遼一は黙ったままだ。無表情を保っている。その奥底に潜む感情を、俺は図り知ることが出来ない。 ――――――――知りたい。 心の底から思った。彼の全てを知り、そして5年間のブランクを全て埋め尽くしたかった。 唯一の絆を取り戻したかった。もう一度だけでいい、堅く結ばれていたい・・・・・・その思いだけが、俺を支配していた。 「・・・・・・ごめんな。」 不意に口から出た言葉。自分でもそれが謝罪の言葉だと認識するのには、少々時間を要した。 「何で謝るんだよ?」 「入学式の時にもお前の名前を聞いていたはずなのに・・・・・・ずっと思い出せなかった。 初めて出逢ったときにも、全然わからなくて・・・・・・」 「気にすんなよ・・・・・・・・むしろ思い出してほしくなかった。」 「え?」 そういって座り込む。足元には夕日に染まった海が広がっている。俺も遼一の隣に座り込んだ。 物理的な距離は、これで縮まる。でも精神的な距離は、未だ縮まらない。 遼一が全てを話してくれれば、この距離も埋まるのだろうか? それは疑問のままだ。 「・・・・・・ずっと変わらないんだな。」 「何が?」 「この夕陽だよ。初めてお前とこの場所に来たときから、何一つ変わってない。」 遼一の言葉通り、昔と何一つ変わらなかった。 ここから見える夕陽は、全てを黄金色に染める。地面に生える草、眼下に広がる海、そしてこの夕陽を眺める俺達をも。 子供の頃、遼一を連れてここに来たこともあった。あの時遼一は、この夕陽を『きれい』と評した。 俺は嬉しかった。初めて秘密を共有する人間が現れたこと。そして、この風景を一緒に見られる友が出来たことが。 「出来るなら変わってほしくない・・・・・・この風景も、オレも武も。」 「・・・・・・オレと遼一は、変わってしまったよ。」 そう。束の間の別離、そして二人の間に流れる時間が、俺達を変えた。そしてそれは、俺の中から唯一の絆の記憶をも奪っていった。 だが今こそ、取り戻す。過ぎ去った時間と、消え去った絆を。 「・・・・・・もう話すしかないんだな、全てを。」 覚悟を決めたように、遼一が言う。決意と諦めの入り交じった、複雑な声だ。 「・・・・・・19年前、高校生だった母は"ある男"と付き合っていた。」 両方とも本気で愛し合っていたように見えた。けど、それはウソだった。 その男は母に会うたびに、金を要求していた。 次第に要求する金額は高まっていく。 学校の金庫を開けてまで、男に貢ごうとしたとき。 男は母を捨てて、何処かの女と遠くに行ってしまった。 本当はそいつ、タチの悪いプータローだったんだ。 学校から金を持ち出していることが発覚して、母は高校をクビになった。 家族にも勘当され、行き場所を無くした。仕事もロクな物が見当たらない。 母はその男を恨んだ。自分をゴミのように捨て、自分の人生を粉々に破壊した男を。 やがて母は妊娠した。高校を退学してからホンの僅かの間に気付いた。 だが母は、例の男以外と交わりを結んだことはなかった。 それはすなわち、その子は男との間に出来た子供だという事を示していた・・・・・・ 「・・・・・・・・じゃあ、その男の子っていうのが・・・・・・・・」 「オレだよ。母の死後、遺留品の中から日記帳が見つかった。そこで読んだんだ。 とりあえず4歳くらいまではオレをちゃんと育ててくれた。だけど、オレの顔はその男に似ていたらしい。 母はやり場のない怒りを、全てオレにぶつけてきた。男のせいで生活は貧しく、その日の食費すら切り詰めていかなければいけない。高校を不祥事で中退した母には、まともな職業は用意されていなかった。少ない時給で扱き使われる。そしてオレというお荷物まで付いてきた。 全てを男にぶつけたくても、その男の行方すら解らない。だからオレが代わりに、母の怒りを受け止めた。 毎日毎日殴られ続けた。毎日一つは体の何処かに傷を作る。そして年齢一桁ながら、小間使いのように扱われる。でもそんな生活を続けていても、オレは母を愛していた。オレが母の怒りを受け止めていれば、そしてオレが母のために尽くしていれば、いつかオレのことを愛してくれるんじゃないかを思っていた。 けど、それは楽観的な考えだった。あの日、オレはそれを思い知った。」 金切り声をあげながら包丁を振り回し、オレの方へ向かってきた。 これまでもカッターやハサミや皿を投げつけられたことはあった。 だが今度は直にオレを刺そうとしている。母の眼には殺意があった。 走りながらオレの方へ向かってくる。絶叫しながら刃先をオレに向ける。 殺されることを確信したとき、本能が体全体を支配した。 タックルで母を吹っ飛ばし、包丁を奪い、それで―――――――― 母を、殺した。 「・・・・・・心臓を一突き。一瞬だった。少しだけ呻き声を上げたかと思えば、すぐに体中が冷たくなった。」 「・・・・・・それで、母親を殺したって・・・・・・」 「ニュースでも取り沙汰されてたからな。保護者経緯で伝わってきたんだろう。 オレは施設に送られた。経歴上、そこでもオレは仲間外れだった。近付くと殺されるという恐怖感、それが他の奴等からは伝わってきた。ずっとオレは、孤独だった・・・・・・」 ―――――――――真実。 信じられなかった。だが、それは真実。 俺に遼一の真実を受け止めてやれるのか。そんな不安が沸き上がってくる。 「・・・・・・そんな時、武と会ったんだ。」 「え・・・・」 「事件を起こしてから二年後、オレは武と出会った。それまでも事件のことが尾を引いていて、みんなオレを避けていた。 けど武は・・・・・・そんなことはまるで気にしなかった。何も知らないのかと思ったけど、それも違った。全てを知った上で、オレに親しくしていた・・・・・・」 また、あの眼だ。何処か遠くを見る目・・・・・・想い出を見る眼。 そう、俺は知らないうちに遼一を助けていた。そして、ずっと遼一の心を支えてきたのだ。 今まで俺は、誰も救えないし救わない、俺のことを見てくれる人間なんて居やしないと思っていた。 しかし遼一は、ずっと俺を支えにしてきた。何も解っていなかった、この俺を。 「武と別れて、オレはまた独りに戻った。昔からオレは、他人との距離を縮める術を知らなかった。それにプラスして、事件の事がまだ忘れられていなかった。 もうどうでもいいと思った。あっちが理解してくれないのなら、こっちから壊してやる。そう思って、狂ったように悪事をした。酒に煙草に女遊び、先公の車をブッ潰し、評判の悪い3年に因縁ふっかけてボコボコにした。 武と再び出会うまで、オレはずっと独りだった。誰もオレの周りには居なかった・・・・・・」 「・・・・・・そんな。」 そんなことはない。 板谷や菊地、奈帆だっている。みんな遼一を慕っていたはずだった。 そして俺も、遼一のことが好きだった。一生友達でいたいと、どれだけ切に願った事か。 出来るなら昔に戻りたい。何も知らない友達同士だった、あの頃へ。 それを伝えようと口を開いたとき、遼一の様子が一変した。 「―――――――――――ッ!」 突然、顔色が変わった。あの時と同じだ。 顔は真っ青になり、顔中から汗が噴き出している。明らかに何かの病気を患っている。 「お、おい遼一!? しっかりしろ!!」 「だ・・・・・・大丈夫だ・・・・・・」 「ば、バカ野郎、大丈夫なわけねーだろうが!! 早く医者に・・・・・・」 「お、大袈裟な・・・・・・平気だって・・・・・・ゴホッ!!」 突然、遼一がゴホゴホと咳き込んだ。普通の風邪の患者の咳ではない。もっと大きく派手な物だった。 「ゴホッ! ゴッ、ゲホッ・・・・・・グッ・・・・・・」 ――――――――――――ゴボッ! 血が、溢れた。 遼一の口から吐き出されたそれは、彼の掌から零れ、地面に滴り落ちていった。 その光景に、俺はしばらくの間茫然となった。やがて真っ白になった頭が元に戻ってきたとき、遼一が血塗れの口を開いた。 「・・・・・・病院に行っても無駄なんだよ。そう宣告された。」 その一言一言は、頭の中で重く鳴り響き、ループしていた。 「具体的な病名は聞いていない。ただ不治の病なんだって事・・・・・・それだけはオレにも理解できた。そして、具体的な治療法が発見されていないって事も。」 「・・・・・・・・・・・・嘘だ。」 「嘘じゃねーよ。ウイルス性の病気で、オレの場合は肺に感染しているようだ。 発作と共に吐血するようになったら、それはもうオレの命が永くないことを意味している・・・・・・医者はそう言っていた。」 永くない・・・・・・・・・遼一の命が? 「2014年を無事に迎えられるかどうかも危うい。それほどまでに病気は進行している。」 『1月1日・・・・・・・・・それがオレ達の死ぬ日だ。』 あの言葉の意味が、ようやく理解できた。そう、あれはこの事を見越しての話だったのだ。 あの時点で遼一は、自分の病状を医師から知らされていたのだろう。それであの時、自分たちの死ぬ日を定めたに違いない。 「・・・・・・ひょっとして、お前が死にたい本当の理由って・・・・・・」 「・・・・・・・・・哀しすぎたから。」 そう答える遼一の表情に、初めて感情が表れた。それは一般的に『悲哀』と称される感情。 だが遼一の背負う悲しみは、そんな言葉すらも無意味に感じさせた。彼の背負う感情は果てしなく重く、そして痛い・・・・・・・・・言葉で語り尽くすことを愚かしく感じさせる。 「今まで生きてきて、幸せを実感した事なんて一度もなかった。母親には殺されかけ、周囲の人間からは疎まれ続け・・・・・・そうして何も生きている喜びを何も知らないまま死ぬのが、ひどく哀しかった。」 そこに存在するのは、絶望。 誰からも愛されなかったという孤独感。そして苦しみを背負ったまま、幸せをかみしめる事なく死んでいくという虚しさ。遼一の心にある物は、それだけだった。 「・・・・・・こんな汚れきったオレなんて、最初から生まれなければ良かったんだ。」 そう吐き捨てる。自分がさも醜い生き物であるかのように。 「最初から生まれてこなけりゃ・・・・・・こんな思いもしなくて済んだ。母親に虐待されることも、周囲から差別されることも、死ぬことを怖がる必要すらなかった・・・・・・こんなにも辛くて短い人生を遂げる必要だってなかった。 ・・・・・・・・・いっそのこと、全部なかったことに出来りゃあいいのに。そうすれば、オレも救われるんだ。」 自嘲的な口調だった。その言葉には、一切の楽観も含まれていない。 「・・・・・・何も、無い・・・・・・・・オレには、何もない。何も持ってない。」 ――――――――――――涙。 初めて見せた涙。俺の前で、初めて泣いた遼一。 それは頬を伝い、地面に落ちる。小さな粒が、地面を少しずつ濡らす。 「辛くて、悲しくて、苦しくて・・・・・・誰かに助けを求めたくても、誰も居なくて・・・・・・ 何のために・・・・・・・・・オレは、何のために生まれてきたんだ!!」 叫びは悲痛に木霊する。何処までも突き刺さる。 唇を噛み締め、拳を握り締める。涙は止めどなく溢れる。 「全ての命が祝福されてるなんて、そんなのは嘘だ!! オレはどうなってんだよ!? このオレの姿は、どう説明すりゃあいいんだよっ!!」 叫ぶ。喚き散らす。怒鳴りつける。 こんなにも感情を吐露する遼一を、俺は今まで見たことがない。 押さえつけてきた物が、全て流れ出した。そんな感覚だった。目を覆いたくなるほどの現実が、俺と遼一の前に立ちはだかった。それはオレだけの力では、到底消し去ることは出来ない。 「武・・・・・・オレ、何のために生まれてきたんだ・・・・・・?」 「・・・・・・・・・・・・」 答えられなかった。正確には、言葉を発することが出来なかった。 こんなにも残酷な真実を突きつけられて、俺は一体どうすれば良かったんだろう? 何処にも・・・・何処にも救いなんて無い。こんな非力な人間じゃ、目の前の現実を変えることなんて出来はしない。隣で悲しんでいる人間を、助けることもできない。 全てを語り終えた頃には、もう辺りは暗くなっていた。夜の闇に沈黙が充満する。俺達はその沈黙に身を任せ、ずっとそこに座り尽くしていた・・・・・・ やがて、陽が昇る。二人とも座ったまま眠っていたようだ。 こんなにも朝焼けが残酷だなんて考えた事もなかった。朝日が昇るたび、死刑台の階段を一歩ずつ踏み出していく。着実に、ゆっくりと、追い詰めるように、死は迫ってくる。嘲笑いながら。 「・・・・・・武ぃ・・・・・・」 「何だ?」 「・・・・ハラ減ったな。」 そういえば、昨夜からここにずっと居た。ということは、夕飯を食っていないのだ。道理で俺も腹が減っているわけだ。 「・・・・・・じゃあ、何処かに食いに行こうか?」 「・・・・そうだな。」 立ち上がり、二人で歩き出す。だが遼一の顔は、感情を失ったかのように無表情だった。 2013年 11月17日 それからしばらくの間、俺達は互いに顔を合わせることも、会話を交わすこともなかった。恐らく、お互いにどういう態度を取ればいいのか、それが解らなかったのだろう。 次に遼一と初めて会話を交わしたのは、あれから一週間が過ぎてからだった。 『とりあえず今回ので、通帳の金の80%は使いきっちまおうぜ。』 そうだ、次はあの崖の上を緑の森にするという計画だった。遼一と顔を合わすこともなかったからか、すっかり忘れていた。 「苗木やら肥料やらを買い占めるには、相当な金が掛かりそうだからな。」 『ああ。木を植える前に、まずあそこの土をどうにかしなきゃならない。とてもあそこに木々が十分に育つだけの栄養があるとは、どうにも考えにくいからよ。』 「木を植える範囲ってのは、どのくらいの広さなんだ?」 『あの崖の先端を中心に、半径約1qってトコだな。そこから先は、もう舗装されちまってるからよ。』 あの崖の半径1q内は、既に道路に変わってしまっている。俺は今まで、その道路の脇にある歩道からはみ出して、あの崖まで歩いてきたのだ。 「よっしゃ、それならさっそく、苗木やら肥料やらを買い占めに行かないとな。」 『そうだな。しかしかなりの重労働になりそうだから、覚悟して置いた方がいいかもよ?』 「まーな。でもまぁ、オレとお前なら大丈夫だろ?」 『ああ、当然だ。』 そう、俺達は何でも出来る。生きることを除けば。 望む物は何でも手に入る。ただし、生き永らえることを望んでも、それは手に入らない。 俺達は無力だ。そのことを解っていても、俺達は強がって見せた。それが過ちだとも知らず。 11月19日 PM4:37 「ぐはー・・・・・・こりゃあ参るな。」 「まぁ、これを終わらせれば、あとは苗木を植えるだけだ。もっとも、それに至るまでが大変なんだけどな。」 そう。俺達は今、穴を掘っている。というか、地面を削っている。スコップで表面の軟らかい土を掘り出し、そこに新しい土を混ぜ、また元に戻すという作業を俺達はずっと繰り返していた。 地質的にこの辺りの土は、養分が決定的に少ないようなのだ。これでは苗木を植えても、すぐに枯れてしまう。そんな問題を解決すべく、俺達はまず土をどうするかを考えた。その結果、養分を含んだ土を地面に混ぜ、そして時間を掛けて養分を増殖させることにしたのだ。それから木を植えて、この近隣を森にするのだ。 「それにしても・・・・・・くっせぇ〜!!」 もう臭くて臭くて堪らない。それもそのはず、現在混ぜている肥料入りの土は、動物の糞尿を元にした本格的用土なのだ。軽トラを買い、それに詰めれるだけ詰めてきた。 「おい遼一! 今夜は帰る前に、絶対に銭湯行くぞ!」 「わかってるよ。そのために、バスタオルとシャンプーも用意しておいた。」 流石は遼一、用意周到だ。こんな体臭を付けたまま、学校に行けるはずがない。 PM8:23 「くは〜・・・・・・生き返る〜。」 でかい湯船につかり、溜息を付く。重労働をした後の風呂は、体を安らげてくれる。 午後9時まで開いている銭湯だ。平日で、しかも閉店までもう少しということもあって、ここは俺と遼一の貸し切りだった。 「あーあ、久々に安らいだ気分だ・・・・・」 「もうちょっと休らいでてくれ。オレは体洗ってくるから。」 男二人だけで湯船に使っているというのも、少々変な気分だ。 修学旅行などで男全員で風呂に入るのなら判るが、こんなにも親密な者同士が、二人だけで風呂に入っているという話はあまり聞かない。 「武・・・・・・武は、オレに会えて良かったか?」 「え?」 「オレはお前に再会できて良かったけど、お前は・・・・・・お前はどうなんだ? 最後の死に際までオレに付き合うことに、後悔してないか?」 そうだ。全てをやり遂げた後、俺はこの男と一緒に死ぬのだ。 その言葉を受け、俺はこう答えた。 「オレは・・・・・・遼一にもう一回会えて、良かったと思ってる。昔の友達だからじゃない。今この時間を共有できる人ができたこと、それがメチャクチャ嬉しいんだ。 出来るならオレは、お前の生涯の友達でありたい。だから、別に後悔なんてしてないよ。」 「・・・・・・・・・そうか。」 そう言って、遼一は湯船から出た。側に置いてあったシャンプーと石鹸を取り、出口へと向かっている。 「もうそろそろ時間だ。今日はもう帰ろうぜ。」 「あ、もうそんな時間だっけ? そうか、じゃー行くか。」 俺も頭に乗っていたタオルを取り、遼一の後に続いた。 11月30日 「お・・・・・・終わったぁああ〜〜〜!!」 遂に終わらせることが出来た。崖の先端を中心に約1kmに、まんべんなく土を埋めていった。 「これからしばらくの間、養分が増えるのを待つ。まだ土が成熟してない間に木を植えると、土が枯れちまうからな。」 「お〜、そりゃ好都合だ。こっちはしばらくの間、重労働はやりたくねぇよ・・・・・・」 あれから土を混ぜこぜする作業で、肩と腰はもうガタガタである。 「これから2週間後に木を植える。土を植えるよりは簡単だろ。」 「ああ。大体三日もありゃあ終わるだろうな。」 12月16日 PM3:21 あれから2週間後、土は完全に成熟しきった。それから苗木を植える作業に入り、今はもう崖の先端近くに木を植えるだけとなった。 遼一の言ったとおり、それほど手間の掛かる作業ではなかった。土に木を埋めるだけの作業だったので、あまり腕力を消耗しなかったことが大きい。 そして今、俺達は菊地達の元に向かっている。今、言っておかねばならないことがあるのだ。 既にHRは終了していたようで、生徒の約5割は帰っている。そして、菊地・板谷・奈帆の三人は、窓際の隅の方に溜まっていた。 「おう、3人とも。ちょっといいか?」 「? 何スか?」 「何か用かぁ?」 「どうかした?」 「いやな、今夜ちっと、俺の部屋でさ・・・・・・・・・」 PM7:24 遼一の部屋にて 『カンパーイ!!』 全員が手にしていたビール缶を上に掲げる。5人とも遼一の部屋で呑んでいる最中なのだ。 俺と遼一は、最後の課題『ピグミーランドで遊びまくる』を実現させるために、三度東京へ赴かなければいけない。それが完了して戻ってくる頃には、もう学校は冬休みに入っているだろう。そうなれば、菊地達を会う機会も減り、お別れを言うことが出来なくなる。 そうならないために、今開いてる期間中に飲み会をブッキングした。そう、これはお別れパーティーなのだ。 「しっかし、何でまたこんな時にパーティーやんだぁ? 明日が日曜で良かったけどよ。」 「そういやそうっスね。何か記念でもあったんスか?」 「何かの記念日とかしか、こんなパーティーやらないはずよね。」 そう、これが普通のパーティーじゃないことに、3人も気付いていたようだ。 俺が何か言っておこうと口を開き掛けたが、遼一の方が先に口を開いた。 「・・・・・・実は、よ。」 その口調は、重苦しそうだ。 「これでお前達と合うのが、最後かもしれな―――――――」 ピンポーン! 突如、室内にインターホンの音が鳴った。 「あ、わりぃ。誰か来たみたいだ。」 そう言って、遼一が玄関に向かう。そうやってドアまで行き、鍵を開けるのを見ていたが―――――― 「あ・・・・・あんた達、誰?」 その言葉を耳にして、俺も玄関に赴いた。 そこにいたのは、強面でスーツ姿の男二人組だった。一人は慎重170ちょっとで、筋肉隆々の体格。もう一人は180以上ありそうな身長と、引き締まった印象を与える細さをしていた。 「夜分失礼。僕達は、金宮署の者なんだが・・・・・・」 身長の低い方が、警察手帳を見せる。それと同時に、後ろに控えていた背の高い男も、胸ポケットからそれを取り出した。 「刑事さんが何か用?」 「いや、なに。ここ最近、妙な事件が連発しているだろう? それで話を伺いたくてね。」 「はぁ? 何でオレ達が取り調べ受けなきゃいけないんだよ?」 遼一が言うと、細長い男が怒鳴った。 「とぼけるんじゃない! 貴様らがやったって事は既に――――――」 細長が遼一の胸ぐらを掴もうとすると、チビがそれを片手で制した。 「まあ落ち着け。とにかく、ここでハッキリとさせてからだ。 ああ、ごめんごめん。話がまだだったね。それじゃあ、説明するよ。 まず順を追って説明するが、この間君達の高校で、放火があっただろう? 幸い怪我人は出なかったが、校舎は全焼という惨事になった。 それと、広域暴走族が一夜にして壊滅された事件、君達も知ってるだろう? あれについて話を聞きたくてね。」 「はあ? 何でオレがそれで連行されなきゃいけないわけ?」 遼一はとぼける。流石であるが、刑事達の方も何か知っていそうだった。 「まあ、急かすなよ。学校での放火事件だが、あれについて、警備員から話を聞いたんだ。すると『犯人はマスクを付けていたので顔は解らないが、声はしっかりと聴いた』と証言していた。 ちなみに放火する動機がある人間の中で、アリバイが証明されていないのは君と、そこにいる倉成武君だけなんだよ。」 「あ・・・・・・・・・!!」 遼一の口が大きく開かれる。これは全くの誤算だった。まさか俺達の声を聴かれていたとは。 「さらに、広域暴走族の一件についても、同じ事が言える。証言によると、襲撃をかけてきた人間の内の一人が、相方のことを『遼一』と呼んでいたらしいね?」 「・・・・・・・―――――――!!!」 しまった。完璧に俺のミスだった。 迂闊にも俺は、敵の目の前で遼一の名を叫んでしまっていた。それがこんな所で仇となるとは。 いずれにせよ、このままではマズイ。どうすればいいのだ? 「まあ、詳しい話は署で聞こう。付いてきてくれたま―――――――」 ゴスッ!! 遼一の頭突きが、チビに炸裂した。突然の不意打ちを喰らったせいで、チビは気絶して倒れた。 「武っ!!!」 遼一が叫んだ。一瞬にして俺は遼一の意図を理解した。 助走を付け、全速力で走る。そして全力でジャンプし、遼一とチビを飛び越え、細長の顔面をロックオンした。 「死んでろ!!」 飛び膝蹴りが鼻面にヒットした。不意打ちでこれを食らうのは、かなり痛い。 俺達の奇襲攻撃によって、危機は免れた。だがこうしているわけにもいかない。ここにこいつらが来ると言うことは、警察は既に俺達を逮捕するに足る証拠を得たということだ。 「かなりヤバくなってきたな・・・・・・どうするよ、遼一?」 「こうなりゃ仕方ない。今の残ってる課題をサッサと片付けて、目的地の東京に逃げ込もう。」 そう、東京ならバッチリだ。人目が多いので、目撃されてもそれ程心配は要らないだろう。 「ど・・・・・・どうしたんスか?」 菊地が不安気な表情で、俺達の顔を覗き見た。まだ状況が理解できていないのだ。 そう、俺達はまだこいつらに状況を説明していなかった。別れの挨拶もまだだったのだ。 「遼一・・・・・・こいつらにも・・・・・・」 「ああ、わかってる。」 遼一は再び室内に戻ると、菊地達3人に説明した。 「悪いんだけど、急用が出来た。オレと武はソッコーで東京に向かわなきゃいけない。」 「と、東京!?」 「な、何があったってんだ!?」 「どうしたんスか、遼一さん!」 3人が口々に疑問を口にする。遼一は『静かに』といったジェスチャーでみんなを静まらせた。 「まあ聞いてくれ。ちょっとみんなには言えない都合でな・・・・・・ごめん。 でも最後に聞いてほしい。どうしても皆に言っておかなきゃいけないことがあるんだ。 それは・・・・・・」 少しだけ間を置くと、遼一はこう言った。 「・・・・・・今まで、ありがとな。」 それだけだった。後は何も言い出さなかった。自然に俺も、遼一の後ろに立っていた。 「ちょっと、オレからもいいか?」 俺も伝えておきたいことがある。3人はこの世で唯一の、俺達の遺言を聞いてくれる人間だから。 「オレさ、みんなと一緒に入れて、嬉しかった・・・・・・心の底から、楽しかったよ。 オレが・・・・オレと遼一が、居なくなっても・・・・・・・・・・・・オレ達のこと、忘れないでくれよ?」 そう・・・・・・それだけが、俺の願い。誰かに忘れられたくない、それだけが俺の願いだった。 ただそれだけの為に、色々なことをやってきた。だけど、そんなことをしなくても、ここに俺達の存在を刻みつけてくれる人が居る。 それだけで、少なくとも俺は満たされていた。 「さて、長居は無用だ。行くぜ、武。サッサとケリを着けないとな。」 「・・・・・・ああ。」 いつまでもこうしちゃいられない。早くしないと、第二陣が校内とも限らない。 軽トラは遼一のマンションの駐車場においてある。残りの苗木もあそこに積んであるから、すぐに出発できるはずだ。 「通帳は持ってるよな?」 「ああ、バッチシ。残高は500万円、カードも2枚あるぜ。」 「上等! じゃあ、行くぜ!!」 そして俺達は駆け出した。最後に3人の姿を見納めながら。 「ちょ・・・・・・ちょっと待って!」 奈帆が手を伸ばし、制しようとする。しかし、その手は俺達には届かなかった。 「「じゃあなー!! 生まれ変わったら、また何処かで合おうぜー!!!」」 二人一緒にその言葉を言うと、再び疾走した。その間、一度も後ろを振り返らなかった。 「・・・・・・いよっしゃあああ!!!」 「かぁんせええええーーーーーーー!!!」 二人で歓声を上げた。遂にここら辺一体を、木で埋め尽くすことが出来た。 いつかこの先、木々は大木となる。そして、誰かがこの木々を植えたことを知るとき・・・・・・そうして初めて、俺達の願いは叶う。 「よし! このままパーキングエリアに突っ込むぞ!!」 「え!? ちょ、ちょっと、余韻に浸らせろ・・・・・・」 「そんな暇ねーよ!! 行くぞ!!」 遼一は既に乗り込んでしまっている。俺も慌てて助手席に乗り込んだ。 「でもいいのか? 電車の方が危険性も少ないし、早いと思うんだが・・・・・・」 「いいや、あれだけ時間が経ってるんだ。オレ達のことは既に伝わっていて、駅には警官が張り込んでる可能性が高い。」 「でもそうなると、この高速も検問が張られてるんじゃ・・・・・・って、言ってる側からかよ!?」 そう、言ってる側から検問が張られていた。制服姿の警官が『止まれー!』と身振り手振りで示している。 「お、おい! どーすんだ!?」 「簡単さ・・・・・・こーすりゃいいだけよ!!」 思いっきりアクセルを踏み締める。その瞬間、車は一気にスピードを増し、俺は席の背もたれに叩きつけられた。 「オラオラどけえぇぇ!!! 轢き殺されてぇかああああーーーーーーーっっ!!!」 ガッシャーン!!! 一気に検問を強行突破し、難を逃れた。幸いにして、誰も轢き殺さずに済んだ。それは幸運だった。 「いや〜、人通りが無くて良かった。いつもここら辺は苦麗無威がハバ効かせてたからな、その名残なんだろーよ。」 涼しげな顔で言ってのける遼一が恐ろしかった。 「じゃあ、ここで一旦お別れだな。」 俺達は駅で軽トラを降りた。ここはまだマークされてはいない。 ここからは二手に別れた方が得策だと判断した。そのため、同じ東京行きでも、それぞれ違う電車に乗って東京へ行くことにした。 「よし! それじゃ24日、イヴに会おうぜ!」 「ああ!!」 |
あとがき いや〜、これでもうそろそろ終盤です。時間ってのは流れるのが早すぎるw。 全ての真実も明らかになったし、後はブッチギって行くだけ〜!!・・・・・・なんですが、日程的にどうだろう(汗) まあとにかく、楽しみにしておいて下さい。とにかく、一番の見所は最終話なわけですから。そこで俺が本当にやりたかったことが詰まってるので。やっぱりそこら辺で最終的な評価を下してほしいですね。 では、またお会いしましょう〜。 BGM:『Dear LIFE』SUGIZO |
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