〜2月14日におきた事〜
                              クロロ


 「まいったな・・・これは。」
 会社からの帰りの電車の中、倉成武は鞄の中にたくさん詰まれたチョコを見てつぶやいた。       
「まさかこんなにもらえるとは、俺もまんざら・・・って、
やばいよな、絶対。つぐみもいい顔しないだろうし。」
 武はバレンタインデーのチョコをたくさん貰え、嬉しい反面心配だった。LeMUの事故の後17年ぶりにつぐみと再会した武はあの後プロポーズをし、つぐみもこれを受けた。2人の子供である、ホクトと沙羅とも一緒に暮らせるようになり、仕事のほうも優(=優美清春香菜)が事前に用意してくれていた製薬会社に就職した。  
 
今、武は同じLeMUでの事故の被験者である、優や桑古木、空と同じ場所で働いている。
 電車が駅に着き、電車を降り改札を出た武は考えながら家路に着いた。
「さあ、これからどうする?今から全部食べるのは無理だ、かといって捨ててしまうのは間違ってるし・・・。しかし、これいったい何個あるんだ?」
 武は歩きながらざっとチョコの数を数えてみた。大小合わせて17個あった。
 「新記録更新だな・・・お、このなんともいえない形をしてるのは、ココがくれたやつだな、しかしまさか仕事先まで来るとは・・・まあ元気そうだったので何よりだけど・・・。そういやなんで桑古木は俺がココから貰ったときあんなに睨んでたんだ?」     
それは武の方が桑古木のよりも大きなチョコをもらったからだが武は知る由もない。
 「んで、このものすごく几帳面に包装してるのが、空のだったな、あいつ渡してくれるとき顔真っ赤だったけど酒でも飲んだのかな」
 もちろん、そんなはずがなく別の理由で赤くなっていたのだが、武は気づかない。
 「それで・・・意外のも普通だったのが優のなんだよな・・・しかしあいつももう少しこう・・・おしとやかにならないもんかな、黙ってれば結構魅力あると思うんだが。今日も貰えるだけありがたく思いなさい、って言ってたし。」
 しかし優がチョコをあげたのは武だけということを武はもちろん知らない。
 「ふい〜マジでどうするかって、もう家じゃん。」
 いろいろ考えているうちに武は家の前まで来ていた。
「え〜い、ここまで来たらしょうがない。見つかったらそれまでだ、ちょっと怖いが・・・」
 武は玄関を開けて中に入った。
 「ただいま〜」
 そういって玄関に腰を下ろした武にホクトが階段の上から覗き込むようにして声をかけた。
「あっ、お父さん、お帰りなさい。」       
「おう、ホクト、ただいま。・・・あれ、つぐみたちは上か?」
 普段ならば台所で料理を作っているつぐみや沙羅がいるはずなので1階の電気はついているはずなのだが今日は消えていた。
「ううん、なんか用事があるとかで2人で出掛けていったよ。それでお母さんがカレー作ってくれてるから暖めて食べよう。」
 武は2階の自室に行きカバンの中のチョコを取り出し、ひとまず机の引き出しに押し込んだ。
 「よし、これでいい。」
 そのとき1階からホクトの呼ぶ声が聞こえたので武はせっせと着替えを済まし部屋を出て行った。
 「いただきます。」
 武とホクトは2人でテーブルに、座り温めたカレーを食べた。やはり男2人で食事をするのは寂しいのか、武は途中でチャミが入ったケースをテーブルに持ってきて2人と1匹の食事になった。
 「僕がやるからお父さんは休んでてよ。」
 武が食べ終わり食器を洗おうとすると先に終えていたホクトがそういって洗い始めた。
 「やることがなくなったな・・・あっ・・・」
 何かを思いつき武はホクトに気が付かれないように2階の自室に戻った。
 「少しでも減らしておくか・・・少しつらいが・・・」
 武は小さめなチョコから手をつけチョコを消費していった。
 しばらくして、
「だー、食っても食ってもなくなんねー」
 武は食い終えたチョコの包み紙を放り投げた。
 「お父さんどうしたの?うわ、チョコばっかし・・・。」
 「え?」
 武が振り返るといつの間に片付け終わったのかホクトがドアのところに立っていた。
 「ホクト・・・」
武は最初あせったが、すぐに名案が浮かび顔をほころばせた。
 「ホクト、ちょっとこっちに来なさい。」
 武は真面目な顔をしてホクトを手招きした。
 「な、何?お父さん。」
 ホクトはおどおどしながら武の近くに来た。
 「お前を男と見込んで頼みがある。」
 武はホクトの目を真剣なまなざしで見つめた。
 「な、何?」
 顔をこわばらすホクト。
 「頼む、チョコ一緒に食ってくれ!」
 武は顔の前で手を合わせホクトに頼んだ。
 「えっ・・・チョコ?」
 思いがけないことだったのでホクトは理解するのにはしばらく時間がかかった。
 「ああ、そうだ。もう俺1人では無理だ、かといって放っても置けないし、だから頼む、息子よ、お父さんの頼みを聞いてくれ。」
 「う、うん。」
 あまりの武の勢いにホクトは思わず頷いてしまった。
「それにしても・・・凄い数だね。」
 「ああ、最初大小合わせたら17個あったからな、あと10個か・・・う、何かこれたくさん入ってそうだな・・・ホクト、やる。」
 「え、ちょ、ちょっとお父さん。」
武はホクトの返事を聞かずにかなりの数が入っていると思われるチョコの箱を投げた。 
「子供はたくさん食べなさい。」 
武はそれだけ言って、次のチョコへと手を延ばした。2人で消耗していったのでしばらくするとチョコは、ココ、空、優の3つを残すのみとなっていた。
 ホクトは素早く1つだけとり、
 「後はよろしく、お父さん。」
 と言って部屋の端へと移動してチョコを頬張った。
 「きたないぞ、ホクト。・・・ん、これは空と優のだ、っていうことはそっちがココのかって、どうした?ホクト!」
 ホクトはチョコをくわえたまま固まっていた。
 目にはうっすら涙が浮かんでいる。武が近付くとホクトの近くに落ちている、綺麗に折りたたまれた手紙を見つけた。
 「こんにっちゃ〜、たけぴょん。あのね、ココ自分でスペシャルチョコ作ったからあげるね。嬉しいだろ、嬉しいだろ。それじゃあね、新作のコメッチョ聞かせてあげるね・・・」
 武はそこで手紙を閉じホクトを見た。
 「スペシャルか・・・」
 武はお手手のシワとシワを合わせて
「な〜む〜」
 と唱えた。
 「しかし、この威力は・・・きっと桑古木も・・・」
武は桑古木に向けても、
 「な〜む〜」
と唱えた。
その桑古木はというと・・・倒れていた、しかし顔には喜びが満ち溢れていた。
武はチョコの方を向き直り、迷ったあげく先に空のチョコに手を付けることにした。
箱を開けるとやはりと言うべきか上品な雰囲気がただよっていて武は安心した。
これにも手紙が付いていた。
「拝啓倉成さん 最近寒くなってきましたね、お体壊さないように気をつけて下さいね。では失礼します。茜ヶ崎空」
「やっぱり几帳面だな、空は。ではいただいてみますか。」
武は箱の中にあった1口サイズのチョコを口にいれた。
「うまい。さすが空。雰囲気だけじゃなく味も上品だ、ホクトも食べるか?」
武はいつのまにか動き出したホクトに勧めた。
「・・・おいしい?」
疑惑の目で見る。
「大丈夫だ。」
「それじゃあ・・・おいしい!」
ホクトは次は歓喜の涙を流した。
「は〜生き返る〜。」
「そんなにすごかったのか・・・」武は改めて怖さを思い知った。
「いよいよ、最後だね・・・」
「ああ、最後だ・・・」
顔を見合わす2人
「しかし、最後が優とは・・・お笑いだったら最後にものすごいオチがあるな・・・」
「僕達はお笑いじゃないよ。」
ツッコむホクト。
「よし、開けるぞ。」
あえて武は返答せず箱を開けた。
そこには意外と(?)普通のチョコのビスケットがあった。
「オチなかったね。」
何故かホクトが残念そうに言う。
「いや、まだだ。まだ味が残ってる。」
武は2つとり1つをホクトに渡し一緒に口にいれた。「・・・うまいな・・・」
「うん・・・」
予想外の美味しさに驚いていると蓋の裏に手紙が張り付けてあった。
そこには一言だけ書いてあった。
「いつもご苦労様」
武は感動した。
「いや〜あいつがこんなに美味しいのを作るだなんてな〜今度違うのも食わせてもらいたいな。」
「うん、田中先生の料理また食べてみたいね〜。」
武とホクトが頷き合っていると、声が聞こえた。
「じゃあ、いただきにいったら?」
「2人で・・・」
「ニンニン」
武とホクトは振り返りながら言った。
「そうだな」
「そうだね」
しかし、そこにいる3人の顔を見た時、2人は凍り付いた。
そこには冷たい目をして無表情な、優(=優美清秋香菜)、つぐみ、沙羅カ立っていた。
「え、え〜と、これは・・・」
あたふたする男2人。
そんな様子を見て優が言った。
「ねぇ、つぐみ、沙羅、倉成とホクトはおなかい〜っぱいみたいだから私達で食べちゃおう。」
「そうね。」
「そうでござるな。」
そう言って1階へ行こうとする3人に武とホクトは、「ちょ、ちょっと待ってくれ、な?つぐみ。」
「ちょっと待ってよ、優」
と言って近付いたが、
「知らない。」
「バカ!!」
という言葉とともに見事なボディーブローを食らった。
「ご、ごめんなさい・・・。」
倒れ込む武とホクト。
「自業自得でござるな、ニンニン」
沙羅はそう言って倒れた2人を飛び越えて階段を降りていった。
結局2人が許してもらえたのは1週間後だった・・・





   【 あとがき 】
 あとがき
ここでは初めて書かせていただきましたが必要以上に長くなってしまいすみません。
結構削ったのですが・・・ではまた。




2002


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