EPISODE OF GRANDEPILOGE 
〜船上のトリーオス〜

                             レイヴマスター


【大切な人、守りたい人。】


2034年、17年もの月日を掛けて行われた救出劇は無事成功した。
俺、倉成武は今本土に帰る船
…の中の休憩室のベッドの上に横たわっている。
別にコールドスリープの名残があるわけじゃない。
甲板でつぐみと再会して、ほんのちょっとジョークをかましてやったのが原因だ。
その後怒り狂ったつぐみを止めようと体を張った俺は、見事なボディーブローを喰らい、こうして横になっているというわけだ。
つ「武…大丈夫?」
ふと、つぐみが心配そうな声で聞いてくる。責任を感じているのだろうか。事の発端は俺にあるというのにも関わらず、
さっきから俺の側で看病を続けてくれている。
ふと…その光景がIBFでのものと繋がる。俺にとってはついさっきまでの事なので、その光景がありありと頭の中に描かれた。
武「ああ…大丈夫だよ」
だから、そんな顔しないでくれ。
申し訳の無い気持ちが溢れてきて、俺は上体を持ち上げると、笑顔を浮かべた。
きっと誰が見ても不審に思うだろう。自分でも分かる程に、その顔はぎこちなかったに違いない。
つ「そう…良かった」
そんな俺の気持ちを汲んでくれたのだろうか?つぐみはそう言って微笑んでくれた。
つ「……ねえ、武…?」
武「ん?何だ…」
俺の台詞は続かなかった。
つぐみの両腕が俺の首後ろで絡まり、つぐみが俺に寄りかかるように倒れこんで来た。
互いの吐息がかかるほどに、顔が近づいて…
「ん………」


どれ程の時がたったのだろうか?
恐らく1分も掛かってなかったに違いない。しかしボーッとした頭にとっては果ての無い時間が過ぎて行った気がする。
つぐみの方から、体を離してきた。
武「つ…つぐみ…?」
とりあえず、それだけを口にする。
つ「ねぇ…あなたは本物の武よね?今、ここにちゃんと居るのよね?」
武「な…突然何言って…」
そこまで言ってようやく俺は気づく。
つぐみの体が小刻みに震えている事に。
不安なのだろう。
また、俺がいなくなってしまうのではないか。
今のこの光景が幻なんじゃないかと考えてしまうから。
だから…俺はつぐみを静かに、だがしっかりと抱きしめた。
武「安心しろ、つぐみ…俺は本物だ。ここに居る…。ちゃんと…生きてるよ」
つぐみの頭を胸元に寄せる。つぐみを通して、俺自身の鼓動を感じる。
つ「うん…そうだね…武は、ここに居るね……」
つぐみは泣いていた。
今まで必死に堪えていた涙は留まることを知らない様に次から次へと溢れ出てくる。
…つぐみを弱い、普通の女の子にしたのは俺だ。
だから俺はこいつを支えなければならない。
…いや、支えたい。守ってやりたい。
俺に出来る事なんてたかが知れてるだろう。だが、それでもこいつだけは守り抜きたい。
こいつは…大切な人だから。

その時、船の汽笛が高らかに鳴った。
俺達の新しい未来を祝福するかのように。





ホ「優美清秋香菜さん…僕と付き合って下さい」
 「何故なら僕は、貴女の事が大好きだから」


【船上の対決 〜族と忍者〜】


優秋「えっ……?あ、えと…」
田中優美清秋香菜は困惑した。宣告してからの愛の告白なんて生まれて初めてだ。
しかも別の世界で『僕達は付き合ってる』から、『この世界でも付き合うに違いない』という、訳の分からない自信の上に成り立っての告白。
突然の展開に頭が回らない。
ホ「あ…返事は今すぐでなくていいよ。よく考えてからで」
優秋「あ…う、うん…」
上の空で返答するのでいっぱいいっぱいなご様子の優秋。
妙な雰囲気が2人の間に漂い始める……。
と。


沙「お兄ちゃ〜〜〜〜〜〜ん(はあと)」
大きな声を上げつつ走ってきた沙羅は、飛びかかるように(実際飛びかかってはいた)、ホクトに抱きついて来た。
ホ「へっ!?さっ、沙羅っ!?」
沙「もうっ、お兄ちゃんったら!さっきからなっきゅ先輩とばっかり話してて〜。私寂しかったんだよ〜?」
とか言いながらホクトに密着する沙羅。その光景に優秋は何とも言い難い、不快な気持ちに襲われていた。
優秋「マヨ〜?ちょっとくっつきすぎなんじゃないの〜?健全なる『兄妹』の距離じゃないわよねえ〜?(ピクピク)」
沙「え〜、そうですかあ?そんな事はないですよ〜♪」
と言いながらさらに密着する沙羅。
「ぁぅぁぅ」と小さく漏らすだけで抵抗らしい抵抗をしないホクトの姿が、さらに優秋に不快感を募らせる。
何かといえば『甘ったるい感じ』だった先ほどまでの空気とは明らかに違う、異質な空気が3人の間に流れる……。


そうして少しした後、不意に優秋が口を開いた。
優秋「…そう、成程。そういうわけ…?」
ホ「ゆ、優……?」
優秋の異常な気配に身を縮こまらせるホクト。
今の優秋はまさしく、以前見た『狂犬』に近い殺気を放っていた。
優秋「どうあってもホクトは渡さない……そう取って良いのね?」
優秋の殺気のこもった質問に怖気づく事無く、沙羅はニヤリと微笑むと、
沙「分かってるんじゃないですか、なっきゅ先輩。だったら早く失せて下さい」
ホ「さ、沙羅……(汗)」
ホクトが心配そうな視線を優秋に送る。
その視線をまっすぐに受け止める優秋。
優秋「(心配しなくても大丈夫。今のマヨはライプリヒの脅威がもう及ばない事を知って強気になっているだけ。このまま対峙し続ければ、マヨの方が先に折れるわ)」
ホ「(で…でも……この空気、かなり耐え難いんですけど……)」
優秋「(男の子でしょ!少しの間くらい我慢しなさい!!)」
ホ「(う、うん…)」

以上、2人のアイコンタクトによる会話。
これも愛が成せる奇跡の技なのだろうか?
沙「安い奇跡ね」
コラ!俺に突っ込むな!!


なおも膠着状態は続く。
ホ「あ…暑い………」
5月といえども太陽光がさんさんと降り注ぐ甲板の上。
沙羅と密着しっぱなしのホクトは、今にも脱水症状で倒れるんじゃないかってくらいの量の汗を掻いていた。
優秋「くっ…粘るわね、マヨ……。もっと早くに音を上げるのかと思ってたけど…」
沙「先輩こそ…なかなかやるじゃないですか…」
そう言ってフッと笑いあう2人。
最早ホクトの事など0.00000000000000001%も考えてはいないだろう。
そんな状態のまま薄れ逝く意識の中、ホクトは視界に休憩室から出てくる人影を見た。
ホ「(尻尾…?ああ…お母さんか………!!)」
沙「お兄ちゃん?…きゃっ!?」
突然、ホクトはかっと目を見開くと、沙羅の束縛から強引に抜け出し、つぐみの元へと駆け出した。


ホ「お母さん、どうしたの!?そんなに目を腫らして……!!もしかしてお父さんに何か…!?」
つ「ホクト…ううん、違うわ。この目は…嬉し涙で腫れただけだから」
ホ「そっか…あ、でも。そんな顔してたら皆驚くよ?洗面場で顔を洗ったほうが…」
つ「そうね…洗い場はどこにあるの?」
ホ「あ、僕が案内するよ。行こう、お母さん」
そう言うとホクトはつぐみの手を取り、連れ立って船の向こうへと歩き去った。


優秋「……………………………………………」
沙「……………………………………………」
後に取り残された優秋と沙羅は、同時に、ほぼ同じような事を思っていた。
沙「(1番の強敵って……なっきゅ先輩じゃなくて………)」
優秋「(つぐみさん…なの……?)」

その時、船の汽笛が高らかに鳴った。
まるで2人をあざ笑うかのような、間抜けな音で。





ざぁぁぁぁぁ……
柔らかな潮風が私―――田中優美清春香菜の頬を撫でる。
それとともに、さっきまで抱きしめていた娘―――ユウの温もりも流されていくような。
そんな感じがした。


【潮風に乗る想い】


ふと、視線を下方の甲板の方へ向ける。
今ユウは倉成の息子であり、BWを発現させた少年・ホクトと何やら話をしているようだった。
真剣そうなホクトの横顔は、やはりどことなく倉成に似ている。


倉成武―――思えば私がBWの言葉を信じたのも、こんな無茶苦茶な計画を実行したのも、全て、彼が居たから。
桑古木がココを想って行動したように、私もまた彼を―――。
本当は、17年前からそうだった。ただ、その気持ちを口に出して伝えられるほど、当時の私は強くなかった。
もし伝えて、断られたらどうするの?
あんな閉鎖された空間で、より一層の暗い気持ちを持ちたくなかったし、何より友好関係が崩れてしまうんじゃないか。
それが怖かったから。
倉成はそんなことで態度を変える様な人ではない。
頭では分かっていたけど、体は震え、行動することを拒否した。
そして、その後彼は―――――。
そういえば、今彼はどうしているのだろうか?
先程までは休憩室のほうからガッタン、グシャリと騒がしい音がしていたのだが。
大方、つぐみとまたごたごたしていたに違いない。必死になってつぐみに謝る彼の顔を思い浮かべ、つい頬を緩める。
そして、言いようの無い寂しさが全身を包む込む。


もう、彼はつぐみのもの。つぐみだけのヒト。
17年前から、BWから聞いて知っていた事。
それでも、胸にぽっかりと穴が空いてしまった様な感じがする。
しくしくとした痛みが体をつついてくる。
優春「はあ……」
らしくなく溜息。
と、その時。
不意に背後に気配を感じて振り返る。その視線の先には…。


武「よっ、優」
優春「倉成…?」
一瞬、幻を見ているのかと思った。
そこにいたのは今まで頭の中で考え思っていた人、倉成武その人だったから。
優春「どうして…こんなところに?」
まさか、私に会いに来てくれたの?
そんな言葉を喉まで言いかけながら、私は変わらぬ調子で尋ねる。
武「いや何。気分転換ってやつさ。いつまでも休憩室で寝込んでるってのもアレだしな」
優春「寝込んでたって……一体何したの?」
武「ん?ん〜……ま、それは置いといてだな。ここに来たのにはもう1つ理由があんのよ」
優春「もう1つの理由?」
武「そ。改めて御礼を言おうと思ってな」
優春「御礼?そんなのいいわよ。だって私達…『仲間』なんだから」
『仲間』という言葉の響きが、ちくりと胸を刺した。
武「『仲間』ねえ…生死を賭けた極限状態で芽生えた、性別を超えた熱い友情ってやつか?」
優春「ん…まあ、そんなところね」
嘘。
でも、別の感情があることを悟られたくなくて、私はあいまいに返す。
武「…なあ、優」
優春「何?」
武「俺……お前の事好きだったぜ、結構」


心臓が飛び出るかと思った。


だが、そんな驚きもすぐに収まった。
その言葉の真意を感じとったから。
優春「過去形、か…。期待は持てないってこと?」
倉成はたまに鋭い。他人の思っている事に関してなら、尚更に。
武「すまん。お前の気持ちもありがたいが……俺は、つぐみを守りたいんだ。これからのあいつは…か弱い、一人の女の子だから。思いっきし甘えさせたい。頼って欲しい。そう、思ってるから」
優春「そっかそっか…ま、予測出来てた事だしね。16にもなる子供が2人もいるんだし、こっちからお断りって感じ?」
武「うっ…そう言われると、キクなあ…」
優春「倉成には私ほどの女は勿体無いわよ、フフフ…」
武「へいへい、さいですかい……」
そう言った後、私は顔を伏せる。
沈黙が、私達を包んだ。


ざぁぁぁぁ…
私と倉成の間を潮風が流れていく。
磯の香りがつんと、鼻をついた。
武「…さってと!んじゃま、俺は行きますかな?まだ桑古木や空ともろくに話してないしなぁ……」
そう言いながら、倉成は去っていった。
優春「バカ……演技がわざとらし過ぎるのよ……」
しかし私は、そんな倉成の心遣いに感謝し、顔を上げた。
私の頬を、冷たく伝う水の感覚……。
一粒の雫が潮風とともに、蒼い海の中へと消えていった。

その時、船の汽笛が高らかに鳴った。
私はその音で紛れる事を祈りながら、静かに嗚咽を漏らした。





様々な想いを乗せ、船は進む。
その先の未来を知る者は…今は誰も居ない。
それでも、彼等はきっと進み続ける。
大切なもの、守りたいものがあるから。



あとがき

うぃ〜うぃっしゅ!レイヴマっす!
今回のこのSS、元々は日頃からお世話になっている携帯サイトへの投稿作品だったのですが、
今回BF投稿用にと、修正をかなり加えて再編集したものです。
GP中に語られなかった時間帯の、キャラ達の行動を勝手に想像して書いたんですが…いかがだったでしょうか?
レイヴマにしては珍しく真面目な作品が書けたので、本人としてはそこそこ満足。
感想のBBSとか書いて下さると感激です♪
ではでは〜♪

口ずさみソング 『Nocturne』(水樹奈々)


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