烈火の料理人
                             レイヴマスター


―――目が覚めた。プルプルと頭を振り、意識を覚醒させる。
僕の記憶が確かなら、今日は5月5日のはずだ。
少「(LeMUの崩壊まで時間が無いな…かといって、これといった有効な手段も見つかってないし…)」
起き抜けの頭で考え事をしても、閃きは浮かんでこないだろう。
そんな考えに同調するように、腹の虫が切なそうな音を立てた。
少「お腹減ったな…皆、もう売店にいるのかな?」
辺りを見回して誰もいないことに気づいた僕は、皆が朝食を取っているであろう憩いの間へと足を運んだ。


少「皆、お早う。もしかして、もうご飯おわっちゃっ……?」
僕が憩いの間へ着いた時、そこにはどよ〜んとした空気が流れまくっていた。
優と沙羅は呆れ返ったような複雑な表情を浮かべている。
つぐみの姿は相変わらず見えない。
空の姿も無い。まだLeMMIHのメンテナンスが終わってないのだろうか?
ところで武は?…そこまで考えが及んだ時、不意に鼻に強烈な匂いを感じた。くらくらするような、不思議な香り……。
僕は匂いのする方へと顔を向けた。そこには……。
少「たっ…武!?」
僕の視線の先には、大量のビールの空き缶を地面に転がしたままベンチで眠っている武の姿だった。
武「くふっ…くふくふっ…チェキチェキィ……」
意味不明の寝言を漏らしながら武は心底幸せそうな表情で寝ていた。
優「あっ…少年…お早う」
沙「…お早う、少年」
さっきの僕の声に気づいて、優と沙羅が挨拶してきた。だがその声にいつもの元気は無い。
少「ねえ?一体何があったんだい?上手く状況が飲み込めないんだけど…」
優「…説明するわ。そもそも事の発端はあそこの『ヴァカ』がいけないのよ…」


優が言うには、昨夜警備室でパソコンを弄くりまわしていた優がふと監視モニターに目をやると、憩いの間で武が酒盛りをしていたらしいのだ。
……一人で。
こんな時間に何の目的で酒盛りなんてしているのか。優はとても気になったが、それ以上にそんな状態の武に近づきたくなかったらしい。
『ああ、倉成はこんな所に閉じ込められて、ついに幻覚を見るところまで逝ってしまったのね…』
優はそう一人で納得すると、作業を切り上げ、眠りについたという…。


少「それで朝になって沙羅と一緒に憩いの間に来たら…」
優「そ。すっかり酔いつぶれてた、ってわけ」
沙「酒臭くってかなわないよ〜。勘弁して欲しいね」
少「武があんなのになった経緯は分かったよ。…ところで朝食は?」
優「出来てるわけないでしょ?肝心の料理人があれじゃねえ…」
ちら、と横目で侮蔑するような視線を武にくれてやる優。
怖いってば……。
少「でもさ、それなら2人で作れば良かったんじゃないの?材料はたくさんあるんだし…」
僕がそう言うと、2人の表情がどよ〜んとしたものになった。
少「えっ!?何、どうしたの!?僕何か変な事言った?」
優「う〜ん…挑戦はしたのよ、挑戦は…」
沙「でもね…キッチン見てきて?」
沙羅に言われた通り、僕は隣の部屋のタツタ売店へと足を運んだ。
…………。
……………。
………………。


少「……一体、何をどうしたら、あんな惨状になるんでしょうか?」
僕はかすかに痛む頭を抱えて憩いの間に戻ってきた。といってもいつものあの頭痛ではない。キッチンのあまりの酷さに頭が痛くなったのだ。
沙「な、何って……」
優「普通にタツタサンドを作ろう〜…って」
少「普通に作ろうとしてたなら、油があちこちに飛び跳ねてたり、揚げカスが紫色に変色してたり、包丁が壁に突き刺さってたりなんて絶対にありえないと思うんですけど…」
実際はもっとひどかった。余りの凄惨さで、筆舌し難い恐ろしい光景がキッチン内に展開されていた。
優「何よ〜、そんなに言うなら少年がやってみなさいよ〜。結構難しいんだからね」
少「うん、やってみてもいいけど…でも…」
沙「でも…何?」
少「まずは……皆で片付けない?キッチンの中」


殺人現場のようだったキッチン内を片付け、一息ついた後に優が口を開いた。
優「さて…キッチンも片付いたことだし、少年の腕前を披露してもらいましょうかねえ……」
優の表情には微かな笑みが浮かんでいた。どうせ『少年には無理よねぇ〜』とか思ってるに違いない。
実際僕にだって美味しく作れる自信は無い。でも作りもしないで今更『やっぱナシで』というのもカッコ悪い。
まあ、失敗してもこの2人に責められる言われはないようにしたい。
少「(まあ、食べられるものが出来れば良いか……)」
僕はそう思い、気楽な感じでキッチンに立った。
その時。
少「うっ……!?」
不意に例の頭痛がやってきた。
少「(くそっ…何だってこんな時に…!!)」
僕は不快感を2人に悟られないように、食材を取り出すフリをしてキッチン内でしゃがみこんだ。
ズキズキズキと頭が痛くなる。僕は声を上げないように必死にそれに耐える。
そして。
少「――――――――――――!!」
―――僕は、目覚めた。


優「お〜い、少年〜?きちんとやる気あんの〜?」
優がそう言ってキッチン内に入ってこようとした。
少「入るな!!」
僕は、僕らしかぬ大声で、優の侵入を拒否する。
優「なっ…何よ!人がせっかく心配してるっていうのに…!」
少「これから調理に入るんだ。優は武を起こしてくるんだ」
優「むう〜っ…わかったわよ!」
少「沙羅はつぐみを捜してくるんだ。なるべく早く連れてきてくれ。空を起こして捜索させてでも」
沙「ぎょ…御意でござるっ!」
そうして2人はそれぞれ違う方向へと歩き去って行った。
……さて、始めるとしようか。
僕は調理台の前に立ち、包丁を手に取る。
視界に既に切り分けてあるマグロの身が目に入ったが、あれでは駄目だ。
切り分けた後、一人前用に冷凍したものでは風味の点で大きく劣る。
僕は冷凍庫を開けると、ブロック大の大きさのマグロの身を取り出した。
そして迷うことなく包丁を差し込み、その身を切り分けていく。
ここからは素早さが命だ。早いところ調理しなければ食材の鮮度が落ちる。
棚を開け小麦粉とパン粉を取り出し、2つの大皿にあける。
冷蔵庫から卵を取り出し、ボウルの中にパカパカパカとあけ、手早くかき混ぜる。
マグロの身に小麦粉を適量まぶす。さっと卵にくぐらせると、パン粉を上からパラパラとふりかける。
パン粉をかける作業は集中力が大切だ。歯触りに直結するため、妥協は許されない。
少「…よし!」
揚げ上がった際にサクッとした歯触りが楽しめる、『衣の極地』を見極めた僕は、あらかじめ熱しておいた油の温度を確かめる。
タツタ作りにおいて低温でじっくりと、というのは良くない。
マグロの身に動物性の油が混じってしまうと、どんな努力も灰塵に帰してしまう。
かといって高温すぎると衣が焦げたり、生焼けのままで生臭くなったりしてしまう。
右手でコンロを地味に操作しながら、細かく温度を変えていく。
少「(………ここだ!)」
かっ、と目を見開くと、僕は二つの身を油の中へと躍らせる。
この温度を維持するには1回につき2個までが限界だ。
真の美食に大量生産は在り得ないのだ。


揚げ上がるまでのほんのわずかな時間も無駄には出来ない。
僕はタツタにかけるソースも作ることにした。毎度毎度あのソースでは飽きる。この機に一つ試してみたい組み合わせがあったのだ。
幸いな事に、この調理台にはタツタ作りには程縁遠い様々な種類の調味料がある。
少「……行くぜっ!」


ソースの基盤は出来上がった。後はこれをいれるのみだ。
サワークリーム。
この酸味は食欲を刺激し、皆の気持ちを奮い立たせる事も出来るかも知れないという、正に魔法のアイテムなのだ。
少「分量は…ソース100mlに対し15〜20…ってとこか」
少なすぎては意味がなく、多すぎては全ての味を狂わせる。
引き立て役が主役になることはあってはいけない。
クリームを入れ、味を調節した時。ちょうどタツタもいい感じに揚がった。
さっと油切りをすれば、あとは挟むのみだ。
水切りをしっかりとしたレタス、サクサクのタツタをバンズに差し入れる。
ソースも多すぎず少なすぎず。ただこれには個人の趣向があるだろうから、余り多くは塗らない。
梱包紙で軽く包み込み、まずは第一陣の完成だ。
優「しょうね〜ん、武連れてきたわよ〜」
武「何なんだよ〜、まだ寝足りないってのに…」
丁度良く、優と武がやってきた。
少「ナイスタイミング。今丁度出来たところさ。熱いうちに食べて」
優「……見た目は美味しそうね」
武「ん…匂いも良いな。どれ…」
優と武が同時にサンドを口に入れる。と…。
桑「………!!こ、この味は…!!」
優「美味しい…はぐっ、はぐはぐっ…!」
優は何かに取り憑かれたかのような勢いでサンドを頬張っていく。
武はというと……。
武「…このサワークリームの酸味が…絶妙なんだよな…ぐすっ…」
余りの美味しさに涙を流していた。正に職人冥利に尽きるってものだ。
沙「しょうね〜ん、つぐみ連れてきたよ〜」
とそこへ、つぐみを連れて沙羅が戻ってきた。
少「ああ、今2人の分を作る」
横目でちら、とつぐみを見てみたが、虫の居所が悪いのだろう、顔が少々険しくなっていた。
まあそれも、僕のタツタサンドを食べれば治るに違いない。


それからすぐに僕は2人にサンドを作ってやった。
沙羅は優と同じように一心不乱にサンドに齧り付いていた。
つぐみはというと…躊躇う事無く一口食べた後、目を見開きしばらく呆然としていた。
派手さは無いが、そんなリアクションも嬉しいものだ。ある意味真の美食を理解しているに違いないつぐみに、僕は親近感を覚えた。


沙「ご馳走様、少年♪」
優「やるじゃない。今度からは少年に頼もっか♪」
武「へへ…良い腕してるじゃねえか…」
つ「…言うだけの事はあるわね」
皆がそれぞれの感想を返してくれて、僕はちょっとした優越感に浸っていた。と。
少「…ぐっ……!?」
突然、例の頭痛が僕を襲った。頭が割れるようにガンガンと響く。
少「(駄目だ…耐えられ…な………)」
瞬間、僕の意識は暗い奈落の底へと落ちていった。


頭にひんやりとした、気持ちの良い感触を覚えた。
うっすらと目をあけると、視界には見慣れた天井。
すぐに医務室にいるのだとわかった。
少「(そうか…また倒れたんだ……)」
タツタ売店で皆の感想を聞いた後の記憶が無い。時計を見れば『PM:8:30』と表示されていた。
朝食を作ったのが8時過ぎだったはずだから、丸半日寝ていたことになる。
僕はまだ少し重たい頭を抱え、憩いの間へと足を運んだ。


夕飯、またタツタ作りを任された。
だが、朝の感覚はどこへやら。一応出来たが、武のものには遥かに及ばなかった。
一体、朝のあの現象は何だったのだろうか?
また1つ謎を増やし、夜は更けていった………。



あとがき

うぃ〜うぃっしゅ!レイヴマっす!
今回もま〜た変なネタを書いてしまいました(汗汗)
一応ネタバレ無しってことで、未プレイの方でも安心♪(何かテレフォンショッピングみたい…)
こんな前半〜中盤がギャグで、締めの方が真剣って作風が多くなるので、レイヴマの完全なギャグ作品を読みたい方は『えばせぶ小ネタ劇場』の方をチェキ☆(宣伝)
ん?終始真剣なのは書かないのかって?
そりゃ無理です。(キッパリ)
ちなみに作者は料理ベタです。知識は全くありません。(爆)

口ずさみソング 『カクテル』(Hysteric Blue)


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