うららかな昼の日差しの中。
田中優美清春香菜は研究所のテラスで、仕事の合間のアフタヌーンティータイムを満喫していた。
「静かね……」
いつもは何だかんだと騒がしい時間を過ごさざるを得ない状況が多いが、こんな昼下がりもいいのかもしれない…。
春香菜が二口目の紅茶を含んだ時、急にテラスに空が駆け込んできた。
「た、大変です!田中先生!!」
「?一体どうしたの空?そんなに慌てて…」
「に、妊娠…妊娠したんです…」
「えっ!?そ、空が!?…って、空が妊娠するはず無いか。倉成とつぐみ、また子供作ったの?…!も、もしかしてユウとホクトが…!?」
春香菜の手にするカップが、カタカタと小刻みに震えていた。遂に、遂に私に『孫』が…!?とでも考えていたのだろう。
「い、いえ…違います……コ、ココちゃんが…です……」
一瞬、時が止まり。
「え…ええーーーーーーーーーーっ!!!!????」
春香菜の派手な絶叫が、穏やかなテラスを揺るがしたのであった。



桑古木夢幻人生
                             レイヴマスター


バタバタバタと、診察室へ駆けていく春香菜と空。
「そ、それで、相手は桑古木なのね!?」
「ええ、そうです。いつものコメッチョかと思っていたんですが、検査の結果、真実である事が判明しました」
「あいつ…いつの間にココに手を出してたのかしら…」
バァンと、春香菜が診察室の戸を開ける。
そこには、椅子に腰掛けたココと、その肩をそっと抱く桑古木の姿があった。
「あ、なっきゅ〜♪どうしたの、そんなに息を切らして?」
「コ、ココ…あなた、本当に、桑古木との子供を…?」
「ああ、そうだ間違い無い。空が何度も何度もチェックを繰り返してたからな…」
「…ってゆーか桑古木、あんたいつの間にココと…」
フッと、ニヒルな笑みを浮かべる桑古木。
「なぁに…ココが気づいてくれただけさ。遠くにいる上、姿の見えない『お兄ちゃん』を思うよりも、近くに居て自分を愛してくれている『桑古木涼権』という存在を選んだ方が幸せになれるってことにな」
「……本当なの、ココ?」
「うん…それに少ちゃん、優しかったから…って、何言わせるのよなっきゅ〜♪」
ペチペチペチと照れながら春香菜を叩くココ。随分キャラ性格が違う気がするが、気にしないで欲しい。
「うう…まさか、ココに先を越されるなんて…!!」
その気になれば幾らでも相手がいるのに、妻子持ちの武ばかり狙っている春香菜は、見た目小学生なココに人生の先を行かれた事に激しいショックを受けた。
「まだ8週間目くらいだから…今のうちに挙式をしようと思ってな」
「きょ、挙式!?一体いつ!?」
「明日」
「早っ!?」


そして翌日。
「本当に式始めちゃったし…」
「んぐ?お母ふぁん何か言ったぁ?」
「別に。それよりユウ…はしたないから、口の中一杯に物を詰めるのは止めなさい…」
煌びやかな結婚式会場にはココの元中学同級生、春香菜の研究所で働く職員、そしていつものメンバーが顔を出していた。
「うむうむ。『炉の一念岩をも通す』とは正にこの事だな」
「武…そんな諺は無いわよ」
「ココちゃん綺麗…いつかは私もあんなのを着てお兄ちゃんと…♪」
「え?沙羅、何か言った?」
「ううん、何でも無い♪」
『…それでは、新郎友人代表、倉成武様のお祝いの言葉を…』
「お。俺の出番か。ちょっくら行ってくんぜ!」
「…くれぐれも、羽目は外さないでね、お父さん」
「分かってるつーの。俺だって弁える時と場合はちゃんと知ってるさ」
……。
………。
…………。


そして、夜。
桑古木とココは、2人きりで夜の散歩を楽しんでいた。
「…今日は楽しかったな」
「そうだね。特にたけぴょんの挨拶。『娘を頼んだ!』なんて言っちゃってさあ〜」
「ま、武にとってはココは娘みたいな存在だからな。気持ちは少し分かるよ」
「え〜、たけぴょんとココ、6歳しか違わないのに〜」
「17年前のあの時からしてみれば、随分な差だよ」
フフッと、苦笑を漏らす桑古木。
「17年、か…そうだね、小ちゃん、こんなに大きくなったし…」
ココが背伸びして桑古木の頭に触ろうとする。そんなココを、桑古木は不意に抱きしめた。
「あっ…小ちゃん…」
「ココ…もう良いだろ?『涼権』って…名前で呼んでくれよ」
「う、うん…涼権……」
2人の目線が、下から、上から、絡まりあう。ココの頬が熟れた林檎の様な紅色に変わる。
「キス…していいかな?」
「そんな…聞かないでよ、恥ずかしい。でも…うん。良いよ……」
ココがそっと目を閉じる。桑古木は優しく頬に手を添え、そして…。
ココの、柔らかい唇に……。


ジリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!


「う……?」
けたたましい目覚ましの音で、俺は目を覚ました。
ボリボリと頭を掻いて、時間を確認する。
「…もう出勤時間か。早くしないと優にまたぶつくさ言われるからな…」
しかし…何か良い夢を見た様な気がする。良くは覚えてないが、俺とココが……。
「…馬鹿か俺は。朝から何考えてんだよ…」
朝食を摂る時間も惜しい。どっかで適当に買って、通勤中に食べていこう。
俺は荷物を持つと、慌ただしく部屋を飛び出した。


『…ふう、やれやれ』
疲れたな。『可能性の世界』を見させる事が、こんなに疲れる事とは思わなかった。
ま、こんな苦労もたまには良いか。何せ、今日は彼の…。
『…行ってみるか』
僕は少し、時間を飛んだ。
その先ではいつもの皆が、クラッカーを鳴らして桑古木を出迎えていた。
最高の笑顔と、元気の良い声で。
ふと、ココが僕の方を見た。何かをせがむ様なその視線に僕は、にっこり微笑んで、皆と一緒に、桑古木に告げた。


『ハッピーバースデイ!!』



あとがき

桑古木涼権誕生日SS!ということで…。
発案&構想…学校の授業中(最後の7限目)
執筆…1時間弱
という、小ネタ劇場に匹敵する速度で書き上げました(だってそうしないと間に合わなかったから…〈殴〉)
最初は単なる夢オチだったのですが、途中でこっちの方向へと変更しました。
お分かりかと思いますが、結婚の夢を見せたのはBWです。どうやって見せたのか?その理論までは頭が回りませんでした(爆)。
さて。また次回からは色々と悲惨な目にあいそうな桑古木君ですが、今回はここで締めさせて頂きます。
ではでは♪


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