※この作品には暴力的な表現が多数見受けられます。
ご了承の上でご覧下さい。







【前回までのあらすじ】
突如謎の戦いを強制された武。
互いの命を奪い合うこの過酷な戦いのもたらすものは『絆の崩壊』……。
多くの人間を殺し、そして殺される無惨な破壊劇………。
そして最後に生き残ったのライダーは武と、ココであった……。



彼は、光の中にいた。
ふわふわと虚空を漂う感覚に身を任せていた。
不意に、彼の名呼ぶ声が聞こえた。
彼はゆっくりと瞳を開く。そこには……。




仮面ライダー武〜17人の戦士達
                             終焉の鮪


最終回『未来は、俺達の手で創るんだよ』


「いや、訂正。……お前、誰だ?」
ふっと、鼻で笑うココ。
「まさかお前が優の言っていた『もう一つのSURVIVE』なのか?」
「冗談。カードに宿った精神体なんかと一緒にしないでくれ。僕は……いわば創造主さ」
「創造主?」
「君は先程僕の名を尋ねた。だが僕には名前は無い。いや……無かったというべきか」
「何?」
「僕はただ一つの意識体でしかなかった。あの時までは」
「……何が言いたいんだ?」
今ひとつ要領を得ないその語り口に苛立ちを覚える武。
「僕は与えられた。2034年のあの日、田中優美清春香菜によって一個の存在としての名称を」
「お前、まさか……」
「そう、こうして君と対面したことは無かったね、倉成武。『初めまして』。僕が『ブリックウィンケル』だ」
武の背筋に、するりと、何か冷たいものが滑り込む感覚があった。
「思ったよりは取り乱したりはしないんだね」
「……こんな異常事態に巻き込まれたんだ。今更驚く気すらねぇよ」
「そうだね。ありのままの事実を受け入れる事は大切だよ」
「俺が知りたいのがそんな事だとは、思ってないだろうな?」
「君は焦りすぎている。ここなら時間制限で体が霧散するなんて事は無いから安心して良い」
「出来れば今すぐお前の横っ面に一発かましてやりたいんだがな」
「了解。だったら早速話をしようか。この世界の誕生と、この戦いの意味……その全てを」
そうして『ブリックウィンケル』は瓦礫にもたれ掛かりながら話を始めた。


思えば全ての始まりは、2017年のあの事故の時からなのであろうか?
それとも、田中優美清春香菜が『業』を産み落とした時からであろうか?
あるいは、つぐみがキュレイウイルスに感染した時からかもしれない。
だが歴史を遡りその原因を見つけたとしても、それはもう意味の無い事だ。
『僕』は生まれてしまったのだから。

LeMUでの浸水事故によって深海119Mに閉じこめられた君とココを助け出すために、優美清春香菜によって僕は召還された。
僕は君とホクトの視線や体を借りて使命を果たす事に成功した。
使命を果たした僕は、そのまま去りゆく運命のはずだった。
――――ココの事を、好きにさえならなければ。

そして幸か不幸か。ココもまた、僕の事を好きになってしまった。
僕はそれを喜ばしく思い、また悲しく思った。
僕には体がない。僕自身の肉体はココの居る世界には無い。
僕はただ意識だけの存在。ホクトの体を通じなければ触れ合う事も出来なかった。
そしてその温もりは、本当に僕自信の感じる事ではなかった。
僕は恨んだ。
僕を召還した田中優美清春香菜を。
僕を好きになったココを。
そして何より、そんな思いを持つ僕自身を。
徐々にそんな思いが僕を歪めていった。


僕は自分の世界に帰ってからも、しばらく何もせずにただ空虚な時に身を任せていた。
そんな折だった。僕はふとした事から、確率は低いが、僕達に生まれつき備わる事もあるという『特殊能力』について知る事になった。
僕達には『n−1次元の世界を自由に見て回れる』という基本能力の他にも、先天的に備わる能力がある。
それは実に様々な事であり、例として『n−1次元の世界に実体を伴って潜行出来』たり、『n−1次元の世界の天候を意のままに操れる』等の『直接干渉能力』があるらしい。
そして僕も、とある『特殊能力』の持ち主である事が発覚した。
僕の特殊能力。それは――――

「『想い』を喰らい、その代わりにn−1次元内にて願いを叶える事が出来るという『間接干渉能力』さ」
「『想い』?」
「『想い』というのは総称に過ぎないな……例えば生きようと思う心、何かを成し遂げたいと思う野心、誰かに対する愛情……そんな強い精神全てをを『想い』と言うのさ」
「『想い』を喰うって言ったな……そんな事が可能なのか?」
「可能さ。この空間…『ミラーワールド』の中ではね」
「何?」
「僕にも向こうに友人の一人や二人くらいいるんだよ」
「どうもお前の喋りは回りくどくて癪に触るぜ」
「さっきも言っただろう、焦る必要は無いって。……ここはね、そんな友人に頼んで作ってもらったのさ。『n−1次元内に特殊な別個空間を作り出す』特殊能力でね。そしてここは僕自身でもある」
「共有してるっていうのか?」
「ビンゴ。強い心の力って言うのは無意識のうちに体外へ発せられやすい。それをここの大気が吸い込み、僕の能力の糧としているって訳」
「……この戦いは、その為のものだったのか」
「そう。僕はまずココと接触した。この世界に実体を持って居た方が『想い』の吸収率が良い……僕は真実を伏せながらココに協力を仰いだ。その結果が…今の僕の姿」
『ココ』の体を指さしながら『ブリックウィンケル』はにたりと微笑った。
「次にさらなる協力者として桑古木を対象に選んだ。彼には悪かったがココへの想いを利用させてもらって……簡単だったよ。可愛い口で少ししてやっただけで簡単に落ちた」
「…………っ!!」
「でも、純潔は捧げちゃあいない。ココの純潔は僕だけのものだから」
BWの言葉一つ一つが武の魂を高ぶらせ、殺意をみなぎらせる。
「ははは……いいよ、武。もっともっと僕を憎め。その感情が僕の能力の糧になる」
「……もういい。お前と話し合う気は毛頭無くなった」
武の怒りを抑えた声が、周囲の空気を振動させた。
「僕だって悠長に話している暇は無かったんだけどな……それじゃあ希望通り、始めようか」
瓦礫から体を離したBWは、ゆっくりとデッキからカードを引き抜く。
「武には悪いけど、戦うのがそろそろ面倒になってきてるんだ。これの相手をしてもらうよ」
カシャァァンッ!『アドベント』
くぐもった声が響くとほぼ同時に、BWの前の地面が歪み、巨大な白狼が姿を現した。
「やれ、ピピ……武を食らいつくせ」
その巨大な白狼――BWの僕と化し、理性を失ったピピ――が、涎を垂らしながら武に迫りかかってきた。
「……BW、お前はどこまでも腐った野郎だなっ!!」
武はピピの突進を転がりながら避けると、一枚のカードを引き抜いた。
「つぐみ……お前の遺した1枚目のカード、使わせてもらうぞっ!!」
カシャァァンッ!! 『アドベント』
武がカードを装填すると、武の眼前に一匹の獣が現れる。
「ピピを頼む。俺はあの外道を絶対にぶっ飛ばす!!」
『任せてくんな、武の旦那……つぐみ嬢の仇討ち合戦だ、容赦はしねえぜっ!』
その武の一言に召還獣――つぐみの相棒である、チャミ――は軽くうなずくと、腰に帯刀していた日本刀を引き抜き、猛然とピピに向かって突撃していく。
「……何故だ? 何故武がつぐみのアドベントを……?」
その異質な光景に、BWも一瞬虚をつかれた表情になる。
武はそれを見逃さなかった。
「何処見てやがる? 俺はここだぞっ!」
武の右拳が唸りをあげてBWの顔面に当たった。
体がココなだけに罪悪感はあるものの、それにも増してBWが許せない武には何ら加減すべき要因では無かった。
だが…確かに今そこにいたはずのBWの姿が突如歪み…武の眼前から消え去った。
「なっ!?」
「……何処を狙っているんだい?僕はここだよ」
そして武の背後に、冷ややかな声と一瞬遅れて激痛が走る。
「……!? ぐわぁぁっ!?」
突然の出来事に反応が遅れた武の体から、ドロリと紅い液体が流れ出る。
地に膝を屈しながらも武が振り向くと、そこには先端が紅く染まった巨大な−ドライバーを手にしてにたりと嗤うBWの姿があった。
「いやだなあ、武。僕がそう簡単にやられるわけないじゃないか」
余裕綽々といった感じで、BWが武を見下しながら言い放つ。
「て、てめえ、いつの間に背後に……」
確かに武の拳はBWを直撃したはずだ。感触も確かにあった。
だがそれにも関わらずBWは武の背後に回り込んでいた。しかも怪我の一つも無く、だ。
「確かに『僕』は君の攻撃を受けた。だけど、今ここでこうして君を見下している『僕』は攻撃を受けなかったのさ」
「……どういう意味だ?」
「空と同じさ。彼女はLeMUの中においては遍在する存在だった。ここでは僕がそれに相当すると……そういうわけさ」
「……! 多次元並列世界」
「正解。僕はこの世界において自分自身の『あらゆる可能性』を意図的に操作する事が出来る。そう、今みたいにね」


――この世界にはありとあらゆる『可能性』が存在し、その組み合わせにより世界が成り立っている。
例えばAという事象が起こった世界と起こらなかった世界。
Aという事象が例えどんなちっぽけなものだとしても、その2つの世界は別々の次元で並列的に発生した異なる世界ということになる。
――BWはその『可能性』を自分の思うがままに引っ張り出せるという事だ。
今の様に『武に殴られた自分』という存在を『武に殴られずに、逆に背後を取り斬りつけた自分』と取り替えたのだ。
意識だけは変わらずに。この推論から弾き出されるの事は――
――BWは、この世界において最強の支配者であるという事。


「――どうだい、武?自分が絶対に勝てないと分かってしまった相手と戦わなければいけない気持ちは?」
「……胸くそ悪いな。その余裕面、ココの顔で哂うってのが余計に気にいらねえ」
武はゆるりと立ち上がり、壊れたストライクベントを取り外す。
「分かってるのか、てめえ……今、お前はココを侮辱し、穢しているんだ」
そしてデッキから新しいカードを引き抜く。
「だからどうするっていうんだい? 今の武じゃあ、僕には傷一つつけられ……!!」
BWの表情から、余裕が消える。武の周りに揺らめく、紅き閃光を目にしたからだ。
「BW……お前、予想できなかったのかよ?俺がつぐみのカードを持ってたって事は、その前に会った奴、そしてつぐみが、闘っていた奴から奪い、渡されたカードもあるんじゃないかって事を…」
――武がつぐみと会う前に戦っていた相手。
『――優が、死んだ』
桑古木の言葉が頭をよぎる。
彼にとっての『優』とは『田中 優美清春香菜』――
…『烈火のSURVIVE』の持ち主。
風が、吹いた。
――つぐみが闘っていた相手。
『守野いづみ』――
…『疾風のSURVIVE』の持ち主。

「――まさか武! 貴様『SURVIVE』を!」
「ああ、その通りさ。俺は優とつぐみからからこいつを手渡された。お前を屠る為の、最終手段としてな」
揺らめく赤光が、蛇の様に武の体にまとわりつく。
強い風が、炎を煽るように強く鳴く。
「ちいぃっ!」
BWはすかさず『今の自分』と『武のSURVIVE使用を阻止できる自分』を入れ替えようとした。
だが。
「―――!? な、何故だ……何故存在変換が出来ないっ!?」
BWがいくら念を込めても、『今の自分』という存在が変えられなくなってしまったのだ。
(『SURVIVE』は『強大なる精神の育成の為に作った』――そう、取り決めたはずだ!! 『僕が支配出来ない』なんて聞かされてないぞっ!)
「何歯軋りしてんだよ、お前は……もう、お前の好きにはさせねえ」
カシャァァンッ!!……『SURVIVE』
巨大な火柱が、武を包み込んだ。


武は、光の中にいた。
ふわふわと虚空を漂う感覚に身を任せていた。
不意に、武の名呼ぶ声が聞こえた。
武はゆっくりと瞳を開く。そこには……。
「……お前は、少年?」
武が見つめるその視点の先には、2017年の時の桑古木そっくりの少年が浮いていた。
『いや、違うよ。僕は…君達の言う『ブリックヴィンケル』の友人で…この世界、ミラーワールドを創り出した張本人さ』
「なっ!じゃあてめえ俺を!!」
『違う。むしろ僕は君を頼っているんだ。彼を……BWを、昇天させてやって欲しいんだ』
「……何?そりゃ一体どういう……」
『確かに、僕は彼の要望でこの世界とデッキ、カードを作り出した。僕の役目はそこまでで、後は彼の自由にするはず、だった』
「だった?」
『僕は彼に脅されていたんだ。詳しくは話せないけど……少なくとも僕は自分の意志でもって協力をしたわけじゃなかった』
「………………」
『だから僕は彼に逆らうように『希望』を作り落とした。それが……2枚の『SURVIVE』カード。このカードは彼の能力を持ってしても御する事は出来ない、究極の切り札なのさ』
「よくそんなカードをアイツが容認したな……」
『彼に嘘をついた。SURVIVEは強力な力を持つが、君の御しきれない力ではない……ゲームを盛り上げるためのアイテムと偽った』
「成程な、それでアイツ、あんなに動揺して……」
『もうライダーは君一人しかいない。僕にはもう彼を止められる力が……身体がもう、ないから』
「……!?」
『この世界と、ライダーのカード、デッキを用意してしまえば、僕はもう用無しだったんだろうね。僕の本当の『身体』は彼によって消された。そして意識だけが二分し『SURVIVE』の中に潜んでいた、という事さ』
「二分している?じゃあ今のお前の記憶は……」
『うん、二分してい『た』だね。君に全てを授けるよ。『烈火』と『疾風』、二枚の『SURVIVE』の全ての力を』
少年の手が、武の右手を握り……彼の身体から、眩い光が武へと伝播していった。
『……頼んだよ。世界を、そして彼を救えるのは……君だけなんだ』
そう言い残すと、少年の姿は光の中に溶けていった。


風が、叫んだ。
巨大な火柱を包み込むように風が吹き荒んでいた。
やがて炎と風は一つとなり……弾け、そしてその中心に、武は立っていた。
閉じていた瞳を静かに開き、眼前のBWを見据える。
ただそれだけの行為に、BWは押しつぶされそうなプレッシャーを感じていた。
「あ、ああああ……」
震える足を押さえようとすると、恐怖の色濃い声が漏れ出てしまうのは必然であった。
「……BW、お前は罪を犯しすぎた。今ここで…俺が手前を断罪してやる」
「く、くっそおおおおっ!?」
BWは半ば狂乱的にカードを引き抜き、ねじ込むように差し込んだ。
『…ファイナルベント』
すると武の周囲の空間が歪み、大気を振るわせる低い音が耳をついた。
そして武の左耳から突然、真っ赤な鮮血が迸った。
「くくく…はっはっはっはぁっ!! どうだぁ、武! このファイナルベントは強力だろうっ!? 幾らSURVIVEの恩恵を受けてるとはいえ、この大気をも振るわせる強力な電磁波の前には…」
「……強力強力って、さっきからナニ一人で盛り上がってんだよ、お前は」
「……はぁっ!? な、なぜ……何で平然と立ってるんだよぉぉぉっ!」
「痛くねえんだよ、この程度の攻撃なんざ……皆の受けてきた痛みに比べたらな」
『SURVIVE』の力を継ぐ時、武には全てが見えた。
2枚の『SURVIVE』の所持者であり、幾多ものライダーと激闘を繰り広げてきた春香菜といづみの戦いの記録が。
それには武が巡り会う事の無かったライダー――智也や信等――との戦いの様子すら見て取れた。
そんな中で彼らが浮かべる苦渋の表情、痛みに耐えて流す脂汗……そして、無念の涙。
それらを悠々とBWが眺めていたかと思うと、武の身体に無限の力が沸いてくる感覚があった。
『……倉成の旦那、こっちは片づきました……これ、を……』
武の側に、満身創痍のチャミが歩み寄ってきた。その後方には、今は原型を留めていないピピらしき塊が見える。
そしてチャミは震える手で武に自らの刀を渡すと、その場に崩れ落ちた。
「チャミ、御苦労さん。今は……ゆっくり休め」
武はチャミの頭を一撫でするとすっくと立ち上がり、BWに視線を戻す。
「う、うわぁぁぁぁっ!?」
最早理性の限界が来つつあるBWに、余裕なんてものは皆無であった。
ただひたすらに狂った様に叫び続け、天を仰いで涙を流していた。
武は静かに獣の血を拭い去ると、刀を構える。白刃が光を反射し、美しく煌めいた。
「俺の全力を……この一撃に込める」
ぞわぞわと、武の周囲の空気が険しくなる。袋に空気を徐々に詰め込む時の様な静かな圧迫感が世界を支配していた。
―――刹那。
武は瞬時にしてBWとの間合いを零にした。
そして線状の光が数え切れない一瞬に煌めき……
BWはその場に崩れ落ちた。


「……早く殺してよ……僕にはもう、生きる気力が無い……」
BWは使い物にならなくなった四肢を投げ出しながら、空を見上げて武に懇願した。
武は刀を鞘に収めると、BWの元に近づきしゃがみこんだ。
「もちろんそのつもりだ……でもよ、お前には一言言っておきたいんだよ」
「……何かな? ……もしかして『最後の勝者が叶えられる願い』の事? それなら……」
「それじゃない。……それが気にならないわけじゃないが、それとは別の事だ」
「……?」
「お前は……お前はこの戦いを始めた事を後悔してないのか、ってな」
「後、悔……? どうして今更そんな……」
「確かに今更だけどよ、聞いておきたいもんは聞いておきたいんだ。こればっかりは抑えようがないしな……で、どうなんだ?」
「後悔……僕は、僕は……」
「お前はココと同じ時間、同じ場所で生きたいと願った。それについては俺がどうこう言えるもんじゃない。けどよ……それを果たそうとして、ココや皆……赤の他人までをも巻き込んで、血で血を洗い流し、憎しみ合わせて……お前は本当にこんな結果を望んでたのか?」
「僕は、僕は……」
「はっきり言って俺はお前が憎かった……ついさっきまで、な」
「……え?」
「戦いが終わって、冷静になって、今のお前を見てるとよ……お前は、やっぱり俺達に近いんだな、と。そう思ったんだ」
「近い? 僕が? ……どうしてそう思えるんだい?」
「お前は願いを叶える方法と手段を間違っただけであって、好きな人と一緒に居たいと思った事は間違っちゃいない。上手く言えないんだけどよ……それって、すっげぇ綺麗な感情だと思うぞ、俺は」
「綺麗な、感情……僕は、僕は……後悔、してる……この戦いを始めた事……ココや春香菜を、逆恨みした事……友人と信じた『彼』を消した事……」
自然と、頬に涙が零れた。
「……お前は、こんなにも綺麗な涙を流せるんだ。きっとまたやり直せるさ。時間は無限じゃないが、お前は俺達と同じ時を過ごせるんだからな」
武の血で汚れた笑顔が、蒼く透き通った空が、BWの憎しみを昇華させていく。
「……彼は、許してくれるかな? こんな僕の事を……」
「俺が知るかよ。でも……きちんと誠意を込めて謝りゃ許してくれんだろ。……安心しな、俺の勘は良く当たる」
「そうだね……彼に会えたら、きちんと謝るよ……『ごめんなさい』……そして『これからも、僕の友達で……』」
そう呟くと、BWは最期の力を振り絞って武の手を取った。
「武……君に、託すよ……僕の遺せる、唯一の、希望を…………」
光が、BWから伝わり武の手の中で形を形成していく。光が、完全な球形を象った時……
その身体は、もう、何処にも見えなくなっていた。


            『仮面ライダーココ ― ブリックウィンケル ― 』脱落 ――― 残り1名:仮面ライダー武 ―――


武の掌に収まる程の大きさの、光り輝く球体。
これがライダー達、そしてBWが欲した『願いを叶える力』……。
武は悲鳴を上げる右腕を必死に天高く突き上げると、出せる限りの大声で叫ぶ。
「俺の、願いは…………!!!」


…………。
………………。
……………………ペチリ。
「……んあ?」
「『んあ?』じゃないわよ。いつまで眠っているつもりなの、武?」
「ああ……ついつい気持ちよくってな。太陽の光と……お前の膝枕♪」
「ちょっ、武……!」
真っ赤になってそっぽをむくつぐみを後ろから優しく抱きしめる。ジャコウの香りが程良く鼻を突いて気が落ち着く。
「……ちょっとお二人さん? 熱々なのは良いけど、何も今こんな場所で見せつけなくてもいいんじゃなくて?」
殺気を感じて振り返ると、視線の先には優と空が居た。二人とも凄い目つきで俺達……もとい、俺を睨みつけていた。
「何よお母さ〜ん……年甲斐もなく嫉妬の炎燃やしちゃって〜……」
そこへ秋優が爆炎にガソリンを注ぎにやってきた。優はそんな娘をきっと一睨みした後、クスリと嘲りの笑みを浮かべた。
「うっ……な、何よ今の嘲笑は……」
「いえいえ。流石田中優美清秋香菜さんだと思ってね♪いやぁ、『彼氏が実の妹に取られようとしているのを無視して私を挑発しに来るなんて』余程余裕があるのね〜、と」
その優の一言に敏感に反応した秋優の見たものは、ランチョンマットの上に広げた弁当のおかずを、ホクトに『口移しで』食べさせようとしている沙羅の姿だった。
「ちょ……沙羅、何の真似なの!?」
「いいふぁにゃいの〜、ほれより、にぇ、はやくたふぇてぇ♪(訳:いいじゃないの〜、それより、ね、早く食べて♪)」
「あ、あの娘は〜〜! コラァーッ、マヨーーーーッ!」
イケナイ関係に足を踏み入れそうな予感のする彼氏と後輩の元へと駆け出す秋優。
そんな光景を尻目に、少し離れた位置では桑古木とココが楽しそうにブランコで遊んでいた。
「がんばれ少ちゃ〜ん、立派なニワトリさんになるのだ〜♪」
「おう、ココ! 俺はやるぜ〜〜……おりゃりゃりゃりゃ!!」
突如桑古木はブランコで立ち漕ぎを始める。ものの数秒で一回転しそうな程の勢いをつけると……
「とぉうりゃぁぁぁっ!!」
桑古木は両手を大きく広げて、鳥の様に宙を舞ったのだ。
「きゃははははっ! すっごいよぉ〜、少ちゃん♪」
「そうかー! それは何より……ぐえっ!?」
ココの喝采に気を取られた桑古木は、着地を誤り首から地面に激突した。
何だかもやの様な物が体から出てるが心配いらないだろう。はっきり言って俺より頑丈だからな、アイツは。
「……ところでつぐみ。沙羅が弁当を広げたって事は、今って……」
「ええ、もう12時を回ったわ。私達もお昼にしましょう?」
そう言って珍しく、つぐみの方から俺の手を取って駆け出した。


俺達は今、休日を利用して公園にピクニックに来ていた。
幸いな事に空も青く晴れ、絶好のピクニック日和だ。
弁当を囲むつぐみ、沙羅、ホクト、優、秋優、空、ココ、桑古木にも笑顔が満開だった。
―― あの辛く苦しい戦いの日々が記憶に無いのだから当然だよな。


俺があの時願った事。
『この戦いを、無かった事にしてくれ』
その願いは成就された。
俺が目を覚ました月日は、戦いのあった日から見て2ヶ月前だった。
それでも安心出来なかった俺は、さり気なくつぐみや優にカードデッキの事やミラーワールドを示唆する様な事を聞いてみたが、一笑に伏された。
空なんかは本気で俺の頭が逝ったと思ったらしく、慌てて止めなければ病院にエマージェンシーコールされる所だった。
そうやって俺はようやく安堵の溜息をつく事が出来たのだった。


しかし、俺の願いは完全な成就ではなく、俺自身に2つの変化があった。
一つは俺にあの戦いの記憶が残っている事。たった3日間とはいえ、その3日間は激動のものだったから、強く俺の頭に残っていた。
そして、もう一つは……


ココがおにぎりを頬張っている途中で、不意に空を見上げた。それにつられてホクトも視線を空によこす。
つぐみも、沙羅も、優も、秋優も、空も、桑古木も。つられて空を見上げる。
俺も視線を空に向けた。そこには……
「……お兄ちゃ〜ん♪」
ココが元気良く手を振った。その視線の先には……BWがいた。
『こんにちわ、ココ。元気にしてたかい?』
「うんっ! ココは毎日元気で〜っす♪」
「君の方はどうなんだい? そっちの生活は」
『楽しくやってるよ。友達もいるしね。ホクトこそどうだい? 可愛い妹に毎日詰め寄られる生活は?』
「毎日神経をすり減らしてるよ」
ホクトは苦笑しながらそう答えた。俺はそんな合間を図って。
「よう。調子良さそうじゃねえか。いいこった」
『あ、武……うん、御陰様でね』
俺に起きたもう一つの変化……それは、俺にもBWの姿が見える様になった事だ。
相変わらず赤外線は見えないが、ホクト曰く『赤外線視力と第三視点能力は全くの別物だから仕方が無いよ』との談。両方持ってるホクトを本気で羨ましく思った事もあった。
「でも、どうしていきなり倉成に見える様になったのかしら……?」
恐らく、あの力の受け渡しの時の繋がりに何か原因があるのだろう。だが、それを言ってもここにいる奴等には分からない事だ。だから俺は、
「まあ、俺の溢れ出る才能の一種が花開いたんだろ♪」
とおちゃらけてごまかした。
直後、優からハリセン突っ込みが飛んできたのは言うまでもなく。


「んで? 今日は何のために来たんだ? お前もピクニックに参加したいのかい?」
『ん〜……それもあるけど、今回は他にも伝えたい事があってね。……紹介したい奴がいるんだ』
「紹介したい人? 一体誰なの?」
「彼女か? ココが居ながらお前って奴は……」
『違うよ! ……武も良く知っている奴さ。おお〜い!』
BWの呼びかけに応えて宙に現れた奴……それはミラーワールドで俺が出会った『彼』であった。
「!! お前……無事だったのか!」
『ああ。君のお陰だよ。君の願いが成就された事によって僕達の方にも変化が起こったのさ。相互因果作用……っていうのかな』
「なんかよく分からんが、無事なら良かったよ」
そう言って、俺とそいつは微笑みあった。
「あ〜! 昔の少ちゃんにそっくりだ〜!」
「へぇ、昔の桑古木ってこんな顔だったんだ……格好良いっていうか、可愛い系?」
「!! ……ホクト、まさかアンタ、男色の気が……」
「違う違う違う!! 何考えてるのさ優っ!?」
「ねえ、お兄ちゃん。その人のお名前は何て言うの?」
『ああ、こいつ? 僕が言うより自分で名乗るかい?』
『そうさせてもらう。僕の名前は……』

俺達の生きる時間は、無限じゃない。
でも、今この瞬間、俺達は同じ時を同じ場所で生きている。
その奇跡を、幸せを、しっかりと感じながら生き抜いていこうと思う。

『未来は、俺達の手で創るんだよ』

仮面ライダー武……END




あとがき

まずはじめに……すいませんでしたぁぁぁっ!!(土下座)
予告・第一話を掲載していただいてから約七ヶ月……時間を掛けすぎです。という書かな過ぎでした。
七月下旬〜九月なんてほとんど手付かずでしたから(爆死)
第三話後書きで『同時期に終わらせたい』とか言ってた『浪漫酢の神様』も停滞しっぱなしです(撃滅)
ストーリーもその場凌ぎのでっちあげ連発で、何だかうやむやな終わり方……
そもそも当初の落ちとは全く変わってしまいましたから。
最初は全編ギャグ(第一話〜第二話まではそうだったんですが……)で最後の敵はクィクィ星人。
武の最終必殺技も『X―105ストライクー!』とガ○ダムで踏み潰すってオチでしたから(ガ○ダムネタはその直後に歩さんが使ってらっしゃいましたが(汗))
第三話冒頭からの一転したシリアス展開に自分がついていけませんでした(ダメっぽ)
それでもこうして一本長編を終わらせられてホッとしました。

さてさて、このSSってば自分がSSのいろはも知らぬ時に書き出した処女作なためか、所々に失笑を買う為の小ネタがわんさか。
自分で少しひっくり返してネタ元をチェックしてみました。

・仮面ライダー龍騎(当然です(汗))
・スターオーシャン3
・テイルズオブデスティニー2
・スクライド
・ラブひな
・テニスの王子様……たぶん他にも(汗)

で、少し謝罪したい事が(またか)
第二話で優夏が叫んでいた『ジャックナイフ』ですが……その技、『バックハンド』と呼ばれる技術の一つでして……つまりは、サーブじゃないので優夏からでは発動できないんです(汗)
中途半端な知識は身を滅ぼすという教訓で(爆)

最後に、作品発表の場を提供して下さる明さんの深い御心と、最後までこの作品を読んで下さった皆様に深く感謝して。
それでは!

口ずさみソング 『メリッサ(ポルノグラフティ)』


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