※タイトルまでの会話は、本編の展開には関係ありません。



「唐突だがホクト、桑古木。夏と言ったら何だ?」
「本当に唐突だな」
「う〜ん……花火、かな。やっぱり」
「いや、スイカだろう。あと、流しそうめん!」
「あ、いいですね。今度皆でやりません?」
「そうだな、いつがいいか……」
「……ちっがーーーーーーーーーーーーーーーーうっ!!!」
突然の武の怒声が2人の鼓膜を激しく揺さぶった。
「違うだろうがお前らっ! それでも漢(ヲトコ)かっ!? 夏といったら、夏といったら……水着(うみ)に決まってるだろーーーがっ!!」
「「字がちがうーーーーーーーーっ!?」」

浪漫酢の神様 
〜THE GOD OF ROMAN AND VINEGAR〜

                             終焉の鮪


前半『広瀬さんとは一切関係ありません』



【武視点】

……遂に、この日がやって来た。
思えば俺は、今日この日の為に2034年に救出されたのかも知れないな……。
ん? それは言いすぎだ、本編の感動が薄れるって? 黙りたまえ、画面の前のBW諸君!!
そう思うのも仕方が無いのだ。何てったって、何てったって……。

今日は倉成一家、初の家族『だけ』で海に1泊旅行なんだからなぁ!
だからなぁ!
だからなぁ……!

……おっと! あまりの激しさにエコーがかかっちまった! 興奮もほどほどにしないとな、俺。
まずは目的地まで車を安全に運ばねば……。
「それにしても……進まな過ぎじゃないか?」
「何かこの先で検問が敷かれてるみたいよ」
「うげっ、マジかよ! ツイてねえなあ……」
だが、この時浮かれていた俺はすっかり忘れていた。
『奴』の存在と、その行動力の大きさを―――。


そして17分後。
検問の前までやってきた俺達はヒソヒソと会話をしていた。
「……何故ここに『アレ』が居るんだ?」
「そもそも、どうして検問員に?」
「決まってるでしょ……『奴』が仕向けたのよ」
「うう……私達には『一家団欒の平和な休日』っていうのはやって来ないのでゴザルか…」
「……こうなったら仕方が無い。順番が来たと同時に急発進する!!」
そうして、検問員の『アレ』が近づいてきた。
「すいません、お騒がせいたします……って、武!」
「ええっ!? 一体誰のことですかな!? それではっ!」
『アレ』が何かアクションを起こす前に、俺はアクセルを思いっきり踏み込んだ。
ギュルギュルギュルとやかましい音を立てながら、車は急発進した。
「しまった! 取り逃がした……!」
俺達は『アレ』の悔しそうな表情を尻目に、悠々と進んでいく……
はずだった。
「……なぁんてな。甘いぜ、武!」
風に乗って『アレ』の声が聞こえるのと同時に、車の前に人影が躍り出てきた。
そして、車のバンパーをガシリと掴むと、車の上体を持ち上げてしまったのだ!
「なっ……しまったっ!?」
完全にしてやられた。『アレ』の目的は『奴』の接近を俺達に気付かせないための目くらましの役割を果たす事だけだったようだ。
車体を持ち上げられてる以上、エンジンをふかしても無駄だと思った俺は、エンジンを切った。
すると車体はゆっくりと下げられ、運転席側である俺の方へ『奴』がやって来た。
「ハァイ、倉成♪」
「優…………」
にこにこと愛想の良い笑顔を浮かべている優を、俺はじと目で睨みつけた。
「やだ、倉成……そんな熱い視線で見つめないで……(はぁと)」
こいつの頭には何か湧いているのだろうか? 俺はそう思わずにはいられなかった。


【春香菜視点】

作戦は無事に成功した。
2人の会話を立ち聞きしたあの日から入念に作戦を立てた甲斐があったというものだ。
今、私の目の前には熱い視線を送る倉成の姿があった。思わず頬が熱くなる辺り、わたしもまだまだ初ぶね、と思ってしまう。
「……で? 一体何の用なの?」
つぐみの声にどこか刺々しいものを感じつつも、私は笑顔を崩さず答える。
「水くさいじゃない、貴方達〜。海に一泊旅行に行くなら、私達も誘ってくれたっていいじゃな〜い」
「……私『達』?」
ホクトがたらーっと冷や汗を流すのを、あえて無視した。
「そうよ、私『達』。向こうの車に皆いるわよ」
皆、とは言わずもがな。例のメンバー全員である。どうやら桑古木が皆に話したようで、今朝になって私の家に空とココがやってきたのだ。
私としては正直、今回の計画には空は邪魔だったのだが、断っても無駄なので承諾した。
「……つまりだ。お前は俺達倉成家の素敵な家族団欒一泊旅行をかき回したいと、そう言うことか?」
「嫌ぁねぇ、倉成。『かき回す』って何よ?」
「このメンバーが揃って何事も無かった事が無い」
「二重否定かよ」
いつの間にやら桑古木が、私達の側までやって来ていた。
「良いじゃない、倉成? 夏なんだし、私達も一緒に楽しみたいのよ」
「う、その気持ちも分からいでも無いが……」
チャンス。私は倉成の一瞬の心の揺らぎを見逃さなかった。
「それじゃOKなのね!? そうと決まれば早速行きましょう!!」
「え!? お、おい優っ!?」
私は桑古木に、あらかじめ用意しておいた連結用のフックを倉成の車のバンパーに取り付させると、急いで車に戻り、アクセルを全開にした。
視界の隅で桑古木が跳ね飛ばされた気がしたが見なかった事にした。


【桑古木視点】

「ぐっはあっ!?」
一瞬何が起こったのか理解出来なかったが、俺の体が宙を舞っているのだけには気付いた。
俺の腕は無意識的に、武の車のサイドミラーを掴んでいた。
「おい桑古木、大丈夫か!?」
ウインドウを開けて、武が呼びかけてきた。
「何とかね……相変わらず無茶するよなあ、優は」
「全くだ……んで。当然あいつは行き先を知っているんだよな」
「ああ。盗聴は完璧だったからな」
「それで、お前は後どれくらいで目的地に着くのか知っているのか?」
『盗聴』についてあえて触れない辺り、武も強くなったなあ、と俺は思った。
「いや? 俺はただここで武達を捕まえる作戦をする事しか……」
「そう……なら教えてあげる」
助手席から身を乗り出してきたつぐみが囁くように俺に告げた。
「あと17Km先。言っておくけど、車を傷つけたら許さないわよ」
「…………マジですか」
俺はがっくりうなだれると、対向車に激突しない事だけを祈り、目を閉じた。


【ホクト視点】

……途中で先生達に捕まるというアクシデントはあったものの、僕達は無事に目的地である浜咲海岸に辿り着いた。
今の時期は夏祭りが開催されているらしく、商店街方面から人の声もさわさわと聞こえる。
僕は車を降りると、ううんと精一杯背伸びをした。磯の匂いをはらんだ風が気持ち良い。
僕達を先導してた(というか強制的に引っ張ってた)先生の車から、皆が降りてきた。
「おはよう、優」
僕はその中に優の姿を認めると、駆け寄って挨拶をした。
「あ、お早うホクト。ゴメンね〜、うちのお母さんが…」
「僕は気にしてないよ」
困ったような笑顔で優が謝ってきたが、僕は全然気にしてはなかった。
そう、僕は気にしていない。むしろ嬉しいくらいだ。
確かに家族団欒も悪くはないけど、せっかくの海なんだし。それに正直、優の水着姿が見たいなんて思いもある。
改めて、僕はお父さんの子供なんだな、と実感した。
「それじゃあ俺が先に場所用意しておくから。皆は着替えてきても良いぞ〜」
桑古木が先生の車から巨大なレジャーシートを引っ張り出しながら叫んでいた。
改めて、あいつはこういう役回りなんだな、と実感した。
「それじゃ優、後でね」
「うん」
僕達はそう言って一旦散開した。
……それにしても、沙羅がずっとこちらを睨んでいる様に感じたのは気のせいかな?


【武視点】

「ふう……」
「どうしたの、お父さん?」
今、俺とホクトは着替えを終え桑古木と交代して場所を確保している最中だ。
「溜息もつきたくなるさ。ホクト、お前はこのメンバーが勢揃いして何も起こらないと断言出来るのか?」
「無理かな」
爽やかに即答しやがった。俺譲りのナイススマイルが、今は憎い。
「でも、僕は嬉しいよ。やっぱり賑やかな方が楽しいし」
「お前の場合は秋優がいるからだろうが」
「やっぱり分かる?」
「……へえ、随分きっぱりと言い切るようになったな」
「僕だっていつまでも『真性純情少年くん』じゃないんだよ。それに、何かあるとしたら十中八九お父さんが巻き込まれると思う」
「その言葉の裏を取ると『巻き込まれるのは俺だけ』と受け取れるんだが?」
「頑張ってね」
ホクトの爽やかな笑顔がムカついたので、後で無理矢理巻き込む事に俺の中で決定した。
「お父さんが格好良すぎるから起こるんじゃないの? 取り合いが」
俺の考えを察知したのか、ホクトが急にそんな事を言い出す。
「あいつらのは単なる破壊活動だろうが。この綺麗な海が鮮血で汚れないよう祈っておけ」
「後お父さんが無事に今夜を迎えられるようにね」
やっぱり巻き込もう。こいつだけ無事にはさせん。
「お待たせ武、ホクト」
着替えを終えた桑古木が、俺達の元へやってくる。
「何だ桑古木かよ。女性陣はまだ着替え終わらないのか?」
「日焼け止めでも塗ってるんじゃないか? シミはお肌の天敵だし」
「そうだね……特にお母さんの場合、最悪生命に関わることだから、入念にしてもらってるんじゃないの?」
「沙羅に?」
「そりゃそうでしょ。最初は4人で来るつもりだったんだから」
「何だか……やらしくないか? それ」
「桑古木の頭が腐ってるんだよ」
「……なあ武、もしかしてホクトの奴機嫌悪い?」
「いや、そんな事はない。さっき嬉しいとか言ってたからな。むしろ機嫌悪いのは俺の方だ」
「本当に悪かったって。でも俺も生死に関わる事だったからやらざるを得なかったんだよ」
「……わからんでもないな」
そんな話をしていると、周囲からのざわめきが耳に入ってきた。
「? いったい何なん……」
後ろを振り向いた俺は、視界に入ってきたその光景に呆然とした。
「はら、ママァ。そんなに照れてないで早く行こうよ〜」
「そ、そんな事言われても……こんな水着だったなんて……」
沙羅のレオタードタイプの水着もさることながら、そんな沙羅に恥ずかしがりながらも連れられてくるつぐみの水着が……。
「黒のビキニ、か……なかなか良いところを突くじゃないか、武?」
「いや、俺は知らなかったぞ……昨日沙羅とつぐみだけで買いに行ってたからな…………」
「あ、いたいた。お兄ちゃ〜ん、パパァ〜♪」
俺達を発見した沙羅が、ぶんぶんと手を振りながらこちらへとやってくる。
周囲の視線が、一気に俺達にも注がれるのが分かった。
言わずもがな、野郎共の羨望と殺意の視線が、だが。
「あ、た、武……」
俺の視線に気付いたつぐみは、更に頬を紅く染め上げながらおずおずと歩いてきた。
「どう、パパ? ママにと〜っても似合ってるでしょ? 私が決めてあげたんだよ〜♪」
「あ、ああ……」
言葉が続かない。つぐみがあんまりにも美しいから。
今まで看護服だの体操着だのの服装を見たことはあったが……それらを遙かに超えるインパクトがある。
……変な突っ込みは止してもらおうか、怒りに震える画面の前のBW諸君! 俺だって健全な男なんだよ!!

(※本当に健全な男子はそんな事をさせません。)

「う……ゃ、やっぱりあんまり似合って、ない……?」
少し上目遣いに俺を見やるつぐみの視線の前に、俺は…………。
「…………きゅう」
熱い熱ーい砂浜の上に倒れ込んで、意識を失った。


【沙羅視点】

「…………きゅう」
妙に可愛い声を発しながら、パパが気を失ってしまった。
「え!? た、武!? どうしたの、ねぇっ!!」
「心配無用でゴザルよ、ママ。パパは過度の刺激に耐えきれなくなっただけでゴザルから」
「過度の……刺激?」
「ママの水着姿♪向こうのパラソルの下で介抱してはどうですかな? ニンニン」
「う、うん。分かったわ……」
そう言ってママは気を失ったパパを抱えてビーチパラソルの方へと向かっていった。
「ねえ沙羅、優や先生達はどうしたの?」
「え? えと、まだ着替えてるんじゃないかな」
「そっか……」
そう言ったお兄ちゃんの表情が少し沈んだのが私の自尊心に火をつける。
(何よお兄ちゃんたら! なっきゅ先輩の事ばっかり気にして! 目の前で可愛い妹が魅力的な水着姿で居るっていうのに!!)
「お兄ちゃんの……バカァッ!」
私は心の赴くままに、そう叫びながらお兄ちゃんに抱きついた。
「え……ええ!? な、なななな何するんだよ、沙羅!?」
「なによぉ、さっきからなっきゅ先輩の事ばっかり考えて! この旅行は元々私達一家だけの旅行だったんだよ! 忘れてない!?」
「わ、分かった分かった! だから離れて! 優に見られたら……」
「だからー! 今はなっきゅ先輩は関係ないのーーーっ!!」
私は更に体を密着させ、お兄ちゃんの胸に頬を思いっきり押し付ける。
「さ、沙羅ーー!!」
「……これはこれはご両人? とてつもなく仲のよろしい事で……」
おかしい。ここは真夏の砂浜なのに。
今の一言が辺りの空気を一気に氷点下に持って行ってしまったようだ。
何故なら私とお兄ちゃんの身体が2人して小刻みにカタカタと震えているから。
「あ、あのね優……これは違うんだよ……沙羅のいつもの悪ふざけで……」
お兄ちゃんの言葉に、私も慌てて首を上下に振る。
しかしまぁ、そんな言い訳、背後の悪鬼に通じるはずも無く……
「……だったら仲良く、黄泉の国へと逝ってらっしゃーーーいっ!!」
次の瞬間には、綺麗なお星様が目の前を飛び交い……私はパパ同様、熱い熱ーい砂の上に倒れこんだのだった。


【空視点】

「……逝ってらっしゃーーーいっ!!」
これが、着替え終わってビーチにやってきた私と田中先生、ココちゃんの聞いた第一声でした。
次に視界に入ったものは砂浜に倒れこんだ沙羅さんと、田中さんに撲殺されかけてるホクトさんでした。
「アンタって奴は、アンタって奴はーーーっ!!」
「ぐっ!? ぶふっ!? い、いや優、話を……」
「聞く耳持たーーーんっ!!」
恐らく、これが俗に言う『修羅場』というものなのでしょうか?
私の脳裏には『私刑』という単語も浮かんできたのですが。
田中先生はココちゃんの目を手で覆って『見ちゃダメよ、見ちゃダメよ』と連呼していました。
私は…………
折角の機会ですので、人体破壊の構造について学んでおこうと自動記憶機能の電源を入れました。
後々小町さん相手に使えるかも知れませんからね……。
「……うふふ」
私は無意識のうちに、そんな笑い声を漏らしていたのでした。


【ココ視点】

「……うふふ」
なっきゅに目隠しされたココに聞こえたのは、空さんの楽しそうな笑い声とホクたんの嬉しそうな大声でした。
海に来てあんなにはしゃいだ声を出すなんて、まだまだホクたんも子どもですなぁ〜♪
時々「痛い、痛いぃぃぃっ!!」と声が聞こえます。
カニさんに足を挟まれたのかな? ちょっと可哀想です。
「ねぇ〜なっきゅ〜、いつまでお目目隠してるの〜?」
「ご、御免なさいねココ、後少しだから……」
『後少しで終わるから……』と小さく呟いたなっきゅの手は少し汗ばんでました。


【武視点】

……深い、深い闇の底に沈んでいる感覚……
声を出そうとしても、それは空気を震わせる事無く、俺の耳にも届きはしない。
『……死ぬのか……』
漠然とそう思ったその時。
強烈に鼻を突く香り。頭がクラクラするような……
……ジャコウの、香り。


「……目が覚めた?」
「……バッチリな」
目を開ければ、そこに広がるは白い砂浜と蒼い海。
思案を巡らせる事約10秒。俺はさっきまでの出来事を思い出した。
「そかそか……俺ってばつぐみの美しさにすっかり逆上せ上がってたってわけか……」
「うつく……っ武っ!!」
つぐみが頬を紅く染めて何かを言い返そうとする。俺はつぐみが何か言う前に、その愛らしい唇に人差し指をつける。
「ま、ま。海にまで来て細かい事は言いっこなしだ。それより早く泳ごうぜ?」
「……ううん。私はまだ良いわ。武一人で泳いできて」
「何だよ連れないなぁ。せっかくなんだから一緒に……」
「……私、武の泳いでる格好良い姿が……見たいな」
「任せとけ」
上気した顔で上目遣いにお願いされちゃ断れるはずもない。


さてさて、泳ぐのは実に17年ぶりとなる(俺にとっては3ヶ月くらいなのだが)
だが俺には何の心配も無い。深海119mで藻屑になりかけた事を差し引いてでも、だ。
何せ俺は大学時代『マグロの倉成』と異称された程に、海を愛し、泳ぎが得意なのだ。
そのグゥレイトな身体能力は2017年に見ただろう、画面の前のBW諸君?
……などと考えている間に、俺の体はすでに準備運動を終えていた。
俺は仕上げに軽く体を揺らすと、海へ向かい走りこみ、飛び込んだ。
たちまち全身を冷たい水の感覚が包む。この感覚が、俺はたまらなく好きだった。
ゆっくり海面に浮上した俺は泳ぎ始める。
基本のクロール、華麗なバタフライ、『遊泳魚水法』と友人に名づけられた、俺独自の泳ぎなど……。
俺はひたすらに、海との一体感を求めた。


「ふい〜っ……」
海との一体感を満喫した俺は砂浜に戻った。
体についた雫が、太陽光でキラキラと輝き、俺の体をメイクアップする。きゅっと引き締まった俺の肢体は今、芸術の域に達していた。
砂浜を歩く人々、全ての視線が俺に集中しているのが分かる。優に至っては写真まで撮っている始末だ。
ふっ、美しいってのは罪だぜ……。
「武……」
その時、不意につぐみが近くにやってきた。何故か顔を下に俯けながら。
……ははぁ、なるほど。いつも以上に輝いている俺を恥ずかしくて直視出来ないでいるのか。初い奴め……。
「ははは、どうだつぐみ? 俺の泳ぎは華麗だったろう?」
『惚れ直したか?』と尋ねる前につぐみが俺に向けてタオルを差し出す。
そして下を向いたまま、ぼそぼそと蚊の啼くような声で繰り返し呟く。
「下……下……」
「下?」
つられて俺の目線が移動する。と、そこには。
「――――!!!!!!」
俺はつぐみから慌ててタオルを受け取ると、焦る気持ちを抑えながら腰に巻き付けた。
蒼い海の水面には俺の勝負水着がぷかぷかと浮いていた。


【秋香菜視点】

「いやぁ、いいもの取れたわ♪」
18年と10ヶ月間、この母親とつき合って来たけど、こんなに嬉しそうな笑顔は見た事が無かった。
先程まで武さんが披露していた『宝物』を激写したのがそんなに嬉しかったのだろう。
「……おい、優」
ふと声がした方を向くとそこには、腰にタオルを巻き付けた武さんと、女の私からして見てもウットリしてしまいそうな美しさオーラを全身から放出しているつぐみ……さんの姿があった。
そんな二人の表情は夫婦らしい……かどうかは別として、同じ感情を感じさせる表情を浮かべてお母さんを見ていた。
簡単に言えば『そのカメラをよこせ』って顔。
「ん? 何かしら倉成、つぐみ?」
お母さんは素知らぬ顔でそう返す。流石に18年と10ヶ月私を騙していただけの事はある。
激写の瞬間を見ていなければ私はそれに気付かなかったであろう、極々自然な表情を浮かべていた。
だが被害者であるところの武さんはそんな事では騙されない。
「素知らぬ顔をするな、優。良いから黙ってそのカメラをよこせ。さもなくば……」
武さんがコキコキと拳を鳴らすが、お母さんに全くひるんだ様子はない。それどころか澄ました顔で、
「あら、暴力に訴え出るつもり? か弱い女性に向かって何て事を……」
「安心しろ、お前を女と思ったことは無い」
「……鳩鳴軒、クビにするわよ?」
腐ってもオーナー。職権乱用の気配がぷんぷん漂うが、これも一種の作戦ではある。
「それにつぐみになら……後で焼き増ししてあげても良いわよ?」
「武、そろそろお昼にしましょ?」
そう言って武さんの首根っこを掴んで微笑むつぐみさん。あっさり懐柔されたようだ。
『おい、まだカメラを奪ってないz』をわめく武さんを締め上げて落とす。その鮮やかな手つきは、プロのものだ。
「……ところで優? 沙羅とホクトの姿が見えないのだけど……何処に行ったか分かる?」
お母さんはあ、あははは、と渇いた笑いを浮かべるだけだった。
私は何事もなかったかのように作業 ―― 血で汚れた釘バットの洗浄作業 ―― に戻る事にした。


【桑古木視点】

―― 17年間ずっと、武みたいになれればと思い続けていた。
いつも明るくて、皆を楽しませてくれて。決めるところではバッチリ決めてくれる、頼れる男。
そんな武に、少しでも近づきたいと、ずっと思っていた。


でも今、砂浜でつぐみに締め上げられて落ちている武を見ると、そんな気持ちは一瞬で吹き飛んでしまった。
(モテすぎるってのも問題なんだな……)
少なくとも俺には一生縁のなさそうな事だが。
「少ちゃ〜ん? よそ見してると危険だぞ〜♪」
「ん?……ぶふっ!!?」
ココの声に振り向くと、眼前にはビーチボール。流石に避けきれず、顔面に直撃した。
「ふふ、桑古木さん。油断大敵ですよ」
視線の先には、楽しそうに微笑む空の姿が。
「やったなこの〜……お返しだっ!!」
俺は微笑みを浮かべながら空にボールを投げ返す。
のどかな時間だ。
今この空間には、俺と、ココと、空だけしかいない。
……幸せって、こういうのを言うんだなぁ。
ふと、そんな事を考えていると後ろから声をかけられた。
「やあ、誰かと思えばリョウじゃないか。こんな所で出会うなんて偶然だね」
俺の事をそんな愛称で呼ぶ人物は一人しか思い当たらない。
「久し振りですね、タカさん……それに、理宇佳さんも」
休暇に来ていたのだろうか。波打ち際に水着姿のタカさんと理宇佳さんが立っていて、こちらを見て微笑みを浮かべていた。
「ソラリンとココココも。こんにちわ」
「こんにちわ、阿師津さん。理宇佳さんも」
「こんちゃ〜♪」
「一体どうしたんです? 今日は親子で休日を楽しみに来たんですか?」
優の師父、という関係上かどうにもタカさんには敬語を使ってしまう。タカさんは『他人仰々しいから止めてくれよ』と何度も言われたが、俺より親しい優が敬語な以上、俺がため口で話しかけるのはためらわれる。
「まぁ、休息の意もあるが、ツグの様子が気になってね。僕の作った特製クリームの効果がきちんと発揮されているかどうか」
「つぐみさんの様子を見る限りでは、心配無さそうですがね」
今は屋台で焼きそばを食べている、武とつぐみを見て理宇佳が微笑んだ。
「しかしまぁ、そうやって君達三人で遊んでいる姿は、まるで家族みたいだったよ」
「かっ、家族っ!?」
タカさんの何気ない一言に、過剰な反応を返してしまう。
俺達が家族……!?て事は俺と空が……ふうf
「止して下さいそんな縁起でも無い事」
空がニコニコと微笑みを浮かべたままバッサリ斬り捨てる。
はは……やっぱり俺って、こんな扱いなのかな?
武になりたいよ……今は。


【武視点】

「いやしかし、仕事熱心だねおまいらも」
ズルズルズルと、食べ慣れてきた味の焼きそばを啜っていく。食べ慣れた、といってもやはりいつ食っても美味い。
「田中さんは休みを下さったんですが、折角なので海の出店を出してみたいなと」
「オレは暇でしたからテンチョーの手伝いに」
お昼を少し過ぎた時間のためか、出店には客はまばらだ。
だからこそこうしてここ ―― 鳩鳴軒臨時営業店inビーチサイド ――の店員である真篠と笹広と話が出来てるわけだが。
「私はなっきゅ先輩みたいに泳ぎが上手い訳でもなければ、一緒に海で遊ぶ相手もいませんからね」
たはは、と渇いた笑いを浮かべる真篠。
「笹広くんは遊んでても良いのに」
「テンチョー一人に接客と調理は任せられませんわ」
「なら俺とつぐみで店を回すから、お前等は遊んできて良いぞ」
「え、でもそんな悪いですよ。せっかくの休暇なのに……」
「……俺としては、向こうの席に座っている集団が営業妨害してる気がしてならないからな」
俺の目線の先には、黒服の屈強そうな男達に囲まれながらかき氷を食べている散花刹奈の姿がある。
そしてその視線は確実に俺達と話している真篠に向けられていた。
「全く、素直じゃないお嬢さんだな。ほれほれ、とっととそのエプロンをよこせ」
半ば剥ぎ取るように真篠と笹広のエプロンを奪うと、俺とつぐみは素早くそれを着る。
キュレイの力を使った無駄に鮮やかな手つきに、流石の二人も反論する余地は無かったようだ。
「……こうなりゃしゃあないですな。テンチョー、あそこの恥ずかしがり屋さんを連れて海に行きましょうや」
「は、はい……」
ひたひたと散花刹奈に向けて歩み寄る二人を見つめながら、俺はつぐみに謝る。
「すまんな、つぐみ。折角の休暇で海だってのに、こんな……」
「良いのよ武。武が言わなくても私は同じ事言うつもりだったし、それに……武と二人っきりなら、悪くはないわ」
照れながらも嬉しい事を言ってくれるつぐみを抱きしめた後、俺達は営業を開始した。


【ココ視点】

「ココちゃ〜ん!」
少ちゃんとタカのん、空さんと理宇佳さんがお話をしていて暇を持て余していたココの耳に聞こえたのは、聞き慣れた明るい声。
「あ、ピヨピヨ〜♪」
振り向けば砂浜のベンチシートの下、ピヨピヨがココに向かって大きく手を振っていました。
そしてその横には、前見た時と同じ格好をしている、運命さんの姿も見えました。
ココはアセアセと海から出て、二人に歩み寄ります。
「こんにっちゃ〜、ピヨピヨ、運命さんっ♪」
「こんにちわ、ココちゃん♪」
「…………」
運命さんはただ黙って右手をあげるだけでしたが、無視されて無くて良かった良かった♪おしゃべり苦手みたいだから仕方がないよね?
「もうっ!! どうしてサダメさんはそう無愛想なんですか? ココちゃんに失礼ですよ」
「……お嬢の友人の、テンションについていけなくて……」
無骨な印象を与える運命さんも、ピヨピヨだけには優しいです。きっと二人は強い絆で結ばれてるんだろうなぁ、なっきゅと少ちゃんみたいに♪
「……ねぇココ、今変な事考えてなかった?」
「……急に寒気がしてきたぞ……」
なっきゅと少ちゃんが、そういってココに近づいてきます。
「ふぇ? 別に変な事なんて考えてないよ〜」
だって少ちゃんとなっきゅが仲良いのは本当の事だもんね♪
「春香菜女史……涼権……どうも……」
「あら、運命君? こんなところで会うなんて奇遇ね」
「うぃっす、運命。相変わらずの仏頂面だな」
「……生まれつきだ……」
なっきゅと少ちゃん、それと運命さんは昔からの知り合いみたいです。こういった時に、ココはなっきゅや少ちゃんとの生きた時代の差、みたいなものを感じます。
でもでも、だからって別に落ち込んでる訳じゃないよ? 今、こうして一緒にいられるから良いんだっ♪
「お前が海でバカンスなんて想像出来ないんだがな……やっぱりそこのお嬢さんのお目付かい?」
「……俺は特殊だからな。どうしても平常の軍人とは扱いが違ってくる……鳥野総司令とも知らぬ仲では無い……」
「でも大変でしょう? パーフェクトは私達なんかより比較にならないほど日光には弱いじゃない? 出てきて大丈夫なの?」
「……春香菜女史。俺は……」
と、運命さんが何か言いかけた時、理宇佳さんの声が聞こえてきました。
「あ、真篠さん、塔野さん! いらしてたんですね」
「理宇佳さん、こんにちわ」
「うっす。隆文さんも、こんちわっす」
「何だい味気ないなぁササ。僕の事はタカさんって呼んでくれるって言ったじゃないか?」
「……いったい何のつもりなの、マシノン? 私をこんな所に誘い、正確には拉致してくるだなんて。どういった心境の変化なのかしら?」
「あんさんがテンチョーをずっと凝視しとるから、武さんが気ぃ効かせてくれたんやで。感謝しぃや」
「……っ!? そんな事言って、私を謀るつもりね!? 訴えて勝つわよ? 正確には偽証罪で告訴して……!! ゲホッ、コホコホッ!!」
「ああ〜、また血を吐いちゃった……ほらせっちゃん、しっかりして……」
ざわざわざわと、あっという間にココ達の周りに人が集まってきました。
ココの知ってる人、知らない人。楽しそうにざわざわと話し合っています。
「ねぇ、なっきゅ。なっきゅはここにいる皆の事知ってるんだよね?」
「ええ、一応は……」
「じゃあじゃあ! ココに紹介してよ! お友達が一杯増えるよ〜♪」
なっきゅは一瞬ポカンとした表情を浮かべましたが、すぐにいつもの優しい表情に戻って、
「ええ、良いわよ」
と言ってくれました。


【ホクト視点】

気が付いたら、空は茜色に染まっていて、僕の頭は柔らかな太股に安置されていた。
目線を上げると、そこには困った様な表情を浮かべた優の顔があった。
「……僕は……っ!!」
「あっと、まだ動かない方が良いよ。強く頭を打ったみたいだから」
頭を上げようとすると、激痛が走った。その僕の頭を、優は優しく押さえつける。
「……一体、どうしたんだっけ?」
「ホクトはね、足が攣って溺れかけた私を助けてくれたの。で、陸に引き上げたその後、派手に足を滑らせて……運悪く後頭部を強打して失神してたって訳」
「は、はぁ……」
どうにも僕には良くも悪くもお父さんの血が流れているらしい。……どっちが強いかはあえて言わないけど。
「ごめんね、私のせいで今日一日を台無しにしちゃった……」
「気にしないでよ。優に何事もなくて良かった」
それに、と僕は付け加える。
「こうして優の柔らかい膝枕で安らげるんだから。役得、役得♪」
「なっ……!」
かあっと、優の顔が紅く染まる。夕陽の所為でないのは、誰の目にも明らかだった。
「優……」
僕は寝転がった状態のまま、優の頬に手を伸ばす。
本当なら僕から迫りたい所だが、生憎と頭の痛みは引いてくれない。
「ホクト……、…………」
僕の意図を察してくれた優が、そっと顔を近づけてくる。
僕はそっと目を閉じ、
その柔らかな唇の、
感触を…………


「……ト、ホ…ト、ホクト! 起きろ、ホクト!!」
「……え?」
待てども来ない柔らかな感触の代わりに僕の耳に聞こえたのは、聞き慣れたいつもの声。
「お父さん……あれ? 優は?」
唇は? とは聞かない。何となく展開が読めてきたから。
「優、ってぇと秋の方か。あいつなら優達の車に乗ってるぞ。終始不機嫌だったが……何かしたのか?」
「ま、ちょっと、ね……」
目線を横にずらせば、そこには未だ伸びっ放しのわが妹の姿が見て取れた。
僕は再び甘く切ない妄想の世界へと、その意識を沈める事にした。


【運命視点】

「いやぁ、助かったわ。倉成達と合流したのは良かったけど、宿を決めるのを忘れてたわ」
「後一歩っていう所の詰めが甘いんだよな、優は。そんなだから武強奪作戦も……」
春香菜女史が運転しながら助手席の涼権にボディーブローを叩き込む。
見事だ……。
「……気にしないでくれ……昔馴染みだ、この位の融通なら効く……」
「一体誰なんですか、その人は?」
「……お嬢の知らない奴ですが……悪人ではない……俺がキュレイに感染する前の、軍人仲間……」
「元軍人なんだ……へぇ〜」
秋香菜嬢は感嘆したような声を上げた後『色々と本物から聞いておこうっと』などとブツブツ言っていた。
「倉成さん達と同じ宿に泊まれるんでしたら、私はどんな僻地でも我慢しますよ」
「わくわく、わくわく♪」
空と八神嬢も楽しみにしてくれているようだ。かくいう俺もアイツに会うのは久し振りだ。
「……次の角を右に……後ろの二車をあまり突き放さないように……」
後続車には倉成一家の車と、もう一台。
『外苑宮』と大きく車体に描かれた高級車が付いてきていた。


【武視点】

優の車に先導される形になっているが、元々俺達が予約した宿だぞ!! とは言えなかった。
『宿代を全額負担するから、ね?』という優の悪魔的魅力を伴った誘い文句に、俺達は完全に白旗状態だ。
まぁ、仮に断ったとしても優の事だ。金だの何だのの力でどうにかしてしまいそうなので、ここは一番の良策を取った!
そう思う事にしておく。
……決して負け惜しみなんかじゃないぞ!!
そうこうしているうちに前方の優車が速度を緩め始めた。そろそろ目的の宿に着く頃だな。
「そういえば、どんな宿なんすか?」
俺の車に乗車している、笹広が尋ねてくる。
ちなみに理宇佳とタカさん、真篠は後ろから着いてくる散花刹奈の車に乗っている。
「ああ、普通の民宿なんだが…こんだけの人数がいきなり来て泊めてくれるのか?」
いつものメンバーに加え笹広、真篠、タカさん、比代ちゃんに運命、そして散花刹奈。
合わせて15名と人数が豊富だ。普通ならかいつまんでばっさり斬り捨てらてしまう。
「何でもサダメさんの知り合いらしいですよ。そうでなくてもハルさんなら何とかしてたでしょうし」
優へのイメージは全員共通らしい。


「ここね」
前方の車から優が降りてくる。駐車場には俺達の車以外は見当たらなかった。
「他の車が見えないわね。本当にここ、正確にはこの旅館は経営してるのかしら?」
「その心配はいらないようだよ。館に灯りがついているしね」
「廃屋という事もなさそうですし」
「せっちゃんには対した事無さ気に見えても、結構立派な所よ、ここ」
真篠のいう通り外観は純和風といった感じで、真性日本人である俺の心に充足感が広がっていく。
「それにパンフレットを見たら、露天風呂もついているっていうし」
「混浴もあるって書いてなかったっけ?」
つぐみとホクトの一言に、ピクピクッと優と空が反応した。気がしたが無視した。
夜は要注意だな……。
「……ここで語らっていても無意味だ……旅館に向かおう」
未だ伸びている沙羅を軽々と背負い運命が言う。運命みたいなタイプは正直苦手だが悪い奴ではないと判る。
俺達はやいのやいのと語り合いながら旅館に向かった。


「こんばんわー。予約していた倉成ですけどー!」
旅館の戸を開け、開口一番にそう叫ぶ。
従業員の姿が見えないのだからしょうがない。
やがてパタパタパタと足音が奥から聞こえるにつれて、俺の視界に不快なものが写りこんできた。
「おい、つぐみ。まさかアレは……」
「……武にも見える? と言う事は、幻覚じゃないようね……」
つぐみが額を押さえる。周りを見回せば、秋優に桑古木、真篠、散花刹奈に笹広も同じような表情を浮かべている。空や理宇佳、タカさんは苦笑いしっぱなしだ。
このメンバーの対応を見てピンときたBWの皆、こんな駄目作者のSSを覚えていてくれてありがとう。
そして忠告。そんな人生に何の徳も無い記憶は早々に消し去ってしまいなさい。
そんな現実逃避をかます俺の耳に聞こえてきたのは……
「何でおまいらがここにおるねんなっ!!?」
という失礼な言葉を浴びせかける、終焉の鮪の大声だった。


【クワコギ視点(ぇ)】

「何でおまいらがここにおるねんなっ!!?」
あの時と同じ大声に、頭を抱えてしまった。
まさかあのMC鮪が、この旅館の経営者だったとは……世間って狭いんだな。
「予約したんだから当然だろう!」
「ああっ!!? んじゃまさかぁあの保志ヴォイスはお前さんのかね!?」
「保志ヴォイスって何だよ!? てか倉成って苗字で気づけよな!」
「倉成なんてありきたりの苗字で気づくかボケッ! どうせなら渡良瀬とか言ってみろよなぁぁっ!!?」
「それは犯罪、正確には詐称罪よ……客に対してその態度は何なの? あなた、訴えて勝つわよ?」
「訴えてみぃ、訴えてみぃぃぃぃぃっ! 必殺『ご都合主義』であっさり却下したるわぁぁっ!」
コイツの発言には時々異質なものが混ざっている気がするな……あの状態を世間一般的に『逝く』と言うんだろうか?
「大体予約は4名様でいらっしゃいますでしょうがっ!? それなのに何ですかこの大人数は! 例え謎ジャム開発者が一秒で『了承』しても鮪さんは絶対に、絶ぇぇぇぇ対に認めません!! 野郎はさっさとお消えになって下さいましぃぃっ!」
『コイツの経営する旅館になんか泊まりたくねぇなぁ……』的なムードが漂いはじめたその時。
「……久し振りだな、鮪……」
運命の消え入りそうな一言。だがその言葉に鮪は敏感に反応した。
「そ、その怠惰的且つ無気力的な口調……まさか、まさか……!」
変に芝居がかった感じで鮪が上目遣いに視線をよこす(無論可愛くねえ)と、その表情がキラキラと輝きだした。
「さ、運命ーーーーー!」
人間核弾頭よろしく鮪が運命に突っ込む。運命は沙羅を背負ったまま綺麗にカウンターパンチを叩き込んだ。
「ぐっふぅ!? ……その冷やかな所も、変わってねえなぁ、運命……」
「……お前もな。退軍した頃と……何一つ変わっておらん……」
追加の踏み付けをしっかりと決め込む運命。こいつこんなキャラだったっけか……?
「……ところで鮪、宿泊の件だが……」
「ぐ、ぐむむ……おまいがおるならしゃあないわ、特別出血大サービスで泊めたるわい……他に客おらんしな」
要するに閑古鳥が鳴いてたんじゃないか……呆れる俺の視覚に、この旅館のパンフレットが目に入った。
『夏の宿泊ならここが一番! 旅館【終焉】』
……武、気づけよ。
俺は心の中で大きな溜息をついた。


【春香菜視点】

「そう言えば、鮪くんってMCの仕事をしてるんじゃなかったの?」
「俺様はMCと旅館経営の他に、15の仕事を持っているのだ。んでこの時期は旅館経営に軸をおいているというわけさね」
鮪くんは女性には結構丁寧な対応をしてくれる。テンションが上がるとそうもいかないみたいだけど……。
「さて、15人ともなると部屋のバリエイションも豊富だね〜。下は1人から上は15人まとめて泊まれる部屋があるけどどないするねん?」
「皆で話し合って決めたいから、まずは大宴会場にでも連れていってくれる?」
「了承」
彼の右手には諭吉さんが数十人握られている。無論私が渡したものだ。これで今日明日、彼は私のいいなり状態だ。
少々予定とは違ってしまったが、これなら別段問題は無い。私の『計画』は実行に移されるだ。
「うふふ♪」
誰にも気づかれないように、私はひっそりと笑い声を立てた。



後編に続く!!





【あとがきならざるもの】

桑古木がイジられキャラなのはデフォルトです。
春香菜さんがかなり腹黒いのはデフォルトです。
秋香菜が嫉妬深くて凶暴なのはデフォルトです。(挨拶)

えー、ようやく前半が完成しました。予告編を掲載していただいてから早半年。
夏のSSをこんな真冬に投稿してしまいました(爆)
当初はEver17本編キャラだけのお話だったのですが、書かなかった半年の間にオリキャラが出来てしまったので『こうなりゃ出してやろうでないの!』と暴走。
お陰でお話がよりこんがらがってしまいました(駄目の極み)

こんな調子でSSを書いているものですから、後編がいつ書き終わるか判りませんので(この段階では全くの手付かず)
ここらで後編の予告をやってみます。


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