〜Ever Never muscle of infinity(前編)〜
                              マイキー

<読む前に>*********************************************************************
こんにちは、皆さん、
未熟な身ながらも、ついにEver17版マッチョSSが完成させてしまいました
マイキーです。よろしくお願いします。
本作は初めて多大な時間を使い、さらに大いに気合を入れて書いたSSです。
(過去の作品は勢いだけで書いていました)
よって恐ろしいテキスト量になってしまい、
文字数はなんと24000文字を越えております。
具体的には35.9KB・ワードの36ページ分です。(爆)
内容の方はギャグ中心なのでハマれば、意外とあっさりいけるかと思います。
しかし今回は無謀にも序盤と終盤を中心にシリアス面を入れたりしております。
よって結構シリアスな場面も存在したりします。
つまり以前書いたようなギャグオンリーなSSではないということです。
とはいえもちろん、異質なギャグが本職(?)なのでそちらに力は十分入れていますので
心配された方はご安心のほどを・・・・・・・・。
(前作を読んだ方へ・・・・今回の主人公の服装は普通と思ってください)
ギャグの最大の山は後編辺りからですね。(そう、彼女が暴走します)(笑)
シリアス面は初挑戦でレベルが低いと思いますがそちらの方もよろしくお願いします。

舞台は2017年のLeMU。(よってホクトと沙羅と優秋は出ません)
そして問題の主人公は・・・・・・読めばわかります。
キャラの方はマチョフィニティとは違い、
原作からあまりいじくってない、つもり(強調)、です。
少し(かなり?)異質なEver17ワールドを味わいたい方、あるいは興味がある方はオススメです。
ハマれば爆笑SS、ハマらなければクソSSです。
とにかく一度軽くでいいから、読んでくれたら幸いです。

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そこは暗く、何も無かった・・・・・。
ただ冷たく・・・無機質で・・・・漆黒の闇に包まれていた・・・。
そして俺は今、その只中にいた・・・・・
ここがどこなのか、わからない。
ただ俺は出口を探していた。
この闇から脱出するための一筋の光を求めて・・・・。
その時、俺の心を反映するかのように求めていたモノがみえた。
俺は足掻いた・・・・その一筋の光を掴もうと、必死に・・・・
そして俺はそれを掴み取った。
その瞬間、あたりは今までの絶望的な暗がりの世界から一変し
純白の光が解き放たれた。
そして・・・・・俺は意識を失った。

・・・・・・・・・・
?「おい、人が倒れているぞ!」
?「脈はあります。急いで救護室に運びましょう」
?「・・・・・・・・・・・」
・・・・人の声がする。だが意識は定かではなく、状況もよくわからない。
誰だ・・・・・・。
重い二つの瞳を開けようとする。
だが俺の二つの瞳が映すものは漆黒の闇のままで何も変わらない。
その後、俺はその何者かによって運ばれ、ベッドと思われる物の上に置かれた。
・・・・ここは、いったい・・・・どこなんだ・・・・。
そんな思考をしてもわかるはずが無かった。
いや・・・思考すらままなら状態といえるだろう・・・・。
体も気だるく、まだ動かせそうにない。
?「どこにも異常はありません」
?「しばらく寝かせておけば、自然と目を覚ますでしょう」
?「そうか・・・ひとまず一安心だな」
?「・・・・・・・・」
3人?
どうやら三人いるようだ・・・・。
一人は若い男、もう一人は若い女性、あと一人は・・・わからない・・・。
どうやら俺をこの救護室とやらまで運んでくれ、看護をしてくれていたようだ。
ありがたいな・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
それからどれぐらい経っただろうか・・・・なんとか体が動かせる状態になってきた。
そして俺は重々しいその二つの瞳を・・・・開いた。
?「うっ・・・・」
?「おっ、どうやら気が付いたみたいだな」
?「ここはいったい・・・どこなんだ?」
?「ここはLeMUという海洋テーマパークだ」
海洋テーマパーク??
何故、俺はこんなところにいるんだ?
しかし考えれば頭から激痛が走る。
俺の脳細胞がその探索を拒絶しているのか?
とにかく、今は考えることをやめることにした。
?「まあ細かいことは後で話すとして、まず自己紹介でもしようじゃないか」
?「俺は倉成武、であっちの白いチャイナ服の女性が茜ヶ崎空だ」
空「はじめまして、茜ヶ崎空と申します。よろしくお願いしますね」
倉成武という男と茜ヶ崎空という女性は俺に友好的な挨拶をしてくれた。
二人とも親しみやすい印象で感じがよかった。
?「ああ、よろしく」
俺はまだ起きたばかりで気分はよくなかったが礼儀としてキッチリ挨拶をした。
しかしあと一人、黒ずくめの姿をした女の子は腕を組み、壁にもたれたままだ。
?「呑気な者ね・・・」
?「貴方たち、今の状況がわかっているの?」
?「それがノウノウと自己紹介なんてね・・・」
黒ずくめの女の子の最初の言葉はそれだった。
他の二人とは明らかに異なる雰囲気を漂わせていた。
しかしそれよりも気にかかったのは『今の状況がわかっているの?』という発言だ。
今の状況?俺には意図が掴めなかった。
武「んで、こいつが小町つぐみだ」
武「よく分からんがこんな冷たい態度しかとらなくてな」
武「全く、精魂なっとらん!プンプン!」
武は置いておくとして・・・・・・・・。
どうやら彼女は小町つぐみというらしい。
俺は彼女の方をみた。
人を寄せ付けぬ氷のように冷たく尖った雰囲気。
彼女の過去が関係あるのだろうか?
だがその表情からは何も読み取れない・・・・・。
?「それより『今の状況』っていうのはどういうことなんだ?」
俺は気にかかったその言葉について聞いてみた。
武「ああ・・・・そのことだが・・・・」
今まで楽観的だった武の口調が突然重くなる。
その表情には何か言い辛そうな雰囲気が漂う。
その武をみて、空が代わりに話し始めた。
空「今から数時間前、このLeMUは浸水事故にあったのです」
?「し、浸水事故!?な、なんで、そんな!」
浸水事故・・・・その予期せぬ言葉に俺は慌てずにはいられなかった。
しかし何故そんなことが・・・・。
今、考えてもわかるはずの無いその原因を考えてみるがやはりわからない。
空「原因はわかりません。現在調査中です」
?「そうか、なるほど『今の状況』っていうのはそういうことか」
するとつぐみはため息をつき、こちらに近づいて来た。
つ「わかった。だから私たちの今すべき事は、ここから地上に脱出するための
方法を考えることなの。ここでのんびりしているのは時間の無駄よ」
?「なるほどな」

空の提案により俺たちは中央制御室という所に向かうことになった。
どうやら他にも生存者がそこにいるらしい。
移動中に気付いたことは俺たち以外の客がいないという点だ。
テーマパークなのに客が全くいない。
空の説明によるとその浸水事故が発生した時に
鳴った非常警報により脱出したのだろうということだ。
ということはここにいる人間は皆、逃げ遅れた人間ということになる。
思考しているうちにいつの間にか中央制御室に着いたようだ。
そしてドアが開く・・・・しかしそこには狂悪かつ異様な光景があった。

?「おのれ〜!動かんかー!このポンコツがー!」
狂犬と化した一人の女の子が椅子を使い、
この部屋の機械を壊そうとしているところだった。
他にも二人いたが一人の男はアワアワ・・・・と震えながらたじろいでいる。
彼の心理描写は恐らく「ブルブル・・・こいつ、怖いッピー」であろう。
もう一人はワンちゃんを一匹抱えた女の子、「ニャハハハハハ!」と笑っている。
この子はこの状況によりあっちの世界に逝ってしまったのだろうか。
空「!それが壊されては・・・!誰か、田中さんを!」
武「何!こら〜!ワトソン君(?)!はやまるな!はやまるんじゃない〜!!」
訳の分からない言葉を並べ、駆け出す武。
その発言に俺は固まりようになったが、そうはいかないところだ。
やれやれ・・・・ハー、ドッコラセーっと
俺が狂犬と化した女の子を止めようと動き出そうとした・・・その時!
俺の中を蠢く『ドス黒い凶暴な何か』が『動け・・・』と俺の筋肉細胞に語りかける。
頭より先に体が動いた。
ガスゥゥゥー!!
『ドス黒い凶暴な何か』によって突き動かされた俺は・・・・・
気が付けば見事なボディブロウを狂犬と化した女の子の脇腹に御見舞いしていた。
?「むきゅううううぅぅぅ〜〜〜〜〜」
すごく手加減したつもりだった・・・・が彼女こと田中さんは5メートル程、ぶっ飛んだ。
三度!俺の中を蠢く『ドス黒い凶暴な何か』が今度は『前へ進め・・・!』と堰き立てる。
俺の意志の制御など効くはずもなく、
俺の肉体はその『ドス黒い凶暴な何か』によって突き動かされる。
肉体が自然と宙を舞う。
?「ととめだー!筋世紀到来・新・誠スペシャル from hell!!」
空中に舞い上げり、腹わたがえぐり込む程の蹴りを繰り出し、食らった者は地獄を見る技。
下手したら地獄行き。
その狂喜(?)の技を俺は何故か繰り出していた。
だが無常にも俺の蹴りは彼女の腹わたへと急速に距離を縮めていく。
その時・・・・・
ペシコン!
俺は何者かによって頭上から後頭部を殴られた。
つ「あなた、バカ!死んでしまうじゃないの!」
俺を殴りつけたのはつぐみだった。
?「痛い・・・果てしなく痛いぞ!」
つ「・・・・・・・」
無言で睨みつけるつぐみ。
?「ハッ・・・・・俺はいったい・・・・!」
武「おいおい、いきなり暴走するなよ。優を殺すとこだったぞ」
どうやら先程の狂犬と化した女の子は優という名前らしい。
しかし先程の押し寄せるような恐ろしい感情の高ぶりはいったい・・・・。
?「なっきゅ、大丈夫!マッチョくん、なんてことするの!」
「ニャハハハハハハ!」と笑っていた少女が憤怒の表情でこちらに向かってくる。
その目からは『なっきゅの復讐』という硬い決意が窺える。
?「すまなかった。どうやら『ドス黒い凶暴な何か』にマインドコントロールをされて・・・・」
?「あ、そうだったんだ。ならしょうがないよね」
・・・・・・・・・・。
俺も嘘をついているつもりはなかったが少女はあっさり引き下がった。
単純明快・純真無垢、疑うことを知らない性格なのだろうか。
「っておい!それで納得するのかよ、ココ!」
少女の名前はココというらしい。
コ「まあ、細かいこと気にしちゃあいけないっしょ。」
武「・・・・・・・もういい」
あっさりと諦める武。
しかしココもココである。
空「しかし誠さんとういうお名前だったのですね」
空「聞き忘れていましたよ」
話題から強烈にそれていることをいう空。
しかし言われてみればそうだ。
俺は自分の名前を名乗っていなかった。
いや・・・・というか俺は今まで自分の名前を忘れていた。
今でもその名前にシックリとくるものがなかったりする。
そしてそれよりも問題なのは何故、俺がここにいるかだ。
わからない・・・・俺はここにくる以前、どこにいたんだ・・・・そして何者なんだ・・・。

空「『誠』、それがあなたの名前なんですね」
その名前が俺の本当の名前かわからない。
だが俺は力なく頷く事しかできなかった。
空「ところで苗字はわからないのですか?」
?「いや、そこまではわからないんだ」
なにせさっきのは衝動で出た言葉だ。
それが本当に俺の名だという実感も相変わらずあまりしない。
武「とにかく誠という名なんだな・・・ふむ、いい名だ」
つ「・・・・・・・・・・」
優「むきゅううううううううぅぅ・・・・」
一瞬の静寂・・・・しかし、その静寂が破られるのに時間はかからなかった。
「ちがうよ!この人はマッチョくんなの!」
衝突に言われたその言葉にみんなが振り向く。
マッチョくん?・・・たしかによくよく見てみれば
俺はかなり筋肉質でしなやかなで強靭な肉体をしていた。(ミルコ・クロコップぐらい)
俺の中に筋肉本能があるのは間違いなさそうだ。
外見を見れば「マッチョくん」も納得がいく。
コ「ニャハハハハハハ!硬い、硬い!」
?「・・・・・・・・・・・・・・」
例の笑いをしながら俺の筋肉をペシペシと触るココ。
初めて生で見るものに興味津々といった感じだ。
つ「いいんじゃないの」
つぐみはいきなりそんなことを言ってのけた。
つ「どうみてもマッチョなんだから、いいじゃない」
空「確かに・・・・そうですね」
コ「でしょ。でしょ!」
武「よし!お前の呼び名を金輪際、「マッチョくん」と命名する、異議は許さんぞ!」
なにやらとんでもないことになってしまった。
しかし俺は別に嫌な感じはしなかった。
むしろいい気分だったと言っても良いだろう。
?「まあいいが・・・」
武「よし、決定だ」
武「時にマッチョくんよ。お前は何故こんなに鍛えているんだ」
武「今の動きも素人目ながらも総合格闘技に参戦しても十分勝てそうな感じだったが」
武「こんなことになってしまったが、ここに来たのは気晴らしか何かか?」
ここにきた理由・・・・・
それは俺にはわからなかった。
俺は気が付いたらここにいたのだから・・・・・。
そう俺は自分の名前は分かったが他は何も分かってはいないんだ。
?「分からない・・・・俺は気が付いたらここにいた」
?「その前の出来事は何も覚えてない」
?「ついさっきまで自分がここまで筋肉質だということにも気付いていなかった」
?「だから何故、ここまで鍛えているのかもわからない」
武「なるほど・・・・ここには記憶喪失が二人もいるらしいな」
武「なあ、少年よ」
少「あ・・・うん」
すっかり忘れていたが優の暴走を『アワアワ・・・』と見ていた少年だ。
武の言葉から判断するに彼も記憶喪失らしい。
つまり俺と同じということか。(記憶喪失のみ)
武「こいつも記憶喪失なんだ、しかも名前も含めて全てな」
武「つまりお前並かそれ以上に重症ってわけだ」
?「そうなのか、そいつは災難だな」
少「そうだね、お互い記憶が戻るといいね」
?「それより、彼が少年と呼ばれているのは何故なんだ」
武「そのまんまさ、名前もわからないし見た目は普通の少年。だから少年だ」
・・・・・・・・どうやらここにいる連中は感じたままに
名前をつける人間が多いらしい。まあ分かりやすいからいいのだが。

それから館内の部屋の位置や各フロアの説明を空から聞き、
俺たちは自由行動することにした。
空だけは制御室で現在の状況を調べている。
そして俺は館内でも見て回ろうかと思っていた矢先、誰かに肩を掴まれた。
?「ムッフッフッフッフ・・・・」
不敵な笑いをする女の子・・・・それは優だった。
その笑みからは不気味な雰囲気が漂う。
しかし大方、予想はついている。恐らく俺が彼女をぶっ飛ばしたからだろう。
優「マッチョくん、君はさっき私にひどいことをしたよね〜」
?「・・・・・・・」
優「つまり君は私に借りがあるってこと」
?「わかった。で、なにをすりゃあいいんだ」
優「つまりこういうことよ」
優「キエエェェェェ!!」
突然、罵声をあげながら襲い掛かってくる優。
優「アタタタタタァァァ・・・・!」
俺の肉体に向かい突きの連打を浴びせる優。
しかし俺の肉体は自分でも驚くほど頑丈だった。
とにかくまったく痛くない。
むしろかゆい位だった。
一頻り終え、やっと優が手を止める。
?「・・・・・・・」
優「うう・・・・痛いです」
優「っていうか、あんた固すぎ!」
優「鉄の壁でも相手にしてるみたいよ!」
?「鍛えてますから」
何故か得意げに言う俺。
俺もかなり落ち着きも取り戻し、
現状も把握できるようになったため余裕が出てきたのだろう。
しかしその姿は優をますます逆上させてしまったようだ。
優「もう許さないわ。こうなったら私の言うことを一回聞くこと!」
優「それが初々しい薄幸の美少女を殴った罪滅ぼしよ!」
?「んな、無茶苦茶な・・・・」
というかあの狂犬と化した優を思い出せば思い出すほど薄幸という言葉が合わなく感じる。
?「と言うか俺は『ドス黒い凶暴な何か』に操られていただけだ」 
優「自己弁護に過ぎないわ。だいたいなによ。それ?」
?「そうだな。俺の中に眠るもう一人の『ドス黒い俺』といった感じかな?」
優「ふ〜ん、じゃあ君、危険人物なんだ」
?「なんですと!」
優「だって、そっちが君の本性かもしれないじゃない」
?「根拠もなくそんなことを言うもんじゃないぞ、ワイアルドくん」
優「誰よ・・・・それ・・・?」
?「クックック・・・聞きたいか?」
優「まあ・・・・・一応ね」
?「では教えよう。奴はある話に出てくる異常精神の人らしき姿をした人外だ」
?「奴のモットーはどんな時でも『エンジョイ アンド エキサイティング』」
?「壊す時もやる(?)時も本能のままに楽しく刺激的に!」
?「・・・・つまり異常だ」
?「そして顔はごっついワンちゃん、そう、奴は人の姿をした狂犬だ」
?「まるでどっかの狂犬のような形相で機械を壊そうとしていた
薄幸の美少女くんにそっくりじゃないかね?」
優「お〜の〜れ〜!確かにあの時は少し暴走したけど本来は繊細なのよ!」
?「クックック・・・俺もそうさ!」
優「なによ!さっきからそのドス黒い笑い方は!」
?「気にするな。まあとにかく同じように『ドス黒い凶暴な何か』を
持っている人間に「危険人物」とは言われたくないな」
?「お前さんも十分危険だぜ」
優「う・・・・反論不能・・・」
優「わかったわ。まあマッチョくん、危険人物同士がんばろうじゃない!」
優「夜露死苦(よろしく)!」
何故か、凛とした口調でいうワイアルドくん。
優「じゃあ、私は用事があるから後でね」
・・・・・・・・・・・
そう言い残し、ワイアルドくんこと優は足早に去っていった。
なんか変な奴だな・・・・。
自分を危険人物と認める女の子・・・普通はいない・・・。
それどころか終わってみれば結構友好的だったりするし。
意外といい奴かもしれないな。
しかし暴走してから何やら体がうずいて仕方がない。
俺の筋肉細胞が黙ってくれないのだ。
というわけで俺はツヴァイトシュットックに移動し
見回りを兼ねてランニングを行うことにした。
?「さて、疼いて仕方がないし・・・・行くか!」
?「クックック・・・!疼く・・・疼くぞ!」
?「ねぇ、ちょっと・・・・」
?「ドリャアアァァァァァ!!」
軽快なロケットダッシュを決める俺。
スピードはグングン速まっていく。
?「悪壱血仁惨死!悪壱血仁惨死!!(おいっちにさんし!おいっちにさんし!!)」
もはやこれはジョキングではなくダッシュだ。
そして!そのダッシュ中、俺の頭に怒涛の如く言葉が脳内に刻まれる。

腕はよく振り、足を高く押し出すように走る!当然、腕は伸ばすな!
ここで体が突っ込み過ぎないようにするのもポイントだ!
肩の力も抜き、顎も引かないといかんのだぞ!
そして絶対的な自信を持ち、魂を込めて全力疾走するのだー!
忙しなく躍動する我が逆三角形の肉体に万物を見よ!!

何故か俺は『走』の心得を会得していた。
軽快に躍動するダイトウ筋・腹筋・二の腕が心地よい快感をもたらす。
ただ俺は疾風の如く館内を駆け巡り、まさに風になった気分だ。
しかしその快楽も長くは続かなかった。
いつの間にか館内の行き止まりにまで達していたからだ。
だが今の俺にとって、それは満足中枢を満たすに十分だった。
?「・・・・爽やかな汗とは清々しいものだ、うむ」
?「しかし我が走りに思い浸り、館内の様子が全然分からなかった・・・・不覚」
?「ハッ!・・・まさか俺はとてつもなく無駄な時間を過ごしたのでは!」
?「・・・・・まあ、いいか」
確かにその気持ちもあった。
しかし躍動する筋肉とほとばしる心地よい汗が俺からその考えを消してくれた。
久しぶりに感じるような気がする、この心地よい感覚。
俺はかつてこれを習慣としていたのではないか、という気持ちにさえなる。
いや・・・・きっとやっていたのだろう。
根拠はない、しかし俺の直感がそう告げていた。

?「さて・・・・運動の後は『グビッ』と一杯やるに限る!」
?「水分補給だな」
?「ハァハァ・・・・ちょっと待ちなさいよ・・・・」
?「ん?なんだ、つぐみ、いたのか?」
つ「・・・・・・・・・」
つぐみは何もしゃべらない。
いぶかしげな表情をしながら、俺を睨みつけている。
それに耐え切れず、俺はつぐみに話していた。
?「な・・・なんだよ」
しかしつぐみはまだしゃべらない。
俺のさっきの発言や気付かなかった事に怒っているのだろうか?
ていうかそんなに怒ることなのか・・・。
ようやく、つぐみが重い口を開いた。
つ「あなたはいったい何者なの?」
?「はい?」
俺はつぐみの発言が理解できなかった。
というか俺はまだ記憶が戻っていない。
そんなもの俺が聞きたいぐらいだ。
?「どういう意味だ?」
つ「・・・・そのままの意味よ」
?「???」
つ「さっきあなた、この階の端までダッシュしていたけど脅威的なスピードだったのよ」
つ「恐らく100メートル、10秒台前後ってとこかしら?」
つ「そしてその速度で行き止まりまでの200メートル近く、走ったのよ」
つ「けどあなたは息をほとんど切らしていない」
つ「そして中央制御室でも信じがたい程の凄い動きをしてたし・・・・」
つ「正直、あなたの身体能力・体力は異常をいっていいわ」
・・・・・・・・・・
言われてみればそうだ。
あれほどの速度で走っていたのに、俺はほとんど息を切らしてない。
それに中央制御室でも・・・・・普通の人間にはできないか。
つ「あなたは・・・もしかして・・・・と・・・同じなの?」
?「なに?」
つ「・・・・・なんでもないわ」
その後、つぐみは逃げるように走っていった。
それは並大抵な速度ではなかった。
正直、異常な速さといってもいいだろう。
今からではさすがの俺も追いつけそうにない。
だがそれ以前につぐみのさっきの言葉が頭に残り、動けなかった。
『同じなの?』・・・・それがつぐみが最後に言った言葉だ。
どういう意味だろうか?
考えてみるが当然、見当がつかなかった。
それから一回りして俺は中央制御室に戻った。
・・・・・・・・・・言っておくが走ってはいないぞ!

中央制御室にはみんながいた。つぐみもいる。
だがみんな、沈んだような浮かない顔をしていた。
?「どうしたんだ?浮かない顔して」
優「マッチョくん、実は・・・・」
優が悲痛な顔をして話しかけてくる。
空「田中さん、ここからは私が説明します」
空が神妙な面持ちでこちらを見つめている。
いったいどうしたのだろうか?
空「先程、LeMUが圧潰するまでの時間がわかりました」
空「このLeMUは後、70時間ほどで圧潰します」
?「な、なにー!」
空「40分前に出た圧潰までの時間はもっと長かったのですが
17分前、上の階のツヴァイトシュトックから大きな音が19秒ほど継続し、
それから数秒後、再度計測の結果、このようなことに・・・・・」
武「残念だが、それが事実らしい」
武「しかしその音・・・想いの間にいた時、聞こえたな」
コ「ココも聞こえたよ。ね、少ちゃん」
少「うん、間違いないよ」
優「私も警備室から聞こえたわ」
優「それよりも、すごく怖いかけ声も聞こえたです」
優「『悪壱仁惨死』とか聞こえたから・・・もう身震いしたわ」
優「まさか、このかけ声をまた聞くなんて・・・ここには悪霊がいるのよ」
武「はぁ〜、寝言は寝てからいいな」
優「ホントよ!」
武「あ〜、はいはい」
優「もういいわよ・・・」
空「とにかく原因はその大きな音による振動かと思われます」
・・・・・・・・・・・・・
まあかけ声はどうでもいいだろう・・・・・・・・・・・・・
・・・・しかし圧潰までの時間短縮の原因は・・・・・・俺か!?
この限りない幸福感と引き換えに俺はなんたることを・・・・!
だがそのようなこと言えるはずもなく、俺たちは加減圧室で寝ることになった。
結局、原因は俺と気づいているであろうつぐみには何も言われなかった。

次の日・・・・・・俺は朝早く目覚めた。
武や優たちはまだ寝ている。
しかしつぐみだけは見当たらない。
もう起きたのだろうか?
疑問に思った俺はつぐみを探すことも兼ねて館内を周ることにした。
しばらく歩き、エレベーターの近くまで着たら、そこにはつぐみがいた。
?「よう、つぐみ」
つ「・・・・・・・・・」
相変わらず素っ気無いつぐみ。
だが俺は疑問に思っていることを聞いてみることにした。
?「なあ、圧潰時間が早まったのは俺のせいだとわかっていたんだろ?」
?「何で言わなかったんだ」
つ「・・・・くだらない質問ね」
?「くだらない?」
つ「ええ、だって貴方たちが死ぬまでの時間が少し早まっただけでしょう」
つ「結局、遅かれ早かれ貴方たちはみんな死ぬのだから」
?「それはどういうことだ?」
?「何故、俺たちが死ぬんだ?」
つぐみの勝手な発言に俺は怒り覚えずにはいられなかった。
俺は怒りを殺しながらつぐみにその理由を聞いていた。
つ「いろいろな通信手段を試しているみたいだけど、外との連絡はきっと取れないからよ」
つ「当然ね。何故ならコレは事故ではなく誰かが意図的に仕組んだ事件なのだから」
事件・・・その言葉に俺は驚いた。
だがそれが事実ならつぐみも危ないのではないか。
?「けどこのままじゃあ、お前も死ぬことになるんじゃないのか?」
つ「大丈夫よ。私は貴方たちとは違うから」
『貴方たちとは違うから』。その言葉は俺に昨日のつぐみのある言葉を思い出させた。
『あなたは・・・もしかして・・・と・・・同じなの』、というその言葉を・・・。
その事から推測し、俺はある可能性に行き着いていた。
?「なあ、つぐみ。昨日、俺に『同じなの・・・』って言ったよな」
つ「・・・・ええ、言ったわ」
?「俺と同じと言いたかったんじゃないのか?」
つ「・・・・・・・・」
?「お前は昨日、その言葉を言った後、物凄い速度で逃げた」
?「アレは正直、異常な速度だ」
?「常人とは掛け離れた身体能力と体力」
?「それが俺と同じだと言いたかったんじゃなかったのか?」
?「そしてそれには何か原因がある」
?「その原因も同じだと言いたいんじゃないのか?」
正直、勘だ。だが俺はそんな気がした。
俺もそうだがつぐみの身体能力は正直、尋常ではなかった。
俺も含め、この驚異的な身体能力には原因があるとみた。
つ「ふぅ・・・・勘がいいのね」
つ「まあいいわ。近いうち聞こうと思っていたから」
?「話してもらおうか、その能力について」
つ「これだけ身体能力が飛躍的にあがったのはあるウィルスのせいよ」
つ「このウィルスは基本的に免疫機能ならびに代謝効率の能力を
驚異的に向上させる力を持っているの」
つ「つまり驚異的な身体能力・体力・回復力を得られるということね」
つ「だけどそのウィルスには他にも力を持っている」
つ「説明は長くなるから簡潔に言わせてもらうけど・・・」
つ「それは、限りなく不死に近い体になる、という力」
つ「つまり・・・死にたくても死ねない体にね」
つ「その忌まわしいウィルスの名は『キュレイ』・・・」

その時、俺の中で何かが弾けた。
そのウィルスによる身体能力の飛躍的向上・限りなく不死に近い肉体の獲得
・・・・確かにそれにもかなりの衝撃を受けた。
しかし俺に何よりも衝撃を与えたのは・・・・・『キュレイ』・・・・。
その言葉だ。聞き覚えのあるその言葉。
その時、俺の中に眠っていた記憶が走馬灯のごとく俺の頭の中を駆け巡った!

『キュレイ』・・・・・『キュレイシンドローム』・・・・・
「強固な思念が新たな現実を生み出す」・・・・・・
別の言い方をすれば「妄想が新たな現実を生み出す」・・・・・・・・・
「キュレイシンドローム」、第三の法則にしてその言葉の意味を表す。

思い出した・・・・・ここにくる以前の記憶を全て・・・・。
俺は以前のゼミ合宿で現・マネージャーである遙が交通事故にあった後、
渡米し、向こうで遙を守れる肉体をつくるために死に物狂いで特訓したんだ。
それから一年後、合宿でいづみさんたちに久しぶりに会って
・・・・・・・そういや、いづみさん黒かったなぁ〜。
と思い更けている場合では無い!
そうだ、何故か分らないが『Ever17の連中を殺しに行きましょう♪』とか、
急にいづみさんが言い出したんだ。
・・・・・・・・・何、考えてんだ!あの人は!!
その発言に俺は無理だと言ったけど、あの人はキュレイシンドロームの原理
を利用したら2017年のLeMUに行けるとか言い出しだしたんだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
待て!・・・・・・というわけはだ。
信じがたいが、俺はあの後、「Ever17の連中を殺したい」と心から思い、
その強固な思念によりキュレイシンドロームが起こった。
そのため俺は自分の中の妄想の出来事としてここにいるってわけか?!
・・・・・・・・・なんてこった・・・・・ということは
この世界は俺の創った妄想の世界ってことか!
ん・・・・待て、それより俺は「E17の連中を殺したい」と思ったから
ここにいるんだよな。じゃあ、なんでその発案者で誰よりも
それを望んだであろう、いづみさんがここにいないんだ?
全然わかんねえぇぇぇ!!
とにかく元の世界に戻ろう!
戻ればいづみさんや遙たちがいるはずだ!
その疑問は本人に聞けば分かることだろう。
俺は元の世界に戻りたいと心から願った。
・・・・しかし・・・いつまで経っても意識はぼやけず、戻れる気配はない。
何故だ、俺の思念が弱いからか・・・・・・!

つ「・・・・・・・ねぇ!しっかりしなさいよ!」
その言葉に俺は突然、現実に舞い戻らされた。
?「つぐみ・・・俺はいったい・・・」
つ「ちょっと、大丈夫。突然倒れるからビックリしたのよ」
?「あ・・・・そうだったのか」
どうやら俺は倒れていたようだ。
場所は相変わらずエレベーター前・・・・どれだけ意識を失っていたのだろうか。
つ「ホントに大丈夫なの」
?「ああ、だがおかげで記憶が全て戻ったようだ・・・」
つ「ホ、ホントなの!」
?「ああ」
つ「・・・よかったじゃない」
?「ああ、それはみんなの前で話そう」
俺が何故、元の世界に戻れないのか・・・
ここは本当に俺の妄想世界なのか・・・
その原因はわからない。
だがとにかく俺は『俺』を取り戻したわけだし
グダグダ考えずに現状をどうにかすることだけを考えよう。

ドリッドシュットックの会議室・・・・・
武のタツタサンドを食べた俺たちはそこに集まっていた。
それはもちろん、俺の記憶が戻ったことを伝えるためだ。
会議室には俺、武、つぐみ、優、空、少年、ココとみんないる。
武「なッ、記憶が戻ったのか!」
空「おめでとうございます、マッチョさん!」
優「いや〜、若いということはいいことですな〜」
少「よかったね、マッチョくん」
つ「・・・・・・・・・・・」
コ「プップクプー、プピョプピョプピョ、バンジャ〜イ!はいピピも!」
ピ「・・・・・」
みんな、それぞれ俺の記憶復活を祝福してくれている。
それはすごくありがたいことだと俺は素直に受け止めた。
つぐみも何もいってはくれないが前に言ってくれたし、
ホントは素直じゃないだけだと思う。
武「だがお前がマッチョくんであることにはなんら変わりはない」
武「よってフルネームがわかろうとマッチョくんだ」
武「一度決めた呼び名は変えない。それが我が家の法則だ」
わけの分からないことを言う武だが、つっこむ気は起きなかった。
呆れたわけではない。それほど清々しい気分だったのだ。
?「では俺の自己紹介をさせてもらおう」
?「俺の名は石原誠」
誠「日本筋肉愛好会「男の美、追究ムキムキマッスル推進委員会アブマッスル」所属」
誠「『最強アブマッスラー・「フィリップ・マチョセルモ」』を目指し、
日々、マネージャーと共に肉体鍛錬に励んでいる画期的な野望に溢れた男だ」
誠「敢えて言わせてもらえば引き締まった筋肉と
その野望を実現させる筋トレとは最高なものだ」
誠「まず筋肉はこの世で最も正直な生き物(?)だ。何故なら鍛えた分だけ返ってくる。
だらけていたら弛んでいく、肉体は人間の人格の一面をも表すのだ」
誠「そして本能に呼応し躍動する筋肉の美しさと滴り落ちる汗の爽やかさは
絶妙な調和を生み、その光景が男の肉体美を醸し出すのだ!」
(忠告=彼は本気で筋トレに命を懸けていると思ってください)
俺の口から出たのはそんな誰も予想もしないセリフだった。
わからん・・・勝手に口がベラベラと動いてしまった。
といっても実際そう思っていたりする。
しかしまだまだ続く、俺の肉体美への熱いトーク。
誠「そして男の「美」は筋肉、その締り具合にある」
誠「かといってボディビルダーのような見せかけだけの全く使えん筋肉はいかん」
誠「アレはマッチョとはいわんのだ」
誠「しなやかさと美しさと精巧さが皆無だ。アレには「美」がない」
誠「まあ、諸君らに言わしてもらえば2000年代前半にK1で活躍した
ミルコ・クロコップあたりが俺のいう筋肉に近いといえよう」
誠「そしてもちろん、俺はそれ以上の筋肉を供えている」
誠「つまり、しなやかさと柔軟さと強靭さを兼ね備えた筋肉・・・・
それが真の『男の肉体美を醸し出す筋肉』というものだ!」
誠「つまりボディビルダーは『マッチョ』ではなく、
『全く使えん無駄な肉塊をもった鈍足共』というわけだ!」
誠「『マッチョ』の意味を再認識してもらいたい」
誠「というかあんな奴らと一緒にされてはたまらない!」
皆「・・・・・・・・・・・・・・・・」
優「マッチョくん、君、いったい何者?」
少「僕は君の考えがわからない」
つ「ホントにバカなのね・・・・」
やはり予想したとおりだった。
以前も愚民どもがいたから予想はできていたが
・・・・・・ここにもやはり男の美がわからぬ連中がいるようだ。
などと思っていた矢先・・・・・
コ「ひどいよ!みんな!」
衝突にココが声を上げた。
皆の視線が一斉にココに集中される。
コ「ココ、感激しちゃったよ、マッチョくん」
コ「男の肉体美か〜。ココはそんなことを堂々というマッチョくんをかっこいいと思うよ」
コ「というわけでマチョ兄ちゃんと呼んでもいい♪」
誠「もちろん、構わないが何故、兄ちゃんなんだ?」
コ「日本国憲法ではお兄ちゃんがいない人はお兄ちゃんっぽい人のことをお兄ちゃんって呼んでいいの。これは法でも認められてるんだよ〜」
優「ちょっい、待てぇい!そんな法律はないわ!」
コ「ココはそう呼びたいのに・・・・・・
なっきゅはそんなココのささやかな願いも許してくれないの?」
ウルウルした瞳で訴えるココ、どうやら本気でそう思ってくれているらしい。
俺はその光景に感激さえ覚えた。
優「う・・・・わかったわよ」
コ「バンジャーイ、やったね。マチョ兄ちゃん!」
誠「ココ、お前は将来、素晴らしい人間になるだろう」
コ「ほめられっちまったよ〜。ニャハハハハハハハ!」
あの時の笑い声を浮かべ、走り回るココ。
ふと思う。あの笑い方はいったい・・・・。
優「うう・・・ある意味、倉成以上にバカかも・・・・うぅ・・・ここの男はバカばかり・・・」
優「そ、空はあのバカ、どう思う?」
空「ええ、そういう情熱を持って打ち込めるものが
あるということは、素晴らしいことだと思います」
優「ウキイィィィィ!何故そうなるの〜!」
つ「どうやら空も逝ってしまったようね」
少「うん、でも空なら言いそうな気がしたよ」
俺は空ってホントにいい人だな〜、と素直に実感した。
それより今思えば、武が全く話してない。どういうことだろうか?
ふと武を見てみると・・・・男泣きしていた。
優「あの〜、倉成くん・・・・大丈夫でしょうか」
武「くぅ〜、痺れたぜ・・・マッチョくん・・・」
優「倉成く〜ん・・・・お気は確かでしょうか?」
優が尋ねるが武は全く聞こえてない様子だ。
恐らく本気で感激しているのだろう。
武「俺はたった今からお前を真の『男』と認めるぜ!」
武「さあ、共に行こうではないか!あの夕日が俺たちを呼んでいる!」
武「そう、新たな門出だ。俺はお前に『熱い何か』を感じるぜ!」
誠「ああ、俺もだ。俺はたった今、お前を真の『友』と認めるぞ!」
武「もちろん俺もだ。友情とは不変の物で、一度それが結ばれれば
如何なる障害もそれを覆すことはできないだろう!」
武「敢えて『親友』と書いて『とも』と呼ばしてもらおう。
マッチョくん、俺たちの友情は永遠だ!」
誠「武!」
武「マッチョくん!」
俺たちは美しい不変の友情の誕生に男と男の堅く熱い握手と抱擁をかわした。
その光景はこの世に存在する何よりも美しかったに違いない。
つ「・・・・類は友を呼ぶってやつね」
少「だけど美しいと感じるのは僕の気のせいだろうか?」
空「いえ、私も美しいと感じますよ」
コ「ピピ、充電の時間だよ♪」
ピ「ワン!」
優「ああぁぁー!汚らわしい、汚らわしいわ!誰かどうにかしてー!ムキィィィイィィ!」
優がただ一人吠えている。
だがそんなものは今の俺たちにとっては弱く無力なモノだった。
少「ねえ・・・・・」
声の方向を見てみれば少年がいた。
優「少年、まさか君も・・・あのバカ共の仲間に・・・・」
少「いや、そうじゃないけど疑問に思って」
空「なにをでしょうか?」
少「うん、もしかして武ってマッチョ好きなの?」
武「いや、断じて違うな」
優「嘘〜・・・・いかにもそんな感じだったわよ」
疑わしい視線を向ける優。
そんな優を尻目に語りだす武。
武「俺はだな、痺れたわけだ」
武「マッチョくんのこの熱い魂の情熱ともいうべきものに」
優「はい〜、意味不明だわ・・・まともに言って」
武「つまりだな、ここまで情熱的な魂を傾けられるものを持ち、
その魂を熱く語るマッチョくんに俺は感動を覚えたというわけだ」
武「仮にそれが筋トレや肉体美に限らずとも俺は感動しただろう」
優「・・・・・・・・・・」
空「倉成さんの言いたい事はよくわかります」
空「マッチョさんの筋トレや肉体美に対する真摯な姿勢は素晴らしいと思いますから」
少「なるほど、そういう事なんだね」
少「それなら僕も納得したよ」
どうやら少年も納得したらしい。
ここにいるみんなは俺の筋トレへの熱き魂を傾けた姿勢を
素晴らしいものと感じてくれているようだ。
優「納得するんじゃなーい!極端すぎんのよ!」
まだ一人、交戦を続ける優。
その形相は昨日の中央制御室のレミを壊そうといていた形相だ。
つまり今、優は狂犬と化した少女へと変貌している。
俺的にいえばワイアルドくん状態というわけだ。
つ「どうでもいいんじゃないの」
どうやらつぐみももはやどうでもいいらしい。
いや・・・元からというべきだろう。
優「ううぅ・・・みんなして・・・もう私もどうでもいいわよ」
優「はぁ〜、最近の若いモンの考えはわからんですわ〜」
・・・・・・・前にも言っていたような気がする
ババアか、こいつは・・・・・・。

つ「ちょっといい?」
俺を呼びかけたのはつぐみだった。
その後、俺たちは部屋の中から出ることにした。
誠「なんだ」
つ「あの時のキュレイについての話の続きなんだけど・・・」
誠「キュレイ?」
つ「ええ、そうよ。覚えてるいるでしょう」
キュレイ・・・・ああの免疫機能並び代謝効率が著しく向上し
驚異的な身体能力・体力・回復力を得られ、
あと不死に限りなく近い体を得られるという・・・・。
不死か・・・・どれだけ鍛えようと年をとるにつれ肉体は衰えてしまう。
だから俺はつぐみを少しうらやま・・・・・って何を言っているのだ、俺は!
俺は人であることを捨ててまで力を得たくは無い!
この命が朽ちるまでにこの生まれ、与えられた肉体で
どれだけ人間の肉体の限界を突破できるか
・・・・それがアブマッスル道というものではないか!
与えられた時間に限りがあるからこそやりがいもあるというものだ。
だがつぐみは人の身ではない。
もちろん自ら望んだことではない。
それにつぐみは自分の体を「死にたくても死ねない体」と言っていた。
つまり死にたくなるような過酷な辛い思いを今まで数多く体験してきたのだろう。
それは俺などの想像を絶するほどに違いない。
キュレイウィルス・・・・人の中には不老不死を望んだりする人間も
いるが・・・・・・それはきっと「生き地獄」というものなのだろう。
そして彼女はその「生き地獄」の只中なのだ。
彼女は何を思い、今を生きているのだろうか・・・・。
つ「ちょっと、聞いているの」
誠「ん・・・ああ、すまん」
どうやら俺は物思いに更けて意識がとんでいたようだ。
誠「つぐみ・・・お前はその不死のせいで俺などが想像も
出来ないような辛い思いをしてきたんだろうな・・・・」
つ「・・・・・・・・・」
つ「フッ・・・なに柄にもなさそうな事を言っているのよ」
誠「つぐみ・・・・」
つ「もう・・・・慣れているから・・・」
その言葉は俺の心に深く抉り込んだ。
やはり彼女はそのせいで・・・・・・・・。
つ「話を戻すけど、そのキュレイウィルス」
つ「もしかしたらあなたの中にも存在するかもしれないわ」
・・・・・・・・・・・
?今、つぐみはなんて言ったんだ。
誠「あの〜、今、なんて言ったのでしょうかね〜?」
つ「あなたもキュレイウィルスに感染しているかもしれない」
・・・・・・・なんだとー!
俺もキュレイウィルスに感染しているかもしれないだと!
ありえん!そんなもんに感染した覚えは今だかつて無い!
誠「おい、なにを証拠にそんなこと!」
つ「あなたの異常な動きと体力をみて、そうかもしれないと感じたのよ」
誠「これは俺の情熱が生み出した『美の結晶』の成果だ!」
つ「・・・・・・・・・・」
つ「あなた、実際に本格的な筋トレ始めてどれくらい?」
誠「はい?突然、何を言ってるんだ?」
つ「いいから答えて」
誠「ええと・・・一年ぐらいだな」
つ「それ以前から筋肉の発育は進んでいた?」
誠「いや・・・・人並み程度だった」
つ「フゥ・・・これで可能性がかなり高まったわね・・・」
誠「・・・・・・・・・・」
つ「あなたの筋トレへの情熱が異常でどんなトレーニングをしようと
普通人並みの体の人間が、一年でここまでになれると思う?」
誠「いや・・・・『情熱は万物に勝る』!情熱さえあれば!」
つ「それは願望じゃないの。正直、ありえないわ」
つぐみは無常にも思いたくもない事実を告げる。
確かにつぐみの言うことは十分可能性がある。だが、だからこそ俺は認めたくなかった。
つ「おそらくあなたの異常な筋肉への情熱とキュレイウィルスの
身体能力の驚異的向上により今のあなたの異常な力があるのだと思う」
つ「だけどキュレイの力を借りたとしても一年でここまでには早々ならないわ」
つ「あなた、きっと確固たる目的を持ち、すごい特訓を継続してきたんでしょうね」
つ「このペースでやったら、正直この程度ではきっとすまないと思うわ」
・・・・・今、つぐみが言ったことが事実なら俺もつぐみと同様、『人』ではない。
つまり俺もつぐみと同様に『不死』ということだ。
なんてこった・・・・これでは俺は・・・・・・・・・・・
掟破りでアブマッスル道、破門ではないか!
それどころかこのままトレーニングを続ければある漫画(幽遊〇書)の
『筋肉を自在にコントロールする妖怪』のようになれてしまうのでは・・・・・・・!
筋肉細胞の驚異的発達と肉体が永遠に衰えないのはいいが・・・・・・・。
ってそんなこと考えてる場合ではない!
誠「けどあくまで、可能性だろ?そうと決まったわけじゃないだろ」
つ「そうね・・・」
とにかくそう思いたくなかった。
目指すものがあるからこそ情熱を秘め続けておけるものなのだ。
俺がキュレイウィルスに感染しており不老不死なんかになったら
どの時代でも俺より上なんていなくなってしまうのだからやりがいが
なくなってしまうではないか。それは虚しすぎる・・・・。
俺の目的は『最強アブマッスラー・「フィリップ・マチョセルモ」』を超えることだ!
キュレイなどの力を使ってではなく、この親にもらった生身の肉体で!
とにかく俺はさっきの事は忘れようと思った。
あまり思いつめるのは俺の柄ではない。









2002


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