〜Ever Never muscle of infinity(後編)〜
                              マイキー

それから俺はつぐみと別れ、今、会議室にいる。
その間に倉庫の浸水が起こったりしたが俺の強靭な肉体の活躍や
驚くほど溶接の知識を持っているつぐみのおかげで問題は解決した。
キュレイの会話からかなりの時間が経ち、俺はかなり落ち着きを取り戻せていた。
武「いや〜、俺のミスで一時はどうなるかと思ったが、さすがマッチョくんだ」
空「ええ、あの時マッチョさんがいなかったらどうなっていたことか」
つ「もともと武がドジ踏まなかったらアッサリ終わっていたでしょ・・・」
武「な・・・アレはだな!LeMUの揺れにより俺の肉体は成す術なく
やられてしまいそうになった(?)ため何かに捕まろうとしたが、
その捕まった荷物の山にたまたま殺傷能力の高い尖った鉄パイプが多数あり、
そしてだな!何故かその荷物の中身がもぬけのカラでそれが俺という重力により
バランスを崩し、時のイタズラがその危険な鉄パイプをココに向かわせてしまったんだ!」
つ「足腰が弱いのよ・・・」
武「なにー!それでは俺が軟弱老人みたいではないか!」
つ「違うの・・・」
武「うぬぬぅぅぅぅぅ・・・・!」
空「まあまあ、皆さんが無事だったのですから・・・・」
武の言っていることは支離滅裂だが
要するに倉庫の水道管の破裂を収めるための溶接作業中、
LeMUが海流の乱れにより大きく揺れてしまったのだ。
それによりバランスを崩した武は近くの荷物の山に捕まろうとしたが、
その荷物の山は中身がカラだったため重さがほとんど無く
武の体重に耐え切れず崩れてしまった。
そしてその荷物の上にあった尖った鉄パイプがココの体を射抜こうとするところを
この俺が超絶最強な強さと美を供えた肉体で助けたというわけだ。
誠「賞賛ありがとう、皆の衆。まあ俺の8つに深くクッキリと割れた男の肉体美徳
ともいえる腹筋、はち切れんばかりの上腕二等筋・三等筋、力コブのあるギリシア彫刻を
彷彿とさせる凛々しく逞しい腕、カモシカのようなスラリと長く無駄な脂肪の無いダイトウ筋のミッチリついた脚を持ってすればココの救出など容易いものだ」
コ「ニャフフフゥ・・・けど実はね。ココが助かったのにはもっと大きな理由があるの」
誠「んあ、なんだそりゃ?」
コ「それはね・・・ココはたけぴょんが荷物の山にぶつかった直後に
『助けて!』という『電波』をマチョ兄ちゃんに送ったからだよ♪」
『電波』という訳の分からない単語にみんなは一瞬固まった。
もちろん、俺もその一人だ。
わからない。俺の筋肉用語集および全知識を統計しても理解できそうにない。
ココはもしかしたら地球外生命体かもしれない。
うむ・・・・ありえないとも言い切れん。
優「ココ・・・精神科に行ったほうがいいんじゃない」
空「理解不能です。私も田中さんの意見には賛成です」
武「ココ、どうやらお前の頭にはアブラムシがいるようだ、
はやく駆逐しないと手遅れに・・・」
少「ううぅ・・・・頭が・・・頭が痛い・・・」
つ「重症のようね・・・・」
誠「ココ、悪いが俺の脳細胞の筋肉繊維はそんなものを感知できん」
コ「そんな、おかしいよ!ココは確かにマチョ兄ちゃんに『電波』を送ったよ!」
俺は何も答える気が起きなかった。
もはやココ語にはついていけない。
目眩を感じ、俺は視線をそらした。
みんなももはや理解不能で困惑の表情をしている
しかし、空の様子だけは明らかに変だ。
空「理解・・・不能・・・・・です・・・」
空「プログ・・・ラム・・・範囲・・・外・・」
空「レベル・・・デルタ・・・・」
やはりおかしい。なんというか、うわの空といった感じだ。
そう・・・心、ここにあらずだ。
直後、部屋一面が神々しい光に包まれた。
その後、見た光景に俺たちは言葉を失った。
空が異様な光を放ち、宙に浮かび上がっていていたのだ。
空はまるで敵を見るような冷たく無機質な眼差しで俺たちを見下ろしている。
それは低俗なムシケラをみるような眼だ。
空「先程の言語は理解不能です」
空「理解不能なものはこのLeMUの安全性を損なう可能性があります」
空「得体の知れない生命体とその仲間であるため、これより貴方たちを排除いたします」
機械的かつ事務的な、しかし毅然とした口調で空は告げた。
空「ムシケラ排除レベル3B発動・・・・排除の実行に移ります」
突然、頭の中に体が痺れるほどの強烈な高音が鳴り響く。
いわゆる超音波というやつだろうか・・・。
耳を塞いでも状況は変わらず頭が割れそうなほどの激痛が走る。
みんなは動ける状況ではない・・・・俺がどうにかしなくて!
誠「悪いが空、一発ぶん殴って気絶してもらうぞ!」
俺は猛然と走り、洗練された脅威の筋肉から音速の手刀を空にお見舞いする!
これで俺は何百人も気絶させてきたのだ!
正確性は機械をも凌ぐ!宙に浮いていようと全く問題なし!
俺の手刀が美しい放物線を描き、空に迫る。
しかし・・・・・
スカッ・・・・・。
外れた?そんなバカな!俺は今までこれを外した事はないはずだ!
うん、きっと届かなかったに違いない。
俺としたことが不覚・・・・。
その間にも超音波が俺の脳内へと浸透する。
早めに決めないとやばいようだ。
というわけで手加減なし!!
空、悪く思うな・・・・理由はどうあれ勝手に暴走するから悪いんだぞ。
今度は届かないことが無いように三角跳びをして空に迫る。
誠「くたばれえぇぇぇ!アブマッスル秘奥義『アブセルク』!!」
日本語訳は「異常な筋肉の秘奥義『異常な狂気』」ということにしている。
片腕に全筋肉繊維ならび細胞を集中させ、前傾姿勢で直線的に突っ込み、
狂気と集中させた筋肉細胞・繊維と全体重をぶつける技だ。
もちろん尋常ではない速度と腰の捻りの力も加算され、威力は何十倍にもなるのだ!
喰らったら命の保障はないだろう。
優の時とは比べ物にならない狂悪な致死性の高い一撃必殺だ。
だがこの状況下では仕方ないのだ。
君の笑顔を俺たちは忘れない!さようなら、茜ヶ崎くん!
ズガアアァァァーーーーーン!!
俺の右腕は壁に巨大な穴をあけていた。
穴が開いてない部分もクーデターが出来ている。
だが・・・・・空は無事だ。
今回は外してない。角度も完璧だった。
わからない・・・一ついえることはすり抜けるような感覚を覚えたということだけだ。
まるで実体が無いような・・・・いや実体が無いんだ!
空「・・・・無駄です。私に物理的な攻撃は無意味です」
優「マ、マッチョくん、空はRSDなの!」
優「だから物理攻撃は効かないわ!」
優・・・・最初から言ってくれ!!
しかし、なるほど・・・RSDね。確か以前、アメリカで聞いたことがある。
半導体レーザーを直接網膜に照射して画像を表示するアレか・・・・。
どおりで・・・・しかし困ったな。
なら俺に勝ち目はないのでは・・・・。
?「ピヨピヨ・・・ピヨピヨ♪」
?「ピヨヨヨヨ♪・・・パサパサ・・・トテッ・・・」
・・・・・気づいていなかった。苦しむ俺たちを尻目に一人遊んでいる小学生を発見した。
今、小学生は健気に起き上がろうとしているヒヨコの真似と思える仕草をしている。
その光景に俺は怒りを抑えながら近づく。
誠「ココさん・・・・ちょっとよろしいですか」
コ「ピピ、ピヨヨヨ・・・?」
どうやら気分はまだヒヨコらしい。
狂気に近い感情さえも込み上げてくる。
だが疑問に感じることも一つだけあった。
それは・・・・なんでこいつだけピンピンしてるわけ!?
とにかく能天気な小学生へと怒りと狂気をぶつけることは確定だ。
誠「いい加減にせんかー!」
コ「もう〜、マチョ兄ちゃん。短気だね〜」
コ「カルシウム不足じゃないッピ?」
コ「ついでにさっきの言葉は『はい、なんでしょう?』である」
誠「聞いとらん・・・!それよりお前はこの期に及んでヒヨコの真似事か・・・!」
今もなお込み上げてくる怒りと狂気を殺して言う俺。
しかし小学生は依然、能天気なままである。
コ「マチョ兄ちゃん、なんでココだけ無事か、わかる?」
誠「・・・・・・・・・」
俺の怒りと狂気ははち切れんばかりだった。
おそらく今の俺は優のように狂犬と化しているだろう。
コ「それはね・・・ヒヨコごっこしてるからだー♪」
誠「嘘つくなーー!!」
コ「・・・・・・・ココを疑うの?」
ヨヨヨ・・・といった感じの弱々しいポーズをとるココ。
眼も涙で潤んでいる。
・・・・仕方がない・・・・。
俺は淡い期待を込め、この小学生の願望を受け入れてやることにした。
コ「じゃあ、腰を深くして、手は後ろに伸ばして・・・」
コ「この時、手は94度の角度にするようにしてね」
コ「あとは『ピ』と『ヨ』だけを使ってヒヨコの愛らしさを表現するの」
誠「・・・・わかった」
コ「じゃあ、いってみよー♪」
コ「ピヨ・・ピヨ・・・」
誠「ピヨ・・ピヨ・・・」
やり始めたが相変わらず超音波が脳を蝕む。
イライラ・・・・・
コ「ピヨヨヨピッ・・・ピヨー♪」
誠「ピヨヨヨピッ・・・ピヨー♪」
・・・・・・未だに超音波は刻々と俺の体力を削り続ける。
そして2分経過・・・・今もなおヒヨコごっこを続けている。
当然ごとく状況が好転する様子は見受けられない。
イライライライライラ・・・・・・・・ブチッ・・・!
誠「全然効果ないだろーがーー!」
コ「ニャハハハハハハ!当然だよ」
誠「なに〜」
コ「マチョ兄ちゃんにやって欲しかっただけだもん」
誠「・・・・・・・・・・・・」
俺の怒りと殺意と狂気のメーターはもう限界を超えようとしていた。
けたたましい音を立てて壊れるのはもはや時間の問題だろう。
俺のココへの感情⇒『捻り潰してやろうか・・・・!』
コ「とまあ冗談はいいとして、ココが空さんのちょーおんぱが効かない理由はね〜」
コ「空さんのちょーおんぱと同じ出力の『電波』を送っているからだよ!」
コ「だから、さあ!みんなも送って!」
誠「そうだったのか!すごいぞ、ココ!」
コ「エッヘン!」
誠「よし、俺たちも!・・・・などというと思ったか・・・」
コ「ふに?」
誠「そんなもんを俺たちが送れるかぁぁーーーーーー!!!!」
俺の怒りと殺意と狂気のメーターはけたたましい音と共に粉砕され、砕け散った。
堰を切ったかのように俺の中の様々な『ドス黒い凶暴な負の感情』が押し寄せてくる!
俺のココへの感情⇒『ぶっ殺す!!』
誠「キッスワマァァァ(貴様)!海の藻屑にしてやるわー!!」
コ「そうはいかないよ、『電波送受信』♪」
その声に呼応するかのように俺の中に得体の知れない何かが駆け巡る。
それは俺の肉体から力を吸収するかのように奪い取っていく。
俺の肉鉄塊の如し筋肉から急速に力が抜けていく。
俺は自由を奪われ、床を這いずるのが精一杯だ。
まさかこんな属性の強者が存在するとは〜・・・・。
誠「グフウゥゥゥゥ・・・・・」
コ「ニャフフゥゥ、危なかったからその力、電波に変換させてもらったよ♪」
コ「狂力で筋肉的かつワンダフルな電波だったよ♪こんなの経験したことないッピ」
空「仲間割れのようですね」
空「とどめです。ゴミクズ排除レベルMAX発動、10秒前」
武「これで希望はついえたな・・・・」
武「ううぅ・・・・脳が・・揺れる・・・揺れるぞぉ・・・」
優「私・・・もうダメかも〜・・・ウキュウウゥゥゥ・・・・」
少「僕は・・・誰・・君は・・・・何者・・・」
つ「死にたい気分だわ・・・生き地獄ね・・・・」
みんな、もう限界だ。俺も筋細胞が悲鳴をあげている。
だが力を電波化された俺になす術は無い。
頼れるのは・・・・頼れるのは・・・・・・・
・・・・目の前にいるこの少女のみ!
つまり・・・・・この俺の力を電波に変換した『電波少女』かよー!
終わった・・・短い人生だった・・・・・。
しかも現実か妄想かわからない世界で死ぬだなんて・・・・。
意識が薄れていく・・・・・もうダメだ・・・。
コ「しっかりして!マチョ兄ちゃん!」
お前のせいでしっかりできないんだっての・・・・。
薄れゆく景色の中、俺はこの『電波少女』に無謀な頼みをしてみることにした。
誠「ココ・・・・空をなんとかできないか・・・?」
コ「・・・・・・・・・・・・」
空「ゴミクズ排除レベルMAX発動、4秒前」
死の宣告は今なおも告げられている。
やはりダメか・・・朦朧とした意識の中・・・俺はもはや死を覚悟した。
コ「なんだ、そんなこと簡単だよ」
え・・・・・・・・。
するとココは突然、原始時代のハニワを彷彿とさせる構えをとり始めた。
その驚異的光景に俺の目は正常な働きを取り戻していた。
とにかくその構えは奇怪だった。まず両手を真横に伸ばし、その肘を90度に曲げる。
そして正座をして背筋は90度とすこぶる良い姿勢!
その後がさらにおぞましい・・・とあるクリ妖精のような横線な目つきと表情
をして耳と頭に何かを集中しているのだ!
コ「『毒電波発動』、出力MAX!」
コ「ミュイ〜ン、ミュイ〜ン・・・ツピピピピ・・・・」
奇怪な効果音を発しながら『毒電波』というモノを発していると思われるココ。
あまりに異様な光景に俺は底知れぬ恐怖を覚えた。
直後、急に空が苦しみだす。
空「ああぁぁ・・・・悪性な毒電波が内部へ侵入・・・駆逐・・・不能・・・」
刹那、一度見た神々しい光が辺り一面を覆う。
そして・・・・・・
暴走する前の俺たちの知っている空が爽やかな表情をしながら立っていた。
空「おはようございます、皆さん!」
しかし、すぐにみんなが倒れている尋常でない状況には気づいたようだ。
空「こ、この現状はいったい・・・・マッチョさん、何かあったのですか?」
誠「・・・・いや、なにも・・・それより無事で何よりだ・・・」
どうやら空はさっきのことを覚えてないようだ。
空・暴走事件はココの『毒電波』の活躍により事なきをえた。
薄れゆく意識の中・・・・俺は意識を失った・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから何時間経っただろうか。
差し込む証明の光により俺は重い瞼を開けた。
そこは救護室だった。
この部屋にあるさまざまな薬の刺激的な臭いが鼻をつく。
空「おはようございます、マッチョさん」
空が壁をすり抜けるように現れる。
だがもはや驚くべきことではない。彼女はRSDなのだから。
誠「おはよう、みんなは?」
空「会議室の方にいらっしゃいます」
空「それより昨日は皆さんにひどい迷惑をかけてすいませんでした・・・」
申し訳なさそうに深々と頭を下げる空。
しかし俺はその気持ちだけで十分だった。
誠「気にする必要はないさ。その気持ちだけで十分だからな」
空「ですが・・・」
誠「いいって、気にするなよ」
空「はい・・・、わかりました」
いつもの笑顔を見せ、微笑む空。
やはり彼女は笑顔がよく似合う。
誠「それよりアレが昨日ってことは・・・俺はどれくらい寝てたんだ?」
空「約6時間ほどです」
誠「そうか・・・・」
誠「圧潰も近いな・・・どうにかしないと・・・」
空「現在もインゼルヌル及び外部と連絡がとるため、
様々な通信手段を試みているのですが・・・」
空「すいません・・・私の責任です」
誠「いや、空は十分がんばってくれてるさ」
空「そんな・・・私なんて・・・」
誠「まあ、とにかく会議室にいこう」
誠「みんなもそこにいるんだろ」
空「はい」
俺は空と一緒に会議室に向かっていた。
実際、彼女は瞬間移動ができるのだが、俺たちは並んで歩いている。
誠「だけど空って、RSDだったんだな」
空「ええ、マッチョさんはあの時、気づいていたようですね」
誠「ん、あの時の記憶はないんじゃなかったっけ?」
空「皆さんが教えてくださいました」
空「しかしマッチョさん、何故RSDをご存知だったのですか?」
誠「まあ過去にちょっとな」
誠「それよりもうみんなにその事を話したのか?」
空「はい、話しました」
空「皆さん、あんな酷い事をした私を責めないどころか、
こんな私を一人の人間として見てくださりました」
空「だから私、すごくうれしかったです」
誠「俺も空はすごく人間らしいと思うぞ」
空「そ、そうでしょうか?ありがとうございます」
少し頬を赤く染めて言う空。
俺は彼女のそんなところがますます人間らしいと感じた。
誠「けどRSDっていうのは虚しいな」
空「え、虚しいとは?」
俺の筋肉的本能はそう感じてしまうのだ。
そう・・・・RSDが虚しいと感じる理由・・・・それは・・・・。
誠「RSDは実体がない・・・だから筋トレができない!」
誠「これを虚しいと言わんでなんという!」
誠「肉体改造の特訓により筋肉は引き締まり、その美しさと強靭さは日々、増していく」
誠「例えば今週は腕周りが0.1センチ太くなった、腹筋の窪みが0.1ミリ深くなった、
100メートルが0.02秒早くなった、今まで持ち上げられなかった重さの
ベンチが持ち上げられるようになった、開脚の幅が3度広がったなど肉体改造
による日々の成長が感じられんのだぞ!それは虚しいことだ・・・・・」
誠「日々のトレーニングにより自分の肉体的そして精神的成長を感じることができない」
誠「自分の腕力の強さ、腹筋の強靭さ、足の速さなども感じられない・・・・」
誠「躍動する筋肉の鼓動、額を流れる爽やかな汗の快感、肉体と肉体の会話、
己の魂と相手の魂のぶつかり合いによる魂の叫びの共有・・・など数えればキリが無い!」
誠「特に躍動する筋肉の鼓動と額を流れる爽やかな汗の快感は『自分はがんばっている』
という事を肌で感じられるため、その素晴らしい感覚・気分は言葉では言い切れん!」
誠「俺はそれにより『自分が今を生きているんだ』ということが実感できるんだ」
誠「その喜びを味わえない空はすごく虚しく、そしてかわいそうだと思う」
空「・・・・・・・・・・・」
空「私も・・・味わいたいです」
空「自分の体が躍動し動いている感覚、流れる汗の心地よさを味わいたいです」
空「それが『生きている』って感覚なんでしょうね」
誠「その通りだ!茜ヶ崎くん、そういうありふれた行為により『生』を実感できるのだ!」
空「だけど私はRSD・・・・実体の無い私は、それを永遠に感じられないのでしょうね・・・」
誠「そんなことないさ・・・・」
空「え?」
誠「願えばきっとその想いは叶うさ。だからそんな悲しい顔をしてはいけない」
空「・・・・そうですね」
極上の笑みを浮かべ、空は答えた。
その笑顔は本当に清々しいものだった。
誠「俺は君を一番弟子にしたいぞ」
空「ありがとうございます」
それからはもはや言葉はいらなかった。
俺たちは体ではその場を共有できなくとも心は共有できていたのだから。

そして俺たちは会議室に着いた。
何故かみんなの表情は冴えない。
だが納得もいく・・・・このLeMUはあと一日足らずで圧潰してしまうであろうから。
武「よう、マッチョくん。気分はどうだ?」
誠「まあ、そこそこってとこだな」
つ「それよりどうするの?ここは恐らく今日までが限界よ」
空「残念ながら通信は今も通じません」
皆「・・・・・・・・・・・・・・」
絶望・・・その二文字が誰しも頭にもよぎりかねないだろう。
だがこんな時だからこそ諦めてはいけないのではないか。
少「やっぱり・・・僕たち・・・・ここで・・・し・・・」
武「バカなこと言ってんじゃねーぞ!」
少年が誰しも言うまいと思い続けてきた言葉を言い切る前に
張り裂けんばかりの声をあげたのは武だった。
武「俺たちは今までなんのために生きてきたと思ってんだ!」
武「簡単に死ぬなんていうな!」
武「俺は誰も死なせないぞ!」
武「最後の最後まで足掻いて、足掻いて、足掻きまくってやるんだ!」
武「まだ時間はある!だからみんなも最後の最後まで足掻くんだ!!」
武「その命の灯火が燃え尽きるまで!」
俺の思っていたことを武は当然の如く言ってのけた。
それは自分自身に言っているかのようにも聞こえる。
武はまだまだ諦めてない。こいつは死に際までも足掻くだろう。
その言葉にみんなの顔に「生」への意欲が蘇ってくる。
きっとこのような状況でも諦めず、みんなに勇気を与えるような
武のような男を「男の中の『男』」というのだろう。
誠「武の言うとおりだ。こんなところで死ぬわけにはいかない」
誠「可能性が1%でも残っている限り諦らめるな!」
それから活力を取り戻した俺たちは脱出ルートの探索のために
館内を再度、探索することにした。

新たな脱出ルートを探し始めてもう半日近くたった・・・・・。
しかし脱出ルートは見つからない。
LeMUの揺れも徐々にだが激しくなってきており、
さすがにみんなにも焦燥感が漂い始めていた。
その時、空から中央制御室に招集とするようにスピーカーで言われた。
そして俺たちは全員中央制御室に向かった。
武「空、どうしたんだ。全員招集って」
空「はい、実は外との通信が繋がり、その外の協力により
非常階段から脱出できそうなんです」
空「今から40分ほどしたら非常階段の排水が終わるはずです」
空「あとはその非常階段を上がっていけば地上に出られるはずです」
武「そ、そうなのか。わかった!じゃあ今から非常階段の傍まで向かっておく!」
空「はい、皆さん。ご武運を・・・」
誠「おい、空は・・・!」
空「マッチョさん、私は・・・・・」
そうか・・・・空はRSDだから俺たちと一緒に脱出はできないんだ。
だけど・・・だけど俺は・・・・・・。
誠「けど非常階段の近くぐらいまでならいけるだろ」
空「ええ、確かにその辺りまでならいけますが・・・」
誠「よし!じゃあ決まりだ!」
空「え・・・ですが・・・」
誠「つべこべ言うな」
意味がないのはわかっている・・・だがここに一人、
空を置いていくことは見捨てるような感じがしてすごく嫌だった。
それにまだ排水まで40分も時間がある。
コ「ふぅ・・・・」
そう言えば、さっきからココに元気がない。
そういえば脱出ルートを探している時から苦しそうだった。
だがそれ以前はあんなに元気だったのに?
誠「ココ、大丈夫か?」
コ「へ・・・う、うん・・・少し、キツイかも・・・」
誠「おいおい、しっかりしろよ!」
コ「『毒電波』を出しすぎたからかもしれないね・・・」
武「どうする、マッチョくん、救護室に連れて行くか?」
コ「大丈夫だって!ほらこんなに元気なんだから!」
無理をして元気に振舞っているようにも見える。
だがココはみんなに心配をかけたくないんだ。
俺にはその気持ちが痛いほどわかった。
誠「わかった、でも無理はするなよ」
それから時間が過ぎ、非常階段が使用可能になった。

空「では皆さん、ご武運を祈ってます」
空に別れの挨拶を告げ、俺たちは出口に向かい猛然と進む。
LeMUの浸水はもうかなり進んでおり、戻ったりしていたら助かる可能性は低いだろう。
出口はもう近くまで見えてきている。
だがその時だった。
・・・・・バタッ・・・・・・・・・・。
微弱な音だったが誰かが倒れる音がした。振り向いて先に倒れていたのはココだった。
クッ!体調がかなり良くなってきていたように見えいたため油断していた!
こんなことなら背負っておくんだった!
誠「おい、ココ!大丈夫か」
コ「うん、なんとか・・・・ケホッ・・・ゴホッ・・・」
突然ココが口から大量の鮮血を吐き出した。
これがただ事ではないのが誰の目から見ても一目瞭然だ。
顔の方も急速に青色に染まっていく。徐々に血の気が失せていく。
武「おい、どうしたんだ!」
上の方から異変に気づいた武が降りてくる。
誠「武!ココが突然、血を吐き顔面も蒼白で・・・とにかく大変なんだ!」
その青ざめた表情に武もすぐにこの危険な状況を察知する。
武「これは確かに不味いな・・・」
誠「つぐみと少年はどうした?」
武「もう外に出ているはずだ」
誠「そうか、それよりこのままじゃココが・・・・!」
空「倉成さん、マッチョさん、どうしたのですか!早くしないと、ここはもうもちません!」
非常階段で分かれたはずの空が何故かここにいた。
誠「空、どうしてここに」
空「館内からつぐみさんと少年さんの生体反応が消えたのに倉成さん・マッチョさん・
ココさんの生体反応だけ残っていたため、気になって様子を見にきたのです」
誠「それより空、ココが大変なんだ!何かわかるか!」
空「見せてください!」
空「・・・・この症状はまさか・・・・ティーフ・ブラウ!」
ティーフ・ブラウ・・・その言葉は俺にとって初耳だった。
武もよくわからないといった表情をしている。
だが空はココのこの症状について知っているようだ。
誠「そのティーフ・ブラウってなんなんだ?」
空「はい・・・一言で言えば、極めて致死性が高い悪性ウィルスです。
このままでは脱出してもココちゃんを助けられません!」
誠「なにー!」
誠「じゃあ、どうすればいいんだ!」
空「救護室に症状の進行を抑えられるアンプルがあるのですが、
浸水と圧潰が進んでおり今から戻ることはできません!」
武「く・・・・どうすればいいんだ」
空「キュレイウィルスというウィルスからならTBの抗体を抽出できるのですが・・・」
キュレイウィルス・・・・・・その言葉に俺は聞き覚えがあった。
そうだ・・・・確かつぐみとの会話で聞いたはずだ。
そして彼女はそのキャリアだったんだ。
だがそのつぐみはもう地上だ。
もはや成す術なしと思った瞬間、ある言葉が俺の脳裏に浮かんだ。
『あなたもキュレイウィルスに感染しているかもしれない』
確かつぐみはその様な事を言っていたはずだ。
つぐみ同様、キュレイウィルスのキャリアかもしれない
俺からならTBの抗体を取り出せるかもしれない!
誠「空、俺はそのキュレイウィルスのキャリアかもしれない!」
誠「つぐみが以前そのようなことを俺に言っていた」
武「ホ、ホントかよ!」
誠「俺の異常なまでの身体能力と体力がその証拠だ!」
武「・・・・・・・・・・・・・」
空「ですがその抗体を取り入れたココさんはその影響で、
『不死』になってしまう可能性があります」
誠「わかっている、だけど俺も武と同じように誰も死なせたくないんだ」
誠「自分勝手かもしれないがそれが俺の願いだ!頼む、空!」
武「・・・・・・俺からも頼めないか、空」
武「このままココが死ぬのを見たくないんだ」
空「・・・・・・・・・・・」
空「わかりました。ですがまだ一つ問題があります」
空「その抗体を抽出するとマッチョさんは体力を大いに
奪われてしまうため、しばらく睡眠状態に陥ってしまうのです」
空「私には実体がありません、だから倉成さんがお二人を運ぶしか手段はないのです」
空「ですが今は浸水と圧潰が進み、倉成さん一人で二人を
出口まで運べる程の時間はありません!」
武「俺に任せろ!二人ぐらいならどうにかなる!」
誠「いや、俺は筋肉質であるため体重がかなり重い。しかも階段だ」
誠「武には悪いが俺まで運んでいたら全員、お陀仏だ」
誠「だから俺はほっといてココだけ連れて脱出するんだ!」
武「なっ!そんなことができるかよ!!」
武「俺は意地でも連れて行くからな!」
誠「武、気持ちはありがたいがそれは無理だ」
誠「せめてココだけは助けてやってくれ」
誠「俺はお前を真の『友』と見込んでいっている、頼む!」
武「・・・・・・・・・・・・・」
空「倉成さん、迷っている暇はありません」
そのとおりだ。今、この瞬間でもLeMUの圧潰と浸水は急速に進んでいる。
非常階段の底には迫り来る水が見えてきてさえいる。
武「・・・・・わかった。けどこれは約束しろ」
誠「・・・なんだ」
武「絶対に死ぬなよ!また生きて会うんだからな!」
誠「・・・・・・」
誠「ああ、もちろんだ!俺は死なない!」
誠「いつか生きて、お前に会いにきてやるさ!」
それから俺たちは互いの拳を固く、固く握り合った。
その武の腕からは暖かな温もりが感じられた。
武「『男と男の約束』だ」
誠「ああ」
もはや言葉はいらなかった。その時、俺たちの心は一つだった。
今、わかったような気がする。
俺は遙たちがいる世界に戻りたいと強く願ったのに、
何故、元の世界に戻れなかったのかが・・・・。
俺はここにいるみんなの事が心配だったからだ。
脱出するために互いに助け合い、協力し合ううちにみんなのことを
心から『仲間』や『友』だと思うようになっていたんだ。
だから元の世界に戻ることはその『仲間』や『友』を見捨てることに
なると思い、戻れなかったんだ!俺はそう確信していた。
俺は明らかにみんなにそのような感情を抱いていた。
そして俺は今、その『仲間』や『友』のために死のうとしている。
だが俺はこの人生の結末に悔いはない!

空「では、抗体の抽出を行います」
空「倉成さん、指示通りお願いします」
武「ああ、まかせろ」
麻酔薬を打たれ、俺は意識を失った・・・・。

抗体は無事とられたと思う。
なぜなら・・・・・・。
空「お疲れ様でした・・・・抗体の採取は無事終わりましたよ」
朦朧とする意識の中、そんな空の声が聞こえたような気がしたからだ。
視界は定かではないがココを背負い、地上へとつながる
出口を出ようとしている武の姿も見えた・・・・気がする。
いや、きっと行けたはずだ。あいつは約束を破るような奴じゃない。
俺たちはあの固い約束をしたのだから。
徐々に冷たい感覚が体を覆っていく・・・・・
まるで海月のように浮いている感覚だ。
ただ眠かった・・・・・。
心地よいまどろみの中・・・・俺は眠るように・・・・・意識を失った・・・・・・・。

空「おやすみなさい、石原誠さん・・・」

         
                           Fin




<後書き>
ここまで読んでくれた方は本当にありがとうございました。
それだけで私はすごくうれしいです。
長ったらしい話になってしまい、すいませんでした。反省してます・・・・。
時に皆さん、Ever17版マッチョSSはいかがでしたでしょうか?(やはり長いですか?)
主人公はあのマチョフィニティのラストを利用した形で
誠ということでしたがこれはどうでしたかね?(不満ですかね?)(汗)

前半は誠が記憶喪失ということと主人公を分らせにくくする為
心理描写がかなり普通になっておりギャグが少なくギャグを大いに期待した方は
期待外れの退屈なSSと感じたかもしれません。そう感じた方はすいませんでした。
記憶喪失を利用し、未熟ながら微妙なミステリー風味にしてみましたが、果たして・・・・。

中盤以降はマッチョ誠のエンジンが起動していきますね。
誠の記憶が戻ってからのギャグは個人的にも結構満足でした。
特に「空の暴走」のとこの満足度は高いかと。(笑)
一方、つぐみとの会話はかなり不満です。
真剣な内容なのに心理描写には筋肉ギャグが入ってしまい、
かなりアンバランスになった感がありますから。
いっそ、完全にシリアスにすべきだったでしょうか?
ここら辺は未熟なところですね。

黒さ加減は抑えましたが今回のギャグはどうだったでしょう?

そしてラストですが・・・・・・・
あれはシリアスにもっていく以外どうしようもありません!!(爆)
圧潰シーンでギャグなんて到底出来ませんから!(こうする予定でもありましたが)
シリアス面は初でレベルが低かったかもしれませんがどうだったでしょう?
少なくともあれが今の私の限界です・・・・・。(苦笑)

あと今回は実は誠はキュレイのキャリアだったやそれによりラスト、ココの命を
救うなどかなり奇抜な設定になっております。
そのため矛盾点が多いと思います。(絶対多い?)
(だいたい麻酔薬なんてどこにあったのか、抗体はどうやって抽出したのやら・・・・)
もしそれにより不服を感じた方がいましたらすいませんでした。
特にTBの抗体の抽出は明らかにおかしいと感じたのでは?
あれは空に抗体を発見する能力があり、その道具は勝手にあったということで・・・。(汗)
ううぅ・・・アレは他に手がありませんでした。すいません実力不足です!(爆)

もしマッチョシリーズの続編の要望があれば、未熟ながらもまたがんばりたいと思います。
それではここまで読んでくれた読者様、本当に本当にありがとうございました!
ではでは〜です。

<補足>
ついでにこのSSが始まる以前の誠を見たければSS「マチョフィニティ」を
ご覧ください。ついでに改正して読みやすくなったと思います。
異様なNever7のSSで黒いキャラたちによる黒いなギャグが満載です。
このSSで爆笑ならそちらも爆笑、間違いなし!
(ついでにギャグオンリーです、お気軽にどうぞ)




2002


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