<読む際の注意>(絶対読んでおいてください!)
             
このSSは前作「Ever Never muscle of infinity」の続編にあたるSSです。
よって主人公はある事が原因で筋トレをこよなく愛する男に変貌してしまったマッチョ誠です。
他のキャラも根底は崩していないつもり(?)ですが大いに壊れているのでご注意ください。
あとこのSSを読むにあたって前作の内容を理解しておくことは必須です。
もちろん前作を読んでいただいた方がいいのですが、また読むのは面倒でしょうから
下に前作の簡単な流れをまとめておきます。

<前作の簡単な流れ>
ある事が原因で2017年のLeMUに飛ばされた誠は記憶喪失になっていた。
そこで彼は武・つぐみ・優・空・少年・ココと出会う。
以前から筋トレなどにより鍛えていた誠は驚異的身体能力・体力・回復力を持っていた。
つぐみの『キュレイ』という言葉により記憶を取り戻した彼は熱き筋肉トーク
を披露し、他は様々な反応を示す。そして彼はつぐみとの会話により自分が
キュレイ種かもしれないという驚愕の事実を知らされる。
その後、空が暴走したりなどするが無事解決し、圧潰当日を迎える。
必死の捜索後、外との通信が繋がり彼らは非常階段を使っての脱出が可能になる。
だが非常階段を使っての脱出時、以前からTBに感染していたココが倒れてしまう。
それに気付いた誠・武・空が処置に掛かるが浸水が進行しており救護室にも行けず、
キュレイ種であるつぐみも既に脱出しておりいないため万策は尽き果てたかに思えた。
しかしつぐみにより自分がキュレイ種かも知れないと聞かされた事を思い出した
誠は二人に自分の中にあるであろうTBの抗体を採取するようにいう。
抗体を採取することは体力を大幅に奪われてしまい、睡眠状態に陥ってしまうため
この圧潰間近の状況では自殺行為である。当然、武と空に反対されるが
誠の固い決意に負けた武はある約束を守ることを条件に許可し、空も許可する。
そしてココに抗体を分けた誠は浸水に飲み込まれ、意識を失った・・・・。


というのが前作までの流れです。(さらに詳しく知りたい方は前作の方をどうぞ)
当時、結構好評をいただいたSSですが・・・・・・・。
今作はその前作を『誠の妄想中の出来事』としてみていただくことになります。
以上を理解していただいた方は続編となる今作をどうぞ。



 Ever Never muscle of infinity 2nd
<プロジェクト発動・田中優美清春香菜の飽くなき野望>
 

                              マイキー

前編


ゴロゴロゴロ・・・ピカッ・・・ガシャ――――ン!!


大木をも焼き尽くす程の凶暴な雷鳴が響き渡る。
そんな荒れた日の深夜、誰もが寝静まっているような時間帯。
とある広大な住宅の一部屋では暗がりの中、
一人の女がパソコンに向かい、ある作業に取り組んでいた。

カタカタカタカタカタ・・・・・・。

夜の静寂の中、軽快なタイピングの音が響き渡る。
?「現状を踏まえれば、ここはこうして、あれはこうと・・・・・」
「そして最後にここを改正とっ・・・」
「よし、完成!」
作業が完成する。すると何故か彼女はパソコンを見ながら含み笑いをし始めた。
?「ムフフ・・・フフ♪い、いけないわ・・・」 
「もう完璧じゃないの、この計画・・・」
「私って本当にすごいかも・・・・・・」
「フフッ・・・・フフフッ・・・アハハハハ!」
心の底から笑う彼女。
何が楽しく、可笑しいのかを知る者は彼女以外、誰一人といない。
しかし目撃者はいた。
秋「・・・・・・お母さん、『アレ』から絶対変だ・・・」

目撃者は田中優美清春香菜の娘・優美清秋香菜であった。
彼女が言う『アレ』とは『BWを召還し、倉成武と八神ココを助け出した後』のことである。
夜のトイレのために起きた彼女はドアの僅かな隙間からその奇怪な光景を目撃していた。
原因不明の高笑いする母親は明らかに彼女の知っている母親とは違っていた。
その光景を彼女は底知れぬ恐怖と違和感を覚えながら見つめていた。

?「あれ?どうしたんだ、秋香菜?」
彼女の背後から一人の男の声がした。
秋「あ、桑古木・・・見てよ」
「お母さんが高笑いしているの・・・今までにあんな事なかったのに・・・」
桑「・・・・ということはBW発動計画と
  共に勧めてきた極秘プロジェクトが完成したんだな」
秋「え、なに・・・それ?」
桑「俺も詳しくは知らんが見当はつく」
秋「なになに?教えて?」
桑「それはあいつの『飽くなき野望』を達成するためのマニュアルになるだろう」
 「そうか、ついに始めるのか。優、お前らしいぜ」
秋「え?」
そのような言葉を微妙に渋く言い放つと桑古木は優秋に背中を向けて歩き始めていた。
秋「ちょ、ちょっと!なによ、それ!?」
桑「・・・・・・」
だが桑古木はそれ以上答えようとはせず、自分の部屋に消えようとしていた。
秋「ったく・・・何、ダンディで渋い寡黙な男を演じてんのよ」
「不幸が板についた『やられ役』の上、
  過度で異常なロリコン中毒者の対応じゃないっての・・・」 
桑「(プチッ)・・・・・・この狂犬親子は・・・」
怒り堪えながらも彼はなんとか部屋に消えることができた。
その光景に渋々、優秋も自分の部屋へと戻っていった。
その間、そして今尚も彼女、田中優美清春香菜の高笑いは響き渡っていた。 
そう、これは彼女のプロジェクト発動前の序章・・・・・・。
そしてこの田中優美清春香菜の計画により・・・・何かが動き出そうとしていた。 



翌朝。
田中家の広大な庭・トレーニング施設・ジムでは
『精巧で強靭な筋肉を持ったムキムキマッチョな男』が
体に似つかない敏捷でしなやかな動きをしながらトレーニングに励んでいた。

タッタッタッタッタッ・・・・。
(ある漢の(以後省略)早朝ランニングの効果音)
グイ・・・グイ・・・グイ・・・クキッ。
(ストレッチの効果音)
ドドドドドドドドドドドッ!!
(50〜60%ダッシュの効果音)
ガッシャン!ガッシャン!!ガッシャン!!
(機械を使い、胸筋と肩を鍛えるベントアームバタフライの効果音)
ドドドドドッ!ズダダダッ!キュイィ――――――ンッ!
(80〜90%のダッシュの効果音)
シュシュシュシュ・・・・・シャシャシャシャ・・・。
(250キロの直球・変化球を投げるマシンの球をよけるための特訓の効果音)
コシュー、コシュー、コシュー・・・・・。
(有酸素運動のための機械を使った特訓の効果音)
ボグゥ!ズガァ!ドスゥ!!ズブァアァドスゥゥ!!!ズドォォ―――ン!!!
(サンドバックをつかったスパーリングの効果音)
ガクガクガクッ・・・!!
(350キロのバーベルを担ぎ下半身を鍛えるスクワット時の筋肉の負荷への効果音)
グイ・・・グイ・・・グイッ!
(ある漢の250キロのベンチプレスを持ち上げる効果音)
ズドッガァァ――――――ン!!バキバキバキ・・・・ズウゥゥゥウン!!!
(直径4メートルの大木を一撃で倒した効果音)



誠「フゥ・・・早朝に筋肉細胞を動かし、躍動する筋肉の鼓動と叫び・漢の美を
醸し出す爽やかな汗・トレーニングより感じる高揚する熱き肉体の蒸気・トレーニングを
  終え、筋肉的満足中枢が満たされていくこの感覚・・・いつもながらやはり最高なものだ」
 「さて体を冷やさないためにクールダウン(軽いジョキング)といくか」

現在、俺(マッチョ誠)は田中家の居候として世話になっている。
何故、俺がこんなところにいるかというと、それは俺の過去を話さなくてはならない。
では何故、俺がこんなところにいるか・・・・長くなるがその過程を詳しく話そう。

2017年。
現在、俺が世話になっている優は2017年の事件後、感染したキュレイについて
以前から面識のあったモリノシゲゾウ氏に相談しに行ったそうだ。
その時、モリノ氏とその娘・いづみはキュレイに興味を持ったらしい。
そして何を思ったのか、彼らは優の抗体を抽出し、
自分達も不死に近い体を得るという大罪計画をやってのけたそうだ。

2019年。
俺はゼミ合宿の担当教師であるモリノ氏の娘・いづみさんと
現マネージャーである樋口遙などゼミ仲間達と共にゼミ合宿をおくった。
だがそのゼミ合宿中、遙は交通事故にあってしまう。
俺の必死の努力によりなんとか一命を取り留めることができたが
その時、目の前にいながらも遙を交通事故に遭わせてしまった自分を俺は許せなかった。
『俺がもっとしっかりしていたら・・・』、そう思った。
だから俺はそんな自分自身に変えるため、一緒についていくと
いってくれた遙と共に渡米し、本格的に筋トレを始めたのだ。

どういう訳か一年で恐ろしいまでに筋肉細胞が発達し、
俺は驚異的な筋力・体力・回復力・運動能力を手に入れ、いつしか俺は
『強靭でしなやかな筋肉』『肉体美』『驚異的身体能力』を生み出す事を生き甲斐
とする最高(最狂)のマッチョとなった。今の思考はここで養ったといえよう。
だがその驚異的な筋肉細胞・体力・回復力の発達と
運動能力の獲得には知られざる恐ろしい真実があった。
それがわかったのは渡米してから一年後、ゼミ合宿のために日本に帰国した時のことだ。
そのゼミ合宿の二日目、訳のわからぬ話題になってしまい、
『いづみさんの問題発言を聞いた後』、俺は意識を失った。
あとでいづみさんに聞いてみたところ、俺は最後に『いづみさんの問題発言を聞いた後』
意識を失い、キュレイシンドロームにより妄想世界へと発ってしまったらしい。
その妄想世界での出来事は詳しくは覚えてはいない・・・。
ただ『倉成武』・・・その男の名だけは確実に覚えていた。

そして衝撃的事実を聞いたのは妄想世界から帰ってきたその後だ・・・・。
なんといづみさんは一年前のゼミ合宿時に俺と遙と妹のくるみの
寝込みに忍び込み、余分に採取していた優の抗体を本人曰く『プスッ♪』と
刺した、という恐ろしい告白をしてきたのだ!
つまり彼女曰く、俺の筋肉細胞・体力・回復力・運動能力が驚異的に
成長したのはキュレイの上に驚異的トレーニング重ねたからだという。
さらに不死に近い肉体とさらなる圧倒的力を手にした俺は以前まで所属していた
『日本筋肉愛好会男の美、追究ムキムキマッスル推進委員会アブマッスル』
にキュレイをドーピングとみなされ即、破門とされてしまったのだ。
当時、俺は愕然としてしまったが、終わったことを後悔していてもなんにもならん、
と自分に言い聞かせ、ならば
『究極の肉体美と強さを追い求めてくれよう』と考えるようになったのだ。

そしてそれ以後、俺はマネージャーである遙と共に世界をまたに駆ける
『究極の肉体美と強さを極めるための旅』を始めたのだ。
資金面はいづみさんにどうにかしてもらっていたが
あの人に弱みを握られると怖いので世界中の大会に出たりして金も稼いだりしていた。
他には『自称最強』とほざく者達と戦ったりもした。

だが・・・・・『皆、弱すぎた・・・!』。

口先だけでちっとも『心・技・筋』がなっていない腰抜けの弱者ばかりだった。
我が目標の糧としていたフィリップ・マチョセルモさえ
我が敵ではなく存分に倒してやってしまった。
我が目標の糧であった彼がこんなに簡単に倒せてしまうとは・・・・・。

『虚しい・・・虚しすぎる』。

それからも脆弱な弱者(実際はかなり強い)を相手している内に俺は
『弱い!弱すぎる!!我が求めし究極の肉体美と強さはこの程度では手に入らん!』
といつしか思うようになりさらなる強者・野獣・苦境・逆境を求めるようになったのだ。

他には『偽マッチョ狩り』もやった。最近の自称マッチョ共は肉体美の方向性を
間違っているので実力と実演により『真のマッチョ』とは如何なるものか説いてやった。
それからは何故かよくわからんが
俺は世界中で知る人ぞ知る『ゴッド・マッチョ』とされている。
俺は自分の考えを説いただけなのだが・・・訳がわからん。
我、『究極の肉体美と強さを極める身』・・・そんなものはどうでもいい。
とまあそんな旅を4年程続けており、日本に帰ってきたところ、
かつていづみさんと通し面識のある優たちに出会い、桑古木を
倉成武のように男らしくするための『武化計画』に協力するように言われたのだ。
最初は我が最大の目的に支障が生じるため断ろうと思っていたが、
当時すでに資産面にすぐれていた優から
『要望するトレーニングジムや施設も作ってあげるし、それなりの自由も許してあげるよ』
という発言を受け、その誘惑に見事なまでに乗せられてしまったのだ。
そのような初歩的な誘惑にまんまと引っかかるとは・・・・我ながら不覚・・・・!

といっても優は本当に俺の要望する独自のジムと施設などを作ってくれた。
いつからそんな太っ腹になったのかはよくわからんが、
俺は優の好意に感激と共に感謝し、現在でもそれをありがたく活用させてもらっている。
こうしていつしか俺はたまに世界を転々としながらも
田中家の居候として住み着くようになっているというわけだ。
本当はマネージャーの遙も連れてきたかったのだが、
いろいろな理由で連れて来れない事になってしまった。
よくわからんが、これがEver17版マチョSSであるという設定上、
仕方がないことらしい。実に残念・・・・。
しかし他に気にかかることがあった。
優たちからも聞いた『倉成武』というかつて聞いたことのある男の名・・・。
どういうわけか懐かしさを感じる・・・・会えるものなら会いたいものだ。



?「おはようございます!マッチョ先生」
クールダウンを終え、飲料水を飲みながらジムにあるベンチの台に座って
我が思考に思い耽っていると、どこからか爽やかな声が聞こえてきた。
声の主の方向を振り返ってみると、それは茜ヶ崎くんだった。
誠「やあ、茜ヶ崎くん。どうしたんだ、今日は遅いではないか?」
空「す、すいません。寝坊してしまいました」
誠「う〜む、君のそんなお茶目なところも素敵だぞ」
空「い、いえ、そんな・・・」

茜ヶ崎くんとは優たちと同様に以前から面識がある。
なぜなら2017年当時インゼルヌルのメインコンピューターにあった
彼女のデータをダウンロードし、それを優の家のメインコンピューターに
インストールすることにより彼女は優の家でも存在できるようになっていたからだ。
RSDを表示するにあたって必要な設備は俺が住み着く以前に優の家には整っていた。
だから俺がここに住み着き始めた当時から彼女はすでに田中家の一員だったというわけだ。
俺はRSD・AIについては以前アメリカで見たことがあったので彼女に非常に興味を抱いた。
実際、接してみると彼女はすごく人間らしい一面を持っていた。

それから俺と茜ヶ崎くんは意気投合し、RSDやAIやテラバイトディスク
によって落とし込まれた2017年のLeMUの記憶などについて話し合った。
その彼女の話で何度も出てきたのがまたしても『倉成武』である。
そう、何故か以前から聞いたことのあるその名前だ。
彼女は彼の事についていろいろと話してくれた。
その話ぶりから彼女が『倉成武』に好意を持っていることは容易に想像ができた。
そして俺自身も茜ヶ崎くんから話を聞いているうちに彼への興味がさらに湧き上がってきた。
どんな絶望的状況になろうと絶対にあきらめない不屈の精神・
土壇場になればなるほど真価を発揮する逆境への強さ・情に熱く涙もろい情熱的な
熱血漢としての一面・自分より相手を思いやれる視野の広さと優しさ・
そして愛する者のために命さえも捨てられる漢らしさには俺も一目を置いたからだ。

誠「ところで茜ヶ崎くん」
 「俺は午前の部はすでに終えてしまったが午後の部からはどうする?」
空「では、いつも通り休日の午後の部は参加させていただきます」
誠「ではいつも通り休日の午後は躍動する肉体の鼓動・滴り落ちる爽やかな汗・
  本能的満足中枢が満たされる感覚を共に満喫しようではないか!」
空「はい!」

茜ヶ崎くんは2034年のBW発動計画後、どういうわけか実体を得ることができたらしい。
彼女曰く『それは女神アフロディテの奇跡でしょう』との事だが
俺にとっては実体を得た理由などどうでもよかった。
なぜなら俺は彼女が実体を持ってない時に『実体がないため躍動する筋肉の鼓動と額を
流れる爽やかな汗の快感を味わえない茜ヶ崎くんが可哀想だ』といったことがあるのだ。
そして俺のその言葉に対して彼女は
『筋肉の鼓動と額を流れる爽やかな汗の快感の素晴らしさを味わいたい』と言っていたのだ。

しかし今、彼女には実体がある。
実体を得た彼女は『筋肉の鼓動と額を流れる爽やかな汗の快感の素晴らしさ』
に芽生え、休日は俺と共にトレーニングをしているのだ。
もちろん、俺のようなトレーニングはやっていないが彼女はレプリスのような体の造りの為、
キュレイ種並みかそれ以上の驚異的な身体能力・体力・回復力・知能を身につけている。
しかもRSD時代に使えた特殊能力も僅かだが使える。
つまり彼女の実力は俺も侮れないということだ。特に特殊能力の質のレベルは半端ではない。


空「しかしマッチョ先生、躍動する肉体の鼓動・滴り落ちる爽やかな汗の快楽・
  運動後に感じる満足中枢が満たされる感覚とはなんでこんなに素晴らしいのでしょうか?」
 「これって、気持ち良過ぎます・・・」
茜ヶ崎くんは顔を高揚させ、照れながらそんな素晴らしい事(?)を言ってくれた。
そう、実体を得た彼女はもはやこの快楽に病みつきなのだ。
読者の皆さんの衝撃は伺い知れぬが、今までそのような事を味わえなかった
彼女がその素晴らしさに病み付きになることは無理もないこと・・・・。
『ここまで壊すか!?』と御思いかもしれないがすまない。許してもらいたい。
誠「それは自分がやりたい事をやり、自らの『欲望』『満足中枢』を満たしているからさ」
 「『自分に正直に生きる』・・・それがこの世に存在するあらゆる
   生物の唯一不変で絶対的な『満足中枢』を満たす方法だ」
俺は自信を持って言ってやった。
やはり人間、自分の気持ちに従い生きる事が最も最高なのだ。
空「さすがマッチョ先生。素晴らしく理に適った哲学的回答ですね」
 「私、マッチョ先生とトレーニングを始めて以来、
  何故か・・・・『自分が生きている』という感覚を肌で実感できているような気がします」
 「RSDで実体がなかった時はこんな素晴らしい感覚、味わったことがありませんでした・・・」
 「私はもっとこの感覚を味わいたいです!今後もご指導の方、お願いします!」
誠「うむ!よくぞいった茜ヶ崎くん!それでこそ我が一番弟子だ!!」
俺はこの時、このような素晴らしい弟子を持てた事を心の底から感激していた。
茜ヶ崎くん・・・・やはり君は最高だ!


秋「あ、やっぱりここにいた!」
トレーニングジムの入り口の方向から非常に慌てた様子の優の娘、
小なっきゅ(優秋)が俺たちの元に走ってきた。
空「そんなに慌ててどうしたのですか?田中さん」
秋「お母さんが『至急、私の部屋にくるように』だってさ」
誠「なに?お前の慌てぶりからみるに急用のようだな」
秋「またいつも通り筋トレしてたんだ・・・本当に好きなんだね・・・」
誠「お前もやるか?筋トレは美容と健康にも良いのだぞ」
秋「いつも言ってるでしょ?私はそんな暑苦しくて、ムサ苦しいことしたくないの」
 「っていうかなんでそんな事にそこまで熱中できるのか、いつ見ても不思議よ」
小なっきゅは大袈裟に呆れながらそのような言葉をいってきた。
いつもながらこの情熱に燃える漢の素晴らしさがわからんとは・・・。
やはり子は親に似るものか。
そう、優も俺の筋トレと肉体美への情熱をアッサリと流すのだ。
昔は反発していたが今やもう慣れてしまったため、どうも呆れられてしまったらしい。
全く無粋な親子だ・・・。うむ、間違いなく精神的教育が必要だ。
というわけでこのままでは我が筋肉的プライドが許さない。
よってここは我が情熱的語りを披露してやることにした。
誠「クックック・・・」
 「では我が筋トレと肉体美へ熱き情熱を捧げる理由を再び聞かせてやろう!」
秋「はいはい、いいから・・・どうせ男の美はなんちゃら、とかいうアレでしょ」
 「それよりさっさと・・・」
ムムム!遮断する気だな!そうはいくかぁー!

誠「いいか!まず筋肉こそ『漢の肉体美』を醸し出す
  万物に存在する唯一絶対の『美の結晶体』!」 
 「そしてその筋肉のほとばしる『情熱的躍動と叫び』!
  限界を超えようと軋む『漢の筋肉細胞』!
  血の滲む努力を彷彿とさせる『漢の汗』!
  苦渋な表情になりながらも上を目指す『漢の飽くなき向上心』!
  真の強者に会った時に感じる『享楽の快感』!
  生死の狭間という逆境で決死にもがく時にあげる『魂の叫び』!
  我が筋肉的満足中枢を満たした時に感じる『底知れぬ至福と幸福感』!
  そしてそれらにより鍛え抜かれた圧倒的強靭さと精巧さを身に着けた
  漢の『最高の美』ともいうべき見惚れてしまう程の『神々しき肉体美』!!」
 「これを感じるため、そして自分への飽くなき挑戦のため、
  俺は『究極の肉体美と強さ』を求めているのだ――――!!!」

フッ・・・勝った・・・。(意味不明)
空「やはりこの『情熱的魂の肉体美トーク』はいつ聞いても最高です。マッチョ先生・・・」
茜ヶ崎くんはまたしても高揚した表情で俺のトークに聞き入ってくれていた。
もはや言うまでもないが、やはり彼女は最高だ!
秋「・・・・そこまでして言いたいか、あんたは・・・」
誠「というわけでお前も獰猛で凶暴だが一応、女の子であるため筋トレをしたくないのは
  わかるがランニングなど軽い運動ぐらいはたまにしとけよ」
 「汗をかくことは清々しく健康にもいいし、なにより『生』を実感できるぞ」
秋「誰が獰猛で凶暴なのよ・・・・(プチッ)」
誠「まあ、気にするな。それも貴様の魅力だ」
俺は今にも『血に飢えた狂犬』と化しそうな
小なっきゅを尻目に軽く爽やかな笑顔を投げかけてやった。
誠「で優が呼んでいるんだったよな」
秋「はぁ・・・もういいよ。早く行こう」



しばらく歩き、俺たち3人は優の私室についた。
そこには後ろを向き自分特性の回転式の椅子に座って
外を見ている優とその傍に立っている桑古木がいた。
桑「お、来たな」
秋「お母さん、連れてきたよ」
春「ありがとう、ユウ」
優はその言葉と共に椅子を回転させ、俺たちと向き合った。
春「みんなに集まってもらったのは他でもないわ」
春「それは二日後に始める、あるプロジェクトに参加してもらうためよ」
その言葉と共に彼女の眼は獲物を狙う獣のように鋭くなり、
同時に緊迫的雰囲気をも醸し出した。いやでもその場の雰囲気は張り詰めてしまう。
桑「武をつぐみから奪う、という計画だな。優」
春「察しがいいわね、涼権。さすが私の召使・・・いえ、片腕とも言うべき存在ね」
桑「伊達に付き合い長くないさ」(この野郎・・・・)
イラつきを抑えながらも微妙に落ち着いた口調で桑古木は答えた。

実はこの桑古木も茜ヶ崎くんと共に俺のトレーニングに参加している。
優の話によると彼は2034年のBW発動計画で助け出した
『精神年齢5歳で異常な動きをし、さらに毒電波というもの未知の電波を発する
地球外生命体とおぼしき超お子様中学生・八神ココ』に
振り向いてもらえず落胆していじけていたのだ。その光景に俺と茜ヶ崎くんは同情し、
『俺達と一緒に躍動する筋肉の鼓動と滴り落ちる爽やかな汗による喜びを味わわないか?』
と誘ってやったのだ。だが当初、桑古木はその温かい誘いを断ったのだ。
だが俺は茜ヶ崎くんと二人で説得し、ようやく桑古木はその誘いを受け入れてくれた。
恐らく決め手は俺の『漢の肉体を手に入れたらココに振り向いてもらえるかも知れんぞ』
という言葉だろう。その言葉に奴は超反応を示したからな・・・・。
というわけで現在、桑古木はココに振り向いてもらうという
野望達成のため多忙ながらも日々トレーニングに励んでいる。
奴もキュレイの力により驚異的な身体能力・体力・回復力を持っている。
始めて間も無いが、そこそこのトレーニングには対応できている。
そして奴は現在驚異的な成長を見せているのだ。
これは確固たる目的を持っており、
その目的を達成するため情熱という熱き炎に燃えているからだろう。
理由は違えど、これは俺が筋トレを始めた理由と似ている。
だから桑古木は将来性が非常に高いと俺は見て踏んでおり、鍛えがいも感じている。
そう『情熱は万物に勝る』のだ・・・・。

春「そう、涼権の言うとおり」
 「これは倉成を奪還(拉致)し、我が家へ住み込ませるための計画」
 「名付けて!」
 「『プロジェクト発動!邪魔をする者は粉砕!倉成武・奪還(拉致)大作戦』よ!」
皆「・・・・・・・」
秋「やっぱりいつものお母さんじゃない・・・・ううぅ・・・」
小なっきゅがいつもとはギャップが大きすぎる母親の様子に悲しげに泣き始めた。
母親の本性を知る事が本当にここまで悲しいこと
なのだという事を、俺は実感せざるえなかった。
しかし『邪魔をする者は粉砕!』か・・・。
さすが目的の為には手段を選ばない邪道女・・・。
春「ほら!ユウ、泣かない!
  恋に燃えた女は標的が近づけば近づく程、果てしなく熱く燃え上がるものよ!」
 「そしてその標的は昔と違い、手の届く範囲内・・・そう私の手中よ!
  ここで『フフフッ・・・ありがとう、コーヒーおいしかったわ』
  なんて言って落ち着いていられるわけないでしょー!」
 「そんなこと言ってうちに標的がとられてしまうじゃないの――!!」
堰を切ったかのように優は自らの『血に飢えた狂犬の飽くなき欲望と野望』を絶叫していた。
秋「―――――!!!」
 「(フルフルフル・・・)」
 「う、うわぁぁぁあぁん!!」
小なっきゅは耐え難い現実を目の前にさらされ、泣きながら走り去ってしまった。
春「あ――!ユウ!ちょっと待ちなさい!」 
 「あなたにも重要な任務があるのよー!」
だが既に小なっきゅは走り去り、視界からは消えていた。
春「まったく・・・あの子ったら・・・・」
 「まあ、いいわ。後で説得して任務を伝えればいいし・・・」
いや、優よ・・・そういう問題ではないぞ!
しかし小なっきゅの気持ちもよくわかるような気がする・・・。
普通、今まで『知的で落ち着いた包容力のある優しい母親』
だった人が突如、『目的のためには手段を選ばない獰猛かつ凶暴な狡猾邪道女』
に変貌したら誰でも果てしないショックを受けるだろう。
小なっきゅもついに人生の壁にぶつかってしまい、
この環境に慣れなければならない時を迎えたようだ。
がんばれ!小なっきゅ!!辛ければいつでも我が快楽の地(我が肉体)へ来たらいいぞ!!

春「で、もちろん、涼権は協力してくれるよね?」
爽やかな笑顔、しかしその笑顔には『嫌でも協力させるわよ〜♪』
という殺気と脅迫的雰囲気も感じとれた。
桑「・・・・・・」
 「そりゃあ、もちろん・・・」
 「嫌なこった!」
春「・・・・・・・」
優の発する殺気と雰囲気に負けることなく桑古木は自分の意志を貫いた。
以前教えた『自分の意志には従え!』の成果がもう出てきているだろうか?
桑「武やつぐみに悪いし、なにより・・・・」
 「俺はもはやお前の下僕として動く男でないのだ!」
春「ふ〜ん」
 「じゃあ、計画の実行日にココに会わせてあげるっていう条件なら?」
 「念願の初デートをしてもらえるかもよ♪」
まるで『こんなの予想範囲内よ』と言わんばかりに優は澄まして対応してきた。
桑「ナニぃ!!」
 「けど俺は・・・・いや、参加する!!」
一片の迷いも無い口調で桑古木は答えていた。
さすがロリコン中年男児、やはり本心には勝てないものか。
春「よし♪」(嘘だけどね・・・)
 「空はもちろん参加するでしょ?」
今度は矛先を茜ヶ崎くんに変え、普通に爽やかな笑顔を向ける。
今回は桑古木にはあった殺気と脅迫的雰囲気はない。
恐らく茜ヶ崎くんには脅迫的雰囲気を醸し出す必要はない、
あるいは出しても無駄と踏んだのだろう。
空「ええ、もちろん」
茜ヶ崎くんも満面の笑顔で対応する。けどそれは裏がありそうな笑顔だった。
空「一番目障りで邪魔な存在は小町さんですもんね」
 「田中先生、つまりあなたがおっしゃりたい事は・・・・」
 「最も鬱陶しくて邪魔者な存在である小町さんを粉砕するまでは結託し、共闘しよう」
 「そういう事ですよね」
天使のように慈愛に満ちた笑顔で茜ヶ崎くんはそんな恐ろしいことをさらりと言ってのけた。
春「さすが、空。話がわかるわね」
 「そういう事。まずは倉成を我が家に奪還(拉致)することが先決」
空「私達二人の勝負はそれから・・・、というわけですね」
春「そういうこと」」
空「フフフフフッ♪」
春「ムフフフフッ♪」
これは間違いなく非常に恐ろしく危険な会話と笑いだ・・・。
明らかに悪寒と寒気と身震いを感じてしまうような暗黒的雰囲気を両者とも発している。
武を拉致できたら、田中家で第2ラウンドが勃発するのは確実だろう。
その時の災害は・・・・予想不能・・・・。
そして俺はその時・・・・。
とにかく・・・・一ヶ月ぐらい海外へ逃げるとするか。
暖かいアメリカの西海岸あたりがいいだろう。
あそこには以前通っていたジムもあるし、トレーニングに申し分ない。
帰ってきた時の田中家の現状は・・・・想像しないでおこう・・・。

春「さて、もちろんマッチョくんも参加してもらうわよ」
今度は俺に例の爽やかながらも脅迫的雰囲気を醸し出した笑顔を向ける。
予想はしていたが、やはり・・・・・。
誠「やめといた方がいいんじゃないか?」
 「今までの会話を統合して予想するに優、お前の計画は恐らく・・・」
 「まず小なっきゅに倉成武の息子・ホクトと娘・沙羅を
  連れ出してもらい、倉成家を武とつぐみの二人だけにする」
 「この時点で相手はつぐみだけだ」
 「そしてそこを多勢に無勢をものにいわし、つぐみを袋叩きにして武を戴く」
 「仮に武が逃げても取り押さえればいいだけだし、そうしなかったらアッサリ捕獲」
 「こんな感じだろ?」
俺は洗練された洞察力と考察力により優の計画を予想してやった。
小なっきゅにも任務を与えようとしていたが戦力的にはつぐみ相手では厳しい。
となると彼女がホクトと沙羅と仲が良いという事を踏まえ、この役割が適任なはずだ。
春「へぇ〜、見事ね。ここまで洞察力と考察力があるなんて」
空「私も話を統合するに、こういう作戦ではないかと思っていました」
 「かなり強引で卑怯な手段ですが、倉成さんを小町さんの
  『魔の手』(?)から救うためには奇麗事を言ってはいられませんね」
 「それにこの方法は合理的かつ確実性が高いですから、私としては異論はありません」
 「しかし、マッチョ先生も気付いていたのですね。さすがです」
 「圧倒的筋力が目に付きがちですが、
  戦略を何より大切にする策士としての力が窺い知れます」
どうやら俺の予想は当たったようだ。
茜ヶ崎くんもやはりわかっていたようだな。
彼女の頭脳・解析能力は俺より上だから当然といえば当然だが・・・。
あと俺が戦略を重視することに驚いている者がいそうだから説明するが・・・・
戦いにおいて何よりも大切なのは『戦略』だ。
『力・技・速さ』があっても戦略がおろそかでは『真の強敵』には勝てんし、
自分への過信が思わぬ落とし穴になる場合が存分に在りうるからだ。
自信を持つことは大切だが過信はいかん。
だから俺はいつも強敵に対して動きを観察しスキと弱点を見出し、
相手のスキに合わせ弱点を一転集中攻撃するのだ。
その際、そこのガードを固めさせないためのフェイントも大切だ。
仮に弱点へのガードを意識しだしても、問題ない。
ガードがガラ空きのところ、あるいは
ガードされていない人体急所を攻めればいいだけだからな。
他には戦略が長けていれば、不意打ち・多勢に無勢の状況・
敵の罠にかかったりした場合でも切り抜けることが可能だ。

誠「しかし多勢に無勢か・・・・随分、卑怯な手段だな」
春「これはあなたが好きな『戦略』の一つよ」
 「それにあなたも倉成に会いたくない?」
誠「う〜む、だが我が主義に反する」
 「圧倒的劣勢を『戦略』によって打破する事は『戦い』の醍醐味の一つ・・・」
 「それを踏まえ、俺は個人的につぐみを応援したくなる」
春「ふ〜ん、じゃあトレーニング施設・ジムの筋力増強器具・・・・」
 「全部没収しちゃうけど・・・・」
『ニヤリ・・・』、と憎らしい笑顔をしながら優はそんな問題発言をいってきた。
誠「ナ、ナンダトゥゥウゥゥ!!」
ま、まさか奴の真の目的(?)は・・・・!!
春「あなたの肉体美に対して否定的な私がなんで
  あなたのために高性能な筋力増強器具を付与し続けていたと思う?」
ニコニコしながら、優はお馴染みの脅迫的雰囲気を漂わす。
いかん、完璧に奴のペースになろうとしている・・・。
誠「うぐぅぅ・・・ま、まさか・・・」
春「そう、これは桑古木の『武化計画』の援助報酬であると同時に・・・・」
 「戦力的にこれ以上ないマッチョくんを嫌でも
  この計画に協力させるための『仕込み』だったのよ」

ガラガラガラガラ・・・・・。

俺の中では突如大地が崩壊し始め、
それにより生じた亀裂に俺は飲み込まれ・・・・・消えた。
そ、そんなバカな・・・・・。
狡賢く狡猾だとは思っていたが、ここまでのレベルだったとは・・・・・。
桑「俺には今のマッチョくんの気持ちがよくわかるぜ・・・」
空「さすが田中先生・・・ここまで計算して行動していたとは・・・脱帽です」
春「フッフ〜ン♪」
勝利を確信した勝ち誇った笑顔。
俺は、俺は、俺は・・・・今のこいつの笑顔が最高に憎らしい・・・!!
春「で、協力してくれる?」
トレーニング器具は『究極の肉体美と強さ』を求める俺にとっては
命にも代えがたい存在・・・・・それを排除されるわけにはいかん・・・。
ざ、惨敗だ・・・・奴に対して頭脳戦は勝てん・・・。
誠「ハイ、協力させていただきます・・・・」
春「うんうん♪いい態度ね」
 「よし♪メンバー全員確保」
落胆する俺を尻目に優は憎らしい程上機嫌に笑い、もはやナチュラル・ハイ状態だ。
こいつめ・・・・ムカつく・・・非常にムカつくぞ。
春「作戦は二日後、私が付与した新居で荷物・家具整理に
  取り掛かる倉成たちの手伝いにごく自然に行く」
 「そしてその荷物・家具整理に毎日手伝いに行き、3日程かけて終わらせる」
 「これで向こうは私達に好感を抱くはずよ」
「・・・・けど、そこが『狙い』・・・!」

キュピ――ン・・・!

今度は優の二つの眼から怪しい妖光が光り輝く。
春「これで倉成たちの内、つぐみ以外は私達に対して警戒心は100%皆無」
 「そして手伝いが終わってからも倉成家に訪問させてもらう」
 「恐らく倉成たちは友好的に迎えてくれるはず・・・・まあ、つぐみは別だろうけど」
 「そんなこんなで一週間後のプロジェクト発動当日、
  ユウにホクトと沙羅を外に連れて行ってもらう」
 「あとはマッチョくんの言うとおり多勢に無勢をもの言わし、
  倉成をつぐみから奪還(拉致)する」
 「というわけよ、完璧でしょ?」
得意気な態度・満面の笑み!
そのような卑怯極まりない最悪作戦を優はそんな表情と態度で言ってのけた。
だが確かにほぼ完璧な計画だ。
けど気にかかることもあった。
空「しかし田中先生。何故、プロジェクト実行まで一週間も待つ必要があるのですか?」
 「荷物・家具整理の手伝いが終わった後、すぐでも問題はないかと・・・」
俺が思っていた最もな意見を茜ヶ崎くんは言ってくれた。
春「それ以上は言えないわ」
 「けど敢えていうなら、『作戦成功率』を上げるためね」
桑「なんだ、それは?」
春「ん、少し『仕込み』を・・・ね」
空「それ以上は言わないつもりですね」
 「いいでしょう。私たちに不利に働くものではなさそうですし、
  『敵を騙すにはまず味方から』ともいいますからね」
春「さすが、空。物解りがいいわね。安心して、みんなに不利に働く事はないから」
空「その時は私がただでは済ましませんから」
春「ふぅ、信用ないのね」
空「ええ」
茜ヶ崎くんは例の如く爽やかな笑顔で答えていた。

その間、俺はずっと・・・・優を侮辱し、キレさせる方法を考えていた。
むむむ・・・・優め〜。俺を侮辱したことを思い知らせてくれるわ・・・!
・・・・・・・・・・・・・・・・。
閃いた・・・閃いたぞ!優を侮辱し、キレさせる方法が!!
誠「クッハッハッハッハッハッ!!」
俺は計画実行のため、何の前触れもなく高らかに笑ってやった。
空「ど、どうしたのですか!?マッチョ先生」
桑「優に侮辱されてついに頭がイカれてしまったのか!?」
優「な、なにいきなりバカ笑いしてんのよ!?」
予想通り、俺の突然の行動に動揺をみせる一同。
誠「いや〜優!その作戦、最高だ!俺は喜んで参加するぞ!」
春「え・・・あ・・・うん、ありがとう」
動揺を隠せない優は唖然とした感じでこのように発言しかできなかったようだ。
クックック・・・・。
誠「理由はどうあれ優はトレーニング施設やジムを
  作ってくれたし、居候として俺を置いてくれているだろ」
非常に爽やかに、そして朗らかに、誠意と感謝の気持ちを込めて伝えてやる。
もちろんこの時、優の瞳を熱く情熱的な眼差しでまっすぐと見つめる。
春「うん・・・まあ、ね」
誠「俺はそんな優の事を・・・」
 「知的で落ち着いた包容力のある温かい雰囲気の寛大な美しい女性・・・」
春「な、なに思いもしない事いってるのよ!何も返ってこないわよ!」
優は思いもよらぬ俺の発言に頬を高潮させながら照れ始めた。
『なに思いもしない事いってるのよ!』、か・・・。
ええ、思ってません。
誠「という風に見た目からだけは感じるのに」
春「え・・・」
誠「その本質は凶暴かつ獰猛で目的のためには手段を選ばない
  姑息で狡賢い『狡猾狂犬邪道熟女』だもんな」
「俺はそのギャップが最高に素敵だと思うぞ〜」
「さらに狂犬化したら某話に登場するゴッツイ顔をした
  異常精神なワンちゃんが如しワイアルドくん(?)みたいになって、いつも
  モットーである『本能のままに楽しく刺激的に、エンジョイ&エキサイティング♪』」
「と、あとどういう法則性かは俺には皆目見当はつかんが
『あなたの物は私の物♪→つぐみの物は私の物♪→よって倉成は私の物〜♪』
  に従って行動するもんなっ」
「あ、というかモットーはノーマル状態でも同じだったな。クッハッハッハ!失敬失敬!」
「そして俺はそんな血の気が多く、何者にも縛れずワガママに生きるお前が
友人として大好きさ。・・・というか見ていて面白い!」

優を感謝し褒め称える、フリをして・・・・爽やかに、そして朗らかに
奴の本性を言いたい放題言いまくり、けなしてやる・・・!
どうだ、これなら優を侮辱し、かつキレさせる事が可能なはず!
桑「・・・・・・・」(ただではやられんか・・・さすがマッチョくん)
空「・・・・・・・」(見事なスピリッツです、さすがマッチョ先生)
案の定、優は俯き肩を震わせながら立っていた。
表情こそ前髪に隠れて見えないが、これは怒りに堪えている証拠だ。
つまり俺は優に復讐を果たすことを達成できたのだ。
クックック・・・我が憤慨の怒りを思い知ったか!
俺を侮辱するという愚考な行為を考えるからこんな目に合うのだ!
しっかりと反省するがいい!この『狡猾狂犬邪道熟女』が!!
春「とに・・く・・・・・・い・・」
優がボソリと何かを呟いたような気がした。
誠「え、なんだって」
春「とにかく一回死んでこぉーい!!!」

ズコォォオォ――――ン!!

『血に飢えた狂犬』、いやゴッツイ顔をした異常精神な
ワンちゃんがごとしワイアルドくんと化した田中優美清春香菜の
殺意と狂気の篭った強烈なアッパーが俺の顎部にクリーンヒットした。
どんなに鍛えた者でも強烈な強打を顎部や頭部の急所に受ければ、
全身の筋肉は弛緩してしまい意識は霧散し、そして全知覚が寸断されてしまう。
現に俺もその攻撃で多くの敵を沈めてきた。さすがの俺も顎部は鍛えきれておらず、
その狂異的一撃にノックアウトを食らってしまい全知覚が寸断され・・・・
俺は、意識を・・・失った。



そしてプロジェクト発動下準備初日がやってきた。
今、俺たちは倉成家の新居の前にいる。
倉成家の新居は町里から少し離れた場所に存在する。
これはつぐみが昼間の喧騒など、人通りが激しい華やかな場所が苦手だということ
と長い間暮らすにおいて自分達がキュレイであり、
人とは違うことをできるだけ他人には知られにくい方がいいという意図からである。
春「さて、待ちに待ったプロジェクト実行のための下準備初日がやってきたわね」
空「倉成さんに会えると思うと私、胸がワクワクドキドキソワソワしてたまりません」
桑「そういえば秋香菜は来させなくていいのか?」
春「あの子は学校もあるし、役割は計画実行日だけだから問題ないわ」
そう、もはや当然というべきだがあの後、
小なっきゅは優に無理矢理計画に参加するよう言われたのだ。
その光景は・・・・『鬼』の一言だった。詳しくは二日前の優の態度から想像してほしい。
やはり奴は目的のためには手段を選ばない狡猾邪道女だ・・・・。
誠「小なっきゅ、可哀相だったな・・・」
桑「ああ・・・」
春「うん・・・そうね」
 「けどこのプロジェクトが終わったらあの子に『お父さん』ができるんだから」
 「それまでの我慢よ」
 「よってこれはあの子のためでもあるのだから」
・・・・・・・。
本当かよ・・・。
空「クスッ・・・」
茜ヶ崎くんは『何、寝言を言っているのでしょうか、田中先生』と言わんばかりに鼻で笑った。
恐らく『倉成さんは私のものですよ』とでも思っているのだろう。間違いない。
拉致後は倉成武を巡る全面戦争勃発は確実だな、こりゃ・・・。
その時、俺は海外に逃げるが武と桑古木と小なっきゅは・・・・。
なんとかせんといかんが、俺は愛する我が肉体の一部
ともいうべき筋力トレーニング器具を人質にとられている。
仮に俺がつぐみの仲立ちでもしたら間違いなく即没収だろう。
そんな事を考えている内に優は新居のチャイムを鳴らしていた。

ピンポーン。

音が鳴り終わり、誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。
ガチャ・・・。
中からは20歳ほどの青い髪をした男が現れた。
なるほど彼が『倉成武』か・・・。聞いていた通りだな。
優や茜ヶ崎くんが惚れるのも無理も無いいい男だ。
まあ、この俺の肉体美には遠く及ばんが、その瞳を見る限り資質(?)は申し分ない。
しかし・・・・・俺はこいつを以前見たことがあるような気がする。
やはりあの時の夢、いや妄想世界で会った覚えのある男だ。
武「あれ?お前らそんな大勢でどうしたんだ?」
春「倉成、荷物・家具整理大変でしょ?手伝いに来てあげたわよ」
その時、優は善良ないい人のように友好的な笑いを浮かべていた。
だが計画を知っている俺はその笑顔の裏にある魂胆を知っている。
だからその笑顔は逆に不気味だ。
武「そうなのか。わざわざ悪いな」
 「サンキュ、みんな」
春「うんうん♪いい態度ね、こっちも手伝い甲斐があるってものよ」
空「倉成さん、お久しぶりです」
桑「よう、武」
茜ヶ崎くんと桑古木が武に挨拶をし始めている。
だがその時、俺は武の事ばかり考えていた。
俺は覚えているが、武は俺を覚えていてくれているのだろうか?
いや・・・その妄想世界には昔の優・茜ヶ崎くん・桑古木もいた筈だが
あいつらは俺と初めて会った時、知っていた素振りは全くなかった。
となるとやはり・・・・・。
武「そういや、そのマッチョな人は誰だ?」
その言葉に俺の意識は現実の世界へと引き戻される。
春「彼は石原誠ことマッチョくん」
 「彼も間接的ながらも倉成の復活に貢献したんだからね」
 「感謝しときなさいよ」
武「・・・・・・・・・」
直後、何故か武が呆然とした感じで黙り込む。
??いったいどうしたんだ?
武「・・・石原誠・・・・マッチョくん・・・」
 「ハッ・・・・」
 「まさかお前は2017年LeMUに閉じ込められた初日、加減圧室で寝た時
  に夢の中で会った記憶喪失だったマッチョな男、マッチョくんか!」
まるで覚醒したかのように見開いた瞳で武は俺に指を指し、詰め寄っていた。
春「え?あ、そういえば確かその次の日に倉成、記憶喪失のマッチョな男と
  私達がLeMUから脱出する夢を見たとか言ってはいたような気がするけど・・・・」
 「もしかしてその夢の中のマッチョな男が
  この目の前にいるマッチョくんとソックリだっていうわけ?」
武「ああ、そうだ!間違いない!」
俺の中から沸々と湧き上がる歓喜の感情が芽生え、発芽しようとしていた。
まさか・・・武は覚えてくれているというのか!?
誠「もしかして・・・・覚えてくれているのか?」
武「もちろんだ!あの時、誓い合った約束を守ってくれたんだな!」

『あの時、誓い合った約束』。
その武の言葉に俺の曖昧だった妄想世界での記憶は覚醒された。



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