Ever Never muscle of infinity 2nd
<プロジェクト発動・田中優美清春香菜の飽くなき野望>
 

                              マイキー

後編

そう、当時は妄想と気付いていなかったが2017年のLeMUに
意識が飛ばされ、記憶喪失になっていた俺はその妄想の中で
武・優・つぐみ・茜ヶ崎くん・桑古木・ココに出会っていたのだ。
みんなは当時、何がなんだがわからない俺に対して親身に対応してくれた。
そしてつぐみの『キュレイ』という聞き覚えのある発言で記憶を
取り戻し、後に俺自身がキュレイ種ではないかということも言われた。
武との熱き友情が芽生えたのもこの妄想の世界での話だ。

そして俺たちはLeMU圧潰当日を迎える。
必死の捜索後、外との通信が繋がり俺たちは
非常階段を使っての脱出が可能になった。だがその非常階段を使って
の脱出時、以前からTBに感染していたココが倒れてしまったのだ。
それに気付いた俺・武・茜ヶ崎くんが処置に掛かるが浸水が
進行しており救護室にも行けず、キュレイ種である
つぐみも既に脱出して、いないため万策は尽き果てたかに思えた。
しかしつぐみにより自分がキュレイ種かも知れないと聞かされた事を思い出した
俺は二人に自分の中にあるであろうTBの抗体を採取するように言ったのだ。
だが抗体を採取することは体力を大幅に奪われてしまい、睡眠状態に陥ってしまう。
よってこの圧潰間近のその時の状況では自殺行為だった。
当然、武と茜ヶ崎くんに反対されるが俺の固い決意に負けた武は
『ある約束』を守ることを条件に許可し、茜ヶ崎くんも許可する。
そしてココに抗体を分けた俺は浸水に飲み込まれ、意識を失った・・・・。
それまでが妄想世界での出来事だ。

そしてその前に武は俺に
『絶対死ぬなよ!また生きて会うんだからな!』と言っていた。
俺はその時、その気持ちに『俺は死なない!』と答えてやったのだ。
それが抗体を採取する前に俺が武と誓い合った『ある約束』。
かつて交わした約束だ。
そして長い歳月を経て、俺はその約束を果たせたようだ。


誠「ああ、守ってやったぞ!」
武「やはり『友情』とは不変の物で一度それが結ばれれば、
如何なる障害もそれを覆すことはできないのだ!」
「マッチョくん、やはり俺たちの友情は永遠だ!」
誠&武「『親友(とも)』よ!!」

ダキィィィイイィィィ!

俺たちは美しい不変の友情の復活に漢と漢の固く、熱い情熱的抱擁を交わした。
その光景はこの世に存在する何よりも美しかったに違いない。
そう、友情は愛情に負けず劣らず、この世界に存在する『最も美しい絆』なのだ。
空「なんて美しい光景なんでしょうか・・・」
桑「・・・・よくわからんが俺もそう思うぞ!」
春「・・・・どこがよ・・・」
 「あぁああー!男同士の抱擁なんてムサ苦しい!ムサ苦しすぎる!!」
「汚らわしい!汚らわしすぎる!!」
 「誰かどうにかしてー!!!ムキャアァァァアア!!!」
かつて見たことがあるような光景・・・・・。
だがそんなものは『人類不変の美徳の一つともいうべき「熱き友情」』
の前では脆く脆弱で無力な存在に過ぎなかった。
この美しき光景に素直に見惚れるがいい!

ガタン・・・・。

その時、何かが倒れる音がした。
その先にはつぐみとつぐみの娘と思われるツインテールにリボンをした
可愛げな少女・沙羅とつぐみの息子と思われる整った顔立ちの金髪の少年
・ホクトが目の前の光景を信じられない、といわんばかりに立ち尽くしていた。
つ「た、武!?」
沙「パ、パパ!?」
ホ「お、お父さん!?」
みるみる内に武の顔から血の気が失せていき、顔面蒼白になって固まってしまう。
その時、武の中では時が止まっていたに違いない。
沙「拙者、見てはいけないものを見てしまったでござる・・・」
 「これぞ、まさに『禁断の愛』・・・!」
沙羅は見てはいけないものを見てしまったかのようにブルブル・・・と身震いをし始める。
ホ「お父さん、そのマッチョな人の筋肉を僕にも触らせて!」
ホクトは初めて見るものに目を爛々と輝かせ、俺たちの方へと向かってくる。 
つ「武・・・・まさか『ホモ』だったなんて・・・・」
 「何があろうと、武は私を絶対見捨てないって・・・・そう信じていたのに・・・・!」
武「なっ!つぐみー!!誤解だー!!」
それから俺たちがつぐみを説得するまでに一時間程かかった・・・・。



それから俺たちは中に入れてもらい、俺と武が何故か
互いを知っていたという事を詳しくみんなに話した。
全員がその不思議な現象に神妙な顔つきをして考え込んでいた。
しかし確かに不思議な現象だ。なにより武だけが覚えていたという事がおかしい。
何故、武だけは俺を覚えていたのだろうか?
春「もしかしたらは・・・・・」
静寂の中、言葉を発したのは優だった。
武「どうしたんだ?まさか理由にわかったのか?」
一同の視線が優に集中する。
春「あくまで仮説の一つだけど・・・・」
 「それはBWが関係しているんじゃないかと思うの」
桑「BW!?そいつは随分と盲点を突いた発言だな」
春「まあ、話は最後まで聞いて」
「BWは2034年のケースでは過去、つまり2017年での錯覚をホクトに憑依する以前
  からしていたため『四次元的存在』であるにも関わらず自分が『三次元的存在』
  ではないかという錯覚を既に起こしていたんじゃないかと思うの」
「そのせいでBWが三次元世界に関与できる力は過去よりも
格段に強くなっていたんだと思うの」
 「だから2034年時、ホクトはBWと視点と重なったと同時に記憶を失ってしまった」
「だれど2017年時、BWは本来の『諦観者』、感情のない『見るだけの存在』にすぎなかった」
「つまりこの時、彼は『完全な四次元的存在』であったため
  三次元世界に関与できる力はほぼ皆無だったと思うの」
 「だから倉成や私達の視点に重なったりしても対象の視点を
  借りるに過ぎず、憑依され乗っ取られることはなかった」
「そしてここからが本題よ。恐らく私達がLeMUに閉じ込められた初日に
  加減圧室で寝た時、BWは倉成の視点と重なったんだと思うの。そしてBWと視点が重なった
  倉成は彼の透視能力によりマッチョくんの妄想に介入できたんじゃないかな?」
 「あくまでこれは睡眠状態時にBWの力の影響を受けやすい
  という仮定が成り立ってこそ成立する仮説だけどね」
 「けどマッチョくんの妄想には当時の倉成や私達も出ていたみたいだから、
  これを考慮すれば倉成だけマッチョくんの妄想を知っていた事への説明がつかない?」
今、優が言ったことを簡潔に整理すると
武は睡眠中にBWと視点と重なり、その透視能力によって
俺の妄想世界に介入できたから俺の事を覚えているということになる。
ただしこれは睡眠状態時にBWの力の影響を受けやすいという仮定
が成り立ってこそ成立する仮説というわけだ。
誠「う〜む、随分と衝突な意見だな・・・・」
武「ていうか、全然よくわからんぞ・・・・俺は・・・」
ホ「僕も・・・・」
沙「私も・・・・」
春「あくまで一仮説なんだから、そんなに考え込む必要はないわよ」
空「可能性は無きにしも非ず、と言った感じですね」
つ「そうね、これが真実かどうかはわからない」
 「けど二人共、双方の事を覚えているという事だけは事実・・・」
 「だったらそれでいいんじゃないの?」
 「これ以上、それについて考えていても仕方ないだろうし」
優の仮説が真実かどうかはわからない。
だがつぐみの言う通り、これ以上論議しても仕方がない。
平行線を辿るだけだろう。
俺は武の事を覚えているし、武は俺の事を覚えている・・・・。
それ事がわかっただけで十分ではないか。
誰かが言っていたように
『真実がどうかではなく、信じられるかどうか』
の方が大切なのではないだろうか。
そう『この目の前の事実を信じ、受け入れる』・・・・。
それが何よりも大切なのだと俺は思った。
誠「つぐみの言う通りだ」
 「俺たちは間違いなく互いの事を覚えている・・・」
 「それだけわかれば十分だろ」
武「マッチョくん・・・・」
 「ああ、そうだな。それじゃ、改めてよろしくな」
誠「ああ!」
ガシッ!
俺たちは復活した友情を確認するかのように固く、固く握手をした。
拳と拳で語り合う、とはよく言うが・・・・これぞまさにその光景!
春「うむ、よきかなよきかな♪」
空「やはり友情とは美しいものです・・・・」
桑「う〜む、何故か、何故か羨ましいぞ!」
つ「フフッ・・・」
沙「よくわからないけど、問題解決・・・だよね?」
ホ「熱き抱擁と握手・・・これが漢と漢の友情というものなんだ・・・」
 「やっぱり最高だ・・・」


それから俺たちは倉成家の荷物・家具整理の手伝いを始めた。
休憩には優特性のオリジナルブレンドコーヒーを飲ませてもらった。
もちろん彼女のこだわりにより全員ブラックでだが・・・・。
以前から俺も言われているのだが優曰く
『コーヒーにフレッシュや砂糖は邪道よ!』とのことらしい。
俺はいつも優とはイマイチ意見が合わなかったが、
これについては初めて聞いた時から激しく賛同していた。
俺的にはやはり『漢はコーヒーをブラックで渋くダンディに飲む!』
という法則を確立していたからだ。
飲んだ後、『うむ、うまい・・・!』と渋くダンディに言う・・・・・・これ限る!!
コーヒー独特の風味・渋み・深み・芳醇さ・コク・香りなどを
不純物(砂糖やフレッシュなど)により消すなどコーヒー愛好家のすることではない!
邪道だ!そう、俺はブラックコーヒーが大好きなのだ!!
とまあ、脱線してしまったがこのようにして毎日倉成家の手伝いに来て、
休憩に優特性のコーヒーを飲む。こうして優の計画は着々と進行していった。

・・・・・・・・・・・・・・。
そして予定通り、引越し後も俺たちは倉成家に遊びにいった。
優の予想通り、武たちは友好的に迎えてくれた。
だが日が経つにつれ、つぐみの警戒心だけは明らかに強まっていたような気がする。



そしてついにプロジェクト実行当日がやってきた。
俺たちは今、倉成家から500メートル程離れたところを歩いている。
ホクトと沙羅は作戦通り、小なっきゅにより外に
連れ出されているため今の倉成家は武とつぐみだけだ。
春「さ〜て♪」
 「ついに待望のプロジェクト発動日がやってきたわね♪」
先頭を歩く優は遠足を待ちに待っていた
子供のように非常に爽やかに、上機嫌な声をあげた。
あああぁ・・・・こいつは無垢な笑顔をした悪魔のようだ〜。
桑「ホントにやるのかよ・・・・」
優の後ろを歩いている桑古木は冷汗を流しながらも、
確認するかのように話しかけていた。
春「恋に燃えた女は一度やるといったら、絶対に最後までやり切るものよ!」
 「今、私は恋という麗しき可燐な炎に猛烈に燃えている!!」
桑「・・・・・・・・」(ダメだ、こりゃ・・・)
誠「・・・・・・・・」
もはや何も言うまい・・・・。
恋という感情により暴走した彼女を止められる者はもはやどこにも存在しなかった。
空「・・・・・・・・」
完璧にナチュラル・ハイ状態の優とは裏腹に茜ヶ崎くんは
少し離れたところを顔を真っ赤に高潮させながらゆっくりと歩いていた。
どうしんだろうか?
俺は速度を緩め、少し離れた彼女が来るまで待つことにした。
誠「茜ヶ崎くん、どうしたんだ?」
空「・・・・・・・・」
まるで全く聞こえていないかのように彼女はそのまま立ったままだ。
反応なしか・・・・これは声を上げた程度では反応しそうにないな。
そこで俺は彼女の頬っぺたを軽く引っ張ってみた。
グイ・・・。
空「あぅ」
彼女の頬が少し面白い感じに伸びる。
う〜む、よく考えてみればやったことなかったかもしれんな。新鮮だ・・・。
空「あ、マッチョ先生・・・」
誠「どうしたんだ?茜ヶ崎くん」
 「さっきから熱っぽい顔をして何か考えて込んでいる様子だが」
空「え!私、そんな顔していたのですか!?」
ますます顔を高潮させ、慌てる茜ヶ崎くん。
高潮していた事にすら気付いていないとは・・・すごい天然だな、茜ヶ崎くんよ。
誠「とにかく、どうしたんだ?」
 「我が魂の相談所(?)になんなりと言ってみるがいい」
空「は、はい。実は・・・・」
 「私、倉成さんにどうしても伝えたい想いがあるのです・・・」
 「それを今までも伝えたいと思っていたのですが、
倉成さんと目が合うと頭が真っ白になってしまって・・・・その・・・」
誠「なるほど、それでその気持ちを今日、どうしても伝えたい」
 「だが武と目が合うと頭が真っ白になってしまうし
優とつぐみもいるため伝えられるかどうか不安と、そういう事だな」
空「は、はい・・・」
誠「よし、ならば俺が協力してやろう」
空「え!!そ、そんな・・・よろしいのですか?」
誠「遠慮などいらん。師が愛弟子の協力をしてやるのは至極当然の事だからな」
空「ですが今日は田中先生のプロジェクト発動日です」
 「下手をすれば裏切り行為とみなされる可能性も・・・」
誠「気にするな。俺は君のような素晴らしい愛弟子のためなら
  どんな事態になろうと絶対に協力してやる!」
空「本当によろしいのですか?」
誠「漢に二言はない!」
 「絶対にチャンスを作り出し、
  茜ヶ崎くんの想いを武に伝えられるための絶好の状況を作ってやろう!」
空「――――!!」
誠「約束だ」
空「はい・・・・」
 「・・・・感激です。私、マッチョ先生のような
  優しく弟子想いな方に出会えた事を心から嬉しく思います」
誠「・・・そいつは光栄だな」
優「二人共、何してるの〜。さっさと行くわよ〜」
既にノリノリの優の声が聞こえてくる。
いい加減に戻らんとまずいな。
誠「よし。じゃあ、戻るとするか」
空「あの・・・・」
 「本当にありがとうございます」
彼女は少し照れながらも晴れた笑顔で答えてくれた。
誠「礼は想いを伝えることができてからするものだぞ」
空「は、はい!」



そして俺たちは倉成家に到着した。
いつもの様に玄関横のインターホンを鳴らす。
ピンポーン。
しばらく経ち・・・。
ガチャ・・・。

いつものように黒い服装と黒い長い髪をした女性、つぐみが出てきた。
つ「また、あなた達。最近よく来るわね」
 「まさかとは思うけど・・・・何か企みがあるんじゃないの?」
さすがにこう毎日来ていたらつぐみの警官心も強まる。
つぐみは訝しげな表情をしながら、俺たちを・・・いや優と茜ヶ崎くんを見ていた。
春「そ、そんなっ!」
 「私達は親友として倉成やつぐみ達にただ会いたいだけなのに・・・!」
 「つぐみはそんな私達のその友好的な気持ちを『プチッ』と踏みにじるんだ・・・・」
 「うぅぅ・・・・・・・酷い〜!」
『信じられない!』といった態度をした後、優はおずおずと泣き出した。
どうせ嘘泣きだろう・・・。
俺としてはプロジェクト成功のためにここまでするお前の方が信じられん。
その迫真の演技に俺は『こいつは役者としてもやっていけるでは・・・』と思ってしまう。
これならさすがのつぐみも押し負かされてしまうだろう。

しかし!
つ「ええ、『プチッ』と踏みにじらせてもらうわ」
皆「―――――――!!!」

グワシャ――ン!

俺達の中で冷たい落雷音が響き渡る・・・。
そ、そんなバカな・・・!
この懇願の泣き頼みは『冷徹無比な鬼』
でもない限り断る精神を持った者はいないはず!
だがつぐみは表情を全く変えることもなく『冷徹無比な鬼』のように断った。
そのこれ以上ない冷徹な対応にさすがの優も
衝撃の余り落雷を浴びたかのように固まっていた。
誠「・・・・・・」
春「・・・・・・」
空「・・・・・・」
桑「・・・・・・」(あ、あんた・・・鬼や・・・)
あまりのショックに放心状態に陥った俺たちは誰も声を発することはできなかった。
今、この目の前の世界が一人の『冷徹無比な鬼女』によって凍らされてしまったのだ。
世界を凍らせるすごい女・・・・。
これからのつぐみの肩書きはこれが最適だろう・・・。
武「あれ、今日も来たのか?お前ら」
 「って、おい!なんで全員放心状態なんだよ!」
 「つぐみ!お前、何をした!」
つ「別に、みんなが勝手に固まっているだけよ」
ハッ・・・いかん、いつの間にか思考が停止していた。
危うくあっちの世界(?)にいったまま帰って来れないところになるだった。
俺たちが放心している間に玄関には武も来ていた。
春「う・・・・・」
ん?どういう訳か優が柄にもなく目頭に涙を浮かべ始めたぞ。
また嘘泣きか?
それとも本気でそこまで傷ついたのだろうか?



春「うぅぅぅ・・・・・」
 「うわぁぁあぁぁん!!倉成―――!!」

なんだとうぅぅ!!
突然、子供のように泣きじゃくった優はまるで
ホクトのように武に向かって完全無防備なダイブを仕掛けていた。
その在りえない光景に俺達は例外なく衝撃を受けた。
武「ぐはぁぁぁあぁぁっ!!」
優のダイブをまともに受け、武は肺に強烈なダメージと受けると共に地面に押し倒された。
こんな時に腹筋・胸筋・足腰が強ければ、どうにかなったものを・・・・。

春「つぐみが!つぐみが!私の事をイジめるの――――!!」
 「ただ遊びに来たのだけなのに、入れてくれないの――――!!」
 「しかも私との友情を『「プチッ」とムシケラを捻り潰すように
  踏みにじらせてもらうわ』とか仏頂面で素っ気無く悪魔のように言うんだよ〜!!」
 「つぐみの鬼!悪魔!冷徹鬼!陰鬱ムッツリ根暗女!外道狂悪女!」
「うわぁぁああぁぁん!!!グダナリィ〜(倉成〜)!!」
つ「・・・・・・(プチッ)」(こいつは・・・・)
武「優・・・・とにかく、どいてくれ・・・」


3分後・・・・。
武が立ち直った後、優はつぐみの対応を詳しく武に話した。
武「なるほどな、事情はよくわかった」
 「つぐみ、仲間の大切さは以前教えただろう」
 「『仲間や友人はもちろん、客は寛大に向い入れる!』、それが我が家の法則だ」
 「だから、なっ」
つ「うん・・・」
つぐみは渋々といった感じに承諾していた。
その時、優は・・・・・
『ニヤリ・・・』と、仄かに笑っている!?
ワナワナワナ・・・・。
俺はあまりの驚愕により震えが止まらなかった。
確信した。あの『泣きダイブ』も奴の計算の内だ・・・・。
なんという狡猾さ!なんという女狐!なんという邪道策士家!
春「さっすが倉成、話がわかる♪」
予想外の事が起きても、対応策は完璧。
つまりこれは奴の製作したマニュアルの予想範囲内だということだ!
間違いない!奴は全てを計算しつくしている!!
俺はこの時、この無垢に笑う狡猾邪道女に明らかな恐怖を覚えた・・・・・。



西暦2034年5月XX日、プロジェクト発動当日。
田中優美清春香菜、巧妙な手段により倉成家進入成功。
武「ふぅ・・・・」
俺たちは今、リビングルームでくつろいでいる。
だが武は少し体調が良くなさそうだ。
誠「どうしたんだ?少し体調が悪そうだな」
武「いや、なんか最近体が微妙に痺れていてな・・・」
 「けど大したものじゃないから安心してくれ」
誠「ああ・・・」
痺れてきているだと・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
ま、まさか・・・・・・。
春「つぐみ、これお土産のコーヒー豆ね」
つ「あ、ありがとう」
 「けどいいの?こんなもの」
春「いつもただ押しかけていたら、つぐみに悪いでしょ?」
つ「なんか、悪いわね」
春「いいって、いいって。冷蔵庫にでも保存しといて」
つ「そうね」
つぐみがコーヒー豆を保存しようと冷蔵庫に向かう。
『ニヤリ・・・』。
うっ!
またしても優の小悪魔的微笑が僅かだが聞こえたような気がした・・・。

その時だった!
春「つぐみ!覚悟―!!」

ヒュッ!

罵声と共に優が白衣に忍ばせていた注射を音速の速度でつぐみに投げていた。
注射は空を切り裂くようにつぐみに向かって直線的に伸びていく!
つ「!!?」
超反射によりつぐみは間一髪、注射を避ける事ができた。
春「チッ・・・外したか・・・(ポソッ)」
つ「・・・・・・・・」
「以前から怪しいとは思っていたけど・・・・」
「ついに化けの皮を剥いだようね」
見る者を凍りつかせるような殺意の篭った冷徹な瞳。
つぐみはゆらりと体勢を立ち直すと臨戦大勢をとった。
つ「私から武を奪おうって魂胆なんだろうけど・・・そうはいかないわよ!」
春「フッフーン♪できるものならやってみなさいよ」
 「かかってきなさい!この『冷徹狂暴バンパイア女』!」
つ「ちょっと!なんで私が『冷徹狂暴バンパイア女』なのよ!」
春「フッフーン♪じゃあ説明してあげよう」
 「まず、過去やさっき玄関で断った反応から『冷徹』は間違いなし」
 「『狂暴』も過去にクヴァレで倉成の首を絞めて、
   殺しかけたというイカれた行為から問題なし」
 「『バンパイア』はバンパイアのように限りなく
   不死身な肉体を持っている上、紫外線にも弱く夜行性であること、と」
 「当初の設定ではバンパイアで冷たくて、
  ネズミを食べるっていう最悪なキャラ設定だったことからよ」
 「ついでにこれはビジュアルファンブックのP84に書いてあるから『事実』よ」
 「どう、異論の余地なしでしょ?」
つ「・・・・・・・」
 「この『狡猾狂犬邪道女』の分際で・・・・・」
春「・・・・・・・・・」
 「つぐみ・・・今、禁句をいったわね」
つ「それは私のセリフよ・・・・」
春「・・・・・・」
つ「・・・・・・」
春&つ「消えてもらうわ!!」
二人がお互いに向かって急速な勢いで飛びかかった。
さてそろそろ、止めるとするか・・・・。
俺は二人の間に割り込み、完全無比な強靭さと美を放つ
両の腕の上腕二等筋・三等筋に力を込め、二人の驚異的攻撃を受け止めてやった。

ガシガシィィィイイィ!

つ「くっ!」
春「うそっ!」
優とつぐみは自分の渾身の一撃を
我が無敵の筋肉に止められ、驚愕に打ちひしがれていた。
誠「クックック・・・・」
「我が神々しき両の腕に力を込めれば貴様ら二人の攻撃を防ぐなど造作もないこと!」
つ「まさか、ここまでの強度だなんて・・・・」
春「それよりもなんで邪魔するのよ!」
誠「それはもう武がいないからだ」
春&つ「えっ!」
俺の発言に驚きを隠せない二人は辺りを見回す。
しかしやはり武は消えていた。
春&つ「どこに行ったの!?」
見事なまでに二人の声がハモる。
俺は無言でドアの方を指差してやった。
春「倉成は外に逃げたのね!よ〜し」
つ「武を捕まえるまでは一時休戦よ、優!」
春「OK!」
つ「いくわよ!」

ドガァァァアアァア!!

二人は玄関のドアを人間離れした力により暴力的に粉砕すると
武を捜し求め、人間とは思えない強烈な速度で外の世界へと消えていった。


・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
桑「やっと静かになったな」
誠「ああ・・・・」
空「そうですね」
誠「とりあえずみんなでまったりと座って茶でも飲もうか」
空「そうですね」
俺たちは倉成家のテーブルに座り、まったりと茶を飲み始めた。
久しぶりに味わう安らぎは喉かな茶の香りによってさらに促進された。
俺たちは優のせいでここ数日全く
味わったことのなかった平和というものを肌で実感していた。
誠「平和って素晴らしいな〜」
桑「ああ、平和って最高だな・・・」
空「生き返ります・・・・」
この時、時間は平穏に流れていた。
麗らかな射光・響きわたる小鳥の囀り・新居の木の香り・満ち溢れる自然。
それが俺たちに平和と平穏の素晴らしさというものを肌で感じさせてくれた。
やはり・・・・・平和は最高だ・・・・・。

誠「ってそんな事やっている場合ではない」
 「やっとの事で『獲物を狙う、血に飢えた猛獣達』を追い出したのだぞ」
 「目的を遂行しなくては!」
 「おおーい、武―!」
リビングルームの横にある台所の
地下収納スペースからうんざりした表情の武が現れた。
武「あの二人、やっと消えてくれたか・・・?」
誠「ああ、しかし危なかったな」
 「もう少しで倉成家が火の海に揉まれるところだったぞ」
武「感謝してるぜ、マッチョくん」
 「ていうかあいつ等少しは加減を知れよな、全く・・・」
空「・・・・・・・」
武はブツブツと愚痴を言いながらなんとか台所に上がることができた。
もうわかったかもしれないが武を隠し、優とつぐみに外に逃げたと
ドアの方に指を指したのは二人を外に追い出すための罠だったのだ。
だがその行為を実行したのはある目的のためでもあった。
ある目的とは今日、倉成家に来る前に茜ヶ崎くんと約束した
『茜ヶ崎くんの想いを武に伝えられるための絶好の状況を作ってやろう!』
という約束を果たすためだ。
約束は必ず守る。それが『信じ合うという事』の
必要不可欠な条件でもあり、我が『漢の法則』の一つでもある。
そう、約束を守ることは信頼関係において何よりも大切なのだ。
誠「武、実は頼みがあるんだ」
武「ん、なんだ?マッチョくんには世話になったしな、何なりと言ってくれ」
誠「茜ヶ崎くんの想いを聞いてやって欲しいんだ」
武「・・・・・・」
武の答えはわかっている・・・。
だが彼女のために気持ちだけは聞いてやって欲しかったのだ。
それで彼女の中で武へのケジメというものがつけられれば・・・・。
武「ああ、わかった」
俺の心中を理解してくれたかのように武は答えてくれた。
誠「茜ヶ崎くん、約束は守ったぞ。あとは君次第だ」
空「マッチョ先生・・・・本当に、ありがとうございます」
誠「俺は約束を守ったまでだ」
 「これは漢として当然の行為・・・・」
茜ヶ崎くんは本当にありがたそうに深々と頭を下げた。
俺ができることはもう何もない。がんばれ、茜ヶ崎くん。

茜ヶ崎くんが武と向かい合い、互いの目と目が合う。
それと同時に空の顔が高潮し、極度に緊張し始める。
武は真っすぐな真摯な瞳で茜ヶ崎くんの瞳を捉えたまま微動だにしない。
その真摯な瞳に促され、茜ヶ崎くんがようやく声を発する。
空「倉成さん、あの、私・・・・」
「17年前からずっと・・・・ずっと・・・倉成さんの事が・・・・」
「好きだったんです!」
「どんな状況になろうと絶望せずに皆さんに勇気を与え、
自分よりも仲間の事を第一に考え、最後まで生きることをあきらめずに行動し・・・」
「時には張り詰めた空気を和ませようと皆さんを笑わせたり、
私の明らかなミスを庇ってくれたりもしてくださいました」
「そんな強く優しい、あなたの笑顔が・・・・私には、何よりも眩しかった」
「見ているだけで胸が熱くなり、自分が自分ではないようになっていました・・・」
「その時、気付いたのです・・・いつしか私はそんなあなたに恋をしていたと・・・」
「私は・・・あなたが、誰よりも好きです」
「倉成さんの小町さんへの気持ちもわかります」
「けど!それでも私を見ていて欲しいんです!」
茜ヶ崎くんは自分の想いを武に告げることができた。
だが武の答えは残念ながら『NO』だろう。
誰かを幸せにするためには誰かを悲しませなければならない。
武が茜ヶ崎くんの気持ちに応えるということになると、
必然的につぐみを捨てなくてはならなくなる。
だが武はそのような事する男ではないだろう。
もちろん武は茜ヶ崎くんの事が嫌いなわけではない、恐らく好きだろう。
だがつぐみは武にとってそれ以上に、
他の何者にも変えられないぐらい大切な存在なのだ。
誰よりも守ってやりたいのだ。
今まで味わってきた孤独感・悲しみ・辛さを癒してやりたいのだ。
非情な決断かもしれないが、恋には優しさと共に非情さも必要だ。
半端な気持ちで相手の気持ちに応えたら、
それは逆に相手を悲しませることになりかねない。
それを思うとハッキリと断る事が自分のためでもあり、相手のためでもある。
武はそういう事をわかっている。
だから武は自分のため、つぐみのため、そして茜ヶ崎くんのためにその想いを断るだろう。

武「空、お前のその気持ちはすごくうれしい」
 「俺もお前の事が好きだ」
 「けど・・・俺にはお前以上に大切な、守ってやりたい奴がいるんだ」
 「俺はそいつを放っておく事なんてできない」
 「だから、悪いけど・・・・・」
「お前の気持ちには応えてやれない」
やはり、武の返答は予想して通りだった。
空「・・・・・・・」
 「そうですよね・・・・」
 「やっぱり倉成さんにとって小町さんは他の誰よりも大切な方なんですよね」
茜ヶ崎くんは俯きながらも、力なく答えていた。
その表情からは何も読み取れない。
その時、辺りは静寂に満ち溢れていた。










だが、その時だった!


ドォッカアアァァ―――――――ン!!!


シリアスモード全開の場に・・・・・。
まるで巨大なショベルカーが正面衝突したかのような殺人的な破壊音が響き渡る。
その圧倒的破壊力に倉成家の新居には巨大な風穴ができていた。
武「グワァァァアア!!なんだ、なんだ!」
桑「家が壊れるじゃねーか!」
誠「・・・・・まさか・・・・」
空「・・・・・・・・・」
まさか奴らが・・・!!
予感は的中した。
圧倒的破壊力により壊された風穴周辺に舞う砂煙の中、
おぞましき『獲物を狙う、血に飢えた猛獣二匹』が現れた。
春「さっきはよくも嘘をついてくれたわね・・・」
つ「武!なんで私から逃げるのよ!」
春「さあ、倉成!大人しく連行されなさい!」
つ「なに勝手なこと言ってるのよ!優!」
 「そんなことさせないんだから!」
春「とにかく倉成、覚悟―!」
優が白衣に忍ばせている注射を取り出す。
武「っておい!なんで俺に凶器投げようとしてんだよ!」
 「クソッ!」
武が優の注射攻撃を避けようと必死に体を反らそうとする。
しかし!

ビリビリビリ・・・・!

武「なにぃ!体が痺れて動かんぞー!!」
春「よし!いいタイミングで『仕込み』が効いてきたようね!」
 「この痺れは倉成奪還(拉致)のために一週間前から飲ませていた
  倉成とつぐみのコーヒーだけに痺れ薬を少し入れておいたからよ」
 「そしてその効力が今、発揮されたのよ!」
武「ナ、ナンダトゥゥウゥ!!」


空『しかし田中先生。何故、プロジェクト実行まで一週間も待つ必要があるのですか?』
『荷物・家具整理の手伝いが終わった後、すぐでも問題はないかと・・・』
春『それ以上は言えないわ』
 『けど敢えていうなら、『作戦成功率』を上げるためね』
桑『なんだ、それは?』
春『ん?少し『仕込み』を・・・ね』

一週間前、優はプロジェクト実行まで一週間待つ理由を問われた時の会話。
プロジェクト発動まで一週間待った真の理由・・・・。
それは毎日武とつぐみだけに飲ませていた
『痺れ薬を僅かにいれていたコーヒー』の効力が発揮するまで待つためだったのだ!
ここまで手の込んだ事をするとは・・・なんて恐ろしい奴!!
つ「武!・・・クッ・・・!」

ビリビリビリ・・・!

武を助けようと動こうとしたつぐみにも痺れ薬の効力が発揮されたようだ。
春「どうやらつぐみにも効いてきたみたいね」
 「キュレイ種のオリジナルでもあれだけ
  外を走り回ったらさすがに痺れが効き出すでしょ」
つ「クッ・・・・まさかそこまで計算を・・・」
春「『備えあれば憂いなし』。結局最後に勝つのは『策士』なのよ」
つ「ひ、卑怯者め・・・」
春「『超一流策士家』と呼んでもらいたいわね」
 「というわけで倉成!すこし眠ってもらうわよ!」
優が武に狙いを定め、投射体制へと入る!あれは恐らく麻酔注射だろう。
トレーニング器具を犠牲にすることになるが、武とつぐみのためにも奴を止めなくては!
誠「茜ヶ崎くん!優を止めるぞ!」
だが茜ヶ崎くんはまだ俯きながら、何かをブツブツと呟いていた。
少し耳を傾けてみる。
空「そうですか・・・・倉成さん・・・・」
 「私よりも小町さんの方が魅力的と・・・」   
 「わかりました・・・どう頑張っても私を見てくださらないのですね・・・・」
 「ならば・・・・・・・」
 「あなたを殺し、私も死ぬまでです!!」
誠「ナンダトゥゥゥ!!」
何故そうくる!ってこれでは逆効果ではないか!!
空「倉成さん!死んでいただきます!」
武「なんでいきなりそうくる!待て、空!!」

キュイィィーン、キュイィィーン・・・・。

茜ヶ崎くんの目が怪しい赤い光を発し始める。
まるでターミネーターの目のような光だ。
空「赤外線レーザー出力MAX、ターゲット設定完了ロックオン・・・」
機械的かつ事務的な、しかし毅然とした口調で
茜ヶ崎くんはターゲットをロックオンし始めた。
今、まさに茜ヶ崎くんの赤外線レーザーMAXが武に照射されようとしていた。
茜ヶ崎くんと同様に周りの見えてない優も投射間近だ。
つ「た、武!」
痺れ薬によって行動不能のつぐみの懇願の叫び声が聞こえてくる。
クッ・・・こうなったら武は俺が助けるしかない!
俺は武の前に俄然と立ち尽くし、攻撃を受ける覚悟を決めた。
春「お休み!倉成!!」
空「発射―!!」
周りの見えなくなり正気を失った二人の驚異的攻撃が俺を襲う。

ドゴオオォォォ――――ン!!!

誠「ぐはぁぁ!」
ゴオオオォォォオオオオ・・・・!!
優の注射は我が腹筋でどうにかガードできたが、茜ヶ崎くんの赤外線レーザーMAX
の威力は半端ではなく俺の肉体は爆炎に巻き込まれた後、灼熱の業火に晒された。
荒れ狂う紅蓮の炎が俺の体を蝕む。
灼熱地獄、そういっていいほどの業火だった。
春「ってマッチョくん!?」 
「え―――――――!!なんで燃えているのよ!!!」
空「え・・・・燃えている?マ、マッチョ先生―――――――!!!」
正気に戻り、信じられない光景を目の当たりにした二人の声が俺の耳へと響き渡る。
俺の思いがけぬ行動を全く予想していなかった
二人の声は底知れぬ驚愕により打ち震えていた。
武「マ、マッチョくん!!・・・お、俺のために・・・」
つ「・・・・そんな・・・」
春「そ、そんなことって・・・」
空「マッチョ先生――!!マッチョ先生―――――!!!」 
桑「マッチョくん。なんて無茶をするんだ、お前って奴は・・・・」

ま、まさかここまでの威力だったとは・・・・。
いや、嫉妬と憎しみという感情により威力は何十倍にもなっている・・・。
感情の力は大きいというがこれ程までとは・・・。
徐々に意識が遠のいていく・・・。業火により体が蝕まれていく・・・。
体に力が入らない・・・。
燃える・・・燃える・・・・燃える・・・・・。
キュレイに感染していようと細胞が
燃焼されてしまってははさすがに復活する手はないだろう。
もはやこれまでか・・・・・。
これではまたあの時と同じような結果に・・・・。
みんなの声がどんどん遠ざかっていくようだ・・・・・・。
俺は、もう・・・・ダメか・・・・。


その時だった。
?「このまま燃え尽きるの?」
朦朧とする意識の中で突然『誰か』の声がしたような気がした。
誠「誰だ・・・?」
?「情けない人だね」
その『誰か』は俺の問いかけに答えずに、卑下をし始めた。
誠「なんだと?」
?「だってそうだろ?」 
 「自分で勝手に飛び込んどいて勝手に死ぬなんて、いい迷惑だよ」
その『誰か』の体は光体に包まれており、姿を判別することはできない。
だが俺は突然現れて、卑下をし始めたその『誰か』に怒りを覚えていた
誠「なに?貴様、さっきから言いたい放題・・・」
?「だってそうだろ?残された人の身になってみなよ」
 「例えば武はせっかく君と再会できたのに、身代わりになって
  死なれたんじゃあ、これからどういう気持ちで生きていくと思う?」
その『誰か』は俺の言い分など無視するかのように話を進めていく。
誠「それは・・・・」
?「それに空なんかは一生、君を殺してしまったという自責の念を
  抱いて生きていかないといけないことになるんだよ」
 「彼女はそんな重荷に耐えられる程、強いと思う?」
誠「けど、あの状況じゃ他にどうしようがあるっていうんだ!」
 「俺が庇わなかったら武が空の攻撃を直撃していたんだぞ!」
?「今度は言い訳?それとも責任転嫁?勝手に行動しといて無責任な人だね」
 「何が『究極の肉体美と強さを追い求める身』だか・・・・」
 「それが『究極を追い求める者の強さ』?笑わせるね」
誠「貴様・・・!」
俺はその『誰か』を掴み掛かろうとした。
だが俺の腕は虚空を切るだけだった。
誠「クッ・・・!」
こいつはいったい何者なんだ・・・!
まるで実体がないかのようだ。
待て・・・実体がない?まさか・・・こいつは。
?「君、さっき他にどうしようがある、っていったよね」
誠「ああ、言ったさ」
?「君の行動事態は別に間違っていない。友の盾になる、立派な行為だ」
 「だが僕の言っていることはそんなことじゃない」
誠「なに?」
?「勝手に盾になったくせに今、勝手に死のうとしていることをいっているのさ」
誠「!!」
?「自分の意志で行動したんだったら、最後まで責任持ちなよ」
 「武や空たちを悲しませ、重荷を背負わせないためにも・・・・」
誠「この窮地を切り抜け『生きろ』といいたいんだな」
?「やっとわかったんだね。そう、僕が言いたいのはそれだけだよ」
 「それじゃ・・・」
そう言うとその『誰か』は姿は自然と消えていた。


意識が現実へと戻る。
俺の体の周りには灼熱の業火が纏わりついていた。
さっきの現象がなんだったか?
そんなものは考えてもわかるはずがない。
だが、これだけはいえる。
このまま朽ち果ててしまうわけにはいかない!
武とやっと再会できたではないか。
それにこのまま死んでしまってはさっきの『あいつ』が言っていたように
茜ヶ崎くんはこれからの長い人生で一生、俺を殺してしまった
という自責の念を抱いて生きていかなければならなくなる。
俺の知る限り、彼女はそんなものに耐えられる程強くはない。
優しく、繊細で、責任感が強すぎるがために
その自責の念をいつまでも引きずってしまうだろう。
これは俺が自らの意志でとった行為・・・・・。
彼女にそんな重荷を背負わせるわけにはいかない・・・!!
そう、俺は燃え尽きるわけにはいかない!
ならばこの窮地を打破し、生還してやるしかないのだ!
彼女のこの赤外線レーザーの威力が嫉妬と憎しみという感情により増大されたのなら、
俺は彼女に重荷を背負わせないためにも、生への渇望と鍛え上げた肉体への自信
という感情と気持ちを増大させ、自らの限界以上を出し切るのみ!!

その時、俺の中で何かが吹っ切れた。
俺は超速で肉体を回転させ、それによって生じた驚異的な突風よって炎を掻き消した。
現実的には不可能かに思える。
だが生への渇望と鍛え上げた肉体への自信という感情と気持ちが
俺の潜在能力を極限まで引き出したからこそ出来たのだ。
スポーツなどではよく言うが『気持ちの力』は凄まじいものなのだ。

誠「我が筋肉、業火をも打破したり!!」
 「よって『我が筋肉は万物に勝る!!』」
業火を打破した俺は限界を超えた喜びと共に魂の叫びをあげてやった。
空「マッチョ先生――――!!」
茜ヶ崎くんは俺が助かったという喜びと共に
俺の元へと駆けて来て・・・・とびついた。
俺はそれをしっかりと受け止めてやる。
空「本当にごめんなさい・・・私・・・私・・・・」 
 「あの後、目の前が真っ白になってしまって・・・気が付いたら・・・」
 「・・・ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・」
彼女は俺の逞しい胸に顔を埋め、涙を浮かべながら何度も謝っていた。
結局、さっきの『あいつ』に助けられたことになったな・・・。
誠「もういい、わかればいいのだ。茜ヶ崎くん」
空「はい・・・」
武「マッチョくん、また助けてもらったな・・・・」
誠「何をいう。友情とは不変の物で一度それが一度結ばれれば、
如何なる障害もそれを覆すことはできないものではないか!」
 「武を助けたのは親友(とも)として当然の行為だ!」
武「やっぱりお前は最高だぜ!マッチョくん!」

ダキィィィィイィ!

俺たちは三度、漢と漢の熱き抱擁を交わしていた。
皆「・・・・・・・・・・・・」
だが他の一同は静まり返っていた。窮地を脱し、
復活したこの俺に対してなんと不仕付けな対応であろうか。
誠「貴様ら、なに茫然自失とした態度で俺を見ているのだ」
春「マッチョくん・・・・君、本当に人間?」
つ「本当に、信じられないわ・・・・」
桑「俺もこうしていつかココと・・・!!」
誠「まあ、我が肉体は筋肉質であるため脂肪はほとんどないからな」
 「燃える成分が格段に少なかったことも生還理由の一つであろう」
春「い、いや・・・そういう問題じゃなくて・・・」
 「まあ、無事ならいいんだけど・・・・・」
優はいろんな意味で呆れながらも、安堵した口調で答えていた。
俺は再び優の方を見つめた。
これ以上、不毛な争いを起きないように言わなければならない事があるからだ。
誠「優よ。武はつぐみを選んだ」
 「やはり俺は自らの願望だけで他人の事を考えず
  に行動するのはどうかと思うのだが・・・」
春「・・・・・」
「ふぅ・・・わかったわよ。もう倉成とつぐみの邪魔はしない」
誠「本当か?」
春「うん・・・本当は倉成のつぐみへの気持ちはずっと前からわかっていたしね」
 「けど、どうしても振り向いてもらいたかった・・・!」
 「だけどこんなやり方で倉成を自分のものに
  しようってこと事態が間違いだったんだよね・・・」
 「ごめんね・・・みんな、こんなプロジェクトに参加させちゃって・・・」
空「田中先生・・・・そんな・・・」
誠「お前が自分のやり方の間違いに気付けただけで俺は十分だ」
桑「柄にもないこと言うなよ」
 「これでも俺はお前の片腕だからな。どこまでもついていってやるよ」
春「みんな・・・・ありがとう」
優のその言葉は本当に誠意と感謝の気持ちが篭ったものだった。
これならもう今後、今回のような事を仕出かす心配はないだろう。
視線を彷徨わせると少し離れたところに武とつぐみがいた。
つ「武・・・・本当?」
武「ああ、俺は一生お前の元を離れたりしないよ」
 「いつまでも、一緒にいような」
つ「・・・・・・・」
 「武・・・・・・うん・・・」
それから二人は互いの気持ちを確かめるかのように互いに抱きしめ合い、
そして・・・・・。
優「・・・・・・・」
空「・・・・・・・」
その光景に優と茜ヶ崎くんは思わず目を背けてしまう。
無理もない・・・・。
武「あと、優・空」
 「お前達の気持ちにはすごく嬉しいけど、応えてはやれない」
 「俺にはこいつを放っておく事なんて、できないだ・・・」
優「・・・・・うん・・・」
空「・・・・・はい・・・」
武「でもな、それでも俺はお前達を大切な親友だと思っている」
 「だから相談があったらいつでも応じるし、会いたければいつでも会い来たらいい」
 「お前達とは一生をかけての長い付き合いになるだろうからな」
 「だから、これからもよろしくな」
武は真摯な瞳で二人を見つめながらそう言った。
優「うん、ありがとう倉成」
空「はい」
二人共まだ気持ちの整理はつけらていないだろう。
だが武のその気持ちは二人に伝わっていた。
どうやら問題は解決し、丸く収まったようだ。
空「あの・・・マッチョ先生・・・・」
彼女は俺のTシャツを引っ張りながら俯き加減に言っていた。
誠「どうした?茜ヶ崎くん」
空「倉成さんへの気持ちの整理は正直・・・・・まだ、つけられたとは言い切れません」
 「これから自分がどうしたいのかも、今の私にはわかりません」
 「だからって都合のいい話かもしれませんが・・・」
 「自分の歩き出す『道』がわかるまで・・・・」
 「私の傍に居て、支えになってもらえませんか?」
誠「・・・・・・・・・」
彼女は真摯な瞳で俺をまっすぐに見つめていた。
自分が振り向かせたい相手を振り向かすことは叶わぬ願いだという事を悟ってしまい、
自分のこれから歩むべき道がわからない不安さ・・・。
そんな気持ちが痛いほど伝わってきた。
師として俺の事を信じ、頼りにしてくれているのだ。
ならば俺は・・・・・その気持ちに応ええ、支えになってやろう。
そう俺は決断した。
誠「ああ、構わないさ」
 「なんならいつまでも居ても構わない」
 「人生の岐路というものには誰しもぶつかる」
 「そこでどのような決断をするかで人生は大きく左右させるものだ」
 「だが焦る必要などない」
 「自分が納得し、後悔しない答えを見つけられるまでじっくり考えればいい」
 「君に残された時間は限りなく長いのだから」
空「はい!」
その時、彼女は満面の笑みで応えてくれた。
自分の気持ちに相手に応えてもらえないのは想像しがたい程、痛く悲しいことだろう。
だが悲しいからといっていつまでも立ち止まっていてはいけない。
時間はそんなことなど関係なく非情にも流れていくものだ。
終わったことをいつまでも悔いていても何も始まらない。
ならば・・・・その行く先がわからずとも立ち上がり、前へ進むしかない。
行く先が定まっていないのなら歩き出しても無意味かもしれない。
だが・・・・止まってはいない。未来へ向け確実に第一歩を踏み出せてはいるのだ。
行く先は進みながら考えればいいのだ。その先には何かが待っているだろうから・・・。

そして彼女は悲しみを乗り越え、未来へ向け確実に第一歩を踏み出した。
その行く先はまだ定まってはいない。だが、歩き出してはいる。
ならば行く先は進みながら決めればいいのだ。
その先には何かが待っているだろうから・・・・。
そして俺は・・・・そんな彼女の支えになってやりたい。
濃厚な霧がかかったような前の見えない道・・・・・・。
今は何も見えない・・・だが、霧はいつか必ず晴れる。
自分のこれから歩き出す道というものを求め、彼女は俺という支えと共に、歩き出した。



<後書き>
毎度ながらの長編を最後まで読んでくださってありがとうございます。
前回の「Remodel Project」がかなり黒かったので
今作はそういったものをかなり落としてみました。
といっても黒描写はありましたがね。(汗)
けど十分許容範囲内と思います。(たぶん・・・)(笑)
今作もSSはギャグ中心ながらもラストは結構シリアスにいかせてもらいました。
物語終盤のマッチョ誠が意識を失いかけた時に出てきた
『?』は皆さんもおわかりかと思いますが〇Wです。
それまでマッチョ誠の復活要因が弱かったので送信前日に追加しました。(笑)
そのため、多少強引に思うかもしれませんがお許しを・・・。
他にウィークポイントは誠の過去や現状の説明が長すぎたところと
武が誠を知っているという展開が多少の強引なところがですかね。(他にもアリ?)

ギャグの方は私のSSでは御馴染みのマッチョ誠の筋肉ギャグと魂の叫び
あとは優春の恐ろしいがまでの狡猾さ・邪道さ・空の様々な感情(?)などを
中心に楽しんでいただけたなら幸いです。(優秋がかなり不憫ですが・・・・)
あと今作は前作と繋げましたが、それは武と誠の有好度が
高い方が物語をスムーズに進めやすかったからです。
そのため矛盾点を生み出さないため、二人が共に知っている
理由の一説についてBWを交えさせたりして説明してみました。(かなり強引!?)
けどアレは読者を納得させるための説明のつもりなので
あまり気にせずに、といったところです。
個人的にはあまり突っ込んでもらわない方が都合がいいかと・・・・。(逃げる奴)
まあ、結局は読み終わってみて読者の方が楽しめたのなら私としては幸いです。

あとしばらくSSの活動は停止しようと思います。
マチョSSもネタが尽きてきましたし、新学期からはいろいろと大変になりそうですから。
けどまた暇ができ次第、あるいはネタが思いつき次第書きたいと思います。
というわけで、それでは〜。


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