『今、とどく想い・・・〜springlike tender〜』 櫻条 紫希 |
いくらか落ちついた気がした・・・。 気がする、だけなのかもしれないが、 少なくともいきなり血を吐くという気配はなかった。 ━ Tief Blau 2017-Rev.17 〜ティーフブラウ〜 ━ こいつには本当にいろいろ苦しめられたものだ。 ココの体調不良から始まり、TBに苦しめられつづていたIBFのオッサン・・・。 そして俺達全員が感染しているという事実。 ・・・でも、つぐみのおかげで今はいくらか楽なんだ・・・。 抗体をうったからといってすぐに良くなるわけじゃない。 今俺は深い眠りの中をさまよっている。 他の皆もそうなんだと思う。 疲れていないはずがない。 今の俺の意識は夢の中のものだろうか・・・。 ・・・夢、か・・・。 今まで起きてきた凄まじいほどの数々の出来事は悪夢って感じがする。 でもそれは現実だ・・・。 悪夢に等しい現実・・・。 だが、今の俺達はその悪夢を打ちやぶ・・・ 『・・・ビィー・・・ザザザー・・こち・・・ザー・・・』 ふいに何かの雑音を耳にし、目が少しずつ覚めていく。 「な・・んだ・・・?」 『こちらインゼル・ヌル・・・』 「なんだって!?」 俺は通信装置のある所へ駆け寄った。 体は少しずつ楽になってきている気がする。 「こちらIBF・・・・」 ――――――。 「そうか・・・これでやっと助かるわけだな」 通信はむこうが一方的に切るかたちで終わってしまったが、連絡はとれた。 ・・・だが、俺の目に入るモノでなにか足りないモノがある。 「・・・なにかが・・・違う・・・」 ここを漂う空気・・・今感じている雰囲気・・・。 「・・・つぐみッ!?」 足りなかったモノ、それはつぐみの姿だった。 俺はダッシュで走り始めようとした。 ・・・しかしその瞬間・・・ 「・・・ぐッ!」 膝がガクッと折れ、床にひざまずき、ゲホゲホとせきこんだ。 幸い血は出てこない。 だが見えない何かが身体を圧迫し動かなくしている。 そして、俺の意識は途絶えた・・・。 (ここは・・・どこだ・・・) まだ意識はあった。 どうやら死んではいないようだった。 (・・・なにも・・・見えねぇ・・・) そこはどこか・・・。 目の前は、黒・・・黒・・・黒・・・。 (・・・夢・・・か・・・?) 今の意識は夢の中のもの。 今もさっきのように俺は眠りの中をさまよっていた。 (・・・5月1日から数えて7日間・・・) (ホントいろいろな事がありすぎた) (でも、今確かに・・・生きている・・・生きているんだ・・・) 夢の中の意識はしばし沈黙にひたる・・・。 (そういえば・・・) さっき連絡のとれた救援隊は来てくれただろうか。 そう、これさえ来れば皆助かる。 これで俺は誰一人死なせずに無事脱出できるわけだ。 ここにいる全員が・・・。 ・・・・・・。 なんだ、この違和感に似た感じは・・・。 ・・・・・・・・・・。 ここにいる・・・全員・・・・・・ここにいる・・・? ・・・・・・・・・・・!!! そして俺は目が覚めた。 抗体が効いてきたのか、体はかなり楽になっていた。 ・・・しかし・・・。 俺は体を動かす気力が失われていた。 目の前に広がる草、木、花、空、海・・・。 「どういう・・・ことだ・・・」 そよ風が頬をなでている。 呆然と立ち尽くしていた。 まだ今の状況が理解できない。 ・・・いや、自らこの状況を信じたくない、そんな気もする。 でもまて、もしちゃんと全員助かったという事なら良い事ではないか。 確認するまで確信するな。 そう自分に言い聞かせ、一歩歩き出した。 木漏れ日がさしこむ木々の下を歩いている。 この時の俺の頭の中は、信じがたい悪い場合の考えと、 まだ可能性を信じる考えが入り混じっていた。 確認をとろうにも人が見当たらない。 「・・・倉成・・・」 ふいに背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。 「・・・優・・・」 振り返った俺は優が無事だった事に一安心した。 ・・・だが気になる事がある。 あの事だけは確かめなくてはならない。 「・・・なぁ、優・・・他の皆は・・・どうしてる・・・」 単刀直入には聞かず遠まわしに聞いていた。 やはり自分でも信じたくないでいることがわかった。 「少年とココは救護室で安静にしてる・・・」 冷静に事を伝えているようにも見えるが、優の顔はくもっている。 そして続きを話す事なく口を閉じた。 「・・・つぐみは・・・つぐみはどうしているんだッ!?」 優の視線がそれた。 その行動が意味するもの・・・。 「・・・なぁ・・・優!・・・つぐみはッ!?」 もう一度感情的に問い詰めた。 自分でもわかる。 今の俺はあきらかに平常心ではない。 だが・・・落ちつく事なんてできそうにない・・・。 「つぐみは・・・」 ゆっくりと口を開ける。 異様な空気に一瞬つつまれ・・・、 「・・・つぐみは・・・っ、・・・救援隊の潜水艇には・・・乗せられていなかった・・・」 声を押し殺しながら真実を告げた。 その瞬間・・・。 心の奥底に抑えこんでいたものがどんどんあふれあがってくる。 俺の頬に一筋の雫が流れた。 ほぼ放心状態の俺は無意識に数歩歩き・・・、 『ドカ』 そこにあった木を殴った。 一枚の葉が顔の横を落ちていく・・・。 『ドカ』 もう一度殴る・・・。 俺に意識はまだ戻らない。 『ドカ』 放心状態のまま木を殴り続ける・・・。 『ドカ』 「・・・ち・・ちょっと・・・倉成・・・」 近くで誰かが喋っている気がする・・・。 それは誰だ・・・? つぐみ・・・? いや・・・つぐみは・・・。 「ちくしょー!!」 『ドガッ!』 現実を認めてしまった俺は荒れ狂った。 顔には雫の流れた跡がひとつ、またひとつと増えていく。 『ドガッ!』 今は何も考える事ができない。 つぐみを助ける事ができなかった・・・これを除いて・・・。 あいつだけはなんとしても助けたかった。 助けたいと思った。 自ら死を望んでいたあいつをなんとしても助けたかった。 生きるという事がなんなのか示したかった。 あいつを生きたいと思わせたかった。 ・・・だが・・・。 『ドガッ!』 あいつは・・・俺の立っているこの地の上には・・・。 『ドガッ!』 『ドガッ!』 手は痛みを感じなくなっていた。 だが少しずつ赤くなっていく。 『ドガッ!』 それでも俺は殴り続けていた。 非情な現実が原因じゃない。 自分で自分がゆるせなかった。 『ドガッ!』 『ドガッ!』 もう指の骨一本は折れているかもしれない。 二本かもしれない・・・三本かもしれない・・・。 だがそんな事かまわず殴り続ける。 ・・・・・・・。 俺の手は止まっていた・・・。 目の前にはオレンジ色が広がっていた・・・。 そして感覚を失ったはずの手に・・・温もりを感じた・・・。 「・・・倉・・・成・・・・」 木漏れ日が目の前のオレンジ色を照らし、光り輝く・・・。 「・・・こんなことしても・・・何にも・・・ならないよぉ・・・」 聞こえてきた声は震えていた・・・。 「倉成のせいじゃ・・・ないよ・・・」 俺を包む温もりも震えていた・・・。 「・・・誰のせいでもない・・・誰か一人が悪いわけじゃ・・ないよ・・・」 しだいに俺から力が蒸発していった。 左手はだらんと下がっている。 右手には今も温もりが伝わっている。 そして・・・最後の雫が俺の頬から落ちていった・・・。 ―――――。 俺と優は隣り合わせに座っていた。 今の俺は落ちついている・・・。 「・・・優・・・」 二人で海と空がつながる水平線を見ている。 広大な海の上に小さな船が浮かんでいた。 澄み渡る空の中にカモメが一羽飛んでいた。 「・・・ありがとう・・・」 お互い水平線を見たまま動かない。 声だけが聞こえてくる。 「・・・うん・・・」 一言一言確認するようにお互いゆっくり喋る。 今のこの状況を頭で理解し心で受け止めていた。 「・・・倉成・・・」 今度は優から口を開けた。 「倉成は・・・私の事何ともおもってなかっただろうけど・・・ 私、倉成の事ずっと・・・・」 ―――――― 優 ―――――― 本名、田中優美清春香菜。 その長く変わった名前と元気な姿が第一印象だった。 辛気臭い雰囲気に包まれた時も持ち前の元気で場を明るくさせていた。 少し猪突猛進なところがあるが、 要領も悪くなく面倒見が良い感じで、場をまとめていた気もする。 しかしその元気の裏にある真実・・・。 ・・・LeMUへ来た本当の目的・・・。 ・・・・・。 あの元気、強さはどこから来ていたのだろうか・・・。 ・・・・。 ふと考えてみると、無意識ながらも彼女の事を意識していたのかもしれない。 となり合わせで座ってからずっと彼女の事が頭の中をめぐっている。 ずっとめぐり続けていた・・・・。 ――――――――。 「ずっと・・・好きだったんだよ・・・」 風が頬をなでる。 俺は何も言わず、前に広がる海を見ていた。 隣から人の気配が消えた。 「・・・私・・・少年とココの様子見てくるね・・・」 背後から聞こえてきた声。 そして俺のまわり数十メートルから人の気配がなくなる。 静かに小鳥のさえずりが聞こえている。 風になでられた草木の葉の音が聞こえている。 ・・・そして、また彼女の事が頭にうかぶ・・・。 ―――優、優しさ・・・。 少し前までは不器用な感じだがしんのある優しさを持っていた。 そして今は暖かみのある、なにもかも包んでくれる優しさがあった。 ―――美、美しさ・・・。 がむしゃらにしている時は気がつきにくかったが、 彼女には彼女らしいまっすぐな美しさがあった。 ―――清、清らかさ・・・。 苦しみ、悲しみを背負いながらも、まわりを安心させる独特な雰囲気と、 純粋で清らかな強さをもっていた。 ―――春、四季の始まりの春・・・。 春という季節があらゆるものを育むように、 彼女の春からもそんな暖かみ感じた。 ―――香、香り・・・。 においとは目に見えないものだけど、 彼女の香りはそれだけで彼女を感じる事ができた。 ―――菜、菜の花・・・。 黄色にさきあふれるこの花と同じように、 たくさんの元気をふりまいていた。 彼女の長い名前一つ一つが俺の心にしみついていく・・・。 『・・・ずっと・・・好きだったんだよ・・・』 俺は立ちあがって救護室へ向かった。 そして救護室の前に立つと、滑らかな音と同時にドアが自動で開いた。 ・・・しかしそこには彼女の姿はなかった。 ベッドの上に少年とココが横たわっている。 顔色がかなり良かったので安心した。 そしてふいに光がさしこむ窓を見てみると、 その先にはオレンジ色の髪をした人がいた。 ・・・俺は急いでそこへ向かった・・・・。 ―――――――vvvv―――――――* 「やっぱり私じゃ・・・ダメかな・・・」 空を見上げながら無理に笑顔をつくろうとしていた。 身体が震える。 「私じゃ・・・彼を支えることは・・・できないのかな・・・」 無理してつくった笑顔から一筋の涙が流れ出た。 「彼が必要としてるのは・・・・」 無理してつくった笑顔がくずれた。 それと同時に涙があふれてくる。 時々涙が口の中に入る。 しょっぱかった。 それとともに悲しい味がした気がした。 でもその時・・・。 「・・・優っ!!」 背後から・・・彼の声が聞こえてきた・・・。 *――――――vvvv――――――― 「・・・倉・・・成・・・?」 目の前にいる彼女はこちらを向かず、背中を向けたまま喋りかけてきた。 「あぁ・・・倉成 武だ・・・」 「なにしに来・・・っ」 俺は彼女をそのまま後ろから抱きしめた。 彼女がしてくれたようにやわらかく包んだ。 震えているのが伝わってきた。 「どう・・・して・・・」 震えた声が耳に聞こえてくる・・・。 「好き・・・だからだ・・・」 包み込んでいたものがビクッと動いた。 と同時に俺を振りほどき何歩分か距離をとって振り返った。 「・・そんなのおかしい!・・・だってあなたが必要としているのは・・・」 いつも元気だった顔は、今は涙によって隠されていた。 「・・・自分でもわからない・・・だけど俺にとってあいつは・・・、 あいつは守ってやりたかった・・・そう思っていただけだ・・・」 「うそっ!!」 うつむきかけた俺は優の声で再び顔をあげる。 「うそ・・・か・・・。たしかにあいつを・・・つぐみを気にしていたときもあったかもしれない・・・。 だけど今はそれ以上に気になるヒトがいるんだ」 「・・・え・・・」 優の顔は戸惑っているように見えたが、俺は真剣な顔のまま話を続ける・・・。 「俺じゃあ・・・優を悲しみから守ってやることは・・・できないのか?」 「悲しみなんて・・・」 「俺、なんとなく気がついたんだ・・・優の父さんについて・・・」 二人の間で時が止まった。 そして・・・。 彼女は俺に抱かれ泣いていた。 今まで誰にも見せることなくためてきた全ての涙が流れていた。 ひとしきり流れていた涙が止まった時、 俺達は静かに唇と唇をかさねた・・・・。 ―――――。 あれから数年後の春・・・。 俺達はあの時と同じ場所を訪れていた。 「・・・なつかしいな・・・」 「・・・そうね・・・」 俺の隣にいる人物はあの時とは違い、少しおっとりした感じになっている。 「・・・ファーストキスもここだったかな・・・」 「・・・あんなのイヤ・・・しょっぱかったし・・・」 「それはお前の涙の味だ」 「なんかはずかしいからそれ言わないで」 そして風がふく。 少し伸びた彼女の髪がなびく。 (・・・つぐみ・・・) (俺はお前の分も生き続けるから・・・) (生きてる限り生き続けるから・・・) 心の中でつぶやいたその言葉は、 聞いた事はなかったが、身に覚えがある気がした。 (あ、この台詞はいつかあいつに言ってやろうと思ってたんだっけな) 「倉成、そろそろ行こうか」 「いまだに名前では呼ばないんだな」 俺は優と・・・優美清春香菜という一人の女性と共に、生き続ける。 「今はまだ倉成でいいのよ」 今の彼女は笑っていた。 なにも悲しみを感じさせない笑顔・・・。 俺は彼女を守れているだろうか。 「・・・まぁどちらでもいいかな・・・お前と一緒なら・・・」 彼女の優しさ・・・それは全てを暖かく包み込む、 ・・・春のような優しさだった・・・・。 |
一言(?):
『えー・・・これは櫻条 紫希のEver17のSS第2弾ですね・・・。
長いですね・・・・( ̄▽ ̄; ここまで読むには少し覚悟してないと、途中で飽きてしまうかもしれませんね(^^; (でも文章一つ一つが短いから楽かな?) まず、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。 (後書きだけ読んでるなんてことはありませんよね♪w) そして次に・・・、つぐみ好きな方スイマセンでした(汗 勝手にあのようにしてしまって・・・(−−; あとはホクトと沙羅好きな方にもスイマセンでした。 つぐみがああなると二人は存在しないことになりますから・・・ ・・・あと、優秋も雰囲気的に登場しないかも(何
最後に、優の名前の感じ方ですが、アレ大半はテキトーなんで(;´∀`) やっぱり文章とか描写とかetc...とか、ヘタですねぇ・・・。 精進せねばぁぁぁぁ・・・・。
p.s.このSSの題名は
「大半がテキトーであり、ダジャレっぽい要素も入っており、
さらに微妙だけど話に関係してるんですか!?」
って感じを持つでしょうね(謎
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