〜防衛と挑戦と奇襲〜
                              TARO

※つぐみファン及び空ファンを敵に回しかねない表現が含まれております。ご注意下さい。





「ごめんください」
「ったく、誰だよ。日曜日の朝から…って、もうすぐ昼か。よう、空じゃないか」
「おはようございます。ひょっとしてまだお休みでしたか?」
「いや、そろそろ起きようと思ってたんだ。ところで今日はどうしたんだ?うちに来るなんて珍しいじゃないか」
「はい、仕事が一段落着いたのでお休みを頂いたんです。田中さんも学校がお休みで、先生も久しぶりの休日だそうですから、今日は三人でゆっくり過ごそうと思いまして」
「あの母娘と同居は大変だな。こき使われているんじゃないのか?」
「そんなことはないですよ。とても良くして下さいます。それで、せっかく揃っているのでいつもより腕を振るって昼食の支度をしていたのですが、お二人とも用事があるとかで出掛けてしまわれたんです」
「そういやホクトがデートに誘うのに成功したって言ってたな。散々断られた挙句、結局沙羅も一緒に連れて行くという条件で手を打ったらしいが」
「でも、いつもより時間をかけて念入りに支度をされていました。気の無さそうな振りをしていても、やはり本当は嬉しいんですよ」
「そんなもんなのか?」
「そういうものなんです。田中先生は急ぎの用が入ったそうなので、結局昼食が浮いてしまいまして。もしよろしければ召し上がっていただこうと思って、こうしてお持ちしたんです。武さんのお口に合うかどうか分かりませんが…」
「本当か!?実は起きたばっかりで腹が空いてるんだ。自分で作るか何か買いに行こうかと思ってたんで、本当にありがたい。遠いのにわざわざありがとうな、空。…あ、悪い。玄関で立ち話もなんだし、せっかくだからあがっていけよ」
「では、お言葉に甘えまして…」
「ちょっと待った」
「うわ、つぐみ!まだ寝てたんじゃないのか?」
「起こしてくれなかったのは誰よ」
「起こそうとしたら殴る蹴る首絞める関節極めるで、力の限り抵抗したのは誰だよ。俺は命の危険を感じたぞ」
「そんなことはどうでもいいの。それより空」
「何でしょう?」
「今言っていた事は本当?」
「しっかり起きて聞いてたんじゃねーか」
「仰っている意味が分かりません」
「私が聞きたいのは、どうして無駄になるはずの昼食の準備が、豪華漆塗り重箱五段重ねの弁当に化けるのかということよ。初めから弁当用に作ったとしか思えないんだけど?」
「考えすぎですよ、小町さん。私はただ、せっかく作ったものがもったいないから、武さんに食べて頂こうと思って、こうして手近な容器に詰めてきただけですから」
「ふーん。田中家では毎食そんな量が出るんだ」
「お料理って楽しいですから、ついつい作り過ぎてしまうんです。小町さんはそうじゃないんですか?」
「ああ無理無理。うちの食事は俺の担当なんだ。つぐみは朝は起きないし、それ以前の問題として、たまに料理をしても…」
「余計なことは喋らないの。それで?お裾分けの為だけに、休日の午前中にわざわざ電車と地下鉄とバスを乗り継いでここまで来たの?遠路はるばるご苦労なことね」
「はい。おかげですっかり冷めてしまいました。お弁当ですからそのままでも構わないのですが、中には温めた直した方が美味しいものもありますから、台所をお借りできますか?」
「…」
「…」
「…まぁ、こうしていても仕方が無いし、とりあえず上がらないか?もう腹が減って腹が減って…」
「武さんもこう仰っていることですから、それではお邪魔しますね」
「待って。もう一つ聞きたいことがあるわ。空。いつからあなた、『武さん』なんて親しげに呼ぶようになったの?」
「武さんは武さんですから。そうお呼びしても問題は無いはずですが」
「…腹が減ったんだが…」
「以前は『倉成さん』だったわよね。どういう心境の変化かしら?」
「どちらかと言えば変化したのは環境ですね。皆さんが一緒に暮らされるようになって、ホクトさんも沙羅さんも倉成の姓を名乗られるようになりましたから、『倉成さん』では誰のことか分からないでしょう?」
「だったら私だけ『小町さん』のままなのはどうして?」
「あら?そういえば不思議ですね」
「…」
「…」
「…分かったわ。そちらがそのつもりなら、こちらも相応の覚悟でお相手するべきでしょうね」
「いいんですか?そんな怖い顔をしていては武さんに逃げられてしまいますよ」
「大丈夫。俺はもう慣れてるから。それよりも飯…」
「丁度いい機会だわ。いつかあなたとは話をつけておく必要があると思っていたの」
「そうですか?私は別に構わないのですが」
「大した余裕ね。けど忘れたの?ここはLeMUじゃない。得意のRSDは使えないわよ」
「まぁ、どうして私が小町さん相手にわざわざRSDを使わなければいけないのですか?」
「飯…」
「…その余裕がいつまで続くかしら。いい?これが最後通告よ。怪我なんてしたくないでしょう」
「そうですね。私が怪我をしたら皆さんが悲しまれます。それに、私もこの身体には愛着があります」
「懸命な判断ね」
「ええ。だって、武さんに抱きしめられた時に感じた温かさは、今でもこの身体が覚えていますから」
「…何て言ったの?今」
「あ、いけない。これは武さんと私の二人だけの秘密でした。すみません、聞かなかったことにして頂けませんか?」
「………武!これは一体どういう…あれ?」
「もちろんそのままの意味です。そうですよね武さん……武さん?」
「武!隠れていないで出て来なさい!」
「武さん、どこに行かれたんですか?」


「悪いわね、たいしたものじゃなくて」
「いや、今日は天気もいいし、公園のベンチでホットドックとコーヒーってのも悪くない。いつも昼はこうなのか?」
「時間が無い日だけ。今日は用事がキャンセルになったから忙しいわけじゃないんだけど、いつも一人で味気ないから、たまには誰かを誘おうかと思ったの。付き合ってくれてありがとう、武」
「礼を言うのはこちらの方だ。連れ出してくれなかったらあやうく餓死するところだった。サンキュ、優」
「大げさね。そんなに大変だったの?」
「ああ。あの二人はひょっとして仲が悪いのか?俺にはよく分からん」
「武が気にすることじゃないわ」
「それにしても、空には悪いことをしたな。せっかく作ってくれたのに手を付けずに飛び出して来ちまった。後で謝っとかないと」
「それなら大丈夫。空のお弁当はしっかり作ってあるから、この季節なら夕食まで充分保つわ。あとは空の機嫌次第かしら」
「う…それは難問だ。実は空の料理を食べ損なったのが気がかりだったんだが、土下座じゃ済まないだろうなぁ」
「本気?一体いつも何食べてるの?」
「仕方ないだろう。うちではいつも俺が作ってるからな。みんな喜んでくれるのはいいんだが、たまには自分以外の手料理も食ってみたかっただけだ」
「…」
「…」
「ねぇ、武」
「どうした?急に考え込んで」
「空に料理を教えたのは私なの」
「料理を!?タツタサンドすら作れなかった優が!?」
「何よ、その反応は。これでも一児の母なんだから料理ぐらいできるに決まってるでしょう。それにあれから何年経つと思っているの?」
「成長したなぁ、優」
「まぁね。そういうわけだから、期待してて」
「何を?」
「秘密。さて、そうと決まれば帰って準備しないと」
「?良く分からんが、頑張ってくれ」
「ええ、私も負けていられないから。じゃ、先に失礼するわね」
「おう、今日はごちそうさま。
 …それにしても、さっきから感じる嫌な予感は気のせいなんだろうか」


「ねぇ優、お父さん欲しくない?」
「却下!これ以上悩みのタネを増やさないで!」


直接対決と第3勢力の台頭をテーマにした、勢い任せで他愛の無いネタ第3弾です。
趣向を変えて会話文だけで話を進めてみました。
何をしているか分かるようにしたつもりですが、それでも分かりにくいかもしれません。
キャラクターの歪み具合、特に空は、前に書いたものの反動です。
困ったことに非常に書きやすかったので、次があるとすれば、この調子で誰かが歪むでしょう。
読んで頂いてありがとうございます。




2002


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