Ever17 After Story
〜心の拠り所〜

                              tomo




小さな女の子が泣いていた。
布団に包まって、
「辛いよ。寂しいよ。早く迎えに来て、お兄ちゃん。」
と呟きながら。
…この部屋、前に見たことがあるけど、うまく思い出せない。
…そうじゃない、思い出したくないだけ。
それは辛くて、寂しくて、悲しくて、泣くことしかできなかった小さな頃の記憶。
暗くて、無機質で、窓には鉄格子がはめられている、ただ閉じ込めるためだけの部屋。
そんな部屋での私の1日は朝起きると痛くて辛いだけの人体実験を受け、また部屋に戻らされるというものだった。
だから夜はいつも約束したのにお兄ちゃんが助けに来てくれないことで泣いていた。
「…ねえ早く迎えに来てよ、お兄ちゃん。」
と呟き涙を流していた。
そしていつも泣き疲れて眠りについていた。
…もうこんな悲しくなる夢見たくない。



もう夕日も地平線の彼方に沈もうとする時間になっていた。
少し開けていた窓からは心地よい風が吹き込んできた。
「気持ちいいけど、ちょっとだけ寒いなぁ。」
そうぼくは呟いた。
しかしついさっきまで話していた沙羅からは何も返事がなかった。
どうしたんだろうと思って隣を見ると沙羅は眠っていた。
ぼくはこのままだと風邪をひくんじゃないかと思った。
だから沙羅を起こさないようにそっと立ち上がり、布団を取ってきて、それを掛けてあげた。
掛け終わってから、また沙羅のそばに座り、窓の外を見た。
そしてここ数日の幸せな出来事を思い出していた。
LeMUで沙羅とお母さんに再会できたこと。
沙羅とかつて交わした約束、迎えに行くという約束をかなえられたこと。
お母さんがぼくたちのことをずっと忘れずにいてくれたと知ったこと。
ホログラムでしか見た事のなかったお父さんと会えたこと。
そしてLeMUから帰ってくる船の中で、お父さんから4人で一緒に暮らそうと言ってくれたこと。
だからついこの間までの、沙羅を迎えに行こうとして、それを阻止され諦めて、そして約束を思い出してまた迎えにいこうと何度も足掻いていた頃のことを思い出すとちょっとだけ不安になる。
いつかまた離れ離れにさせられるんじゃないかと。
そんな不安を消すために、ぼくは隣に妹がいることを確かめた。
そこにはちゃんと沙羅がいた。
それを確認すると、ぼくはますます離れ離れになりたくないと思った。
やっとたった1人の大切な妹と、そしてずっと会いたいと思っていた両親と一緒に暮らせるようになったのだから。
もっと一緒にいられなかった時間を取り返したいから。
そんなことを考えていると沙羅が
「…お兄ちゃん…」
と呟くのが聞こえた。
「沙羅、どうしたの。」
そう言いながら沙羅の顔を見てみると、目元にうっすらと涙を溜めていた。
それを見たとき、ぼくは何か悲しい夢でも見ているのかなと思った。
だから悲しい夢ではなく、楽しい夢を見られるようにと願いおまじないをしようと思った。
小さい頃、沙羅が泣いた時には必ずしたおまじないを。
そうすると沙羅は泣きながらでも嬉しそうな安心した寝顔を見せてくれた。



また小さな女の子が泣いていた。
けれどもさっきと違うのはその女の子は一人っきりではなかった。
その女の子は同じ年くらいの男の子の背中に隠れていて、2人の向かいには何人か男の子たちがいた。
…さっきと違う夢を見ている。
…これはお兄ちゃんと一緒にいた頃の夢だ。
私たちは親がいないことが原因でいじめられていた。
たけどいつもお兄ちゃんがいじめっ子たちを追い払ってくれた。
私は悲しくて泣いていたけどお兄ちゃんが守ってくれるのは嬉しかった。
そしてそんなことがあった日には必ずお兄ちゃんと私は手つないで施設に帰っていった。
お兄ちゃんの暖かい手が私を安心させてくれて、嬉しくて涙をちょっとだけ流していた。
…今でもはっきり覚えている。
…こんな感じで暖かくて安心できたなぁ。
私は暖かい感覚に導かれて目を覚ました。

目が覚めてからすぐお兄ちゃんが手を握っていてくれていたことに気づいた。
小さい頃とまったく変わらず暖かくて私を安心させてくれる。
それがなんだか嬉しくて私はお兄ちゃんの手をそっと握り返した。
そうするとやっとお兄ちゃんは私が目を覚ましたことに気づいたようで、
「あっ、起きたんだ、おはよう。」
と言って、やさしく微笑んでくれた。
私も微笑み返してから言った。
「おはよう。お兄ちゃん、手握っていてくれたんだ。」
「うん、さっき悲しそうな顔していたから、楽しい夢見られるようにおまじないのつもりでね。」
私はそれを聞いて納得した。
あの思い出したくない悲しい夢からお兄ちゃんと一緒にいた頃の暖かくて安心できる夢に変わった理由を。
そんなことを考えているとお兄ちゃんが私に聞いてきた。
「沙羅、楽しい夢見られた。」
「うん。最初は悲しい夢だったけど、お兄ちゃんが手を握っていてくれたから途中からは楽しい夢が見られたよ。ありがとう、お兄ちゃん。」
「どういたしまして。」
お兄ちゃんはそう言ってまたやさしく微笑んでくれた。
私はこんななにげないやりとりをお兄ちゃんとできることがとても嬉しかった。
こうしてお兄ちゃんと手をつなぐことも。
もう2度とできないって諦めてかけていたから。
それだけじゃない。
ホログラムでしか見た事のなかったパパと離れてからもずっと私たちのことを思っていてくれたママと一緒に暮らせるようになったことも嬉しかった。
私がずっと、ただ夢見るだけしかできなかった幸せがここにあった。
今が幸せ過ぎるからこそすごく不安になる。
またさっき見た悪夢のような日々に戻されないかと。
ライプリヒみたいなのが現れて、パパやママ、そしてお兄ちゃんと離れ離れにされるんじゃないかと。
そんな抱えきれない不安が溢れてきたから、私はお兄ちゃんに聞いてみた。
「ねえ、お兄ちゃん。もう離れ離れになんてならないよね。」



沙羅はすごく不安そうな表情をしてそう言った。
だからぼくは沙羅のその言葉に、
「絶対に離れ離れにならない。どんなことがあってもそんなことさせないよ。」
と答えた。
沙羅の感じた不安がどんなものなのかわかったから。
そしてなによりぼくが離れ離れになりたくないと思っていたから。
「それにぼくも離れ離れになりたいなんて思ってないから、ずっと一緒にいられるよ。」
そう言うと沙羅は少しほっとした表情をした。
だけどぼくはもっと沙羅を安心させるいい方法はないかと考えてみた。
もう2度と不安を感じさせたくなかったから。
今ある幸せだけを感じて欲しかったから。
そしてある1つの方法を思い出した。
だからぼくは沙羅にこう言った。
「沙羅、ぼくと1つ約束しよう。ずっと離れ離れにならないって約束を。」
「うん。お兄ちゃん、いつまでもずっと一緒にいようね。」
と言って、今までで一番いい笑顔を見せてくれた。
ぼくはこの新たな約束が沙羅に不安を感じさせない心の拠り所になることを願った。
いつまでも家族が離れ離れにならないようにも。

*おまけ*

「ただいま。ホクト、沙羅、今帰ったぞ。」
「ただいま。晩御飯の食材たくさん買ってきたわよ。」
そう言いながら、パパとママが居間の方にやって来た。
お兄ちゃんと私は2人に近づき、
「おかえりなさい、お父さん、お母さん。」
「おかえり、パパ、ママ。」
と言った。
パパとママは両手にいっぱい食材の詰まった袋を持っていた。
パパは荷物を台所に置いてから、ママにこう言った。
「つぐみ、腹減ったなぁ。早く飯作って食おうぜ。」
ママも荷物を置き終わり、台所に置いてあるエプロンを身につけながら、こう言った。
「そうね。ホクト、沙羅、2人とも手伝ってくれる?」
「うん。お母さん何をすればいいの。」
「拙者も手伝うでござる。」
私たちはそう答えた。
私はこの光景を見ながら、こうして家族4人一緒にいる時間をもっと作っていきたいと強く願った。
お兄ちゃんとの約束を守りながら、ずっと家族4人で一緒にいたいと。




あとがき
 また勢いのみで作ってしまったSS第2作目ですが如何だったでしょうか。
 今回はホクトと沙羅のいきなり幸せになったからこそ感じる不安を書いてみようと思って書いてみました。
 ちゃんとそんな雰囲気が伝わりましたか?
 まだまだ改善すべき点はいっぱいあると思うので、意見や感想がありましたら聞かせてくださいね。
 次もなんか書けたらいいなと考えているtomoでした。

 mailto: cuayk617@occn.zaq.ne.jp




2002



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