私の野望(ゆめ)
                              作 大根メロン

――2034年5月7日 日曜日――
 
心地よい風が私――田中優美清春香菜の髪を撫でた。
離れてゆくLeMUを眺めながら、ふと実感する。
――すべて終わったのだ。
17年という長い年月をかけ、ついに決行した『第三視点発現計画』。
それはブリックヴィンケルの発現とそれによる倉成武と八神ココの生還、という最良の形で幕を閉じた。
ホクトが海に飛び込んだ時はどうなるかと思ったが、こちらも無事に生還。こちらにはたっぷり小言を聞かせてやった。今思えば、あれはホクトではなくブリックヴィンケルだったのかも知れないが。
ともかくすべてが終わった。ユウともある程度解かり合えたし、事後処理など面倒なことはすべて桑古木と空に任せる予定だ。
「ふぅ……」
溜息が出た。気が抜けたのかもしれない。
船上ではココの提案により『ひよこごっこ大会』が行われている。決勝戦はココVSホクトだ。
私も誘われたが、謹んで辞退した。無論、ひよこごっこにかけては誰にも負けない自信があるが、35歳にもなってあれは出来ない。身体は23歳だが。
「お母さ〜ん」
「田中先生〜」
私を呼ぶ声が聞こえる。一回戦敗退のユウと沙羅だ。ひよこごっこに関する私の才能はユウには受け継がれなかったらしい。
「なあに? ユウ、沙羅」
「『なあに?』じゃないわよ!! お母さん、何ちゃっかり辞退してるのよ!?」
ユウが大声で叫んだ。ひよこごっこは余程恥ずかしかったらしい。
「ふふふ、でもねユウ? 35にもなって――」
「…つぐみは参加してたわよ?」
衝撃を受けた。
「ママ、一回戦で私を倒して二回戦まで行ったんですよ。そこでお兄ちゃんに負けちゃったけど…」
沙羅が嘘を言っていないとすると、つぐみは二回戦進出まで果たしたらしい。それは素晴らしい。ワンダホーだ。思わず私の頭が混乱するほど素晴らしい。
「かなり真剣でしたよ、ママ。あれは絶対優勝狙ってましたね」
真剣にひよこごっこするつぐみ。想像力の限界レヴェルを遥かに超えた話だ。
「つぐみの事より、今はお母さんのことよ。納得のいく辞退理由を聞かせて貰えるんでしょうね。でも、もし言い訳したら…」
ユウは右手の握り拳から出した親指を自分の首に当て、左から右に素早く動かした。
「…コレよ」
ともかく歳を理由にした言い訳は出来なくなった。今はつぐみの事より自分の事だ。だが下手な言い訳は私自身を危険にさらす事になるだろう。
元暴走族総長のユウは、その狂悪な眼差しで私を睨み続けている。かなりまずい状況かもしれない。
「で、でもなっきゅ先輩、田中先生ってクールってゆうか、物静かっていうか… とにかく、そういう雰囲気の人じゃないですか。 そんな人がひよこごっこなんてしてたらかなり変でしょう? 私もそんなの見たくないですし……」
沙羅がフォローしてくれた。ありがたい。
しかし、あの状態のユウに話しかける事ができるとは大したものだ。
「むぅ… そう言われればそうかも…」
ユウの眼差しが少しずつ弱まってゆく。私の辞退理由については少しも語られていないが、うまく誤魔化されてくれたらしい。
しかし。
(『クール』で『物静か』か……)
私は私の母である『田中ゆきえ』を演じ続けてきた。ユウを出来る限り17年前の私に近づけ、計画を成功させるために。
だが、私が『田中ゆきえ』に近づいてゆけばゆくほど、本来の私である『田中優美清春香菜』は少しずつ姿を消していったように思う。
その結果が今の私だ。『田中優美清春香菜』が消え、『田中ゆきえ』しか残っていない。
つまり『クール』も『物静か』も、『田中ゆきえ』の性格。私はそれを真似てるだけの無様な人形だ。
――『田中優美清春香菜』は、もういない。
改めてそれを再認識した。別に後悔はしていないが、切ない気持ちがあるのもまた確かだ。
「…お母さん?」
ユウが私の顔を覗き込んだ。
「大丈夫ですか?」
沙羅も私の顔を心配そうに見つめている。感情を顔に出してしまったらしい。
「ええ、大丈夫。ちょっと考え事をしてて、ね」
「本当に? 具合悪いんじゃないの?」
ユウが私を心配してくれている。なんだか少し新鮮だ。
「ふふ、だから大丈夫よ。心配しなくても」
「そ、そんなんじゃないわよ!!」
私は空を見上げながら呟いた。
「そう、私なら… 大丈夫」
やっていける。過去の自分が居なくても、生きてゆくことはできるはずだ。それは少し悲しい事なのかもしれないけど。
「そ、それならいいけど…」
ユウは納得してくれたようだ。沙羅も安心したような表情を浮かべている。
「はあ、よかったぁ。田中先生に何かあったらどうしようかと…… あ!」
足音が聞こえる。誰かが近づいて来たようだ。後ろからだから、誰だかは解からないが。
「パパーッ♪」

心臓が高鳴った。

「おっ、沙羅。お前こんな所にいたのか」
私のすぐ後ろに居る。彼――倉成武が。
「パパ、二回戦で負けちゃったでござるな」
「ああ、せっかく一回戦勝ったのに二回戦は『マスター・オブ・ザ・ヒヨコゴッコ』の異名を持つココが相手だったからな。ったく、ココじゃなくホクトが相手だったら勝つ自信あったんだけどなぁ」
私は帰って来た彼とまだ一言も話をしていない。何故か彼と話すのが凄く怖かったからだ。
胸の高鳴りは止まらない。全身が緊張し、汗が流れた。
「ど、どうしたの!? お母さん、顔真っ赤だよ!?」
ユウの言葉に答える余裕は今の私には無い。深呼吸し、どうにか自分を落ち着かせる。
(何故?)
彼を好きだった『田中優美清春香菜』はもういないはずなのに。
「ん? 優、お前どうかしたのか?」
少しでも油断すればさっきのように感情が顔に出る。それだけはなんとか避けたい。
私は覚悟を決め、振り返る。
17年前とまったく変わらない彼がそこに居た。
「いえ、何でもないわ。ちょっと疲れが出ただけ」
完璧だ。我ながら惚れ惚れする。いつもの『クール』で『物静か』な『田中ゆきえ』の顔だ。
「疲れが出たって… 大丈夫なのか? さっきの大会にも参加してなかったし。『クイーン・オブ・ザ・ヒヨコゴッコ』とまで呼ばれたお前が」
ユウと沙羅が目を丸くした。
神に誓って言うが、私はそんなイヤすぎる名で呼ばれた事は一度も無い。
「ま、いいや。とにかく…」
彼が私を見つめている。目を逸らせない。
「久しぶりだな、優」
ああ。
これが。
空が『反則だ』と言っていた――倉成の笑顔。
「え、ええ。ひ、久しぶりね…」
まずい。今のダメージは大きかった。
「なんか、話す機会が無かったからな。まずは… すまなかった。ずいぶん長い時間迷惑をかけちまったみたいだな」
何か言わないと爆発しそうだ。何か言わないと。
「か、勘違いしないで! べ、別に倉成のためじゃないわ。………………そ、そう! ココの、ココのためよ!!」
完全に失敗した。その証拠に、ユウと沙羅が変な目で私を見ている。
「まあ、確かに俺はココのおまけみたいなもんだろうが…」
彼は溜息をつき、
「そうはっきり言われると、少し悲しい気分になるな…」
と言った。
この男、本当はすべて解かってて言ってるんじゃないだろうか。
「え!? え〜と、確かにあなたはおまけだけどおまけじゃないっていうか、本命はおまけの方っていうか、あなたさえ居てくれれば私は何もいらないっていうか…」
もう何が何だか。
勢いでとんでもないことを言ってしまった気がする。
「…よく解からんけど解かった」
早口だったため、とんでもない部分は聞き逃してくれたらしい。だが、絶対ユウと沙羅には聞かれた。
「おっと、もう一つ言いたいことがあるんだ」
「な、何?」
彼の右手が私の頭の上に乗った。これは彼に頭を撫でられてる、という事だろうか。
(ええぇええぇぇぇええ!? 私、倉成に撫でられてる!? 撫でられてる!!!?)
完全にパニック状態である。もう――

「優。ありがとう、な」

――敗北を認めるしかない。
「……うん、どういたしまして。倉成」
彼がまた、笑顔を見せてくれた。
(あぁ… そういう事だったのね……)
どうしていままで気が付かなかったのだろう。帰ってきたのは倉成武と八神ココだけじゃない。
(おかえり、『田中優美清春香菜』)
『田中優美清春香菜』も帰ってきたのだ。あの深く暗い海の底から。
「おっと、じゃあ俺はそろそろ行くわ。つぐみの奴、ほっとくとすぐ機嫌が悪くなるんだ」
その言葉と共に、彼はこの場を去っていった。あの右手が名残惜しい。
だがそれよりも、今の私には早急に解決しなければならない問題がある。
「お母さぁ〜ん?」
「田中先生ぇ〜?」
やけにニヤニヤしているこの二人をどうするか、だ。
まあいい。どうにでもなる。
「二人とも」
私は最高の笑顔を浮かべる。まさに天使の笑顔だ。
「余計な事を言ったら…」
そのまま右手の握り拳から出した親指を自分の首に当て、左から右に素早く動かす。
「…コレよ」
言葉に最大限の殺気を込めて。
ユウと沙羅は首が折れそうな勢いで何度も頷く。さっきの表情は消え、顔には恐怖が満ちている。
「よろしい♪」
私は二人に背を向け歩き始めた。『田中優美清春香菜』には、やらなければならない事があるのだ。
「空! 何処!?」
目的の人物はすぐに見つかった。彼女はココとピピが遊んでいるのを遠くから眺めている。
「田中先生? 何かあったんですか?」
「空、行くわよ」
「……はい?」
「つぐみだけがいい思いをするのは不公平でしょ?」
空は一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、すぐに笑顔で、
「はいっ!!」
と答えた。
「それで田中先生、具体的な作戦は?」
「略奪愛よ!!」
作戦でも何でもないが、最終的にはそれしかないだろう。
「考えてみなさい、茜ヶ崎君。『略奪愛』、言葉は悪いけど『愛』という漢字が使われてるわ。素晴らしいと思わない? 私達の『愛』は必ず地球を救うわ!!」
「な、なるほど!! さすがは田中先生です!!」
「アホかぁ!!」
いきなり桑古木が乱入してきた。前から気になっているのだが、この男の腕は頭に接着されてるのだろうか。
「優ッ!! 武じゃあるまいし、空に変な事を吹き込むな!!」
この男の声はとにかく耳に障る。
「だいたいお前の略奪愛で地球が救われてたまるか!!」
空はいいんだろうか。明らかに差別だ。
「人の恋路を邪魔する奴はぁ…」
桑古木の顔が変わった。ようやく危険を察知したようだ。だがもう遅い。
「私に蹴られて死になさい!!」
芸術的なハイキックが顎に命中し、意識を失った桑古木はそのまま虹のような放物線を描き――

ドッパァァァン!!

――海に落ちた。
「さようならクワコギ、17年間ありがとう。あなたの事は忘れるまで忘れないわ」
これで邪魔者はいなくなったはずだ。つぐみを除けばだが。
「あ、あの、田中先生。桑古木さん、海に漂ったままピクリとも動かないんですけど…」
「ん? ああ、大丈夫よ。あれでも一応、倉成を目指してたんだから。きっと水深119mまで沈んでも劇的に復活してくるわ」
「あ、それもそうですね」
もっとも、誰が桑古木に呼びかけるのかは知らないが。
「さあ、空。聖戦(ジハード)よ!!」
「YES,MASTER!!」
走る。床を蹴り、ココを飛び越え、ホクトを弾き飛ばし、走る。
すぐに倉成とつぐみを見つけた。つぐみは例の着ぐるみを着ていたが、さすがに頭の部分は外しているようだ。
倉成のボケに対し、つぐみがどう考えても威力の強すぎるツッコミを入れている。
また夫婦漫才をやってたのだろうか。つくづく気に食わない。
「ちぇすとぉーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
私は何の迷いも無く、つぐみの頭にドロップキックを叩き込む。
そしてその隙に空が倉成に抱きついた。
空の行動についてはかなりの不満を抱いたが、こちらはこちらで蹴られたつぐみのまぬけづらが見れたので、良しとしよう。
だが。
「あ・な・た・た・ちぃぃぃぃぃぃぃいいいい!!!!!!」
油断した。つぐみを侮り過ぎていた。彼女は鬼神のような強さで私と空の首を掴むと、
「魚のエサになりなさい!!」
海に向かって放り投げた。
私達はまるでさっきの桑古木のように――

ドッパァァァン!!

――海に落ちた。
強い。桁外れに強い。反撃する間も無かった。
昔ライプリヒで耳にした『逃亡中の小町つぐみが素手でAH-64Dを撃墜した』という話も事実なのかもしれない。
だが諦めない。何よりこのままでは本当に魚のエサだ。
私は船体を登ろうとしていた空を踏み台にし、一気に船上へ戻った。空が再び海に落ちたような音がしたが、さっき倉成に抱きついた罰、ということにしておこう。
「あら? 優、もう帰ってきたの」
目の前に着ぐるみつぐみ。その顔には余裕が満ちている。
「ええ、若作り41歳を斃すためにね」
「死になさい」
跳ぶ。一瞬前に私が居た場所の床につぐみの腕が突き刺さった。『拳』ではなく『腕』だ。
床をブチ抜いたその腕を引き抜き、こちらを殺意に満ちた目で睨む。どうやら歳の話はタブーだったようだ。
つぐみは放置されていた着ぐるみの頭を手に取り、中からバカでかいハンドガンを取り出した。
IMI社のデザートイーグル。しかも50AEだ。きっと幾多の敵を血の海に沈めてきたつぐみの相棒なのだろう。
さすがに着ぐるみのままで拳銃を扱う事はできないらしい。なんと着ぐるみの腕の部分だけが取り外されている。随分と機能的な着ぐるみだ。
私に銃口が向く。『ハンド・キャノン』の異名を持つあの銃から放たれる巨大な弾丸を受ければ、一発で人間の頭くらい綺麗に吹き飛ぶだろう。
「さよなら、優。あなたはいい友人だったわ」

ドオォ…ン!!

だが、私はただの人間ではない。
「はぁ!!」
放たれた50AE弾と殺意を、気合と共に白衣で弾き飛ばした。
「うおぉぉおお!?」
……どうやら跳弾が倉成の方に跳ねてしまったらしい。以後気をつけよう。
「な、何!?」
つぐみが驚愕する。
この白衣をなめてはいけない。これは我が『田中研究所』が開発した特製防弾着なのだ。まあ、さすがに私も50AE弾を弾き飛ばすとは思わなかったが。
とにかくチャンスだ。
すでに倉成は何処かに避難しているし、つぐみはさっきのショックで隙が出来ている。
私は隠し持っていたハンドガン、グロック26をつぐみに向けた。
「さよなら、つぐみ。あなたはいい友人だったわ」

ドオォ…ン!! ドオォ…ン!!

ドオォ…ン!! ドオォ…ン!!

4発の9mmパラベラム弾が胸に命中し、つぐみはその場に倒れこんだ。
だが安心は出来ない。動きをよく見ると解かるが、つぐみはあの黒服の下に防弾着を着込んでいる。
おそらくそれは逃亡中、追っ手を倒し奪った物なのだろう。あのデザートイーグルも同様だ。
つまり、つぐみは防弾着に護られ大きなダメージを受けていない、ということだ。4発も撃ち込んだのだから肋骨にヒビくらい入っているかも知れないが、そんなものキュレイ種にとっては無に等しい。
私は銃を向けたまま、ゆっくりとつぐみに近づいてゆく。着弾の衝撃で気絶してしまったのか、ピクリとも動く様子は無い。
だが甘かった。突如つぐみの腕が一閃し、私の手から銃を弾き飛ばした。とっさに間合いを取ったが、銃はそのまま海にダイヴだ。
「しまった…!」
「ふふふ… まだまだね、優」
つぐみがゆっくりと起き上がる。その動きには不自然さが無く、少しもダメージを受けた様子が見られない。
「何故? いくらキュレイのパーフェクト・キャリアでも、ノーダメージだなんて…」
それはどう考えてもおかしい。音速を超える速度の鉛弾が4発も命中したのだ。
「そうね、冥土の土産にでも教えてあげましょうか」
つぐみは愉快そうに喋り出した。
「秘密はこの着ぐるみ。この着ぐるみには様々なマテリアルを無重力中で混合し作り上げた、驚異の新素材が使われているの。ガトリングガンやミサイルランチャーでも傷一つ付かない、至高のボディ・アーマーなのよ」
「なっ!? そんな物を一体何処で手に入れたの!!?」
「変なコネを持ってるのは、あなただけじゃないのよ」
それだけの装備なら、本当にAH-64Dを素手で撃墜することも可能だろう。
攻撃しても攻撃してもまったく怯まず向かってくるみゅみゅーん。まさに悪夢だ。
つぐみは銃を撃つために取り外していた腕の部分を再び装着し、みゅみゅーんの頭を被った。まずい。これでつぐみの防御はパーフェクトだ。
「それにしても惜しかったわね。さっきの銃撃の時、胸じゃなくて頭や腕といった着ぐるみから露出していた部分を狙えば、まだどうにかなったかも知れないのに」
みゅみゅーんの手から長く鋭い爪が飛び出した。この爪にも驚異の新素材とやらが使われているのだろう。だとしたら、この白衣すら真っ二つにする事ができるのかも知れない。
「チェックメイトよ」
つぐみが迫って来る。形勢は圧倒的に不利だ。
だが絶対に諦めない。私には野望(ゆめ)が有るから。
「はああああぁぁぁああぁぁあああ!!」
爪を紙一重で回避し、渾身の力を込めた蹴りを着ぐるみの頭に叩き込む。
「なっ!!!?」
みゅみゅーんの頭がつぐみの頭から離れ、激しく回転しながら向こうに飛んで行った。そしてそれは、つぐみの頭が露出した事を意味する。
「そんな… いままでどんな攻撃を受けても、頭が外れる事なんて無かったのに…」
私の蹴りはガトリングガンやミサイルランチャーよりも強い、という事だろうか。あまり嬉しくない。
だが勝機は見えた。
「ふふふ… これが私の底力よ。恐れ入った?」
「…ええ。さすがは私の『仲間』ね」
つぐみが笑顔を見せる。それは同姓の私から見ても魅力的だった。
「だけどまだ私が負けたわけじゃないわ。それに、あなたにはもうその身体以外武器も無い」
「それがそうでもないのよ」
私は懐から一本のメスを取り出した。それは刃に銀メッキを施され、キラキラ輝いている。
これは1888年にロンドンに現れた連続殺人鬼、ジャック・ザ・リッパーが凶器として使っていた<銀ナイフ>。
そして銀には、回復・再生能力を無力化させる効果がある。対キュレイ種にはうってつけだ。
「さてと、次は言われた通り頭を狙うわ」
「…上等よ」
つぐみもこのメスが放つ禍々しい気配を感じ取ったらしい。顔が引き締まった。
ふと海を眺める。ここは様々な不幸や幸福が始まった場所だ。
そして、やっと帰って来た『田中優美清春香菜』。だがすぐにまた消えてもらうことになるだろう。
なぜなら私は『倉成優美清春香菜』になるから。それが私の野望(ゆめ)。
私はつぐみにメスを向け、大声で言った。
「倉成を取られた恨み、17年分おまけをつけてきっちり返してあげるわ!!!!」



あとがきのようなもの
はじめまして、もしかしたらこんにちは。大根メロンです。
ここを読んでもらってるということは、このSSを最後まで読んでいただいた、という事でしょうか。ありがとうございます。
シリアスと見せかけて実はドタバタ。なかなかトリッキィなSSでしょう。世界でも類を見ないに違いありません。
……ごめんなさい。後先考えず書いたらこうなっただけです。
このSSは田中先生を主役にしてみました。理由は彼女が好きだから。それだけ。
そしてつぐみんは完全に悪役(ヒール)。別につぐみんが嫌いなわけではありません。むしろ大好きだからこそ。
それにしても最初と随分違う形になりました。最初の頃は完全な優春シリアスSSだったのです。そう、前半部がその名残です。
しかし神の啓示かブリックヴィンケルの意志か、後半部はなっきゅVSつぐみんとなりました。
私は優春とつぐみは永遠の『ライバル』であり、また永遠の『仲間』でもある、と思っています。そんな感じがしませんか? あの二人って。
それを表現したかったのですが、ダメダメですねぇ…(汗) なかなかうまくいきません。
そんな微妙なSSですが、実は私が人生で初めて書いたSSだったりします。
なので、PCに保存して大切にしていれば将来、レアでプレミアな価値が付くかもしれません。さあ、いますぐ保存だ!!
……ごめんなさい。絶対に価値なんて付きません。なので、保存して大切にしても無駄です。私は喜びますが。
今、次の話の構想を練っています。いつ完成するかは解かりませんが、おそらくつぐみんがたけぴょんの実家へ挨拶に行く話となるでしょう。
タイトルは『婚姻における一般的な試練(仮)』。
どうぞお楽しみに。


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