廻転遊戯
                              作 大根メロン

デートです。
倉成さんとデートです。
遊園地で一緒に遊んでるのですから、誰が何と言おうとデートです。
ああ、この日をどれだけ待ち望んだ事でしょう!
邪魔な田中先生と小町さん(今の彼女は『倉成月海』ですが、倉成さんと区別する為に『小町さん』と呼ばせて頂きます。別に他意はありません)には既に手を打っておきました。
簡単な事です。田中先生には朝、
「倉成さんが小町さんと星丘海岸でいい雰囲気を作ってましたよ」
と言っておきました。すると、田中先生はもの凄いスピードで星丘海岸に向かわれたのです。
小町さんは、
「倉成さんと田中先生を星丘海岸で見ましたよ。まるでカップルみたいな雰囲気でしたね」
と言う私の言葉を聞いた途端、凄まじい殺気を放ちながら飛び出して行かれました。
田中先生と小町さんは星丘海岸で鉢合わせし、いつもどうりケンカ。その隙に私は倉成さんを連れ出しデート、という訳です。
大丈夫です。ここから星丘海岸までは714kmもあるんです。絶対に私達の邪魔は出来ません。
「そ、空… ちょっとまってくれ…」
倉成さんがベンチに座り込みました。さすがに17年振りのジェットコースターは少し厳しかったようです。
「ま、まさか17年でジェットコースターがあこまで進化しているとは… ああ、の、脳が揺れる…」
ですがこれも計算の内です。
「じゃあ、今度はゆっくりした乗り物に乗りましょう。あの観覧車はどうですか?」


私と倉成さんを乗せた観覧車のゴンドラがどんどん高度を上げて行きます。完全に二人だけの世界です。
「それにしても空、今日はありがとな。何故だか朝起きたらつぐみは居ないし、ホクトと沙羅は居間で寝てるし」
それは寝てたのではなく、小町さんの殺気で気絶していたのでしょう。
「いえいえ、私こそありがとうございます。田中先生が何処かに行ってしまわれて、暇を持て余していたんですから」
こうやってゴンドラに乗っていると、クヴァレでの倉成さんと小町さんの一件を思い出します。しかし、今は私が倉成さんと二人っきりです。
という事は、私達はこの後ああなってこうなる訳ですね。ふふふふふ。
「空? お〜い」
「はっ!? く、倉成さん!?」
「どうしたんだ、空。さっきからぼ〜っとして…」
「い、いえ、ちょっと考え事をしていただけですから…」
危ない危ない。危うく自分だけの世界へ行ってしまう所でした。
「そうか、ならいいんだが。気を付けろよ、結構狭いんだから」
そうなのです。この17番ゴンドラには先客が居ました。それは、大きなダンボール箱。
おかげでかなりスペースが削られてしまっています。まあ、スペースが狭くなれば、その分倉成さんに近づけるのでいいんですが。
さて、ここからが本番です。私の魅力で倉成さんを虜に――

ピピピピピピピ……

――突然私のPDAが鳴り始めました。
「ん? 空、電話か?」
「…ええ、そうみたいです」
まったくこんな時に誰でしょう。
「もしもし、茜ヶ崎ですが…」
『私よ』
相手は田中先生でした。何だか、もの凄く嫌な予感がします。
「ああ、た、田中先生。どうかなさったんですが?」
『ええ、星丘海岸で偶然つぐみにあったから、海岸から714kmくらいの所にある遊園地に二人で遊びに来てるの』
血の気が引きました。私に血はありませんが。
私はすぐさまゴンドラから下を見下ろしました。
観覧車の前に二人の人影。間違いありません。田中先生と小町さんです。ああ、目が合っちゃいました。
『じゃあ、私とつぐみは下で歓迎の準備をして待ってるから。どうぞごゆっくり』
「………………」
――私、もうダメかも知れません。
「どうしたんだ、空? まさか優もここに来てるのか?」
…倉成さん、勘が良すぎます。
「え、ええ… 小町さんと一緒に……」
「つぐみも?」
…パニックのせいで、余計な事まで言ってしまいました。
ああ、それにしてもどうしましょう。このままでは私は――

ドォォオオ…ン!!!!

「――!!!?」
「な、何だ!!?」
突如、凄まじい衝撃と轟音、そして閃光がゴンドラに襲い掛かりました。そしてその数秒後、観覧車の回転がゆっくりと停止しました。
向こうの建物から、黒い煙がもくもくと上がっているのが見えます。
(爆発……!?)
一体何が起こっているのでしょうか。
『空ッ! 空ッ!!』
「た、田中先生、今の爆発は…!?」
『解からないわ… でもあれは確実に爆弾よ…!!!』
「ば、爆弾!!!?」
し、信じられません…!
「何処が爆破されたんですか!?」
『アトラクションが全て停止してるわ! という事はおそらく電力管理室よ!』
「そ、そんな!? 予備電源は!?」
『1.7秒以内に切り替わらなかったんだから、一緒にやられたって事!!』
「という事はまさか……!?」
『ええ、あなた達はそのゴンドラに閉じ込められたのよ…!』
「な……!?」
『とにかくそこで待機! つぐみ! 警察と救急車を呼んで!!』
大変な事になりました。さっきの爆発にどれくらいの人が巻き込まれたんでしょうか。
電力がストップし、上昇も下降も行わないゴンドラはまるで棺桶のようです。
私と倉成さんはしばらくその棺桶で呆然としていました。
「……?」
数分後、ある物が私の目に留まりました。
それは、乗り込んだ時からそこにあるダンボール箱。
私は少しずつそれに近づいて行きます。
「………」
第六感、とでも言えばいいのでしょうか。そういう論理的ではない部分がしきりに警告を発するのです。
私は覚悟を決め、ダンボール箱を開けました。
「……田中先生」
『空? どうしたの?』
「仕掛けられていた爆弾は1個だけじゃなかったみたいですね…」
『……え?』
「私と倉成さんが乗ってるこの17番ゴンドラにも… 爆弾が仕掛けられています」
『な、何ですって!!!?』
そう、このダンボール箱の中身はやはり爆弾でした。
液晶パネルに表示されている時間。これが0になった時がタイムリミット、という事なのでしょう。
「おそらく、さっきの爆発を合図にタイマーが起動したんでしょう。この爆弾の爆発はさっきの爆発からぴったり1時間後。つまり――」
それは、私達の厳しい戦いの始まりでした。
「――あと51分です」


――タイムリミットまであと51分――


「よし、状況を整理してみよう」
倉成さんの表情にも、さすがに焦りの色が見えます。
「まず電力管理室の爆発で電力がストップ。そのせいで、俺達は観覧車から降りられなくなった」
「はい、そうです」
「優の話だと、電力の復活まではどんなに急いでも3時間はかかるらしい。つまり俺達はあと3時間はこの棺桶の中から出られない」
「…そうですね」
「だがこの爆弾はあと約50分で爆発する」
「……」
「……かなりまずい事になってないか?」
「……なってますね」
はっきり言って絶望的状況です。
沈黙がゴンドラを包みました。こうしている間にも刻々と時間は過ぎて行きます。
しかし、どうすればいいんでしょうか。
『空、倉成、聞こえる?』
「田中先生? どうしたんですか?」
『犯人が解かったわ。犯行声明文が警察に届いたの』
「………えぇ!?」
驚きました。倉成さんもビックリしているようです。
『犯人は柊文華(ひいらぎふみか)。かつてライプリヒ製薬のエージェントだった女よ。インターポールからも国際手配されてるわ』
「ライプリヒ製薬のエージェントですって!? それで、どうしてこんな事を!?」
『柊文華は自分の爆弾で一人でも多く人を殺したいの。それだけの事よ』
「な……!?」
『あの女はライプリヒでも手に余ったほどの殺人狂なの』
ライプリヒ製薬。こんな所でその名を聞くことになるとは。
「クソッ!! またライプリヒかよ!!」
倉成さんがゴンドラの壁を殴り付けました。
「その柊文華を捕まえる事は出来るんですか?」
『…無理でしょうね。とにかく逃げ足だけは速い奴だから』
「そんな…」
柊文華。いったい何者なんでしょうか。
『じゃあ空、ともかくそっちは任せたわ』
「……え?」
一体私は何を任されたんでしょうか。
『気を付けてやりなさい。失敗は許されないわよ』
「えっと… 何をやるんですか?」
『決まってるじゃない。あなたがその爆弾を解体するのよ』
その言葉の意味を完全に理解するには、数分時間が必要でした。
「…………ええぇぇえぇえええ!? 私が解体するんですか!!?」
『当たり前よ。倉成にやらせる訳にもいかないでしょう?』
「そういう事じゃありません!!」
『しっかりしなさい。爆発物解体なら田中研究所の研修でやったじゃない』
「それはそうですが……!」
『空、あなたがやるしかないの。それが爆発したら、観覧車に乗ってる多くの人が犠牲になるかも知れないのよ』
そうです、これは私達だけの問題じゃありません。多くの人の命がかかっているんです。
『大丈夫よ、あなたなら出来る。私が保証するわ』
「……はい!」
そう、私がやるしかないんです。多くの人の為に。そして、倉成さんの為に。
『ふふ、じゃあ頑張りなさい。私とつぐみはここで待機してるから』
「えぇ!? 避難しないんですか!?」
『勿論。私達はあなたを捕まえる為にここまで来たんだから』
…そうでした。
『ついでに言っておくけど、あなたは今月減給ね。私を騙した罪は重いわよ」
「!? そ、そんな…」
『とにかくあなたは帰って来たら減給なの。だから… 絶対、帰って来なさいよ』


――タイムリミットまであと34分――


「倉成さん、刃物とか工具とか、そういうものを何か持っていますか?」
やはり、道具が無ければ解体出来ません。私は何も持っていませんから、倉成さんに期待するしかないのです。
「おお、つぐみの奴からもしもの時の為に渡されたナイフがあるぞ」
倉成さんはポケットからナイフを一本取り出しました。
さすがです、倉成さん。非常時を想定してナイフを用意しているとは。小町さんの名を聞いたような気がしましたが、きっと気のせいでしょう。
「刃物って事は、映画みたいにコードを切って爆弾を止めるのか?」
「ええ、そうです。普通は液体窒素で爆弾を凍結させてから解体するのですが…」
「液体窒素なんか無いもんな…」
液体窒素も工具も無く、ナイフ一本で解体しなくてはなりません。これはかなり厳しいです。
「じゃあ、あとはこの爆弾の構造ですね…」
私は爆弾に手をかざしました。
「スキャニング開始」
爆弾の構造、部品の材質等、様々な情報が私に流れ込んできます。
「…スキャニング完了。これは… まずいですね」
「何がまずいんだ?」
「ダンボール箱の中に張り巡らされている超極細のワイヤーが解かりますか?」
倉成さんはダンボール箱の中を覗き込みました。
「んん… ああ、これのことか。良く見ないと解からんな」
私はスキャニングの結果をRSDで倉成さんの眼に表示しました。照射装置が私自身に組み込まれているのでLeMU内のように自由自在には使えませんが、やはりこの機能は便利です。
「この無数のワイヤーには電気が流れており、切断されると電圧の低下を感知され起爆装置が作動するようです」
「…つまり、このワイヤーを切ると爆発する、という事か?」
「ええ、そうです。ナイフを入れるのは自殺行為ですね。こんなワイヤー、ちょっと刃が触れただけでも切れてしまうでしょうから」
倉成さんの顔が青ざめました。
この爆弾を解体する為にはナイフを入れ、コードを切断しなくてはいけません。しかし、ナイフを入れるのはあまりにも危険すぎます。
……どうしようもありません。
「…このワイヤーの事はひとまず考えないようにしよう。爆弾そのものを解体するにはどうすればいいんだ?」
「方法はいくつか考えられます。まずは爆発時間を設定しているタイマーを切り離す方法です」
「ふむ」
「しかし、タイマーを切り離す為にコードを切断すれば、ワイヤーを切断した場合と同じように起爆装置が作動します」
「…爆発するって事か」
「はい」
「他に方法は?」
「起爆装置と爆薬を切り離す事で爆発を止める事が出来ます」
「そうか、爆薬を切り離しちまえば絶対爆発しないもんな」
「ええ、そうなんですが…」
「何か問題があるのか?」
「この爆弾に取り付けられている起爆装置と爆薬は一つではありません。ですから、一つを切り離せば他の爆薬が爆発します。ナイフ一本で複数の起爆装置を同時に切り離すのはさすがに無理ですし…」
「……他の方法は?」
「電圧の低下を感知する測定器を切り離す手もありますが、こちらも複数取り付けられてます」
「…………」
倉成さんの表情が少しずつ曇っていきます。
「一番簡単な方法としては、バッテリィを切り離す方法があります」
「…な、なるほど! 電池を外しちまえば動かなくなるって訳か!!」
倉成さんの表情に明るさが戻りました。
でもごめんなさい。この方法もダメなんです。
「…この爆弾はダンボール箱の中を鉄板で仕切る事によって上段と下段に別れています」
「…そ、それで?」
倉成さんの表情が再び曇りました。私がこれから言おうとしている事になんとなく気付いたでしょう。
「そしてバッテリィが収められているのは下段。つまり、バッテリィに触れるにはダンボール箱を横から切開しなくてはいけませんが…」
「…いけませんが?」
「このダンボール箱には例のワイヤーが仕込まれています。とても切開なんて出来ません。小さな穴をいくつか開けるのが限界ですね」
「……他に解体する方法はないのか?」
「……残念ながら、ありません」
「………」
「……仮にあったとしても、やはりワイヤー・トラップをどうにかしなければなりませんが」
倉成さんが大きく溜息をつきました。
「ちなみに、だ」
「はい」
「この爆弾、どれくらい威力があるんだ? 俺達が木っ端微塵になるのは間違いないんだろうが…」
「この爆弾に使われているC4爆薬の爆速はダイナマイトの約2倍。これだけの量があればこの観覧車を粉々に吹き飛ばす事ができるでしょう」
「という事は…」
「…はい、もし爆発すれば今この観覧車に乗ってる人は間違いなく全員――」
それは、とても辛い事実でした。
「――助かりません」


――タイムリミットまであと17分――


『爆弾のデータを受け取ったわ。これはなかなか大変ね…』
「ええ、完全に八方ふさがりです」
『打つ手なし、という訳ね……』
私はスキャニングの結果を田中先生のPDAに送っておきました。田中先生なら何かいいアイディアを出してくれると期待したのですが…
『…残念ながら有効なアドヴァイスは出来そうにないわ。御免なさい、空」
「そうですか……」
田中先生ですらこの状況の打開策を見つけられないようです。
『ところで、バッテリィは確認出来たの?』
「ええ、ダンボール箱を切開する事は出来ませんが、仕込まれたワイヤーの隙間に約4平方cmくらいの穴をいくつかナイフで開ける事は出来ました。その穴からなんとか見えましたよ」
『どうだった?』
「スキャニングの結果通り、いくつかのバッテリィが直列に配列されていました」
『なら、バッテリィとバッテリィを繋ぐコードをどこか一ヶ所でも切断出来れば、爆弾のシステム全体を殺せるわね』
「でも穴はナイフが入る大きさではありませんし、しかもバッテリィの周囲にはワイヤー・トラップが張られています。コードの切断は不可能ですよ」
『その不可能を可能にしないと、解体は出来ないわね…』
私は再びダンボール箱の穴を覗き込みました。バッテリィとバッテリィを繋いでいる黄色のコードが見えます。あれさえ切断出来れば、この爆弾を止める事が出来るのですが……
「…なぁ、空」
突然倉成さんに声を掛けられました。
「なんですか? 倉成さん」
「お前ってさ、どうやって物事を記憶してるんだ?」
「…はい?」
「いいから答えろ」
倉成さんの真剣な眼差しが私を捉えました。
「…基本的には普通のコンピュータと同じです。この身体に組み込まれているハードディスクに情報を記録するんです」
「やっぱりそうか……」
倉成さんはゴンドラから下を見ました。そこには小町さんと田中先生の姿があります。
「ならそのハードディスクを取り出してここから放り投げ、下に居るつぐみ達に回収させれば、少なくともお前は助かる訳だな…」
「な…!!!?」
そんな事考えもしませんでした。
「最善の手だろう?」
「ふざけないでください!!!」
私だけが生き残るなんて、そんな事認められるはずがありません。
「私にこの観覧車に乗ってる人達を見捨てろと言うんですか!? 冗談じゃありません!!!」
「このままじゃ全員死んじまうだろ!! だったらお前だけでも生き残った方がいいに決まってる!!!」
「私は嫌です!!!」
「何でだよ!!?」
「私には倉成さんを見捨てる事なんて出来ません!!!!」
「――!!」
見捨てられる訳がありません。私に生きる事の意味を教えてくれた、大切な人を。
そして、倉成さんが大切なのは私だけではないんです。
「だいたい倉成さん、あなたは小町さんやお子さん達を残して死ぬ事が出来るんですか!?」
「う……!」
「出来ないでしょう? 出来る筈がありません」
「………」
「あなたが死んだら、小町さんは永遠に寂しい思いをする事になります」
「……そうだな。そうだった」
「そして、私や田中先生も同じように寂しい思いをする事になるんです」
「空や優も? 何で?」
「それは自分で考えてください。とにかく、倉成さんは死んじゃいけないんです」
「でもなあ、このままじゃ……」
「『大丈夫』ですよ」
倉成さんが驚いた表情をしました。
「絶対に『大丈夫』です」
「……そうか、そうだよな。『大丈夫』なんだよな。大切な事を忘れてた」
倉成さんの顔に笑顔が戻って来ました。
そう、『大丈夫』。私はこの笑顔を護る為だったら、どんな不可能でも可能にしてみせます。


「…時間がないな」
「…ええ」
タイムリミットまでの時間が3分を切りました。依然、解決策は見つかっていません。
「………」
倉成さんは無言のまま下を眺めました。そこには、小町さんの姿があります。
そして小町さんもまた、上に居る倉成さんを見ています。
「………」
倉成さんと小町さんはああやって見詰め合うだけで想いを伝える事が出来るのでしょうか。なんだか悔しいです。
「………?」
その時――何かが私の頭の中に引っ掛かりました。

――見詰め合う

――見詰める

――見る

――『見る』事によって現れる存在

――RSD

――茜ヶ崎空

「ああ!!!!」
私は大きな声で叫びました。
「ど、どうしたんだ?」
「解体する方法が見つかりました!!!」
「何だって!!? 本当か!!?」
「はい!!!」
私は再びダンボール箱の穴を覗き込みました。
「倉成さん、あのバッテリィを繋いでいる黄色いコードを切断出来れば、電流をカットし、爆弾を止める事が出来ますよね?」
「ああ、電力が無くなっちまえばタイマーも起爆装置もストップするからな。でも、このコードを切断するのは無理なんじゃなかったか?」
「ええ、確かにこの穴はナイフが入る大きさではありませんし、しかも中にはワイヤーが張られています。ナイフで切断は無理ですね」
「だったらやっぱり……」
「ですが、ナイフ以外の物だったらどうでしょう?」
「え?」
そう、ナイフ以外の物だったら。そしてその刃を、私は持っているんです。
「RSDに使用する半導体レーザーの出力を最大限に引き上げ照射すれば、このコードを焼き切る事が出来るかもしれません」
「……!!!!」
倉成さんの顔が、驚きと喜びで満ち溢れました。
「そうか!!! その手があったな!!!!」
どうして今まで気が付かなかったのでしょう。レーザーは小町さんを相手にいつも使っているのに。
でもこれで道は見えました。あとはそこを突き進むだけです。
「って空!! もう時間がないぞ!! 15秒しかない!!!」
「えぇ!? い、急ぎましょう!!」
いくら解決法が見つかっても、解決出来なければ意味がありません。
私は、一番手前にあるコードに狙いを定めました。
しかし。
もし、私の手元が狂ってワイヤーを焼き切ってしまったら。もし、コードが丈夫で焼き切る事が出来なかったら。
まるで不安が巨大な岩のように私に伸し掛かりました。


――5


もし、私のせいで倉成さんを死なせてしまったら。


――4


「空、焦るな。『大丈夫』だ」


――3


倉成さんのその一言だけで、私に伸し掛かっていた不安は何処かへ行ってしまいました。『大丈夫』、私になら絶対に出来ます。


――2


「いけっ!! 空!!!」
「はい!!!」


――1















――0















私は無音の世界に居ました。
もしかして、解体に失敗して死んでしまったのでしょうか。私に『死』が存在するかどうかは解かりませんが。
ゆっくりと眼を開いていきます。
そこは、さっきと同じ観覧車のゴンドラの中。
そして目の前には、私の大切な人と完全に停止した爆弾。
「倉成さん…」
「空…」
「私達…」
「俺達…」
「助かったんですね!!!」
「助かったんだな!!!」
そう、私達は爆弾を止める事に成功したのです。私の刃と、倉成さんの言葉によって。
「やった!!! 凄いぞ空!!!」
「やりましたね!!! 私達、助かりましたよ!! 生きてるんです!!!」


数時間後。
電力が復旧し、ようやく私と倉成さんはあの棺桶から脱出する事が出来ました。
「武!!」
小町さんが倉成さんに思いっきり抱き着きます。まぁ、今回は大目に見ましょう。
「…おかえりなさい、武」
「…ああ、ただいま。つぐみ」
…ラヴラヴムードに突入するのは、さすがに止めて欲しいのですが。
「空!」
突然、声を掛けられました。
「空、やったわね」
「田中先生…」
「まさかレーザーを利用するなんてね。柊文華もきっと悔しがってるわ」
こんな嬉しそうな田中先生を見るのは随分と久し振りな気がします。
「あ、ところで空。減給の話だけど……」
…そういえば、そんな話もありました。気分が暗くなっていきます。
「…何とかなりませんか」
「ならないわね。もう決まった事だから」
「…そうですか」
ああ、どうしましょう。
「でもまあ、倉成の命を救った功績は大きいから、特別手当を出してあげるわ」
「…! あ、ありがとうございます!!」
「ふふ、じゃあ私はもう行くわ。やらなきゃいけない事があるから」
田中先生は踵を返し、観覧車の方に向かって行きました。
『やらなきゃいけない事』とは何なのでしょう。さっきから凄まじいプレッシャーを放っている事と何か関係があるのでしょうか。
「こぉら!! このバカ夫婦!! いつまでもイチャイチャしてんじゃないわよ!!!」
……まあ、いいでしょう。
私は観覧車から離れ、遊園地の中を歩きました。避難が完了していた為、私以外には誰もいません。
それにしても、今日は倉成さんとのデートのはずが全て台無しになってしまいました。
まあ、いつかまたチャンスがあるでしょう。こうやって生きている限り。
私は遊園地の中心に立ち、『空』を見上げ、大きく背伸びをしたのでした。



あとがきかも知れないもの
どうも。大根メロンです。
相変わらず、ヘンテコなSS書いてます。
今回はEver17っぽい話を書いてみよう、というコンセプトで書きました。
なので、『タイムリミット』や『脱出』に重点が置かれています。それで爆弾。
ちなみに、私は爆発物に関してはシロウトです。解体した事もなければ、無論作った事もありません。
ですから、解体の描写に変な所や間違っている所があるかも知れませんが、見逃してやってください。
犯人の柊文華は何処かへ逃げちゃいましたが、いつか決着編を書く事になるでしょう。多分。
とにかくこれで優春・つぐみ・空の三大ヒロインは全員書きました。
次回はどうしようかなぁ。ギャグとかシリアスとかバトルとかミステリィとかいろいろ考えているんですけど。
まあ今回はこれくらいで。さよなら。


「あんなポンコツ爆弾を解体したくらいでいい気にならないでくださいね〜。次はもっと凄いやつを用意してますよ〜」


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