真・女神転生SEVENTEEN
                              作 大根メロン


第一話 ―ブレイズ―




『悪魔』。
世界各地の神話・伝説などに登場する怪物、異形、神。
そういった存在を総称し、悪魔と呼ぶ。
太古の昔から、人と悪魔の戦いは行われてきた。

ある者は、世界を救うために。
ある者は、己の信念のために。
ある者は、大切な人を護るために。

そして今、新たなデジタル・デヴィル・ストーリィの幕が上がる。






「『悪魔召喚プログラム』ぅう!?」
昼と夜の狭間、逢魔ヶ刻。
倉成武はPDAの画面を見ながら、素っ頓狂な声を上げた。
PDAに突然送られてきたメール。それに添付されていたものが、使い道の解からないいくつかのファイルと、この悪魔召喚プログラムだった。
「…何じゃこりゃ?」
送り主の名は『STEVEN(スティーヴン)』。そして本文にはただ一行だけ。

『このプログラムが、正しく使われる事を願う』

「…訳解からん」
武はどちらかというと、悪魔とか霊とか、そういうモノを信じない方だった。
しかしそれを言うと優春が、
『レムリア大陸まで行って帰ってきた浦島太郎が何言ってるんだか…』
と、なかなか反論しづらい答えを返してくれる。
「ま、イタズラか何かだろうな…」
武はそのメールの事を頭から締め出し、つぐみから頼まれた買い物を再開しようとした。
その時。
「……?」
一瞬、どこからか笑い声が聞こえたような気がした。



「ふふ… 見つけたぞ、悪魔召喚プログラムを持つ者……」
建物の上に、ひとりの女が立っていた。
そしてその暗い瞳には、武の姿が映っている。
「我等が主のため… 狩る!」



買い物を終えた武は歩道を歩いて行く。
「結構時間かかっちまったな…」
武は独り言を呟いた。自分の独り言以外、武の耳に届く音は無い。
「……?」
しかし、それは不自然だった。歩道を歩いていれば、話し声やら騒音やらが聞こえてくるはずだ。
「な…に……?」
武は気付いた。今、この世界には武しか人がいない。
星丘市が、まるでゴーストタウンのように静まり返っていた。
「…何の冗談だよ。これじゃまるで、LeMUの事故の時みたいだ……」
武は思わず走り出す。だが、どこにも人の姿はなかった。
その時。

  ………ぇ… …い………

どこからか、声のようなモノが聞こえた。
「…人か!?」
武は声がする方に向け、駆け出す。

  …い…ぇ… …いて……

  …いてぇ… 喰いて……

「――ッ!!!?」
だがそこに居たのは、人などではなかった。
子供のような小さい背に、まるで妊婦のように膨れ上がった腹。
「喰いてぇ… 喰いてぇ…」
そんな化物が、数十体歩き回っていた。

――悪魔。

そう、この化物達は悪魔だった。
仏教でいう六道の1つ、『餓鬼道』に落ちた亡者――幽鬼『餓鬼(ガキ)』。
「なっ……あ……!?」
武は目の前の光景が信じられなかった。
「…そ、そうか、これは夢だ。夢に違いない」
夢でなければ、こんな非現実的な事が起こる訳がない。
だがこれが夢でない事は、武本人が1番よく解かっていた。
「喰い…てぇ……?」
餓鬼達の眼が、武を捉える。
そして。
「喰いてぇぇぇぇええええええ!!!」
一斉に、襲いかかった。
「くそっ…!!?」
武はとっさに、傍にあった鉄パイプを握り締めた。
「おりゃぁああ!!」
そのままその鉄パイプで、思い切り餓鬼を殴り付ける。
「グゲェェッ!?」
鉄パイプの一撃は餓鬼の頭蓋を砕く。血のような、紫色の液体が噴き出した。
武は餓鬼達を蹴散らし、一目散にその場から逃げ出す。
「一体、何がどうなってるんだよ……!?」

「それは妾が教えてやろう」

武の背筋に、冷たいものが走る。
まるで、蛇に睨まれた蛙のような気分だった。
「な、何だよ? お前……」
いつのまにか目の前に、着物を着た女が立っていた。
精一杯の虚勢を張り、武は女を睨み付ける。
「妾か? 妾の名は邪龍『清姫(キヨヒメ)』」
「清姫……?」
聞き覚えのある名だった。
「まさか…! 『安珍清姫』の清姫か!?」
安珍という僧に恋をした娘、清姫。
だが、僧である安珍にとっては恋など御法度。彼女の恋は実らなかった。
清姫を騙し逃げ出した安珍。それを彼女は大蛇に姿を変え追う。
そして清姫は、道成寺の鐘の中に身を隠していた安珍を鐘ごと焼き、殺した。
「…妾も随分と有名になったものだな」
「…一体、俺に何の用だよ?」
声が震えてるのが自分でも解かった。
「別に大した事ではない…」
清姫の瞳に、暗い炎が宿った。
「悪く思うな、ここで死んでもらうぞ…! <アギ>!!」

ゴォォオオ!

虚空から生じた炎が、武に襲いかかる。
それはまさに魔法だった。
「うわぁぁあああ!?」
武はなんとかその炎の魔法を避ける。安珍のように丸焼きにされるのは御免だった。
「な、何で俺が殺されなきゃいけないんだよ!!」
「お主は危険なのだ。悪魔召喚プログラムを持つお主はな」
「悪魔召喚プログラムだと…?」
少し前に送られて来た怪しいメールと、それに添付されていた怪しいプログラム。
「あれが何だってんだ!!?」
「知らぬなら知る必要は無い! 襲え、餓鬼ども!!」
「喰いてぇぇぇぇええええええ!!!」
数体の餓鬼が武に噛み付く。
餓鬼の歯が、武の皮膚に喰い込んだ。
「なぁ!!? は、放しやがれ!!」
武は自分の身体から餓鬼を引き剥がし、地面に叩き付けた。
「くそ、この化物…!!」
「悪魔、と呼べ… <九十九針>!!」
清姫の投げた無数の飛針が、武の身体に突き刺さる。
「あぁぁああ……!!!」
凄まじい激痛が身体を駆け抜けた。
「て…めえ……!!」
「…抵抗するな。何も妾はお主を苦しませようとしている訳ではない」
清姫の冷ややかな視線が、武を捉える。
「妾もかつては人だった身。悪魔に変じたとはいえ、人の心を忘れた訳ではないのだ…」
清姫の魔力が集束してゆく。
「せめて、苦しまぬよう死なせてやる…! <マハラギ>!!」
炎が走り、武を包み込む。
「なぁあ!!?」

ドゴォォオオオ…ン……!

閃光と熱風。
それ共に、辺り一面が火の海に変わった。
「…死んだか」
清姫は呟く。
だがその時、背後に気配を感じた。
「誰が死んだって!?」
「――ッ!!?」
武の拳が清姫の顔面に打ち込まれる。
「ぐあッ……!?」
「女は殴らない主義なんだが、命が狙われてるとなると話は別だ! 悪く思うなよ!!」
そしてすぐさま、清姫との間合いを取った。
「…妾の魔法を2度も躱すとは……」
清姫は武に鋭い視線を向ける。
「…解せぬな。どうしてお主はそこまで生に執着する?」
「そんな事決まってるだろ。死んだらそれでおしまいだからだ」
「妾は1度死んだ。自ら入水してな」
「………!」
「だが、冥府から再びこの現世へ帰ってきた。死は、全ての終わりを意味するものではない」
「…………」
「…もう1度問う。何故、そこまで生に執着するのだ」
清姫の蛇のような視線が武に絡み付く。
だが武はそれに怯まず、答えた。
「この世で何よりも大切な、約束だからだ」
清姫とは対照的な、力強い瞳を向ける。
「だから、俺はここから生きて帰らなきゃいけな……」

ドゴォオ!!

突然、一体の餓鬼が炎に包まれた。
「ギョァアェエエ!!?」
餓鬼は一瞬で灰へと変わり、跡形も無く消滅する。
「なっ…!?」
「…下らぬな」
清姫の刃物のような殺気が武を襲う。
「約束など人を縛るものでしかない。そして人は縛られる事に苦痛を感じ、必ず裏切る。所詮、人間などその程度だ」
「…だからあんたは人間やめて悪魔になったのか?」
「……ああ、そうだ。人の裏切りに飽き飽きしてな」
「だが俺は誰も裏切らない。約束だって、絶対護ってやる」
清姫は武に嘲笑を向けた。
「よくもまぁそんな事が言えたものだな。17体の餓鬼と、この清姫を屠る術があるとでもいうのか?」
「あるかも知れないぞ?」
武はPDAを取り出した。
「あんたはこの悪魔召喚プログラムと、それを持つ俺を消そうとしている。なら、このプログラムにはあんたを恐れさせる『何か』があるんだろ?」
「…貴様ぁ……!!」
「どうやら、図星みたいだな」
PDAを操作し、悪魔召喚プログラムを起動させる。
画面に映し出された様々な種類の文字や数字が、高速でスクロールしてゆく。
そして、最後に一文が表示された。

『SUMMON:CERBERUS』

魔方陣がPDAの画面と、目の前の地面に映し出される。
そして地面の魔方陣が、眩い光を放った。
「召喚…! させるものか!!」
清姫が武に跳びかかる。
だが、
「グォォオオオ!!!」
凄まじい咆哮と共に魔方陣から現れた犬が、清姫の身体を弾き飛ばした。
犬、といってもその身体はライオンのように大きく、その毛並みは銀色に輝いている。
「…大丈夫か?」
その銀の犬が、武に声をかけた。
「あ、ああ… お前は一体……?」
悪魔である事は間違いない。だが、この銀の犬は、武を清姫から護ったのだ。
「我が名は魔獣『ケルベロス』。冥府の門を護る者。今後ともよろしく、我が主よ」
「主? 俺が?」
「当たり前だ。我を召喚したのはお前だろう。他に誰がいる?」
「…よく解からんが」
「安心しろ。説明なら、後でたっぷりとしてやる」
「…そうだな。まずはあいつを何とかしないと」
武は清姫を見た。
「…ケルベロスだと……!? 馬鹿な……!!」
「諦めろ、清姫。お前の力ではどうやっても我には勝てぬぞ」
「…異国の悪魔ごときが、この清姫を見くびるなぁ!!」
餓鬼の群れと清姫がケルベロスに襲いかかる。
「愚かな…」
ケルベロスが宙に跳ぶ。
「<ファイアブレス>!!」

ドゴォォオオオオ…ン……!!

清姫の魔法とは比べ物にならない火力の炎の息が、清姫達を包む。
「ギョフェェエエ!!?」
「ヒギィィイアアウア!!?」
「ウグュキァァアゥウウ!!?」
餓鬼達が断末魔と共に、灰に変わった。
「やったのか!?」
「いや、まだだ」
炎の中から、1つの影が跳び出す。清姫だった。
「妾に炎など効かぬ!! <九十九針>!!!」
飛針がケルベロスを襲う。だが、ケルベロスはそれを軽く回避した。
「こんなもので我を殺せるとでも――」
「馬鹿め!!」
「――!!?」
清姫は武に向かい駆ける。
「クッ…! 主よ、逃げろ!!」
「言われなくても…!」
「逃がさぬわ!!」
清姫の身体が歪み、変形してゆく。
「おお、おぉおお…!」
そして、巨大な蛇へと姿を変える。伝説通りの姿だった。
「ははははははははッ!!!」
「なっ…!!?」
大蛇と化した清姫の口が、大きく開かれる。
「死ねぇ! <ファイアブレス>!!!」
だが、その口が炎を吹く事はなかった。

ドオォ…ン!!

銃声が響く。
「ぎ、ぎゃぁぁあああ!!?」
清姫の頭が、半分吹き飛んでいた。
「…何だ!?」
武は銃撃が飛んできた方を見る。
そこに居たのは1人の少女。その手には、見た事もない大きなハンドガンが握られている。
少女は武とケルベロスを一瞥し、呟いた。
「…サマナーですか。それにしては手際が悪いですね。こんな下級悪魔相手に」
「こ、小娘ェェエエエエ!!!」
清姫が少女を襲う。
「往生際が悪いですね… さっさと死になさい」
少女が再び、引き金を引いた。

ドオォ…ン!!

清姫の頭が粉々に吹き飛ぶ。それは、清姫の死を意味していた。
音も無く大蛇の身体が霧散し、清姫は完全にこの現世から消えた。
その瞬間。



「――!!?」
世界が、音を取り戻した。
話し声やら騒音やらが、武の耳に届く。
「これは…?」
まるで、本当に全てが夢だったようだ。
「異界を創っていた清姫が死んだため、『異界化』が解けたのだ」
PDAから声がする。ケルベロスの声だった。
「その異界化ってのは何だ?」
「その名の通り、この世界を異界に変える術だ。さらに、人間をその世界に引き摺り込む事も出来る」
「じゃあ、俺がさっきまで居たのはその異界化で創られた世界、という訳か」
やはり、あの悪魔との闘いは夢ではなかった。かなり現実離れしているが、間違いなく現実だったのだ。
(何か、面倒な事になったな……)
武は溜息をつき、ふと辺りを見廻す。
あの少女の姿は、もう何処にもなかった。






1人の青年が、闇の中に立っていた。
「ふふ、始まったね…」
青年の目の前の空間には、武と、清姫を斃した少女の姿が映し出されている。
「人と悪魔の戦いは、長い歴史の中で何度も行われてきた。だが、今の人間達はそれを忘れてしまっている」
青年の顔に、笑いが浮かんだ。
「ならば教えてやろうじゃないか。古の咒を捨て、たかが電気仕掛けの光で闇を駆逐したと思っている愚か者達に、俺達の歴史を」
青年の背後に6つの気配が現れた。それは、強大な力を持つ闇の住人達。
「俺の手伝いをしてくれるかい? 『六副官』」
6つの気配が、歓声や雄叫びを上げる。
そしてそれは、戦いの始まりを告げる合図だった。

「さあ、開幕だ」




2>>

あとがきと呼ばれるもの・01
ついに始まった、『Ever17』+『女神転生』なSS『真・女神転生SEVENTEEN』。
メガテンっぽい雰囲気をなるべく表現できたらいいなぁ、と思っています。
しかし、私のSSでたけぴょんが主人公なのってこれが初めてですよね。かっこいい武を書かねば。
でも、苦手なバトルをたくさん書かなきゃいけない(汗)。どうしたものか。
そんな感じで前途多難ですが、完結までお付き合いしてもらえるとうれしいです。
ではまた。


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