真・女神転生SEVENTEEN
                              作 大根メロン


第六話 ―ダークエンジェル―


「……はい、分かりました。それじゃ」
ホクトはPDAを耳から離し、通話を切った。
「お兄ちゃん、誰から?」
「田中先生からだよ。お父さんが目を覚ましたって」
「……えぇ!!?」
沙羅が甲高い声を上げる。
ホクト達と同じく下校中だった学生達が、一斉に注目した。
「……沙羅」
「ご、ごめん」
沙羅がしゅんとする。
「…まぁ、そんな事よりこれからどうする? 沙羅は研究所に行くの?」
「もちろん。パパの姿を見たいし」
沙羅は嬉しそうに言った。
「なっきゅ先輩とのデートで来れないお兄ちゃんの分まで、パパに甘えてくるでござる〜♪」
「さ、沙羅……」
「はは、冗談でござるよ」
沙羅の冗談には聞こえないトークに苦笑いを浮かべながら、ホクトはある事を考えていた。
優春の話によると、事は予想以上に深刻らしい。
だとしたら、登下校のためとはいえこうして外を出歩くのは非常に危険、という事になる。
(後で優にも相談したほうがいいよね……)
幸いにもホクトはこの後、優秋と会う予定があった。
彼女がどれくらい状況を理解しているのかはホクトには分からなかったが、危険を知らせておくに越した事はない。
悪魔うんぬんを優秋が信じるかどうかはともかくとして、だが。
「ねぇ、お兄ちゃん……」
突然、沙羅がホクトの制服の裾を引っ張った。
「さっきから私達、誰かに見られてない……?」
「え……!?」
ホクトは後ろを振り向く。
そう言われてみると、確かに視線のようなものを感じる。
誰かに、尾行されていた。
(でも… この感じは……)
ホクトはこの視線に覚えがあった。
毎日毎日、学校で受けている視線だからである。
(仕方ない、か……)
ホクトは覚悟を決めた。犠牲は大きいが、尾行者を誘い出すにはこの方法しかない。
「アルルちゃん!」
ホクトは自身のプライドをドブに捨て、言った。
「………え?」
沙羅が信じられないものを見る目で、ホクトを見る。
その時。
「ええぇぇええええぇええ!!?」
物陰から1人の少女が跳び出し、人間の限界を超えたスピードでホクトに詰め寄った。
「ホクトさん! い、今なんて言ったのですか!? なんて言ったのですか!!?」
「ア、アルル殿! お兄ちゃんの首、絞まってるでござるよ!!?」
「あ…… す、すいませんなのです」
少女がゆっくりと手を放す。
ホクトがその場に崩れ落ちた。
「や、やっぱり川瀬さんだったんだね……」
ホクトの言葉でその少女――川瀬亞留流はようやく自分が誘い出された事に気付いた。
「ひ、卑怯なのです!! アルルの乙女心を利用するなんて!!!」
「さぁ、どうしてぼくと沙羅を尾行してたのか、話してくれるよね?」
ホクトは亞留流の言葉を完全に無視し、言う。
眼がマジだった。
「え、え〜と… わ、分かったのです。話しますから、落ち着いてくださいなのです」
そのプレッシャーに敗け、亞留流は口を割った。
「実はですね、アルルはホクトさんと沙羅さんの――」
その瞬間。
「………え!?」
亞留流の姿が、ホクトと沙羅の目の前から忽然と消えた。
「川瀬さんが… 消えた?」
「お、お兄ちゃん! 周りを見て!!」
「――!!?」
ホクトは弾かれたように首を振り、周りを見廻す。
亞留流だけではなかった。あれだけいた下校中の学生達が、1人残らずいなくなっていた。
まるで、ホクト達だけが別世界に迷い込んだようだった。
「……沙羅は向こうを調べてきて! ぼくはあっちを調べてくるから!!」
「…え? う、うん、分かった!」
二手に分かれ、人を捜し始める。
漠然とした、それでいて大きな不安に襲われ、ホクトは無我夢中で走った。
だがいくら走っても、人はおろか動物や虫すら見つからなかった。
「これは… まさか……」

――異界化。

ホクトの頭に、つい最近覚えたその単語が浮かんだ。
別世界に迷い込んだような感覚。あれは、正しかった。
「だとしたら… 沙羅が危ない……!!」
ホクトは二手に分かれた事を後悔した。
これが本当に異界化ならば、ここには悪魔が徘徊している事になる。
そして、ホクトと沙羅だけがこの世界に閉じ込められたという事は。
「ぼくと沙羅が狙われてる……!?」
何故。その疑問がホクトの頭に浮かぶ。
だが、それどころではなかった。
「沙羅! 沙羅ぁ!!」
反応はなかった。最悪の事態がホクトの頭を掠める。
「…いや、絶対に大丈夫だ……」
ホクトはそれを頭から振り払う。諦めてはいけなかった。
「沙羅、どこにいるの!? 返事をして!!!」
その時。
「お兄ちゃん? どうかしたの!?」
ホクトの眼に、向こうから沙羅が走ってくるのが映った。
「沙羅……」
ホクトは安堵する。だがその安堵は、一瞬の事だった。
沙羅の背後に、何かが現れる。
それは、真紅の人影だった。
真紅のつば広帽子と真紅のマントで身体を隠した、何者か。
その者が顔を上げる。つば広帽子で隠れていた顔が露になった。
「――ッ!!?」
顔、と呼べるようなものではなかった。その顔は、肉のない白骨の顔だったのだ。
その姿は、死神そのもの。
そしてその死神はマントの中から大鎌を取り出し、ゆっくりと頭上に振り上げる。
「沙羅ぁあ!! 逃げるんだ!!!」
ホクトは沙羅に向かい、全力で駆けた。
「え……?」
沙羅が呟き、後ろを振り返った瞬間。
大鎌が、沙羅に振り下ろされた。



「お兄、ちゃん……?」
ホクトの身体に凄まじい激痛が走る。
死神の大鎌が、沙羅をかばったホクトの背を斬り裂いていた。
大量の血が溢れ出し、地面を赤く染める。
間違いなく、致命傷だった。
「お兄ちゃん! お兄ちゃぁぁああん!!!」
「沙羅… 逃げて……」
沙羅は首を横に振った。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!! 死んじゃダメだよぉ!!!」
「…さ……ら……」
ホクトの眼が、ゆっくりと閉じられた。
「お兄ちゃぁぁああああん!!!!」
沙羅は涙を流しながら叫ぶ。
だが、死神は機械的な動きで、再び大鎌を振り上げる。
「沙羅さん! ホクトさん!!」
その時、亞留流がその場に跳び込んだ。
亞留流は沙羅とホクトを抱えて跳び、死神から距離を取る。
振り下ろされた大鎌が、地面を砕いた。
「ふぅーーーーーーー!!」
死神に炎を吹く。
それで死神が怯んだ隙に、亞留流は沙羅とホクトを抱えたまま、その場を放れた。



「沙羅さん、これをホクトさんの傷に塗ってくださいなのです」
亞留流は沙羅に小さなビンを沙羅に渡した。
中には、半透明の液体が入っている。
「これは…?」
「川瀬一族の人間が一生をかけてもほんの少ししか合成出来ない霊薬を、千年かけて集めたものなのです。さ、早くホクトさんに」
「わ、分かった」
沙羅は薬をホクトの傷に塗りながら、亞留流に尋ねた。
「さっきの悪魔は……」
「あれは多分、フランスのブルターニュ地方に伝わる悪魔… 死神『アンクウ』なのです」
薬により、ホクトの出血が止まった。
「……お兄ちゃんは助かるの?」
「神経系は紙一重で傷ついていないようですが、出血が多いですね。それに、死神の鎌で斬られたという事は、魂――つまり精神へのダメージも大きいのです。早く病院に運ばないと危険でしょう……」
「そんな……」
「そして、そのためにはこの異界から脱出しなければならないのです」
足音が、聞こえた。
少しずつこちらに近付いて来ている。
「まったく、あの優美清春香菜がアルルにホクトさんと沙羅さんの護衛を頼むなんて絶対に変だと思ったのですが… なるほど、敵は悪魔なのですか」
足音の主が、亞留流に殺気を向けた。
「まぁ、いいでしょう。かつて退魔と暗殺で栄えた川瀬一族、その末裔にして諜報班四天王の1人だった… この川瀬亞留流が相手なのです」
足音の主――アンクウは瞬間的に亞留流との間合いを詰め、大鎌を振り下ろす。
「……甘いのです」
亞留流はその斬撃を素早く躱し、背後を取った。
そして。
「ふぅーーーーーーー!!」
ゼロ距離で、超高濃度活性酸素を吹きかける。
アンクウの身体は急速に酸化し、まるで乾いた土の像のようにボロボロと崩れ始めた。
「ギィイイアアァァアアア!!?」
悲鳴と共に、アンクウは斬撃を放つ。
だが、酸化し錆び付いた大鎌は、亞留流が腕を一振りしただけでへし折れた。
「あなたはホクトさんを傷つけたのです。絶対に許しません……」
アンクウが後退りする。
「…さぁ死神さん、地獄に逝く覚悟は出来たのですか?」
亞留流は、大きく息を吸い込む。
「ふぅーーーーーーー!!」
爆炎がアンクウを包み込み、粉々に吹き飛ばした。



「……沙羅さん、ホクトさんはどうなのですか?」
亞留流がホクトと沙羅に歩み寄る。
「うん、まだ息も脈もある。大丈夫だよ」
「……そうですか」
亞留流は安堵の溜息をついた。
「じゃあ早く病院に運ぶのです。ここから1番近いのは… 田中研究所付属病院なのですね……」
今度はガックリした。
「あそこには逝狩さんがいるからイヤなのですが… まぁ仕方ないのです……」
そう言ってホクトに近づこうとした時、それに気付いた。
「……ちょっと待ってください? どうしてまだ異界化が解けてないのですか…!?」
「え……!?」
沙羅が辺りを見廻す。
相変わらず、人の姿はなかった。
「どういう事なのです…? まさか、アンクウ以外にも悪魔が……?」
その時。
「<ザンダイン>ッ!!!」

ドォォオオ…ンッ……!!!

1発の衝撃波が、亞留流に打ち込まれた。
(な……!!?)
声も出なかった。骨の砕ける音と共に、地面を十数メートル転がる。
口から、血が溢れた。
「オイオイ、こんなにアッサリくらってくれるとはなぁ… もしかして、ザコを斃したくらいで油断してたのかよ?」
亞留流はどうにか立ち上がる。
目の前に、ひとりの男が立っていた。
(……なるほど、こいつがこの異界を創ってる張本人って訳なのですね… しかし……)
油断はしていなかったが、亞留流は攻撃を躱す事が出来なかった。
(まずいですね、アンクウとの闘いで力を使いすぎたのです……!)
「来ないならコッチから行くぜ?」
次の瞬間、男は亞留流の頭を凄まじい力で殴る。
今の亞留流の眼では、追い切れないほどのスピードだった。
「が……!?」
亞留流が地面に倒れこむ。
そこに、
「<ザンダイン>ッ!!!」

ドォォオオ…ンッ……!!!

さらに魔法が打ち込まれた。
「ぐぁ……!!?」
再び、亞留流の口から血が溢れる。
制服が真っ赤に染まった。
「さて、と……」
男は亞留流から離れ、恐怖で硬直している沙羅に歩み寄る。
「い、いや……」
「倉成沙羅、兄貴と一緒にここで死んでもらうぜ。あんた達兄妹に恨みがある訳じゃねぇけどな、庵遠の命令なんだ。悪く思うなよ」
男が笑みを浮かべ、魔法を放とうとした。
だが。
「…何だ、まだ動けたのかよ?」
亞留流が立ち上がり、男を睨み付けていた。
「この程度の攻撃じゃ、アルルを斃す事なんて出来ないのです……」
「はっ、口だけは達者だな。ホントは立ってるのがやっとなんじゃねぇのか?」
「…………」
「…まぁいいや。そのなけなしの根性を賞して……」
男が一瞬で亞留流の背後に回り込む。
「この第四副官、アラストール様が最上級の死をプレゼントしてやるぜ!!!」
アラストール。
ギリシアの海神である『ネレウス』の息子にして、魔王ルシファーに仕える六副官の一角。
「死ねぇぇえええ!!!」
亞留流にはもう、攻撃を躱す力は残っていない。
本当に、立っているのがやっとだった。
(もう、ダメなのですか……)
ホクトと沙羅を助けられなかった。その思いが、亞留流の心を包んで行く。
(ごめんなさい……)
しかしその時、

「そこまでよ」

黒い影が、アラストールを吹き飛ばした。
まるで人形のようにアラストールの身体が宙を舞い、そのまま地面に叩きつけられる。
「ぐぁああ!!?」
亞留流もアラストールも、何が起こったのか理解出来なかった。
その影を亞留流は数秒間呆然と見詰める。しかしその後、その顔には笑みが浮かんだ。
「私がしなければならない事は何?」
「ホクトさんを病院に運びたいのですが、そのためにはあいつを斃さなければならないのです」
「ホクトを?」
影は倒れているホクトと、沙羅を見た。
「お兄ちゃんがあぶないの!! 急がないと死んじゃう!!!」
沙羅が叫ぶ。
影はそれを聞き、
「…分かったわ」
と、一言だけ呟いた。
「……お願いするのです……」
その言葉と共に亞留流は倒れ、意識を失った。
「てめえは……!」
アラストールが立ち上がり、影を睨む。
「キュレイの申し子… 倉成つぐみ……!!」
「五月蝿いわよ」
次の瞬間、アラストールに蹴りが打ち込まれる。超重量のハンマーで殴られたような衝撃だった。
アラストールはさっきと同じように宙を舞い地面に叩きつけられ、アスファルトを砕いた。
「ぐあっ…!!? クッ、こ、殺してやる……!!」
「あいにく、あなたと遊んでいる時間はないの。でも……」
怒りを迸らせ、言った。

「ホクトが受けた痛みは、17倍にして返してあげるわ……!」



7>>

あとがきと呼ばれるもの・06
今回、亞留流をシリアスで使ってみました。
何か川瀬一族に変な設定が付いてましたが、あれは一応『ハード・ライフ』で亞留流が初登場した時からあった設定です。後付けじゃありません。ホントです。
そしてついに、つぐみん光臨。
次回、つぐみん本気バトルです。
ではまた。


/ TOP / BBS








SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送